サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第18章 名前の由来は

目を開けると、ジョージの顔が見えた。クィディッチのユニフォームのままだ。

 

「ジョージ」

「よう。起きたな、王子さま。プリンセスを取り返してくれ。っち、じっとしてろって!」

 

ジョージはなぜかロックハートが泣きながら這って逃げようとするのを、盾の中に引き戻した。

ハリーが何度も「エクスペリアームス!」と叫ぶのが聞こえる。

そちらに目をやると、ロンが眩い光を放つ剣を構えているのが見えた。

 

「ここやハリーたちにマクゴナガル先生が保護呪文をかけてくれてるけど、相手の中身はともかく、体はハーマイオニーだから攻撃できないんだ。日記帳もハーマイオニーが持ってる」

 

蓮は頷き、体を起こした。

 

「ウィンストン」

「お手数をおかけしました、マクゴナガル先生」

 

まったくです、と動き回るハリーとロンに盾を次々と展開しながら、マクゴナガル先生が口を曲げた。「グレンジャーの体から、あの変態を追い出すことが出来るのは、ここではあなただけです。グレンジャーはあなたの母親のゴッドチャイルドですから」

 

驚いたように目を瞠ったが、すぐに立ち上がると、杖を仕舞ったユニフォームのローブを脱いでジョージに渡す。

 

「おい、杖は?」

「ハーマイオニーに攻撃魔法は使えないから、肉弾戦ね。わたくしのローブと杖を守ってて」

「クソ! 手間のかかる奴らだ!」

 

悪態をつくリドルに向かって蓮は駆け出す。

 

「トム! ハーマイオニーの体を返しなさい!」

「その名で呼ぶな!」

 

怒りに燃える目で、リドルが蓮に緑の光線を放つが、マクゴナガル先生の盾が防いだ。

 

「な、なぜだ! 反対呪文は存在しない!」

「お忘れのようですが、トム。あなたの今の体は、いくら優秀とはいえまだ2年生の、しかもグリフィンドールの少女ですからね。禁じられた呪文の威力は絶対的に落ちているのです」

 

マクゴナガル先生の言葉に蓮は頷いた。

 

「トム・マールヴォロ・リドル。わたくしの友人の体で殺人は出来ないわ。ハーマイオニーがその体の中で抵抗しているはず」

「その忌々しい名を呼ぶな!」

 

名前の、と言いながら蓮は距離を詰めた。

忌々しさなら、と腹を殴る。

 

「わたくしの勝ちよ!」

 

殴られて吹っ飛んだハーマイオニーの体に向かって蓮は叫んだ。

 

「わたくしの母の名は、怜・エリザベス・菊池。わたくしの父の名はコンラッド・ウォレン・ウィンストン。おかげでわたくしのフルネームは、蓮・エリザベス・ウォレン・ウィンストン! トイレのマートルとお揃いよ!」

 

にや、と身を起こしながら、リドルが嗤う。「馬鹿め。『穢れた血』のマートルごときのために、フルネームを明かしたな?」

 

「そうよ。わたくしの名前はマートルとお揃いよ! トム・マールヴォロ・リドルが忌々しいですって? あなたの名前はろくに字も書けない母親が必死で書き写したメモからつけられた名前じゃない!」

 

リドルが顔色を変え、蓮を吹き飛ばした。「記憶を見たな!」

 

ハーマイオニーがね、と蓮は立ち上がる。「あなたがわたくしに開心術をかけるとき、同時にこっそり送って寄越したの。才能ある友人を持つと、こちらがぶっ倒れるような無茶をされるから困るわ」

 

立ち上がった蓮は続けた。「ヨレヨレの古い2枚の紙。片方は、書き慣れた文字でトム・リドルと書いてあった。もう片方は、形だけ書き写した、子供がアルファベットを練習するような文字で、やっと読める程度のマールヴォロ。その2枚の紙だけをあなたの母親が持っていたから、あなたの名前はトム・マールヴォロ・リドル」

 

ぎり、とリドルが歯ぎしりをした。

 

「あなたの母親が、教育を受けていない、字も書けない母親が、たったひとつだけあなたに残したプレゼントが、その名前よ! それを、ヴォルデモート卿だなんて、子供じみた言葉遊びはやめなさい!」

「僕に指図するな!」

 

リドルが形相を変えて叫んだ。

 

「エクスペリアームス!」

 

