客間のバスルームに退散した蓮は、バスタブにお湯を張り、着替えを小脇に抱えてグリモールドプレイスのハリーの部屋のバスタブに跳んだ。
バスタブから飛び出して服を着ると、杖で一気に全身を乾かし、シリウスを呼んで走り回る。
「なんだ! どうした?! レン! ハリーたちに何か?!」
「そっちは大丈夫。わたくしの大ピンチなんだ、シリウス、助けて!」
事情を話すとシリウスは腹を抱えて呵々大笑した。
「笑い事じゃないんだ! どうしてママもスーザンもあんなに怒っているの? めちゃくちゃ怖いんだ!」
「い、いやあ・・・正直なところ、ハリーからこの手の相談を受ける未来を楽しみにしていたのだが、君が先だったとは・・・っく。うん。なかなかやるな」
「笑ってないでお願いだから説明して! 今、スーザンにお風呂に入って毛穴からいかがわしい空気が抜けるまで出て来るなって言われたから、お風呂から跳んできた。お風呂を出た時点で適切な反省をしていないと、たぶんわたくしの食生活に被害が出ると思う。あれ、マジでヤバい空気だ。ハーマイオニーがめんどくさくなる時と同じ気配を感じた!」
シリウスは落ち着けと蓮の頭をポンポンと叩いた。
「順を追って話そう。潜入はいつからだった?」
「今日が金曜日だから、月曜日からだよ」
「最初に見知らぬ魔女のおばさんからキスされたのはいつだ?」
「月曜日」
「その時に金を貰ったか?」
「うん。真面目にお掃除してるのねって言われて、キスされたんだ。キュートなお尻とかなんとか言って撫で回されて、気がついたらお尻のポケットにガリオン金貨が1枚入っていた」
「ほう。尻だけで金貨1枚ならイイ商売だな。その金貨をどうした?」
「朝、スーザンがビタミンが足りないからそろそろフルーツを買わなきゃいけないって言っていたんだ。帰り道の魔法省裏のマーケットでカットフルーツの大盛りを買って帰ったよ」
シリウスは指を立てて「そこから既に間違いだ」と苦笑した。
「な、なんで?」
「今スーザンは潜入チームにおける君のパートナーだろう? ビタミンCよりも先に共有しなければならないのは、君が変身した男がそういう奴だという情報だった。キスしながら尻を撫で回すおばさんが、本気で君に仕事ぶりのご褒美をくれたと思ったのか?」
「今シリウスが言ったみたいに、キスを我慢してお尻を触らせて金貨1枚ならイイ話だと・・・」
「さては、そこから先の危険は予想しなかったな? いいか、レン。男なら、女の子の尻を触るだけでも金を払うが、おばさんたちはそんなに気前の良い生き物なんかじゃない。その先にしてもらいたいことがあるから金を払う」
「・・・ママが、前金だって」
「そういうことだ。つまり、前金を尻に入れられた君はその夜パートナーのスーザンと今後の展開について検討しなければならなかった。まあ、普通なら撤収だな。スーザンが怒っているのは、そんな危険を黙っていたばかりか、そんな形で受け取った金をごく当たり前に使った君に対して怒っているわけだ。しかも・・・全部で何人だ?」
「アンブリッジまで入れて・・・4人」
シリウスがしばらく黙って「・・・呆れたな」と呟いた。
「反省します」
「ああ、いや。君のことじゃない。そのガキとおばさんたちに呆れたんだ。レイも知ってるんだな?」
「知ってるどころか・・・今日わたくしは、最後の潜入だから、まあ、適当にお掃除していたんだよ。アダムスのことは、監禁中にウェンディがフライパンでガンガン叩いていたから、治療して忘却術かけてポイするつもりでいたのに。わたくしが仕事に出た後、スーザンがママのところに行って相談したら、そんな男のところにひとりで行かせられないってついてきて、ママがアダムスをボッコボコにしたんだ」
