サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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閑話25 スピナーズ・エンド

なぜだ、とベラトリクスが唸るようにセブルスを睨む。

 

涼しい顔でそれを受け流し「我輩が、闇の帝王のお望みを確実に遂行するためのドラコの保険となったまでだが? ドラコの伯母上はそれをお望みではないのかね?」と鼻にかかった低音で答えた。

 

「感謝します。感謝しますわ、セブルス。あなたならきっとこうしてくださると思っていました。ベラ姉様、お分かりでしょう? セブルスは闇の帝王に忠実でいらっしゃいます。ダンブルドアを殺すことをこうして破れぬ誓いでまで確約してくださいましたのよ!」

 

 

 

 

 

うらぶれた路地を足早に去っていく姉妹の後ろ姿を眺め、セブルスは小さく息を吐いた。

 

「くそ」

 

囁き声の悪態もついた。ベラトリクスに対するものかダンブルドアに対するものか自分でも分からない。ああ、ポッターでもいい。

 

この1年が勝負だ、とダンブルドアはセブルスに冷たく告げた。ハリー・ポッターがホークラックスの存在を知り、その探索と破壊を可能にするために、この1年は無駄には出来ないと。

あの爺は自分の命、自分の影響力をあまりに疎かにし過ぎる。

 

急いでホークラックスを破壊する必要などない。そのためにセブルスはこの15年間、研究に明け暮れてきたのだ。

 

そう訴え、とにかくすぐにでも解呪の出来る者を探す必要があると言ったのに、ろくでもない指輪の呪いでただでさえ残り少ない寿命を縮めた。

 

しかも、種明かしを聞いてみれば、最後のホークラックスはリリーの息子ではないか。闇の帝王を死すべき者とするために、リリーの息子が死ななければならない。

誰がいつそれを命じ、誰がいつ闇の帝王にトドメを刺すというのか。我輩か? そこまでの「ちょこっとした善意」を我輩に求めるというのか? 褒美がニワトコの杖か?

 

「あのような杖など要らぬ」

 

ぼそりと呟いた。

 

セブルスはリリーと一緒に初めてダイアゴン横丁に行き、初めて一緒に買った杖をポケットの中で握り締めた。

 

この杖こそが我輩の命。

 

誰にも心など預けるつもりはない。リリーを殺した闇の帝王を再び死すべき者、ただの年老いたマグルにすることだけがセブルスの誓いだ。

リリーの息子が死ぬ必要などないのだ。

そのためにこそ働いてきた。ベラトリクスのような狂人が本能的に疑い、嫉妬するほどに複雑な二重スパイとしてのジープウェイを歩んできたのだ。もはや自分の主人がダンブルドアなのか闇の帝王なのか、自分でもわからぬほどに。

 

セブルスは常にフロックコートの内側に1通の便箋を忍ばせている。

 

ワームテールの気配がないことを確かめてから、その便箋を取り出した。

 

 

 

 

 

『親愛なるレイへ

 

レイ、あなたも忠誠の術に護られた不自由な暮らしをしていると聞きました。でもちょうどいいかもしれないわね。だって、あなたの赤ちゃん、レンだったかしら、彼女と一緒に長い時間を過ごせるんですもの。

ハリーとほとんど1歳違うのに同じ学年になるのよね。そう考えると不思議だわ。

 

さて、毎日毎日ハリーの世話に追われながら、やっとお昼寝をしてくれたこんな貴重な時間を割いてお手紙を書いているのには理由があるの(恩を着せるわけじゃなくて、ハリーの目を盗んでお手紙を書くのは大変なのよ。インク壺をひっくり返したり羽根ペンを齧ったりするんだから、彼の前ではわたしは字も書けないの)

 

ハリーがお腹にいる間、近所に住むバチルダ・バグショットのお婆さんから、このゴドリックの谷についていろいろな話を聞きました。

旧制度の時代には、ゴドリックの谷はあなたの、いえ、あなたとコンラッドの領地だったのね。

バチルダはあなたも知ってる通り、魔法史家のあのバチルダ・バグショットよ、もちろん。

とても素敵な村だわ。マグルと魔法族が絶妙なバランスで暮らしている村よ。

心温まるエピソードもたくさんあるけれど、胸の痛くなるような事件も過去にはあったそうなの。

 

