サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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閑話50 ロムさんとレムさん

『ピンポンパンポーン! よう、腐った大鍋のドン底で耐えている諸君! 大陸から守護天使エリザベス3世がお届けする蜘蛛の糸が、今日からスタートした! 地獄にいる奴を救い出すのに、神さまは蜘蛛の糸を垂らすらしい。DJは俺、ロムルスと、耳無野郎の相棒レムスだ。よーく覚えといてくれ』

 

『この声が耳無野郎レムスの声だ。ロムルスと聞き分けがつかない? そりゃしょうがない。ロムルスとレムスは双子の狼だからな。聞き分けがつかなくても問題ないから心配するな。今日は初日だから、ゲストもいるぜ。正義の頭文字、ジェイだ。やあジェイ。君の自己紹介を頼む』

 

『ありがとう、ロムルス、レムス。ご紹介に与ったジェイです。このラジオ放送のプロデュースを担当している。このラジオ放送は、エリザベス3世と円卓の騎士団が、イギリスで苦難に耐える仲間たちのために情報を提供するためのメディアで、僕は円卓の騎士団の一員だ。円卓の騎士団は今様々な場所で、様々な形でイギリスのために働いている。僕の場合は、難民支援と情報提供が今のところの任務だ。こんなところで構わないかな、ロムルス?』

 

『オーケー、ジェイ。あとは任せろ。双子の狼ロムルスとレムスはジェイに雇われたDJってわけだ。自己紹介が済んだところで、今ジェイがチラッと口を滑らせた難民支援って奴を説明しよう。こいつぁマジでスゲェんだぜ。ある国の、とある腐った魔法省に正義の官僚がいるわけだ。えーと、エリザベス3世がつけたコードネームは、カポネ。マフィアのボス、アル・カポネの血縁かもしれないな! カポネが盗み出したマグル生まれのリストはもう国連に届いてる。国連じゃちゃんとした正式名称があるが、ここじゃ《カポネのリスト》で通すから覚えといてくれ』

 

『《カポネのリスト》に基づいて、ある国のとある腐った魔法省が追っているマグル生まれのデータは、円卓の騎士団と国連が共有し、円卓の騎士団とその傭兵はある国の中からマグル生まれを拾ってくる。それを国連が保護するシステムが完成した。豪華なテントを大量に設営した難民キャンプがある。腰が砕けそうな美女たちが、あらゆる形でお世話してくれるぜ。正直なところ、俺もあそこに住みたい』

 

『レムス、ボランティアの方々にセクシャルな発言は控えてくれないか? なになに? 申し訳ない。収録ブースの隣室にアシュヴィン・ワンとアシュヴィン・ツーというコードネームの双子の美女がいるんだが・・・彼女たちからのメッセージだ。《野郎どもが腰砕けになるような美女だけじゃなく、わたしたちがトロトロになるようなハンサム・ガイも山ほどいるわ!》だそうだ。アシュヴィン・ワン、僕を選んでわざとこんな卑猥な文章を読ませないでくれ。アメリアが聴くかもしれないじゃないか。まあ、とにかくそういうことだ。男女問わず、多くのボランティアの方々がイギリスからの政治難民を支援するために協力してくれている』

 

『ある国のとある腐った魔法省に追われて逃げ回ってる君たちがマグル生まれなら、《カポネのリスト》に名前が載ってる。円卓の騎士団の中で、君たちの回収を行う勇者は《アメリアとレイ》このロムルスが保証する凄腕だぜ。どうしたら《アメリアとレイ》に渡りをつけられるかって? そりゃ簡単だ。川でも池でも湖でもいいから顔をつけてこう叫べ《カワタロウ!》ってな!』

 

『もちろん《アメリアとレイ》にも無限に体力や魔力があるわけじゃないから、すぐにとはいかない。でも諦めるな。いつか必ず《アメリアとレイ》が助けに行く。ここで一曲、君たちに贈ろう。《アメイジング・グレイス》ダンブルドアの葬儀で歌われたゴスペルだ』

 

 

 

 

 

マイクの音量を下げてしまうと、パドマが曲の音量を上げていく。

 

「切り替え完了よ、DJのみなさん。今のうちに飲み物を飲んで、喉に活力を与えてちょうだい」

 

 

 

 

 

