サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第32章 もうひとつの予言

ガシャーン! とドロメダの背後の何かの時計たちが壊れた。

 

「忌々しい妹め!」

「そもそもあなたの妹になど生まれたくて生まれたわけではないわ」

 

素早くあちこちに盾を動かしながら、ドロメダは狂った姉から目を離さない。

 

「いつもいつも澄ました顔をして、父さまや母さまを独占していた!」

「あなたと違ってワガママを言わない人形のような娘だったからよ」

 

パパンパァン! とまた何かの時計が砕け散った。

 

「在学中にそこの娘を孕むようなふしだらな妹!」

「成人までは待ったわ。ちょっと計算を間違っただけ」

「リーマスの前でやめてよママ」

 

ニンファドーラの声が非常に気になることを発したが、今はそれどころではない。

 

「おまえがいたからあたしはますます闇の帝王の御為に働かねばならぬと決めた!」

「人のせいにしないで。男の趣味が最低なのはわたくしのせいではないわ」

「姉妹喧嘩をしてる場合じゃないのよ!」

 

怜にブラウスの背中を引っ張られた。

 

「子供たちは少しずつ扉に移動しているわ」

 

怜が囁く。ドロメダは頷いて、ベラの足元にいくつかの爆発を起こして退がった。

 

「クルーシオ!」

 

パァン! と光線を弾いたのは怜だ。

 

「相変わらずの狂犬ぶりね、ベラ」

「邪魔をするな!」

「せっかく邪魔しに来たんだから、そう邪険にしないでくださらない?」

 

チュンチュンチュン! と鋭い音で魔法が交わされる。

 

すっげ、と呟くアリスの息子を背中に庇い「モリーの娘は近くにいるわね?」と確かめた。「は、はい。ジニーもいます」

 

「あのおばさまが元気なうちに出来るだけ入り口まで退くわよ。あの杖じゃ、たぶん長くは保たないわ」

 

ひとかたまりになった子供たちがジリジリと退いていく。

 

「ところで! 何しに脱獄したわけ? 弁護人に黙って」

「やかましい!」

「いまさらヴォルデモートの子作り再開?」

「うるさいうるさいうるさい!」

「悪いこと言わないからやめたほうがいいわ。子供が出来なかったのはあなたの責任じゃない」

 

ベラが目を剥いた。

 

「ウィンストン家だけが知る情報でね。ヴォルデモートは子供が作れる身体じゃない可能性が高いの、よ!」

 

バァン! とベラの近くの壁が爆発した。

 

怜が退がり、ハーマイオニーとルーナを背にしてジリジリと退がる。

 

「今の身体ならなおさら不可能に近いわ」

 

額から血を流したベラが「無礼を言うな! クルーシオ!」と磔の呪文を放った。

 

バンッ! と巨大な盾が広がり、自分の放った渾身の磔の呪文を受けてベラトリクスが転げ回った。

 

 

 

 

 

「時」の間を出たハリーとロンは「呼吸を整えろ」とシリウスに言われ、深呼吸をした。

 

「エレベーターまでの退路を確保するのが仕事だ。出来るね?」

「は、はい」

 

周りを見回す。「エレベーターは」

 

「あの2つのフラグレートが目印だ。出来るだけ敵を『時』の間に閉じ込めた状態にしたい。レイとドロメダが一番厄介な奴を引き受けてくれたから、特にあいつだけは死ぬまで出したくないな」

「シリウス、大丈夫なの?」

「ん? ああ、レイとドロメダならベラを食い止められる」

 

キングズリーが扉を警戒しながら「ベラトリクスを逆上させるのにあの2人ほどの人材はなかなかいない」と付け加えた。

 

「じゃなくて、予言」

「ハリー、私は君のゴッドファーザー、つまり名を預かる者だ。君の名に関わることならたいていのことが出来る」

 

「なるほどな」背筋の凍るような冷たい声に、ハリーは反射的に杖を向けた

 

