サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

120 / 221
第19章 高等尋問官親衛隊

魔法省令

 

ドローレス・ジェーン・アンブリッジ(高等尋問官)は

アルバス・ダンブルドアに代わりホグワーツ魔法魔術学校の校長に就任した。

 

以上は教育令第28号に順うものである。

 

魔法大臣 コーネリウス・オズワルド・ファッジ

 

 

 

 

 

蓮の言葉が正しかったことを教えてくれたのは、ハッフルパフのアーニー・マクミランだった。ハッフルパフ寮のゴースト『太った修道士』が、アンブリッジが校長室から締め出される場面を目撃したというのだ。

 

「どうやらあの女、相当な癇癪を起こしたらしいぜ」

「そうでしょうね。その場を見たかったわ、ねえ、レン・・・レン?」

 

ハーマイオニーの背後にのっそりついて来ているはずの蓮の姿を探すと、教科書を片手にスーザンと並んで歩いている。

 

「あらあら」

「スーザンは以前からウィンストンのファンだったんだ」

 

アーニーが苦笑してハーマイオニーに教えてくれた。

 

「ウロンスキー・フェイントで夢中になってね。彼女の名前だけじゃ性別がわからないから男の子だと信じてたんだけど、伯母さんから女の子だと教えられたらしい。ウィンストンの母親とスーザンの伯母さんは法執行部で親しいんだろ?」

「そうでしょうね。そんなに以前から? 1年生だったはずよ」

「ああ。まあ、結局は女の子だし寮も違うから接点がなくて仲良くなるのは無理だと思ってたけど、ポッターたちが」

 

アーニーはここで声をひそめた。

 

「仲間を募るって聞いて参加したんだ。残念ながらウィンストンはいなかったけど。だからまあ、目障りじゃなければ放っといてやってくれないか。スーザンには今はああいう奴のほうが気楽かもしれない」

「気楽?」

「集団脱獄で話題になったろう。ボーンズ家からは何人も殺された。そういうことで注目されるのは彼女にとって嬉しいこととは言えない。ウィンストンは、僕の見る限り、安易な慰めとかお悔やみなんて言わなそうだ」

 

絶対言わないわ、と追いついてきたパーバティが断言した。「ただし、今のレンに気の利いた会話も期待しちゃダメ」

 

昨夜談話室に戻ってきたあたりから怪しかったのだが、今朝はすっかり幼児になっていた。制服なんか着たくない。ユニフォームがいい。違うよ、グリフィンドールのじゃないんだ、モランのユニフォームだよ、などなど。制服を着せて部屋から引っ張り出すのに苦労させられた。

 

「・・・スーザンに何の話をしてた?」

「百味ビーンズのレアな味について。鳩の耳糞味を食べると幸運に恵まれるんですって」

「・・・鳩の耳?」

 

ハーマイオニーは急に心配になり、アーニーから少し距離を置いて、後ろの2人との距離を縮めた。

 

「うん。本気で探すといいよ。グランパが一度食べたことあるらしい。完全無欠の1日だったんだって。グランパはハッフルパフの卒業生でね、スラグ・クラブでたまに会うグリフィンドールのシーカーのミランダ・パーキンが美人だったから夢中だったんだ。そのミランダにキスしてもらって、スラグ・クラブのなんとか先生からオーク樽熟成蜂蜜酒で乾杯してもらって、酔っ払ってハッフルパフ寮に戻ったら一緒に監督生だったなんとかって女の子にもキスしたけど殴られなかったらしい。その話をわたくしが聞いてたときに、近くで聞いてたグラニーに殴られたけどね」

 

にしし、と笑う。ハーマイオニーは急な頭痛を感じたが、昨夜「一種の幼児退行」について説明していたおかげが、スーザンは「おじいさまがハッフルパフ? だったら、ハッフルパフ寮におじいさまのイニシャルが入った樽があるかもしれないわ。談話室のインテリアの樽なんだけど、HB WWWって書いてあるの。おじいさまはヘッドボーイ首席だったりする? イニシャルは?」と妥当な会話を続けてくれた。

