サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第3章 ヌルメンガード

きちんとコートを持って私服で校長室においで、と言われた通りに、蓮は校長室に向かった。

 

「さあ。心の準備は良いかの? 君の考える史上最悪の闇の魔法使いとの面会の宵じゃ。尤も、あちらは真夜中じゃがの」

「わたくしより、先生はどうなの? ですか?」

「まったくもって渋々といったところじゃ。先日2人で計画を立てる際には、まさかと思うたが、本気なのじゃな?」

 

蓮は頷いた。

 

「光と闇の両方を見なさいって言ったでしょ? だからグリンデルバルドの側の話も聞かなきゃ」

「やれやれじゃな・・・」

「先生がどうしても嫌なら、待合室にいる? ますか? わたくしにはじいじがついてくるだろうから、たぶん平気」

 

そういうわけにはいかぬ、とダンブルドアは学校備品の箒を蓮に放って寄越した。「君は非常に優れた魔女じゃが、今はまだ儂の生徒じゃ」

 

「はーい」

 

コートを着込んだ蓮は、窓を開けて、躊躇いひとつなく箒に跨り宵闇の空へと滑り込んだ。

 

 

 

 

 

ホグズミードのホッグズヘッドの前に降り立つと、ダンブルドアが店の扉を少し開けて箒を預けた。

 

「あれ。ドーラお姉ちゃん?」

 

落ち着いた栗色の髪のせいですぐにはわからなかったが、ドーラが祖父と共に立っている。

 

「や、レン。いい子にしてる?」

「問題ないよ。ドーラお姉ちゃんはどうしてここに?」

「ホグワーツ周辺の警備は、今闇祓い局の任務のひとつだからだよ」

「ふうん」

 

ダンブルドアにドーラが手で合図した。

 

「ドーリッシュと持ち場を交代しました。あと3時間は、わたしがホッグズヘッドです」

「ありがたい配慮じゃ」

 

少しも弾んだ様子のないドーラを見て、蓮は唇を尖らせた。

 

「早くおいでレン。おじいちゃんと付き添い姿現しをするんだよ」

「お仕事中なのはわかるけど、もう少しぐらい楽しそうにしてもスクリムジョールは怒らないと思うよ」

 

蓮の言葉に軽く肩を竦めて、すうっと闇に溶けるように歩き去った。

 

その背中を見送っていると、ダンブルドアが「今は今すべきことをせねばの?」と青い瞳を細めている。

 

「うん。じゃない、はい」

 

 

 

 

 

「大いなる善のために。これ、先生が考えたんだよね?」

「ゲラートと共にの。妹の魔力がマグルに露見せぬよう行き届く世話をしなければならんと、責任を感じておった儂は、やはりどこかで世話の焼ける弟妹を疎んでおった。胸に不満が燻っておったのじゃ。その燻った不満の矛先を儂はマグルに向けた。魔法族が隠れ潜まねばならぬ、それゆえ、妹は心を病み、怒りに耐えかねた父はマグルの少年たちを魔法で攻撃し、アズカバンに収監された。魔法族が世界の中心になれば、こうした悲劇は起こり得ない。儂はその考えに取り憑かれた。儂はマグルを虐待・冷遇などせぬ。魔法族が良き支配階層に就けば、様々な問題は解決できる。そのような気になっておった。この認識が儂とゲラートを急速に接近させた」

 

蓮はスニーカーで大股に歩を進めた。

 

「でも、ダンブルドア先生とグリンデルバルドでは、ずいぶんとやり方が違う」

「うむ。その点は後ほど話し合うとしようぞ」

 

促されて、祖父が立っているエレベーターまで歩いた。

 

「じいじはここまでにしておく。ダンブルドアもだ。ダンブルドアとグリンデルバルドの面会はおまえの後になる。グリンデルバルドからの条件でな。それから、グリンデルバルドは奴なりに反省の言葉を口にする。その全てが嘘だとは思わんが、全て丸々鵜呑みにするな。物事には、あっちから見た形とこっちから見た形が違うこともある。ひとつ確かなのは、奴は稀代の弁論家だったということだ。トム・リドルを基準に考えて対面すると火傷するぞ」

 

わかった、と蓮は頷いてエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

こつん、こつん、とブーツの音が響く。最上階の独房は、約30ほどあったが、今使われているのはグリンデルバルドの独房だけだ。

 

「やあ。君がディミトロフの孫か。良い瞳をしている」

「はじめまして、ミスタ・グリンデルバルド。レン・ウィンストンです」

「もっとざっくばらんな態度で構わない。ディミトロフから聞いている。レディらしく振る舞うことに、非常に努力しなければならない状態なのだろう」

 

少し黙って検討して「じゃ、遠慮なく」と肩を竦めた。

 

