翌朝、蓮の水の魔法で二日酔いから奇跡的に免れたハーマイオニーと蓮が「半純血のプリンス」についての考察を述べると、ロンとハリーは安心したようにニヤニヤと笑い始めた。
「だったらさ、ハリー、あれ試してみろよ」
「でも正確な発音わかるか? それに何が起きるかイメージ出来ない魔法を発動させたことってないからなあ」
蓮がその2人にはっきりと言った。
「わたくしが大丈夫だ、と断言するのは『魔法薬』の記述だけだよ。出どころのわからない呪文らしき何かに関しては、一切責任は持てない」
「でもほら、わざわざ予習するような真面目な奴のやることなんだからさ」
「真面目な奴かどうかもわかんないからね、言っとくけど。わたくしも去年、少し試したことあるから、魔法や呪文を作ることは出来るんだ。NEWTクラスに入った学生は、そういう遊びもするものだってママは言ってた。生徒同士でかけ合って悪ふざけするような魔法もあれば、シャレにならないひどい効力を発揮する魔法もある。出どころのわからない呪文は使わないことを勧める」
蓮の隣にいたジニーが「魔法薬は大丈夫って、それは間違いない?」と確かめる。これにもまたはっきりと断言した。
「魔法薬は問題ない。ここにある、この本。これはわたくしのひいじいが書いた魔法薬学の教科書だ。多少教育課程が違うから完全一致じゃないけど、プリンス蔵書の魔法薬のレシピに関する書き込みは、ほぼ全部、この中に書いてある」
「・・・読めないわ」
「ロシア語だからそれは仕方ない。フローリシュ・アンド・ブロッツで確かめたら、英語版はもう絶版になったけど、10年ぐらい前までは参考書や副読本として購入する人がいたらしい。だから、このプリンスは、ひいじいの本のレシピで予習して教科書に書き込みしていた可能性が高い。断言出来るのは、魔法薬だけは大丈夫だ、ってこと。それ以外の自作らしき呪文を使うことは、わたくしなら絶対にしない」
脱狼薬の理論を構築する論文を、英語に直しながら朗読していると、ハーマイオニーが我慢出来なくなったように真剣にメモを取り始めた。
「ハーマイオニー」
蓮は呆れて朗読をやめた。
「これは理論の範囲だ。ここから脱狼薬の実作までには10年以上かかってる。この論文を読んでも脱狼薬が出来るわけじゃないからね?」
「それはわかってるけど、気になることはメモしておきたいの。今あなたが読み上げた箇所は素材の産地だったわよね? それってロシアの地名?」
「いや、これは・・・今はたぶんドイツじゃないかな。その前のやつは、カナダの五大湖あたり」
「どうしてそんなに飛び飛びなの?」
「ひいじいは、ロシア革命の後、共産主義に急速に移行するロシア、つまりソ連を嫌って出国したんだ。それから世界各地を回って日本に落ち着いた。ひいじいの功績で一番大きなものは、離れた土地の素材を組み合わせた魔法薬のレシピを考案したことなんだ。それまでは、イギリスならイギリス、ロシアならロシアで素材を揃えてた。国際性豊かな時代じゃなかったからね。輸出入を前提とした魔法薬が出来るようになったのがひいじい以後。飛び飛びなのはそんなわけだから我慢してくれたまえ」
それって天才的よね、とパーバティが唸る。「時代を変える発想の転換点がレンの『ひいじい』なのよ。曽孫を見慣れてるから違和感がすごいけど」
「そうね・・・でもそういえば、あなた、魔法薬学の授業でスネイプにいびられることなかったわね」
「うん。わたくしはネビルがいびられないように、いつもハーマイオニーたちと違うテーブルを使ってたから」
「・・・するっと逃げるのが上手いのよ。でもそれだけじゃないわ。あなた自身、魔法薬学は得意よね?」
「得意っていう自覚はないけど、苦労はしないね。それはやっぱりひいじいがいたからじゃないかな。身近に毎日毎日魔法薬の調合をしてる人がいたわけだから、目で見て習慣的なものとして記憶してる動作がかなりあるんだよ。そういう部分が有利に作用してると思う」
ハーマイオニーとパーバティは顔を見合わせた。
「入学前にフリットウィック先生がおっしゃったこと、レンを見てると実感するわ」
「何を言われたの?」