『よーく聴いたか? マグルってやつぁ面白いことを考えつくよな。お喋りと音楽。音楽を流す間に俺たちゃ、エスプレッソを飲み、喉を潤すって寸法だ。このラジオ放送も、マグルの発明さ。俺たちの師匠はマグルの機械にも詳しくてね。おかげでこんな面白い仕事が舞い込んできた。《カポネのリスト》に載ってる奴らなら、ラジオの使い道もわかるだろ? 番組の最後にキーワードを教えるから、次回も聴きたきゃそのキーワードを覚えといてくれ。要するに最後まで聴けってこった』

 

『キーワードを呟きながら杖でラジオを軽く叩け。放送時間なら必ずヒットする。放送時間は1日置きのこの時間。放送日には、俺も幸せだ。難民キャンプのど真ん中にいられるからな。おっと、美女が俺に手を振ってる。悪い、ロムルス、腰が砕けた』

 

『しょうがねえなあ。件の美女が難民からのメッセージを届けてくれたんだが・・・あー、このままじゃ読めないなあ。ジェイ、読める範囲に手直ししてくれ。頼む。ジェイがメッセージを整理する間に、《難民からのメッセージ》についても教えよう。《カポネのリスト》に載ってそうな友人・知人のことが心配だろ? 難民キャンプに来たマグル生まれは、本人から直接メッセージを送るのはまだ危ないから、このラジオを通してある国にいる友人・知人にメッセージを送ることになった。サンキュー、ジェイ。こういう具合だ、読むぜ。《ママに会えたよ、パパ。デヴォンの子羊テディより》・・・ジェイ、これで伝わるのか? あー、オーケー。悪い。今のは急だったからイマイチの仕上がりだが、キャンプ側に頼んで、もうちょいわかりやすい、家族や友人・知人にしかわからないキーワードを入れたメッセージを書いてもらうようにする。このラジオ放送は、《カポネのリスト》に載ってる奴らだけのものじゃない。《カポネのリスト》に載ってる仲間を案じる気持ちがある奴なら誰でも聴いていいのさ』

 

『まあ《案じる》にもいろいろある。意味はわかるね? 敵方でも、案じるって言やぁ案じてると言えるだろ。だから、コードネームやキーワード、メッセージ、どれもこれも、面倒くさいかもしれないけど大切なんだ。この面倒くささが大切さ。エリザベス3世は、実はとんでもなく面倒くさがりな奴だ。馬鹿魔力の持ち主だからね。奴が杖を振りゃあ、湖から竜巻が発生するし、クィディッチピッチも一瞬で爆散する。でもその馬鹿魔力を直接振るうと、敵味方御構い無しに殺っちまいかねない。たまにそういう馬鹿犬がいるだろ? ちょっと遊ぼうよ、って気分で前脚を小鳥に伸ばしただけのつもりが、叩き潰してしょんぼりって雰囲気の馬鹿犬。エリザベス3世ってのはそういう奴だ。だから、円卓の騎士団という使徒を必要とする。今日はこの円卓の騎士団の中で君たちに深く関わる2人を説明しよう。《アメリアとレイ》だ。レイについては俺からだな。よしきた。レイは凄腕の魔法使い。ハンサム・ガイで、すらっと細身で背が高い。キュートなケツがオバさん魔女に大人気だ。俺もあのケツは悪くないと思う。サングラスをかけてることが多いが、素顔はイケメンだぜ。まあ、魔女にとっちゃ一見の価値アリだから楽しみにな。レイの得意技は守護霊の呪文ってことになってるが、あいつ、基本的になんでもアリだからなあ。しかも、どんな魔法を使ったかわからないぐらい、無言呪文の早撃ちガンマンだ。アッチが早撃ちかどうかは、アメリアに聴かなきゃわからないだろうな。ジェイ?』

 

『僕はアメリアの純潔を信じてるよ。レイは紳士だからね。アメリアについて語ろう。ひと言で言うと天使だ。僕の天使だ。だから《カポネのリスト》の諸君。アメリアに手を出したら、こっちでのキャンプ生活は苦しくなると覚悟しておいてくれ。また、アメリア個人についても要注意事項はある。《見た目に騙されるな》これに尽きる。レイと一緒に行動できるだけの凄腕だよ、間違いなく。見た目に騙されてナメた態度を取ると痛い目に遭う。それからふくよかな薔薇色の頬が』

 

『ラブコールはそのへんにしとけ、ジェイ。そろそろ時間だ。初回のキーワードは、馬鹿犬エリザベス3世が直々に選んだ。よーく覚えとけよ? 《シャックルボルト》だ。じゃあな、アミーゴども、アディオス!』

 

 

 

 

 

ジニーは掲示板を見上げて溜息をついた。

 

