サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第27章 制圧と飛翔

アンブリッジが驚愕に、ただでさえ飛び出た目を見開いている隙に、ハーマイオニーは手近なブルストロードから、数人を次々に失神させたが、あとはハーマイオニーが手を下すまでもなく、誰かによって「ステューピファイ! ステューピファイ! ステューピファイ!」と尋問官親衛隊が次々に倒れた。

 

「スーザン?!」

 

ハーマイオニーが叫ぶと、蓮が「おっと」と呟いて右手で構えた杖先を動かさないまま、左腕を窓に伸ばした。

 

「おいで、スーザン」

 

窓から身を乗り出し、蓮の左腕に縋って部屋の中に降り立ったスーザンは、自分の失神呪文が命中しているのを確かめて、胸を押さえた。「まさか成功するなんて」

 

「すごく上手かったよ、スーザン。ハーマイオニーといい勝負だ。アンブリッジ。ハーマイオニーの杖を返せ。おまえの相手はわたくしがしてやる」

 

ギリギリとアンブリッジが蓮を睨む。

 

蓮が、にしし、と笑って「形勢逆転だ、アンブリッジ」と言い放った。「さあ、ハーマイオニー。今のうちにこいつから杖を返してもらいなよ。そしてルーナに杖を返せ。ルーナ、耳に杖を挟むのは危ないからちゃんとローブに仕舞いなよ?」

 

「アクシオ!」

 

パシン、と自分の杖を手に入れると、ハーマイオニーはルーナに杖を返した。

 

「やれやれだ」

 

手分けして互いを縛るロープや猿轡を外して、ロンが溜息をついた。

 

「こいつら、どうする?」

「スリザリンに降りる階段から突き落としてやればいい。忘却術を忘れるな」

「オーケー。行くぜ、ネビル。ロコモーター出来るか?」

 

レン! とハリーが喚いたが、ハーマイオニーはハリーに目配せして「あとは任せるわ、レン」とブルストロードとパーキンソンを浮かせた。

 

「ハーマイオニー・・・ごめんなさい。レンを巻き込んで」

 

いいのよ、とハーマイオニーは微笑んだ。「わたしも同罪。『武器』のことを喋っちゃった」言いながら、スーザンの目を見つめて、イメージを送る。「レンから離れないで。アンブリッジを殺させないで」と懇願するイメージを。

 

スーザンは目を見開き、ハーマイオニーを見て、口をぱくぱく開け閉めしたあと、しかし、しっかりと頷いてくれた。

 

防衛術の部屋の前に3人のスリザリン生が倒れている。

 

パーバティが「どなたかうちのアルジャーノンを知らない?」と、くるくると杖を回していた。

 

「パーバティ・・・あなたまで」

「お散歩させてるだけよ。ほら、早く行きなさい」

「わかった。レンのこと、お願いね!」

 

駆け出すと、ハリーが背後にぷかぷかとマルフォイとクラッブを浮かせながら「ハーマイオニー! 僕は急いでるんだ!」と喚いた。

 

「わかってるわ。行くんでしょう、魔法省に?」

「そうだ! もうそれしかない!」

 

シリウスもいるかもしれないけど、と走りながらハーマイオニーはハリーを横目に見た。「ほぼ確実にベラトリクス・レストレンジ他数名もいるわよ」

 

「大丈夫だ! そんな奴は見なかった!」

「あなたの例の夢ではね! リドルくんとシリウスしかいないように見えたんでしょう? 言ったはずよ、偽物の記憶やイメージを送ることも出来るの。でも現実にはクリーチャーがベラトリクスに会ってるわ。内通していたのは間違いない。シリウスが魔法省にいるにせよいないにせよ、ベラトリクスはもうそれを知ってるでしょう。それでも行くのね?」

 

やめろ、とマルフォイが呻き声を上げた。

 

「うるさいわよ、マルフォイ」

「伯母上におまえたちは敵わない! そんなことより、ウィンストンをなんとかしろ! ウィンストンを殺す気か!」

「黙れマルフォイ!」

「ポッター! きさま、何回ウィンストンを巻き込めば気が済むんだ! 動物もどきのウィンストンを、危険な目に何度遭わせた! アンブリッジに何かしたら、それを理由に処刑されるんだぞ!」

 

わかってるわよ、とハーマイオニーは呟いた。

 

 

 

 

 

鼻唄混じりに蓮がアンブリッジの執務机を漁って、各種の教育令の束を引っ張り出した。

 