「マグル生まれは不利なんじゃないかっていう部分でね。やっぱり日常の生活の中に魔法があるのとないのとじゃ、下級生のうちは多少の差異は出るっておっしゃったの。学年が進めば気にならなくなる程度とおっしゃったけど、レンが相手だとねえ」
パーバティは苦笑して「コレはレベルが変だから、基準にしちゃフリットウィック先生に悪いわよ」と宥めた。
「それはそれでわかってはいるの。身の回りにいる人たちの水準が、一般的な純血のレベルを超えてるんだもの。鍛え方も常軌を逸してたし」
「そういえば、レンの母方のほうは東欧系なのね?」
「うん。ママは4分の3がダームストラング製って感じだね。だからじゃないかな、わたくしやばあばの闇アレルギーはママにはほとんどないんだ」
「え、それって東欧と関係あるの?」
蓮は軽く頷いた。
「グリンデルバルドがナチスと手を結んだことから、まだ魔法界からブルガリアやダームストラングに対する反感が薄れてないけど、もともと東欧には闇の魔法を使うことに対する忌避意識が薄いんだ。この魔法は闇、これも闇、ってシンプルに分けることはあまりしない。状況や程度、頻度を総合的に判断して悪質性が高いかどうかが問題であって、闇の魔法という種類が厳然と存在するという考え方はしない。イギリスやフランスは、東欧の魔法界のそういう面を嫌がる傾向がある。だからわたくしは、親戚がいるっていうのに、ブルガリアやロシアを訪ねたことがなかったんだ。平等にフランスもね」
「でもあなたのお母様は騎士団員だし、闇の魔女ということはないでしょう」
「うん。単なる体質の問題。それに、一般的な魔女よりも闇の魔術には弱いよ。ミネルヴァとママは、同じようにアズカバン研修を泊まり込みでクリアしたけど、ミネルヴァは毎日尋問後にレポートを書いたのに対して、ママはその余力がなかったから、レポートは内地に帰ってからまとめて書く羽目になったって言ってた」
ハーマイオニーが真剣な表情になった。
「アズカバン研修、ですって?」
「ミネルヴァから聞いてない? 魔法法執行部では入省して1年は研修期間なんだ。裁判の進行だとか、容疑者の尋問だとか、学校では学ばないことがいろいろ必要だから。その中に『地獄のアズカバン研修』がある。ディメンターの影響下で、容疑者の体調をモニタしながら尋問する訓練だ。1日に最大6時間の聴取が可能で、総合すると50時間ちょっと必要。でも、1日6時間はかなりハードだし、箒で北海の真ん中まで通勤することになる。3年生の時のクィディッチの試合みたいな悪天候の中をね。だから、この研修をクリアするのに1ヶ月かける人もいるんだよ。ママとミネルヴァは、アズカバンに泊まり込んで1日6時間のペースを維持したから10日足らずでクリアした。これが『地獄から来た魔女』アズカバンのスクイブの看守や収監者の間の伝説なんだ」
「・・・それは選択制には出来ないの?」
「ダメなんだよ、必修」
「どうしてよ! アズカバンで尋問なんて、実務ではあり得ないでしょう? 裁判が終わってからアズカバンだもの」
蓮はニヤニヤした。
「ざーんねんでーしたー。悪質な刑事事件の大法廷では、警備のために法廷内にディメンターが配備されることもありまーす。ハーマイオニー、動物もどきになるといいよ」
「・・・ほ、箒以外の通勤手段は」
「スクイブの看守を空飛ぶバスで送迎する手段に便乗することは出来る。でもスクイブの勤務時間が6時間だから、やっぱり6時間のアズカバン滞在は変わらない」
「ええ。伯母から聞いてたわ。伯母の場合は、1日4時間が限界で、翌日は箒に乗る余力がなかったから、1日置きに4時間ずつのペースでクリアしたそうよ」
「・・・スーザン、さてはあなた、箒が得意なのね?」
スーザンは目を丸くした。
「まさか。クィディッチは観るだけよ。単なる移動手段だもの、得意だなんてとても言えないわ」
「3年生の頃のクィディッチの試合の日みたいな天候で飛べるものなの?」
「あ、それなら伯母からコツを聞いてるわよ。あのね、雲を突き抜けて、雲上を飛ぶといいのよ。下が見えないからコンパスや距離感を補助する道具は必要だけど」
にしし、と蓮が楽しげに笑った。
「往生際が悪いな、ハーマイオニーはー。大事な試練なんだから逃げ腰になるなよう」
「そうね。わたしも気は進まないけど、それをクリアしなきゃ法執行部に正式に入れないんだから、頑張るしかないわ。ね、ハーマイオニー」
