「つまり、ホークラックスの数を、より正確に推定することで、効率的な作戦立案が可能になるということなんだ」
ハリーが、ロン、ネビル、パーバティを相手に説明していると、憤然とした足取りでハーマイオニーが戻ってきた。
「レンはどうしたのよ?」
「置いてきたわ。後をスーザンに任せてね。ダンブルドアに呼ばれたり、円卓の間の会議をしたりで、もう4日目の夜更かしだから、眠くてグズり始めたのよ」
それをスーザンに押しつけないで連れて帰れよ、とハリーが指摘した。
「どうせあなたがキツイ言い方したんでしょう」
「わたしの天才的な閃きをゲーム脳だのドレインだの、失礼な言い方するからよ」
「・・・だからってスーザンに押しつけることないんじゃないか? スーザンは円卓の魔法戦士なんだろ。レンの子守みたいな扱いするなって」
ハーマイオニーはそれを無視して、ハリーが説明に使った羊皮紙のメモを取って眺めた。
「ホークラックスの数? 創始者由来の記念品4つ。これ間違ってるわよ、ハリー」
「なんでだよ。グリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフで4つだろ」
「グリフィンドールの剣はホークラックスに使ってないことが明らかだもの。だからそれを外して3つね」
「他にも持ってるだろ、普通」
足を引きずるように帰ってきた蓮が顔を並べた。
「創始者の記念品といえば4つだ。グリフィンドールの剣、スリザリンのロケット、レイブンクローのダイアデム、ハッフルパフのカップ。この4つは、創始者が揃ってゴブリンに注文した宝物で、公式に確認可能なのはこの4つだけだ。他の私的な所持品の類は、信憑性が薄くて創始者の宝物とはみなされない。このうち、スリザリンのロケットは、ぺヴェレル家の復活の石と一緒にゴーント家が所持していた。だから、グリフィンドールの剣無しの3つプラス復活の石は確実だと思う」
復活の石?! とパーバティが飛び上がるように蓮の首にしがみついた。
「れ、レン、レン、本当なの? 死の秘宝が、トムくんのものなの?」
「トムくんはそう思ったんだろ。重いよパーバティ」
「ほ、他の2つは?! まさかそれまで・・・違うと言って! パパの趣味よ、夢なの! 死の秘宝伝説の検証がパパの夢なのよ!」
蓮は顔をしかめて、パーバティを引き剥がした。
「ニワトコの杖と透明マントはトムくんのものにはなってない」
「行方はわからないままなのよね? ね?」
「わたくしはよく見るけどね」
「つまりウィンストン家の宝物なのね?!」
違う、と蓮はしょぼしょぼする目をぐしぐし擦った。「人聞きの悪いこと言うな。それにこの2つは、所有者を明かしちゃダメな代物だ。死の秘宝伝説を知ってるならわかるだろパーバティ」
「あ・・・ニワトコの杖は所有者を狙った犯罪を招く。透明マントは、死から隠れおおせる唯一の品。そうよねー! いいの、忘れて・・・パパの夢はまだ破壊されてないことにするから」
蓮とパーバティの話を聞いていたメンバーが「死の秘宝? なんだそりゃ」と首を傾げた。「ラブグッド的伝説か?」
パーバティが「違うわよ。ラックスパートと一緒にしないで」と胸を張って解説を始めた。
真剣に聞いていたハーマイオニーが「そうね。少なくともニワトコの杖は歴史にもたびたび登場する宿命の杖のことだと思う」と納得した。「透明マントは・・・割とよく売ってあるけど・・・死から逃れると断言するには弱い気がするわね」
「ハリーの透明マントはああいう安物とは違うぜ」
蓮が「あれはポッター家に伝わる宝物だよ。そこらの安物と次元が違う出来なのは間違いないけど、死に覗き込まれても見つからないってほどとは思えないな」と、ボソッと言った。
「少なくとも、ダンブルドアには見つかった」
ハリーが笑いながら否定した。「1年生のクリスマスだ。みぞの鏡をマントを被って毎晩見に行ってた時、最後にはダンブルドアに見つかったんだ。死の秘宝だなんて大それた宝物なんかじゃないさ。それより、レン、君、ものすごく眠そうだ。寝たほうがいいんじゃないか?」
パーバティが蓮を抱えるようにして女子寮に引っ込むと、ロンが「ハーマイオニー、パーバティは円卓会議に呼ばないのか?」と首を傾げる。
「呼ばないと決めたわけじゃないわ。どうして?」
「君たち2人の意見が対立した時に、スーザンひとりじゃ荷が重そうだと思ったんだ。君もレンも、子供みたいな喧嘩を始めるからさ。そういうのの仲裁なら、パーバティが一番慣れてる」
