サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第34章 ランズ・エンド岬

広い駐車場に真新しい最新型のジャガーが静かに停まり、蓮はドアを開けた。

 

「風が強いわ。気をつけなさい」

「わかってる」

 

母と並んで岬の突端に立つ。

 

「これでジョン・オ・グローツ・トゥ・ランズ・エンドだ。ブリテン島を制覇した」

 

両手を広げて自慢すると、母がクスっと笑い、蓮を背中からハグしてくれた。

 

「明日の飛行機でニューヨークに行くけれど、お利口にできるかしら?」

「たぶんね。グランパとグラニーの家に泊まるの?」

「あちらは大魔法使いとしての社交のために、れっきとした英国魔法族風の屋敷なの。あなたがうっかり魔力を使わないように、マグルのホテルに泊まることにしたわ。グランパもグラニーも、もちろんおばあさまも会いに来てくれる。おばあさまが口を滑らせてしまっていたら、例のおじいさまもいるかもしれない」

 

にしし、と蓮は笑った。

 

「グランパは国連の英国大魔法使いだなんて面倒だ! って言ってそうだけど、グラニーは大喜びだよね。ニューヨークだったら、イングランド料理なんかじゃなく人間の食べ物がたくさんあるから」

「ずいぶん以前からダンブルドアはグランパに後を任せたがっていたの。でも・・・クラウチが国際魔法協力部の部長だった間はお嫌だったのよ」

「アンブリッジだったらもっと嫌なんじゃない?」

 

母は風に乱れた蓮の髪を整えた。

 

「ママ。ぴったり撫でつけちゃダメだ。少しくしゃくしゃのほうがかっこいいんだよ。箒から降りたばかりみたいなのが」

「そろそろ髪を伸ばしたら? それはともかく、アンブリッジを国際魔法協力部の部長に押し込んだから、逆に諦めがついたというか・・・アンブリッジに実権を握らせないためには、グランパが国際関係を取り仕切るほうが良いということで納得なさったの。どこだかの最高大魔女が強制的に納得させたとも言うけれど。グラニーもね、グランパが杖を握ってアンブリッジを・・・成敗しに行くのを止めるよりも、ニューヨークで人間の食べ物を食べる生活の方がいいそうだから」

 

それと、と母は「イルヴァーモーニーを見学させてもらうことになってる」と蓮の耳に囁いた。

 

蓮は黙った。

 

「イギリスが嫌になったのなら、アメリカの魔法学校に編入しても構わないわ。ニュート・スキャマンダーの奥さまの母校よ。今ならグランパもおばあさまもアメリカだし、お母さまも無職だから、家族でアメリカに暮らすにはちょうどいい。あの親父だけブルガリアだけれど、それは別に構わないし。どうする?」

 

蓮は首を振った。

 

「ママのロンドンの弁護士事務所は?」

「危険だから閉鎖したわ。もちろんグレンジャー・デンタル・クリニックの顧問は辞めていない。そういう、個人的なお付き合いのあるクライアント以外は大学時代の友人にあとをお願いして、事務所を構えるのはやめたの。マグルのパラリーガルたちに被害が及んではいけないから。アメリカに行くなら、あなたがイルヴァーモーニーに行くように、ママもアメリカのロースクールに聴講に行って、あちらでも弁護士資格を取ろうかしら」

 

ハーマイオニー並みに野心家だ、と蓮はぶつぶつ言った。「パパはなんでこんなガリ勉が良かったんだろう」

 

「本当ね。ママもたまに不思議よ」

「チェルシーの家もティンタジェルの家も貝殻の家もあるのに、みんなでアメリカに移住?」

「チェルシーの家はずっとマグル仕様だもの。改装したばかりだし、売りに出して問題ない。貝殻の家は・・・グラニーの意向でフラーにあげることになってる」

「フラーに?」

「まだお仕事を続けているけれど、今度会ったら直接聞いてごらんなさい。ハンサムなボーイフレンドと婚約したわ」

「誰? まさか、ハンサムなゴブリン?」

 

母が声を上げて笑い出した。

 

