それだけでぼかぁ幸せなんです。
「何を考えごとをしてるのですか」
「あぷさらすっ!?」
油断していた俺は腹筋に正拳突きをくらい、吹き飛んだ。
無様に地面を転がりながら、なんとか体勢を立て直して体に再び魔力を回す。
入院して体の調子が戻ってからこのくらいは対応できるようになった。
「戦いの最中は余計なことを考えないと教えたはずですが……」
ため息を付きながらも、その一呼吸で懐に入り掌底を放ってくる。
腕に魔力を回してガードするが、間に合わず腹部に重い掌底が突き刺さった。
吐き気と鉄の味を喉に感じるが、それを堪えて素早く後退し魔力弾を放った。
だがネムレスは、それを片手で受け止め握り潰した。
「ち、畜生……割りと練ってたはずなのに」
「まだ甘いというだけの話です。それにこの程度に反応出来なければ――――」
瞬間、体をブリッジするように倒す。
まるで弾丸のように突っ込んできたネムレスが、先ほどまで俺の胴体があった部分を通過していた。
ヒヤリとするが今のは避けやすい攻撃だ。
問題は次だ。素早く上半身を跳ね上げ、間髪入れずに回し蹴りを俺の背後の空間に放つ。
「そう、それです」
「グッ! おぉおおおっ!!」
魔力弾を潰したときのように、片腕で回し蹴りをした足を防御される。
す、涼しい顔しやがってぇ! みてろよ、クソじじい!!
俺は掴まれた足に魔力を流し込む。
「むっ!?」
「喰らいやがれええええええ!!」
膝の部分から魔力弾を連射する。
これにはネムレスも目を見開いて驚き、防御していた腕を解きながら両手で魔力弾を弾き飛ばすが、それを待ってたんだよ。
「これでぇえええっ!!」
「無茶をするッ!!」
密かに腕にこめていた魔力を解き放ち、ネムレスに向けて突き出す。
腕に纏った魔力は開放され、光り輝く巨大な拳がネムレスに直撃した。
さすがのあの妖怪ジジイもこれなら傷一つくらいはつくだろうよッ!!
「うぉおおおおおっ!! 弾けろやぁああああっ!」
腕から魔力を切り離し、そのまま起爆する。
防御? んなもん考えてるわけ無いじゃん、破れかぶれってやつよ。
爆風をもろに喰らい、俺は後方に吹き飛ばされた。
そして近くにあった岩場に叩きつけられ、口から吐血しながら四肢の力を抜き岩を背に体を投げ出す。
「フ、フフフ、やったぜ! あの攻撃ならあのジジイでも傷一つくらいは――――」
「確かに、手傷は負いましたね」
……いつの間にか、目の前には右腕から血を流しているネムレスが立っていた。
当初の目的は達成出来たぜ、ハッ! ざまあみろ。
「……まさか本当に手傷を負わされるとは」
「ハッ、てめえに一発決めてやりゃねえと修行してる皆に申し訳ねえだろうが」
修行して何も出来なかったとか、イチ兄たちに顔向けできねえよ。
今の俺じゃこれくらいが限界だ。腕にかすり傷を付ける程度、だがいつかはこの手でぶっ倒してやる。
「体力も大分付いたでしょう。度重なる体の修復で骨に魔力が入り込み、常人よりも強化された。そして今の攻撃、平均的な中級悪魔ならば為す術がなく消滅していた……及第点をあげましょう」
「……えっ」
待って、待ってくれ。
骨に魔力が入り込みとか何当たり前のように言ってんだ。俺の体どうなってんだよ!?