「おかしな組み合わせで騎士団員が現れたと思ったらそういう趣向だったか」

「うむ。そういう趣向だ」

 

シリウスは胸を張った。

 

「おじさん!」

「予言を渡せ。インペリオ!」

 

おっと、とキングズリーがそれを弾いた。

 

 

 

 

 

ハーマイオニーは震える膝を叱咤して、ルーナと互いに身体を寄せ合いながら、ジリっと退却を続けている。

 

「ステューピファイ!」

 

死喰い人の胸に命中した。釣鐘の中ではまだ死喰い人が再生を繰り返している。

 

「インペディメンタ!」

 

ルーナもいつになく力強い声で死喰い人の接近を妨げた。

 

「ステューピフぃ、ステューピフぃ」

 

発音が違うわ、と言いかけて振り向くと、ネビルの鼻からダラダラと鼻血が流れている。乱闘で鼻の骨を折ったのかもしれない。

 

「ネビル、こんな時こそ無言呪文よ。DAの成果を見せて」

「わがった」

 

ネビルはグッと死喰い人を睨んだ。

 

「ロングボトムの息子は劣等生だと聞いている。さっさと片付けろ」

 

そうせせら笑った死喰い人の胸を、唇を一文字に結んだネビルの失神呪文が直撃した。

 

「素晴らしいわ、ネビル。アリスに見せてあげたい。今の杖捌きはアリスそっくりよ」

 

ドロメダの言葉にネビルが「ぞうだど?」と目を丸くした。

 

 

 

 

 

「哀れなただの道具。お姉さま、同情はしないけれど、出来るだけ関わりたくなかったわ」

 

キュキュ、と足を捌いて呪いを避け「セクタムセンプラ!」と叫んだ。ベラトリクスから、血が噴き出す。

 

「きさま、きさまああああああ!」

 

怜は「相変わらず容赦がない」と呟いてハーマイオニーの身体を扉に向かって押した。「もうひと息よ、ハーマイオニー」

 

「は、はい!」

「ベラ、今度はわたくしがお相手するわ」

「2人がかりか! 汚い輩ども!」

「あなたも早く帰ってシャワーを浴びたほうがいいわよ」

 

パパパパパン! と連続して爆破を起こし、ベラトリクスの視界を乱すと、ハーマイオニーとルーナを押し出し、閉じた扉に「コロポータス」と呪文をかけた。

 

ハーマイオニーは素早く死喰い人の数を数える。

ルシウス・マルフォイを筆頭に、7人だ。

 

ゴクリと息を呑んだ。

 

その全員がシリウスを狙っている。

 

「さあ奪えばいい」

 

シリウスは左手に予言の球を掲げ、右手で油断なく杖を構えている。

 

ハリーとロンはキングズリーの背後に、ネビルとジニーはドロメダの背後に、そしてハーマイオニーとルーナは怜の背後にいて、それぞれ杖を構えている。

 

「それを寄越せ。寄越せば悪くはしない。我々の目的は予言そのものだ」

 

うぎゃあああああ、と「時」の間の扉の向こうでヒステリックな叫びが聞こえる。

 

「マルフォイ、私はそれを信じるほどピュアではないぞ。なにしろ君と違ってアズカバン帰りだ」

 

そのシリウスの背後に死喰い人が近付こうとしている。ハーマイオニーは迷わず失神呪文を無言で放った。

 

「ハリー! エレベーターを呼べ!」

 

キングズリーが叫び、シリウスは素早く失神した死喰い人を越えて退却路に入る。

 

ヒュンヒュンヒュンヒュン! と呪いの飛び交う中を、ルーナと手を繋いで、姿勢を低くして走った。ハリーとロンがエレベーターのボタンをがんがんと叩いている。

 

「全員いるわね?!」

 

子供たちを背にして、ドロメダが確認する。ハーマイオニーが素早く数え「子供は全員います!」と叫んだ。今度は怜が「セクタムセンプラ!」と手近な死喰い人を血まみれにする。