「もしくは、動物もどきの世界へようこそ! まだ20世紀が終わるまでに猶予があるよ!」
「レンったら。ハーマイオニーなら頑張れば出来ないことは何もないだろうけど、NEWTで一定の成績を獲得するのと動物もどきになる努力の同時進行はすごく大変だと思うわよ?」
スーザンの優しい言葉に蓮は大仰に感じ入ったように手を胸に当てた。
「スーザン、なんて純真な・・・ハーマイオニーの苦手なことのひとつが、箒なんだ。4本のタイヤが無いもののことを信用しない。自転車にも乗れないし、箒で空を飛ぶとなると・・・ドーバー海峡に墜落しなかったらパーティを開いて健闘を称えられるべきだと思うよ」
反射的にルーン語の辞書を手にして、間に座っていたスーザン越しに蓮に投げつけた。
それを、ひょいと無言のまま杖先だけで浮遊させ「あっぶないなあ。図星刺されたからって大事な辞書に八つ当たりするなよー」と笑われた。
「ハーマイオニー」
スーザンが苦笑して蓮から辞書を取り返してくれた。
「いざその時が来たら、一緒に箒のトレーニングをして、一緒に試練に立ち向かいましょう。ね?」
「うん、それがいい。スーザンが一緒なら、墜落地点の迅速な特定が可能だ」
流れるような無言呪文のナメクジの呪いを、やはり流れるような無言の盾の呪文で蓮が弾いたせいで、パンジー・パーキンソンが大量のナメクジを吐き出し始め、スーザンは溜息をついてハーマイオニーと蓮の杖腕を机の下に隠してくれた。
「2人とも、才能の無駄遣いは控えましょう? ね?」
「パーキンソン? あいつルーン語なんか出来るのか?」
「出来るからNEWTクラスにいたんでしょうよ」
「残念ながら誰かさんの超強力ナメクジのせいで今日の授業は受けられなかったけどねー」
「あなたが弾くからよ!」
ハーマイオニーの剣幕に驚くハリーとロンに、スーザンが手早く説明してくれた。
聞くうちに、ハリーとロンが脱力していき、呆れたように頭を振る。
「君たちは成人したんじゃなかったのか? ハーマイオニー、君までアルジャーノンに合わせて退行してるんじゃないだろな?」
「防衛術ではみんなウンウン唸って便秘中のトイレみたいな有様なのに、流れるような無言呪文を子供みたいな喧嘩に使うなよ」
スーザンがハリーとロンに感謝するように笑いかけて、同じハッフルパフのアーニー・マクミランと同じテーブルに向かった。
「さあ、レン、今日はアモルテンシアの予定だ。予習は?」
「パーフェクト」
似たような会話を交わしたハーマイオニーにロンが「やったぜ。これで僕の魔法薬学もレベルアップだ」と言う。
ハーマイオニーはまったく見下げ果てた奴だと言いたげな冷淡な視線で「予習をしたのはわたしよ。何もしていないあなたに見せるとは言ってません」と告げた。
「そりゃないぜ!」
ハーマイオニー、と蓮が口を挟む。
「なによ?」
「英訳したのはわたくしだ。ロンにも目を通す権利がある。そういう目的もあって英訳したんだから」
昨夜せっせと書き込みをした教科書をロンに貸し出し、代わりにロンのーー先週のこの時間以来一度も開いたことがないと思われるーーきれいなままの教科書を使って、教科書通りの調合をしたハーマイオニーのアモルテンシアは、真珠貝のような光沢を得ることはなく、湯気が螺旋を描くこともなく、ただもくもくと濃厚なインクの匂いを放っているにとどまった。
「いや、こりゃこりゃたいしたものだ! たぶん君がアドバイスをしたんだろうね、ミス・ウィンストン」
「いいえ、スラグホーン先生。良い参考書を貸し出しただけです」
「君のそういうところはまったく母上にそっくりだ。アンドリアーノフ博士の魔法薬学の才能を受け継いだ母上は、いつも友人たちに知識を分け与えることを惜しまなかった」
蓮はニコリと微笑んで会釈した。
「そうそう、君に会えたら是非頼みたいと思っていたのだがね」
「何でしょう、スラグホーン先生」
「アンドリアーノフ博士の脱狼薬概論を英訳してくれないかね。英訳本を以前は持っていたのだが、引っ越しを重ねるうちにどこにやったやらわからなくなってしまったのだ。手に入るのがロシア語版だけときた。君なら、ん?」
