サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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閑話3 秘密の部屋

マートルが亡くなった3階女子トイレには、いくつもの花束が捧げられていた。

それらを踏みにじり「偽善者」と呟くと、ミネルヴァが「気持ちはわかるけれど落ち着きなさい」と諭した。

 

「それで? 今回の冒険の概要は?」

 

グリフィンドールのオーガスタが杖を指先でくるくると回す。

 

「バジリスク退治よ」

「それって、マートルって子の敵討ち? ルビウスの無罪放免はどうなったのよ」

 

無罪放免は無理でしょう、とミネルヴァが冷静に言った。「アクロマンチュラを校内で飼育した時点で、退校処分が妥当だわ。ただ、アズカバン行きは回避できる。マートルを殺したのがルビウスのアクロマンチュラでない可能性を強く示せば」

 

そういうこと、と柊子が応じた。「まずバジリスクを殺す。そして鱗なり牙なりの存在証明を持ち帰る。そうすれば、マートルの遺体からアクロマンチュラの毒が検出されたわけでもない以上、ルビウスがアラゴグちゃんを使ってマートルを殺したというのは無理矢理過ぎることになる。ルビウスはアラゴグちゃんを校内で飼育したうっかりの責任を取るだけで済む。バジリスクが死んだのに、ルビウスを犯人に仕立て上げる必要はないわ」

 

惜しいわね、とポピーが呟いた。

 

「ルビウス?」

「アラゴグちゃんよ。アクロマンチュラの毒が手に入るところだったのに」

「・・・それ、永遠にルビウスに言ってはダメよ」

 

オーガスタとミネルヴァは呆れたが、柊子は慣れたふうに「アクロマンチュラの毒より、バジリスクの毒のほうが希少価値あるわよ」と、ガラスの小さな瓶を放り投げた。

 

「ただし、参加賞ですからね」

 

ポピーは溜息をつき右手を挙げた。「参加するわよ、すればいいんでしょう」

 

「で、真犯人は捕まえないの?」

 

オーガスタが首を傾げる。

柊子は肩を竦めた。そして、一番古い洗面台の蛇口を指差す。「ここ見て」

 

オーガスタとミネルヴァが覗き込む。「蛇?」

 

「ここがバジリスクの出入り口よ。誰かがここを開けて、マートルにバジリスクをけしかけたの。つまり真犯人は蛇語使い」

「いるの、そんなの?」

「ここに1人」

 

柊子が右手を挙げる。

ミネルヴァは眉を寄せた。「まさかスリザリンの末裔とか言わないわよね」

 

「わたくしが? スリザリンが日本人やロシア人と血を交えることを考えたことがあれば可能性はゼロではないわ」

「つまりゼロね」

 

頑ななまでに英国魔法界の中のみで純血を謳う純血主義の頂点たるサラザール・スリザリンが異民族との混血を認めるはずもない。

 

「ああ、だから昨日4年生を締め上げたのね」とポピーが呟いた。

 

「締め上げた?」

「人聞きの悪い。わたくしは、マートルが亡くなる直前の授業を受けた子たちに聞き取り調査をしただけ。監督生らしく」

「柊子が監督生らしくする時って、往々にしてやり過ぎる気がするわ」

 

オーガスタがにやりと笑い、ミネルヴァは「それで何がわかったの?」

 

「穢れた血が1人死ぬ」

「・・・は?」

「占い学の授業で、占いの結果を装ってスリザリンの女子生徒が言ったそうよ。そして、誇り高い我がレイブンクローの4年生はマートルをじろじろ眺めてクスクス笑った」

 

まったく誇り高いことね、とオーガスタが軽蔑も露わに吐き棄てる。

 

「スリザリン生の名前は、マーガレット・パーキンソン。リドルの取り巻きよ。さーて、なぜミス・パーキンソンはマートルの死の予言が出来たのかしら?」

 

以前からリドルは、とミネルヴァが口元に拳を当てて考え込む。「蛇にこだわっていたわね」

 

「その通り。スリザリンの象徴だからこだわるのか、蛇語使いだからこだわるのかはわからないけれど。少なくともルビウスは女子トイレで蛇と楽しくおしゃべりして、マートルを襲わせるほどの変態じゃないわ。そんな変態、リドルだけで充分よ」

