ハーマイオニーとパーバティが出かけた部屋で、蓮は机に向かってコツコツと勉強していた。
OWLの過去問題集で自己採点した限りでは、だいたいどの教科もOからEの範囲に入っているし、変身術や防衛術は実技も含めて満点近くを期待できるはずだ。
「うーむ。ど・れ・に・し・よ・う・か・な」
宙に指を動かして、先々どの教科の教授を目指すか考えていると、パチンパチンパチンと連続して音が鳴り、ウィンキー、ドビー、ケニーが部屋に転がり落ちてきた。「おおう、びっくりした。どした?」
「姫さま! パーバティさまがご危険です!」
「ハーマイオニーさまもです!」
蓮は目を見開き「危険?」と聞き返した。
「アンブリッジがあったりなかったり部屋にお行きになります!」
「違います必要の部屋です!」
「おだまりなさい!」
慌てふためくドビーとケニーを一喝して、ウィンキーが「姫さま、ハーマイオニーさまとパーバティさまは、DAという活動をなさっていましたわ。秘密の活動です。今日もそちらにお出かけで、ドビーとケニーは必要の部屋の周りを見張っていました。あたくしはアンブリッジを。密告者が出たらしく、アンブリッジが必要の部屋に向かっています。見張りはあたくしたちが勝手にしていたことなので、ご指示を」と説明した。
蓮はすぐに頷き「ドビー、ケニー、すぐにハーマイオニーとパーバティのところへ知らせに行って。知らせたら2人とも厨房に戻ってほかのしもべと一緒に仕事。いいね?」と指示した。明確な指示があれば素早く動くのがハウスエルフだ。ドビーもケニーもすぐさま姿をくらました。
「ウィンキー。わたくしをその部屋の入り口の前に連れて行って。そうしたらあなたも厨房で仕事」
「かしこまりました!」
杖を引っ掴んだ蓮の手を掴んでウィンキーは素早く身体をひねった。
「パーバティさま! ああ、ハリー・ポッター! 姫さまからの伝言です! アンブリッジが来ます!」
「ハーマイオニーさま、お早く! アンブリッジの奴めが、仲間の生徒を引き連れて! 姫さまがハーマイオニーさまに知らせなさいと!」
ハーマイオニーは素早く視線を走らせた。
ーー1人足りない
誰かわからないが、密告者が出たのだ。
「ぐずぐずするな! 逃げろ!」
ハリーの怒鳴り声が聞こえた。
「ハリー、あなたも早く!」
「僕は最後だ!」
必要の部屋の外で蓮が「まだ門限前だ。いったん散って。真っ直ぐ寮に帰ると捕まる」と指示しながら、簡単な目くらましを数人の女の子にかけていた。
こういうときに一番頼りになる人だ、とハーマイオニーは不本意ながら感激した。
「レン! 来てくれたの?」
だが蓮は厳しい表情のまま、素っ気なく言った。
「早く出ないと後がつかえる。急げ」
ロンがあっさり「頼むぜ」と蓮に声をかけ、ハーマイオニーの手首を引いた。向こうではネビルがパーバティの手を引いて駆け出した。
「みんな近場に行くはずだから、僕らは中庭に行こう」
「え、ええ」
「僕らは監督生だ。ちょっとぐらい門限に遅れても問題ない。夜遅くにデートする馬鹿野郎を取り締まりに行くんだ」
「わかったわ」
ロンに手を引かれてハーマイオニーも駆け出した。
何人いるか知らないが、ハリーが出てくるのはきっと最後だろう。
「ウィンストン? レン・ウィンストン?」
目の前にいるのは、たぶんハッフルパフの女の子だ。なんとかボーンズというスポーツタオルの人。
「・・・えーと・・・アメリア・ボーンズの」
「ええ。姪よ、スーザン。あなたが知らせてくれたのね?」
蓮は黙ってスーザンに目くらましをかけた。確かハーマイオニーがお礼をしろと言っていた人だ。ママもそういうことはハーマイオニーの言う通りにしろと言っていた。
