サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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たいへん重たい話です
何人か死亡します


閑話12 わたくしが殺してやる

ふわふわと小さな箒で飛ぶ娘にスポンジのクァッフルを投げてやりながら(幼児用スニッチは飲み込むサイズだから却下した)怜は時計を見上げた。

 

「蓮、パパの帰り、遅いわね」

「・・・はたらけ?」

「そうね。お仕事ね」

「もっかい!」

 

はいはい、と呟いてまたクァッフルを投げる。

 

母親の独り言が日本語と英語混じりのせいか、蓮の言葉はもうすぐ2歳になる女の子にしては遅い気がする。ドーラはもう少しおしゃべりだった。ドロメダにそう言うと「個人差がある」としか言わないし、アリスは「うちの子はまだママとパパしか言わない」と忙しそうに電話を切った。確かにネビルと蓮は同じ学年になるとはいえ、10カ月近く月齢が離れているから比較も出来ない。

 

こんなことばかり考えるのは、仕事に戻れないせいに違いない。もうすぐ2歳になるのだから互いの両親に預けながら仕事を再開すると言うたびに、コンラッドは「どうせ2人目が出来てるさ」と取り合わない。

 

そういうことではないのだ。一刻も早く法廷に戻りたいだけだ。つい先日、魔法法執行部部長バーテミウス・クラウチが「闇祓い局の捜査員に、禁じられた呪文の使用を許可する」趣旨の条例を発布した。日刊予言者新聞を思わず引き裂いてしまったほどに愚かな条例だ。こんな社会にしないために法があるというのに。

コンラッドやキングズリーのように、マグル界の法執行を学び、さらに3年間の闇祓い訓練に耐えた闇祓いならまだしも、たかだか18歳でホグワーツを卒業しただけの「成績優秀者」などに許していい手段では決してない。

 

この事態に対して家で新聞を引き裂くしか出来ない歯痒さを、夫以外の誰にも訴えることが出来ない。それがひどく苦しい。

 

 

 

 

 

今年に入ってからヴォルデモート勢力の動きがさらに勢いを増した。

 

去年の7月にジェームズとリリーのポッター夫妻とアリスとフランクのロングボトム夫妻に男の子が生まれた。ロングボトム夫妻の長男ネビルのゴッドマザーはドロメダだ。

ベラトリクス・レストレンジを姉に持つドロメダは辞退しようとしたが、ロングボトム家の長であるオーガスタ・ロングボトムが「だからこそ」と迫った。

 

オーガスタ・ロングボトムという人は、ロングボトム家を守ることに半生を費やしているが、極端な能力主義の人物らしい。ベラの妹でありながら、ヴォルデモート勢力に馴染まずにテッドと駆け落ちしたドロメダを高く買っている。

 

慶事が続いているのに、ひどく陰鬱な気分になるのは、犠牲者も増えているからだ。

 

先月は不死鳥の騎士団の活動中にギデオン・プルウェットが殺された。

 

7人目を妊娠中のモリーの取り乱しようは見ていられないほどで、怜とアリスが聖マンゴの安置所から連れ出して、妊婦に使えるレベルの軽い安らぎの水薬を含ませなければならなかった。モリーはとても優秀な魔女だが、その力の全てを家族に注ぐ愛情深い人だから、弟の死に冷静さを失うのも無理はない。

 

玄関で小さな音がして、蓮がくるりと箒を返し、玄関に飛んで行った。その速さときたら、怜の足ではとても追いつけない。今後一切、祖父母からの箒のプレゼントは辞退したい。

 

「パパ!」

「やあ、蓮、ただいま。もうその箒を乗りこなすなんて、グランパが泣いて喜ぶよ」

「おそい。はたらけ」

 

蓮、と怜は急いで後を追って訂正した。「おそかったわね、おかえりなさい。でしょう。もっと働けっていったら、パパ泣いちゃうわ」

 

箒から抱き上げた父親に蓮が「はたらかない?」と聞くと、コンラッドが掠れた声で「そうだね。明日は働かない」と答えた。

 

「明日? お休みを取ったの?」

「・・・フェビアンが死んだ」

 

 

 

 

 

「わたくしたちはここから祈らせてもらうわ」

 

しとしとと霧雨の降る墓地の入り口で、ドーラを連れたドロメダとテッドが立ち止まる。

 

「ドロメダ・・・」

「誰がギデオンとフェビアンを殺したか、知ってるでしょう? わたくしがモリーの前にどの面下げて出られると思うの!」

「わかったから落ち着いて。ほら、あなたが取り乱すとドーラの髪の色がくすんでしまうわ」

 

