サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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ジョージと蓮をくっつけようと、フレッド兄貴が奮闘します。

が。
女性陣からの冷たい非協力的な態度に現実を思い知る。

そういう話です。
でもまあ、書きながらジョージがかわいそうになりました。チャンスを与えるべきはわたくしかもしれない・・・。


死の秘宝編
閑話43 月の裏側


薄暗いブラックライトに照らされたマグルのクラブで、蓮によく似た女の子を見かけた。

近くに行って話しかけると、実はちっとも似ていなくて、ガッカリして適当にあしらったらジンを頭からぶっかけられた。

 

その5分後に蓮にまったく似ていない女の子を捕まえた。

小柄なのに身体中がふわふわしていそうで、ついつい触って、その感激を口にしたら泣かれた。

 

醜態をせせら笑うフレッドの隣に座っていたアンジェリーナが立ち上がり、顎で合図すると、フレッドも仕方なさそうに立ち上がって、ジョージの腕を2人で両側から担いで連れて帰ってくれた。

 

 

 

 

 

「まったく」

「魔法使いで良かったぜ、なあ、アンジェリーナ。姿現しなら、酔っ払いを連れ帰るのも一瞬だ」

 

フレッドがパチンと指を鳴らした。

 

「フレッド。笑い事じゃないわよ、何なのこの有様ったら!」

 

床にゴロンと転がったジョージをよそにアンジェリーナの説教が、フレッドに向かって始まった。

 

「なんつうか、なあ。天文塔の事件の日、予定では俺たちはノクターン横丁でひと働きしたら終わりだったんだけどさ、ビルのことがあったから、ホグワーツに呼ばれただろ? 医務室に見舞って、意識が戻るのを待ってたら、まあ、そこにレンが来たんだよ」

 

腕組みしたアンジェリーナが「それで」と促した。

 

「レンはビルとフラーの結婚に、ウィンストンひいてはデラクール家は何も問題とは考えないから、むしろビルの新しい生活習慣・・・ほら、ナマっぽい肉が好きだとか、そこらへんな? あと一応薬も続けてるから、それもだな。とにかく、人狼病とまではいかなくても、新しい生活習慣を身につけなきゃいけないだろ。それで、なるべく早く結婚したほうがいいって言いに来たんだ。パーティを自粛するとか、結婚を延期するとか、そんなこと言わずに、規模は小さくてもいいから楽しい結婚パーティを開いて、なるべく早く新婚生活に入れば、ライフスタイルの変化は1度で済む。それがビルとフラーのためだ、ってな。まあ正直助かったよ。うちの母さんはああいう人だから、もうビルの結婚は諦めてた。フラーとの結婚にはもともと乗り気じゃなかったんだけど、釣り合いが取れないどころの騒ぎじゃなくなっちまって絶望のどん底さ。フラーに早速それを言っちまって、手がつけられないぐらいに空気が葬式レベルだった。そこに颯爽と現れて、ちゃっちゃと話をまとめてくれたのがレンだったわけだ。こいつは、レンに惚れ直し・・・惚れ直した瞬間に、自家発電式に失恋した。よって、去年以上のどん底男になった。以上!」

 

アンジェリーナは深々と溜息をついて、頭を振った。

 

「・・・またなの?」

「去年よりひどい」

「レンのことは諦めたって言って付き合ってたあの子は? 名前忘れたけど、あの子よ」

「3週間で別れた。なんつーか、まあ・・・ジョージの名誉の為に言っておくとだな、手は出してない。キスだけだ。キスしか・・・」

「『出来なかった』?」

 

ビンゴ! とフレッドがまた指を鳴らした。

 

「イのつく単語は禁句だぜ、アンジェリーナ」

 

アンジェリーナがまた溜息をついた。

 

 

 

 

 

ジョージのベッドにジョージを放り込むと、アンジェリーナの座るソファに行き、隣に座って肩を抱いた。

 

「なあ、アンジェリーナ・・・あいつはいるが、あの通り頭も上げられない泥酔状態だ。な、いいだろ?」

「良くないわ」

 

ぴしゃりと言われて、フレッドは呻いた。

 

「アレをなんとかまともにして、あなたたちがそれぞれ別のアパートメントで暮らすようになってからなら、結婚だってしても構わないわよ。前からそう言ってるでしょ。フレッド・ウィーズリーとなら結婚するけど、いくら双子だからってジョージまでオマケについてくるのは御免よ」

「そりゃそうだ。わかってるよ。でもあいつを放ってもおけないじゃないか。WWWのビジネスに悪影響が出たら、俺と君の新婚生活に深刻なダメージを喰らうことになりかねない」

「あなたはジョージのために何をしたの?」

「3週間ガールを紹介した。なかなか大変だったんだぜ。レンに似たところがありつつも、レンと違って特定の相手には女らしくなってくれる女の子だ。触り心地も悪くなさそうだったしな。でも・・・ベッドに横になって、唇が腫れるまでキスしても、アレだ。イのつく症状が発覚しただけだった」

 

アンジェリーナは俯いて右手で顔を覆った。

 

「そういう表面的な問題じゃないってことでしょう。女の子をあてがって解決ってわけにはいかなかった、根の深い問題なの」

「おいおいマジかよ? それが解決するまで俺までお預けかあ?」

「今度はわたしも参加するわ。いい加減にしてもらわなきゃ、わたしまで迷惑だもの」

 

そりゃいい、とフレッドは頷いた。「君が見つけてくる女の子なら間違いないな」

 

アンジェリーナの冷たい視線にフレッドは「そういう問題じゃない、です、ね」と、おとなしくなった。

 

「正直言って、レンと別れたことには賛成なの。ジョージのためじゃなく、レンのために」

「・・・そうなのか?」

「こんなこと言いたくないけど・・・ジョージじゃレンには釣り合わないわ」

 

そんな子かなあ、とフレッドはアンジェリーナの肩に回した腕を解いて腕組みした。「レンにとっちゃ、ウィーズリー家は、家柄的に許容範囲だろ。現にビルとフラーの結婚にはウィンストン家もデラクール家も、どちらからも反対なんてされてない。俺は、実のところ、惚れ直したんなら、またレンと付き合えって言ってんだ。口調はアルジャーノンっぽかったけど、母さんを説得しちまうぐらいだから、もうかなり成長しただろうし。3フクロウだろうが、ホグワーツ中退だろうが、ビジネスを成功させちまえば問題じゃなくなる。それを励みにビジネスに張り切ってくれるのを期待してる」

 

「その部分だけならあなたの言う通りよ。でも、ジョージのことを認めない人間は、レンの周囲にたくさんいるわ。わたしをはじめとして」

「え・・・」

「ジョージは何度も懲りずにレンを、そこらのありふれたガールフレンドの枠に押し込もうとした。レンが受け入れて受け流してるから誰も何も言わなかっただけよ。でもこの際だから、あなたには言っておくわね。レンには理想的なガールフレンドになれと要求するくせに、自分は3フクロウのホグワーツ中退よ。レンに相応しいボーイフレンドになる努力ゼロ。ただただレンを自分レベルまで引きずり下ろしたがってるみたいに見えた」

 

フレッドは唖然としてアンジェリーナを見つめた。

 