「何、常人を超えたと言ってもその程度です。基礎能力は人間なんですから、調子に乗って強化なしで戦わないように」
「そのくらい分かってるよ……てか、いつのもように追撃はしないのか」
埃を払いつつ、喉に残っている血を吐き出して立ち上がる。
いつもなら背にした岩ごと背骨くらいは叩き折られているはずだった。
だがネムレスは首を振りつつ、俺に話しかける。
「時間ですよ。そろそろグレモリーに戻るときです」
「あぁ、なるほど」
孤児院から戻った瞬間から、ずっと修行修行、また修行の連続で時間の感覚が吹っ飛んだからな。
食事中も、睡眠中も隙があればネムレスが押しかかってくる。本人曰く、倒れた分を取り返すためだそうだが、一応人間である俺に睡眠は不可欠。
じゃあヤツから隠れてやるよと冥界奥地(危険生物沢山いるよ)の中でゲリラよろしく、罠と結界などを張って寝るようになった。
魔法衣の拘束? ただぶっ倒れるのと骨が折られるのはどっちがいいかと言われたら前者だろう?
生命力がガリゴリと削られてそうだが、ザルバ曰く魔力が膨大すぎて生命力が削られねえから頑張れだそうだ。一応人間であるはずなんだけどなぁ、やっぱ父さんと母さんの血が影響してんのかな。
「じゃあここで修行は終わりかぁ……あぁ、やっとコイツから解放される」
「それはあなたに差し上げましょう。自己鍛錬のためにね」
キラリと目が光ったのを見て、あっ、コイツたまに試す気だわと俺は反射的に理解した。
少し未来の話になるが時々、ネムレスがウチに来襲してくることになる……正直、泣きたい。
まぁ、何であれグレモリー領地に戻るということはほぼ二週間ぶりに皆に会うと思うと感慨深いものがある。
なんだかんだこんなに長い間皆と会わないってのが珍しいし、寝る時に少しさびしい気がしたのは確かだ。
「その、なんだ……修行つけてくれて、ありがとな」
頬を掻きながら、俺は一応感謝する。
こいつは死ぬほど嫌いだ。容赦がねえし、隙がねえし、愛想もない。だけど手加減せず、俺に修行を付けてくれたことに感謝している。
ホント、死ぬほど嫌いだけどな!
「……出来の悪い弟子を持つと苦労するというのは本当らしいですね」
「誰が弟子だよ!! お前を師匠とか思わねえからな!! 俺の師匠は木場祐斗、ただ一人だから!!」
『こういうのをツンデレっていうのかね』
「ザルバ、てめえ黙ってろぉおおおおおっ!!」
結局、ロゼさんが迎えに来るまで俺はギャーギャーと騒いでいた。
その様子を見ていたネムレスが妙に優しい表情をしていたことを俺は終ぞ気づくことはなかった。
****
グレモリー本宅前。俺は銀牙から青い顔をしながら降りた。
やっぱ、俺が走った方が良いんじゃないかなぁ……いやぁ、ほんと轟天召喚できんのか俺は。
「んじゃ双葉、レーティングゲームのとき観戦席で会おうぜ」
「あ、は――――って、なんじゃありゃあああああああっ!?」
ちょうど俺の頭上、空高くに巨大なドラゴンが一直線に降りてきてるのが見えた。
まさか敵襲!? ドラゴンってことは野生のか!? 確かに奥地にもドラゴンっぽいやつがいたけどさ!! てかこのままだとリアス姉さんの家がヤバイッ!!
「あっ、オイ、双葉待て! あれは――――」
「やらせるかぁああああ!!!」
魔法衣から魔戒剣を抜き放ち、足に魔力を溜めて一気にジャンプする。
そして浮き上がりながら、頭上に召喚陣を描き牙狼を装着する。
……あれ? 牙狼の鎧ってこんなに軽かったっけな。
まぁいいや、んなことよりも今はあのドラゴンを止めることが最優先だっ!
俺は魔力を牙狼剣に流し、突っ込んでくるドラゴンに振り下ろす。
「待てぇえええええええええ、双葉ぁあああああああっ!!」
「イチ兄!?」
その前に、ドラゴンの背中から飛んできたイチ兄の体を抱きとめる。
慌てて牙狼を外して、イチ兄を抱きかかえながら地面に着地する。
同じく巨大なドラゴンも離れた場所に音を立てながら着地した。
「イチ兄!? どうしたんだよ、てかあのドラゴンは!?」
「どうしたもこうしたも……って、あぁ双葉ってタンニーンのおっさんと会ったことがなかったっけ」
「俺に怯えず突っ込んでくるとは、流石黄金騎士の称号を受け継ぐものか」
のっしのっしとこちらに歩み寄ってくるタンニーンに、俺は魔戒剣を構えながら見据える。
超強いのはよく分かる、てか体から出るオーラがネムレス並みってのがヤバイ。
「待て待て、双葉。そいつは敵じゃない、むしろ味方だ」
「ロゼさん?」
俺の手にロゼさんの手が重ねられる。
味方? このドラゴンが?