「でも、そっちも証拠には程遠い。勝利条件はバジリスクを殺して、バジリスクの存在証明をし、ルビウスのアズカバン行きを阻止することでいいのね?」

「そのあたりが妥当でしょうね」

「異議なし」

「まずリドルを殺ってから理由をつけましょうよ」

 

オーガスタ、とミネルヴァが額を押さえた。

 

「なによ、ミネルヴァ。リドルが変態なのは昔から一目瞭然。なぜかダンブルドアはリドルには甘いけど、男のくせに女子トイレに長時間滞在する変態っていうだけで死刑で良くない?」

 

ポピーが「女子トイレに長時間滞在した証拠がないのよ、オーガスタ」となだめた。「マートルが手洗い場にいるときは、他のことには気がつかない・・・つかなかったの。強迫的なまでの勢いだったから。変態が背後にいてもたぶん見ていないし、仮に見たとしても証言はもう出来ない」

 

「なにそれ、その子もイカれてたの?」

「両親のおかげでね」

 

ポピーが肘を抱いた。「実の両親からは悪魔憑きと言われ、ホグワーツでは穢れた血と呼ばれ。正直、イカれないほうが不思議じゃない? わたしも機会あるごとに声をかけたりしてはいたけれど、あの子の目には柊子しか入らなかったから、効果はゼロだったの」

 

「それも両親の責任ね」ミネルヴァがきっぱり言った。「自分の感性の中のヒースフィールド風な人物以外を認識できなかった」

 

「へぇ、ヒースフィールド・・・って何? クィディッチチーム?」

 

オーガスタの反応に、ミネルヴァはこめかみを押さえた。

 

友人たちを眺めながら、柊子は唇を噛んだ。

マートルは変わりつつあった。後見人を「スクイブのお婆さん」ではなく「ミス・フィッグ」と呼ぶようになり、手を洗う機会が減り、成績も安定しつつあった。「ちゃんとした魔女の仕事につきたい」と考えていた。悪魔だとか穢れているだとか、そんな漠然とした妄想に振り回されずに地に足を付けようとしていた。

 

なのに、リドルの影響を受けたマーガレット・パーキンソンの悪意ある占いがマートルの人生を終わらせた。

レイブンクロー生がそれに加担したことも許し難い。

 

 

 

 

 

「このクズども」レイブンクローの談話室で、昨夜柊子は冷淡に言い放った。「叡智のレイブンクローが聞いて呆れるわ、クズの集まりね。マートルが1人の時にどこにいたのか、何をしていたのか、なぜそうしていたのか想像することも出来ない無能ばかり。無能かつ冷淡な人間になりたければスリザリンに行きなさい。ちょうど良かったじゃない? マーガレット・パーキンソンっていうパグ犬と仲良しなんでしょう、あなたたち。血統書付きのパグ犬と同じ水準の奴らはレイブンクローには必要ないわ。さあ、とっととスリザリンに行きなさいよ。いつまで叡智ある人間のふりして座ってるの、図々しいわね」

 

 

 

 

「ねえ、ポピー?」

 

ぬるぬる滑る巨大な円柱形の道を滑り降りるように歩きながら、柊子は背中のポピーに提案した。「バジリスクの毒をレイブンクローの談話室に仕掛けない? 馬鹿は減ったほうが風通しが良くなるわ」

 

柊子に背負われたポピーは溜息をついた。目隠しをされているので、自分の足で歩くのはむしろ危険なのだ。

 

「バジリスクの毒を展示することなら賛成するわ。あなたがどれだけ怒り狂っているか下級生にも思い知らせる意味で。でも殺しちゃダメ」

「あんなクズどもが減って何か支障があって?」

「ホグワーツの運営資金が減るでしょう」

 

こほん、とミネルヴァが咳払いをした。「あなたたち、もう少しオブラートに包んでくれないかしら」

 

「そんなことより、ねえ柊子、そろそろ目潰しの手順を教えてくれない? わたし、さっきから先頭歩かされてるんだけど」

 

オーガスタがぼやいた。

 