「誰なの? 《ロムさんとレムさん》のキーワードを貼り出したのは? 《ロムさんとレムさん》はホグワーツでは禁止されてるわ。今なら罰則は無し。さあ申し出て」

 

1年の男子がおずおずとジニーの前に進み出てきた。

 

ジニーは膝を屈めて目線を合わせ、その頭を撫でてやった。

 

「正直でよろしい。その勇気を称えてグリフィンドールに10点。ただし、文字に残した愚かさを省みるために、そこから5点減点よ」

「ありがとう、ミス・ウィーズリー!」

 

うおおおお! と男子寮から雄叫びが聞こえてきた。シェーマス・フィネガンがラジオを掲げて階段を駆け下りてくる。

 

『もう一度読み上げるぜ。《よう、ホグワーツの爆発野郎! 無事にキャンプに着いた。俺を助けに来たのは、聞いて驚け、あのアルジャーノンだぜ、爆発野郎! おまえのナイトを叩きのめすクィーンより》・・・イイ! イイなあ! 暗に示すメッセージのお手本だ! これなら俺たちも安心して読める。さーて、お次は・・・よしよし、なかなか上手くなってきたじゃないか。《カラスのダイアナさんへ。ブランカの牙に咥えられてキャンプに合流したわ。カッパについてだけはあなたの言葉を信じることにする。ラックスパートは信じないけど》』

 

「ディーンは無事だ!」とシェーマスが泣きながら叫んだ。

 

ジニーは慌てて肖像画の扉を潜ってフクロウ小屋に向かった。

 

「ジニー、聴いた?」

「安心したわ。ルーナ、あなたもフクロウを?」

「あの子のママに知らせる約束だモン」

 

ダメよ、とジニーはフクロウ小屋の中に誰もいないことを確かめて、さらに念を入れてマフリアートを使った。

 

「ミセス・バクスターに直接送るのはダメなの。わたしがレディ・レイに送るわ。レンのママが不死鳥の騎士団やマグルの伝手を使ってミセス・バクスターに知らせてくれると思う。ああ、でも本当に良かった」

 

フクロウがせわしなく舞うフクロウ小屋で、ジニーはルーナと抱き合って友人の無事を喜んだ。

 

 

 

 

 

『さーて、今日のキャンプからのメッセージに移ろう。《僕のハニー・ポット・パイへ。無事にキャンプに着いたよ。アメリアとレイは本当に助けに来てくれた。君が気にしてたレイの早撃ちの件だが、本人が言うには『アメリアのことは満足させている』だそうだ。アメリアからは『意味が全然わかってないの、ごめんなさい。むしろ遅撃ち過ぎて、まだ貫通してないわ』と君への伝言を預かった》良かったな、ジェイ! 大事なところを質問してくれたハニー・ポッ・・・なあ、この名前、連呼して大丈夫だと思うか? 放送禁止用語じゃね? とにかくこいつの彼女に感謝しろよ。聞け、野郎ども、アメリアはまだ貫通されてない。大事なことだぞ』

 

『それは僕だけが知っていればいい情報だろ、レムさん!』

 

『まあ、たしかにそうだな。俺からもアメリアに確かめたい疑問があるにはある。誰か俺の代わりにアメリアに確かめてくれ。《レイのケツを狙う野郎はいないのか?》ってことだ。オバさんに撫でられるぐらいなら我慢はするが、野郎に狙われてるとなると俺はもう遠慮しないぜ』

 

『レムス、それおまえがレイのケツを狙ってるようにしか聞こえねーぞ』

 

イヤフォンを耳に入れたまま、首席特権でもぎ取った個室のベッドの上でダフネは、バシバシと枕を叩きながら声を殺して笑いをこらえた。

 

次の質問を仕掛けた男からのメッセージはいつ届くだろう。

 

『あれ? なんだこりゃ、同一人物かな、別人かな。とにかく読もう。《やあ、僕の可愛いハニー・ポット・パイ。君の疑問は《レイはチェリーボーイなのか》だったね。本人に聞いたら《杖はチェリーだ》と真顔で言われた。あいつ絶対意味わかってないと思う。アメリアに聞いたらなぜか不機嫌になり《オバさんたちに何もされてなければね》と冷たく言われた。申し訳ない。真相は薮の中だ》なるほど・・・杖はチェリー・・・意味深だな、レムス』

 

『まったくだ・・・おいロムルス、ハニー・ポット・パイの彼氏2人が殴り合いを始めた。ヤバいぜ、同一人物だ!』

 

