サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第4章 ギルデロイ・ロックハート

新学期の初日からロンはまったくついていなかった。

 

まず朝食の席で、ハーマイオニーが(なぜこんなくだらないものが教科書に選定されたのか不思議でならないのだが)「バンパイアとバッチリ船旅」をティーポットに立てかけて読みながら朝食を食べていた。そんなことをしているほうが悪いとロンは主張したが、ハーマイオニーは「バンパイアとバッチリ船旅」のページにベーコンの脂を飛ばしたロンにひどく腹を立てた。

「今度神聖な教科書を汚したら、ジェミニオであなたのそばかすを2倍にしてやるわ!」

 

「なんだよあいつ!」とハリーに愚痴を言いながら談話室に戻ろうとして、よりによって蜘蛛の行進に出くわして、階段から転げ落ちた。

しかも、蓮の足元に。

「ほう。いい度胸だ」

 

まさにパンツが見えそうな位置にあるロンの頭は、蓮のローファーで蹴られた。

 

「ロン!」

 

ハリーの叫びに「ハリー、心配してくれるのは君だけだぜ、親友」と呼びかけたが「バカ、違うよ! 君の尻から火花が出てる! 杖だ!」と流された。

 

「ん? 杖? 杖ぇぇぇ?」

 

哀れなことに尻ポケットに入れていた杖は、真ん中あたりでポキリと折れ、木肌の部分で辛うじて繋がっているという有様だった。

 

「レン! ハーマイオニー! なんとかしてくれ! レパロで直すとか!」

 

しかし、蓮もハーマイオニーも「杖を安易にレパロで直すことは、スペロテープで貼り合わせるようなものだから賛成出来ない」と意地悪なことしか言わない。

 

兄のパーシーに頼んだら「そもそも杖を尻ポケットに入れておくこと自体が!」とガミガミ言い出した上に、結論は蓮やハーマイオニーと同じものだった。

 

兄のフレッドが「俺が直してやるよ」とレパロをかけてくれたが、パチパチっと火花が散っただけで変化はなく、むしろ「だまし杖」なる悪戯用品を売りつけられそうになった。

 

「ジョージ! 頼むよ!」と泣きつくと「フレッドがレパロは試したんだろ? じゃあ意味ないな。そんなことより、母さんや父さんに頼んだりするなよ。ロックハートの教科書代だけで金庫は空っぽになっちまったんだからな」と釘を刺された。

 

さすがに、妹のジニーには何も頼めない。

 

ブスッとしたまま薬草学の授業に出ようとしたら、ハリーがギルデロイ・ロックハートに捕まった。しかも、新入生のコリン・クリービーが写真を撮ると言い出すものだから、ロンはハーマイオニーや蓮と同じテーブルでハッフルパフの男子と作業することになった。

 

「杖の件だけど、マクゴナガル先生に相談してみたら?」

 

ハーマイオニーの提案にロンは首を振った。

 

「学校が予備に持ってるオンボロ杖ぐらいは貸し出してくれるだろうけど、早いうちに自分の杖を買えって言われるに決まってる」

 

ハーマイオニーと蓮は顔を見合わせた。

ハリーと4人のときなら「だからなおさら早めに知らせて、お金を準備する時間と心の準備をしてもらったほうがいい」と言いたいところだが、ハッフルパフの男子のいる席でそれは言えない。

 

しかも、その少年、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーときたら「いーとん校」だか「らぐびー校」だかの話題でハーマイオニーと盛り上がり始めた。

 

マンドレイクの植え替えをするためにつけた耳当てがズレていたのは、そのせいかどうか。

ロンはマンドレイクを土から引き抜いた途端に昏倒したのだった。

 

 

 

 

昼食の時間まで気を失って過ごし、大広間のテーブルで時間割を見ているハーマイオニーの手から時間割の羊皮紙を取り上げると、次の時間は一目瞭然だった。

闇の魔術に対する防衛術だ。

 

「君、ロックハートの授業を全部小さいハートで囲んであるけど、どうして?」

 

ハーマイオニーは顔を真っ赤にして、ロンの手から時間割をひったくった。

 

昼食を終えて中庭に出ると、コリン・クリービーがハリーに駆け寄ってくる。

 