ああ、と柊子は呟き、ズボンのポケットから和紙を取り出す。

 

「いつもの紙ね」

 

杖明かりを差し出したミネルヴァが呟く。

 

「今日のは違うわ。ここの、このマーク。わたくしの家の家紋・・・あーっと、紋章なんだけど、鷹の羽をデザインしてあるの。つまり」と言うと、家紋に息を吹きかけた。瞬間に、和紙は鷹の形を取る。「鷹になるわ」

 

オーガスタは嘆息し「柊子の存在そのものがマーリンの髭よね」と呟く。

 

「今更でしょう。鷹に目潰しをさせるなら、早いほうが良くないかしら」

「蛇って嗅覚があるわよ」

 

ぴた、とオーガスタの足が止まる。

 

「わたくしたちがこんな足場の悪いところにいるうちに視力を奪ってしまうと、嗅覚を頼りに怒り狂って攻撃されたら逃げられないと思うけれど?」

「今バジリスクに見つかったら?」

「だから、下を向いて歩いてね。目を直視しなければ最悪でも石化で済むわ。石化してもポピーが手を尽くしてくれるはず」

「それ以前にわたしが先頭歩かされてるのはなぜか誰か教えて」

「忘れてるようだから教えてあげるけれど、オーガスタ、あなたが後先考えずに一番に穴に飛び込んだのよ」

 

ミネルヴァが指摘しているとき、柊子が咄嗟に全員の顔に目隠しをした。「オブスキュロ! オパグノ!」

 

ミネルヴァの肩にとまっていた鷹が、ミネルヴァの肩に爪を立てて飛び立つ。

 

柊子の耳にバジリスクの悲鳴が響き渡る。

 

「さーて、来るわよ」

 

杖を軽く振り、全員の目隠しを解くと、背中のポピーを下ろした。

 

前方で、鷹の式神が役目を終えて燃え上がる赤い炎が見えた。

 

痛みにのたうつバジリスクの立てる振動で、ぬめる管の中には立っていられない。

 

「どれだけデカいの、よっ!」

 

オーガスタが業を煮やして滑り降りていく。

 

「あーぁ、張り切っちゃって」

「逃げ足速いから、囮にちょうどいいわ」

 

しゅ、とミネルヴァも腰を落として爪先から滑り始めた。

 

柊子はその場で頭に蛇の姿を思い浮かべる。『馬鹿め。ひとまず退却するが良い。血を裏切る者どもが油断してひとかたまりになったところを、その牙で引き裂くのだ』

 

シュルシュルと音が遠ざかる。

 

にや、と笑うとミネルヴァと同じ姿勢で滑り降りていった。

 

 

 

 

 

悪趣味、とオーガスタが呟く。「これがサラザール・スリザリンってわけ?」

 

「少なくともロウェナ・レイブンクローとヘルガ・ハッフルパフでないことは確かよ」

 

言いながら、ミネルヴァは巨大な石像に這い登る血痕を確かめた。「この奥が巣穴みたいね」

 

その時だった。

 

『殺せ、穢れた血からだ』

 

「ミネルヴァ! 降りて! オーガスタ、すぐアクシオで箒!」

 

柊子は、キッと滑り降りてきた巨大な管を睨んだ。

 

「変態が、今まさに女子トイレにいるわ。あの洗面台から指示を出してる」

 

ビュンッとオーガスタの箒が飛んできて、オーガスタが舞い上がったとき、石像の口から、信じ難い大きさの蛇が現れた。サーベルのような牙が禍々しく光っている。

 

『目の前を飛ぶ蝿ぐらい一噛みで殺してしまえ!』柊子の指示のほうが現場にいる分具体性があるせいか、バジリスクは箒に乗ったオーガスタを追い始めた。

 

「グレイシアス!」

 

すかさずミネルヴァがバジリスクに向けて冷気を放つ。

だがスピードが落ちない。「変温動物のくせに!」

 

「ミネルヴァ、冷気は効かないわ」

 

ポピーが冷静な声を出す。「ヒキガエルもしくは蛇によって孵化する。もともと一定以上の温度を必要とせずに生まれる生物よ」

 

「弱点は?」

「雄鶏がときをつくる声」

 