 

「うん。そうだよ。ウィリアム・ウォレン・ウィンストンだ。WWWだよ。今のWWWって言ったらフレッドとジョージだけどね。今度すっごい花火を上げてやるって言ってたからスーザンも見るといいよ」

「グリフィンドールのフレッドとジョージのすっごい花火? 楽しみだわ。ドクタ・フィリバスターの直弟子なんじゃないかってハッフルパフでも評判よ」

「うんそうだよ。ドクタ・フィリバスターはニコラふんぐう!」

 

ハーマイオニーは振り向きざまに蓮の口に鞄を押し当てて塞いだ。ニコラス・フラメルの高名に傷がつくではないか。

 

「ハーマイオニー? ど、どうしたの?」

「誤解しないでね、スーザン。あなたが今のレンの稚拙な話題の相手をしてくれるのはすごく嬉しいわ。本当よ。素晴らしいリハビリだと思う。ただ、微妙なところでネジが足りないから、言うべきではない家庭の事情をね、ペロッと喋りかねないの。あ、本当に誤解しないで。わたしと蓮は姉妹みたいなものよ。ちなみにわたしが姉ね。パパ同士が親友だったものだから、ゴッドマザーやファーザーを交換で務めた関係上たまたま、本当に不本意ながらたまたま知ってるだけ」

 

蓮の顔に鞄を押し付けながら、ハーマイオニーが早口で説明すると、スーザンは気圧されたように瞬きした。

 

「は、はあ」

「ハーマイオニー! 顔をぶつな!」

 

ハーマイオニーの鞄を地べたに放り出した蓮が喚くと、苦笑していたスーザンが「あら?」と何かに気づいた。

 

「どうしたの、スーザン?」

「なにかしら、ハリーとロンが、マルフォイと何か」

「いつもの揉め事なら放っておいても構わないわ。監督生同士は減点出来ないし」

「マルフォイが新しいバッジつけてるよ」

 

蓮の言葉にハーマイオニーも鞄を拾って立ち上がった。意識すると、マルフォイの気取った声を聞き取ることができる。

 

「尋問官親衛隊だよ、ウィーズリー。魔法省を支持する、少数の選ばれた学生のグループでね。アンブリッジ先生直々の選り抜きだよ。とにかく、尋問官親衛隊は減点する力を持っているんだ」

 

このマルフォイの言葉に、ハーマイオニーはサッと眉をひそめたが、スーザンが心配そうに振り向いたことで、蓮が杖を抜いたことに気付くと「ダメよ!」と蓮の手首を掴んだ。

 

「だってハーマイオニー」

「何するつもり?」

「ケナガイタチを禁じられた森で自然に還す」

「レン、そんなこと出来るの? 素敵ね」

「うん、スーザン、じゃ見てて・・・ってハーマイオニー! なんで邪魔するんだ!」

 

じたじた暴れる蓮の手首をしっかり掴み、駆け寄ってきたパーバティが蓮の目を塞いだ。杖腕を抑止するだけでは足りないのが厄介だ。視界に入っていれば杖も呪文も無しで攻撃的な魔法が使えるのだから。

 

「スーザン、呑気に褒めちゃダメ。コレは、ただの幼児じゃないの。レン・ウィンストンの能力を持った幼児という厄介極まりない危険生物よ。尻尾爆発スクリュートに散歩させるような注意を払って躾をしてくれると嬉しいわ」

 

 

 

 

 

「いいこと?! 16歳のレン・ウィンストンは、決して決して、百味ビーンズのレアな味を捜し求めたりはしないの!」

「皮肉に笑って『あれは人間の食べ物じゃないわ』こうよ」

「チョコレートならベルギー王室御用達のレオニダスとかノイハウスあたりがレン・ウィンストンの基本です!」

 

ハーマイオニーとパーバティの涙ぐましい苦労を目の当たりにしたスーザンは「伯母を通じてレンの様子をお母さまにお知らせしたほうが良いかしら」と実に心優しい提案をしてくれたが、そればかりを当てには出来ない。