「というか、なぜ君はアダムスみたいな便利な野郎をポイするんだ? 服従の呪文をかけて利用するべきだった。君が変身しなくてもアンブリッジの相手をさせて情報を引き出せるのに」
「あー、いや、思いつかなかった。昨日アンブリッジのことを話した時点では、次はマグル生まれ登録委員会に潜入するべきだって結論だったんだ。スーザンはそれをママに相談しに行ったの。そうしたら、ママが選択肢は2つ。アダムスを情報屋として買収するか、アダムスに服従の呪文を使って利用するかだって」
「うむ。それが間違いない」
「でもママが・・・わたくしとスーザンにはどっちも禁止だって。アダムスみたいな奴との取引は、まだわたくしたちには無理だから買収出来ない。わたくしたちが服従の呪文をかけて得た情報やそれに基づいた結果は、裁判に持ち出せない。だからダメ」
なるほど、とシリウスが腕組みをして苦笑した。「そこでレイが、自分の得意技でボコってこき使うほうを選んだわけだな。危ない橋を渡ったが、レイがいて良かったじゃないか」
蓮は顔をしかめた。
「どこがいいのお? ママ、めちゃくちゃブチキレてるよ! アダムスの奴、ウィンストン元副部長の名前も顔も知らなくてさ。自分の副業に、空き部屋だったママのオフィスを使っていたんだ。しかも、アンブリッジが目の敵にしているウィンなんとかも、どうせアンブリッジみたいな気色悪いオバさんだなんて、ママに向かって言っちゃったもんだから、顔の原型がわからなくなっていた。なんでうちのママ、魔法使わずに鉄拳でボコれるんだよお?」
シリウスはまた天井を向いて大きく口を開けて笑った。
「レイは特にそういうところが強いのだが、女性の尋問官にはそのぐらいの胆力が必要なのだ。看守が見張りに立つとはいえ、犯罪者と対面して尋問するのが商売だからね。女性だからと甘く見られると、仕事にならない。だから、マクゴナガル先生、君のばあば、マダム・アメリア・ボーンズ、レイ・・・みんな恐ろしい魔女だろう? レイはさらに、シメオン・ディミトロフの愛娘だぞ。護身用の体術は過剰防衛レベルで習っている。実を言うとな、アズカバンで一番恐れられているのは、レイなんだ」
「そうなの?」
「うむ。アズカバンに長く滞在している奴らは、法執行部のエリートを内心馬鹿にしている節がある。所詮はクズのプライドだが・・・『あいつらは杖を持って、そのくせビクビクしながら尋問に来る。俺たちは丸腰でこの地獄にいる』というわけだ。よって、尋問に対してまじめに答えないガキみたいな態度を取るわけだよ。レイは違う。魔法など使わずにそいつの首を片手であっさり締め上げる。『わたくしの質問が聞こえなかったかしらぁ?!』とな。魔法使いなんてものは、学校の喧嘩でさえ呪いを使うものだから、魔法を使わない攻撃にからきし弱い。首を絞められて、顔を1発殴られて、頭を掴んでテーブルに叩きつけられたらもう慌てふためいてペラペラ喋るものだ。片手1本、1分もあれば、大の男の魔法使いが泣きながら喋るようになる。レイは後々の裁判のことを考えて服従の呪文は選択しなかったが、アダムスみたいな野郎を成人したばかりの君たちが手玉に取るのはまだ荷が重いだろうから、アダムスとの取引は自分がやることにしたのだ。とんでもないが、良い母上だと感謝しなさい」
「・・・はーい」
潜入する際の鉄則を守れ、とシリウスに髪を掻き回された。
「鉄則?」