激昂したその隙をついてハリーの武装解除が、ハーマイオニーの杖を奪った。

 

「レン! 今だ!」

 

蓮はハーマイオニーの体に飛びつき、鳩尾に拳を押し込みながら叫ぶ。「ハーマイオニー・ジーン・グレンジャー! 起きなさい!」

 

ガフ、とハーマイオニーが咳き込むと、その口から銀色の靄の塊が飛び出した。

 

「れ、レン?」ハーマイオニーの声だ。「お願いだからもっと優しく起こして。わたしはブルストロードじゃないんだから」

咳き込むハーマイオニーの背をさすりながら「妙な小細工するぐらいなら自分で起きて欲しかったわ」と呟いた。

 

「あれ、大事な記憶だと思ったんだもの」

 

靄が形を変えていく。「ハーマイオニー、失礼」と断り、蓮がハーマイオニーのローブから日記帳を取り出した。

 

ロンに向かってそれを投げる。

 

「これを刺せばいいんだな!」

「そうよ!」

 

日記帳をキャッチしたロンがそれを床に投げ出し、素早く、かつ思いきり剣を突き立てると、人の形になりかけていた靄が悲鳴をあげながら、霧散した。

日記帳からはどろりとしたインクのようなものが流れ出す。

 

「ジニー?」

 

ハリーがマクゴナガル先生の盾の中を振り返ると、ジニーがジョージの腕の中で小さな呻きを上げながら目を覚ますところだった。

 

 

 

 

 

校長室にいたのは、ウィーズリー夫妻とレディ・ウィンストンだった。

 

部屋に入ってきた蓮とハーマイオニーの前にツカツカと歩いてきたレディは、蓮の頬を思いきり平手で叩いた。

 

「レディ!」

「この馬鹿娘! あなたがどれだけの友人を危険にさらしたと思うの!」

 

思わずハーマイオニーが蓮を引き寄せたとき、ダンブルドアが「そこまでじゃ、怜」とレディの右手首を掴んだ。

 

「またしても君たちか」

 

ダンブルドアの青い瞳が面白がるように煌めく。

 

「蓮の知り得る範囲では、最善の方法であった。責められるべき人物は別におる。違うかね、怜」

「マルフォイのことを言っていらっしゃいますの、ダンブルドア?」

 

さよう、とダンブルドアは頷いた。「無論、娘に中途半端な知識を与えた君自身も、さらにルシウス・マルフォイが娘に近付く隙を作ったアーサーも、それぞれの娘を危険にさらしたのじゃ」

 

ハーマイオニーが顔を上げると、ミスタ・ウィーズリーがミセス・ウィーズリーに睨まれて小さくなっていた。

 

「賢明であったのは、グレンジャー夫妻だけじゃ」

 

ハーマイオニーを見つめてダンブルドアが優しく微笑んだ。

 

「え?」

 

マグルである両親がこの事態に何の貢献をしたというのだろう。

 

「ミス・グレンジャー、君のご両親はの、魔法界におけるゴッドマザーをレディ・ウィンストンに頼んだ。君の名を握る後見人がレディ・ウィンストンなのじゃ」

 

名前の魔法は深淵じゃ、とダンブルドアが呟いた。「名前とは、力ある言葉になり得る。君のゴッドマザーであるレディ・ウィンストン、そしてその子であるミス・ウィンストンが君を呼ぶ言葉には力があるのじゃよ」

 

「だから、リドルに乗っ取られた体からレンだけがわたしを叩き起こすことが?」

「出来たのじゃ。ミス・グレンジャー、君のご両親は魔法界というご自分たちが知らぬ世界に踏み入る君のために、君の名をレディ・ウィンストンに預けた。無論、ご両親の意識では後見人としてのゴッドマザー役を依頼なさっただけじゃが、魔法界においては名を託すという魔法契約になる。ゴッドマザーやゴッドファーザーはそのゴッドチャイルドを守る力を振るうことが出来る。それが今回君をリドルの支配から救うことに繋がった」

 

ダンブルドアは立ち上がると「子供たちの奮闘に比し、大人たちの失態は目に余る!」と怒鳴った。

 

「申し訳ございません」

 

ミスタ・ウィーズリーとレディ・ウィンストンが声を揃えて謝罪する横に小さな2つの影があった。

大きな耳とテニスボールのように大きな瞳だ。片方はきちんとメイド服を着ているが、もう片方は小さな皺だらけの白いシャツだ。ボタンの留め方がズレている。

 