「そんな理由で招くのはパーバティに失礼よ。彼女は癒者を目指してるの。目前の問題が片付いたら癒療の専門家も入れるつもりだし、その時にはパーバティに一番期待してるけど、それまでにはまだ時間がかかるわ。今から束縛するのはどうかと思う」
ハリーが笑って「どうせそのつもりがあるんなら早く誘ってしまったほうがいいんじゃないか? 君たちは部屋でもブツブツ言い合いするだろ。とっくに方針を共有する仲間なんだ。早くきちんとした形になったほうが余計なストレスを減らせる」とロンに賛成した。ネビルも頷いて「ハーマイオニー、部屋のメンバーでひとり残ってるのはつまらないものだよ」と苦笑した。
部屋に戻ると、まだ蓮がグズっていた。
「ハーマイオニーがわたくしのことバカにするんだ」
「バカにしたんじゃなくて、あなたが眠くてグズるのに疲れただけよ。ね、レン、もうわかったから寝なさい」
「そうやってみんなわたくしを子供扱いする」
「してないわよ。ほら、怖いハーマイオニーが帰ってきちゃった。叱られるわよ?」
毛布から目だけを出した蓮が、眉を寄せてハーマイオニーを睨む。もちろんハーマイオニーはそれを華麗に無視した。
「・・・わたしは将来、子供を産まないことにするわ」
やっと蓮が寝息を立て始めると、ハーマイオニーは首をぐるぐる回しながらブツついた。
「はいはい。そんなことより、あなたたち、スーザンの前で喚き合ったんですって? 彼女は慣れてないんだから、少しは配慮しなさいよ」
「そのことなんだけどね、パーバティ」
ハーマイオニーは、ロンとハリーの意見を伝えた。
「あなたさえ良ければ、と思うの。今あなたが言った通り、スーザンの負担は大きいだろうし。あなたが癒者になるのを待つつもりだったけど、早いほうがいい気もしてきたわ」
「・・・構わないけど、子守?」
「トムくんの問題、国連への回答としての人狼病対策。当座のテーマがそれだから、当分はわたしたちのコントロールが中心になりそう。もちろん癒学界にだって改革の必要性はきっとあると思うから、癒者になったら、そのあたりも提言が欲しい。どう?」
パーバティは腕組みをした。
「人狼病対策には、当てがあるの?」
ハーマイオニーが僅かに目を逸らし「・・・マルフォイよ」と答えた。「あの論文をマルフォイにあげたのは、レンなりの最終チェックだったみたい。マルフォイが感染症に強い関心とモチベーションを持っているのは去年から知ってたけど、今どうなのかを確認したかったんですって。その結果、たとえこの戦争で敵対関係にあっても、マルフォイを巻き込むことに決めたそうよ」
「あなたはどう思うの?」
パーバティの不快そうな声にハーマイオニーは苦笑した。
「天地がひっくり返るぐらい、我ながら意外だけど、良い選択だと思ったわ。本当を言うと、今日のマルフォイを見るまでは半信半疑だった。でも、アレは本気で苦しんでるわね、きっと。ね、パーバティ、わたしは思ったの。今はトムくんに振り回されて、敵味方になっていても、この先、20年30年とかかる一大事業を抱えているのに、目先の敵味方にこだわっていちゃいけないわ。20年後30年後に実力を発揮する人材を確保しようと思ったら、今の敵味方にこだわる余裕なんてないのよ」
「それはそうだけど・・・」
「その意味でも、あなたを早く確保しておくべきだとも思う」
パーバティは肩を竦め「レンの意見も確かめてね」と返事を保留した。
「パーバティも来て」
必要の部屋に向かう蓮が、パーバティの腕を引いた。
「ハーマイオニーに聞いたの?」
「うん。パーバティが必要だ。じゃないとハーマイオニーが横暴なんだ」
まだ睡眠不足の節があるな、と思いながらパーバティは立ち上がった。
「レディには連絡がついたわ。今度の休みの日に、叫びの屋敷で待ち合わせることにした。そうね、スーザン、付き合ってくれる?」
「構わないけど、ハーマイオニー、ホグズミードへの外出日じゃないわよ?」
スーザンの怪訝な声にハーマイオニーは苦笑した。
「監督生としては大声じゃ言えないんだけど、抜け道があるの」
「そ、そういうことなのね。じゃあせっかくだからレンも」
行かない、と蓮がムスっと否定する。「抜け道使ってママに会うなんて子供のすることだ。担当はハーマイオニーなんだからハーマイオニーが行けばいいんだ」
パーバティが「はいはい」と、蓮が毟っているダンブルドアの蛙チョコカードを取り上げた。「こういうことしないの」