「潜入する君をコントロールするパートナーが、この場合はスーザンだ。君はスーザンに対しては全部毎日報告しなければならない。コントローラであるスーザンは、状況が自分たちの手に負えるかどうか判断しなければならない。経験不足の君たちはそこまで意識していなかったと思うが、スーザンは君の様子を見て心配したり、気にかけたりしていたはずだ。昨夜の撤収打ち合わせと違ってレイに報告に行ったのは、手に余るかもしれないと不安があったから。未知の領域の作業なのに、スーザンはするべきことはきちんとクリアしている。今回未熟だったのは君のほうだ。さすがアメリア・ボーンズの姪だと言いたいところだが、少し様子が違うな。アメリアよりも逞しい印象を受けた」
「え? スーザンは普通に可愛い子だよ」
「そういう意味ではなく・・・そうだな、君とダンブルドアの違いに似ている。スキーターのあのろくでもない本を、私も読んだが・・・あれはあれで、ダンブルドアをよく表現していると思った。ダンブルドアの若い頃の過ちという解釈だが・・・あれは全部、机上の空論、思考実験の範疇のことだ。わかるか?」
「ああ、うん、そういえば」
「相手のグリンデルバルドも、あの時点ではそうだった。明敏でありながらのびのびと能力を発揮できない状況にあった若者たちが、その英明な頭脳で空論を戦わせたからこそ、2人の間の思想は先鋭化したように思う。その後のダンブルドアは、ホグワーツの教授になっただろう? ダンブルドアは偉大な校長、魔法界の指導者だが、象牙の塔で育成された存在だ。だが君は違う。いずれ校長、魔法界の指導者になることを考えているからこそ、今自分の実体験を積もうとしている。アダムスのような野郎に扮してババアにキスされ尻を触られ小遣いをもらった経験のある校長など、おそらく前代未聞だろう」
「・・・すんません」
「馬鹿者。それでいいのだ。誰よりも実社会の経験の豊富な校長になりなさい。アメリアとスーザンの関係にも同じようなものを感じると言いたかっただけだ。大地に根を張った、おそろしく力強く逞しいエネルギーが君たちにはある。私にも、そのエネルギーがあれば良いのだがな」
ないの? と蓮は首を傾げた。
「ないなあ」
「今日なんか元気ないのは感じるけれど」
「言ったろう。スキーターのろくでもない本を読んだのだ。それがいささか堪えている」
「・・・ダンブルドアのゴシップだから?」
「いや・・・ゴシップという取り扱いにしてあるが、それはあの女の悪い癖だ。アズカバンでろくな読書などできず、古新聞のスキーターの書いた記事ばかりを読んでいたから、不本意ながら私はスキーターの癖には多少の理解がある。ゴシップライターというのは口を糊するための手段であるはずだが、その文脈が癖になってしまって損をしてしまった文章もそれなりの数がある。これは、実に真面目な意図で書かれたもののようだ。ダンブルドアとグリンデルバルドの思想が先鋭化していく過程など、ただのゴシップに必要はないだろう? 私はこの本は騒がれるほど無礼なゴシップ本とは考えていないが、だからこそ、堪えるところもある・・・昔の仲間たちの群像劇だな」
ああ、と蓮は少し俯いた。
「当時の騎士団員は、無職の者が多くてね。まあ、それぞれ先祖からの財産があったとか、恵まれていた面はあるが、御多分に漏れず私もそうだった。ブラック家では、きちんと働いた者などおそらくいまい。名誉職はいくつかあるし、校長室に拒否された校長もいるが、まあ、それこそ名誉職だな。私は、ブラック家の純血主義を嫌って成人前から家を出てポッター家に厄介になっていたが、それでも職に就くことなど考えもしなかった。こうして生き延びて、無罪放免となり、気づいたらこんな歳だ。暮らしに困ることは何もないのだが、果たしてこのまま年老いていくだけの人生で良いものかと。仲間たちが生き延びていたらどのように暮らしていただろうと考えても、今ひとつ実感が湧かない。若くして死んだ仲間たちの姿を思い出して、自分は何かしなければならないと思うのだが・・・アズカバンの中で生きていただけで、戦うこと以外に何が出来るわけでもない。そういうことを考えさせられる本だった」
