サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第24章 天文塔

月曜日、魔法薬学-理論でハーマイオニーは初めて完璧だと自信の持てる問題に出会った。

 

ポリジュース薬。

 

調合過程も、効果の程も完璧に記述出来たし、言うまでもなく、動物の毛は絶対に入れてはならない、という注意事項に至るまで完璧だ。

 

「人間、やっぱり知識だけじゃダメね。経験が物を言うのよ」

「さすがの僕もあの問題は完璧だと思ったね。誰かさんの髭と尻尾のおかげさ」

 

ばちん! とロンを教科書で叩き「午後の実技もこの調子で頑張りましょう」と宣言したが、残る3人の表情が優れない。

 

「どうしたのよ?」

「Gのミス・グレンジャーは前半のグループだろ。僕ら3人は後半のグループだ。君は知らないんだよ。あの小部屋で待つ時間の長さを」

「ハリーはまだいい。ロンとわたくしはWだから、いつも最後だ」

「ハンナ・アボットの婿になりたいぜ」

「もう手遅れだな」

 

ハリーが首を傾けて、湖の端で教科書を広げている2人のシルエットを示した。

 

「おぉう」

 

蓮が目を瞠り、ハーマイオニーの目を掌で塞いだ。

 

「ちょっと、わたしにも」

「残念ながらハーマイオニー、あなたの好奇心で開心術を発動させるわけにはいかないから教えないよ」

 

 

 

 

 

火曜日の魔法生物飼育学については、4人とも意見が一致した。能力の及ぶ限り、出来ればO-優に極めて近い(ハーマイオニーと蓮はOであるべきだとロンが断言した)成績を獲得するべきだ。

尻尾爆発スクリュートに時間を浪費したなどとハグリッドの失点に繋がらないように、絶対に無様な成績を残すわけにはいかない。

 

蓮は、個人的にはハリネズミとナールを見分ける必然性を感じないのだが、がんばった。ボウトラックルをうっかり握り潰さないように扱ったし、ファイア・クラブに餌をやり小屋を清掃するのは、ファイア・クラブの飼育ライセンスを持った人間に任せたいのだが、がんばった。甚だ遺憾ながら、ナールやボウトラックルやファイア・クラブやニフラーより、ドラゴンのほうが面白いという自分の中にある感情を認めないわけにはいかない。

 

そして待ちに待った水曜日がやってきた。天文学の日だ。

 

失礼なことにみんなが「死ぬ、誰かが死ぬ」と言うのだが、蓮は信じている。プトレマイオスは、蓮の頭に宇宙のインスピレーションを送信してくれるに違いないのだ。

 

なにしろ、まるで自動筆記羽根ペンQQQを使ってでもいるかのように、スラスラと木星の衛星の名前を全て書けたのだから。

 

誰も死ぬことなく、無事に天文学-理論の試験を終えて、蓮は胸を張った。「誰も死んでないね!」

 

「まだ実技がある。今日は長い一日だぜ」

「ああ・・・僕らは今から死ぬかもな。占い学だ」

「わたしたちは古代ルーン文字学よ。ほら、フサルクを出して」

 

蓮がポケットから平たい石を入れた巾着を出すと、ハリーとロンは興味深げに覗き込んだ。

 

「これで何をするんだ?」

「解釈よ」

 

ハーマイオニーが広げたハンカチの上に巾着を置き、口を縛っていた紐を解いた。そこにハーマイオニーが手を入れて石をひとつ取り出す。

 

「さあ、レン。ハガルよ」

「意味は雹だから・・・この場合は、ハリーとロンが占い学でOを獲得する」

「なんだそりゃ!」

「絶対反対の意味だろ」

 

そうねえ、とハーマイオニーが石を見ながら考えた。「予想外という意味では間違った例じゃないけど、ハガルはもっとネガティヴなニュアンスだわ。破壊を伴う変革とか」

 

「・・・予想外だってよ」

「・・・間違った例じゃないんだってさ」

 

ハリーとロンがボソボソと不満を言うのを無視して、今度は蓮が袋から石を取り出した。

 

「よし、ハーマイオニー。ウルだ」

「ハリーもロンも勇猛果敢に占い学にチャレンジするべき」

「僕らから離れた解釈をしたらどうかな」

 

蓮はウルの石を眺めて唸った。

 