ルーピン先生が「あの呪いは真似しないように」と呟いて、近寄ってきた死喰い人を失神させた。「あの2人が開発した闇ギリギリの呪いだ。癒し方を知る者が極めて少ない」

 

「シリウス! 退け!」

「わかった!」

 

その時だった。キングズリーを狙った呪いが、シリウスの左手の予言を打ち砕いた

 

ガタンゴトン、と音を立ててエレベーターが止まる。

 

割れた球から出た靄は語り始めた。

 

闇の帝王を打ち破る力を持った者が近づいている

7つ目の月が死ぬとき、帝王に三度抗った者たちに生まれ

 

「早く乗れ!」シリウスとキングズリーが全員を押し込むと、怜がバシュっと扉を堅く閉ざした。

 

「アトリウムだ、誰かボタンを!」

 

来るときの電話ボックスのようなぎゅうぎゅう詰めだ。ルーナが身をよじってジニーの指示に従ってボタンを押した。

 

ガタンゴトン、とエレベーターが動き始めた。

 

「アトリウムに出たら中央のオブジェから右に走れ。煙突飛行ネットワークの暖炉がいくらでもある。それでホグワーツに帰るんだ」

「わ、わかった。でもシリウスおじさん、予言が無くなってもいいの?」

「問題ない」

 

ハリー、とハーマイオニーの顔を胸で受け止めた怜が「予言はね、ちゃんと聞いた人がいるの。その人から記憶の糸を貸してもらえばいつでも聞けるわ。予言より命よ」と囁いた。心臓の鼓動が早過ぎる。魔力を使い過ぎた時の症状だ。

 

「おばさま、大丈夫ですか?」

「今はまだ。うちの子、こんな杖を使ってよく平気でいられるわね。古代魔法レベルの魔力消費よ」

「・・・ご自分の杖は」

 

小さな溜息をついて「急なことだったから忘れてきたの」と呟いた。

 

「おばさま、ご無理なさらないでください。あとはわたしが」

 

ルーピン先生が「最新型の車よりクラシックカーのほうが優れた部分もある」とハーマイオニーにウィンクした。「そこの『おばさま』同様、我々も息切れしがちだが経験だけは豊富なんだ。さあ着くぞ。アトリウム中央から右だ」

 

 

 

 

 

弾き出されたようにエレベーターから溢れ出し、いっせいにアトリウム中央の「同胞の泉」に走った。一番に同胞の泉に着いたハリーが「右だ! 右に走れ! ロン、ネビル! ルーナとジニーを引っ張って走ってくれ!」と叫んだ。

 

「わかった!」

「ハリー、あなたも早く!」

 

僕は最後だ、とハリーが複雑な顔でハーマイオニーを見た。「責任がある」

 

「ハリー、馬鹿なこと言わないで」

「君とレンの言うことを真面目に聞いてたらこんなことにはなってない」

 

後悔は学校に帰ってからになさい! と怜が怒鳴った。「早く走って!」

 

「でもおばさん!」

 

上から来る、と怜が呟き、杖を向けた。シリウス、ルーピン、キングズリー、トンクス、ドロメダが同じように構えた。

 

激しい爆発音と共に広いアトリウムにガラス片が降り注いだ。

 

「ヴォルデモート!」

「逃げなさい!」

 

怜が叫んで、ヴォルデモートの前に飛び出した。

 

「・・・俺様の計画を挫くのは常にその顔だな」

「ご愁傷様。母と娘が度々失礼なことをして本当に申し訳なく思っているわ。今日はパンツをはいてきたかしら」

「・・・貴様も無礼だな」

「遺伝ですの」

 

柱の影にハリーを引っ張り込んで様子を窺う。ハリーは額の傷を押さえた。

 

「痛むの?」

「ああ。予言が手に入らなかったことが僕から伝わったんだ、ブチ切れてる・・・でも、レンの予言のことをおばさんから聞き出したい、たぶん」

 

ハーマイオニーはハリーに「目を閉じて」と囁いた。「ハーマイオニー?」

 