ブンッと飛んできた箒の上でオーガスタが「こけこっこー!」と自棄になったように叫んだ。

声真似が下手なせいか、スピードが落ちない。

 

「オーガスタ、あと一周」

 

冷静に柊子が指示すると、オーガスタは悪態をつきながら、決死の飛行に再び突入した。

 

柊子は今しがたオーガスタを追っていったバジリスクが残した血痕の上にしゃがみ、杖を構える。

 

「来るわよ!」叫びながらオーガスタが飛び出してくると、柊子が「アグアメンティ、グレイシアス!」と続けざまに唱える。

 

大きく開いたバジリスクの口の中に向けて、杖先から噴射した水が凍りついて突き刺さる。

 

「石像に登って!」

 

喉の奥を氷の刃で突かれたバジリスクがのたうつ。

ミネルヴァが柊子のポケットから和紙を取り出した。

 

「ミネルヴァ?」

「不本意だけどダンブルドアを呼ぶわ」

 

せめて武器でも、と呟きながら、石像によじ登る柊子の口元に和紙を差し出した。

ふっと柊子が息を吹きかけると、和紙はヒュンと飛び上がる。

 

その隙にオーガスタとポピーが失神呪文をいくつも撃ち込むが、そもそものバジリスクの巨体を失神させるに至らない。

 

石像によじ登ってくるオーガスタとポピーに向かい「プロテゴ、プロテゴ・トタラム、プロテゴ・ホリビリス」と保護呪文をかけていると、今度はミネルヴァが「コンフリンゴ!」とバジリスクの腹部を爆破させた。

 

「どうせなら頭を狙ってよ!」

 

肉片と血が降り注ぐだけで、断末魔には至らない。

 

そのとき、ドーム型の高い天井を膨らませるかのような豊かな響きの旋律と共に、すぐ側に不死鳥が姿を現した。

 

「フォークス!」

 

ミネルヴァとオーガスタが叫ぶ。

が、フォークスが嘴にくわえたものを見て、ミネルヴァが「クソ親父!」と全員を代表して絶叫した。

 

石像の足元、ずいぶんと寸が詰まってしまったバジリスクが、牙を突き立てて崩そうとしている。

 

「とりあえず・・・かぶるしか、ないわね」

 

柊子が、組分け帽子の唯一の使用法を口にする。

 

「今更組分けの儀式ですか、こんなところで! 5分半も!」

「5分半もかかったのはあなただけだからとにかくかぶってみなさいよ」

 

その問答の間もバジリスクは石像の足元を崩そうとしている。

 

「柊子がかぶれば? 今度はグリフィンドールに入れてくれるかもしれないわよ」

 

ミネルヴァの言葉に首を振ったのは、ポピーだった。

 

「組分けの儀式ならともかく非常時に組分け帽子をかぶるのはグリフィンドール生にするべき。その帽子、もともとはゴドリック・グリフィンドールのものだから」

 

 

 

 

 

ダンブルドアへの八つ当たりで、必要以上に深々と組分け帽子をかぶる。

と、突如、脳天に感じる衝撃で、目の裏に火花が散る。

 

「今度はなによ!」

 

組分け帽子を放り投げると、石像の口に片手をかけたオーガスタが残りの腕を伸ばしてキャッチした。

 

「ミネルヴァ、それ」

 

柊子が珍しくぽかんと口を開けている。

頭からずるっと滑り落ちたのは、宝石を嵌め込んだ鞘に収まったままの剣だった。

 

「・・・剣?」

 

この場合は、とポピーが苦しそうな声を出す。石像の口までまだ登りきれていない。腕の力でぶら下がった状態だ。「バジリスクの脳天を狙って刺すしかないわ!」

 

「ミネルヴァ、よろしく」

 

柊子が肩を竦めた。

 

「はあ?」

「グリフィンドールの帽子から出てきた剣は、グリフィンドール生専用武器だと思うのよね」

「なにか、さっきからグリフィンドールが良いように利用されてる気がするのよね」

「お願い・・・急いで・・・」

 