 

不貞腐れて脚を広げて投げ出した蓮に、ハーマイオニーとパーバティが躾をしていると、ロンとハリーが「まったくムカつくぜ、あいつ!」と喚きながら談話室に入ってきた。

すかさず蓮が味方を求めて叫ぶ。

 

「ハリー! ロン! ハーマイオニーが怒るんだ!」

 

ロンが大仰に目を丸くして見せた。

 

「そりゃ気の毒に。何を怒られた?」

「ハリーとロンから減点したから、マルフォイをケナガイタチにしてやろうとしたら怒ったんだ! それからスーザンに百味ビーンズの話をしたことも!」

「なんてこった! 百味ビーンズまで目の敵にするなんて横暴だな」

 

ハリーが「・・・ハーマイオニー、今日はいつもより低年齢かい?」とハーマイオニーの耳に囁いた。ハーマイオニーは頷き「多分未就学児ね」と答えた。

この答えにハリーは頭が痛そうに小さく頷き「レン、気持ちはありがたいけど、君の魔法は強力過ぎるからマルフォイに使っちゃダメだったろ?」と優しいお兄さんを装った。

 

「ダメだったっけ?」

「忘れたのかい? ハーマイオニーと約束したろ?」

「ハーマイオニーなんか嫌いだ」

「・・・じゃあ一緒に寝てあげないわよ」

 

この答えには、むう、と蓮が悩ましげに唇を尖らせた。パーバティがその蓮の目の前でパチンと手を叩き「はい、レン! 頭をシャッキリさせて! マルフォイたちがアンブリッジのご指名で高等尋問官親衛隊に選ばれたそうよ! ムカつくわよね?」と矢継ぎ早に言うと、蓮はぎゅっと目を閉じ頭を抱えた。「ああ、ムカつく。特にアンブリッジ」と不穏なことを呟きながら。「こんな目に遭うのはあのクソババアのせいだ」

 

「レン! 君、高等尋問官親衛隊が何か知ってるのか? 今は正気なんだな?」

「知らないけど、ナチのSSみたいなもんだろ。やることなすこと、なんでああいう奴らは同じこと考えるんだろうな」

 

舌打ちをした蓮の手をパチンと叩いて、特権階級よ、とハーマイオニーが補足した。「アンブリッジは校長という、ホグワーツにおける権力の頂点に座ったわ。ガーゴイル像は認めなかったみたいだけど、そんなことアンブリッジには関係ない。魔法大臣に任命された校長という立場はあの女の中ではこの学校の権力の頂点よ。その権力を下支えする労力には、権威と特権を与えておく。それにはスリザリンはぴったりだわ。純血主義で結ばれた強固な仲間意識。アンブリッジ自身もスリザリン出身だし、響き合うものがあるんでしょう」

 

「魔法大臣に任命された校長・・・って、なんか貧乏くじっぽくないかな? 例えば、マクゴナガルがダンブルドアの引退に際してダンブルドアから後任指名されるのは、キャリアの頂点だよな。でも学校に政府が立ち入って改善命令を実行するための校長って、貧乏くじだろ? アンブリッジが魔法省の高官のつもりなら、それこそ大臣室で次官をやってるほうがそれらしい」

「普通は、今ハリーが言ったような経緯で校長が決まるはずよ、ね、レン?」

 

ハーマイオニーの言葉に反応がない。

 

「レン?」

 

パーバティが蓮の肩を揺さぶると、いつの間に取り出したのかハリーの蛙チョコカードをシャッフルしていた。

 

「ハリー、すごいね! プトレマイオス持ってる!」

「ああ、また・・・」

 

ハーマイオニーは脱力して項垂れた。

 

「いつの間に! レン、ダメだよ、人のポケットに勝手に手を突っ込むのは禁止だ」

「違うよハリー。アクシオだ。ポケットに手なんか入れてない。知ってる? プトレマイオスは天文学者なんだ。天文学のOWLでO-優がもらえるかもしれない」

「・・・幼児退行してても蛙チョコカード占いはやるんだな」

 