「ハーマイオニー・グレンジャー直伝の開心術よ。少しでもおばさまを楽に出来るかも」

「目を閉じるんだね?」

「そうよ。『予言』の間を思い出して。わたしの言う通りのことをイメージするのよ。96と97の棚の数字をまず思い浮かべるの」

「ああ。薄暗くて、青白い蝋燭。みんなで不安に駆られて歩いてた」

「96の棚は空っぽ」

「・・・空っぽ」

「ラベルにはカスバートのC、ビンズのB。C.BからA.P.W.B.Dへ、改行して、東と西を統べる女王、改行して、レン・エリザベス・ウォレン・ウィンストン」

 

小さく何度もハリーは頷いた。「C.BからA.P.W.B.Dへ、東と西を統べる女王、レン・エリザベス・ウォレン? ウォレン・ウィンストン」

 

「おばさまは『盗まれたわ』と言うと、わたしたちを促して走り出す。ハリー、いいわね? 顔を思い浮かべて。ダンブルドアの顔を。盗んだのはダンブルドアよ」

 

ハリーは目を閉じたまま首を振る。「ハーマイオニー、それは」

 

「ダンブルドアの顔よ! 言う通りにして!」

 

 

 

 

 

「ぬあああああああ! ダンブルドアめまたしても!」

 

怜は目を見開いた。

 

ヴォルデモートに何が起こっているかわからない。

 

しかし、斜め後ろからシリウスが「そうだ、ダンブルドアがやった!」と叫んだ。ルーピンも「さすがダンブルドアだ。鮮やかにやってくれた!」と叫ぶ。

 

そこへ死喰い人たちが「追え、ガキどもと騎士団、二手に分かれて追うのだ!」と喚きながらエレベーターから駆け出してきた。先頭はルシウス・マルフォイだ。

 

「・・・ルシウス」

「・・・我が君」

 

マルフォイが足を止めた。

 

「貴様はまたしてもしくじった」

「我が君、それは!」

「言い訳は聞かぬ!」

 

マルフォイがその場に打ち倒された。その身体をさらに鞭打つように、繰り返し磔の呪文が叩きつけられる。怜は嫌悪に顔を歪めた。

 

「ああああああ、我が君、我が君、お許しください。あたしはやりました。精一杯にやったのです!」

 

ヴォルデモートの足元に血塗れのまま、ベラトリクスが倒れ伏した。

 

その時だった。

 

不死鳥の鳴く豊かな旋律がアトリウムに響き渡った。怜の隣にシュン! と誰かが姿現しをしてくる。

 

「お母さま・・・」

「その杖をお貸しなさい。あとはダンブルドアとわたくしに任せて」

 

杖を渡した瞬間にアトリウムを激しい風が吹き荒れる。

 

「貴様ああああああああ!」

「ずいぶんと不細工になったわね、トム」

「我が名はヴォルデモート卿! 忌々しい名で呼ぶな!」

「残念ながらトム、わたくしはたかが闇の魔法使いごときに敬称をつけて呼ぶ資格がないの。むしろあなたから閣下と呼んでいただかなくてはいけないぐらいだわ」

 

挑発はやめるのじゃ、と言いながらダンブルドアが舞い降りた。

 

 

 

 

 

「おばさま!」

「おばさん!」

 

今日だけで何回おばさんと呼ばれたかしら、と笑って怜がハリーとハーマイオニーの背中を押した。

 

「さ、学校に帰るわよ」

 

 

 

 

 

ハーマイオニーがアンブリッジの暖炉から転がり出ると、仁王立ちのマクゴナガル先生が待っていた。

 

「わぷっ! ハーマイオニー、邪魔だ! ・・・って、先生?!」

「ポッター、あなたはさっさとベッドに行きなさい。グレンジャー、あなたはここでお待ちなさい」

「・・・はい」

 

しおしおとハリーが部屋を出て行く。ハーマイオニーは壁際に直立不動で、怜が出てくるのを待った。

 