「双葉、あのおっさんは味方っていうか俺の修行を見てくれた人なんだよ」
「嘘ォッ!? ドラゴンが修行相手!?」
『むしろ相棒には必要な相手だがな。それにやつは元が付くが六大龍王の一人、今は悪魔に転生して最上級悪魔だ』
さ、最上級悪魔!? ってか六大龍王ってめちゃくちゃ強いドラゴンってことじゃないか! 俺はそんなのを迎撃しようと思ってたのかよ!?
タンニーンと呼ばれたドラゴンは、俺達の目の前に立ちそしてニカッと擬音が付きそうな笑顔を見せた。
「久し振りに気持ちいいやつを見たもんだ。ドラゴンを見て、そのまま立ち向かおうとするやつはそうはいない……ロゼ、いい魔戒騎士になるぞ、コイツは」
「言われなくても、もういい魔戒騎士だよ双葉は」
あの、恥ずかしいんですが、なんか近所のおじいちゃんの会話聞いてるようでムズムズするよ。
「ふむ、あぁそうだ。どうだ兵藤一誠、俺の背に乗ってパーティに参加しないか?」
「おっさんも出るのか!?」
パーティ? なんのパーティだろうか?
俺が首を傾げていると、ロゼさんが手をポンと叩きながら話してくれた。
「言い忘れてた。レーティングゲーム直前に、魔王主催のパーティがあるんだよ。当然、お前も招待されてる……あぁ、俺はパスするよ、どうもパーティってのは苦手でな」
「なるほど、ってタンニーンさんの背に乗るってえぇっ!?」
六大龍王をタクシーのように使って良いのか!? いや、あっちから提案してくれたんだけどさ。それに何も聞かずに斬りかかった俺はちょっと罪悪感が。
「どうした? 先程の行為なら気にするな、事情を知らなければ敵襲と思うだろう」
な、なんて心の広い人、もといドラゴンなんだ。
てか、紳士すぎて俺感涙だよ。今までお偉いさんと話が通じるのってそんなに無いしさ。
そんな俺に、イチ兄はニカッと笑いながら肩を叩いてくる。
「すげー良いドラゴンだろ? 修行は厳しかったけど得る物が沢山あった」
……イチ兄の格好を見れば、どれだけ壮絶な修行だったのかよく分かるよ。
てか服を着ろよ、イチ兄。さすがにタンニーンさんも全裸にするのが忍びないのか、大事な部分だけは焼かないでくれてたみたい。
翼を広げながら徐々にタンニーンさんが上昇していく。
「では当日に、俺の眷属たちを連れて来よう。詳しくはグレモリーに連絡をする。さらばだ、兵藤一誠、そして黄金騎士、兵藤双葉よ!」
そう言うと瞬く間に空へと消えていった。
……凄い人だったなぁ、アレが本物のドラゴンかぁ。
「んじゃ、俺もな。パーティ楽しめよ、双葉」
そう言ってロゼさんも銀牙を走り出させ、颯爽と帰っていった。
「……二人共、久しぶりだね」
「師匠!」
久し振りに聞いたその声に、俺は勢い良く振り向いた。
イチ兄ほどではないがボロボロのジャージ姿の師匠。畜生、イケメンオーラがさらに輝いちまってるよ、流石師匠!!
と、その後ろから何かがヒョコヒョコと歩いてきたが……なんだありゃ。
「やぁ、久し振りだね。イッセー、マスター」
「「ゼノヴィア!?」」
そこにいたのは戦闘服姿のゼノヴィアではなく、何故か全身を包帯に身を包んだマミーだった。いや、声でゼノヴィアって分るけどさ!!