「猪突猛進、勇猛果敢、一途、野生の力。解釈例はそんなもんだよね」

「ハガルと合わせて考えるとどうなるかしら」

「えーと、勇猛果敢かつ一途な人が予想外のネガティヴな出来事に襲われる」

 

思わずハーマイオニーと顔を見合わせ、次に2人でハリーを見た。

 

「な、なんだい?」

 

 

 

 

 

天文学-実技の試験は真夜中に天文塔で行われる。

星を見るのにはうってつけの、雲のない静かな夜だ。6月とはいえ、ハイランドの夜は肌寒いが、銀色の月の光に照らされたホグワーツは幻想的でロマンティックだ。

 

ハーマイオニーは隣で淡々と望遠鏡をセットする蓮をちらりと見た。蓮の記憶の中で何度も見たハンサムなパパ。

あのハンサムな魔法使いと肩を寄せ合って、この天文塔でデートするのは、なかなか理想的だと思う。

卒業までに相手が見つからなかったら、蓮を付き合わせて、真夜中の天文塔のデートだけは完遂しよう。それまでにアルジャーノン症候群が治まっていればいいのだが。

 

軽く頭を振って、ハーマイオニーも三脚に望遠鏡をセットすると、目を閉じて頭の中に、さっき何度も見つめた6月の星座図を呼び出した。

 

マーチバンクス、トフティ両教授がまだ星の記入されていない星座図を配布する。

 

マーチバンクス教授の合図で試験が始まると、ハーマイオニーは星座図を埋めることに夢中になった。

 

ハーマイオニーがオリオン座から始め、最後に金星を書き入れた。ふっ、と息をついたとき、トフティ教授が落ち着いた声で「1時間経過した」と受験生に告げ、焦ったように羽根ペンを動かしたり、望遠鏡をあちこちに向けたりする気配が感じられるようになった。

 

そのとき、はるか真下にある正面玄関の扉が開いたのか、石段とその付近の芝生が明かりに照らされた。ハーマイオニーは望遠鏡を覗くふりをしながら、下を見た。

 

明るく照らし出された芝生に細長い影が動くのが見える。ひとつ、ふたつ、みっつ・・・全部で5,6人はいるだろうか。

扉が閉まったのか、芝生はまた闇の中に沈んだ。

 

なんだろう。胸騒ぎがしてならない。

 

ハーマイオニーは望遠鏡を構えたまま、地上の気配を感じ取ろうと俯きがちに目を凝らした。月明かりが照らす校庭に人影が見える。望遠鏡の向きを変え、人影に焦点を合わせた。5人だ。先頭を行くずんぐりしたシルエットは見間違いようがない。アンブリッジだ。

 

ハーマイオニーの心臓が早鐘を打ち始めた。

 

4人を従えて、アンブリッジがハグリッドの小屋に向かっている。

 

アルジャーノン症候群の蓮からうんざりするほど見せられた、プトレマイオスの険しい顔が思い浮かんだ。今日のお昼のルーン文字は何だった? ウルとハガルだ。野生の力を持つハグリッドに、予想外のトラブル。

 

闇を渡って、小屋の扉をノックする音が響く。ファングが深夜の訪問者を訝しんで吠え、ハグリッドの小屋に明かりが灯った。

戸が開き、ハグリッドの巨体が浮かび上がり、次に5人の人影が小屋の敷居を跨いでいく。戸が再び閉まり、しんとした静けさが戻ってきた。

 

ハーマイオニーは星座図に屈み込み、低い姿勢から隣の蓮の反応を窺った。もっと見直しをしたいところだが構わない。星座図はとっくに書き上げている。いざとなったら、蓮をここから引きずり出さなければならない。

 

ファングの声が再び響いた。ハーマイオニーは飛び上がって望遠鏡に張り付いた。

 

「みなさん、気持ちを集中するんじゃよ」

 

トフティ教授が優しく注意するところを見ると、生徒たちが異変に気づき始めたのだろう。

 

「ゥオホン、あと20分」

 

バーン! と校庭に大音響が響いては、夜空に気持ちを集中するのは無理というものだ。

 

ハグリッドの小屋の扉が勢いよく開いた。中から溢れ出る光でハグリッドの姿がはっきりと見える。赤い光線が飛び交う中で、両の拳を振り回している。

 

「・・・失神は無理だ」

 