「それで、レン、アズカバンの代わりの施設のビジョンは何かあるの?」
「その前に考えなきゃならないのは、ディメンターをどうするかだよ」
「ディメンターを?」
「あいつらは、もともとは囚人なんだ。アズカバンで弱って死ぬときにディメンターにキスされる。そうしたら、ディメンターになるんだ。魂を吸い取られて。本来持っていた魔力が尽きるまで消滅しない。アズカバンを放棄するにしても、ディメンターは残る。新しいディメンターを生み出さないための具体的な対策を考えとかなきゃ、飢えたディメンターが本土を飛び回ることになるよ」
だったらそれを考えなさい、とハーマイオニーはきっぱり言った。「難癖つけるだけなら誰でも出来るのよ。少しは建設的な姿勢を見せて」
蓮が顔をしかめてそっぽを向いた。スーザンが溜息をつく。
パーバティはその蓮の顔を自分に向けさせ「ハーマイオニー、そろそろ限界だわコレ」と判断した。
「え? パーバティ、限界って?」
「アルジャーノン症候群はまだ回復途中なのよ、スーザン。疲れたり、睡眠不足が続くと、子供が寝る前にグズるみたいに、イヤイヤ病が出る。悪いけど、わたしはレンを連れて帰るわね。ハーマイオニー、スーザンと叫びの屋敷行きを打ち合わせてから帰ってらっしゃいよ」
パーバティが蓮を連れて出て行くと、ハーマイオニーは仕方なさそうに肩を竦めた。
「ごめんなさい、スーザン。幻滅していなければいいんだけど」
「そんなことはしないけど・・・ハーマイオニー、あなたも疲れてるんじゃない? ああいう状態のレンと、ほとんど一日中一緒でしょう」
「んー。疲れないと言うと嘘になるわ。でも、レンのサポートが今は一番大事な仕事だから。あまり優しくしてあげる気にはなれないけど、こっちの進行ぐらいはわたしに出来ることだもの」
「でも・・・ハリーたちのほうも、あなたのことだから知恵を貸してるでしょう? 疲れた時はちゃんと言ってね。大したことは出来なくても、何かしら手伝うつもりでここにいるんだから」
んー、とハーマイオニーは指を合わせて肘をつき、自嘲気味に笑った。「本音を言うと、ハリーやロンを心配してるというのもあるわ。今あの人たち、ちょっとした頭脳戦に挑戦中なんだけど、今までの傾向からすると一番の苦手分野なの。まあ、こっちはこっちでレンの一番の苦手分野だから放っておけないんだけど」
「レンの?」
「そう。アルジャーノンになる前のレンは、人とのコミュニケーションを避けてるところがあったの。たぶん、あのままだったら、ウィンストンの責務なんて知らん顔して、卒業したら日本に帰ってたでしょうね。アルジャーノンになってから、少しそういうところが変わった気がする。こうして、仲間を集めて、自分を手伝って欲しいって、その人に合わせて説明するなんてこと、初めて挑戦してるんじゃないかしら。わかる?」
スーザンは「なんとなく」と頷いた。「以前のレンは近寄りがたい雰囲気だったから」
「ええ。コミュニケーションを諦めてるような人だったのよ。自分の気持ちなんて誰にもわからないんだから、いちいち説明なんてしないで、自分がうまくやればいい、って。全部ひとりで背負う傾向が強かった。アルジャーノン症候群になったことは、そういう意味ではレンを救ったと思う。ただねー・・・不慣れだから、ド下手くそなの」
「ハーマイオニー・・・」
「本当なら、わたしたちみたいに成人したての人間だけで構成する組織じゃないと思うわ。でも・・・今のレンに、大人たちの知恵を上手に借りてくるのは、荷が重い気がするの。それよりも、要所要所では大人の手を借りるにしても、組織の中心は、わたしたちの年代で構成したい。レンが不完全だからこそ、そういうやり方のほうが、30年先40年先に得ているものが大きい気がする」
ハーマイオニーの言葉に、スーザンは少し考えて頷いた。
「それには賛成よ。ダンブルドアのように偉大な人にしか見えないビジョンでリードされるのもひとつの在り方ではあるけど、レンがダンブルドアみたいになったら・・・すごく寂しいわね」
「なれないから大丈夫よ。まあ、ロンたちのほうも気にはなるんだけど・・・そうだわ、スーザン、あなた、ホグワーツの創始者の宝物とか、死の秘宝のような、価値ある遺物について何か知らない?」
ハーマイオニーが説明する。