怜は蓮をコンラッドに渡し、ドーラの前に身を屈めた。

 

「ドーラ? ママは大事なお友達のお葬式だから、中に入るのは悲しくて出来ないみたい。だから、ママやパパとここからお祈りしてね」

「でもチャーリーは中にいるわ」

 

ドーラの肩を両手でそっと押さえて、テッドが呟いた。「チャーリーの叔父さんのお葬式だからだよ」

 

墓地の奥に足を運びながら、怜は「許せない」と呟いた。

 

「レイ」

「モリーとドロメダは親しい隣人だったの。当たり前の暮らしを送る人たちをこんな風に引き裂く権利が誰にあるというの。狂犬ベラをわたくしが引き裂いてやりたいわ」

「落ち着くんだ、レイ。君の言う通りだ。僕もそう思う。でも」

 

コンラッドは抱き上げた蓮の小さな手首を掴んで優しく振った。「子供の前だろ?」

 

「ママ、さんせい?」

「違うよ、蓮。怒る、だ。賛成じゃない」

「ママ、おこる!」

「そうそう」

「ママ、おこる、オールウェイズ!」

「そうか。パパもママからはオールウェイズ怒られてた」

 

気の毒に、とコンラッドが蓮に大袈裟に悲しんでみせた。それに紛れて小さく囁く。

 

「ダンブルドアが言うには、予言のことを聞き出すのが目的らしい」

「予言?」

「奴を滅ぼす者についての予言さ」

 

 

 

 

 

予言は2つあるそうだ、と帰宅してからマグルのチノパンとボタンダウンシャツに着替えたコンラッドが蓮の箒に頭を小突かれながら、説明した。

 

「くぁっふる! パパ、くぁっふる!」

「出来るだけ遠くに投げて」

「わかった。ほーら、取ってこい!」

 

広いペントハウスを買っておいて良かった、と思いながら怜は「それで?」と尋ねた。

 

「詳しくは話してもらえないが・・・ポッター夫妻もしくはロングボトム夫妻の息子を示しているそうだ」

「リリーとアリスの息子ですって?」

 

ごう、とオモチャの箒が戻ってきて、コンラッドの頭にぶつかった。

 

「もっかい!」

 

隔世遺伝とは実に厄介だ、と溜息をついた。

 

 

 

 

 

結局もうひとつの予言の話にはならなかったな、と思いながら怜は隣に眠る夫の寝顔を眺めた。子供がいると血なまぐさい話題を避けてしまうし、闇祓いの夫の耳に入るのは血なまぐさい話題ばかりだ。怜が聞き出そうとしても、蓮が遊びに誘うものだから、それにかこつけて情勢にまつわる話をしようとしない。

 

今は友人たちに会う機会も簡単には作れない。怜自身、外出を控えるように厳命されている。ダンブルドアからも、日本の両親からも。

コーンウォールの屋敷と日本の実家に対しては、結婚してこのチェルシーのペントハウスを買ったときに移動キーを設置している。寝室の隣ウォークインクローゼットの奥にあるエルメスの箱とヴィトンの箱がそうだ。エルメスの箱からはコーンウォールの屋敷の自分たちの寝室に。ヴィトンの箱からは日本の実家の庭石に。

しかし、移動キーの使用も控えなければならない。移動キーは強力な魔法効果だ。監視されていれば、移動キーの発動の痕跡から侵入を許すことも想定される。

 

息が詰まるようだ、と怜は天井を見上げた。

蓮の成長を日々目の当たりにする暮らしが嫌なわけでは決してない。どちらかというと、自分よりコンラッドに似た茫洋としたスケールの大きさを感じるときは、じわりと幸せになる。

けれど、ペントハウスの中だけで、スポンジのクァッフルを追いかけるだけの生活しか娘に用意してあげられない自分に激しい怒りも覚えている。

 

蓮に指摘されるまでもなく、常に胸の底に暗い怒りがわだかまっている。

 

 

 

 

 

 

「アリス! アリス!」聖マンゴの廊下を走るストレッチャーの横を走りながら、怜は叫び続けた。

 

キングズリーがコンラッドと共に姿現しで家に現れ、ベラトリクス・レストレンジがアリスとフランクを襲って拷問したという話を聞かされたときには足が萎えるかと思った。

 

大丈夫だ、大丈夫だ、と自分に言い聞かせた。フランクとアリスはヴォルデモートとの対決を切り抜けたことが3度ある、歴戦の闇祓いだ。だから今度もきっと大丈夫。

 