「バレンタインのお礼。目くらましが効いてるうちに寮に帰ったほうがいいよ」
透明になったスーザンが、また蓮の肩にちょっと触れて階段を降りていき、ハリーが飛び出してきた。
「レン!」
「全員逃げた? だったら逃げろ!」
「わかった!」
2人で脱兎の如く駆け出したところで、ハリーがビターン! と顔から転倒した。
「・・・ハリー」
蓮が足を止めたところで、壁の窪みからマルフォイが飛び出してきた。
「足すくい呪いだ、ポッター!」
そのマルフォイを失神させようと杖を軽く振り上げたところへ、甘ったるく甲高い声が聞こえてきた。この声を聞くと頭痛がしてくる。
「まあ、ドラコ、お手柄、お手柄よ! ウィンストンまでいるじゃないの!」
マルフォイがハッと蓮に気付き、顔を歪めた。「ウィンストン、関わるなと言ったのに」
「また君を巻き込んだな、ごめん」
両手首を後ろで縛られ、校長室に向かう途中、ハリーがボソッと言った。
「構わない」
巻き込んだのはハウスエルフたちだ、とは目の前にアンブリッジがいる状態では口に出来ないが、蓮がいっぱいに目を見開いて見せると、ハリーが苦笑しながら頷いた。
「どうせアンブリッジはファッジに対して点数を稼ぐ必要があるんだ」
わざと声を張り上げた。
「どうやって言い包めたか知らないけど、高等尋問官に忠誠を誓わせたのは、ファッジにとって面白くないはずだからね」
アンブリッジが振り返り「減らず口はそこまでよ、ミス・ウィンストン。違法な学生組織の首謀者ですからね。違法な!」と強調し、口を横に広げた。
「へいへい」
違法な学生組織とやらに関わっていたという証拠を出せ・・・という手口が通用する相手なら良いのだが、と蓮は思った
ハーマイオニーとロンがグリフィンドール塔へ戻る途中の階段に足をかけたとき、暗がりから「ハーマイオニー」と囁き声が聞こえた。
「え?」
「スーザンよ、スーザン・ボーンズ。レンとハリーが、つ、捕まったわ」
「スーザン? スーザン、あなた、どこにいるの?」
「透明なの。ちょっと待って、そこまで行くから」
ハーマイオニーの腕に誰かが触れた。
「スーザン、ここはまずいわ。誰に聞かれるかわからない。グリフィンドール塔に行きましょう」
「・・・いいの?」
「構わないわよ。合言葉の時に耳さえ塞いでてくれれば」
スーザンを片手に掴まらせて、ハーマイオニーとロンはゆっくりと階段を上った。
「じゃ、合言葉言うぜ。まあ聞いても構わないけどな」
「一応ね。中に入ったら目くらましを解除してあげるから、みんなに話してあげて」
「わかったわ」
「ミンビュラス・ミンブルトニア」
「ウィンストン、さあ、この6ヶ月近くの会合について白状なさい」
「行ってない。知らない。以上」
蓮は白けた顔で答えた。
「そんなはずはありません! あなたは今日あそこにいたじゃないの!」
「たまたま通りかかったら、ハリーが顔から転倒した。巻き込まれて連れて来られた。そもそも会合に参加出来たはずがないのはあなたが一番よく知ってる。この学年のごく早いうちにあなたのスパイにさせられた。毎晩あなたの部屋に呼び出された。1ヶ月以上ね。秘密の違法な組織が仮に存在したとしても、絶対に入れるわけにはいかないのがわたくしだ」
アンブリッジが怯んだ。もともと蓮を孤立させて楽しむ趣向だったのだから、理性的に考えれば、蓮の言い分のほうが筋が通ると思わざるを得なかったようで、論点を変えてきた。
「か、仮にあたくしがあなたを毎晩呼び出したとしましょう」
「そっちは仮じゃない。ホグワーツ中が知ってる。ウィンストンはアンブリッジのスパイにされたって」
くっ、とハリーが隣で笑いを噛み殺した。
「だまらっしゃい! 変身現代やザ・クィブラーの記事を書いたヴィクトリア2世とはあなたやポッターの一味に違いないわ!」