ボソッとロンが呟き、ハリーが「レンのカード占いが良い方に当たったためしがあるか? 天文学の試験の日はどうせ大嵐か何かだろ」と不吉な予言をした。

 

 

 

 

 

ハーマイオニーとパーバティを眼鏡の下からジロリと見てマクゴナガル先生は「平和と安全のために退行させておきなさい」と冷たく言った。

 

「そんな!」

「レンの知識と能力を持った幼児の子守はちょっと」

 

パチル、とマクゴナガル先生はパーバティを呼んだ。

 

「はい」

「ウィンストンを正気に戻したら、アンブリッジ『新校長』への不満をまず口にした。そうですね?」

「はい。でもそれは」

「正気に戻ったらそういうことになるのです。あれは、ウィンストンなりに無意識に安全な方に抑制を外した結果でしょう。もうそれで良いではありませんか」

 

投げた、とハーマイオニーはうな垂れた。

 

「投げてはおりませんよ、グレンジャー。失礼な。なぜかハッフルパフのミス・ボーンズが、ウィンストンの状態について家族に連絡したことまでは真面目に聞きました」

「はい。スーザンの伯母さまが」

「省略しました。ウィンストンの母方の祖母の同席のもとでマダム・ポンフリーによって最初の診察をしましたから、真実薬の重大な副作用の可能性は家族は既に承知しています。ですが、ウィンストンの自宅のほうも安全とは言えません。今のウィンストンに言う必要はありませんが、コーンウォールのウィンストン家にディメンターが現れたと連絡を受けています。まあ、あそこの家族は巨大なパトローナスを通信手段にするぐらいに非常識な家族ですので危険はありません。ウィンストンが成人しさえすれば」

 

あ、とハーマイオニーが思わず声を上げると、マクゴナガル先生は頷いた。

 

「学校でならどんな魔法をぶっ放そうと構いません。相手を殺しさえしなければなんとかなります。ケナガイタチを禁じられた森に放すのは殺すことに含まれますが。諸々のリスクを家族と相談した結果、抑制の効かないウィンストンは学校に置いておくのが最も安全だと家族は判断なさいました。幸い、知識と頭の回転に異常はなく、言動が幼児から入学前の子供であるだけです」

「それは・・・そこが一番怖いのですが」

「幼児から入学前の子供の頃のウィンストンが得られなかったものを与えておけば良いのです。ポッターの蛙チョコカードやウィーズリーのなんとかヌガーや、母親にわけのわからない話をする時間や、母親と親しく接する時間などを。ミス・ボーンズが話相手になるならあなたがたの負担は減るでしょう。ああ、ミス・ボーンズではウィンストンが暴れ始めたら止められませんから、グレンジャー、パチル、あなたがたは近くを離れないように。ウィンストンが杖を握って暴れ始めたら被害を最小限にとどめなさい」

「マクゴナガル先生!」

「禁じられた森でウィンストンを本気で暴れさせて、記憶をいじり回し、また暴れさせ、それを抑止してきたのは伊達や酔狂ですか?」

 

はぅ、とハーマイオニーとパーバティはあとずさった。これを知られていると分が悪い。

 

「今のホグワーツに、いわゆるまともな先生方を除けば、暴れるウィンストンを止められるのはあなたがたしかいません」

 

しぶしぶ頷いて部屋を出ようとしてハーマイオニーはふと足を止めた。

 

「マクゴナガル先生」

「まだあるのですか」

「・・・スラグ・クラブとは何ですか?」

 

マクゴナガル先生はハーマイオニーをじっと見つめた。

 

「・・・スネイプ教授の前任の教授が個人的に開催していたサロンです。極めて優秀な学生、特定の分野に高い才能を示した学生、名門の末裔などが招かれました。スネイプ教授以上の年齢で、様々な分野で活躍している魔法使いや魔女の大半は招かれた経験があるでしょう」