暖炉の前のアンブリッジが縛られ、猿轡をされたまま、太い脚を振り回して暴れている。

 

「れ、レン?」

「ああ、スーザン。せっかくのお留守番だからね。お掃除をしよう。ほら見てて。この羊皮紙に、杖でこういう図形を描いてみよう。ダエグっていうルーン文字だよ」

「・・・何をするの?」

「ダエグは、太陽の運行、つまり規律や自然の法則のことだ。これがダエグに反するルールなら、きっと、廃棄出来ると思うよ」

 

そう言って蓮が煙突飛行粉を暖炉に掴み入れると、エメラルド色の炎がめらめらと燃え立って、次々に羊皮紙を吐き出し始めた。

 

蓮がにこにこと笑って「やっぱりだ! スーザン、ほら見て! ファッジの直筆のサインだ。教育令の原本お取り寄せ出来ちゃった!」と嬉しそうに叫んだ。「ルーンは力ある文字なんだ。古い魔法の多くはルーンで発動するんだよ」

 

「んー! むー!」

 

唸りを上げて暴れるアンブリッジを軽く蹴って、蓮はひょいとアンブリッジの執務机にお尻を載せた。長い脚をぶらぶらさせながら「こいつらを全部燃やしちゃえば、あんな馬鹿げた教育令なんかなかったことに出来る」と言い出した。

 

スーザンはこめかみを指で押さえ「レン、お留守番は大事だけど、このお掃除は必要ないんじゃないかしら」と言うが、きょとんとした顔で「この紙、大事?」と首を傾げられると、なんとも言いようがない。

 

「そ、そう、ね。えーと、熟読の上で・・・その・・・要らない紙ならあなたの好きにしていいわ」

 

結局全部、紙飛行機にされて、部屋を飛び回らせた後に、紙飛行機は全て普通の炎に変わった暖炉に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

ハグリッドの小屋に向かって、ハーマイオニー、ハリー、ロン、ネビル、ジニー、ルーナが走る。

 

「君たちは来なくていいんだ!」

「ルーナとネビルを連れて帰れ、ジニー!」

 

ハリーとロンは叫ぶが、3人は頷かない。ネビルが「行くよ!」と叫んだ。

 

「静かにして!」

 

ハーマイオニーも、つい叫んでしまった。

 

蓮がアンブリッジを見張っているのだから、ハグリッドの小屋周辺が一番人の耳目を集めずに済む。そう思って、尋問官親衛隊に忘却術をかけて転がしたあと、一目散に駆け出したのだが、ネビルとジニーとルーナは想定外だった。

 

神秘部に行くと主張するハリーだが、いったいどうやって魔法省に行くつもりだろう。

 

ハグリッドの小屋の裏で、ハーマイオニーが膝に手をついて息を切らして尋ねると、ハリーは「考えてないのか?!」と喚き始めた。

 

「なっ・・・行く行くって騒いでるのはあなたよ?!」

「考えるのは君とレンの・・・」

「なにその人任せ!」

 

箒だ! とロンが叫んだ。「今ならハリーのファイアボルトを救出出来る! 箒がいい!」

 

「ロンドンまでどれだけの距離があると思ってるんだ!」

「で、でもフレッドとジョージは」

 

馬鹿ね、とジニーが醒めた声で割って入った。「箒でホグズミードまで飛んで、ホッグズヘッドでファイアウィスキーで乾杯。それから姿現しでダイアゴン横丁に行ったのよ」

 

「なんでおまえがそんなこと知ってるんだ」

「誰かさんと違って、大事なことはちゃーんとママと手紙で話しているからよ」

「ちょ、ちょ、ちょっと、待って。わかった。箒は無理。他の手段を考えましょう」

「暖炉だ! アンブリッジの部屋の暖炉だよ、ハーマイオニー! 煙突飛行粉もちゃんとあっただろ?!」

 

ハリーの言葉にハーマイオニーは首を振った。

 

「なんで! 今はレンが見張ってるから大丈夫だ!」

「そうじゃなくて、アンブリッジ以外にもホグワーツの暖炉を見張る人間はいるのよ、ハリー。エッジコム夫人とかいろいろ。魔法省が管理する移動ツールは避けるべきだわ」

「なんでだよ!」

 

あなたは! とハーマイオニーはハリーの顔に指をつきつけた。「厳重に守られた神秘部に不法に侵入するの!」

 

「あ・・・」

 