「本当にパパにそっくりなセンスね。残念ながらゴブリンじゃないわ。人間よ」

 

楽しみだ、と蓮は笑って言った。

 

「イルヴァーモーニーを見学はするよ。よその魔法学校を見学するチャンスは滅多にない。でも、時間はかかってもホグワーツを卒業したい」

「そう。ね、蓮、あなたは本当にアルジャーノンなの?」

 

蓮は首を捻って母を見た。「どうして?」

 

「6歳にしてはとても賢いから。不思議なぐらいよ」

「マダム・ポンフリーが言うには、知力には影響してないって」

「・・・ジョージのことは今はどう思っているの?」

「もちろん嫌いじゃない。パパと同じぐらい好きだよ」

「パパより好きだとは?」

「わかんない」

「じゃあねえ・・・パパがもしまだ元気でいて、ジョージに23回の磔の呪文をかけたらどうする?」

「ジョージに仕返しがんばれよって言う」

「・・・6歳ね」

 

母が溜息をついて、少し笑った。

 

「ジョージががんばってくれることを期待しましょう。たぶんそれがジョージへの課題だわ。パパからの」

 

母の手にちょっと引かれて、岬の突端を後にした。

 

「課題?」

「そう。おばあさまと結婚するために、おじいさまは真実薬の拷問に耐えた。ママと結婚するために、パパは磔の呪文の拷問に耐えた。ジョージには、アルジャーノン問題という難関があるみたいね」

 

それを聞き流して蓮は「空飛ぶジャガーが無くなったのは残念だな」と唇を尖らせた。

 

「ママもあなたと一緒にお利口にすることにしたの」

「魔法をかけた車なんか売って平気?」

「フラメルのおじいさまがちゃんと分解したから平気。下取りに出したわけじゃないの、部品をフラメルのおじいさまにあげたのよ。今頃何かまた変な発明に夢中になっているわ」

 

 

 

 

 

おぉう、とアトリウムの真ん中で蓮は声を上げ、母は溜息をついた。

 

「お母さまったら、こんなに大きく顔を晒してよく平気でいられるわね」

 

母は顔をしかめた。

 

「平気じゃないけれど、これが欧米人のセンスだもの、仕方ないでしょう」

「ばあば!」

「・・・話には聞いていたけれど・・・完璧なうちの孫ね」

 

祖母が頭を振って「お利口にしてる?」と蓮に尋ねた。

 

蓮は頷いて「停学中なのに、ミネルヴァがわざわざ出発前に課題をフクロウで送ってきたんだ。ばあば、なんとか言ってよ」と訴えたが「課題をこなす頭脳に問題がないという診断が出たのは知っているわ。きちんとお勉強なさい」と一刀両断した。「それから、その服。なんとかならないの? 一応ここの最高大魔女と同じ顔なんだから、バックパッカーみたいな格好はやめて、ジャケットぐらいは」

 

「べーだ。そんな皺なんかないし。いてててて!」

「悪いことを言うお口の存在は許した覚えがありません」

「お母さま、最高大魔女とやらがアトリウムで孫とじゃれていていいの? ただでさえ年齢違いの同じ顔が3つも揃っていると注目を浴びているのよ」

「注目させておけばいいわ。もっと騒がしい人が嫁を探しに度々来るのだから。ダンブルドアと違って威厳の足りない最高大魔女だとすでに有名よ。わたくしはもう威厳に関しては諦めているの」

「いてててって! ばあば! 顔が伸びる!」

 

おお! とアトリウムの奥から声が聞こえた。

 

「グランパだ!」

「蓮! よく来た! サマーホリディより先に会えて嬉しいよ!」

「グランパ、ばあばを止めて」

 

わしわしと頭を撫でられて蓮が唇を尖らせると「柊子には逆らえないのだ」とグランパが口角を下げた。「イギリスの内政が安定しない限り、ここではグランパも肩身が狭くてならない。家に帰るとクロエが度々フランスの大魔女夫妻を招いているし、グランパはストレスでどうにかなりそうだよ」

 

「自業自得よ」

 