「そんな風に思ってたのか? ジョージはそんな奴じゃ」

「『そんな奴』に見えないのは、あなたがジョージを信頼してるからよ。でも現実をちゃんと見て。ついでに言うと、レンに相応しいパートナーはもうちゃんといるわよ」

「は、はああああ? そんなことロンは何も。誰だ? マルフォイか?」

「マルフォイ? どこがどうレンと釣り合うのよ、あんな奴。違うわよ。レンとパーフェクトな釣り合いの取れるパートナーは、ハーマイオニーよ」

 

コチン、とフレッドは固まった。頭の中に想像したこともないピンク色の世界が広がる。単純計算で女体が2倍だ。

 

「ま、まさか、そんなこと。なあ? ハーマイオニーはロンのガールフレンドになったんだぜ。きっとそうだ。間違いない。まさかそりゃないだろ。ジョージとロンがまとめて失恋野郎になるってのか?」

 

バカ、とアンジェリーナは思い切り呆れたと言いたげな表情を浮かべた。

 

「これだから言いたくなかったの。ね、まず性別についてはこの際しばらく忘れてちょうだい。いい?」

「いいとも! 今俺の頭の中で暴れ回ってる妄想を止めてくれるなら、何だってするぜ」

「ハーマイオニーのパパとレンのパパは、同じ小学校に通ってた親友。これは本当?」

 

フレッドはコクコクと頷いた。

 

「ハーマイオニーのパパは名門パブリックスクールの出身で、レンのパパもマグル界の経歴ではそういうことになってるのよね?」

「あ、ああ、そうだ」

「名門のパブリックスクールに入学するには、普通の小学校には行かないわ。2人のパパは、貴族か上位中流階級の人だということがこれでわかる。ハーマイオニーにも貴族の血が流れていてもおかしくないのよ、フレッド。先祖が爵位をもらえなかった貴族の息子か何かで、パブリックスクールから名門大学に行き、医者だの弁護士だの、そういう地位を築いたってところでしょう。いずれにせよ、同じ小学校に通っていた時点で、家族の階級や、それに伴うライフスタイルは釣り合ってる」

「・・・歯医者だ。歯医者は貴族と釣り合うのか?」

「大昔には、医者の地位は低かったみたいだけど、今は充分にリッチなイメージよ。とにかく、職種は関係ないの。パパ同士が同じ小学校に通っていたのなら、それだけで家柄は合格点よ。理解した?」

 

なんとなく、とフレッドは頷いた。

 

「マグル生まれだから魔法界では地位がない。これは大間違い。パパ同士の関係があったから、レンのママがハーマイオニーのゴッドマザーになった。つまり、家系に関わる魔法的権限の面では、ハーマイオニーはレンと同等になるわ」

「あ・・・!」

「そもそもハーマイオニーは、レンを押さえて監督生になったのよ。それだけ努力したの。その努力はマグル生まれな分、もともとの魔法族育ちとは比べ物にならない努力だったはずだわ。レンよりも監督生向きの気性だということも判断に影響しただろうけど、明らかに劣っていれば監督生にするわけにはいかない。レンと並べて比較できるぐらいに充分優秀なの」

「そりゃあ・・・まあ、なあ」

「家柄、能力、努力、全部揃ったパートナーはハーマイオニーよ。違う? ハーマイオニー以上に全部取り揃えた男がいる?」

 

いません、とフレッドはうなだれた。

 

「ついでに言うけど、ハーマイオニーの次点はスーザン・ボーンズね。レンのママのボスの姪。こちらも引け目を感じないで済む程度には釣り合う相手だし、急接近したところを見ると、内面的にものすごく合うところがあるんでしょう」

「・・・2人とも女の子だぜ」

「幸か不幸か、そうなのよ。でも、釣り合いをどうこう言うぐらいなら、ハーマイオニー並みの努力はしなきゃいけなかったはずだわ。わたしがジョージを認める気になれないのはそこなの。レンに普通のガールフレンドらしくしろと勝手な枠を押し付けるけど、ジョージはそれに値する努力はしてない。そのうえ、別れ話をする段になったら、釣り合いが取れないですって? 今さら? 最初から釣り合いなんか取れてないわよ」

「・・・ハイ。でもな、成人してから聞かされたんだ。ウィンストン家がどういう地位にあるかってこと」

「そんなこと関係ないわよ! レンほどの魔女と付き合いたいなら、家柄なんて知らなくたって努力するのが当たり前じゃない! 現にハーマイオニーはそうしたのよ? レンと友達でいるために、対等な友人でいるための努力をしたの! はっきり言うと、ジョージはいったいレンの何を見て、どこを好きになったのか、全然わからなかったわ。あの子はね、日本育ちだから、人前で手を繋ぐとかキスするとか、それさえもストレスに感じる子なの。ホグズミードになんか行きたくなかったと思うわよ。でも、ディメンターがいなくなってからはジョージに合わせて、ホグズミードでデートした。調子に乗ってマダム・パディフットの店にまで行ったのにキスをさせてくれなかったのは、わたしたちの中では有名な話ね? するわけがないってわたしが言っても聞かなかったけど」

 

ジョージの代わりに、フレッドは小さくなって頷いた。

 

「レンの何を見てたの? あの子はそういう子じゃないってことぐらい、わたしもジニーもハーマイオニーもわかってるわ。レンがフラーとクリスマスパーティに出た時もそう。フラーには第二の課題でレンを人質にするプランがあったから誘った。どうしてハリーの友達であるレンにそんなヒントを与えたかわからない? そう言えばレンが断れないって見抜いてたからよ。レンとハーマイオニーが、スキーターを撃退するのに頼ったのはジョージじゃなくフラーだった。男性関係の噂に対抗するのに男子の名前を使ったら泥沼だからでしょうけど、あの子たちはそういう考え方をするの。自分のボーイフレンドを引っ張り出してなんとかしてもらおうなんて考える子たちじゃないわ。そんな努力をしてるレンをマダム・パディフットの店で見世物みたいにキスの相手にしようとした。住む世界が違う? 住む世界は同じだけど、見てるものの高さや広さが違うのよ」

「そいつは俺も言ったぜ。レンは今、スキーター相手のプランを実行してるとこだ、いいとこなんだから邪魔すんなってな」

「それよ。あなたにだってわかることなのに、ジョージには我慢ならなかった。レンが自分の思い通りのガールフレンドにならないから。気に入らないのはいつもそこ。彼はレンのどこが好きだからって、あんなに落ち込むわけ? マダム・パディフットの店でキスしてくれる女の子なら、ダイアゴン横丁で適当に拾ってくればいいのよ。ま、3フクロウのホグワーツ中退男じゃ、レンとは逆の意味で釣り合いの取れる女の子は少ないでしょうけど」

 

痛い。ジョージと同じ成績のフレッドの古傷まで抉られる。

 

「君にそれを言われると、俺まで落ち込みたくなるんだが、アンジェリーナ」

「わたしは気にしない。だからあなたも気にしない。それで済んだ話よね?」

「あ、ああ。そうだけど、ジョージのことを貶すのに、うまく3フクロウを毎度織り込むからさ」

「レンがジョージの3フクロウを責めたわけでもないのに、言い訳に引っ張り出してくるのはジョージ自身よ」

 