「ダンブルドア先生はあとからひとりで来るよ。この椅子、使っていい?」

「いいとも。このフロアには、君と私しかいない。この面会を希望したのは君自身だと聞いた。理由を尋ねても?」

「うん大丈夫だよ。あのね、ダンブルドアが、ホグワーツを卒業したばかりの若者だったとき、あなたと友達だったって言ったんだ。今イギリスで張り切ってる闇の魔法使いはトムくんっていう。でも、トムくんには友達と呼べる関係の人が見当たらない。わたくしは、あなたとトムくんの違いを知りたいんだ」

 

しばらく黙っていたグリンデルバルドが口を開いた。

 

「なぜそんなことを気にする? アルバスは、私と袂を分かって以降、精進を重ねて偉大な男になった。だがしかし、君にも理解の範疇だと思うが、誰であれ若い頃には、親しむべきでない相手を無二の親友だと誤解することも稀にある。アルバスもご多分に漏れず、一時の鬱屈や不満が、非常に捻れた形で発現してしまったのではないかと思う」

「・・・かもしれないね。でもあなたにとってダンブルドアはいったい何だったの?」

「生まれて初めて出会った種類の男だった。一を聞けば十を知るような頭脳を持つ、極めて優秀な男だ。違うのかね?」

 

違わないと思うよ、と蓮は素直に答えた。「でも、ダンブルドアには政治力が足りないとは思う。足りないというか、使おうとしない、が正確かな。経歴や人望を含めれば、高齢であることを差し引いても、危機的状況下で、多少の期間ぐらいは、ダンブルドアが大臣になってもいい気はする。でもそれは絶対に嫌らしいんだ。それでわたくしは困ってる」

 

「ここに来たということは、君の中に、私がその原因ではないかという想念が生まれたから。そうなのかね?」

「うーん。ほとんど同じ意味だけど、ちょっとだけ違う。あなたと仲良しだった期間・・・と言っても、ほんのひと夏のことだよね。あなたとダンブルドアは、『大いなる善のために』という前提を掲げて、いろんな改革プランを練った。その中で、ダンブルドアは魔法大臣になろうと考えたんじゃないかと思った」

 

グリンデルバルドは椅子の肘掛をトントンと指先で叩きながら、じっと蓮を見つめている。

 

「君に興味が湧いてきた。こうしないかね? 私と君は、互いに互いのことをスタディするのだ」

 

蓮は顔をしかめた。「勉強なら学校でやってるよ」

 

「研究だ。勉強などという無粋なものではない。君と私とで、互いのことを試し合うのだよ。君は私から答えを引き出し、私は君という若き王子の資質を試す」

「執行猶予中の未成年なんだから魔法は抜きだよ」

「無論。ただの議論、言葉遊びだ」

 

OK、と頷き、蓮はコートを脱いで椅子の背に掛けた。それを確かめて、グリンデルバルドは話を切り出す。

 

「ダンブルドアが魔法大臣になることを想定していた、それが君の仮説だね?」

「うん。魔法大臣になることを、本気で考えていた。それは、大いなる善のために自分が権力を握ることを意味する。ダンブルドアには、いくつかの癖があるんだ。その中でも、大臣になって欲しいと願い出る人たちに、真面目な回答をしない、っていうのがある。質問に質問で返したり、欲しいのは大臣の椅子よりウールの靴下じゃ、なんて言って誤魔化す。ホグワーツの子どもたち相手ならともかく、真剣に善政を求めてきた大人にその態度は、ダンブルドアらしくなく失礼じゃないかな。礼儀にうるさいのもダンブルドアの癖だよ。なのに真剣に善政を求めている大人たちを厚手のウールの靴下で誤魔化すんだ。だからダンブルドアは、自分が魔法大臣になることに、真正面から向き合うことが出来ないんじゃないかと思った。政治に背を向けるわけじゃないんだ。実際に、前の大臣は就任当初は、書類にサインするにもダンブルドアの許可が必要だと思ってるんじゃないかって魔法省でジョークの種になるほど頻繁にダンブルドアを訪ねて助言を仰いでたみたいだ」

 

なかなかだな、とグリンデルバルドは微笑んだ。「君自身の情報を手に入れるには工夫が必要なようだ。その機転に対して、1ポイントを進呈しよう。ダンブルドアは、魔法大臣の座を狙ったわけではない。もっと強い力を求めた」

 

「・・・もっと強い力?」

「魔法大臣など、ちょっとした世論の動向でどうとでもなる地位ではないかね? アルバスの構想を実現するには、実行力のない有象無象の輩に媚びを売らねば保てない地位ではとても足りない。アルバスは今日ここに来ることを望んだかね?」

 

蓮は足を組んで首を振った。

 

「すっごく渋々って感じだったよ。あなたのことなら自分がどんな質問にでも答えるとか、成人がいくら近くても未成年を他国の重犯罪者の独房に連れて行くわけにはいかないとか、そもそもわたくしはサマーホリディ前に悪いことをして執行猶予中なんだから校外学習は執行猶予が明けるまで待てとか言ってさ」

 

グリンデルバルドが愉快そうに笑う。

 