その事件のヒロインはアリアナという名前。

バチルダは、アリアナは隠されてきたオブスキュリアルではないかと考えているわ。わたしも同意見よ。

アリアナは、モールド・オン・ザ・ウォルドから越してきた魔法族の一家の末の娘だったそうだけれど、バチルダは正式に紹介されたことはないらしいわ。どうもその一家は、モールド・オン・ザ・ウォルドでマグルを攻撃した父親の影響から離れるためにゴドリックの谷に来たようね。この経緯はもしかしたらあなたのお宅に伝わっているかもしれない。

話が逸れたわね。

アリアナは、長いこと隠されてきたけれど、隠しようのない事件が起きたの。

アリアナの魔力の暴走で母親が死んでしまったそうよ。

バチルダは2人の兄を呼び戻し、母親の葬儀やアリアナの世話が必要だとアドバイスした。バチルダってそういう世話好きなお婆さんなの。ちょっと意外でしょう? 歴史学者ぶったところはあまりないわ。

 

そうして、一番上の兄が家に残ってアリアナの世話をする。二番目の兄はまだホグワーツを卒業する年齢じゃなかったから、それが妥当だわ。

 

一番上の兄ももちろんそうすべきだと判断して、弟を学校に行かせるつもりでいたのだけれど、サマーホリディが終わる直前に、アリアナの魔力の暴走がまた起きてしまったの。

今度の暴走は、ついにはアリアナの命を奪ったわ。

バチルダは黒い暴風が、アリアナの周りを吹き荒れるのを見たの。

間違いなくオブスキュリアルにオブスキュロスが取り憑いた状態ね。あなたもそう思うでしょう?

 

オブスキュリアルは普通は魔法族の家庭では発生しないわ。魔法力を抑圧する必要がないから。現代ならマグルでもそうよね。わたしはマグル生まれだけれど、ちょっと魔法力を込めれば手品みたいに花を咲かせたり出来たし(姉のチュニーは嫌がったけれど、たぶん自分に出来ないことを妬んでいただけだと思う)そのことで魔女狩りみたいな目には遭わなかった。もちろんそれはセブのおかげでもあるわ。セブが気づいてくれたからわたしは自分が魔女で魔法力を使って手品をしているんだとわかって自重するようになったんだもの。

 

バチルダは、モールド・オン・ザ・ウォルドでアリアナに大きな精神的な衝撃が起きたのではないかと推測している。

幼いアリアナの無意識の魔法がマグルの目に留まり、魔女狩りのような意識でマグルから攻撃されたことがあるのかもしれないわね。

時代的に考えても、まだ迷信じみた魔女排除の意識がマグルの中に残っていた時代でしょうから。

だとしたら、魔法力の放出に歪みが生じることの説明がつくわ。

そのときアリアナは14歳。14歳まで生きてきたオブスキュリアルの潜在的な魔法力がどれほどのものか、想像もつかない。あなたにはわかるかしら? いずれにせよ、アリアナに不幸な事件が起きることなく、魔女としてすくすくと成長していたら、優秀な魔女になったことは間違いないと思うの。

 

実はここまでは前置きよ。

本題はここから。長い前置きだったわね、ごめんなさい。

 

わたしはアリアナの悲劇を聞いて考えたのよ。

魔法力を減衰させることが出来ていれば、母親の死もアリアナ自身の死も避けられたはずだわ。魔法力を減衰させる魔法薬を定期的に投与することで、きちんとした魔法教育を受けて魔法力をコントロール出来るようになりさえすれば、減衰薬の量を徐々に減らしていけるはずでしょう?

 

これはまだ構想段階。

わたしには今はハリーという厄介な悪戯小僧がいるし、ちょっと大鍋を滾らせて実験というわけにはいかないの。

理論的には、精神安定薬の応用で出来るはずだわ。決定的な魔法力減衰効果のある素材さえ見つかれば。

 

あなたにももちろんレンがいるから(尤も女の子ですもの。ハリーより10ヶ月も年上だし、きっとお行儀よくしてくれるわよね)実験は無理でしょう。だから、しばらくの間、お手紙でこの構想を練るだけになるけれど、それにお付き合いしてくれないかしら?