「トムくんが、コレクションするに値するもの・・・知らない、というか、彼は魔法界の歴史的遺物にそれほど詳しいかしら? 今の話によると、マグルの孤児院で育ったんでしょう。ホグワーツの創始者の宝物にこだわるのは理解できるわ。それは歴史的遺物だからではなく、ホグワーツの宝物だからなんじゃない? マグルの孤児院で育って、ホグワーツに来て初めて、自分の能力が魔法使いとして卓越してると自信を持つようになったのなら、ホグワーツに関するものには執着する気がする。死の秘宝は、闇の魔術で変性を起こさずに死を避ける手段としてなら目をつけるのかもしれないけど・・・そもそも彼にその知識があるかどうか」
「パーバティとレンは、当たり前のことのように話してたけど、知られていない話なの?」
スーザンは首を振った。
「魔法界で育った子供ならみんな知ってるお話があるわ。あなたも読んだことがあるかもしれない。ルーン語ではビードルの物語を教材にすることが多いから。三人兄弟の物語、知らない?」
「それ、あらすじだけ目を通して、あまり興味が持てなかったから、未読なの」
「そうね。荒唐無稽なおとぎ話ではあるわ。だからたいていの人は、子供の頃に読んだきりでそれ以上の関心を持たずに忘れていく。でも、おとぎ話の形式をとった実話と解釈することも出来るのよ。死という存在から杖や石やマントをもらったという部分はともかく、三人兄弟がそれぞれ才能ある魔術具製作者だったとすれば、その渾身の出来栄えの魔術具が残されていてもおかしくはないでしょう? 死の秘宝の探求者というのは、そういった観点から秘宝の実在を信じて研究する人たちのこと。でも、彼が魔法界のおとぎ話としての三人兄弟の物語を楽しく読んだというイメージは、少し難しいわね。逆にとうにおとぎ話になるほど昔の人物の魔術具にロマンを掻き立てられるタイプとも考えにくい。そうした経緯を抜きにして、死を制する者として秘宝を手に入れる、というのは想像がつくけど」
「ああ。だから、闇の魔術の媒介にはしなかった、という解釈になるのね。ね、だったらスーザンは、彼がどんなものを媒介に選んだと思う?」
拳を口元に当て、スーザンがしばらく目を閉じた。
「殺人の記念品、トロフィーと考えるなら、被害者を象徴するもの。でもこれは、レンのおばあさまの例以外に思いつかないわ。ハッフルパフの卒業生に、そういう意味で偉大な人物がいたとは聞かないし。実際に、レンのおばあさまの殺害には失敗してる。むしろ、自分自身を象徴するものかもしれない。そう考えると、スリザリンのロケットは気になるわ。スリザリンの末裔であることを重視するなら、それは極めて重要な遺物だし・・・身につけていられる・・・」
「え?」
「レイブンクローのダイアデムが結局誰の死を糧にしたのかはわからないけど、実際に闇の魔術の媒介になったのよね。でも、レンのお母さまの手で破壊された。ダイアデムを男性が毎日頭に載せて暮らすわけにはいかないから、どこかに隠してたんでしょうね。死を制するための、彼にとって最大の闇の魔術、命綱よ。複数作ったにしても、何かは必ず自分の身につけていると思うわ。全部をあちこちに隠してるとは思えない。そして、一番近くにあるのは、自分自身の象徴にすると思うの。今の案からすると、スリザリンのロケットを身につけてる気がする。それ以外だと・・・蛇」
「・・・蛇、生物よ?」
「ああ。無機物しか媒介にはなれないんだったわね。だったら、蛇を象った紋章つきのアクセサリー。パーセルマウスをサラザール・スリザリンの系譜に連なることの証明として重視していたなら、自分自身の象徴は蛇よ。そう考えると、スリザリンのロケットが一番気になるわ。純血の名家の紋章を思い出してみても、蛇を紋章にした一族が思い当たらないの。遠い昔に絶えてしまった名家で、蛇の紋章を指輪やネックレスにしていたなら、それを拝借したかもしれない。少なくとも、今現在も続いている名家の威を借る真似は嫌うでしょうし」
ハーマイオニーはスーザンの説にいたく感心した。
「ね、例えばの話、わたしのパパはパブリックスクールの伝統ある寮にいたわ。卒業するときに、寮の紋章つきの指輪をもらうの。あまり興味はなさそうだけど、一応はきちんとケースに入れて書斎に置いてる。そういう意味で、トムくん自身の父親のものを使うことはあると思う?」