蓮を小脇に荷物のように抱えたまま聖マンゴのERに駆けつけたが、アリスの瞳には何も映っていない。

 

「アリス! あなたがしっかりしなくちゃネビルはどうするの!」

 

何度も呼びかけるが、反応がない。テッドからのパトローナスではドロメダは倒れてしまったそうだ。「もう合わせる顔がないと言ってる。落ち着いたらまた連絡する」

 

ぺしぺし、と蓮が怜の手を叩く。「アリスおばちゃまたちにごあいさつよ!」

 

「蓮」

 

小脇に抱えたままだったことに気づき、怜は蓮を抱え上げた。

 

「アリスおばちゃま、ごきげんよう」

 

そのときだった、アリスがうっすらと目を開けた。

 

「レ、ン」

「蓮よ、アリスおばちゃま」

 

はっと気づき、蓮に「蓮、フランクおじちゃまにもご挨拶よ」と言ってコンラッドに渡すとコンラッドが眉を寄せた。

いいから、と言うとコンラッドがフランクの頭に向けて蓮の体を掴んで差し出す。蓮がぺちぺちとフランクの頭を叩いた。「蓮よ、フランクおじちゃま」

 

「なんのまじないだ?」

 

蓮を抱き上げてコンラッドが言い出したとき、フランクが「喋ってない、ぞ。蓮の、予言、は」と微かな声を発した。

 

「アリスおばちゃま!」

「レイ、わたし、ドロメダ・・・ウロボロス」

 

アリスの微かな声に怜は目を見開いた。そのまま、ベッドにすがりつく。「アリス・・・」

 

「わたしたちは、互いの、子を、守る、こと、で、自分の、子を」

 

アリスとフランクが、人間らしい言葉を話すことはもうなかった。

 

「何だったんだ?」

「名付け親と名付け子の魔法よ」

 

 

 

 

 

 

アリスおばちゃまとフランクおじちゃまを、癒者が諦めるまで何度も起こし続けた蓮が疲れ果てて明け方に眠ってしまった。

 

「コンラッド」

「君も休んだらどうだい?」

 

クローゼットの前で官邸に出勤の支度をするコンラッドに「蓮の予言って?」と前置き無しに問いかけた。

 

「帰ってから話すよ」

「今話して!」

「時間がないんだ」

 

夫の襟首をつかんで、ダン!とクローゼットのドアに押しつけた。

 

「今までわたくしに隠しておいて、いまさら時間のことなんて言わないで!」

 

矢継ぎ早に怜は喚いた。「なぜ予言に無関係なわたくしたちまでリリーやアリスのように秘密の守り人に守られた家にいなきゃいけないのか不思議だったわ。ネビルやリリーの息子以外のもうひとつの予言は、蓮のことだったのね?」

 

「レイ、落ち着」

「よくも母親のわたくしに黙っていられたわね!」

「落ち着くんだ!」

「イヤよ!」

「ただの予言だ。君だって昔から占い学なんか馬鹿にしてたじゃないか」

「予言を信じる気はないわ! でも予言を信じる馬鹿がわたくしの娘を狙うのよ!」

 

クローゼットに凭れたまま囁き程度の声で「『闇の帝王が蘇りし後、東と西の種族を統べる女王が戴冠する』これだけだ」とコンラッドが呟いた。

 

「その中の何かが漏れたから、アリスたちが狙われたんでしょう? それは?」

「『女王』。イギリスには『女王の代理人』が存在すると。大したことじゃないだろ? ブラック家あたりはきっと知っ」

「・・・あなた、そんなときに仕事に行ってたの?」

 

この人は本当に馬鹿だ、と思った。危ないのは妻や娘なんかではないことがわかっていない。

 

どこにも行かないで、と怜が呟いた。「それしか知られてないなら、狙われるのは、蓮じゃないわ、あなたよ!」

 

 

 

 

 

まったくわがままなママだ、と起きてきた蓮を抱き上げてコンラッドが囁いた。

 

「ママ、わがまま」

 

泣き疲れて眠った妻を起こさないように、蓮を抱いてリビングに移った。

 

「蓮、君に話しておかなきゃいけないことがある」

「おはなし」

「パパと君は、もしかしたらあまり長く一緒にいられないかもしれないんだ」

「しゅっちょうね」

 

ソファに座り、蓮を膝に乗せた。

 