正直なところ、わたしにはこういう息抜きも必要だわ。

ジェームズとハリーのいる毎日は幸せだけれど、家の中に閉じこもりきりで、バチルダぐらいしか話相手もいないの。

 

それにね、実を言うとあなたの素材に関する幅広い知識を当てにもしているの。

レイ、あなたのお祖父さまは高名な魔法薬学者でいらしたのよね? セブから聞いているわ。セブによると、ほとんど世界中を回って素材を集めてらしたとか。

世界中の魔法界を探し回れば、きっと魔法力減衰効果のある素材は見つかると思うの。中東や北アメリカあたりのマグルの宗教的な厳格さを考えると、何も対処を考えないまま魔法力を持つ子供たちを野放しにしているとは思えない。

 

もしこの魔法力減衰薬が完成したら《アリアナの安らぎ》という名前にするつもり。

魔法力の暴走で自分の母親を死なせてしまうなんて、彼女の人生には安らぎはなかったでしょうから。

 

本当に大まかな構想でしかないけれど、この思いつきをどうしてもあなたに伝えたかったの。

セブに研究してもらいたいところだけれど、彼はヴォルデモートの配下となってしまったわ。ダンブルドアはヴォルデモートの懐に入るという危険を冒して騎士団のために働いていると言ってくれるけれど、わたしにはまだ彼をどこまで信頼できるかわからない。信頼したい気持ちはあるわ。仲違いしてしまったのはわたしにとって痛手だった。幼馴染ですもの。

でも、このアリアナの安らぎが、ヴォルデモート側に知られてしまったら、とても危険なことになるわ。理由はわかるわよね。だからまだセブに知らせるわけにはいかない。

 

出来ればこの薬は、魔法戦争なんかではなく、平和と安らぎのために使われるべきだと思っているわ。でもあなたに教えたのは、あなたがアズカバンの収監システムを変えたいと言っていたからでもある。

これ、使えると思わない?

 

素材を集めて実験したくてウズウズしているわ。でもハリーが泣き出してしまったから、もうおしまいね。

 

あなたと、可愛い女の子レンがハッピーな生活を送っていることを祈っています。

 

愛を込めて

リリー』

 

 

 

 

 

怜の手元にあった手紙のジェミニオを作ってもらうのにも破れぬ誓いを結ばなければならなかった。

 

必ずこの魔法薬を作り出し、かつそのことを余人に漏らすなと怜から命じられた。

 

日本の菊池家にある研究室は素材の宝庫だ。

 

セブルスはたびたび通ってしまうぐらいに、その研究室に魅力された。チビの蓮がちょろちょろするのさえも気にならないぐらいに研究に没頭出来た。

 

「何が可愛い女の子なものか」

 

思わずセブルスはひとりごちる。

 

『せぶ、ヘッタクソだな。ひいじいはね、この豆は刻むんじゃなくて、つぶせばもっと汁が出るって言ってたよ。だーむすとらんぐではそうしてるんだ』

 

魔法薬学の基礎も知らぬ幼児にからかわれた記憶を思い出し、セブルスは僅かに頬を緩めた。

 

近頃の蓮の幼げな表情には、あの頃の面影がくっきりと浮き出ている。

 

入学してきたときには、おそらくある種の閉心術を身につけていた。ダンブルドアにそう言うと、深い溜息をつき「閉心術師としての才能があるか?」と問われた。

 

ある、とセブルスは答えた。間違いなく本能的に。「あなたに似ていますな。秘密主義を日本の山奥で自ら育ててきた。我輩とは違う種類の閉心術師です」

 

早く大人に戻れ、とセブルスはきつく眉を寄せて、誰にともなく祈った。ダンブルドア亡き後の魔法界を背負うのは、リリーの息子ではないのだぞ。そのときにはもうリリーの息子はこの世に存在しないのだ。

 

カタン、と音がした。

 

「・・・ワームテール、我輩は貴様を呼んだ覚えはないが?」

 