「何したらそうなるんだよ!」
「怪我をしたから包帯を巻き、また怪我をしたらと繰り返したらこうなってしまってね」
「ミイラにでもなりてえのかよ!!」
「失敬な! 永久保存をされるつもりはないぞ?」
「そういう意味で言ったわけじゃないと思うよ?」
イチ兄と師匠がため息を付くが、俺もため息をついた。
ホント最初のクールキャラは何処言ったんだよ、完全にアホの子だよ。
いや、その包帯が傷口に直接作用して回復力を増す物だってのは分かるが限度っつうもんがあるだろ! てか、そうなるのは俺じゃねえかな!!
にしても皆、強くなったなぁ。
目に見えてオーラの質が増している。ネムレスの動きを読み取るために、目に魔力を通し続けたらなんか魔眼みたいになったらしいんだよね、俺の眼。つっても魔力とかオーラの流れが見れる程度のもんだけどさ。
「双葉さん!!」
「おっと!?」
城門から出てきたのは、シスター服を着たアーシアだった。
勢い良く俺の胸に飛び込んできて、顔を埋めている。
おーよしよし、寂しかったよなぁ……うんうん、この感触はアーシアだわ。
「あっ、その……イッセーさん、木場さん、ゼノヴィアさんもお帰りなさい」
「マスターも罪深いねえ、主よどうかアーシアに祝福を」
胸の中、正気に戻ったのか顔を真っ赤にしながら師匠たちに挨拶をする。
イチ兄が血涙でも流すかと思ったのだが、何故か親のような顔をしてうんうんとうなづいていた……えっ、何か変なもんでも拾い食いしたのか?
「あら、外出組は帰ってきたみたいね」
「……随分、仲が良さそうね双葉くん」
ニッコリと笑うリアス姉さんと同じように笑う朱乃先輩が門から出てきたが……アカン、すげー怒ってる。なんで!? もしかしてぶっ倒れたのを知られたか!?
朱乃先輩の雰囲気に気圧されたのか、皆の動きが止まる。
だが、何故かアーシアだけは俺の服を強く掴みながらさらに密着してきた……ってアババッババババッバ、感触が直にぃいいいいいいい!!
「アーシアちゃん、双葉くんから離れたらどうかしら? 疲れているだろうし」
「大丈夫です、神器で回復してますから」
えっ、何この雰囲気は? 一触即発というか見えない弾丸が飛び交っているイメージが見える見える。
てか何があったアーシアぁああああああああ!! てか周りも逃げないでぇえええええええ!!
「……何してるんですか、双葉」
「こ、小猫」
絶対零度の視線を向けている小猫の声を聞いて、俺は天を仰いだ。
俺が何したってんだよ、神様。
****
そのまま戦闘に突入しそうだったが、リアス姉さんの一喝でなんとかその場を切り抜けた。
外で修行していた、俺やイチ兄、師匠にゼノヴィアは軽くシャワーを浴びてイチ兄の部屋へと集合した。理由? 集まりやすいからな。
リアス姉さんの部屋じゃダメなのかとイチ兄が言ったが、俺が全力で阻止した。多分、イチ兄の写真とかその他諸々が置いてあるからアカンでしょ、ってワケだ。
そしてシャワーを浴びて、ラフな格好をした俺達はイチ兄の部屋に集まり、修行のことを報告していたのだが、俺とイチ兄の修行を聞いていた皆が固まった。
何故か? 完全サバイバル生活をしていたのが俺たちだけだったからだ。あと、俺の修行が壮絶しすぎて朱乃先輩が抱きしめてきた……いい匂いでした。
なんでも師匠もゼノヴィアも外で修行していたが、山小屋やコテージに泊まってまともな食料もあったらしい。
「お、俺たち兄弟だけ厳しすぎやしませんかね」
「双葉、俺も酷いかと思ってたがお前のはそれを軽く超えてるよ。てかよく俺たち無事だったな」
「本当は、お前らにも泊まる場所あったんだがな」
それを聞いて、俺達はアザゼルおじさんの方を向いた。
申し訳なさそうにコチラを見てる顔からするとマジだったようだ。
「予想外、つうかお前ら適応能力高すぎだろ。本来なら心へし折られるはずが、普通に生活しやがって。特に双葉とかお前はなんだよ」
「「ふざけんなぁああああああああああああああああああっ!!」」
二人して涙を流しながら叫ぶ。
草も食ったよ! なんかわけわからねえ虫も食ったし、生えてるきのことかも食ったよ!! 突然遭遇したワイバーンも斬り殺してもしゃもしゃ食ったし、水なんか殺菌処理してさ!!