「レン、あれは?」

「片方はうちのハウスエルフのウェンディ。もう片方は」

 

ドビーだ、とハリーが呟いた。「でもどうして服を着てるんだろう?」

 

 

 

 

 

「この小さなハウスエルフたちは、ヒトたる魔法族よりもはるかに素晴らしいことをやってのけた」

 

全員に座り心地の良い椅子を用意して、ダンブルドアが口を開いた。

 

「姫さま! ドビーはご自分で『ようふく』を選んだのです! ドビーはもうご自由です!」

「よかったわね、ウェンディ」

 

蓮は微笑んだが、母は「ご自分で?」と頬を引きつらせた。

 

「まずドビー、最初から話してくれるかの?」

「はい! 『最初』は夏のはじめ頃でした。アーサー・ウィージーがマルフォイの屋敷に来ました」

 

ウィーズリー、とロンが呟いたが、誰もドビーを止めない。

 

「ウィージーは闇の魔法の品物を探しました! でもマルフォイは隠し部屋に隠していたので、ウィージーに見つけられませんでした!」

「確かかね、アーサー」

「はい。マルフォイ邸の立入調査をしたのは夏のことでした。確かに闇の物品があると密告を受けましたが、目ぼしいものはありませんでした」

「ウィージーにマルフォイは腹を立てました! ダンブルドアにはいつも腹を立てていました! そしてハリー・ポッターや仲間を始末してダンブルドアのせいにすると言いました! ハリー・ポッターの仲間にはウィージーの息子がいます! 姫さまがいます! 穢れた血がいます!」

 

ドビー、とダンブルドアが手をあげた。「君が自由になったのならば、その言葉は使うべきではない」

 

パチンとドビーは口を塞いだ。「続けてくれるかの?」

 

「はい! マルフォイは隠し部屋に隠してあった中から、一番見すぼらしい黒い本を用意しました! これをウィージーの息子にでも持たせればいいと言いました!」

 

おいおい、と「ウィージーの息子」の2人がぼやいた。

 

「ドビーはハリー・ポッターを学校に行かせないようにしました!」

「たいへんな目に遭った」

 

ハリーが遠い目をした。

 

「マルフォイのぼっちゃまに学校から教科書のリストが来たとき、マルフォイがドビーに命令しました! ウィージーたちがダイアゴン横丁に行く日を調べろと! ドビーはご自由ではなかったので、調べました!」

 

ある意味自由すぎだろ、とジョージが呟いた。

 

「ウィージーたちがダイアゴン横丁に行く日はみんな行くとわかりました! マルフォイは見すぼらしい黒い本を持ってダイアゴン横丁に行きました! そしてウィージーたちを探せと言いました! ウィージーたちは本屋にいました!」

「たいへんな人混みだったであろう。みなが教科書を買いに来る時期じゃ」

「はい! ですがウィージーたちは皆赤い髪です! マルフォイはすぐにウィージーを見つけました! ウィージーの娘がハリー・ポッターを見ている隙に大鍋に黒い本をいれました! そしてウィージーに見つかり喧嘩をしましたが、ウィージーは黒い本に気付きませんでした!」

 

ミスタ・ウィーズリーが両手で顔を覆って呻いた。ロンとジョージが両側からポンと肩を叩く。

 

「ここからは大方のところを儂が説明しよう。まず、ジニー、君はドビーの言う黒い本、つまり日記帳をホグワーツに持ってきたのじゃな? ただの空白の日記帳じゃと思って」

 

ミセス・ウィーズリーの隣で青白い顔をしたジニーが頷いた。

 

「君を責めはせぬ。そして秘密の部屋の事件が始まった。ドビー、ルシウス・マルフォイは屋敷で何か言っておったかの?」

「これでウィージーもおしまいだが、ついでに汚らしい森番とダンブルドアを追い出そうと!」

「大事なことじゃ、ドビー、ルシウス・マルフォイは黒い本で何が起きるか知っておったのか?」

 

ドビーはキーキー声で喚いた。

 

「はい、ダンブルドア! 秘密の部屋を開ける鍵を闇の帝王から預かったと!」

 

怜、とダンブルドアが呼びかけると、母が「十分な証言です」と短く答えた。

 