醜く太った小男が書棚の隠し扉から顔を覗かせた。

 

「客人が帰ったようだから、グラスを下げに来た。悪いか? 私をハウスエルフのようにこき使って溜飲を下げているんだろう、どうせ」

 

身体の陰で手紙を書物の下に隠し「わかっているのなら、呼ぶまで出てくるな」と言うと、憤慨したように顔をまだらに赤く染めて「闇の帝王は貴様を重用しておいでだが、完全な信頼を置いていらっしゃるわけではない! 私は貴様を監視する役目を与えられている!」と喚いた。

 

「さよう。それでこそ闇の帝王でいらっしゃるのだ。誰を盲信するでもなく、細心に裏切りを警戒なさる我が君を我輩は尊敬申し上げている。だからこそ貴様のような薄汚い鼠を側に置くことにも納得している。貴様は我輩をスパイする役目にうんざりしているだろうがな」

「ベラトリクスとナルシッサは何の用だった?」

 

ふふん、とセブルスは鼻で笑った。

 

「ルシウスの失態を寛大にもお許しになるために、ルシウスの息子に実に困難な任務をお与えになった。ナルシッサは、その任務を確実に遂行するため、息子への我輩の助力を請いに来たのだ。わかったなら失せろ」

 

ワームテールはわなわなと震え、銀の義手で口元を押さえた。

 

「まさか、まさか16歳の少年にダンブルドアを?」

「本気にしていなかったのか、ワームテール」

「未成年の魔法使いにそのような任務は務まらない!」

「ルシウスの息子は優秀だ」

 

セブルスは呟くように言った。

 

そう、実に優秀だ。

おそらくは父親よりも。

 

セブルスは右手の拳をきつく握り締めた。

 

ドラコに教えなければならないことはまだいくらでもある。今このときに、魔法薬学の教授職から離れることはセブルスの望みを打ち砕くダンブルドアの命令だった。

ジェームズ・ポッターの息子ばかりでなく、ドラコ・マルフォイという少年がその父親の影響から離れ、優れた魔法薬学者となるために導く絶好の機会、この1年を利用するつもりでいたというのに。

 

セブルスが菊池家の研究室で学んだ全てをドラコに教え伝えるには時間が足りない。

 

闇の帝王を再び死すべき存在とし、年老いたマグルにしてしまうには、魔法薬学者が必要なのだ。どうしても。

 

ジェームズ・ポッターの息子にその才能はない。リリーの息子でもあるというのに、あの少年には魔法薬学の真髄に近づくための繊細さが致命的に欠如している。まして死すべき運命の少年だ。リリーの遺した魔法薬の調合など、あの少年には期待するだけ無駄だ。

 

皮肉なものだ。

リリーの望んだ平和と安らぎの魔法薬は、マルフォイの息子によってしか完成しないだろう。

セブルス自身が、そう長い人生を生きられるとは考えられない。闇の帝王はセブルスを利用し、情報を吸い上げ、利用し尽くしたと判断したなら間違いなくセブルスを殺すはずだ。

 

ベラトリクスのような狂信さえも信頼しない闇の帝王が、セブルスを重用するのは、セブルスの中に蛇のような狡猾の匂いを感じ取っているからだ。それは信頼からは遠い。

死喰い人たちの狂信に調子を合わせ、闇の帝王の側近くに侍りながら、心の底の底が見えない男。

闇の帝王が求めている臣下とは、そういう存在だ。盲信や狂信に理性はない。だからこそ失態が続いていることぐらい闇の帝王は理解している。

 

出来ることなら、ドラコをそういう男に育てたかった。

 

「見ての通り客人は帰った。我輩は研究を続ける。失せろ」

 

失意と落胆、そして永遠に変わることのない想いを抱えたまま、セブルスはきつくきつく心の蓋を閉じた。

 

 

 

 

 

ダイアゴン横丁に行くと言ってスピナーズエンドを出てきた。銀の義手は目立ち過ぎるからついてくるなとワームテールに命じて。

 

密かにゴドリックの谷のポッター家の前に姿現しをすると、時間を合わせて怜が現れた。銀色に輝くジャガーの運転席にサングラスをかけた怜が乗っている。セブルスは黙って助手席に乗り込んだ。