ハリーがしゅんとなった。

その時だった。ルーナが「ジニー、あれ持ってない?」と相変わらず夢見るような声を出した。

 

「あれ?」

「鼻血ヌルヌル・ヌガー」

「持ってるけど、なに?」

「あんたの兄さんに食べさせるんだ。さっきも鼻血出してたから、きっとたくさん出るよ」

 

おい、とロンが後ずさりした。「なにをする気だ?」

 

 

 

 

 

禁じられた森の近くからだろうか、セストラルの群れが飛び立って行った。

 

「たぶんあれだな」

 

そう呟くと、蓮はアンブリッジの抽斗から取り出した古臭い鍵束をパーバティに投げた。

 

「ハリーのファイアボルトもこの際だ。取り返そう。パーバティ、よろしく」

「ちょっと!」

「アンジェリーナたちに事情を話して協力してもらうといい。ピーブズにもわたくしからよろしくって」

 

レン、と肩に縋るスーザンに微笑んで「スーザンにもあまり見せたくないんだけど・・・やっぱり、見る?」と言うと、スーザンは「わたしに見せられないことはしないで欲しいの」と囁く。

まり見せたくないんだけど・・・やっぱり、見る?」と言うと、スーザンは「わたしに見せられないことはしないで欲しいの」と囁く。

 

パーバティは「スーザン、その調子よ! タラし込んで! すぐに戻ってくるわ!」と喚いて駆け出して行った。

 

人聞きの悪い、と呟いて、蓮は大きく伸びをした。

 

「どうしよっかなあ」

「レン、ハーマイオニーもパーバティも、もちろんわたしも同じ気持ちよ。あなたに後悔して欲しくないの」

「うん。今はまだそこまで考えてはいないんだ。一応、コレも先生だからさ、勉強になる情報を引き出したいだけなんだよね」

「それなら、もちろん付き合うわ」

 

蓮は苦笑した。

 

「スーザンは、将来の職業については、何を目標にしてる?」

「え、わ、わたし?」

「うん」

 

スーザンは困ったように「笑わないでね」と言った。

 

「笑ったりしないよ」

「・・・伯母と同じ仕事、って、もちろん部長なんかにはなれないのよ? ただ、法執行部の仕事をしたいとは思ってる」

「そっか。魔法省」

 

芋虫状のアンブリッジを睨んで、蓮はしばらく考えた。

 

「・・・じゃあ、汚い話だとは思うけど、アンブリッジの立身出世物語を一緒に聞こう? マダム・ボーンズにも役に立つかもしれない」

 

 

 

 

 

「ネビル! ルーナ! ヤバいこれ、気持ち悪いよ!」

「大丈夫だ、ハリー! 君はちゃんと乗れてるから、安心してそのままの姿勢を保つんだ!」

「何がどうそのままなのかもわかんないぜ!」

「ロン、君も大丈夫! 鼻血は?!」

「たぶん止まったはずだ! フレッドとジョージを信じるしかない!」

 

うるさくて仕方ないが、ハーマイオニーも見えないセストラルにしがみつくだけで精一杯だ。グレン・フィナンからロンドンまでの果てしない道のりを、透明な空飛ぶ馬に生身で乗って、無事に辿り着ける気がしない。

 

魔女の人生は実に過酷だ、とハーマイオニーは思った。出来ることなら、ちゃんとした飛行機で、コーヒーでも飲みながら優雅に空の旅は済ませたい。

 

しかし、その悪夢のような空路は長くは続かなかった。時間の感覚が麻痺していたのかもしれないが、シティから郊外の自宅に帰る車のヘッドライトが延々と列を成している時間帯であることは間違いない。

 

「なんて速いの・・・」

 

ハーマイオニーは思わず呟いた。

 

かくん、と揺れ、小さな悲鳴を上げてしまったが、これが着陸態勢に入ったからだということにすぐに気づくと、膝を締めて振り落とされないように努めた。

 

ケンジントン、バッキンガム・・・ホワイトホールだ。

 

「着くわよ!」

 

ハーマイオニーの声が誰かに届いたかはわからないが、皆次々に着陸していった。転がり落ちたのはロンだけだ。

 

そのロンを助け起こしながら、ハーマイオニーはハリーに「入り口は?」と鋭く尋ねた。

 

ハリーは辺りを見回し、壊れかけたような電話ボックスを見つけると「あれだ!」と駆け出した。

 

 

 

 

 

芋虫状のアンブリッジの縄を解いてやると、アンブリッジはすぐさま杖を振り上げた。

 

パシン!