「あそこだけ・・・文章が違うんだよね」
シリウスは頷いた。
「あんなひねくれた女だが、さすがに茶化せない何かがあるのではないか? 私はそう感じた。特に・・・モリーの描写が多かったな。弟たちを案じて待つ姉としてのモリー。年齢も比較的近いから、スキーター自身が感情移入しやすかったモデルなのだろうと思う。だから余計に堪える。その当時は戦うことが正義であり、それ以外は瑣末なことでしかなかった。しかし、こうして新しい世代を見ている身になると、あのモリーの姿には痛みを覚えるものだ。ギデオンもフェビアンも私同様、職に就くことのないままの最期だったからな・・・いかん、湿っぽくなったな。さあ、そろそろ風呂に帰れ。スーザンには土下座だ。調子に乗って報告を怠ったことを誠心誠意謝罪しなさい」
「おおう! やべ!」
立ち上がった蓮は、ハリーの部屋に戻りかけて、足を止めた。
「シリウス」
「どうした?」
「職業のことはわたくしにはよくわからないけれど、シリウスの大事な役目のひとつは、ハリーの家族でいることだと思う。2年生の時、ハリーはアーサーおじさまからこう言われたことがある。『私は君のお父さんではないが断言しよう。君のお父さんもきっとそう言ったはずだ』って。ハリーには、お父さまが必要なんだと思うよ」
1.スリザリンのロケット
2.ハッフルパフのカップ
3.レイブンクローのダイアデム
4.蛇
5.復活の石
6.日記帳
7.魔法薬書
「今可能性があるとわかってるのはこれだけだな」
ルーズリーフに書き出して、ハリーが頷いた。
「じゃあ、済んだものは消していきましょう」
1.スリザリンのロケット
2.ハッフルパフのカップ
4.蛇
5.復活の石
7.魔法薬書
「まだ5つもあるのかよ?」
ロンが憂鬱そうに頬杖をつく。
「正確には、このうちの1つはダンブルドアが破壊しているはずだから、4つよ。その上、魔法薬書はマルフォイ家にあるとわかってる。それも含めウィンストン家で把握していた在処を合わせると、こう」
1.スリザリンのロケット(スリザリンの紋章)/ゴーント家→R.A.B
2.ハッフルパフのカップ
4.蛇
5.復活の石(ぺヴェレルの紋章)/ゴーント家
7.魔法薬書(ホムンクルス他レシピ)/ゴーント家→マルフォイ家
「皆目わからないのはハッフルパフのカップだけ。他の3つは1600年頃の時点では、ゴーント家の家宝だった。ただし、ゴーント家では全部スリザリンの宝物と主張していたけど、ニコラス・フラメルの観察によると、こう」
メモに書き込んで、ハーマイオニーはルーズリーフを指で叩いた。
「スリザリンの紋章なら、トムくんは見ればわかる。当然ながら早くに手に入れたはず。魔法薬書はラテン語とルーン語が読めない限りは使い道のない代物。復活の石は、スリザリンの紋章と違う紋章なのでどの程度価値を感じたかは疑問」
「・・・死の秘宝伝説には詳しくはなかっただろうっていう推論もあったよな」
「だとすると、この中でわかりやすく価値を感じるものは、まずスリザリンとハッフルパフだろ。この2つは厳重に警戒されてるな、ウン」
「スリザリンに関しては『厳重に警戒されてた』過去形だよ。実際にはR.A.Bが盗み出してるんだから。これを踏まえて考えると・・・ダンブルドアが破壊したのは、復活の石じゃないか?」
ハリーとロンが同時に顔を上げてハーマイオニーを見た。