グランパはこっそりと蓮の耳に囁いた。「学生時代に柊子にブラッジャーを叩きつけておいてやれば良かったと日々思っている」

 

蓮は思い出した。

 

「そうだ、グランパ。ついにやられた」

「む?」

「レイブンクローとの試合中に、ビーターのジャック・スローパーの叩いたブラッジャーで肩の骨をやられたんだ」

「レイブンクローにか! よくもレイブンクローめ!」

「レイブンクローにしては出来たビーターがいるのね」

「ううん。ジャック・スローパーはグリフィンドールのビーターだよ」

 

祖母とグランパが「冗談だろう・・・」「自分たちのチェイサーを?」と揃って絶望的に頭を振った。

 

 

 

 

 

祖母の筆頭秘書官だという魔女は、ネイティヴ・アメリカンの血を引く、なんだか厳しそうな女性だった。

 

「本来ならばイルヴァーモーニーはノー・マジや外国の魔法族に察知されないように魔法で堅く守られています」

「まるでエリア」

「もちろんそうでしょうね。アメリカの魔法族機密保持は極めて厳格に運用されていると伺っておりますわ」

 

蓮が「まるでエリア51並みに厳重なんだろうね。グレイを何人隠してる?」と言おうとしたら母に遮られた。どうやらジョークは禁止らしい。

 

「世界最高の魔法学校ですから」

 

ジョーク禁止の学校は世界最高とは言えない、と思って蓮は唇を尖らせた。ちなみにホグワーツはジョークで出来たお城だ。

 

「蓮? パパによく似たお口の滑らかさを今日は我慢してね」

「アイ・アイ・キャプテン」

 

 

 

 

 

「ピレニアン・マウンテン・ドッグに変身出来るのは間違いなくデラクール家の影響でしょうね。そうでしょう、クロエ?」

 

フランスの大魔女はそう言って大仰にグラニーを振り返った。

 

「そうだと思うわ。夫はリセット・ド・ラパンの血がウィンストン家に流れていると言うけれど、ウサギではないのですからね」

「ピレネー山麓のルルドにボーバトンの男子部があるの。デラクール家の男性は確か皆さんそちらのご出身だわ」

「人間の形をしている範囲ではね。父も兄もそう。たぶんピレニアン・マウンテン・ドッグにお尻を噛まれた経験なら、みんなにあるわ」

 

クロエが大真面目に言った。

 

「・・・人間の形をしている範囲?」

「尻尾ぐらいは誰かに生えていたかもしれないわね」

 

ママ、と蓮は途方に暮れた。「今夜はジョークが多過ぎる」

 

バァン! と玄関の扉が開け放たれた。母が蓮の肩を抱き寄せ「世界最大級の歩くジョークが到着したわ」と囁いた。

 

「蓮! うちの孫はどこだ! 卑怯だぞ、ウィリアム! 儂に黙って!」

 

喚き声に思わず蓮は「あのじいじの血はママのどこらへんに流れてるの?」と呟き、遠い目をした母は「たぶん尻尾の先あたりに」と答えた。

 

 

 

 

 

ハーマイオニーやハリー、ロン、パーバティにスーザン。みんなに買ったお土産で膨らんだスーツケースをよいしょと新しいベッドに持ち上げると、その隣にばたんと倒れた。

 

新しい木の香りや、壁紙の接着剤や塗料の匂いが抜けていないが、チェルシーの家だ。

 

「よっ」

 

ドーラお姉ちゃん、と声を出すと、ドーラが身体の後ろから箱を覗かせた。

 

「リーマスとあたしから。新しいプレイステーションだよ」

 

うわお、と蓮は跳ね起きた。

 

ドーラの背後にルーピン先生が苦笑して立っている。

 

「ルーピン先生? ん? リーマス?」

「フルネーム知らない? リーマス・ジョン・ルーピンだったでしょ。満月以外はあたしとしばらく護衛につくことになる」

 

蓮はドーラと「リーマス」を見比べた。ふんふんふん、と匂いを嗅いでみる。

 

「なにやってんの」

「ドーラお姉ちゃんの匂いが違う」

 