帰る前にもうひとつ教えてあげるわ、とアンジェリーナは立ち上がった。

 

「まだあるのか」

「レンの日本のおじいさま、シメオン・ディミトロフは無職だった。レンのおばあさまと結婚するために日本に押し掛けてきて、そのまま日本に住み着いたの。レンのおばあさまはご存知の通り、国連の議長よ。レンにとって身近にいた夫婦は、妻が着実に出世の道を歩み、夫はその邪魔をせずに家を守るという組み合わせだった。ジョージのしてることって、シメオン・ディミトロフの正反対だと思わない? レンにとって大事な男性の魅力は『妻の邪魔をしない夫』これだけだと思うわよ。パパを早くに亡くしたから、やっぱりお母さまが働くのが当然だったわけだし、お母さまだって法執行部の副部長にまでなった人。男の言いなりになる生き方を、レンはどこからも学んでないわ。むしろ逆。自分の人生、自分のキャリアを生きていくことが、レンの生き方よ。それに合わせる気もないような男、彼女には邪魔なだけだわ」

 

邪魔なだけ、とフレッドが抜け殻になった気分で呟くと、アンジェリーナは靴音を鳴らして出て行った。

 

 

 

 

 

「おら、起きろ」

 

ジョージを揺り動かすと、二日酔いか、ひどい顔でのっそりと身を起こした。

 

「朝飯はどうせ食えないだろうから、薬だけは飲め。そうしたらシャワー浴びて来い」

「・・・ああ」

 

酒灼けでヒリつくのか、掠れ声の返事をして、ヨロっと部屋を出るジョージを見送り、フレッドは頭を振った。

 

不憫だ。実に不憫だ。

 

でもなあ、とフライパンに向かって杖を振る。「本気なのはわかってんだぜ、アンジェリーナ」

 

アンジェリーナの言う通り、何もかも矛盾していることは事実だが、そんなに複雑なことを考える頭は俺たちにはない、とフレッドは思った。

 

どこだかは知らないが、どこかの魅力にガツンとやられて本気になった。

ガールフレンドにしたくて、最初のクリスマスプレゼントなんてママに借金してまで奮発して贈った。毎度毎度、レンに贈るプレゼントは、金も労力も充分に使ってる。

ジョージなりの努力はそこにちゃんとあった。

 

的外れだったかもしれないが、ちゃんとあいつなりに努力はしたんだよ、アンジェリーナ。

 

トースターからパンが飛び出し、フライパンからスクランブルエッグとソーセージが皿に移動すると、フレッドはひとりでそれを掻き込んだ。

 

「ライバルがハーマイオニーじゃ・・・勝負にならないけどなあ」

 

 

 

 

 

店のバックヤードに来てくれたハーマイオニーは、悪いけど、と頭を振った。「わたしもアンジェリーナに同感だから、役には立てないわ、フレッド」

 

「君まで? そんなにジョージはレンにとって有害か?」

「ジョージのいない1年間を過ごしてわかったの。レンがのびのびしていた。レンは確かにジョージのことが好きだったわ。3フクロウも気にしたことはない。まあ呆れてはいたけれど、苦笑しておしまい。WWWのことも、モリーおばさまの心配を真に受けて心配するロンに、ジョージたちなりに真剣に考えているんだから家族みんなで反対するのはやめて少し気長に見守って欲しいって言っていた。ジョージが少しおバカで、型破りなことをする、そういうところが好きだから反対はしない、って中退する日にも言ったことを覚えているわ。でもね、アルジャーノンになったのも、いえ、そうなるまでアンブリッジに我慢しようとしたのはそもそもジョージに振り回されたからなの」

「ハーマイオニー・・・」

「レンは、わたしが自分に開心術を使うことを許してくれるから、割とレンの主観で2人の間に起きたことは知っているけれど・・・あ、勘違いしないでね。レンはレンで閉心術の名手だから、本当に知られたくないことはしっかりガードしているわよ。レンは、そもそもアンブリッジに対して反発心を持っていた。お父さまのことがあったから当然よね。動物もどきだから下手な反抗をするわけにはいかなかったのも確かだけれど・・・それ以上に一番大きな要因は、自分を傷めつけたかったからなの。5年生の最初に、ジョージから別れ話をされたそうよ。それがまた不自然極まりない別れ話なの。卒業したら諦める。君は君に相応しい奴、俺は俺に似合いの女の子とそれぞれ結婚することになるから。でも、卒業までは一緒にいてくれ、って。理由はとにかくウィンストン家のレディに俺は相応しくないから。レンは混乱していたわ。意味がわからなくて。とにかく自分がウィンストン家の娘だから悪いんだと理解した。イギリスなんか放り出して日本に帰ろうとさえ考えた。でも卒業までは一緒にいると約束した。別れる前提の1年間を要求されたから、とにかくそうしなきゃいけない。全部自分がウィンストン家の娘なのが悪い、だから自分が我慢しなきゃいけない。そういう時にアンブリッジのスパイにされたのは、ある意味でちょうど良かった。真実薬を飲まされていることもわかっていたけれど、自分を守る気持ちがレンのどこにもなかったから、ひたすら周囲の人の秘密を漏らさないように、耐える形で自分を罰することにしたのよ。ジョージに悪気がなかったのはわたしもわかっているわ。せめて卒業まであと少しだけ一緒にいたいという気持ちも理解できる。でも彼の言葉によってレンが束縛されたことも事実よ。ジョージは動物もどきのレンを心配するあまり、アンブリッジに反抗するなとも言ったみたい。その言い分は確かに正しい。でも、実際に彼がしたことは? どうしてレンと一緒にアンブリッジに耐えようとしなかったの? 自分は反抗するけれど、レンは良い子にしていなきゃいけない? おかしくないかしら。アルジャーノンになったレンを学校に放り出して逃げたこともあるわ。1年間レンを支えてきたのはジョージ以外のたくさんの人よ。ジョージが見向きもしなかった現実にみんなで対処してきた。その結果、わたしはもうレンにジョージが必要だとは思えなくなったの」

 

フレッドは髪を掻きむしった。

 

「ハーマイオニー、そいつはあんまりだぜ。なあ。昨日までキスしてた女の子が、同じ顔のまま子供になっちまった。ジョージだって責任は感じてるさ。当然だろ。でも、君たちとジョージは立場が違う。キスや、それ以上のことをしたい相手が子供になっちまったら、一緒にいられないんだ。余計にストレスを与えないように遠ざかったほうがいい。そういう考えは間違ってるか?」

「間違いだとは言わないわ。わたしが彼の立場なら絶対に離れないけれど」

「ハーマイオニー・・・」

「自分が我慢すればいいだけだもの。レンが大人になるまで、父親のように、兄のように近くにいることは出来たはずよ。我慢する自信がないから遠ざかる。聞こえは良いけれど・・・責任から逃げただけね。わたしは、わたしのせいでアルジャーノンになったレンから逃げることなんて考えられないと思う。絶対に。それがわたしの中では、責任を取るということよ。よほどジョージが考え方を変えない限りは、レンにはもう関わらないで欲しいぐらいだわ」

 

ハーマイオニーは硬い表情でそう冷酷なことを言った。

 