 

そのアンブリッジを包むように、透明の球体を作る。

 

「何です、これは! 出しなさい!」

「やーなこった」

 

蓮は頭を捻って、水を呼んだ。

 

どうどうと音を立て、球体に水が溜まっていく。

 

「おやめなさい! 上級次官にこんな真似を!」

「ざーんねん。別に許されざる呪文なんか使ってないもんねー。真実薬なんかも使ってなーい」

 

アンブリッジのたるんだ顎でピタリと水を止める。

 

「尋問っていうのは、そんなことしなくたって出来るんだよ?」

 

球体を縮める。

 

「ひ、ひ、ひぃ! がぼぉ!」

 

広げる。

 

「ひ、な。なんてこと」

「さあ、始めよう。昔々あるところに、ハッフルパフを卒業したアンブリッジという貧しい青年がおりました」

 

スーザンが微かに眉を寄せた。

 

「だからスーザンには聞かせたくなかったんだ。ごめん」

 

しかし、スーザンは首を振る。「続けて、レン」

 

「うん。貧しいながらも実直だったアンブリッジ青年は、魔法省に入省しました。華やかな部署ではなかった。魔法ビル管理部。どちらかといえばブルーカラーのお仕事だけど、アンブリッジ青年はがんばって働いた。マグルの素敵なお嬢さんを射止めることもできた。魔法使いだと打ち明けて、正直でささやかな幸せな家庭を築きたかった。アンブリッジ青年はそのようにした。とーこーろーが」

 

蓮は首まで水に浸かったアンブリッジを見て、にこりと笑った。

 

「マグルの妻はそんなことを望んで魔法使いと結婚したわけじゃなかった。錬金術だ。魔法使いなら、ポンド紙幣を好きなだけ作り出せると思ってた。だろ?」

「し、し、知らないわ! あたくしは魔法戦士アンブリッジの末裔でがぶぅ!」

 

嘘は聞きたくない、と球体を緩めて、蓮は不快げに眉を寄せた。

 

「まあいいや。続けよう。妻と中身のそっくりな意地汚い娘、力弱いけど生真面目な長男。そして、魔法力のない次男。アンブリッジ青年は、彼なりに幸せだった。しかーし、妻は幸せじゃあなかった。魔法使いだというから結婚したのに、魔法ビル管理部? なんなのそれ? いつまで経っても貧しいままなのはどうしてかと思ったら! 一番下っ端の仕事しか出来ない男だったの?」

 

スーザンが頭を振り、蓮も嘆かわしいという風に頭を振った。

 

「魔法ビル管理部、別に悪くない。安定した仕事だ。毎日毎日、魔法省ビルに素敵な景色を映し出す仕事だよね。わたくしもママのオフィスで見たことあるよ、ニューヨークのマンハッタン気分になれた。スーザンは?」

「え、ええ。伯母のオフィスに行ったときに、何度か。キョートの景色だったり、エベレストの頂上だったりしたわ」

「うん、悪くない。見る分にはね。ねえ、アンブリッジ。そう思ったんだろ? あたくしのパパの仕事を、ふっかふかの椅子で眺める魔法使いや魔女。あたくしはあっち側に行きたい。パパみたいな魔法使いじゃイヤ。あたくしはあっち側、この景色をあくせく作る下っ端じゃなくて、ふっかふかの椅子でふんぞり返ってこの景色を眺める側に行きたいの! そうは思わなかった?」

 

思ったわよ! と金切声が聞こえた。

 

にしし、と蓮は笑った。「悔しいだろ、アンブリッジ。目の前にいる2人は、ホグワーツを卒業してもいないうちに、魔法法執行部の部長室や副部長室のふっかふかの椅子でランチを食べるような贅沢な奴らだ。マンハッタン、キョート、エベレストの景色を楽しみながらね」

 

「ええ! ええ! 生意気なガキどもばかり! うんざりするわ!」

「その生意気なガキから質問があるんだ。なぜ母親の存在を否定する?」

「そ、そんなこと! そんなことしていないことがぶぉ!」

 