ドーラが箱をベッドに置いて「ママにくっついて過ごすことで、情緒的に急成長してるようでなにより」と蓮の額を弾いた。

 

ルーピン先生が「今はそんな話をする時じゃない。いいかい、レン」と部屋に入ってきた。

 

「なに?」

「ママから聞いたね。魔法省での事件について」

「うん」

「ヴォルデモートはハリーの予言と同様、君の予言にも強い関心を示した」

「うん」

「幸い、予言の全容はまだ知られていないが、ハリーと君には違いがある」

「ハリーのことはやっつける。わたくしのことは、仲間にしようとする」

 

その通りだ、とルーピン先生は頷いた。「幸い、君は母上と仲直りすることが出来た」

 

「そんなの関係ないよ」

 

蓮が言うと、ルーピン先生は驚いたように目を瞠った。

 

「ママと仲直りしたから、ママのお友達を選ぶわけじゃない。本当に正しい形がどんな形なのか考える。それだけだよ」

 

あのねルーピン先生、と蓮は見上げた。

 

「なんだい?」

「アメリカでたくさんの魔法使いや魔女に会ったし、ノー・マジ、マグルにも会った。おっきなパンのチェーン店のオーナーなんだ。ニュート・スキャマンダーの親友なんだって」

「うむ」

「完璧な正義なんてないよ。あっちをちょこちょこ、こっちをちょこちょこでいいんじゃないかな?」

「レン、それは」

 

ルーピン先生が首を振る。

 

「完璧な正義なんてものがあると思ったからグリンデルバルドはあんなことをしたんだ。完璧な正義のためなら何をしてもいいと思ったから」

「レン・・・」

「アンブリッジにとっても、あれはあれで正義なんだと思う。本人がそう言ってたもん。範囲が狭すぎて話にならないけどね」

 

わたくしだって正義じゃない、と蓮はルーピン先生に宣言した。「そのことは忘れない」

 

「君はもうそんなことを気にする必要はないんだ」

「気にするわけじゃないよ。やっちゃったことは仕方ない。だけど、誰にだって間違いがあるってことは忘れちゃいけないよね。盥のお湯が少し汚れてるからって赤ちゃんを溝に流すようなことはしちゃダメだ」

 

口を開けて何か言おうとしたルーピン先生を、ドーラが止めた。「レンは間違ってないわ、リーマス」

 

「ドーラ、君は」

 

蓮は眉を上げた。怪しい。すごく怪しい気配がする。ドーラはみんなに「トンクス」と呼ばせるはずなのに。

 

「レンが揺れているのは良くないんだ。わかるだろう?」

「揺れてなんかいないのがわからない?」

 

怪しい、と言わないように両手で口を押さえた。

 

 

 

 

 

チェルシーの家をダンブルドアが訪ねてきた。

 

「停学中の悪い子を家庭訪問じゃよ」

 

ダンブルドアがパチンとウィンクした。

 

「アメリカはどうじゃったかね?」

「楽しかったよ。イルヴァーモーニーに行きたくはならなかったけど」

「儂は今日ひとつの思い出を話したいと思って来たのじゃ、ミス・ウィンストン」

 

母はお茶とショートブレッドをコーヒーテーブルに出すと、リビングを出て行った。

 

「儂の自宅、家族と過ごした古い家はコーンウォールのゴドリックの谷にある。知っておるじゃろうがの」

「うん」

「儂の家族には、ある問題があって、その問題込みで引き受けてくれたのが君の先祖じゃった。ウィリアムの祖父の頃じゃ。まだ当時はウィンストン家の領地じゃった」

「知ってる。ポッター家やバグショット家のことも」

 

ダンブルドアは頷いて「まさにそのバグショット家に、ある夏、ひとりの若者が滞在した。ゲラート、と儂は呼んで親しくなった」と呟いた。

 

「友達になったの? 外国の人?」

「さよう。外国の人じゃ。姓をグリンデルバルドという」

「・・・ホントのこと?」

 

蓮が確かめると、ダンブルドアは震える指先を見せた。「この通り、ホントのこと過ぎて、話すのが恐ろしい」

 