「岩が、岩がこっちに来るぅううううう!! 山火事だぁあああ、焼かれるぅううううう!!」
「つ、次はど、どこから来るんだ、ど、どこから……お、俺の側に近寄るァーッ!!!」
「二人共よく頑張ったわね。イッセーの修行した山には名前がなかったっけどイッセー山って名付けるわ。双葉、今日は美味しいものをいっぱい食べさせてあげるからね」
「「部長(リアス姉さん)ぉおおおおおおおおおおおおお!!」」
ワンワン泣きながらリアス姉さんの胸へと飛び込む。
流石に朱乃先輩もその様子に何か言うことはなかったらしい、むしろアザゼルおじさんに殺気をぶつけている。
「まぁ、二人共修行で基礎能力は向上したんだ。イッセーと双葉が鎧つけてもかなり持つようになったろ。ただイッセーは禁手化には至らなかったがな」
その言葉を聞いて、俺は驚く。
えっ!? 禁手化に至る予定だったの!? つうかアレそうホイホイ出来るもんじゃないって話だったんだが!?
「伝説のドラゴンとぶつけて無理やりやろうとしたんだがな。時間が足りない、か。せめて一ヶ月あれば」
「「死ぬわぁああああああああああああああああああああ!!!」」
流石に死ぬわ!! 二週間足らずだったけどボロボロだよ!! 体の芯から何までボロボロだよ!! 俺人間だから!! 悪魔じゃねえからまじで死ぬ!!
『案外、お前さんならやれそうだがな』
「やれても死ぬわ!! 朱乃ちゃんやアーシア、それに小猫と眠れないとか無理だよ!!」
イチ兄もうんうんと頷く。
なんだかんだリアス姉さんと眠れないとこの人もストレスで死ぬだろうしな!! ていうかアーシアとかに慣れすぎて、側に誰かいないと安眠出来ないんだよぉおおおお!!
てか次は食料だけはまともなのをお願いしますぅううううっ、うわぁああああああん!!
「ま、報告会はこんなもんでいいだろ。とにかくイッセーと双葉は寝ろ、明日に響くぞ」
おじさんの一言で報告会は終了となり、皆解散という形になった。
****
「……いや、あの……皆近い」
「うふふふ、一緒に寝れないとダメなんでしょう? 今まで我慢させてしまった分、スッキリしてもらいましょう」
「双葉さん、私も我慢したんです。だからいいですよね?」
「双葉……」
解散し、風呂と飯を終わらせて就寝時間となったが、俺のベッドには朱乃先輩、アーシア、小猫がいた。
それでも余裕があるこのベッドが大きいのに驚くが、朱乃先輩勘弁してください。首に手を回して、耳元で囁くのはマズイですよ!