「わたしもそう思うわ。復活の石は、指輪の形状に加工されてたそうなの。ダンブルドアのあの右手の壊死は、呪いに不用意に手を突っ込んだことだそうだから、指輪ならその意味でも理屈は通るわね」
ハリーが腕組みをした。
「とにかくダンブルドア家にはしばらく近寄らないから、ひとまずは復活の石は後回しにしよう。蛇はトムくんのペット。マルフォイ家にある魔法薬書は、トムくんの本拠地。どっちも後回しだ。ロケットとカップのどちらから始めるか・・・僕は、やっぱりロケットからが安全だと思う。まだ盗まれたことに気づいてなかったわけだからね。ハッフルパフのカップは、ホグワーツの創始者に絡む品だから、ロケット並みに厳重だと考えられるし」
「それが妥当だと思うわ」
「R.A.Bについては何かわかったのか?」
レンのばあばから人物像は聞いてある、とハリーがお尻のポケットから羊皮紙を取り出した。
「・・・こうだ」
1.スリザリンのロケット(スリザリンの紋章)/ゴーント家→R.A.B《トムくんに失望した元側近》
2.ハッフルパフのカップ
4.蛇
5.復活の石(ぺヴェレルの紋章)/ゴーント家
7.魔法薬書(ホムンクルス他レシピ)/ゴーント家→マルフォイ家
ロンが首を傾げた。
「ヒントになるような、ならないような」
重大なヒントよ、とハーマイオニーが目をキラっと光らせた。「R.A.Bはもう生きてない」
「ああ。僕もそう思う。あのな、ロン。死喰い人の組織は、足抜け出来るようなのどかな組織じゃないだろ。まして側近ならなおさらだ。トムの秘密を知る奴が遠くに行くぐらいなら殺されるさ。つまりこうだ」
1.スリザリンのロケット(スリザリンの紋章)/ゴーント家→R.A.B《トムくんに失望した元側近-別件で死亡もしくは行方不明》
2.ハッフルパフのカップ
4.蛇
5.復活の石(ぺヴェレルの紋章)/ゴーント家
7.魔法薬書(ホムンクルス他レシピ)/ゴーント家→マルフォイ家
「なんだこの、別件で、とか、もしくは行方不明、ってのは?」
「ロケットを奪ったために死んだのなら、もうバレてるから、R.A.Bのロケットなんて残ってるわけないだろ。ただし、あの場所でロケットを手に入れるには、2人必要なんだ。だから・・・あと1人は生きて帰ったけど、R.A.Bはあの場で亡者に引き込まれた可能性も高い。その場合は行方不明さ」
「なるほど・・・そのもう1人ってのは?」
わからない、とハリーは肩を竦めた。「R.A.Bがあの湖で死んだのなら、ロケットはそいつが持ってると思うけど・・・」
「逆かもしれないぞ? もうひとりが湖で犠牲になって、R.A.Bは生きて帰って澄まして側近やってんのかも」
ハーマイオニーは疑わしげに首を傾げた。
「ハーマイオニー?」
「マルフォイを見てるとねえ・・・開心術で見たマルフォイの記憶では、もとはマルフォイが誇るに値する壮麗な邸だったの。でも今では地獄よりひどい場所。広くて暗いダイニングルームで、真ん中に長ーいテーブルがあるわけ。一家の主の席にトムくんが座り、それを挟むように、ベラトリクスとマルフォイの母親。マルフォイは母親の隣ね。ずっと下座には、人狼だのならず者だの、とても邸に相応しくない輩が、下品な会話をしながら、ぺちゃぺちゃと咀嚼する音を立てて食事。トムやマルフォイたちの周囲を常に蛇がズルズル動いていて、犠牲者がいる時にはダイニングルームの垂木にロープで縛って吊るされ、悲鳴や啜り泣きがずっと聞こえる。マルフォイは嫌悪感を必死で閉心術で押し隠しながらの食事よ。トムくんに失望した側近にとっては、マルフォイが感じるのと同様の嫌悪感があったはずだし、開心術で心の中を覗き見られたら、命はないわ。トムくんのホークラックスを奪って澄まして同席してバレずに済むとは考えにくい」