「ウィンストン家の王子ともあろうものが、執行猶予の不自由な御身分とは、これはまたなかなかの傑物のようだな」

「傑物じゃないよ。怒りに任せて杖を振ったんだから、まだ器が小さい。とにかく、渋々だったのを頑張って引っ張ってきたんだ。でも、さっきのあなたの言葉でわかった。ダンブルドアが、若かった当時目指していたのは、今と同じ、ホグワーツの校長だったんでしょ?」

「1ポイント進呈しよう。その通り、ホグワーツの校長になると言っていた。いわば英国魔法族の王になるとな。おそらく、今のアルバスは違った意志を基にその職に就いているのだろうと思うが、少なくとも私の前にホグワーツ校長として顔を見せることには強い心理的抵抗があるはずだ」

「そうなんだね。昔校長を目指してたのは、支配者としての意図から?」

「いや違う。君がさっき言った前の大臣、彼とのパートナーシップに近い。ホグワーツには円卓の間という部屋があるらしいな。円卓の間を本来の目的で使うのだ。ホグワーツ校長をはじめとする優れた魔法使いや魔女からなる政治顧問団が、マグルも含めた英国の先行きを決定付ける。独裁を企図したことはないと思うがね」

 

蓮はしばらく考え、首を振った。

 

「まだ全部話してくれてるわけじゃないみたいだ。政治顧問団の一員として政治に携わるのなら、ウィゼンガモット首席魔法戦士あたりには、強い発言力がある。あえてホグワーツ校長を選択したのは、教育を牛耳ることで魔法界の未来をコントロールしやすくする為だった」

「そうかもしれない」

「ダンブルドアはまだ、構想のその部分は捨てきれてないってこと?」

 

グリンデルバルドは苦笑した。

 

「私は1945年からアルバスと顔を合わせたことがない。推測に推測を重ねた意見に意味はないだろう」

「グリンデルバルドさんの言うことを一から十まで鵜呑みにするわけじゃないんだから、自由な推論を重ねて欲しいんだ。もともと僅かひと夏の蜜月期間しかなかったのはわかってる。でも、ダンブルドアが政治に対する姿勢を他の人と前のめりになって議論したのは、長い人生の中でもその時期だけだと思う。あなたの次にダンブルドアの政治的見解に近づいたのは、国連大魔女として同じ議場に入っていたうちのばあばかな。でもばあばは、ダンブルドアがある程度円熟した大人になってから教え子として知り合ったわけだから、若気が至った時のダンブルドアを見たことがない。わたくしはそのあなたの推測するダンブルドア像を知りたい」

「イギリスで調べられることは調べてきたようだな。ウィンストン家には、ゴドリックの谷の記録が残っていたのかね」

 

蓮は頷いた。

 

「あなたがティンタジェルの屋敷を訪ねてきたことも、アリアナ・ダンブルドアの突然死の直後に村を去ったことも。もちろんアリアナ・ダンブルドアの突然死についてもそれなりに調べてある。バチルダ・バグショット女史は、善良な老婦人というだけの人じゃない。ウィンストン家の領民であり、鋭い発想で歴史を調査する歴史家でもある。ダームストラングを放校になったあなたを預かることについては、事前にウィンストン家の許可を得てる。ウィンストン家は闇祓いでもある。闇の魔術を弄んだあなたの滞在を許し難い裏切りだと思われちゃいけないから、放校の経緯については知ってる限りのことを報告したんだ」

「なるほど。アルバスがよくまあ生徒を私に会わせる気になったものだと思ったが、アルバスの秘密について、ウィンストン家は先刻承知だったというわけか」

 

蓮は肩を竦めた。

 

「ウィンストン家をあんまり信用しないほうがいいよ。面倒くさがりの先祖ばかりで困るんだから。例えば、アリアナ・ダンブルドアの突然死についても、捜査はした。手記に、地域住民からの聞き取りを残してる。でもどんな結論を出したかは書いてない。その先を書いててくれないから、わたくしがこの不安な頭を使わなきゃいけないんだからね」

「あの方なりの結論に達したからだろう。青年魔法使いの若気の至りに目くじらを立てるような人ではなかったように記憶している。それならば私がアリアナの死に関与している可能性を疑いはしたはずだが、捜査の結果、直接手を下した者は誰もいないと判断して、沙汰止みにしただけのことではないかね?」

「そうかもしれない。でもそれならそれで書いておいてくれたらいいのに。だいたいウチにある手記の類は、尻切れトンボなんだ。わたくしにもそういうところあるからわかるよ。頭の中で解答が完成したら満足しちゃう。手記だって、きちんとした体裁はないんだよ。走り書きのメモみたいなものまである。そういう記録しかないから、せっせと穴埋めしなきゃ役に立たない。ダンブルドアに関しては『極めて優秀』弟に関しては『山羊』のひと言だよ? 山羊ってさあ・・・もうちょっとまともな説明が欲しいよね、まったくもう」

 