「知らないって。汚いから唾飛ばすな。例年の5年生の水準を大きく下回るわたくしたちが記事を書くって? 書けるわけないじゃん、頭悪いんだから」
まあそうですね、とマクゴナガル先生が言った。「ごく一般的に見て、生徒の文章をそのまま記事にするのは極めて困難なことと言えるでしょう。ウィンストンたちが投書は出来ても、記事にする前にインタビューは必須です。グリフィンドールの生徒に対するインタビューの申し込みはどこからもいただいておりません。ドローレス、あなたもたまにはレポートを書かせるなどの課題を与えてみれば生徒の文章力の限界を知ることが出来ますよ」
ファッジが苦い顔をして「ドローレス、あの雑誌記事は学生が書くのは無理だと判断されている。『ヴィクトリア2世』なる人物は、魔法省内の人間、もしくは国連に顔見知りの多い人間にまず間違いない。あれを子供たちのせいにするのは無理がある。いったいどこに国連最高大魔女とサシで会談する学生がいるのかね」とアンブリッジを阻んだ。「私が知りたいのはもう済んだ雑誌記事の件などではない。本日発覚した違法な学生組織の問題だ」
「え、ええ、そうでしたわね、大臣。あたくしとしたことが。証人を呼んであります。さ、ミス・エッジコム、こちらへいらっしゃい」
「わたしが必要の部屋を出る時だったわ。レンの声が聞こえたの。『まだ門限前だから、あちこちに散れ』って。そしてわたしが出て声をかけたら、わたしに目くらまし術をかけてくれた。すごいのね、あの人。伯母が動物もどき試験のことを話してくれたからすごいのは知ってたけど、目くらまし術を無言であんなに素早くかける人なんていないわ。そして『バレンタインのお礼だ』って言って『目くらましが効いてるうちに寮に帰ったほうがいい』って言われたの」
ハーマイオニーの背後から「惚気はいいから先を話して」とジニーが焦れたように唸った。
「え、ええ。ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったんだけど・・・わたし、そのまま少し階段を降りたところにいたわ。どうせ透明なら、みんなが出たことを確かめようと思って。そうするうちにハリーが出てきて、レンが『これで全員か?』って確かめて、ハリーが全員だと答えた。それでレンとハリーはわたしのいた階段と反対方向に駆け出したの。でもそこを、スリザリンのマルフォイが『足すくい呪い』でハリーを転ばせた。レンも足を止めて、そうしたら、そこへアンブリッジが」
来たのか、とジョージが割り込んだ。スーザンは頷き「ハリーは、レンは関係ないってだいぶ言ったけど、アンブリッジがそんなこと聞くわけないわ。2人を後ろ手に縛って校長室に連れて行った。マルフォイやパーキンソンに息を切らしてる生徒がいないか図書室と近場のトイレを探せって言って。だからわたしは」と言った。
「ああ、そこからは俺がわかるぜ」
リー・ジョーダンの声が聞こえた。
「スーザンの声で、窓から逃げてって言われたんだ。俺たち図書室組は窓から逃げた。窓はスーザンが閉めてくれたはずだ」
「ええ。それから、近場のトイレに行ってみたけど女子トイレには誰もいなかった」
「それなら大丈夫。ルーナが女の子を何人か連れてマートルのトイレに行ったから。透明組がほとんどだったから、見られても怪しまれるような数じゃないわ」
「俺たちゃフクロウ小屋だな。他にはマイケル・コーナーがいたぐらいだ」
「女の子にはだいたいレンが目くらましをかけてたから、まず捕まってはいないわ。わたしとハーマイオニーは省略されたけど。ジニーも?」
「ええ、わたしもよ」
「・・・自力でなんとか出来ると思われたんだろ、男並みの扱いだ」