ポピーの息絶え絶えの声に、柊子が「変に疑わずストレートに考えなさいよ。騎士道精神のグリフィンドールぐらいしか剣なんか使わないに決まってるじゃない」と宣った。

 

 

 

 

 

逆手に鞘から抜いた剣を握り、ミネルヴァはバジリスクの脳天を目掛けて飛び降りた。

 

「プロテゴ!」

 

バジリスクの頭部から飛び散る様々な体液からミネルヴァを守るための盾を瞬時に展開し、同時にオーガスタがぶら下がったポピーを箒で回収した。

 

しばらく、その場に沈黙がわだかまる。

 

ふう、とミネルヴァが息を吐いた。

 

その隣に飛び降りた柊子が「剣貸して」とミネルヴァの手から柄を抜く。

 

「なにする気?」

「なにって、あなた、これゴブリン製よ? ゴブリン製の剣があって、すぐそこにバジリスクの毒がある。吸収させない馬鹿はいないわ」

 

ミネルヴァがバジリスクの頭部から飛び降りると、柊子は慎重に牙に杖先を向け「コンフリンゴ」と囁いた。

小さな爆発が起き、牙がどろりと黒い毒を流しながら、ごとんと落ちた。

 

流れ出した黒い毒に触れないように足元に気を使いながら、柊子が白く輝く刀身を毒に浸すと、輝きはそのままに、周囲の毒を剣が吸い込んだ。

 

「一丁上がり。強力な武器が出来たわよ、グリフィンドール、喜んで」

「・・・バジリスクの毒を吸収した危険物を喜べと?」

 

 

 

 

 

薄情にもフォークスは飛び去ってしまった。

リドルが洗面台を開けたままにしているとは思えない。

 

箒に乗ったオーガスタを飛ばせて、水の出口を探してもらう。

 

「まったく」

 

ミネルヴァは憤懣やるかたない息を吐きながら、バジリスクの残った体から鱗を剥ぎ取っている。ルビウスのアズカバン行きを阻止するための証拠品だ。

柊子とポピーはバジリスクの牙や毒を回収している。

 

「あなたに付き合うとろくなことがないわ」

「わたくしだって、今回ばかりは望んだことじゃないわ。でも、仕方ないじゃない?」

「なにが」

「もっと被害者が出たかもしれないのよ?」

「・・・え?」

 

しっかりしてよ、と柊子がミネルヴァの肩を叩いた。「マートル1人を殺すためにバジリスク? リスクと効果がちっとも釣り合わないわ。マートルを殺すなら、もっと簡単な方法がある。ヒステリックに手を洗う彼女の背後から、ズドン!で終わることにバジリスクなんて持ち出す? マートルはリドルの実験台よ」

 

ミネルヴァは眉をひそめた。

 

「だからわたくしはリドルを許さない。今回はあの変態の尻尾も掴めなかったけれど、リドルが蛇語使いだと確認は出来たわ」

「リドルをどうするつもり? ホグワーツ内じゃダンブルドアがリドルを守るわよ」

 

卒業してからよ、と柊子は言った。

 

 

 

 

ぐるっと敷地を一周するほども歩いて、元のトイレに戻ると、柊子は疲れで指一本も動かせなくなった。

 

「マートル、ごめんね」

 

マートルのために自分に出来たことがいったい何があったと言えるだろう。

自分が一生背負うべき十字架だ、と思った。

このホグワーツ内で、同じハウスのひとりぼっちの少女1人守れはしなかった。

 

「少なくとも、ミス・ウォレンよりあとに犠牲者は出ないわ」

 

4人は、疲れきってその場に大の字になった。

 

そのまま、うつらうつらしてしまったようだった。

 

「こ、この! 大馬鹿娘どもがぁ!」

 

ぽい、ぽい、ぽい、ぽい、とそれぞれがバジリスクの牙、バジリスクの鱗、組分け帽子、グリフィンドールの剣を放り出すと「マートル・エリザベス・ウォレンの死因は、バジリスクの邪眼によるものであり、それにルビウス・ハグリッドは関与していません」と右手を開いて証言した。

 

「君たちのようなろくでもない魔女娘どもはホグワーツ始まって以来だ! 聞いておるのか!」

 

もう誰も聞いてはいなかった。


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