ボソッと低い低い声で囁く声が聞こえ、ハッとハーマイオニーが振り向くと、蓮がハーマイオニーを安心させるように微笑んでいた。

 

しかし、他の生徒たちが「5人がかりで何してんだ?」とか「真夜中に襲撃かよアンブリッジ」とかざわめくことは止められない。

 

「慎みなさい! 試験中じゃよ!」

 

トフティ教授の咎める声もあまり効果はない。

 

赤い光線は小屋の外に移動して、やはり飛び交っている。ハグリッドの身体で跳ね返されているように見えるのは、おそらく巨人の血のせいだろう。失神呪文も万能ではない。2年生のとき、巨大化した蛇に失神呪文が効かなかったことを思い出し、ハーマイオニーは歯を食い縛ってハグリッドの奮戦を祈った。

 

「おとなしくするんだ、ハグリッド!」

「おとなしくが糞食らえだ。ドーリッシュ、こんなことで俺は捕まらんぞ!」

 

ハグリッドは奮戦しているが、ついにハグリッドを守るように周りの魔法使いに飛びかかっていたファングが失神呪文に倒れた。

 

ぐ、と微かな声が聞こえる。振り向くと、蓮が頭を抱えるようにして、唇を噛んでいる。

 

「・・・レン」

 

気分の悪い級友と一緒に残り時間を放棄します、と言って星座図を提出してこの場を離れることは可能だろうか。

そうハーマイオニーが考えたとき、パーバティが「見て!」と叫んだ。

 

正面玄関が再び開き、閉まり。暗い芝生の上をひとつの細長い影が、猛スピードで駆けていく。

 

「ほれ、ほれ! あと16分しかないのですぞ!」

 

ハーマイオニーにはその影が誰かわかっていた。ウルだ。勇猛果敢な一途な人。ウルとハガル。勇猛果敢な一途な人と、破壊を伴う変革。

 

「なんということを!」人影が走りながら叫んだ。「なんということを!」

 

やめて、とハーマイオニーは呆然と呟いた。

 

「おやめなさい! やめるんです! なんの理由があって攻撃するのです! なにもしていないのに。こんな仕打ちを」

 

パーバティやラベンダー、他数人の女子の悲鳴が聞こえたが、ハーマイオニーは蓮に飛びついていた。

 

4本の失神光線がマクゴナガル先生の胸を貫き、一瞬、跳ね上がった先生の身体が不気味な赤い輝きを放った。ドサリ、とマクゴナガル先生の身体が地に落ちると、さすがのトフティ教授も「南無三!」と喚いた。「不意打ちだ! けしからん仕業だ!」

 

ハーマイオニーは頭を抱えた蓮に覆い被さるように抱き締めた。

 

「・・・殺してやる」

 

ハグリッドの小屋の脇に積まれた薪の山がガラガラと崩れた。

 

「レン! 大丈夫? 具合が悪いのね?!」

 

トフティ教授かマーチバンクス教授に聞こえるように、ハーマイオニーは声を張り上げた。

 

ガフ! とガマガエルが潰れるような音が聞こえた。誰の仕業とは言わないが、薪がハグリッドと一緒になって暴れ回っている。

パァン! と、膨らみ始めたおばけかぼちゃが弾けた。

 

「レン! 教授! 試験官!」

 

急いで城の中に連れ戻さなければ、アンブリッジの命が危ない。

 

「どうなさった、お嬢さんがた」

「わたしも友人も、今のですっかり気分が悪くなってしまったので、少し早いのですが、試験を終わっても構わないでしょうか?」

「うむ、まあ、ああ、確かに。星座図はこれかね。それとこれ。よしよし、確かに預かった。気をつけて帰ると良い」

 

パーバティとハリーが「望遠鏡はわたしたちが片付けるわ」「早く帰って休みなよ」と言ってくれるのに頷いて、蓮の背中を抱えるようにして螺旋階段まで走った。

 

「ハーマイオニー」

「落ち着きなさい。魔力が暴走してるわ」

「殺してやる。あいつらがミネルヴァを」

「まだ決まったわけじゃないわ!」

「失神呪文が4本だ! ミネルヴァは婆あだぞ!」

 

すう、と銀色に輝くゴーストが現れた。

 