パーバティがハーマイオニーの顔を覗き込んだ。
「密告者が誰かわかる?」
わかるわよ、とハーマイオニーは自信たっぷりに答えた。「今頃でかでかと顔にそう書いてあるはずだわ」
ハーマイオニーもえげつない呪いをかける、と埃の舞う校長室の中で、腕の中に庇って伏せた「なんとかエッジコム」の顔を改めて眺めて蓮は溜息をついた。
「ミス・ウィンストン」
背の高い人影が埃の中を近づいてきた。
「はい」
「マクゴナガル先生の手助けをするのじゃよ、よいかの? それも研修じゃ」
「・・・はあ」
マクゴナガル先生が「いったいどちらへ」と声をひそめるとダンブルドアは「君らしくないのう、ミネルヴァ。ここでそれを聞くとは。地の果てから地の果て。ランズ・エンド・トゥ・ジョン・オ・グローツじゃよ。幸い儂には地の果てから地の果てまで、身を寄せる場所はいくらでもある。荒れ野に伏して、『谷』に眠るのじゃ」と詩の一節を謳うように囁いた。ちらっと蓮を見る青い瞳に蓮は小さく頷いた。
「そして、ハリー。閉心術を一心不乱に学ぶのじゃ。良いか? 特に毎晩寝る前に、悪夢を見ぬよう心を閉じる練習をするのじゃ」
「先生、先生ごめんなさい。僕たち」
「おおハリー、もう時間がない。良い試みであった。じゃが、これからは、閉心術じゃ、ハリー」
グリフィンドールの談話室にはまだ皆が集まっていた。ハーマイオニーの茶色のふわふわした頭とパーバティの真っ直ぐなブルネットが並んで座っているソファを目指して歩き、ソファの背もたれから2人の膝の上にのびのびとダイブして「ハーマイオニー、愛してるよ。最高にえげつない呪いだ」と言うと、なぜかハーマイオニーが深い深い溜息をついて、向かいのソファを指差した。
「ん?」
「・・・スーザンが心配して来てくれてるの。きちんとご挨拶なさい。くっつかずに」
「・・・はい」
スーザン・ボーンズという人の背後のジョージが苦笑して「スーザン、君の信じられない気持ちはよく理解できるぜ。だがこれには、深いようで深くない、見方によっちゃ深いところもあるかもしれない事情があるんだ」と言った。
あのねスーザン、とパーバティがハーマイオニーからパスされた蓮の頭を払い落とした。「アンブリッジにさんざん飲まされた真実薬の後遺症で、この人、知識と頭の回転以外は一種の幼児退行中なの。お外ではなんとか、言葉遣い以外はまともに出来るんだけど、寮の中ではママに甘えないと生きていけない感じよ。深く気にしないで」
スーザン・ボーンズという人は目を丸くして蓮を見つめている。
居心地が悪い。
もぞっとハーマイオニーとパーバティの間に割り込むように座り直したら、ハーマイオニーとパーバティがサッと両端に避けてしまった。
「・・・ねえ、ハーマイオニー」
「寄らないで。まっすぐ座りなさい」
「パーバティ、ハーマイオニーが」
「まっすぐ座りなさい」
2人とも冷たい。
「アンブリッジの真実薬の件は知ってる。伯母にも確かめたわ。とんでもない濃度だとすごく怒ってた。わたしは幼児退行のことは知らなかったけど、クィブラーに書いてあることは記事の写しを送ったわ。伯母がレンのお母さまにも伝えると言ってた」
「スーザン、ほんとに?」
「ええ、ハーマイオニー。本当よ。伯母にもすぐにどうこう出来ることじゃないみたいだけど、ごめんなさいね、レン」
「は、はい。あ、いえ。お手数おかけしました」
「わたしのほうが、あなたにお礼を言うべきなんだけど」
「いえ別にいい、です」
「ところで、ハーマイオニーを愛してるの?」
この質問に蓮は瞬時にピンと背筋を伸ばした。
「いえ?! いえとんでもない。いや嘘じゃないよ、嘘じゃないけど、パーバティもだし。あーっと、そう! スーザン! スーザンのことも!」