 

「娘から目を離して良いのですかな?」

「良いのですよ。たまにはね。夜は一緒に寝てあげる必要があるけれど、昼間はお利口にしているわ。それで? 状況は? 狂犬ベラは暴れていないの?」

 

マルフォイ家の縁戚ですからな、と滑るように走り出したジャガーの助手席でセブルスは答えた。「ルシウスの失態で、自分までとばっちりを喰らうのを恐れている。しばらくは勝手な行動は慎むでしょう。問題は」

 

「問題?」

 

怜はサングラスの上に僅かに見える眉を上げた。

 

「ルシウスの失態への償いとして、息子のドラコにダンブルドアを殺すようお命じになった」

 

しばらく黙って村外れまで車を走らせて、怜は溜息をついた。

 

「相変わらず手段を選ばないわね」

「・・・頼みがある」

「なにかしら」

「ドラコ・マルフォイをこの悪因縁から解放してやって欲しい。才能ある少年だ。我輩の命と引き換えに、ドラコ・マルフォイに未来を保証して欲しい」

 

車を停めて怜が「破れぬ誓いまでは結べないわよ」と言った。

 

「構わぬ。あなたはフラメル家の相続人だ。フラメル家の道義的責任があるはずだ」

「そうね。命の水をニコラス・フラメルがマルフォイ家に売ったことで、マルフォイ家が抜き差しならなくなったことは認めるわ。でも、あなたがなぜルシウスの息子の命乞いをするのか不思議ではある」

 

セブルスは首を振った。

 

「我輩は・・・我輩の人生において、魔法薬学は救いだった。大鍋は常に我輩の願いに応えてくれた。ドラコには間違いなく魔法薬学の才がある。リリーの望んだ平和と安らぎのための魔法薬学者になれる少年は、ドラコ・マルフォイなのだ」

「でもルシウス・マルフォイの息子よ」

 

ピシリと頬を打つように怜が厳しい声で応じた。

 

「わたくしとしては、娘の円卓の魔法戦士の中にルシウス・マルフォイの息子が紛れ込むことは歓迎出来ないわ」

「ドラコは今、ルシウスに失望しているはずだ。完璧な父親像が、闇の帝王の復活によって揺らいでいる。まして失態を冒してアズカバンに収監の身だ。ドラコは父親の強い呪縛から自由になる機会を得た。頼む、レイ。ドラコに機会を与えてくれ」

 

怜はサングラスの下で目を閉じた。

 

「円卓の魔法戦士を選ぶのは女王自身よ。その時までにルシウスの影響から抜け出す覚悟を本人が持ち得ていたら、蓮は選ぶかもしれない」

「あなたから口添えはしてもらえないのか?」

「セブルス、わたくしの娘の精神年齢は今やっとホグワーツに入学するぐらいなの。今の状態の娘には、わたくしからはどんな口添えもしない。ひとつだけ、あなたの安心材料を提供するとしたら・・・」

「なんでもいい、なんでもいいから聞かせてくれ」

「インヴァネス会談のことは知っているわね?」

「やはり会談はあったのか? ルシウスたちの報告ではロス家に、ミネルヴァとあなたの母上と娘が揃っていたと聞いている」

 

怜は頷いた。

 

「その時点で蓮は、新たな秩序の中にドラコ・マルフォイの居場所を作ろうとしていた。そう聞いているわ」

 

セブルスは肩の力が抜けていくのを感じた。

 

「・・・ありがたい」

 

トントンと指先でハンドルを叩いて怜は「安心するのはまだ早いと思うわ。『そのとき』の蓮がどう考えるか、あるいは蓮だけのゴリ押しでは意味がない。その少年自身が何かを証明しなければ、蓮の周囲の大人たちが認めないわよ」と冷たく言った。

 

「わかっている。我輩自身がドラコを導くつもりだ。時間の許す限り」

 

車を降りようとしたセブルスに怜が「安心したわ」と声を投げかけた。

 

「安心?」

「あなたの人生にも、次代を担わせたい若者が出来たこと」

 

セブルスは微かに口元に笑みを浮かべた。


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