「わたしも最初、あなたたちの3フクロウには、意味があると思っていたわ。WWWのためにはフクロウの数なんて意味がない、それよりむしろ商品開発を進めるべきだと考えたからだろうって。いわば、あなたたちなりのポリシーがあって、その上で違うものを優先したと解釈していたの」

「そうだぜ。少なくとも俺はそうだな。計算して3フクロウってわけじゃない。実を言うと、あと2つぐらいは勉強しなくても取れるだろうって甘く見てた部分はあるけどな。でもWWWを優先したかったのは本当だよ」

「だったらどうしてジョージは、3フクロウを理由に別れ話なんて持ち出したの? 自分なりのポリシーがあってOWLに力を入れなかった。それはそれで良いと思うわ。レンだってそう理解して、あなたたちを擁護する側に立った。でもその3フクロウが身を引く理由になるなんて考えられない。ジョージが考え無しだっただけ? レンのことも、深く考えずにただ振り回しただけ? だったらわかるでしょう。釣り合わないのは、家柄やフクロウの数じゃない。気持ちの深さがまったく足りていないのよ」

「・・・苦しんでるんだぜ。足りないとか言うな」

「4歳や6歳に戻ってみればいいわ。体質までその年頃に戻って喘息で死にかけてみたらどう? ホグズミードを連れ回したり、クリスマスパーティで腕にぶらさげて歩き回りたいとは思うけれど、4歳に戻ったレンには近づくわけにはいかない? 4歳から成長し直したレンがそれなりに魅力的だったからまた欲しくなった? それのどこが苦しんでいると言えるのかしら? カードのために夢中になって放り出した蛙チョコを、食べようと思った時に見当たらなかったから泣いて取り戻したがっているようにしか見えないわ」

 

もう二度とこの話はしないで、と言ってハーマイオニーは出て行った。

 

 

 

 

 

「ブルータス、おまえもか」

 

フレッドはジニーの部屋で頭を抱えて転げ回った。

 

「ブルータスが誰だか知らないけど、そんなことでわざわざ帰って来ないでよ。結婚式の支度でママがヒステリックになるのを相手するのはわたしだけなの。どうでもいいことで毎日すごく忙しいのよ」

「なあ、大事な兄貴の一大事だろ?」

「安心して。6分の1兄貴に過ぎないから。兄貴の一大事にいちいち取り乱してたらウィーズリー家の娘は生きていけないの。6匹もいる上に、今は一番上の1匹の一大事の真っ最中よ。5匹目は後回しでいいわ。そもそも自業自得なんだし」

「冷たい。冷たいぜジニー」

「冷たいのはジョージのほうよ。人狼に噛まれたビルが意識不明になってるその枕元で、またレンに惚れ直したですって? そりゃ魅力的なのはわかるわ。でもレンを捨てて、誰だか知らないけど、胸の大きなガールフレンドをうちに食事に連れて来たのはジョージよね? はあ? としか言えないわ。バカじゃない? ハーマイオニーの言う通りよ。自分の失点は自分で回復して。応援はしないけど」

 

フレッドは床に寝そべったまま「おまえ、自分がハリーとくっついたからってなあ」と妹に指摘しようとして、ものすごく冷たい目に凍りついた。

 

「そのハリーやハーマイオニー、ロンがこの1年間のレンのリハビリにどれだけ心を砕いたか知ってるから言うのよ。ハーマイオニー、パーバティ、スーザン、ハリー、ロン、ネビル、ジャスティン、まだ他にもいそうだけど、みんなレンの退行に対処してきたわ。その間に我が家の5番目の兄貴は、胸の大きなガールフレンドを連れ回してた。わたしの協力が得られるとは思わないで」

「あ、ジョージはあの子とはもうちゃんと別れたんだ。やっぱり好きなのはレンだと思い知る出来事があってだな」

「ますますサイテーね」

「そう言うなよ。俺はさ、俺としては、だな。ジョージの本気度は、結婚を考えるレベルだと言いたいんだ。いろいろな過ちはしでかしてきた。それは俺も認める。でもな、その過ちを反省して、やり直すチャンスぐらいは与えてやろうぜ? そうしてやってもいいぐらいに本気なんだ。いったんビビっちまったのも、あわよくば結婚したいぐらい好きだったからに決まってるだろ?」

「結婚を考えるぐらい真剣に付き合ってたなら、どこをどうすれば3フクロウに平気でいられるのよ?」

「フクロウの数に話を戻すな。過去は忘れろ」

「そうやって不都合な事実から逃げてるようじゃ本気とは思えないわ。反省してるなら、まず認めなさいよ。レンをただのファッション、アクセサリーにしてたってこと。わたしもそういうことしてきたからわかるわ。それなりの学年になってもホグズミードでボーイフレンドとデートしたこともないなんてカッコ悪いものね。ジョージにとってレンはそういう相手だった。だからウィンストン家の重い役割を聞かされた時に逃げた。ただのファッション感覚のガールフレンドなんだもの。それを支えるのは勘弁してくれって思ったんでしょ。別に責める気はないから安心して。それに、レンを支えてくれる人はたくさんいるから、その意味でも大丈夫よ。わたしもそうだし。誰もジョージのことを責めはしないわ。またレンを振り回すなら承知しないけど、隅っこのほうでおとなしくしてる分には好きにすればいいんじゃない? でも今のレンはもうジョージが振り回していい相手じゃないわよ? そのことぐらいいい加減にわかりなさいよ」

 

フレッドは思わず怒鳴った。

 

「おまえはジョージを何だと思ってんだ!」

「他にどう思えって言うのよ?! 今の発言でも精一杯馬鹿兄貴を責めないように努めたんだけど?! ねえ! レンがアンブリッジのスパイにされて、真実薬を飲まされるようになったきっかけは? あなたとジョージとハリーが試合の後にマルフォイを殴ったからじゃなかった? ああ、あなたは殴ってないわよね。わたしとアンジェリーナとレンが止めたから。でもジョージとハリーがタコ殴りにしたのがきっかけだった。一番悪いのはアンブリッジよ。でも、ジョージとハリーには責任があるわ。ハリーはその責任から逃げてないわよ。実際にレンの世話をするのはハーマイオニーやパーバティ、スーザンだけど、ハリーだってレンからなるべく目を離さない。レンが喘息で死にかけた時だって助けてきたのはハリーよ。ジョージは? 花火祭り、退学騒ぎ。退学したかと思ったら、女遊び。頭悪そうな胸の大きなガールフレンドを見せびらかしに帰ってきて、ママとパパがどれだけストレスを抱えたかわからない? パパもママも知ってるのよ。レンがアンブリッジから何をされたか。最後の最後にレンがアンブリッジに何をしたか。そのきっかけが誰だったか。申し訳なくて、だからフラーとビルの結婚にも諸手を挙げて賛成出来なかったの。そのレンがフラーとビルにはお互いが必要だと言ってくれたから決心がついたけど、そうじゃなかったら、とてもじゃないけど結婚させるわけにはいかなかったでしょうね。ねえ、ジョークにして済ませられる話だとでも思うの? ウィーズリー家の5番目が試合後にやらかした暴力沙汰がきっかけでレンは後遺症が残るほどの真実薬を飲まされる羽目になったのよ。ビルとフラーの婚約にだって及び腰になるわ。レンのママは、小さなレンを取り戻したんだから逆にラッキーだったし、実害を与えたのはアンブリッジなんだからってパパとママをだいぶ説得したけど、このうえウィンストン家の縁者に迷惑をかけるわけにはいかないってビックビクだったわ。そしてビルが人狼に噛まれた。確かに悪いのはビルじゃないわ。ビルは被害者よ。でも、フラーにしなくてもいい苦労をかけることになる。そのことを考えて、心を鬼にして破談の話をしてる枕元で、レンに惚れ直しましたー、って、ほんっと、バカなんじゃない、あなたたち」