グリンデルバルドは苦笑した。

 

「山羊のひと言で済ませたくなった伯爵のお気持ちはお察しできる。しかし、アリアナについてはさすがにひと言では済まなかったのではないかな?」

「ウィンストン家の人間のずぼらぶりを甘く見ちゃダメだよ。アリアナ・ダンブルドアに関しても、僅かひと言だ」

「ほう?」

 

オブスキュリアル、と蓮が言うと、グリンデルバルドは表情から笑みを消した。

 

「珍しく適切なキーワードではあった。そのひと言があれば、事件の概要はすぐに頭に浮かんできたからね」

 

グリンデルバルドが睨むように蓮を見つめる。

 

「わたくしを試すとあなたは言ったけど、それはこっちの台詞だ。あなたとダンブルドアの友情は、オブスキュリアルを戦力として利用する結果しかあなたに残さなかったの?」

「・・・それは違う。もう私に失うものなどありはしないが、これだけは言わせてくれ。私は、傷ついた幼い魔法力にひどく敏感になった。最初はそれだけだったのだ。アメリカという国は、極めて原理主義的な宗教観を有している。アリアナに似た傷を負った子供たちは少なくなかった。アメリカに渡った当初は、そのことを疎ましく思ったよ。ゴドリックの谷の呪いに追われているようだと。しかし、ダンブルドア家のことを思い出させる彼らを、私は無視できなかった。まさにこのような子供たちを救うためにこそ、我々の計画はあったのではないかと考えを変えた。幾人かと接触し、励ました。君への虐待はそう長くは続かないから、もう少し耐えて欲しい。そう繰り返した」

 

蓮は椅子から立ち上がった。

 

「でも結局はオブスキュリアルの青年を利用して、ニューヨークを壊滅させて殺した。その後も、あなたの周囲ではオブスキュリアルと推定できる犠牲者が絶えなかった」

「利用する気はなかったのだ! 理解者を欲していた彼ら自身が、私の周囲に集まるようになった。それを突き放すことは私には出来なかったのだ!」

「だったらなぜ積極的に彼らを救おうとしなかったの? 世界を魔法族の支配下に置く前に、まず個々人を救わなきゃ意味ないよ!」

「君に何がわかる!」

 

グリンデルバルドも椅子を倒して立ち上がった。

 

「この時代を生きる君に! ウィンストン家と菊池家の嫡子として、生まれた時から魔法族の支配的地位を約束された君に! マグルの集落の片隅でひっそりと暮らさねばならない時代の空気がわかるのか!」

「・・・『君に何がわかる』それを言ったらおしまいだよ、グリンデルバルドさん。わからないからコミュニケーションを取るんだ。やっぱりあなたは自分の罪と向き合っているわけじゃなさそうだね」

 

唐突にグリンデルバルドの声が張りを失い、細かく震え、ひどく早口になった。

 

「違う・・・それは違うぞ。私は心底から悔いている。正義と幸福のための魔法と、闇の魔法の区別をする必要を理解していなかった。目的が善ならば結果も善だと考えていた。私は、手段を誤れば結果もまた過ちとなる仕組みを理解しようとしなかった。それゆえに、膨大な数の人々を犠牲にしてしまったのだ」

 

蓮は、静かに頷き「ありがとう」と微笑んでみせた。

 

「なに?」

「わたくしの今日のテーマには、今あなたが答えてくれた。だから、ありがとう、だよ、グリンデルバルドさん」

「ヴォルデモートとかいう闇の魔法使いとの違いを理解したというのかね」

 

うん、と頷いた蓮は椅子に座って足を組んだ。

 

「イギリスでは、トムくんは史上最強の闇の魔法使いだと言われてる。わたくしにはそれがよく理解出来ないんだ。世界にもたらす危険度で言えば、あなたのほうがはるかに危険だったと思う」

「・・・なぜそう思うのかね」

「あなたは手段を選ばないから。闇の魔法を使うことにさえこだわらないし、マグルと手を結ぶことも忌避しない。なにしろマクーザでは闇祓い局長をやってたぐらいだもん。アメリカでマクーザの高官として、変に疑われることなく勤務していた。国連本部も近い。世界経済の中心ウォール街も近い。ニューヨークでマグルのビジネスマン風の装いや立ち居振る舞いの中に溶け込む人間だ。そんなあなたが、ナチスに手を組むことを持ちかけたから、あの試みは軌道に乗り始めた。トムくんには、そんな真似は、絶対に出来ない。普通のマグルなら、トムくんを見かけただけで警察に通報するよ。『ハロウィンでもないのに変な格好の男がうろついてるの! うちには小さな子供がいるんですから、とにかくあの男を遠ざけてちょうだい!』ってさ。でもあなたはそうじゃない。こうして会っているのが、ヌルメンガードの独房じゃなければ、わたくしはあなたを信用したかもしれない。少なくとも、今でも、きちんとした理性のある、理論的に話の出来る相手だとは思ってる」