「そう。長い長い出張だ」

「はたらけ」

「イエス、ユア・マジェスティ。君の名前はね、王子さまのことなんだ」

「おうじさま?」

「花の中の、一番素晴らしい花。なぜだと思う?」

「んー。わかんない」

「きれいな庭に咲く花も素晴らしいけれど、王子さまはね、汚い泥の中で育って、大きなきれいな花を咲かせる。だから、花の中の王子さまっていうんだよ」

「ほう」

「パパは君にきれいな庭を用意してあげられないかもしれないからね。君は汚い泥の中で咲かなければならないかもしれない」

「ママおこる。たいへん」

「パパがお願いしておくから大丈夫。だからね、そのときがきたら、君は王子さまとして命令するんだ」

「おきなさい?」

「君以外はみんなだいたい起きてるから、それは言わなくていい。君が命令するのは、イギリスの魔法使いや魔女にだ。悪い魔法使いをやっつけろ!ってね。できそうかい?」

「ママおこる」

「これだけはママも怒らないことだ」

「わるいこはめーよ」

「そう言うんだよ、いいかい? ヴォルデモート、めーよ!って」

「ぼる、めー!」

「そうだ。ママが怒ってるのは、君にじゃないんだ。ぼるに怒ってる。だから君が、ぼるに『めー!』って言わなきゃいけない。アリスおばちゃまがおしゃべりしてくれなくなったのは、ぼるのせいだ」

「わるいこね!」

「ぼるは悪い子だ」

 

その会話を寝室のドアに凭れて聞いていた。馬鹿な夫だ、と思うと泣けてきた。

 

立ち上がり、顔を擦って寝室を出た。

 

「やあ、わがままなママのお目覚めだ」

「ママ、わがまま」

「蓮に何か食べさせてくれた?」

「男同士の秘密の話をしていた」

「あなたには娘しかいないわ。まだね」

 

じゃあ2人目を作るとするか、とコンラッドが蓮を高く持ち上げた。「君が僕にすがりついて2人目を求めるから仕事には行けないと首相に言おう」

 

そのとき電話が鳴った。

 

「やあ、キリアン? 引き継ぎ? 後任は君かい? わかった」

 

電話を切った夫が顔色を変えて「蓮を連れてすぐに日本に逃げろ!」と叫んだ。

 

「何言っ」

「僕の後任はキングズリーのはずだ! キリアンじゃない!」

「あなたも」

「あとから行く! 君たちだけは早く!」

 

蓮を妻に抱かせると、寝室まで蓮ごと妻を抱き上げた。

 

「コンラッド」

「母親は君だろ。蓮を安全な場所に連れて行け」

 

ウォークインクローゼットに押し込まれた。

 

 

 

 

 

 

日本の実家の庭に蓮を抱いたまま転がり出ると、庭に面したガラス戸を叩き割って中に入った。

 

「なんだなんだ! ここが誰の家だと・・・怜!」

「お父さま、助かったわ。蓮をお願い!」

 

父の腕に蓮を押しつけ、踵を返すと「待ちなさい! 何があった!」と父が叫んで追ってきた。その後ろに母が見える。

 

「説明してる時間はないわ。コンラッドが危ないの」

「ならばおまえも戻ってはいかん!」

 

襟首を父の大きな手が掴んだ。

 

「離して!」

「ダメだ!」

 

怜は杖を抜いた。父が「何を」と言いながらも、襟首を離さない。

 

「お願い、お父さま、離して。わたくし、今、何をするかわからない」

 

父の手が緩んだ隙に移動キーの庭石まで走った。

 

 

 

 

 

チェルシーの家のウォークインクローゼットに戻ったとき、ドアの隙間から緑の閃光が走った。

 

「コンラッド!」

 

夫の体がゆっくり倒れてきた。

 

「な、な、な、なぜ、こ、ここ、に」

 

自分の中で魔力が渦を巻くのがわかった。

夫の体を越えて「キリアン」とかいう不細工な男の前に立った。ガマガエルのような顔だ。

 

「わたくしが殺してやる」

 

ひっ、と息を呑むガマガエルに向けて杖を振ろうとして、誰かに腕を掴まれた。

 

「エクスペリアームス!」

 

背後から出た父の武装解除で、ガマガエルはあっさりと杖を失った。

 

「離して」

「まだダメよ」

 

母の声だ。ぞっとして怜は振り返った。「蓮は?!」

 

「ウェンディと一緒に結界に入ったわ」

「そう。ね、離してくれない?」

「そうね、わたくしもいつまでもあなたを拘束出来ないし」

 