窺うようにスラグホーンが蓮を見遣ると、蓮はまたニコリと微笑んで「もちろんです。数日お時間をいただければ」と気持ち良く応じていた。
その向こうのテーブルでは、ドラコ・マルフォイが落ち着かなげにちらちらと蓮を窺っているのに、ハーマイオニーは気づいた。
「変な意地張らなきゃいいのに」
蓮は部屋でハーマイオニーのくせっ毛をピンと引っ張って言った。
「うるさいわね、今日はそういう気分だったのよ。でも、今の魔法薬学、マルフォイがあなたをやたら気にしてたわよ。今年も何か言ってくるかも」
ひいじいの論文の話の時だろ、と蓮は苦笑して言う。
「そうそう! スラッギーが英訳を頼んでる時よ」
「読みたいんだよ、たぶん」
「え?」
「マルフォイ、イコールスリザリン、スリザリンの嫌な奴、純血主義者、死喰い人。でもそれだけがあいつの持分ってわけじゃない。魔法薬で何かきちんとしたものを残したいという思いも持ってる。その中でも、感染症の根絶に関心があるんだ。あいつの爺さんが龍痘で死んだから。みんながホグズミードに行った日に、わたくしを呼び出してマグルの感染症対策について質問したことがある。ひいじいのことも知ってた。スリザリンの中でそういう話の出来る相手はいないんだろ」
ハーマイオニーはしばらくその情報を咀嚼してみた。
「そして、アンドリアーノフ博士の曽孫のあなたに質問するチャンスも、ホグズミード行きで人が少ない日だった?」
「たぶんね」
「死喰い人側に人狼がいるから、感染症の中でも、おじいさまを亡くした龍痘と、今の環境で身近にいる人狼病に意識が向いてる」
「あと、脱狼薬がまだ完璧な薬というわけでもないから。調合は恐ろしく難しいし、副作用が否定されてない。よりシンプルな調合レシピを発見するだけでも効果は絶大なんだ。レシピがシンプルになればそれだけミスの確率が下がる」
「驚いた。マルフォイにそういう人道的な側面があるなんて」
蓮は笑って首を振る。
「人道的な観点からじゃない。もっと単純な話だよ。より難しく、新しいものにチャレンジしたいんだと思う。わたくしが説明したから、頭の中にはワクチンの開発っていうアイディアもあるだろうし」
「・・・そうね、そういうことだったの。あなたがたまにマルフォイを庇うような物言いをするのが不思議だったけど、謎が解けたわ」
「ん。グリフィンドールとスリザリンだとか、騎士団と死喰い人だとか、対立してしまう要素は確かにあるけど、戦争が終わった後のことも考えておきたいんだ。永遠にグリフィンドールとスリザリンでいるわけにはいかないんだから」
ハーマイオニーはトン、と蓮の机の上に羊皮紙の束を置いた。
「英訳を2部ね。手伝うわ」
蓮がゆっくり朗読するのを、ハーマイオニーとパーバティがそれぞれ羊皮紙に書いていく。英訳をパーバティも欲しがったので「一部を書写すれば、それを書き写して持っていていい」という条件で釣れたのだ。
「今日はここらへんにしとく?」
序論と第1章が終わったところで蓮が声をかけると、パーバティが「助かった」と背を反らし、肩を回してストレッチをした。
「マダム・ポンフリーの気持ちが理解できるわ。天才肌の友人たちに餌で釣られて、さんざんな冒険を幾度も繰り広げる羽目になったなんて」
「バジリスク退治よりマシでしょう? 命の危険はないわよ」
「命の危険というレベルでは敵わないけど、去年のヴィクトリア2世プロジェクトのおかげで、夏はママから大量に課題が出たのよ」
「叱られたの?」
「まさか。ママ自身が反人狼法には大反対だったもの。論評もよく書けてるって褒められたわ。ただ・・・OWLイヤーにこれだけの論評が出来るんだから、弱気にならず癒学方面に進みなさい、って」
蓮が「じゃあなんで魔法薬学にいないのさ」と唇を尖らせた。パーバティが面倒そうに顔をしかめる。
「ラベンダーに付き合ってトレローニー先生の占い学を入れたから、あなたたちとは別の時間割になったのよ」
「・・・NEWTクラスで占い学なんてあるんだ」
「わたしもまさかと思ってたけど、ラベンダーがどうしてもって言うから、キツキツのスケジュールってわけでもないし、まあいいかって」
ハーマイオニーが時計を見て「あ、見回りの時間だわ」と部屋を出て行った。
それに手を振って見送ったパーバティが「レン」と横目で蓮を睨む。