「トムくんは違うのかね」

 

むりむり、と蓮は失笑して手をぱたぱた振った。

 

「『俺様の復活を祝う宴に招いてやろーう!』って言うようなイタイ人だよ。ヴォルデモートって名前が独り歩きしてるけど、あれはね、トム・マールヴォロ・リドルのアナグラムなんだ。アイ・アム・ロード・ヴォードゥモール。日記帳に封じ込めたティーンエイジャーのトムくん本人が超得意げに説明してくれたから確かだよ。わたくしはたまに友達からアルジャーノンって呼ばれることがあるけど、いくらなんでも孫がいる年齢になったら『やあ! 僕のことはアルジャーノンって呼んでね!』なんて言わないよ。本気で聖マンゴのヤヌス・シッキー病棟に監禁されそうじゃないか」

 

グリンデルバルドは苦笑した。

 

「ではなぜそんな男をイギリス魔法界は恐れるのだろうな」

「あなたはどう思う?」

「・・・いま、日記帳に自らを封じ込めたと言ったな? それが死を超える手段なのかね?」

「本人はそのつもりだと思う」

「君はそうは思わないと?」

「死を超えることと、死から逃げ回ることとは別の行為だ」

 

蓮の瞳をまじまじと見つめ、グリンデルバルドは目を細めた。

 

「うむ。同感だ。私は、迫り来る死に対して泰然と構え、顔を上げて死に臨むようでありたいものだ」

「・・・わたくしもそう思うよ。わたくしの死後も誰かを幸せにする魔法や奇跡をこの世に残した上で、然るべき時期がきたら、きちんと老いて、老いの中でも次の世代に与えられるものを与えて、蝋燭の火が消えるように自然に同化してしまいたい。わたくしが死を超えるという時にはそういう死に方を指す。魂のカケラをあちこちに隠して、すっかり原型を留めない姿になって、俺様サイコー! っていうのは・・・ハロウィンの仮装でも絶対にやりたくない真似だ」

 

しかし恐ろしい人物であることには違いがない、とグリンデルバルドが顔を引き締めた。

 

「グリンデルバルドさんにとっても?」

「いや、それは・・・さっき言ったように、私にはもう失うものなどない。だから、イギリス魔法界の人々の恐怖を共に担うことは出来ないが、その男の異常性は、君の言う通り、尋常な範囲ではあり得ない。魂のカケラをあちこちに隠した、と言ったが、私の推察が確かならば、彼は自分の命を長らえるためだけに人を殺害してきたことになるのだが、その解釈に間違いはないかね?」

「大丈夫。その通りだよ」

「君はそういう人間を、人間として観察した経験がある。君は彼を人間だと思っている。だから君にとって彼は、頭のおかしな爺さんに見えるのだろう。しかしだ。果たして彼は人間なのか?」

 

蓮は眉を寄せ、腕組みをして考え込んだ。

 

「私は、自分を人間だと断言できる。より善き世界を構築するという、人間的な目的を持っていた。手段が間違っていたことは事実だし、そのことに気づかない愚かな男ではあったが、人間であることは確かだ。その男には、人間的などんな目的があるのかね?」

「俺様が君臨する世界。永遠に続く俺様の世界」

「それはまともな人間の視点から見て、人間らしい理想だと言えるかね? 永遠に生きて、いったい何が残ると言うのだ。常に君臨し続け、毎日毎日変わり映えのしない世界にどんな楽しみがある? 私なら御免蒙る。だが彼は、その人生こそが自分に相応しい栄光だと真剣に考えているのだろう。明らかに何かが欠落している。人間としてというより、生物として異常だ。その男の生まれや育ちに何か特異な点は?」

 

蓮は顎を引き、グリンデルバルドを見つめた。

 

「・・・数百年に渡って、親族間の異常交配とホムンクルスによって、血を繋いできた家系の最後のひとりだよ」

 

それだ、とグリンデルバルドが顔色を変えた。

 

「なんということだ。イギリスの純血主義はそこまで極端なものになっていたというのか」

「やだな、早とちりはダメだよ。そんなのはゴーント家だけのことなんだか」

「ゴーント家?!」

 

グリンデルバルドは立ち上がり、鉄格子を掴んだ。

 

「事実か?! 君の言うトムくんは、ゴーント家、アイルランドか?」

「イングランドのゴーント家だ」

「・・・イングランドにもゴーント家があったのか」

 

よろけるように後退り、椅子に崩れ落ちた。

 

「ゴーント家のことに詳しいの?」

「アメリカで多少は知った。アイルランドのゴーント家についてだがな。従兄弟姉妹同士や叔父叔母との婚姻を通例とし、スリザリンの血統を脈々と引き継ぐことを至上命題とする。いくら純血のためとはいえ、そのような形の婚姻が続いていては、遺伝性の疾患には事欠かない。殊に精神面での異常性が顕著になる・・・」

「グリンデルバルドさん、あなたは純血主義者なんじゃないの?」

 