「父親はマグルで、トムくん自身が殺したんだったわね・・・それは・・・闇の魔術の媒介として、その殺人を利用することはあり得るし、被害者の象徴として、その父親の記念品を貶めるために媒介物にする可能性はあるけど、身につけることはないと思う。マグルの血を引くことの証明になってしまうから。わたしはそれより、トムくんが魔法界の歴史的遺物をどうやって入手したかが問題だと思うわ。マグルの孤児院育ち、ホグワーツで7年学んだ。主に純血主義や闇の魔術により強い関心を寄せる7年間ね。創始者の宝物は、その中でも頭に入ってくるでしょうけど、入手方法が説明出来ない。ホグワーツで管理しているのはグリフィンドールの剣だけよ。それ以外の3人の宝物は、遺族、末裔の所有だと思う。レイブンクローのダイアデムは失われたと言われてるから余計に不思議ね。いずれにせよ、トムくんはそういう宝物の在り処を知り得る立場にいて、入手方法もそこから派生するルートだったことは確かじゃないかしら。仮にそれが職業的なものだとしたら、博物館や美術館、古物商。わたしにはそのぐらいしか思いつかないけど・・・とにかく彼の過去の職場を当たって、該当する時期に歴史的遺物の盗難や損壊という事件が起きていたら、彼が関与している可能性が高い。数字はそこから類推できると思うわ」
スーザンが目を開けると、ハーマイオニーが至近距離でスーザンの顔を覗き込んでいた。
「な、なに?」
「あなた、最高よ、スーザン。すごく納得できる。レンは直感的なの。ウィンストン家の嫡子だから、歴史的資料はたくさん簡単に手に入る。コーンウォールのお屋敷には領主時代に蓄積された領地の魔法族の家系の記録から何からあるし、それを読んでもいる。前提になる知識量が桁違いな上に、あのコミュニケーションを面倒がる性格が相まって、一足飛びに結論が出るタイプなの。あなたが、トムくんのイメージから想像を膨らませていく過程には、わたしも同調できるわ。やっぱりスーザン、あなたは法律家向きな人よ。数字の絞り込みかたも、論理的だわ」
「実際には、こうしたことの混在かもしれないわよ?」
「ええ、きっとそうだと思うわ。そうなにもかも彼の計算通りには進まない。偏執的にルールに固執することはなかったでしょう。一番の目的は、闇の魔術の媒介物を作ることよ。それを早いうちに一定数作ることが最大の目的だったはず。だから、中には予定外の代物も含まれる。その『一定数』をいくつと想定していたかが、ハリーの課題なのよね・・・」
スーザンはまたしばらく考え「数占い的に考えると、強力な数字は7よ」と顔を上げた。
「つまり、媒介物は、7個」
「違うわ。6個。本体込みで7を構成するのが一番シンプルで強力だと考えるの。それを前提にして、せっせと殺人や盗みを繰り返したと考えると、ちょっとうんざりするけど」
「6で止まったかしら?」
ハーマイオニーの言葉に、スーザンは苦笑した。
「数に固執するなら止めるでしょう。数占いではそう考えるの。質を問うより、数に意味を見出すから。でも、魔法陣と考えるなら、6個の質はある程度揃っていないと収まりが悪い、という印象を持つことは可能性としてはあり得るわね」
「そうよね。つまり、最低でも6個、という条件付きになりそう」
スーザンはハーマイオニーのうんざり顔に苦笑した。
「あなたの言う通り、うんざりするわ、スーザン。自分自身の強化のために、6人を犠牲にするという発想・・・つくづくろくでもない」
すげぇ、とロンがぽかんと口を開けた。隣でハリーもこくこく頷いている。
「だから、ホークラックスの数は最低でも6個。ただし、これは当初計画では、という話になるわ。より正確を期するなら、トムくんがホグワーツ卒業後に就いた職業、あるいは人間関係、これらの中に歴史的遺物に触れる機会があったはず。その中で紛失や損壊したものの数も検討する必要がありそう。それと、スーザンがスリザリンのロケットをすごく気にしてたことも教えておくわね。自分自身の象徴になるようなホークラックスを、必ず身につけている、あるいは手元から離さないようにしているはずだと、スーザンは考えてる。一番可能性が高いのは、蛇の紋章入りのアクセサリー。その意味で、今挙がってる候補の中では、スリザリンのロケットが一番それに近いわ」
「・・・君もレンもそうだけど、スーザンの頭もいったいどういう構造をしてるんだ?」
「論理的な構造なのよ。とにかくハリー、これで課題には一段落ついたわね? クィディッチチームのほうはどうなってるの?」
ハリーが目を瞬いた。
「藪から棒だな。土曜日に選抜テストだよ。チームの抜本的な再編が必要だ。なにしろ、スローパーはまだクビになったという自覚がなかった・・・」
「・・・呆れた。スローパーが入るなら、レンを飛ばせるのには反対よ」