というか小猫、甘えた声出すのはやめろや。てか体を擦り付けるな、流石に俺の理性がヤバイ。
「いつもしていたことでしょう?」
「それは……そうだけど」
二週間って時間は結構長いんだよ。
あといつもより皆が積極的で色々と困る。
……あぁ、でも久々にフカフカのベッドに横になるととたんに睡魔が。
「眠りたいんですね、双葉さん……良いんですよ、寝てしまって。ここには双葉さんを傷つける人はいないんです。ゆっくり休んで下さい」
「……うん」
慈しむように撫でてくるアーシアの手が心地良い。
胸の奥がポカポカしてきて、なんだかくすぐったいけど悪くない気分だ。
朱乃先輩もこちらに微笑みつつ、トントンと赤ん坊をあやすように胸を叩いてくれる。
……あぁ、うん、帰ってきたんだな、俺。
そう思った瞬間、俺の瞼は完全に落ちきった。
**三人称視点**
「寝ちゃいましたね」
「そうね……ありがとう、小猫ちゃん」
「いえ、私は双葉の気を整えただけです」
深い睡魔の中にいる双葉を起こさないように、三人は小声で話していた。
小猫から猫の耳と尻尾が生えているが、仙術を使った影響だ。
表面上、健康そうな双葉だったが仙術を扱う小猫から見れば重病人に等しい。激しい特訓のせいでもあるが、以前の無理な訓練の悪影響が出ていたのだ。
幸いにして少し整えるだけであとは双葉の自前の回復力でどうにかなるが、小猫たちは心配そうに双葉の顔を覗き込む。
「……また無茶したんですね」
「ごめんなさいね、アーシアちゃん。あの時離れなかったのは、双葉くんの体調を気遣っていたからでしょう?」
「はい……私も意固地になって、ごめんなさい」
あの時、アーシアが双葉に離れなかったのは回復しきっていない双葉の体を気遣ってのためだ。それが全部ではなく、久しぶりに会った双葉の感触を確かめていたいという年頃らしい気持ちもあった。
当然といえば当然だが、双葉の体は魔力では完全に回復しきれていない。折れた骨を魔力で無理やりつなぎ合わせて治ったように思わせていただけだ。そのせいで、魔力が骨に染み込み鉄よりも硬くなっているのだが双葉は気づいていない。
今もアーシアが懸命に治しているが、完治するのにはあと軽く見積もっても三日はかかるだろう。逆を言えば、三日あれば完治する双葉の体が異常なのだが。
「……無茶しないで、って言えたらいいんですけどね」
「この人は誰かが傷つくくらいなら自分が傷つけばいいと思う人です。そのことに誰かが泣いても止めません」
小猫は悲しそうな目をしながら、双葉の腰をギュッと抱きしめる。
無茶をするな、誰もがそう言ってきたがそれを聞いた試しはない。
何度も傷つき、その度に誰かが泣いている。そのことを双葉は嫌だと思いながらも、傷つくことを恐れたりはしない。
傷つくことを恐れたら、誰かが死ぬ。記憶を失っても双葉が心の奥底に刻みつけたトラウマだ。それが覆ることはないだろう。
これからも双葉は傷つくし、無茶をする。
だからこそ、三人は決意している。
「この人が無茶をするなら、私達がフォローします」
「ふふっ、でも最後に傍にいるのは私ですよ?」
「無駄乳を置いてきてから世迷い言は言って下さい」
小猫の一言で、朱乃の笑みが深まる……が、すぐに柔和な表情に戻る。
ここで女の戦いをしたら双葉に迷惑がかかる。三人とも、そばにいるのは私という考えだが双葉が悲しむことはしたくないということで概ね合意している。
「寝ましょう」
「そうね。アーシアちゃん? 治すのは程々に、明日寝不足になったら大変ですわ」
「はい、無理しない程度にやりますので」
ごそごそと布団に潜り込み、朱乃と小猫は双葉を抱きしめる。
ちなみにこのせいで、今双葉は悪夢を見ているのだが幸せいっぱいな朱乃と小猫はそれに気づくことはない。
アーシアの神器の光だけが部屋をほんのりと照らしていたが暫くするとそれが消え、四人の寝息だけが部屋に響くようになった。
その様子を窓から一匹の黒猫がじっと見ていて、一瞬だけ目を閉じるとすぐにその姿を消した。
爆発しろよ、コイツ。
なお次の日、三人に抱きしめられて起きるに起きれなくなった模様。
早く五巻部分を終わらせて六巻行きてなぁ……この辺ぃ、そこまで書いた文章ファイルを無くしたやついるらしいっすよ?(自虐)
保存してた昔のエロゲのファイルごととか、データ破損に気をつけよう(ゆうさくのテーマ)。いや、ホント辛い。
次回も早めにあげたいなぁ。