グリンデルバルドは小さく唇の端を上げた。

 

「イギリス風の意味合いでは違う。私は一国の中だけで姻戚関係が濃密になることは厭わしく思うし、マグル生まれの魔法使いや魔女を積極的に取り込む必要があると考えている。世界というフィールドで、マグル生まれまで含めた選択肢の中から魔法使いが魔女と結ばれることが望ましい」

「穏健な純血主義だね。マグルと結ばれることにだけは反対?」

「そこに相互理解が成立するなら構わないのかもしれないが、私が見てきたケースでは魔法使いや魔女の側が、そのことを秘して婚姻するパターンが多かった。片方だけが結婚の最初から秘密を持っていることには賛成出来ない。離婚率も高くなる。生まれた子供の魔力に配偶者が気づき、その段になってやっと真実を告白するわけだ。信頼関係は大きく後退することになる。そのような不幸は注意深く避けるべきだ・・・しかし、まあ、愛というものはそのように理屈で割り切れるものではないのだろうな」

 

自嘲的に笑う。

 

「あなたはずっと独身だったのに、割り切れない愛を知ってるみたいだ」

「多少は知っている。その経験が苦いものに終わったからこそ、理性的に相手を選ぶべきだと思うようになった。熱病に浮かされるのではなく。それはここに入ってからも変わらぬ、私の人生訓だ」

 

グリンデルバルドは満足げに周囲を見回してみせた。

 

「ディミトロフが君と私2人だけの面会をよくまあ了承したと思わなかったかね?」

 

蓮は苦笑して「エレベーターの中では首を寝違えそうなぐらい捻ってきた」と答えた。「でもこの椅子に座ったらわかった。たまに視界の隅に赤く点滅する小さなランプが見える。たぶん4台の監視カメラでモニタされてるんだね」

 

「正解だ。オブランスクが大臣に就任して4年ほど経った2年前に大改修が完了した。ヌルメンガードの中にいてもわかることはあるものだ。私は確かに許されざる罪に首まで浸かってしまった愚かな男だ。ではあるが、このヌルメンガードの施設の進化が、私を反面教師として東欧の魔法界が手に入れたより善き世界なのだと想像するだけで、このままここで死を待つ安らぎに到達できる」

「単なる想像じゃないと思う。確かにあなたは後世に残る礎になったと思うよ。残念ながら大きな罪でもあったけど。オブランスク大臣にはお会いしたことがある。あなたの残した負の遺産からブルガリアを脱却させるとおっしゃってた。完璧な善人が善政を敷いて、それがベストの結果をもたらすとは限らない。たまには大悪人が反面教師になって国を発展させることもあるんじゃないかな」

 

 

 

 

 

そっと寮の部屋に入ると、ハーマイオニーとパーバティが起きて待っていた。

 

「あれ、まだ起きてたんだ。もうずいぶん遅いよ」

「あなたがヌルメンガードに行くっていうから。気になって寝てなんかいられないわ」

 

言いながらハーマイオニーが温かいグリューワインを出してくれた。

 

「うわ、助かった。めちゃくちゃ身体が冷えてたんだ」

 

それでそれで、とパーバティがベッドに腰掛けた蓮ににじり寄る。「どうだったの? グリンデルバルドと面会」

 

「うーん。あれだね、ジョディ・フォスターになった気分だ。『羊たちの沈黙』の」

 

パーバティは「なにそれ?」と首を傾げるが、ハーマイオニーにはピンと来たらしい。

 

「まさか・・・1対1の面会だったの? ダンブルドアやあなたのおじいさまは」

「グリンデルバルドからの条件が、わたくしと1対1でなら会うというものだったんだ」

 

でも危険はなかったんだよ、と蓮はふうふうとグリューワインに息を吹きかけた。

 

「だって、ヌルメンガードっていう悪名高い監獄なんでしょう? あなたはディメンターのような存在にアレルギーがあるのに」

「ハーマイオニー、ヌルメンガードは極めて衛生的に整えられた空間であり、わたくしとグリンデルバルドの面会は4方向からの監視カメラで音声ごとモニタされていて、それを管制室でダンブルドアとじいじが見る、そういう形で行われたんだ。その監視カメラの映像と音声は記録されているから、休暇中にハーマイオニーが自宅で観ることも出来るよ」

 

ハーマイオニーは目を瞠り、しばらく言葉を失っていた。

 

「だ、ダンブルドアは何か言ってた?」

「罪悪感に打ちひしがれてる。国連本部に顔を出すイギリス人が自分だけであることを良いことに、世界の魔法界の技術の進歩を隠してきた。そのことが、この15年の間に、取り返しのつかない致命的な技術水準の遅れに繋がった、って」

「魔力が強い場所では電子機器の使用は出来ないはずよね」

「そうだよ。ダンブルドアはそんなことで嘘をついたわけじゃないんだ。魔力を遮断する素材がいくつも発見され、用途とコストに応じてコンピュータをはじめとする電子機器に使用されてる事実を、魔法省には『聞かれなかったから言わなかった』だけだよ」