『おいこら、ハニー・ポット・パイ。今度から君のコードネームを彼氏に教える時は何パターンか用意しろ!』

 

はいはい、とダフネが誰にともなく返事をして、ネビルのエクエスに無事にキャンプに着いた元カレ2人の名前を送信したのだった。

 

 

 

 

 

エクエスに届いた名前を羊皮紙に書きつけたネビルは、続けてラジオに耳を傾ける。

 

『今日は残念なニュースがある。指名手配中のハーマイオニーが、フィレンツェのカフェで働いてるという情報が入った。魔女を引退してイタリア人の彼氏と同棲中だそうだ。イタリア魔法省はハーマイオニー・ジーン・グレンジャーの亡命を快く受け入れると声明を発表した』

 

『捨てられた哀れなロナルド・ウィーズリーに合掌。イタリアのハーマイオニーの幸福を祈ろう。さて、先週オークニー諸島で海水浴を楽しんでいたほうのハーマイオニーは先ほど、ヨークシャーでヨークシャー・プディングを食べていたそうだ。また、先々週に南仏でブイヤベースを食べていたハーマイオニーからはさっきメッセージが届いた。《わたしはそこまで馬鹿じゃないわ》まったくだぜ。この季節にオークニー諸島で海水浴するようなハーマイオニーはハーマイオニーじゃない。基本的にこの季節はスイスでスキーだ。板を履いて雪の上を滑る趣味がある。本日のハーマイオニーのコーナーはここまで。ここで一曲お届けしよう。エルトン・ジョンがつい最近、歌詞を替えて発表した《キャンドル・イン・ザ・ウィンド〜プリンセス・ダイアナに捧ぐ》』

 

曲が終わるとニュースが続いた。

 

『フリーライターのリータ・スキーターのインタビューに魔法不適正使用取締局長マファルダ・ホップカークが回答したらしい。《グレンジャー容疑者の捜索には魔法省としても強く力を入れています。捜査主体は不適正使用取締局です。グレンジャー容疑者と親交の深かったウィーズリー家からは、容疑者のマグルの親族の名前や職業、親戚関係など充分な情報が提供されました。それによると、ヨーロッパの大陸側にも複数の親戚がいることから、グレンジャー容疑者が海外に脱出した可能性は否定できません。同時にウィーズリー家の証言では、このように混乱した時局には持ち前の正義感や倫理観を発揮する可能性も否定出来ません。以上のことから、国内での捜査と海外での捜査、両輪を方針とします。不適正使用取締法はあくまで国内法ですので、不適正使用取締局がイギリス国内の捜査を担当し、マグル生まれ登録委員会は、ドローレス・アンブリッジ委員長の前役職が国際魔法協力部部長であったことを踏まえ、関係国の捜査協力を得て海外に捜索の手を広げています。なんですって? 広がっていない? その件はアンブリッジ委員長にお尋ねいただきたいですね。不適正使用取締局やマグル生まれ登録委員会に寄せられる目撃情報の大半が悪質な協力者によるものの可能性は高いと認識していますが、こうした中に本物が混ざっていないかどうかを精査することは基本でしょう。もちろん、少なくともオークニー諸島の海水浴を信じて捜査員を投入はしません。アンブリッジの部下がオークニー諸島に? アンブリッジ委員長の指示でしょうね。特に非難するつもりはありませんよ。わたしに海外への伝手があるならともかく、ありませんからね。そちらはアンブリッジ委員長が頼りです。国連からの非難声明についてはわたしからコメントをお出しすることは出来ません。わたしは国内法を担当する一官僚であり、国際情勢に関与する資格を持ちませんので。そろそろ制限時間ですね。では失礼》相変わらずの教条主義の紋切り型の回答だとスキーターは思ったらしい。俺に言えることは、どっちもクソババアだから名前を覚えといたほうがいいぜ、ってことかな』

 

本日の放送を聴き終わると、アリアナの肖像画を扉のように開いて、中に出来た通路を歩いていく。

 

「アブ。僕だ。今日のメモはこれ」

 

ホッグズヘッドのバーテンの部屋に繋がった扉を開くと、アバーフォースが面倒くさそうに受け取った。

 

「いつものように、シューコの娘さんに送って欲しい」

「いいだろう。ああ、待て、ロングボトム。オーガスタからの伝言がある。『最近うちの中がキュウリくさいのは何故だえ、ネビル? おまえが妙なキュウリを植えているのならばあちゃんにひと言知らせるのが筋だえ?』妙なキュウリはさっさと引っこ抜くように言ってやれ。増え始めたら手に負えんぞ」


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