「入れるわけないだろ。さっきパーバティに手を引かれて部屋に戻った。疲れてくると退行がひどくなるのに、これ以上頭を打つような真似させるもんか。だいたい、スローパーが今度何かやらかしたら、僕が手を下すまでもなくレンが報復するぞ、間違いなく。そしてその悪辣さに出場禁止になって僕の胃が胃酸で溶ける」
ハリーが言い募る隣で、ロンがそわそわしている。
ハーマイオニーは部屋に戻り、羊皮紙にいくつかの呪文を書いた。
「それで、叫びの屋敷に行く話にしては長かったけど」
「ハリーの課題についても話し合ってきたの。彼女、自分が言うほどぼんやりもおっとりもしてないわ。すごく鋭い」
蓮のベッドから呼びかけてきたパーバティに答えて、ハーマイオニーもベッドに入った。蓮はとっくにバンザイしたまま眠っている。
「そりゃ、法執行部を希望してるんだから、相応の頭脳と成績はあるはずよ」
「そうね。謙遜が過ぎる傾向はありそう。もっとぐいぐい出てきてもいいのに、どこか遠慮がちなのよね」
「あなたとレンに対して自信持ってぐいぐい迫る人なんていないからね?」
床を裸足で踏んで、パーバティがハーマイオニーの背後から飛びついた。
「ん? なにコレ」
羊皮紙を取り上げ、呪文に目を通すと、肩を竦めてハーマイオニーに返した。
「グリフィンドールチームの勝利を願う者としては大賛成よ」
「・・・変な気を回さないでね。自分に自信を持って欲しいだけよ」
「そうね。自分に自信を持つってことがロンの課題。選抜テストは悪くないアイディアだし、それまでの間、自主訓練を提案するのも良いアイディアよ。もっと簡単に自信を持たせる方法もあるとは思うけど」
「なあにそれ?」
ハーマイオニーは髪を襟足でひとつかみにして、パーバティに向き直った。
「あなたやレンやハリーとは違う。ロンはまず人に認められたいんだと思う。ウィーズリー家のみそっかすじゃなくて、ロナルド・ウィーズリー個人を見て欲しいんじゃないかしら。それなら、簡単な方法があるわ。ロンに抱きついてキスして、あなたの成功を信じて祈ってる、って言えばいいの」
なに言ってるのよ、とハーマイオニーは苦笑して机に向かった。「お鼻が顔の真ん中にある子からされたら、しばらくは舞い上がるだろうってことは認める。でもそれだけよ。そんなの彼の実力とは言えない。わたしは、自分の力で自信を手に入れて欲しいの」
厳し過ぎるわハーマイオニー、とパーバティが呟いた。「言ったでしょう。あなたやレンやハリーは、自分自身の力を手に入れようと、今それぞれ必死になってる。それは友人として誇らしい。尊敬もする。でも人が抱えてる問題はそれぞれ種類が違うのよ。自分の力で乗り越えられないものがロンにはまずあるの。それは認めてあげなきゃ」
ハーマイオニーは焦れたように再びパーバティに向き直った。
「だったらわかるでしょう? わたしたちには、ロンが落ち込むたびに慰めて励ましてる余裕なんてない。信じてるわ。彼には才能も実力もある。足りないのは自信だけ。ただ、それを外付けの何かで補ってあげる余裕はないの。これが精一杯よ」
パーバティの手から羊皮紙を取り上げた。
大広間の朝食を済ませたハーマイオニーが、出て行きながらロンに羊皮紙のメモを渡しているのを確かめて、パーバティは蓮に囁いた。
「あれ、ロンの秘密訓練用の呪文リストよ。そういう回りくどいことしてたら、ラベンダーにかっ攫われるわ」
「ハーマイオニーらしい。実にハーマイオニーらしい。人にも自分並みの過酷な真似を要求する」
まさに過酷な取り扱いを受けている蓮が唇を尖らせた。
「ねえレン。ほんとにどうにかならない? ラベンダーのテンションが上がり過ぎて怖いんだけど」
「好きにさせなよう。ハーマイオニーの信念、イージーカム・イージーゴー、だ。ラベンダーとロンがくっついてもおそらく一時的な関係だと思う。まあ、ハーマイオニーは痛い目に遭うけどな。自業自得だ。何を言っても、ああいう不器用な人なんだから、自分のペースでしか動かないよ。不器用な人の不器用な人生なら、わたくしの鑑定眼に間違いはない。ママという不器用界の女王が我が家にはいるんだ。ママの不器用な人生の被害を一身に浴びたわたくしが言うんだから間違いない」
蓮の意見も尤もなのだが、痛い目に遭った不器用クィーンのとばっちりを何度喰らってもまだ学習しないのだろうか、とパーバティはこめかみを押さえた。
「予言するわ。ハーマイオニーのメンタルの危機は、レン、あなたの生命の危機よ」