隣でボソッとハーマイオニーが「どうなのよそれも」と呟いた。
「つまり、えーと・・・とにかくみんなを愛してます」
「広い意味で?」
「広い意味で」
どんな意味かはわからないが、蓮はこくこくと頷いた。
「ところでレンもハリーも、なんなの、その薄汚れっぷり」
パーバティが顔をしかめる。
ハリーが肩を竦め「マリエッタが密告者だったよ」と告げた。それでやっとピンときた。
「あー! なんとかエッジコムってアレだ。ルーナをいじめた奴だ。だよね、ハーマイオニー」
ジニーが「ルーナを?」と険悪な声で割り込んだ。
「うん。だからルーナにマートルを紹介して」
なぜかジニーが、ふふん、と鼻を鳴らした。「つまり、レン、あなたが助けたのはスーザンだけじゃなく、ルーナのこともよね。それももっと早くから」
「助けた? いや別に助けたっていうほどのことはしてない」
「わたしは助けてもらったと思ってるからいいのよ、ジニー」
スーザンが言って、立ち上がった。
「いくら監督生がアーニーでももう戻らなきゃ。無事に帰ってくれて良かったわ、レン」
立ち上がってソファを回るときに、蓮の肩にちょっと触れてから肖像画の方に向かうスーザンに、はっと気づいて「スーザン、ちょっと待って」と声をかけ、またソファの背を跨いで駆け寄った。「わざわざ来てもらったのに、途中で捕まるようなことになるといけないから」
目くらましをかけて「フィニート・インカンターテムで解ける程度の目くらましだよ」と言って、外に送り出した。「まだファッジやドーリッシュ、アンブリッジあたりがうろついてるかも。気をつけて」
また悪い癖が出た、とパーバティとハーマイオニーが額を押さえていると、蓮の言葉を聞き咎めたロンとネビルが「ハリー?! 大臣まで来てたのか?!」と詰め寄った。
「うん。それで、大事な報告があるんだ。ダンブルドアが罪をかぶって、逃走した」
「ダンブルドアが?! なんで!」
「『ダンブルドア軍団』さ。その名前がファッジの被害妄想の裏付けになってしまった。もちろん僕は否定したけど、ダンブルドアがあることないこと、要するにファッジが疑ってるようなことを自白して、今、レンが言ったろ? ファッジ、ドーリッシュ、キングズリー、アンブリッジ・・・あと、パーシーを、気絶させたんだ。もちろんマリエッタのことも。そのときにマクゴナガル先生が僕を、レンがマリエッタを床に押し倒して衝撃から守ってくれた。すごい埃だったから、それで僕らこんな有様なんだ」
密告者なんか助けなくていいのに、とジニーが唇を尖らせると、スーザンを送り出した蓮が、やっと念願のハーマイオニーとパーバティの膝の上にのびのびして「わたくしがしなくてもマクゴナガルがどうせ助けた」とあっさり言った。
「うん。そうだろうな。本当は、マリエッタは全部喋ろうとしたんだけど、キングズリーがマリエッタの記憶を修正したみたいで証言は出来なかった。それで僕ら、無罪放免なんだ。ホグズミードの最初の会合は教育令第24号の前だったし、それ以来会合はなかったことになってる。ダンブルドアが学生を組織して私兵を募った。ホグズミードで最初の会合をして、今夜2回目の会合がバレちゃったっていう筋書きだ。ファッジはダンブルドアを罪に問うことが出来るって有頂天さ。僕たち生徒はダンブルドアに利用されただけ。ダンブルドアが釣れるなら、生徒をやたらに罪に問う必要はないと言ってたから、無罪放免ってことだ。アンブリッジは不満そうだったけど、マリエッタはもう証言出来ないし、もちろんレンに証言させようとしてもレンは何も知らないだろ? レンが、知らないのはアンブリッジのせいだってこと一番よく知ってるだろって言い返したら、クィブラーや変身現代のことまで持ち出した」