「ハウスエルフの証言じゃが?」

「隷属していない『ようふく』のハウスエルフですから、記憶の糸を提供できれば証拠能力があると言えます」

「だから『ようふく』は大事なのです!」

 

ウェンディが勝ち誇るように叫んだ。

 

「ウェンディの言う『ようふく』の話は後にしようぞ。物事には順番があるからの。さて、ルシウス・マルフォイの奸計の通りに事は運び、秘密の部屋が開かれた。アーガス・フィルチの猫、コリン・クリービー、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーと石にされてしもうた。その中で2年生の4人が、50年前の事件を知る蓮・ウィンストンを筆頭に秘密の部屋の怪物を討伐することにした。そうじゃな?」

 

蓮たちは頷いた。

 

「ハーマイオニー・グレンジャーと蓮・ウィンストンはさらにリドルの日記を入手し、封印した。この封印にはジニー・ウィーズリーも協力した」

 

頷いていいものか迷うように、ジニーがダンブルドアを見た。

 

「君はきちんと封印しておった。ちょっと最後に兄を信じ過ぎただけじゃ」

「いつも言ってるでしょう。お兄さまたちの軽口を簡単に信じてはいけません! 頭で考えるより先に口が動く息子ばかりなんですから!」

「ウィーズリー家の息子の軽口は、そう悪いものではないぞ、モリー。時と場所を選ばず人を和ませる」

「時と場所ぐらいは選んでるさ」

「今ここでそれを口にしておきながら?」

 

ダンブルドアが右手をあげ、ミセス・ウィーズリーを遮った。

 

「モリー、君のTPOに関する意見はサマーホリデイまで取っておきたまえ。さて、2年生たちは、ルビウス・ハグリッドが逮捕され、さらに日記帳の持ち主がこれ以上利用されぬように先に秘密の部屋の怪物を討伐することにした。元凶の前に道具を始末したわけじゃ。元凶を封印し、道具を始末したなら、あとはサマーホリデイに元凶を誰か大人に片付けてもらうつもりじゃったが、まあ、ちょっとした手違いが起きた」

「まったくです」

 

ジョージが深刻な表情で頷き、蓮はそれを横目に睨んだ。「悪霊の火」だなんて大袈裟な軽口を叩くからだ。

 

「その手違いを、ミス・パーバティはすぐに儂に伝えてくれた。『レンが封印していた穢れた品物をなぜかジニー・ウィーズリーが持っていた。それを燃やすと言うので、ハーマイオニーが対処していたが、念のためレンを呼んで助勢してもらった』との。よって秘密の部屋に連れ去られた女子生徒が君たち3人であり、なんらかの闇の魔術が用いられた日記帳が関わっておることを儂は知った。そこで保護者に連絡した。そして、先程レディ・ウィンストンが連れてきたのが、こちらのウェンディとドビーじゃ。ウェンディは蓮・ウィンストンの危機を知り、いささか強引な手段でドビーを連れ出した。ウェンディ、ドビーが『ようふく』になった事情を説明してくれぬか?」

「はい、ダンブルドア。ウェンディは何度もドビーに会いに行きます。どこにでも行きます。でもドビーはなかなか肝心なことを喋りません。ご立派様の大事な秘密だとわかっていることは喋れないのです」

 

ご立派様とは、と母が補足した。「ウェンディがルシウス・マルフォイにつけたアダ名ですわ」

 

「アダ名の通りのご立派様になれなかったのは、マルフォイの不運じゃな」

 

ぷす、とロンとジョージが小さく吹き出した。

 

「なので、ウェンディはご立派様がドビーを『ようふく』にすればいいと思いましたが、奥さまが無理だと言いました」

「なぜだね?」

「ご立派様の秘密を知り過ぎているからです。ドビーには『ようふく』はない。たぶん首を刎ねると奥さまは言いました!」

 

だろうな、とミスタ・ウィーズリーが呟いた。

 

「それで、ウェンディ、なぜドビーは『ようふく』になったのじゃ?」

「姫さまが危ないと聞いて、ウェンディがご立派様に会いに行きました!」

 

母が額を押さえて唸った。

 

「ほう、実に勇敢じゃ。それで?」

「ウェンディは、汚らしい枕カバーを着て、普通のしもべのフリをしました。そしてご立派様に『ドビーは何度も屋敷を抜け出してハリー・ポッターの命を救いに行きます。しもべとしてはおしまいです』と泣きながら教えました! ご立派様はドビーを呼び、首を刎ねようとしましたが、ドビーが魔法でぶっ飛ばしました! ドビーはご自分でご自由になったのです!」