「レンがちらっと言ったことですが・・・マクゴナガル先生も?」

「ウィンストンの家族でホグワーツ出身の者は全員常連でしたから当然ウィンストンは知っているでしょう。スラグ・クラブの出世頭と言えばウィンストンの日本の祖母ですね、国連の議長。わたくしは、母方の家系と変身術の関係上、数回招待に応じたことならあります。マダム・ポンフリーも魔法薬学の優秀な学生でしたから招かれました。おそらくウィンストンの母親も父親も招かれたでしょうね。ああ、ミス・ボーンズの伯母のアメリア・ボーンズも。彼女も出世頭のひとりです、魔法法執行部長いずれ大臣の可能性も高い」

 

ハーマイオニーは僅かに逡巡し、やはり口を開いた。

 

「・・・アンブリッジ先生は」

「わたくしの知る限りにおいて、ドローレス・ジェーン・アンブリッジは、スラグ・クラブの常連になる要素を持つ学生ではありませんでした」

「それがなぜ今のような、えーと、高官になられたのでしょう?」

「卒業後の努力の結果でしょう。真摯な努力であれ、好ましからざる努力であれ、相応の努力によって地位を得たのです。文句を言う筋合いはありません」

「・・・そうですね。お時間をいただき、ありがとうございました」

 

今度こそ部屋を出ようとするハーマイオニーにマクゴナガル先生が言った。

 

「グレンジャー」

「はい?」

「あなたは以前、純血の魔女より優秀なマグル生まれの魔女になると言いましたね」

「はい」

「その証明になり得ることのひとつが、当時ならばスラグ・クラブの常連であったという事実です。教師が個人的に生徒を選抜し、有力者との繋がりを誇示し、口利きを示唆する。それ自体は褒められたことではありません。しかし、純血主義への傾倒より、名誉欲のほうが強かったその教授は、半純血であれマグル生まれであれ、才能を認めたならば、必ずスラグ・クラブに招きました。その中で、違う寮の者同士が友情を育むこともあった。悪い面ばかりでもなかったのです。ですが、あなたのような野心を抱きながら、決して招かれることのなかった大多数の生徒にとっては、鼻持ちならない特権階級に見えていたのかもしれません。高等尋問官親衛隊のように」

「・・・示唆的なお話、ありがとうございます」

 

マクゴナガル先生は頷き、ハーマイオニーとパーバティは部屋を出た。

 

 

 

 

 

ハーマイオニーとパーバティが部屋に戻ってきた途端に大騒ぎを始めた。

 

スーザンがジョージを通して蛙チョコを箱いっぱいにくれたから、全部開けてカードを取っただけなのに。

 

「見てハーマイオニー。ほら! またプトレマイオスだよ! 絶対に天文学はOだ!」

「カードのための蛙チョコじゃないの! 蛙チョコを食べるためよ、レン! もう! カードを取るなら取って構わないけど、箱の中にちゃんと蛙を閉じ込めて! パーバティ、1匹行ったわよ!」

「スーザンったら、何個くれたの?!」

「見てってば! プトレマイオスだよ! 24枚のうちプトレマイオスが2枚だ! すごくない?!」

「2ダース?! どれだけのチョコ蛙を部屋に放したのよ!」

「レン、カード占いは禁止よ! プトレマイオスが今日だけで3枚! 天文学の試験で死人が出たらどうするの!」

 

そんなひどいことを言いながら、ハーマイオニーとパーバティが部屋中のチョコ蛙を探し始めた。仕方ないからお手伝いする。

 

「・・・アクシオ」

 

ひゅん、とあちこちから蛙が飛んできた。

 

「・・・24匹ちゃんといるよ」

 

ハーマイオニーはムっとした顔で、潜っていた机の下から出てきた。絶対にアクシオを使えばいいことを忘れてたんだ。黙って箱に蛙を詰めて低い声で「・・・スーザンにお礼は言ったの?」と言う。

 