 

 

 

 

 

集中砲火を一身に浴びてげんなりしてアパートメントに帰ると、ジョージは留守にしていた。

 

「また飲んでんのかよ」

 

舌打ちして、シャワーを浴び、さっさとベッドに入った。

 

アンジェリーナ、ハーマイオニー、ジニー。

 

3人それぞれに、ジョージを否定されたことで、フレッドは今までにないぐらい、重く苦い気分を味わうことになった。

 

「どいつもこいつも・・・」

 

また舌打ちする。

 

でもいくら罵り返してやりたくても、フレッドの唇からは言葉が出て来なかった。

 

大事なのはジョージとレンの気持ちだろ?

だったらあなたが余計なお節介を焼くのはやめなさい。

 

ジョージはバカなりに本気なんだぜ。

何を基準にして本気だと表現できるのかしら。

本気なら3フクロウはあり得ない。

そもそも何に対して本気なのよ?

 

側にいるわけにはいかなかったんだ。

現実から逃げただけ。

その間に胸の大きなガールフレンドを連れ回すんだから、そりゃ側にいてもらっちゃ困るわね。

その間に苦労したのはジョージ以外の人たち。

 

あれだけ聞かされれば、返ってくる氷の弾丸のような言葉の予想はつく。

 

「ていうか、マジであいつ、レンのどこに惚れたんだかなあ」

 

顔もスタイルも抜群に良い。イタズラのノリも悪くない。そういう意味では確かに良い仲間だと思う。

でも、女の子らしさ、と言われると首を傾げてしまう。

 

そもそもフレッド自身、レンをホグズミードでのデートに連れ回すことにはあまり賛成したい気持ちになったことがない。

たぶん2人でいる時にはそれなりの言葉を交わして、それなりの雰囲気を醸し出しているのだろうが、レンはそれを人前で撒き散らすことに抵抗があるだろうなとは思っていた。実を言うとアンジェリーナにもそういうところがある。軽いノリのダンスやキスなら拒みはしないが、人前ではクールでいたがるタイプだ。フレッドはアンジェリーナのそういうところにも実は満足している。女らしくなるのは自分の前でだけ。それって最高じゃないか。

だから、アンジェリーナとホグズミードでデートしようと思ったことは実は1度もない。

アンジェリーナは女友達と買い物に回って、ばったり会えば簡単に声を掛け合って別行動を続けるだけだ。

デートは、ごくたまに必要の部屋で2人きりになることだったし、アンジェリーナが卒業してからは、映画だのショッピングだの、ありふれたデートをマグルの街で楽しんだ。

ホグズミードでホグワーツの奴らに見せつけてやろうとは、まったく思えないのだ。

 

だからそこを突かれると、ジョージを擁護出来なくなる。

見せびらかしたかっただけ。

アクセサリー感覚。

ガールフレンドの枠を押し付けた。

 

擁護出来ないのは、フレッドの中にもそういう疑念があるからだ。

 

「見せびらかしたくなる気持ちもわからないじゃないんだよなあ」

 

自分のガールフレンドだ、と誇りたい気持ちなら、当然フレッドだって持っている。ただ、アンジェリーナが嫌がるなら無意味だと割り切っているだけだ。

 

自分にとって最高の女の子なんだ、誇らしく思って何が悪い?

だいいち、ちゃんとアピールしておかないと他の奴らに付け入る隙を与えることになる。

よって、フレッドはアンジェリーナと別行動のホグズミードでも、ちゃんとアンジェリーナの行きそうな店はチェックしていたし、ホグズミードで必ず顔を合わせてアピールタイムは用意した。そのあたりが折り合いのつくポイントだったからだ。

 

どうしてジョージにはそれが出来なかったんだろう。

 

アンジェリーナもハーマイオニーもジニーもホグズミードの件を非難していたからには、レンがホグズミードでのデートにとんでもなくストレスを感じていたことは確かだろう。だったらなぜジョージはあえてレンをホグズミードに連れ出そうとしたんだ?

 

 

 

 

 

「・・・忙しいの。それにジョージの件なら話したくないと言ったはずよ」

 

取りつく島もないハーマイオニーを拝み倒して、ハーマイオニーの自宅近くの公園で会うと、フレッドはすぐさま本題に入った。

 

「それは、まあ、レンも悪いと言えば悪いわよ」

「悪い? なんでだ?」

 

ハーマイオニーは躊躇いがちに、しぶしぶながら答えてくれた。

 

「あの人、言葉足らずなところがあるの。言葉であれこれ説明するより、自分が我慢すれば丸く収まると考えがちなのよ」

「つまり、ホグズミードは」

「生理的に受け付けなかった間は断っていたから、ディメンターがいなくなった以上は行くべきだと義務感を持っていたわ。基本的にホグズミードにあまり興味もないけれど」

「は?」

「学校の外を散策するという程度になら楽しむけれど、人が多いのはそもそも嫌いな人よ。こうして休暇中でも、近くのコンビニやファストフード店以外にはあまり行かないと思うわ。本屋やCDショップも、繁華街の大きな店には行かないわね。手近な小さいお店に入って取り寄せを頼むタイプ。だから外出日のホグズミードにも、行きたがったことはないわね。何か買いたいものがあれば、ふらっと行って、目的のものを買ってさっさと帰りたがる」

「つまり、レンはほぼ100%ジョージに付き合って1日を無駄に過ごしてたってことか?」

 

無駄とまでは言わないけれど、とハーマイオニーは言い淀んだ。

 

「君の表現で説明してくれ」

「ジョージと一緒に休日を過ごすためにそうしていたの。行き先は出来ればホグズミードの通りじゃなくて、村外れの森とかが良かったみたい。2人でいられるから。帰ってくるとぐったりして、しばらくは何も話したくないみたいだったわ。でもジョージにそう言えなかったのよ」

「なんでだ?」

「3年の時のこと、ディメンターがいるからホグズミードに行きたくないって言ったことでしばらく会話もない関係だったでしょう? あれがトラウマなの。あの人、避けられる衝突を避ける癖があるから、ディメンターだとか、生理的に受け付けないこと以外なら、とりあえずまずは我慢するの」

 

フレッドは拳で額を叩いた。

 

「それにジョージが気づきもしないことが、君たちは気に入らないんだな?」

「レンに非がないとは言わないけれど・・・そうね。いくらレンでも、乗り気なフリまではしなかったでしょう。もともといかにもカップルらしい行動やイベントに関心の薄い人だということぐらいは、ね」

「ああ。そうやって細かく話してくれると俺にも理解できる。確かに君たちの話の中で、俺もホグズミードの件は気になったんだ。アンジェリーナもその手のデートに興味がなかった、ってより、嫌いだったから、なんとなくレンもそうなんじゃないかと思ってた」