「・・・殺されることは・・・ないと思う。たぶん」
渋い顔で蓮が、ぽとぽとと紅茶にレモンを大量に投入した。
「お茶の味しないんじゃない?」
「このぐらいしないと目が覚めないよ」
「致命的に疲れてるのよ。しばらく休養する判断もリーダーには必要よ」
「ハーマイオニーとパーバティは休養をとるといい。わたくしは、ダンブルドアにプランを持ち込んで添削してもらう」
「・・・またハーマイオニーがイヤイヤ病だって言い出すわよ」
「振る舞いが幼稚だったことは認めるけど、気になってるのはアルジャーノンじゃなく蓮本体なんだ。ハーマイオニーとスーザンのプランは骨子案としては素晴らしい。理想的だ。でも理想的過ぎて落とし穴もありそうだと思わないか? その落とし穴のチェックは必要だ」
パーバティは肩を竦めた。
「あるわ」
オックスフォードの寮のロゴの入った色の抜けたパーカーにジーンズ、蓮の黒のトレンチコートをその上から羽織った、蓮の雰囲気にそっくりな怜は微笑んで答えた。
「今のところ、治療用の緩やかな作用しか確認されてはいない。理論的には、これを強力にすることで、効果は高まり、魔力を完全に奪うことも可能よ。問題は、2つあるわ。まずひとつ。誰がこの薬をさらに強化することが出来るのか。もうひとつ。魔力の根絶は、刑罰として妥当なのか」
スーザンがハッと息を呑んだ。怜はそれに頷く。
「不可逆的損失を与えるのは、死刑と同じ性格のものね。もちろん命を奪うことに比べたら、印象としては穏当なものではある。でも・・・死喰い人の全員が全員、即時魔力喪失に該当するとは、法律家のわたくしの目からはとても思えない」
もちろん、と怜は軽く目を閉じて眉を寄せた。「前回の魔法戦争後の一連の裁判で確定した罪状があるから、トム・マールヴォロ・リドルとベラトリクス・レストレンジ。この2人に関しては、魔力喪失の上拘束という手段は、後追い承認で許容されるでしょう。それ以外はウィゼンガモットが、拘束した側を罪に問う可能性が否定出来ない」
ハーマイオニーは「そんな!」と声を上げた。
「ハーマイオニー、命を奪うより魔力を奪うほうが穏当だとはわたくしも思うわ。でもウィゼンガモットの老魔法戦士の判事たちの感性を考慮しなければならない。魔力を失うことは、魔法族としての死と考える人は決して少なくないの」
「・・・つまり、トムくんとベラトリクス以外に関しては、結審後の収監手法としては認められるが、拘束手段には使えないんですね」
「そうね、スーザン。アズカバンの放棄は、確かに望ましい司法改革だとわたくしも考えている。司法は、理性を保持した人間の手で運用されるべきであって、闇の生き物の本能を利用するアズカバンの在り方は、人間のコントロールを逸脱する可能性が否定出来ない以上、妥当なものにはなり得ないわ。実際、獄死の大半は病死ではないの。過酷な獄中生活で心神耗弱に至った収監者にディメンターがキスをする。つまり、大臣も司法も承認しないまま死刑が常態化しているのが現実よ。それは変革されなければならない。だから、魔力減衰薬を司法改革の根底に据える方針には賛成するわ」
「戦力としては?」
「承認できない。それはむしろ戦場にディメンターの群れを放つのと性格が同じと認識しているわ」
「そんな、おばさま・・・」
「混戦の中で、確実に死喰い人だけを攻撃する液体。そんな好都合なものがあるの? 不死鳥の騎士団やホグワーツの防衛戦力、日本や国連からの戦力への不可逆的打撃になる危険性が高過ぎて、大規模な戦力・戦術としては話にならない。リドルとベラだけに限定するならば、ギリギリ認められる。蓮の魔法があればね」
あ、とスーザンが声を上げた。「アンブリッジに使った、あの魔法ですね。アンブリッジをカプセルで包んで中に水を溜めた。あれなら被害が広がらない」
「そういうこと。どこが戦場になるかはわからないけれど、リドルとベラを相手取るのは、蓮と例えばハリー。その形に持ち込めば、リドルとベラの拘束に利用しても、魔力減衰薬の不規則な飛散を防止できるから、手段として適当だと言える。それ以上となると、さすがに蓮でも全部をカバー出来る保証はないわ」
「・・・それに・・・ガス室みたいな規模にするなら、大量に生産出来なければならない」