「・・・まだ」

「まず、きちんとお礼を言いなさい。お説教はそれからよ」

「・・・はーい」

 

ママそっくりだ。自分の「うっかり」を棚に上げて、長ーいお説教をするつもりだ。

蓮はおもむろに立ち上がった。

 

「お礼言ってくる!」

「待ちなさい!」

 

駆け出したのに、ビターン! と、この前のハリーみたいに顔から倒れた。足縛りの呪いなんて卑怯だ。

 

「逃がしません。ここでお礼のカードを書くなりなんなり、方法はあるでしょう」

「・・・はい」

 

仕方ないので、ぽふんとパトローナスを出した。

 

「スーザン、蛙チョコたくさんありがとうございます。ハーマイオニーが足を縛って部屋から出してくれないので、お礼を言いに行けません。でも、プトレマイオスが2枚も出てきました。天文学のOWLでOがもらえたらスーザンのおかげだよ」

 

手を振ってパトローナスを窓の外に送り出すと、ハーマイオニーが「余計なことは言わなくてもいい!」とお説教を始めた。

 

パーバティは頭を抱え「幼児なら全て幼児水準になってよもう。ハッフルパフのDAがみんな泣くわ」と唸った。

 

その時部屋のドアがノックされた。

 

「アンジェリーナよ、レンはいる?」

「いるよー!」

「アンジェリーナ気を付けて。今日は幼児レベルよ」

 

ハーマイオニーが余計なことを言うので「べー」をしたら拳骨を落とされた。

 

「いってぇ!」

「・・・レン、ハーマイオニーとパーバティが疲れきってるけど何をしたの?」

「何もしてないよ。勝手に疲れたんだ。アクシオで済むのに」

 

アンジェリーナがハーマイオニーとパーバティを見回して「えーと、フレッドとジョージに子守させましょうか?」と言う。

 

「・・・本日の精神年齢をきちんと説明してね」

「カードのために24個の蛙チョコの箱を開けっ放しで放り出す精神年齢よ」

「困った子ね、レン。さあ、行きましょう。フレッドとジョージが花火を見せてくれるわ」

 

ハーマイオニーが杖を振って自由になった。アンジェリーナと手を繋いで部屋を出たところで、お出掛けの挨拶を忘れていたことを思い出した。

 

「じゃあね、ハーマイオニー、じゃあね、パーバティ。あ、蛙チョコカード捨てたら嫌いになるよ」

「・・・はいはいいってらっしゃい」

「捨てはしないけど・・・花火?!」

「アンジェリーナ早く! 呪いが飛んでくる!」

 

アンジェリーナの手を引っ張って、階段を3段飛びで駆け下りた。

 

 

 

 

 

「早く、フィルチ、早く!」

 

アンブリッジがガマガエルみたいな顔を赤くしたり青くしたりして、フィルチに叫ぶ。でもフィルチが逆立ちしたって、魔法の花火の始末をつけるなんてことは出来ない。

 

蓮はタペストリーの裏の小部屋で、ジョージの掌に口を塞がれたまま、お腹を押さえて可笑しいのを我慢した。

 

「ステューピファイ!」

 

やっちまったな、とジョージが囁き声で言った途端、大きな爆発の音が聞こえた。

 

「暴れバンバン花火だ。いろんな効果があるけど、止めようと失神呪文を使うと大爆発する。ほら、ここの隙間から見てみろ。あのネズミ花火に消失呪文を使うと花火が10倍に増える」

「すっげえ・・・やれ、馬鹿だなアンブリッジ、消失呪文だよ、やれってば」

 

祈りを込めてみたが、アンブリッジが消失呪文に気づいたのは、フィルチが空中の花火を叩き落とそうと、5本の箒を無駄にした後だった。

 

「エバネスコ! きゃあ! なんてことなの、フィルチ!」

「はい、マダム!」

 

その時、ラベンダーの声が聞こえた。

 