「そういえば、あなたとアンジェリーナって」

「ホグズミードでいかにもなデートなんかしないぜ。アンジェリーナが嫌がったからな。ホグワーツ生だらけのホグズミードでカップルらしく手を繋いで歩くなんて鳥肌が立つ、とまで言われりゃ俺だって誘いやしない。ホグズミード以外でならデートしてたし、そういう時のほうが意味のある会話ができるだろ。人前でいちゃつくより、2人きりになれる場所で落ち着いているほうがアンジェリーナの態度も和らぐんだ。ツンケンしてるように見えても、そういう時にまで俺を虐げたりはしない」

 

ハーマイオニーが溜息をついた。

 

「レンもそういうところがあると認識してくれたら理解が進むと思うわ。あの人は、2人でいて安心したいだけなのよ。実際に、寮の部屋と談話室、寮の外とではスイッチが違うの。わたしやパーバティしかいないところではすごく緩んでいるわよ。たぶんジョージともそういう時間が欲しかったんでしょう。どうしてジョージがその時間を取らなかったかはわからない」

「まあ・・・あいつはスケベな奴だからな」

「・・・そういうところは自制心の問題だから言い訳にはならないわよ」

「わかってる。レンをよく見て、レンからの言葉を引き出す努力をしなかったのは、確かにジョージの失点だ。レンも悪いと君は言うけど、俺はそうは思わないぜ。そりゃ話してくれなきゃわかるかよってのは、思わないでもない。でもそれもレンの基本的な性格だと言いたいんだろ? レンが口に出して主張すること以外にも、見てればわかる性格ってのはあるもんだからな」

 

言いたいことの半分も口にしない人だったの、とハーマイオニーが遠い目をした。

 

「そうなのか?」

「そうよ。今は違うわ。アルジャーノンになって成長し直したから、今は余計なことまでベラベラ喋るわよ。それでも余計なことの合間に本音を混ぜるから、伝わりにくいほうではあるわね。でも以前のレンはもう本当に気持ちを口にしなかった。わたしは何度もそれで衝突したわ。言わなきゃわからないって。それで5年生の終わり頃にやっと・・・英語が苦手だとわかった」

「は?」

「普段の生活だけなら問題ないの。でもデリケートな話題については、誤解を招くのが嫌だから話そうとしない。わたしが開心術を訓練したから、それからは伝えたいデリケートなことについては、記憶を読んでって言われる。わたしはそれでもいいわ。でもジョージにそれが出来るかしら」

 

開心術は無理だろ、とフレッドが思わず呟くとハーマイオニーは首を振った。

 

「それは適性の問題だから、いくらなんでも要求しないけれど、あなたがさっき言った、レンをよく見て言葉を引き出す努力、という範囲のことね。ガールフレンドという存在ではなく、レンという個人を見なきゃいけなかったの。家族はほとんど全員が違う国で育った人ばかりだし、レン自身も日本育ちよ。言葉も習慣もバラバラなの。そして、お父さまを早くに亡くしたから、身近な男女のカップルは祖父母の世代。それとやっぱり・・・家柄にこだわりはしないけれど、ウィンストン家や菊池家の当主という特殊性もあるから、ガールフレンドならこうするべきだ、こうあるべきだという御要望には添いかねるところが多過ぎるぐらいだわ」

 

フレッドは腕組みをした。

 

「なあ、レン自身また誰かと付き合う気はあるのか?」

「ないわ」

「やっぱり・・・それ、ジョージのせいだな?」

「だけとは言わないわ。他にもいろいろ要因があることは知っているもの。正直なところ、恋愛からまるきり距離を置くよりも、女性との交際なら割といいところまで行くだろうから、そちらに興味を持って欲しいとは思っているわ。トム関連のあれやこれやが解決したら、それを調べて」

 

待て待て待て! とフレッドはハーマイオニーの肩を掴んだ。また脳内がピンク色になりかけたではないか。「俺は兄弟に失恋野郎を抱えるのはもう勘弁してもらいたいぜ、ハーマイオニー」

 

「・・・わたしじゃないわよ。スーザンでもない。まあスーザンなら理想的だから、ジャスティンが引いてくれるならスーザンね。とにかく、男性とよりも女性との交際のほうがレンには無理がないわ」

「そんっなに、ジョージはダメか?」

「ジョージがダメというより、それはレンの特殊性に起因することが主な理由よ。ああもう・・・面倒くさいわね。レンは、女性形で生まれてきたから女性として扱っているけれど、マーメイドの遺伝子が入っているから、気持ちの面に大きな変化があれば・・・女子寮の階段が拒絶するぐらいには男性になれるのよ」

「な・・・うちの兄貴の嫁さんもか?」

「それは知らないわ。知りたければフラーに聞いて。女性形で生まれて女性として育った人、男性形で生まれて男性形で育った人の実例しかないから、普通はそういうエラーは起きにくいんだとわたしは理解している。でもレンは、幼児退行して育ち直したことがあるわ。必ずしも予定通りにいかないことはこれからも多々あるでしょう。少なくともジョージがそれに対処できるとは思えない。対処できる人がレンには必要なの」

 

 

 

 

 

「そーでーすねー。おじーさま、そーでーした」

「マジで?」

「女装、とーくいーでーす」

「き、君は?」

 

フラーは笑って「いもーとが生まれーたとき、すこーしだけ、おにーさまになりまーした」と言う。

 

目眩がしてきた。

 

「そ、それ、ビルは知ってるのかい?」

「もーちろーん」

「あ、そか。知ってるなら、いいんだ。君はどう思う? レンにガールフレンドが出来たら」

「アーマイオニ?」

「いや違う、と思う。誰ってわけじゃなく一般論だよ」

「アーマイオニぐらーいに、リカーイがあるなら、だーれでもいーいでしょ? ボーイフレンドでもガールフレンドでも。かーわいいいもーと増えーるのはいーいことでーす」

 

自分の願望しか見当たらない気がする。

 

貝殻の家の寝室で休んでいるビルを見舞ったら、ビルは苦笑した。

 

「ジョージのために走り回ってるんだって?」

「もう聞いてるのか」

「あのな、フレッド。ウィーズリー家の常識が通用しないことはいくらでもあるんだ。僕やチャーリーは外国で暮らした経験があるから、そのあたりは柔軟なほうだと思うけど、パーシー以下はな。特にジョージやロンは、母さんの影響が強いから、自分の常識で計って良かれと思ってやったことが否定される経験をこれからも重ねると思う。おまえはそのたびにジョージの代わりに走り回るつもりか?」

 

いや、とフレッドは椅子の背を跨いで座った。「レンのことはあいつなりに本気なんだよ。それはわかってるんだ。ガキだったから、しくじってばかりいたけど、これから挽回すればいい。でも女どもがあんまりにもジョージを拒否るからさ」

 