「いいところに気づいたわね、ハーマイオニー。だから、戦力や戦術として計上するのは諦めなさい。優秀な魔法薬学者を大量に巻き込まなきゃいけないようではこの戦争には使えない。信頼できる優秀な魔法薬学者ひとりを確保して、その人物によって高濃度の減衰薬をひとり分かふたり分作らせる。それが現実的な範囲よ。ガス室をイメージすると、ナチスの強制収容所を連想してしまうから、収監施設自体にその魔法薬を充満させることも忌避したい。収監手法として妥当な量をコントロールするために、医療刑務所のような設備と監視・観察は欠かせないでしょうね」
ダンブルドアが真剣な表情で、蓮の説明に耳を傾けた。
「ミス・グレンジャーとミス・ボーンズのアイディアは非常に優れておる。総体的にはそう評価する。君は何がそんなに気になるのかね? 細かい問題点はまだこれから検証するべきじゃとは思うが、方向性は極めて健全じゃ」
「それはわたくしも同感だよ。アズカバンみたいな原始的な収監手法はさっさとどうにかするべきだし、魔力減衰薬を利用することでより安全な収監が可能になるんだから。でも・・・ハリーの問題は、ほんとにこれで解決するのかなあ」
蓮が机の下から床に胡座をかいてダンブルドアを見上げた。
「先生、正直に言って。ハリーはトムくんのホークラックスなんじゃないの?」
「・・・なぜそう思うた?」
「たまに感じるんだ。1年生の時からね。最初は闇の呪いに由来する傷だからだと思ってた。去年は特に強く感じた。だから闇の印みたいな機能なのかと思って考えてみたんだけど・・・出来方を考えるとホークラックスを作る場合と同じ結果になったんじゃないかなって。つまり、ハリーが生きている限り、魔力を奪ったからってトムくんは死なないんじゃないかな」
ダンブルドアは長い指を腹の前で組んだ。
「そうかもしれぬ。しかし、それではいかぬのかね? 君ならばそのような形も許容出来るのではないかな?」
わたくしはいいんだ、と蓮は真面目な顔でダンブルドアに訴えた。「じいじはろくに仕事もしないで、ちょこちょこヌルメンガードに出かけてグリンデルバルドさんに会いに行ってた。あれだけの力を持つ闇の魔法使いだ。長く収監してるからって油断は出来ない。顔を合わせて、言葉を交わして、精神状態に異変がないか観察するのだって闇祓いの仕事なんだから、じいじを見てればそれでいいって思える。でもハリーとじいじは違うよ、先生。じいじにはあんな傷はない。ヌルメンガードを出て日本に帰れば、わたくしたち家族がいる、ただの無職の魔法使いになれば良かった。ゴロゴロし過ぎてばあばに森の手入れしろとか境内の掃除しろとか追い出されるけどさ。でもハリーには、あの傷があって、トムくんとずっと繋がってなきゃいけないんだ。誰かと結婚して家族が増えて、そういう人生が欲しいってハリーは言ってる。でもあの傷に悩まされながらはもう勘弁して欲しいって。そう思っちゃうのは当たり前じゃないかな」
ダンブルドアは「ふむ・・・」と頷いた。
「わたくしは、ハリーの生存を最優先だと思ってるけど、だから傷ぐらい我慢しろとは言いたくないんだ。いくらなんでも、もうあの傷から解放されたっていいと思うしね」
「・・・君は、あの傷をホークラックスじゃと言うた。その通りならば、どうすれば破壊出来るかはわかるじゃろう? ハリーの傷にグリフィンドールの剣を突き刺すか? ポピーの秘蔵の毒を垂らすか? それはハリーを死なせることとどう違うのかね?」
「だから悩んでるんだよう・・・」
ダンブルドアは小さく笑った。
「特別にハリーの予言を教えよう・・・『一方が生きる限り他方は生きられぬ』じゃ」
蓮は顔色を変えて立ち上がった。
「君たちの方針は、非常に優れておる。魔法界の未来を任せるに相応しい優れた魔女たちの発想じゃ。しかしながら、それが即ちハリーを救うことになるかは・・・今のところ保証は出来ぬな」
「その予言・・・先生はどのくらい信じてる?」
「トレローニー先生の日頃の占いは、実に楽しい生活の潤いじゃ。それ以上でも以下でもない。しかしの。偉大な予見者、カッサンドラ・トレローニーの血を引いておられることもまた事実であり、ごくごく稀に極めて深いトランス状態にあって予言をなさることもある。暮らしの潤いとは言えぬ予言をのう。その重さは尊重して真面目に受け止める必要はあろう。無論、未来は流動的なものじゃという儂の信念を否定するつもりはない。君の母上の口癖は『予言を信じる馬鹿がじたばたするせいで、ろくでもない予言が実現される』じゃった。言葉はよろしくないが、儂も同感じゃよ。しかし、予言を信じる馬鹿のじたばたはもうかなりの部分を実現させてしもうた。これもまた事実じゃ」