「落ち着きなさい。マクゴナガル教授のことなら、ニックがグリフィンドールに伝えに行き、わたくしがマダム・ポンフリーを呼びました。ミネルヴァ・マクゴナガルのことは、ポピー・ポンフリーに任せるのが一番です。いざとなれば、柊子が世界一の魔法癒を送り込みます。違いますか?」

「・・・レディ」

「狼狽えてはなりませんよ。卑劣な者に対して、決して狼狽を見せてはなりません」

 

灰色のレディが消えると、蓮に「杖を貸しなさい」とハーマイオニーは言った。

 

「ハーマイオニー?」

「今のあなたが杖を持っているのは賛成出来ないわ。わたしが預かる。明日の朝、あなたの頭が冷えていたら返してあげるから」

 

手を繋いで、螺旋階段を下りながら、ハーマイオニーは唇を噛んだ。

 

卑劣だ。

 

トレローニー先生のときに、マクゴナガル先生や蓮が妨害したことを踏まえ、誰にも妨害出来ない真夜中を選んで解雇を通告しに行ったのだ。しかも、誰だか知らないが4人の手下を連れて。

 

「ドーリッシュ・・・誰かしら」

 

闇祓いだ、と蓮の掠れた声が降ってきた。

 

「や、闇祓いがあんな真似を?」

「闇祓いはヒーローじゃない。公務員だ。大臣室付上級次官の命令なら従わないわけにはいかない」

「まさか・・・キングズリーやトンクスがあの中に?」

 

振り仰ぐと、蓮は血の気の引いた顔を振った。

 

「闇祓いはたくさんいる。まともな闇祓いなら、真夜中の解雇騒ぎに闇祓いが必要な理由を尋ねるよ。そういうまともな闇祓いを避けて、大臣室のお達しに無条件で従う奴を連れて来たんだ。キングズリーやトンクスはいないと思う」

 

 

 

 

 

談話室に入ると、ジニーが飛びついてきた。

 

「よかった、レン! あなたがアンブリッジを殺しに行ったりしなくて! 今、リーが7年生と6年生の男子を引き連れてマクゴナガル先生を医務室に運び込みに行ったわ。こっち来て。ああ、ハーマイオニー。止めてくれたのね?」

 

ジニーに導かれるままに肘掛椅子に埋まった。両脚を抱えて、膝に顔を突っ込む。

 

「マクゴナガル先生の容体はまだわからないのね?」

 

ハーマイオニーがジニーに確かめる声が聞こえる。何人かの女の子が啜り泣いている。

 

「レン」

 

アンジェリーナの匂いがする。ふわりと背中に腕が回された。

 

「良い子にしてるのよ。やだ、震えてるじゃない。アクシオ」

 

呼び寄せたブランケットで身体をぐるぐる巻かれた。

 

杖が必要だ。

明日だ。明日になったら杖を返してもらえる。ああ、ダメだ。自分の杖は使わないとママに約束した。

 

キン、と何かが頭を貫く気配がして、思わず頭を上げると、ハーマイオニーがじっとこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

「さあ! 襲われたくなかったら、戦うのです!」

 

ライオンが迫ってくる。日本の山中にいるはずのないライオンが。

 

小枝を握り締めて逃げる。

 

ドンっ! ドンっ! と途中でライオンの行く手の地面を爆発させながら逃げる。

 

どうしよう。山を下り過ぎた。川まで逃げてきてしまった。

 

「もうおしまいですか?」

 

ミネルヴァが勝ち誇ったようにふふんと鼻を鳴らした。

 

「おしまいじゃないよ!」

 

ミネルヴァを睨んで、水にお願いする。ライオンをやっつけて!

 

場面が変わる。

 

蚊帳の中で、ミネルヴァに質問する。

 

「決闘の時は、ひざをついちゃダメなんでしょ? みねるばはひざをついたよ」

「負けを認めたのですよ」

「負けてもだよ」

「決闘の作法を知っているようですね。では、教えましょう。わたくしはいずれあなたの臣下になるのですから、膝をついてお辞儀をしたのです」

「しんか?」

「家来」

「みねるばを家来にするの?」

 

また場面が変わる。

 

「まったく日本の夏はどうしてこう暑いのです!」

「毎年毎年同じことばかり言うんだね」

「あなたこそ、毎年毎年にょきにょきと背ばかり伸びて、少しもレディらしくなりませんね」

 

次々と場面が変わり、その情景の多さにハーマイオニーは圧倒された。実の母親との記憶より多いのかもしれない。

 