「挽回は、自力でやってこそじゃないのか」

「・・・ビル」

「僕はそう思う。女性陣の考えを聞いて、おまえなりに考えの変わったところもあるだろう? その経験をジョージ自身が経験しなきゃいけないだろうな。それに、一度別れた相手とまた付き合うというのは、とても難しいことだよ、フレッド。過去にお互いに傷ついた経験があるから、くっつけておしまい、めでたしめでたしでは済まない。女性陣の批判以上に、ジョージ自身が自分に厳しくならなければ、傷を増やすだけになる。もちろんジョージの生活が荒れていることは僕も心配だ。おまえと一緒に暮らして、一緒に店を経営してるんだから、おまえはなおさらだろうとも思う。でも、僕はレンの幼児退行の時期に護衛についていたから、ハーマイオニーたちの言うこともわかるよ。フラーにとっては妹のひとりらしいし。サマーホリディの間に、マナーのレッスンを受けながら、家族との関係を改善して育ち直すことは、おまえやジョージが考えている以上に細心の注意を必要とすることだった。母親のレイも、本来は決して自分の感情を露わにするタイプではないけど、言葉やスキンシップで10年以上の歳月を穴埋めしなきゃいけないと必死だった。去年の夏のような努力がホグワーツでも必要だったなら、一番近くにいたハーマイオニーや、近くで見ていたジニーがレンをそっとしてやって欲しいと考えるのは当然だ」

 

フレッドはうなだれた。

 

「ビルまでそんな」

「ジョージの兄貴としては、おまえの言いたいこともわかる。あいつは、考えの足りないところは確かにあったろうけど、真っ直ぐな気持ちしか持ち合わせてない。大事なのはその気持ちだからな。一番基本的なところはクリアしてるんだからチャンスがあれば、 と思うんだろう? それにおまえだって。双子なんだからって永遠のニコイチとはいかない。それぞれ独立した生活が必要だ。そんな時期にジョージが荒れたままでは、確かにおまえだって困るだろうな」

「ああ・・・まさに困ってる」

「だから、独立してしまったらどうだ? 今のジョージに必要なのは、ひとりになることだと思う」

 

慌ててフレッドは首を振った。

 

「毎晩のように酔い潰れて帰ってくるんだぜ。ほっとけないよ」

 

ほっとけ、とビルが傷だらけの顔を厳しくした。

 

「ビル」

「普通の男なら、ひとりで乗り越えるものなんだ。僕だってチャーリーだって、外国でひとりでやってきた。パーシーだって、家族と意見が違うからと今はひとりであいつなりに頑張っている。もちろんパーシーの考え方には間違いがあると僕は思うけど、ひとりで暮らして苦労することそのものはあいつにとって悪いことじゃない。その結果、何らかの成長はあるだろうからな。何かあれば兄貴の家に行けとジョージに言っておけばいい。ここにだ。これでもおまえたちの兄貴だという自覚はちゃんとある。父さんや母さんと違う形ではあるが、弟たちの面倒を見ようと思っている。今までは自分のことで精一杯だったが、僕の放浪期間はもう終わった。こうして独立した家を構えて、妻も無事に見つけた。まだこれから先に苦労はあるだろうが、落ち着き先が決まった兄貴としては、今まで放り出してきた愚弟たちの面倒を見るぐらいの気持ちはあるつもりだ」

 

おまえから先に「ウィーズリーの双子」を卒業しろ、とビルがフレッドの肩を叩いた。「ウィーズリー家の息子のひとりであることは変わらない。僕の弟たちのひとりであることも変わらない。でもおまえたちは双子なんだから双子なんだからって、何もかも一緒過ぎた。その生活から卒業する時期なんだ。ジョージの様子なら、店で顔を合わせればだいたいのことはわかるだろう? その時に気にかけてやるぐらいでちょうどいい」

 

「ビル・・・俺にはアンジェリーナがいるからいい。でもジョージにもパートナーが必要だよ」

「じゃあ飲んだくれのジョージを、幼児退行するほどの後遺症からの回復期にあるレンに押し付けるつもりか? 順番が違うんじゃないか? 僕はジョージだってそんな真似をしたいとは考えていないと思うが」

「え・・・?」

「ジョージを信頼してないのはおまえだよ、フレッド。まず突き放せ。立ち直るから」

「でも・・・あんなに毎晩酔って、何かあったら」

 

ビルは苦笑した。

 

「おまえも本当にモリー・ウィーズリーの息子だな。心配ない。誰にだって、そういう時期はあるもんだ。おまえは、僕やチャーリー、パーシーが本当に母さんの言う通りの男だと思ってるのか? 僕らだってヤケになることぐらいあるさ。母さんに見せると心配かけて余計に面倒になるから母さんには知られないようにしてきた。それだけだ。そういう意味でも偉大な母だ。母さんに心配かけると余計に面倒になる、という絶対的なルールを息子たちの骨身に刻んである。つまりだ、ジョージがモリー・ウィーズリーの息子である限り、母さんに知られない程度にしか荒れようがないんだよ。完璧な制動装置を備えてるってことさ。だから心配は要らない」

「ビル・・・」

「ジョージにカッコつけさせてやれ。自分の気持ちが落ち着くまでひとりにしてやるんだ。今は気持ちのやり場がなくて荒れてるだろう。おまえにしたって、そんなジョージと一緒にいることはストレスだろう。だからまずはひとりにしてやれよ。レンとどうなるにせよ、そこからがスタート地点だ。それにな・・・おまえは大事なことを忘れてる」

 

フレッドは顔を上げた。

 

「レンが、今でもまだジョージを好きだと思い込んでないか?」

「え?」

「世間の常識で考えろ。この1年間、ジョージ抜きの生活だったわけだ。回復期に頼りにした仲間たちの中から特別な存在が出来てもおかしくないんじゃないか?」

「いや、ハーマイオニーはそんなことは別に」

「月は地球には同じ面しか見せないって話、知ってるか? 月の裏側は地球からは見えない。ジョージが他の女の子と付き合ってみた結果レンを忘れられなかったからって、レンもそうだとは限らない。5年生の最初に別れ話は済んでた。ジョージの卒業までという条件は脇に置いて、別れ話が済んだことを考えると、退行の前に心変わりしていてもおかしくないと思うんだが」

「・・・は?」

「あくまで可能性の問題だ。深く考える必要はないが、どうもおまえの頭の中からその可能性が抜け落ちてるように見える。別れ話が済んでからもう2年近くになる。その2年で僕はフラーに出会ってプロポーズを済ませ、両家の親に報告して、フラーをウィーズリー家の家族に紹介して、家を譲り受けて、もうすぐ結婚式なんだ。心の中で新しい誰かを好きになるのに充分な時間は経ってると思うけどな」

 

顔色を変えたフレッドに、またビルは苦笑した。

 

「だから、フレッド。ジョージとレンは、おまえが考えるほど簡単にヨリは戻らない。以前付き合ってたから、チャンスがあればすぐにくっつく、だなんてことは、いささか楽観的すぎる見通しだ。むしろ新しい関係を構築するより難しいほどだな。ジョージが本気かどうかは、たぶん今ジョージこそが、自分に問いかけている命題だと思う。レンに対して重大な責任を感じているはずだ。それがわからないような奴じゃない。僕はそういう意味でジョージを信頼してる。だからこそ、結論を出すのに荒れてるんだろう。マイナスポイントを取り返すだけの気持ちが自分にあるかどうか。レンにとって自分が負担にならないかどうか。2年間の変化を受け入れる覚悟があるかどうか。当事者にとって悲観的になりがちな問題は山積みだ。おまえはそれに付き合っていられるのか? おまえは良くてもアンジェリーナはどうなる? 双子から卒業しろというのはそういう意味だ。それぞれが家族とは別に大事な人を見つけて、その人のために生きようとすることは自然なことだよ。そういう時期が来ただけだ。そんな時に、おまえがあれこれ世話を焼くのはジョージのためにならないし、アンジェリーナにも申し訳ない。いいか、新しい部屋を見つけて、ジョージとは別に暮らせ。ジョージとは店で顔を合わせて様子を見守るだけでいいし、僕だって気にかけておく。今必要なのはそれだけだ。それぞれで部屋を借りるぐらいの収入は確保できてるだろう?」