「あなたの友達に撮ってもらえるなら、僕、あなたと並んで撮ってもらってもいいですか? あと、写真にあとでサインをくれると」

 

甲高い声がコリンのお願いを遮った。

 

「ポッター、君はサイン入り写真を配ってるのかい?」

「だまれ、チワワファッカー」

 

ロンの声に中庭の生徒たちがプスっと吹き出した。

 

「いったい何事かな? サイン入り写真と聞こえたが?」

 

ギルデロイ・ロックハートが大股にこちらに歩いてくる。

 

ロンとハリーは助け船を求めて、ハーマイオニーと蓮の姿を探したが、うっとりして役に立ちそうにないハーマイオニーしか見当たらない。

その隙にハリーはロックハートに羽交い締めにされた。

 

「さあ、撮りたまえ。2人のツーショット写真だ、最高だろう? しかも君のために2人でサインしよう」

 

 

 

 

 

蓮にとって最悪の時間はこれからだ。

 

ミニテストの用紙をひっくり返し、テスト問題を読んで頭痛がした。

 

ーー誰がこんな馬鹿なテスト・・・ああ、馬鹿か

 

そもそも蓮は、ハーマイオニーと違ってギルデロイ・ロックハートに幻想は抱いていない。

むしろ虫酸が走る。

 

本を読んだだけで虫酸が走っていたのが、現物のナルシストぶりを見て、吐き気に変わり、授業を受けて頭痛になった。

 

これはもう「ロックハートアレルギー」の末期症状だ、と回答すらせずに腕組みをして考えた。

 

ちなみに、白紙提出して減点された蓮に何人かが小さく拍手を送ってくれた。

 

 

 

 

土曜日の朝。

蓮がすやすやと健康的な寝息を立てているところを、クィディッチユニフォームを着たアンジェリーナに起こされた。

 

「アンジェリーナ?」

「キャプテン・ウッドが全員を叩き起こしてるわ。練習開始よ。あなたのクロゼットはこれ? ユニフォームは・・・っと、よしよし。さあ着替えて!」

「アンジェリーナ、まだ夜が明けてない気が」

「一応朝日は山の向こうにあるわ」

 

微かに目を覚ましたハーマイオニーとパーバティに謝り、箒を担いで談話室を出て選手更衣室に行った。

 

「よう、レン。ここに座れよ」

 

くしゃくしゃの髪のままのジョージがベンチの自分の隣のシートを叩いた。

 

「・・・おはよう」

「眠そうだな」

「みんなそうでしょ?」

 

ハリーがふらふらしながらやってきて、オリバーの作戦説明が始まったが、蓮の頭には入らない。たぶん誰の頭にも入っていない。

 

ーーとにかくミスタ・ウッドが今年もクィディッチカップを目指していることはよくわかった

 

「よぉし、行くぞ、野郎ども!」

 

自分も「野郎」に含まれるかどうか考えながら立ち上がると、アンジェリーナが「野郎だけで行って。チェイサーは朝食に戻るわ」と指摘した。

 

「失礼、ホグワーツで最高に美しいチェイサーズだ」

 

朝食に戻る、という言葉を聞いたせいで急に激しい空腹を感じた。

 

 

 

 

「へえ、チワワファッカーが新しいシーカーね」

 

グリフィンドールチームが腕組みをして緑のローブのスリザリンチームと睨み合っていると、蓮がのんびりと口にした。

 

「で、チワワのパパが新しい箒をスリザリンチームに買ってくれたってわけね?」

 

グリフィンドールチームのメンバーがスリザリンの箒に吸い寄せられる。「ニンバス2001だ」

 

「クリーンスイープしか持たない奴らにしては目が高いじゃないか」

 

そこへロンとハーマイオニーが「どうしたの、練習は?」と言いながら、ピッチの芝生の上を駆け寄ってきた。

 

「ウィーズリー、僕はスリザリンの新しいシーカーだ。僕の父上がチーム全員に買い与えた箒を、みんなで称賛していたところだよ」

 

ハーマイオニーが頭を振り「恥ずかしい人ね、マルフォイ。お金でチームを買収してシーカーになろうだなんて」と指摘すると、マルフォイがピッチに唾を吐いた。

 

「だれもおまえの意見なんか求めてない。生まれそこないの『穢れた血』め」


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