 

ご自分で? と誰もが思い、ロンとジョージは口に出した。「なあ、ハウスエルフってみんなこんなに腹黒いのか?」

 

「ウェンディは、自由な意思で菊池の一族に仕えることを選んだハウスエルフなのじゃ。自由であるからには、頭を使わねばならぬ。盲目的にご主人様に従うのでは自由とは言えぬ。ドビーは、ハリーを救うために頭を使い始めておった。自由に目覚めつつあった。ウェンディはそれを、ちょっとばかり後押ししたのじゃよ」

「ちょっと?」

 

ウェンディとドビーだけが、キラキラする瞳でダンブルドアを見つめているが、人間は皆唖然としている。

 

「ハウスエルフの魔法の力はあまり知られておらぬ。じゃが、潜在的な能力は極めて高いと推測する。自由なハウスエルフが増えればもっと様々な能力を発揮する者も現れることじゃろう」

 

さて、とダンブルドアが右手で組分け帽子を取り出した。

 

「この帽子が組分け以外で活躍したのは2回目じゃ。前回はの、ロン、若い頃のマクゴナガル先生じゃ。君はマクゴナガル先生以外で唯一、組分け帽子からグリフィンドールの剣を取り出した人物じゃよ」

 

ロンがぽかんと口を開けた。

 

「僕が?」

「さよう。グリフィンドール生ならば、この帽子からグリフィンドールの剣を取り出すことが出来る。ゴドリック・グリフィンドールの遺志に適う目的のためならばな」

 

ハリーの顔色が悪い。

 

「ハリー?」

「ロンはグリフィンドールの継承者かもしれないけど・・・僕は・・・」

 

勘違いはいかぬ、とダンブルドアがきっぱりと言った。「怜、君のパトローナスを見せてくれるかの?」

 

ダンブルドアに軽く頷いて、母が杖を振った。見慣れた銀色の龍が現れる。

 

「これは東洋のドラゴンじゃ。リュウと呼ばれる。蛇に似ておると思わぬか?」

「は、はい」

「日本では龍は雨や水を司る神じゃ。そして、この地上では蛇の姿を取ると考えられておるがゆえに、龍を守護する一族である蓮はパーセルマウスなのじゃ。じゃが、蓮の一族は代々レイブンクローで、蓮はどういうわけかグリフィンドールじゃ。誰も蛇の寮には住んでおらぬ」

 

でも、とハリーが俯いた。

 

そのとき、ハリー、と言ってミスタ・ウィーズリーが立ち上がるとハリーの前に膝をついた。

 

「こういうとき、父親は息子にこう言うんだよ。『人に決めてもらわなくちゃわからないのか、ハリー? おまえ自身が証明したおまえの力だけじゃ納得出来ないか? だったら証明し続けなさい。おまえがグリフィンドールに相応しい生徒だと、おまえが自分で証明すればいい』私は君のお父さんではないが、断言しよう。君のお父さんもきっとこう言ったはずだ」

 

もっとも、と立ち上がって自分の席に戻りながらミスタ・ウィーズリーが苦笑した。「自ら危険にさらした娘を息子たちと君に守ってもらう私の言葉に説得力は無さそうだが」

 

気にすんなよパパ、とジョージが朗らかに言い放った。「昔からわかっちゃいたさ」

 

「ジョージ!」

 

ミセス・ウィーズリーの雷に紛れて母が「ハリーやロンの話ではあなた、リドルにフルネームを教えたの?」と尋ねた。

蓮は頭を傾け「嘘のフルネームをね」と答えた。

 

「嘘?」

「君、あんな場面で平然と嘘を?」

「ハーマイオニーがね、リドルがわたくしに開心術を使ったのは、わたくしのフルネームを知るためだと教えてくれたの。ついでにリドルの名前に対するコンプレックスの記憶も押し付けられて、ぶっ倒れたわ。だから、コンプレックスになりそうなフルネームを教えてやろうと思って。思いついたのが、両親の名前を合わせるとマートルのフルネームになることだったの」

 

なんとなんと、とダンブルドアが愉しげに笑った。「最初の被害者マートル・エリザベス・ウォレンの名前で事件が終わったのじゃな。実に名前の魔法は深淵なものじゃ」


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