 

フレッドは脱力して椅子の背に顎を載せた。

 

「・・・ああ。それは無理じゃない。儲かってはいるんだ。かなり。ただ、出来る限り俺たちの収入や経費は節約して、その分を開発費とか店の資金にまわしたかったから、その意味ではあまり気は進まないけどな」

「銀行職員のアドバイスを素直に聞け。それは創業者の陥りがちな落とし穴だ。自分の私生活を犠牲にしてしまうんだ。一時的なテコ入れには有効だが、頃合いを見計らって長期に継続可能な経理に切り替えなければならないものだぞ」

「その頃合いってことかなあ・・・まだまだだと思うんだけど」

「どこまで高いところを目指すつもりか知らないが、それならなおのこと、合理的な報酬や経理のスタイルを作っておくべきだ。早ければ早いほどいい。創業から1年経った。ダイアゴン横丁のWWWはイギリスの魔法族にぐらいとっくに知れ渡ってるよ。爆発的人気は、イギリスではもう頭打ちだと考えるんだな。次は内側をきちんと固めていく時期だ。この時期を軽く扱うと、事業拡大を図る時にとんでもない無理が出ることになる」

「海外展開は当然考えてるよ。ダイアゴン横丁の悪戯用品店で終わる気はない。悪戯用品で名前を売ったら、大人向けの高額商品で安定させる。そのためにもレンが欲しいんだけどね」

 

ビルは苦い顔をした。

 

「商品アイディアを出してもらうだけならまだしも、ウィンストン家の令嬢を店で働かせるのは・・・母さんの介入を招くことになる」

「ああ、それは重々承知さ。いや、ワンダーウィッチラインで以前レンが提案した魔法道具があるんだけど、レンに取り上げられちまったんだ。アレ売れそうなのにもったいねえ。すげえ通信機器なんだ」

「魔女向けのロマンティックな商品ラインじゃなかったか?」

「うん。だからさ、ホグワーツの女の子に売るだけじゃもったいねえって言ったんだ。魔法省エリートの浮気の必需品ぐらいのイメージで機能拡張したら、バカ売れだと思うぜ。イメージだぞ? 多忙なエグゼクティブの簡単な打ち合わせにも使えるし、大人向けの魔法道具としちゃ画期的だと思うんだ。なのにさ」

「浮気グッズと言ったら、それは引っ込めるだろう」

「レンにはさ、魔法や魔法道具を開発するセンスがあるんだ」

「危険な趣味だな。レイに報告しておく。あまりその線を調子づかせるなよ。ラブグッドの奥さんは、それが原因で亡くなったんだからな」

 

フレッドは首を振った。

 

「レンにはその心配はない。なんてったかな、マグルのコンピュータプログラムの応用だとか言ってた。ルーン文字を基礎にした、ルールに則った呪文設計がレンの開発の特徴なんだ。闇雲な実験的魔法は受け付けない性格でさ、あのノウハウをWWWのスタッフ教育に取り入れたいんだよ」

「そのためにも、ジョージとレンの関係は良好な状態にしてもらいたいわけだな?」

「それも目的のひとつだね」

「だったらなおさら急ぐな。仕事のことはまずは後回しでいい。ジョージが自分に納得しない限り、2人の関係は爆弾だと考えるんだ。無理にあれこれ手を回しても良い結果にはならないぞ」

 

へいへい、と仕方なく承知して、ビルを休ませることにした。

 

 

 

 

 

さすがは長男ね、とアンジェリーナは満足げに微笑んだ。

 

「だろう?」

「ジョージには話したの?」

「いや、まだ。情報が多過ぎて、言っていいことと悪いことの区別がつかないんだ。だから君に手伝ってもらって、どういう具合に話を持って行こうか、ってな。レンとジョージをくっつける手伝いはしたくなさそうだけど、こういう方向からの問題解決なら手伝ってくれるだろ?」

「よくおわかりね」

 

フレッドはアンジェリーナの肩を抱いて座った。

 

「WWWの成長と発展のために、今は創業者である俺たちの報酬を含めた経理を見直して、外へ外へと攻めて出るよりも、内側をきちんと整理していこうじゃないか、って感じにしようと思うんだが、どうだ?」

「そこにあなたの新しい部屋がどう絡んでくるの?」

「創業して1年、店の上に2人で住み込んで、創業者である俺たちの生活費も何もかも店の収入と一緒くただ。俺たちだって、もう独立して生活するべきだ。1年間店の上に住んでがむしゃらにやってきたけど、そのおかげでダイアゴン横丁のWWWってのは浸透しただろう。これからしばらくは騎士団のこともあるから、大きく打って出る時期じゃない。スタッフを入れて、教育して、彼らに給料を払ってWWWに定着してもらわなきゃな。創業者、オーナーとしての報酬は俺たち2人が、それぞれ別のアパートメントで生活できる金額に定めよう」

 

って感じを考えてる、とフレッドがまとめると、アンジェリーナがチュと頬にキスしてくれた。

 

「WWWオーナーのミスタ・ウィーズリー?」

「うん?」

「経理担当者は要らないかしら?」

「そうだなあ」

「わたしが経理担当者として、WWWのお財布をしっかり管理するわ。あなたは商品開発に集中する。もうひとりのミスタ・ウィーズリーは店舗責任者。常にフロアの様子を見て回り、販売員たちを統括する」

 

フレッドは軽く何度か頷いた。

 

「その分担は悪くないな。ジョージは海外展開する時にそういうことをやってかなきゃいけないから」

「ジョージを海外に?」

「あいつの希望でな。ニューヨーク、パリ、東京、ベルリン、モスクワ。どこにだって魔法族の街はある。そこ全部にWWWの支店を出したいらしい。まあ、あれだよ、レンがどこに行ってもついてくつもりなんだ。ひとりで海外ってのは危なっかしいからな。レンが行くところにWWWの支店が出来るってパターンさ」

「・・・あら、まあ」

 

いじらしいだろ? とフレッドはウィンクした。「付き合うかどうかは別にして、大学だとか、仕事だとか、そういうことでレンが拠点を海外に置いたらジョージがWWWの支店長としてそこに行く。レンが何かやらかしてもすぐにサポート出来る距離にいる。それがあいつなりの決心なんだ。ま、俺も賛成だよ。海外展開は望むところさ。今はまだ時期尚早だけど、いずれは試験的に支店をポンと出すぐらいの体力のある企業にしたいからな」

 

「ちゃんと考えてはいるのね」

「月には裏側ってもんがあるのさ。誰にも見せない裏側がな」


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