 

 

 

ハリーやロン、パーバティ、ネビル、シェーマス、ラベンダー、ディーン・・・。

 

5年生が次々に談話室に戻ってきて、ハーマイオニーは開心術を終了した。アンジェリーナに凭れたまま、蓮は虚ろな表情で暖炉の炎を見つめている。

 

「大丈夫だ、マダム・ポンフリーがその場で診察した範囲では、息はあったし、大きな外傷もない」

 

リーが請け合った。

 

「それより、マダム・ポンフリーがマジ切れしたんだ。アンブリッジを愚か者呼ばわりしちまった」

「見ものだったぜ。何かの弾みか、ハグリッドの腕か知らないが、何かがアンブリッジの顔に激突したらしくってさ。ヌガーも食ってないのに、鼻血ダラダラさ。マクゴナガルはほっといて自分を治療しろって言ったもんだから、マダム・ポンフリーがぶち切れちまったんだ。『鼻血ぐらい羊皮紙丸めて突っ込んでろ』ってさ」

「『ホグワーツ始まって以来の愚かな校長は引っ込んでなさい! ミネルヴァ・マクゴナガルはこのわたしが全力で蘇生させます! わたしの全力で足りなければ、世界中の名癒を呼んででも! 愚か者を校長に戴かねばならないホグワーツで、ミネルヴァ・マクゴナガルを抜きに学校が成立するとお思いか!』ってな」

「ついでにあの4人は闇祓いらしいんだが、そいつらにも噛みついた。『闇に縁もゆかりもない恩師に杖を向けるような下衆の闇祓いは今すぐ杖を折りなさい!』だ。まったくだぜ」

 

アンジェリーナと交代して蓮の背中をさすっていると、蓮が小さな声で囁いた。

 

「記憶、見た?」

「見た」

「あんな婆さんだけど、いないと困るんだ」

 

 

 

 

 

まだみんな興奮してアンブリッジを罵っているが、ハーマイオニーとパーバティは蓮を部屋に戻し、ハーマイオニーのベッドに押し込んだ。

 

パーバティがハリーから透明マントを借りて医務室に走り、きりりと目を吊り上げたマダム・ポンフリーに蓮の様子を話して魔法睡眠薬をもらってきた。「今夜はこれ以上の騒ぎは御免ですからね」

 

おとなしく魔法睡眠薬を飲んで眠った蓮を起こさないように、ハーマイオニーとパーバティは椅子に座って小声を交わした。

 

「それで、マクゴナガル先生の容体は?」

 

パーバティが小さく首を振る。

 

「あんなピリピリしたマダム・ポンフリー、初めて見るわ。まだ意識が戻ってもいなかった。ね、ハーマイオニー、スーザンと試験の後に話したんだけど」

「レンのこと?」

「ええ。明日でOWLは終わるでしょう? 自宅に帰したほうが良くない?」

「そういうことは、マク・・・」

「そういうことを判断してくれる先生がもういないのよ、ハーマイオニー。せめてこの件をご家族に伝えて改めて判断してもらう必要はあるんじゃないかしら。校長が副校長を闇祓いに命じて攻撃させるような学校が、レンにとって安全だと思う?」

 

誰にとっても安全ではない。しかし、蓮にとってはさらに危険な場所になってしまった。少なくとも、もうアンブリッジを止める力のある先生はいない。

 

「・・・スーザンは何て?」

「同じ意見よ。もちろんスーザンは、レンのことは別にしても、伯母さんに連絡するみたい。闇祓い局は法執行部の一部なんだもの。伯母さんはマクゴナガル先生を攻撃するように闇祓いに許可を出したのかって抗議するんですって」

「そうよね・・・」

 

しばらくハーマイオニーは窓の外を眺めて思案した。

 

「レンのご家族に連絡しそうな先生は・・・心当たりはあるけど・・・」

 

まず騎士団ならスネイプがいる。マダム・ポンフリーも蓮の祖母の親友のひとりだ。フリットウィック先生は蓮の母親の恩師だ。

 

「どれも確実じゃないわ・・・相談もしにくいし。わかった。わたしがレンのお母さまに手紙を書くことにする・・・ケニー、じゃまだ無理だから、ドビーかウィンキーにお願いして、ウェンディに託してもらうのが一番早くて確かよね」


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