「じゃ、話さなくても」

「話しておきたいのじゃよ。君は確かに過ちを犯した。じゃが、儂よりも遥かにマシな人間じゃ。君の過ちは、幸いにして誰を傷つけたわけでもない。マクゴナガル先生から聞いた。君は、幸いにして誰を傷つけたわけでもないが、悪いことをしたから罰を受けるとがんばったそうじゃな。儂にない勇気じゃ」

「勇気?」

「儂は、その当時、真実を明らかにする勇気を持たなんだ。ひとりの命が失われたというに、誰が致命傷を負わせたかわからぬまま、事故として魔法省に届け出た」

 

それでも校長室は儂を認めた、とダンブルドアは蓮の両肩に手を置いた。

 

「無論、儂は努力してきた。儂に出来る限り良い教師であることに努めた。どうやら校長室はそれを認めてくれたようじゃ。しかし、儂は君にはとても及ばぬ。たった一度の過ちに、君は進んで裁きを求め、罰を受け入れる勇気を見せた。挫けるでない、このまま前に進むのじゃ。儂などよりも、遥かに良い校長になるのじゃ」

「なってもいいの?」

「なっておくれ。儂は、歴代校長のひとりとして、将来、君に仕えることを望んでおる」

 

あ、と蓮は口を開けた。

 

「なんじゃ?」

「だからかな。ミネルヴァがわたくしに跪いたことがあるんだ。小さいとき」

「それはロス家の主人としてじゃろうの。ミネルヴァは校長になりたがってはおらぬ。死んでまで校長にこき使われたくはないそうじゃ」

 

ダンブルドアがまたパチンとウィンクした。

 

「格好の仕返しは、まさにそれじゃろうの」

 

にしし、と蓮は笑った。

 

「予言のことも話しておかねばならぬ」

「ママから聞いてるよ。パパは肝心なところを忘れてたって怒ってた」

「そのようじゃ。コンラッドは昔から緻密さに欠けるところがあっての。まるで君の魔法史の答案のように、単語だけで済ませる癖がある」

「むう」

「闇でも光でもなき、全き女王。それが君じゃ。君の過ちは決してただの過ちではない。赦しを知る者になるために必要な過ちじゃった。儂はそう思うておる」

 

蓮は真面目な顔になった。

 

「良いかな? 闇と光は常にひとつのものじゃ。片方だけを追い求めれば、像は歪む」

「・・・うん」

「光だけを追い求めておっても、必ず闇は生まれ来るのじゃ。わかるかの?」

「わかる」

 

必要なのは赦しじゃ、とダンブルドアは目を細めた。「人の心の中に、ほんのちょっぴりの闇があることぐらい許し合わねばな」

 

「大きな闇にならないように?」

「おお。賢い子じゃ。まさにその通り。ほんのちょっぴりの闇を胸に抱えるからこそ、大きな闇に抗う力を持つことが出来る。闇を見つめて初めて真の光を見い出すことができる。自分の中に闇を認めぬ者ほど始末に負えぬ者はない」

 

蓮は大きく頷いた。

 

「わかる」

「わかってくれるか」

「うん。わたくしは自分が絶対に正しいと思ってた。アンブリッジを罰する資格があるって。だからあんなことになった」

「君だけではない。ドローレス・アンブリッジもそうじゃった」

「うん」

「儂は昔、ホグワーツを卒業したばかりの若者であった頃、まさにその罠に陥っておった。大いなる善を成し遂げると意気込んでおった」

 

ヌルメンガードだ、と蓮は目を丸くした。「じいじに聞いたことある。ヌルメンガードにそう書いてあるんだ」

 

「さよう。儂とゲラートを結びつけた思想じゃ。大いなる善のために。まさにそれがゲラートを後のグリンデルバルドに育てた。大いなる善、聞こえは良いが、結果はあの通りじゃな」

「あっちをちょこちょこ、こっちをちょこちょこでいい?」

「おお、まったく賢い子じゃ。光をちょこちょこ、闇をちょこちょこ。それぐらいがちょうど良い。植物が光に向かって育つように、全体的になんとなく光に向いておれば良しとしようではないか」


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