「申し訳ありません、校長先生・・・マクゴナガル先生から伝言です。あの、変身術の教室にドラゴンタイプの花火がいるので処理をお願いします」

「なんですって! あなたにはこれが見えないの?!」

「申し訳ありません。ですが『校長先生』マクゴナガル先生には花火を処理する権限がおありになりませんし、今ちょうど7年生のNEWT前の課外授業の時間ですから。7年生の成績が思わしくないのは、『校長先生』の評価に関わるでしょうから、一刻も早くお知らせしなさいと言われました」

 

ぴゅう、とジョージが小さな小さな口笛を吹いた。「やってくれるぜマクゴナガル」

 

そこへルーナがふわふわした足取りでやってきた。

 

「『校長先生』フリットウィック先生の呪文学の教室にネズミ花火がいます」

「呪文学の教授でしょう! なんとかなさいまし!」

「権限がないんだもん、ネズミ花火を処理するのは呪文学の授業の範囲外だから」

 

言うだけ言ってルーナはまたふらふらと歩き去り、今度はスネイプが「吾輩の教室にも花火がおりますがな」と言いに来た。

 

アンブリッジは歯ぎしりしながら「セブルス、あなたならそのぐらい」と喚きかけたが、スネイプは油ぎった髪を振り「薬品類に害が及ばぬように保護するだけで精一杯ですな。お早めに願います」と歩き去った。

 

顔を真っ赤にしたアンブリッジは、フィルチを引き連れて、肩を怒らせて歩き去った。

 

それを確かめると、タペストリーから転がり出て、床でお腹を抱えて転げ回った。

 

「レン」

「最高だ、ジョージ。アンブリッジのあの顔!」

「君が喜ぶなら、在庫を全部使っちまった甲斐がある」

 

どうせ俺たちのクビはニックと同じぐらいにしか繋がってないからな、とジョージが蓮の手を引いて立たせてくれた。

 

「ジョージ?」

「ハーマイオニーの言うことを聞いて良い子にしてろ。たまにこういうショーを見せてやるから。少しはストレス解消になるだろ。な?」

「・・・ニックは『ほとんど首無し』なんだよ、ジョージ。真似しちゃ」

 

いいんだ、とジョージが手を引いたまま歩き出した。

 

 

 

 

 

もちろん蓮だってわかってはいるのだ。学校で花火や爆竹はいけないことだ。たぶん。面白いけど。

 

なので、これ以上ハーマイオニーに怒られないように、夕食は静かに食べたし、夕食の後、ハリーにプトレマイオスを見せに行くのも我慢して、部屋で魔法史の教科書を開いた。

 

羽根ペンを持ったまま、窓の外の夜空を見上げて、まだ燃えている花火につい見惚れてしまうけど。

 

かちゃりとドアが開いて、ハーマイオニーの声が聞こえた。

 

「さーて、うちのアルジャーノンは今度は何をしてくれたかしら?」

 

慌てて教科書に顔を向けて勉強しているフリをした。

 

「レン? 勉強してるの?」

「・・・してるよ」

 

とすん、とハーマイオニーが肩に腕を回して後ろからハグしてくれた。顎で頭をぐりぐりするのはちょっとやめて欲しい。痛い。

 

「ごめんね、レン」

 

ママの声が聞こえて、思わずガタンと立ち上がった。

 

「ママ? ハーマイオニー、今、ママがいなかった?」

 

ハーマイオニーが顎を押さえて「来るならウェンディでしょう。あなたのお母さまはここには」と言う。

 

「・・・そっか。そうだよね」

「お母さまがいらした気がしたの?」

「ママの声が聞こえたんだ。ごめんねって」

 

それは、と言いかけたハーマイオニーが、仕方なさそうに笑って「今日の勉強はそのぐらいにしなさい」と言う。

 

「え?」

「談話室に行きましょう。みんなまだ花火を見てるわ。ごめんなさい、レン。昼間は2回もひどいことをしたわ。アクシオに気づかなかったわたしが悪いのに」

 

ハーマイオニーは謝っているくせに窓の外のドラゴンの花火が銀色の煙になって消えるのを見ていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。