「なりふり構わずだな」
「うん。僕、そのときにチラッと思ったけど、ファッジはあの雑誌のことに関しては、あまりアンブリッジに良い感情は持ってないみたいだった。それはもう魔法省内部か、国連に強いコネのある人間ということで話は済んでるって。結構強い口調で言ったんだ」
満足げにハーマイオニーの太腿を堪能する蓮を引き剥がして「少しは真面目に参加しなさい」と叱ると、ハリーが「いや、ハーマイオニー。レンはメンバーでもないのに充分やってくれただろ」と頭を振り「太腿ぐらいは貸してやれよ」と、人の太腿を勝手にご褒美に設定した。
「そうだそうだ、ハリーの言う通りだ」
ハーマイオニーを見上げてニッと笑う蓮の幼い企み顔が憎たらしい。
「この・・・はいはい。ハリー、続けて」
「それで、ファッジがダンブルドアを逮捕しようとして、マクゴナガルも加勢しようとしたら、ダンブルドアがマクゴナガルを止めたんだ。マクゴナガルは学校に残って生徒を守るべきだって。レン、これからどうなると思う?」
「アンブリッジが校長になる」
だろうな、と何人かが沈痛な表情で頷いた。
「でも安心していい。フィニアス・ナイジェラス・ブラック以来の、校長室を使えない校長だ。歴史的偉業と言える」
「なんでわかる?」
「校長室の肖像画がアンブリッジに中指立ててた」
どーん! と中指を立てる許し難い仕草をする蓮の頭を叩いて「それが安心材料になる理由を言いなさい!」と叱ると「何回も言ったじゃん。歴代校長が認めない人物は校長という役職の座に座っても校長室が使えないんだ。校長の魔法的権限はゼロだよ。だから、魔法的権限の面ではまだダンブルドアが校長のままだ。アンブリッジはもともと高等尋問官として校長の職掌を侵害してきたから実務面では大した変化はない。ダンブルドア軍団が気に病むことはない」と断言して、また太腿に戻った。
「安心材料は中指じゃないでしょう」
パーバティが眠ったのを確かめて、ハーマイオニーのベッドに満足げに埋まった蓮に囁いた。
「ん? なんで?」
「あなたがアンブリッジを認めないからよ」
「まだ成人してないよ、ハーマイオニー」
「でも、歴代校長たちは知ってるはずだわ。あなたがウィンストンだということ。その歴代校長の肖像画の前であなたはアンブリッジに反抗的な態度を取ってみせた。マクゴナガル先生もね。イングランドのウィンストンとスコットランドのロスが揃って拒絶するなら、歴代校長がアンブリッジを認めるはずがない。でしょう?」
「なんでわかるの?」
「ダンブルドアは、いくら理不尽な人であれ、自分の目の前で生徒が教授に無礼な態度を取ることは許さない。違う?」
鋭いね、と蓮は笑った。
「あと、マクゴナガル先生もだわ。ダンブルドアに加勢して戦おうとしたってハリーは言ったけど、ダンブルドアが学校を追われる可能性が高いというときに、自分も追われかねないようなことは本気ではなさらないはず。副校長ですもの」
「そこは話し合ったわけじゃないからわからないよ」
「だったらわたしはそう思っておくわ。それで、ダンブルドアがどこにいるかわかる?」
ハーマイオニー、と蓮は静かに言った。
「知らなくていいことは知らないほうがいい。ほんとだよ」
「・・・レン」
「祖母やミネルヴァは、ダンブルドアの秘密主義が諸悪の根源みたいな言い方するけどさ、こんな世の中じゃ、あえて知らせないほうが親切なことはいっぱいある。それを知るべき立場と能力を備えた人だけが知っていることでも、それが原因で拷問されたり殺されたりするんだから」
「でも、それって・・・」
「ん。ほんとに健全な状況なら要らない秘密だとも思うよ。だから、邪魔な奴を退けなきゃね」
誰を、とは聞けなかった。