此の期に及んで嘘は要らない、と蓮は目を眇めた。「つくならもっとそれらしく嘘をついて欲しい。質問の仕方を変える。なぜハッフルパフの卒業生である父親を持ちながら、あなたがそんなに純血にこだわるのかを知りたい。家族を愛する実直な青年アンブリッジ。彼が純血主義者だったはずがない。なにしろマグルの妻を選んだんだからね。離婚は不幸な成り行きだけど、夫の職業や収入に不満が募っての離婚は珍しいことでもない。スリザリンだから? 違うよね。入学前からすでにあなたには野心があって、純血に擦り寄りたかった。だからスリザリンに組分けされたんだろう。その理由が知りたい」

 

はぁ、はぁ、はぁ、と息を荒げ、カールをなくした髪をべたりと顔に張り付けて、アンブリッジは蓮を睨んだ。

 

「そのマグルの母親があんたと同じ淫売だったからよ!」

 

スーザンが口を覆った。

 

そっか、と蓮は頷いた。「わたくしと同じということは、特定のボーイフレンドがいたということ?」

 

「馬鹿じゃないの? そういうのは淫売とは言わないわ! 複数、不特定多数。末の弟だって、父親が誰だかわかるもんですか」

「なるほどね・・・金を貰ってた?」

「貰ってたわよ! そしてあたくしに、パパの稼ぎが悪いからこんなことをしなきゃいけないだなんてね!」

 

スーザンが震える声を出した。

 

「・・・そんなお母さまだったことはお気の毒に思います。でも、その分、お父さまとの絆が深まったりは、しないものですか? どうして、お母さまと同じように、お父さまのお仕事を否定なさるの?」

 

ギョッとしたようにアンブリッジはスーザンを見た。

 

「教えてください」

「・・・父親との絆?」

「ええ。お父さまはあなたと弟さんをひとりでお育てになったのでしょう? そのお父さまの助けになろうとは」

「助けたに決まってるでしょう! あたくしが魔法省に入省するとすぐに父を退職させましたから、その後の生活の面倒はすべてあたくしが」

「退職? なぜですか?」

「魔法戦士アンブリッジの末裔として名を残すはずのあたくしにビル管理部のアンブリッジなど必要ないのです!」

「・・・魔法戦士アンブリッジは一生独身で、嫡子はいませんでした」

 

スーザンが悲しげに頭を振った。

 

「そんな幻想のために、お父さまからお仕事を奪うのは身勝手だと思います」

 

ぱちぱちぱちぱち、と蓮が手を叩いた。

 

「さすがスーザンだ。次に、あなたの弟について聞きたい」

「レン・・・それは・・・無理しないで」

「ありがとう、大丈夫だよ。アンブリッジ、あなたは弟を愛してた?」

「もちろん」

 

蓮は「漠然とした質問だったね。アズカバンに面会には?」と質問を変えた。

球体の中のアンブリッジは、考えてもみなかったというようにぱちぱちと瞬きをする。

 

「母親は、あなた自身の表現によれば淫売だった。魔法力のない末の息子だけを引き取り、魔法力のあるドローレスとキリアンは父親の養育下で育った。今スーザンに答えた内容から察するに、あなたは父親に対しても高い評価はしていなかった。ホグワーツを卒業するまではともかく、魔法省に入省したらむしろ魔法ビル管理部で働く父親の存在を邪魔に感じた。弟キリアンは、あなたにとって唯一、弟と認めてもいい範囲の弟だったんじゃないかな。なにしろ闇祓いだ。そんな弟が不幸なことにアズカバンに収監されたんだ。愛してるなら裁判のやり直しを求めたり、ああ、亡くなったクラウチでさえ、息子の面会にアズカバンを訪ねている。あなたは?」

 

アンブリッジは質問の意図がわからないらしく、ただ目をぱちぱちと瞬いているだけだ。

 

「そもそも国際魔法協力部で入省した弟をなぜ闇祓いにしたの?」

「あた、あたくしの弟なのですからそのぐらいは」

「あなたの弟らしい功績は?」

 

なかったわ! とアンブリッジが叫んだ。「成績だけは良かったけど、父親と同じウスノロ。闇祓いになったって、マッド・アイやキングズリーの言うままの使い走り。だからあたくし、あたくしは」

 

うん、と蓮が俯きがちに頷いた。

 

「聖マンゴの癒者から聞き出してやった。闇祓いのロングボトムが意識を完全に失う前に、闇祓いのウィンストンに何か喋ったってね! それなのに!」

 

スーザンの手が蓮の右手首を押さえた。蓮は苦笑して「大丈夫。何もしないよ」と応じた。

 

「それなのに、捜査手順を間違った挙句にパニックに駆られてウィンストンを殺してしまった。そう言いたいのかな」


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