そう言った母が怜の背中に杖を突きつけて「ステューピファイ」と小さく囁いた。

 

 

 

 

 

聖マンゴの安置室、夫の遺体の傍らにいると、両親と一緒にダンブルドアがやってきた。

 

「怜、すまぬ」

「何のことでしょう」

「儂が闇祓い局への情報提供をしなくなったことが、クラウチを疑心暗鬼にさせたのじゃ」

「・・・クラウチの命令だったと?」

 

ダンブルドアはそれに首を振った。

 

「だったら何が理由ですか」

「捜査じゃよ」

 

信じ難い言葉に、ぞっとするほど酷薄な声が出た。

 

「・・・捜査ですって?」

 

ダンブルドアの肩を叩き、父が出てきた。

 

「呪文逆戻し呪文で犯人の杖を検査した。無論、イギリスの闇祓いの前でだ」

「だから何! わたくしは見たの! 死の呪文の色だったわ!」

「そうだ、最後はな。だが、その前に83回の磔の呪文をかけていた」

 

想像を絶する数字に、怜の顔から血の気が引いた。

 

「83・・・回?」

「コンラッドは嘘はついていなかった。132回耐えられる男だっただろう」

 

キリアンは恐怖に負けたのじゃ、とダンブルドアが言った。

 

「あの現場でパニックに陥ったのは、コンラッドではなくキリアンじゃった。奴には、昨夜のフランクとアリスのロングボトム夫妻をレストレンジ夫妻が拷問した事件の目的が理解出来なんだ。儂は闇祓い局には予言の件を伏せておるからの。キリアンは癒者から、一時的に微かに意識を戻したとき、その場にいたのが闇祓いのウィンストンじゃと聞いたらしい。そこでコンラッドに何がなんでも喋らせようと」

「おかしいわ」

 

ダンブルドアの声を怜は遮った。

 

「わたくしは移動キーで往復したの。挨拶と前置き程度の時間しかコンラッドから離れていない」

「何がなんでも喋らせようと、磔の呪文を出会い頭にかけたそうじゃ」

 

腰抜けが! 珍しくダンブルドアが吐き捨てるように言った。

 

「それに対してコンラッドが平然と『いくらクラウチの方針で君のように訓練を受けていない魔法省職員を闇祓い局に配置転換して増員し、禁じられた呪文の使用を捜査員に許可したといっても、出会い頭のコレはないだろ?』と答えたことで、奴はパニックに陥った。喋らせるというより、むしろ黙らせるために何度も磔の呪文をかけたんだ、怜」

「さよう。じゃからキリアンは・・・死喰い人の仕業に見せかけるために殺した。そこを君に目撃されたのじゃ。モースモードルを打ち上げる前にのう」

 

どさ、と長椅子に腰を落とした。頭を抱えて、声を絞り出した。

 

「つまり、わたくしの夫は、捜査の仕方も知らない腰抜けの捜査員のヒステリーのせいで死んだの?」

 

ダンブルドアが、急に年老いた声で呟いた。

 

「むごいことじゃが、さようじゃ」

「・・・殺してやる」

「怜!」

 

名を呼んで駆け寄ってきた母の手を振り払った。

 

「あらゆる手を使ってアズカバンにぶち込んで殺してやる」

 

やれい! とダンブルドアが言った。

 

「ダンブルドア! 娘を焚き付けないでください!」

「柊子、これは正しいことじゃ。闇祓いに過剰な権限など無思慮に与えるからこうなったのじゃ! 味方に背中から撃たれるような目に遭わせて良い男ではなかった! 断じてない! このようなザマではまともな闇祓いが誰も仕事が出来ぬ、違うか? そなたら夫婦ならわかるはずじゃ! 背中から撃たれるとわかっていながら、闇祓いが出来ようか!」

「だからって、わたくしの娘にそんなことをさせないで! あなたの秘密主義がクラウチを疑心暗鬼にさせたのでしょう!」

「柊子・・・君やミネルヴァは昔から儂の秘密主義を批判するがの、儂とて何もかもをあらゆる者に秘密にしてはおらぬ。クラウチを儂は信用出来ぬ。少なくとも魔法界の未来を担う子供たちに関する予言を教えることは出来ぬ」

 

ハッと怜が顔を上げた。

 

「気づいたか」

「・・・蓮が2歳・・・あと15年以内に、ヴォルデモートが1度滅び、また蘇る?」

「そうなってしもうた」

 

魔法界の波乱の時代じゃ、とダンブルドアが重々しく告げた。

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