うげえ、とロンが顔をしかめた。「マジで耐え難い生活だな。僕ちょっとマルフォイに同情しそうだ」
「わたしの推論はこうよ。ハリーとレンのおばあさまの探索で、こう言われたのよね? 『湖の小島に行くのは2人必要。でも帰りは1人が基本』探索が想定以上に成功したから2人で帰って来られたけど。R.A.Bは自分自身がトムくんに失望したわけだから、死ぬ覚悟でもう1人を連れて行った。死喰い人に関わりがなく、ロケットを持って生きて帰って隠れ潜むことの出来る人物よ。だから、R.A.Bは湖で死亡。もう1人が無事にロケットを持ち帰り、隠れ潜んでいる」
1.スリザリンのロケット(スリザリンの紋章)/ゴーント家→R.A.B《トムくんに失望した元側近-別件で死亡もしくは行方不明。ただし協力者1名がロケットを隠した》
2.ハッフルパフのカップ
4.蛇
5.復活の石(ぺヴェレルの紋章)/ゴーント家
7.魔法薬書(ホムンクルス他レシピ)/ゴーント家→マルフォイ家
ルーズリーフを眺めて、ハリーが「情報量が段違いだ。スリザリンのロケットから探そう。いいね?」と2人に確認した。
ロンとハーマイオニーはもちろん頷いて答えた。
翌朝、ハーマイオニーは睡眠不足で鈍く痛む頭を押さえながらお茶を飲んでいた。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
ロンに尋ねられ「変な記憶が、こう、頭の中をぐるぐる回ってるけど、着地点がなくて、気になってあまり眠れなかったの」と答えた。
「ふうん。どんな記憶だい?」
「スリザリンのロケットに関係があるかどうかはわからないのよ。昨日、ロケットの話をずっと続けていたから、それに刺激されて無関係な記憶が呼び起こされただけかもしれないし」
「いいから、話してみろって」
ハーマイオニーは指を2本立てた。
「ひとつは映像記憶。だからたぶん、いつのことかはわからないけど、見たことがあるの。こう、狭苦しい穴蔵みたいな場所にぼろ切れが詰め込んであって、ぼろ切れに包むように、銀器・・・とにかく、銀製の何かがチラッと見えた」
「へえ・・・もうひとつは?」
「こっちは映像記憶じゃないから自信はないわ。ただ・・・『喋って命令するロケット』の話をしたような気がしてならない」
「誰と?」
「それはわからないわ。でもその人、自分から『喋って命令するロケット』の話を持ち出したのに、わたしが詳しく聞こうとしたら、自分も他に見たことも聞いたこともないから気のせいじゃないか、って軽く流された、ような気が」
「そんな答え方、どう考えてもレンだろ。なんでも知ってるけど、自分が興味なければテキトーに放り投げる」
ロンが軽く笑うと、ハーマイオニーは目を見開いてロンを見つめた。
「・・・あなた、天才だわ」
「へ? やっぱりレンかい?」
椅子が後ろに倒れる勢いで、ハーマイオニーは立ち上がった。
「ウェンディよ! ウェンディに会うわ!」
ぽかんと口を開けたロンに抱きついて「ああ、ありがとう、ロン! すごくスッキリした! 気分爽快だわ!」と熱烈な感謝を捧げているところにハリーが入ってきて、こめかみを押さえて目を逸らした。
「・・・失礼」
「おいハリー、勘違いだ」
「どこが勘違いだよ・・・それぞれに個室があるんだから、そっちでやれ。パブリックスペースはそういうことには使うな。今日の掃除は君たちでやってくれ」
ハリーは目を逸らしたまま、キッチンからソーセージと茹でジャガイモを載せた皿を引っ掴んで、自分の部屋に逃げ帰ってしまった。