 

立ち上がった蓮は、机の上にグリューワインのカップを置いて、机に背を向け腕組みをした。

 

「わたくしはアメリカに行った時に国連の議場も見てきたし、グリンゴッツのような銀行も見てきたから、そんなことじゃないかと予想してた。グリンゴッツのような前近代的な金庫ももちろんある。でもその銀行は同時にマグルスタイルの銀行も経営していて、金庫の中の現金に関しては、マグルスタイルの銀行の口座を通じてドルとして使用出来る。キャッシュカードもクレジットカードもあるし、電話代水道光熱費クレジットの支払いは口座引き落としで対応できる。巾着袋に金貨を詰めて持ち歩く人なんかいない。こんなもんだよ」

 

蓮がジーンズのヒップポケットから財布を引き出してハーマイオニーの膝の上にポンと放り出した。ハーマイオニーは見るまでもないという顔で額を押さえたが、パーバティが興味を示して財布を手に取った。

 

「見ていい?」

「いいよ」

 

蓮の許可を得て財布を開いたパーバティは首を傾げた。

 

「ハーマイオニー、なにこれ?」

「レンのマグルの銀行のキャッシュカード」

「これは?」

「レンがマグル社会で在学してることになってるヒースフィールド校の学生証」

「これ」

「ウィンストン家の家族用のクレジットカード」

「お金はどこよ?」

「ホグワーツやホグズミードでマグルの現金を使うことはないから、このお財布には入れてないんだと思うわ。わたしもそうしてる。でも、マグル用のお財布はわたしも持ってるし、やっぱりこんな感じの中身よ。いい、パーバティ、このカード1枚と頭の中に記憶してる暗証番号があれば、一番近いマグルの町まで行って、機械に通して現金を引き出すことができるの。学生証は身分証明になる。レンは今日、ホグワーツやホグズミードを離れるから、万が一の時に備えてこういうものを持って行ったということよ」

 

ハーマイオニーは自分の枕元の小さなバスケットから、自分の財布を取り出してパーバティに見せた。

 

「これが学生証。わたしはラグビー校の生徒という身分証を持ってる。キャッシュカードにクレジットカード。あ、少しは紙幣も入ってたわね。この紙がマグル社会の高額紙幣。そうね、ガリオン金貨2枚分ぐらいになるかしら」

 

何なのこれ、とパーバティは呆然としている。「こんな、ツルツルの薄い板でお金を用意出来るっていうの?」

 

「そうよ。そして今レンが説明してくれた内容によると、アメリカでは魔法族も、こういう形で経済活動を行なっている、ということになるわ。フランスはまだもう少しイギリスに近いけど、デラクール家の人たちもマグルの銀行口座を持っていることは知ってる。そうじゃなきゃ公共料金の支払いが面倒だからって」

 

ウィンストン家はずっと理事会にマグル学の必修科目化を訴えてきた、と蓮は平板な声を出した。

 

「え?」

「ゴドリックの谷は、わたくしのひいおじいちゃんの代で払い下げるまで、ウィンストン家の領地だった。意図的にマグルと魔法族の人々を同じ集落に住まわせてきたんだ。でも、20年ぐらい前から、生活水準の格差が開いてきて、マグル社会に対する理解が及ばなくなり始めた。同じ食料品店で買い物をするんだけど、方やクレジットカード決済、方や現金決済。それだけならまだ問題とは言えない。でも家に固定電話がないから、雑貨屋の公衆電話を使うのはもう魔法族だけ。採算が取れないからと電話会社は撤去したがってるけど、赤字をウィンストン家のチャリティの収益から補填する条件で公衆電話を維持してる。でも問題はお金なんかの次元じゃないんだ。イギリス国民として当然の生活水準から切り離され、そのことを魔法族が認識さえしていないってことなんだ。その責任があることに、ダンブルドアは今夜初めて直面したんだよ」

 

レン、とハーマイオニーが心配そうに眉を寄せた。「あなたがダンブルドアを責めたの?」

 

「責めるまでもなかった。わたくしがグリンデルバルドとの面会を済ませて、エレベーターで降りて合流した時点でもうよろけてた。ヌルメンガードの環境が近代的過ぎてね」

「じゃあ、ダンブルドアに理由は聞かなかったの?」

「聞いてないよ。聞けばダンブルドアを責めるような表現を避けられない。そういうことをしていられる状況じゃないんだ、ハーマイオニー。イギリスの魔法族の生活水準の前近代性は、もう道を歩くだけで機密保持法違反に問われてもおかしくないレベルなんだから。イギリス、特にイングランドの魔法族は国連軍が介入して制圧することさえ決議されてるんだよ」

 

ハーマイオニーとパーバティが弾かれたように蓮を見つめた。

 