エメラルド色の炎が舞い上がり、優雅に怜が暖炉から姿を現すと、マクゴナガル先生が「これで最後ですね」と言いながら、暖炉の前の灰を杖のひと振りで綺麗にした。

 

「怜、明日、アメリアが来校します。蓮の懲戒尋問を設定しました。あなたは保護者として付き添いなさい。特別に今夜はグリフィンドールの女子寮に宿泊することを認めます。グレンジャー」

「は、はい!」

「ウィンストンの母親をあなたがたの部屋に案内し、ウィンストンに会わせなさい。その後、あなたは監督生の浴室でその汚れを落としなさい。怜にはあなたがたの部屋のバスルームを使わせた方が良いでしょう。さっぱりしたなら、あなたがたの『小さな友人』に頼んで夜食をお出ししなさい。今はウィンストンにパチルがついていますが、アルジャーノン化していますから、もう眠ったかもしれません」

 

はい、と返事をして「あの・・・アンブリッジ先生は?」と尋ねると、マクゴナガル先生は、ふふん、と鼻で笑った。

 

「目が覚めてすぐは上級次官がどうしたこうしたと騒いでウィンストンにディメンターを差し向けようとしましたが、丁寧に状況を説明して差し上げたところ、自ら校長を辞して、今はたいへんおとなしく医務室に縛られております」

「はあ・・・状況を・・・」

「スネイプ先生が真実薬の提供にまつわる非常に緻密な証拠を得ておられましたのでね。適正な用法・用量を説明した書面にアンブリッジの直筆サインがあります。また、マダム・ポンフリーがクリスマスホリディに校癒としてウィンストンの血液検査を行ないましたが、同じ血液サンプルを聖マンゴに送り第三者による検査もしてあります。いずれにも高い証拠能力が認められます。もちろんウィンストンが凶行に用いたアンブリッジ先生の杖は重要な証拠品として厳重に保管してありますから、アンブリッジ先生がいかなる高度な魔法を校内でご使用になったかも確定できます。上級次官でいたければいて構いませんが、わたくしならば注目を浴びない閑職への異動を希望したくなる状況ですね」

 

また、ふふん、と鼻で笑った。

 

怜に向き直り、マクゴナガル先生は「あの子は現在、精神年齢が6歳前後と思われます」と告げた。

怜は頷き「アメリアの姪御さんからもお手紙をいただいています」と言った。

 

「では心の準備は出来ているのですね。本人は、ディメンターのキスを覚悟しています」

「それは・・・」

「最悪の場合、ということです。様々に説明はしましたが、悪いことをしたから罰は受ける、というシンプルな主張は変わりません。わたくしもパチルも、アメリアの姪も説明したので、いくら許されざる呪文を行使したとはいえ、致命的な結果には至っていないこと、長期間に渡る精神的苦痛、真実薬の過剰投与のむしろ被害者であるという認識には達しました。あとは、あなたが母親として、懲戒尋問に対する注意事項を説明してやれば良いでしょう」

「はい。ありがとうございます」

 

ちょっと待ってください、とハーマイオニーが割り込んだ。「何をしたかは大体わかりましたけど、どうしてレンが被告人なんですか、納得いきません。罰を受けるのはアンブリッジのほうです」

 

「いいのよ、ハーマイオニー。その方がいいの」

「だっておばさま!」

「今のあの子に裁判は無理なの。むしろ懲戒尋問で自分に対する罰を与えられて、後遺症から回復する時間をもらえることの方が大事よ」

「アンブリッジを野放しにするんですか?!」

 

グレンジャー、とマクゴナガル先生が溜息をついた。

 

「はい」

「アンブリッジにとって、この野放しは福音などではありませんよ」

「そんな」

「単なる執行猶予です。それに怜、あなたは裁判で全てを明らかにしたいですか? 相応の時間を費やして」

 

怜は晴れやかに微笑んだ。

 

「その必要は感じませんわ、ミネルヴァおばさま。わたくしは、今度こそ裁判などより娘と過ごす時間を取ります」


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