「なんだよう」
「ハーマイオニーを焚きつけて、ロンと早くくっつけられないかしら?」
蓮は顔をしかめた。
「えー。めんどくさいよ。ほっとこうよ」
「ラベンダーが割り込む気満々よ」
「は?」
ぽかんと口を開けて蓮が一時停止した。
「突然ラベンダーがロンを意識するようになったの。意識するようになったと聞いた翌日には、愛の詩を書いてくる始末よ」
「何その暴走機関車」
「それ。まさにそれよ。ハーマイオニーの気持ちはずっと前からわかりきってるけど、ラベンダーとも付き合い長いから、無下にするわけにもいかないでしょう? 周りで恋愛トラブルなんて御免よ? 当たり障りない返事で躱してるけど、そのうちに何かしら暴走を始めそうなの」
蓮は渋い顔で自分の椅子をギイっと後ろに倒した。机に脚を載せてバランスを取りながらギイギイと揺らす。
「んー・・・放置で!」
「めんどくさいだけでしょう!」
「確かにそうだけど、ハーマイオニーのめんどくささ、パーバティだってわかってるだろ。ラベンダーはラベンダーでめんどくさそうだし。ロンがどうにかするのがベストなんじゃん?」
パーバティは「あなたってほんとにこういうことには頼りにならないわね・・・」と虚ろな瞳で呟いた。「得体の知れない大蛇を殺してくるとか、変身したルーピン先生を狩ってくるとか、トムくんのパンツの心配するとか、服従の呪文をかけられたクラムをふっ飛ばすとか、アンブリッジを水責め拷問するとか、そういう方向にだけは無駄に頼り甲斐あるのに」
「人には得手不得手というものがあるのだ」
「ロンだって得意じゃないと思うわよ、絶対に」
んー、と蓮はまた唸った。
「でも当事者だしさー」
「わかる? わたしはね、ハーマイオニーにもラベンダーにも痛い目に遭って欲しくないの」
「それなら大丈夫だよ。ハーマイオニーは基本的に暴力は振るわない。ブルストロードとレスリングを始めたのは、毛を毟るのが目的だっただけだ」
「・・・なんでそっちに解釈するのよ」
「違うの?」
「物理的に痛いんじゃなくて、心がよ、ハート。ここの問題」
パーバティが自分の胸を押さえて主張する。
「そこの問題ならなおさら当事者間で解決するのを観察して楽しもうよ」
「楽しめるの?」
「たぶん?」
甚だ頼りない台詞をにこやかに放たれ、パーバティは頭を抱えてしまった。
ハーマイオニーが書写した論文の束を丸めて持った蓮は、玄関ホールをひとりで歩くマルフォイをちょうどよく見つけた。
「マルフォイ!」
「・・・何か用か?」
ただでさえ青白い細面の顔が、これまでよりずっと不健康そうに見える。
「余ったからやるよ。ひいじいの論文だ。英語にしてある」
筒状に丸めた状態で、ぽんと投げ遣ると、マルフォイが目を丸くして慌てて両腕で抱き留めるように受け取った。
「な、なんてことするんだ! こんな束、ばらばらになったら」
「なっても並べ直せるようにハーマイオニーがページ数を入れてるよ」
「グレンジャーが?」
「マルフォイも読みたそうな顔してた、って教えてくれたのはハーマイオニーだ。それで思い出した。去年脱狼薬の調合を訓練だって言ってやってたろ? パーバティもハーマイオニーも論文の英訳欲しがったから何部か写させたんだ。それは君の分」
マルフォイがまじまじと羊皮紙の束を見つめた。
「じゃあねー」
手を振って歩き出すと「ウィンストン!」と、マルフォイが呼び止める。
「んー?」
「い、いいのか? 僕は」
「魔法薬学のセンスのある奴だ。他にそれを読むのに必要な資格なんてない」
「僕は」
「何か特殊な印でも手に入れた? でも、それは君の分だよ、マルフォイ」
ニッ、と笑うと、マルフォイは一瞬泣き出しそうに見えた。
「君たちが勝手にしたことだ。礼は言わないぞ」
「あー、うちの部屋に蛙チョコ1ダースあればいいなー」
翌朝、朝食のテーブルについた蓮、ハーマイオニー、パーバティの前に、それぞれ1ダースずつの蛙チョコの箱が届いた。
「・・・誰から?」
「円卓の魔法戦士候補、魔法薬担当予定。カードはわたくしに寄越せよ」
「ねだったのね」
「はいはい」
蓮の目の前に合計24枚の蛙チョコカードが置かれた。自分の分と合わせて36枚一気に揃ったコレクションを扇状に広げて、蓮は満足げにウンウンと頷いた。