「もちろん警告も無しにいきなり攻撃してくることはないし、今はグランパが駐米大魔法使いとしてアメリカに住んで、あちこちの大魔法使いと社交しながら、イギリスの改革の意思を伝えて回ってる。でもそれまでの対応が酷過ぎた。反人狼法で近隣諸国に迷惑かけまくって、そのことへの苦言や勧告にも、クラウチが死んだ後に後任を据えなかったせいで、まるまる無視する結果になった。わたくしには、ダンブルドアだろうと誰だろうと責めたりしてる余裕はないんだ」

 

パーバティが慌てたように「でもほら、国連の議長はレンのおばあさまなんだし」と言うが、ハーマイオニーは首を振り、蓮ははっきりと苦笑した。

 

「パーバティ、菊池家の魔女を甘く見てる。わたくしのひいばあは、第2次世界大戦当時の日本魔法大臣だった。日本魔法族が国際魔法社会から非難されるのを躱すために、魔法族としての戦争協力をしないと決めたんだ。日本の魔法族の若者たちももちろん徴兵されたけど、マグルの兵士たちと同じ条件で戦った。そのひいばあに対して、アメリカやイギリスの魔法族は人質を要求した。ナチスとグリンデルバルドの協調に頭を痛めていたから、日本魔法族まで同じことをしちゃ困るって。その人質が、国連議長をやってるばあばだ。ばあばは人質としてホグワーツに来たんだ。最近の例を挙げるなら、わたくしのママ。娘に法的な不利益が生じることがわかっていても、シリウスの裁判で脱獄の手段を明らかにした。身内だから手を緩めるような公私混同を絶対しない魔女ばかりなんだよ。むしろ逆。身内だからこのぐらいの試練には耐えるだろうっていう見込みで、とんでもない負荷を平気でかけてくる」

「・・・それは正しい行為だと、あなたはわかってるんでしょう?」

 

ハーマイオニーの質問に、蓮は目を閉じて何度か軽く頷いた。

 

「わかってる。そこのところはもう大丈夫だ」

「円卓の魔法戦士がそろそろ必要なんじゃない?」

「うん。そろそろわたくしひとりでは厳しくなってきたね」

 

 

 

 

 

パーバティが眠ったことを確かめて、ハーマイオニーは声をひそめて蓮に話しかけた。

 

「あなたさっき、日本の魔法族もマグルと同じように徴兵されたって言ったわよね」

「・・・バレたか」

「それってつまり、日本では魔法族も出生記録が魔法省以外の公に記録されるってこと?」

「そうだよ。日本人なんだから。マグルと同じように義務教育を受けて、途中から転校する体裁で魔法学校に入学する。成人したら納税の義務もある。その代わり、魔法省以外に関しても参政権がある」

「イギリスの・・・例えばスリザリンにありがちな純血の・・・」

「出生証明書や結婚許可証は存在しない。純血の魔法族がマグル生まれと結婚するためには、そういう書類の作成を魔法省に申請することから始めなきゃいけない。ついでに言うと、スクイブはもっと悲惨だ。早くから魔力がないと諦めて、マグルとして通用する出生証明や両親の結婚許可証なんかを揃えて、初等教育から受けさせれば、もっと将来性が広がるはずだけど、ホグワーツの入学許可証が届かなかった時点でスクイブだと決まる。義務教育を受けることも出来ず、魔法も使えない。イギリス政府はもちろん、魔法省も存在を把握していない存在として、とても少ない選択肢の中を生きていかなきゃいけない」

 

ハーマイオニーはきつく目を閉じた。

 

「・・・なんてことなの」

「ウィンストン家が領主だった時代には、うちの領地だけは魔法族もマグルも同じように生まれた時点から登録してた。でも、貴族が領民を管理する時代が終わってしまうと、魔法省やホグワーツの良心に期待するしかなくなった。グランパやママは我慢出来なくなって、せめてマグル学を必修科目にして、イギリス国民として最低限の尊厳がどこにあるのか教育して欲しい、って訴えてきたけど、純血主義者たちはマグル学を必修の授業にするなんて、我が子をマグルと番わせるような不適切な教育方針だと断じて認めなかった」

「想像はつくけど・・・愚かしいわ」

「うん。グリンデルバルドも言ってた。自分は純血主義者ではあるが、イギリスの純血主義と一緒にして欲しくない、って。グリンデルバルドの純血主義は、もっと緩やかなものなんだ。魔法使いと魔女が結婚するべき。ただそれだけ。同じ国内という縛りは無いし、マグル生まれは違うという認識でもない。グリンデルバルドの純血主義は、魔法族であることを隠してマグルと結婚すること、つまり結婚の最初の時点で虚偽があることへの反論のようなものだった。確かにそれは合理的だと思ったよ。ただ、あの人は、計算高過ぎるね。人がそんなにも合理的な姿勢を貫くことは難しいと思う」

 

たぶんグリンデルバルドも蓮にだけは計算高過ぎるとは言われたくないだろう、とハーマイオニーは思った。


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