サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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!注意書き!

この章からしばらくの間、グリフィンドール生たちの人間関係が、控えめに言って「ものすごく」悪くなります。
原作と違い、ガールズサイドから書いていますので、ハリーやロン、ジョージが精神的に叩かれまくります。フレッドは本当に叩かれます。
一応、最終的には関係改善して、かつみんなが成長する予定ですが、グリフィンドール・ボーイがかわいそうなのは絶対読みたくない方は閲覧をお控えくださることをお勧めします。


第6章 ホグズミードを巡る諍い

毎日というわけにはいかないが、吹雪でない限り、蓮はジョギングに出かける。もちろんジョージも一緒だ。

 

トレーニングウェアの上から、丈の長いピッチコートを着て部屋を出る蓮を見送り、パーバティが肩を竦めた。

 

「あれでジョージに気がないなんてあり得ないわ」

 

ハーマイオニーもそれには同感だが、本人が気づいていないなら、指摘するのはいかがなものかと思う。

 

「レンって、なんていうか・・・自分の感情に疎いのよね」

「ああ、それはわかる。あれをしたいこれをしたいっていうのがない感じね。するべきことをする、求められたことをする。すごく受動的」

「イヤなことはイヤって言うから別にいいんだけど」

 

イヤなときは頑固だものねえ、とパーバティが溜息をついた。「ハリーがずいぶんレンを誘ったじゃない? ボガートを使ったディメンター対策の特訓とやらに」

 

「ええ」

「あれ、本気で断ってたもの」

「それは断るでしょう。ハリーは、自分の両親のことを誇りに思ってるわよね。ヴォードゥモールに抵抗して殺されたんだって、シンプルに。それはそれでもちろん立派なご両親だと思うけど、レンはたぶんそうじゃないもの」

 

マルフォイ? とパーバティが呟くように確かめ、ハーマイオニーは頷いた。

 

「もちろんレンの耳には入れてないし、わたしも信じてはいないの。レンのご家族には何度も会ってるから、闇の魔法使いだなんてことはないと思う。でも、パパに対してボガートに変身するような感情を持ってるってだけで、十分に複雑な感情だと思うから、ハリーの言うようにボガートと対決しさえすれば解決する問題じゃないと思うわ」

 

男子ってホントに単純よね、とパーバティは単純な結論を出した。

 

 

 

 

 

ぎゅ、ぎゅ、と足音が雪を踏む重たい音に変わっても、蓮はジョギングを休む気にはなれなかった。この時間は非常に大切なのだ。クィディッチの練習とジョギングの時間だけは、ディメンターの冷気を感じない。

 

「なあ、今年のクリスマスはどうするんだい?」

 

並んで走るジョージに「家に帰るわ」と答えた。

 

「だったらその前の週末はホグズミードに行かないか?」

 

蓮は困ったように笑い「ジョージ、ディメンターがいなくなってからって言ったでしょう」と言う。

 

「ディメンターの近くを通らなきゃいい」

「抜け道でもあるっていうの? 校内の抜け道に詳しいのは知ってたけれど、ホグズミードまで?」

 

得意げにジョージは頷いた。「先人たちの残した偉大なる遺産があってね。俺たちは完璧な抜け道の地図を持ってる。まあ、全部覚えちまったから、ハリーにやろうかと」

 

その時、蓮が急に立ち止まった。

 

「どうした。体が冷えるぞ」

「ジョージ」

「行く気になったかい? ホグズミードを案内してやるよ、隅々まで」

 

そんなことより、と蓮が青い顔で訴えた。「その地図のこと、先生方に報告して」

 

「なに言ってんだ? ホグワーツの遺産の損失だぜ」

「お願い」

 

蓮の真剣な表情に、ジョージは「シリウス・ブラックが抜け道を使ったとでも?」と切り返した。

 

「可能性はあるわ」

「ない」

「ジョージ!」

「あのな、レン。ホグズミードに行く道は7つある。だがそのうちの4つは、フィルチが知ってる。残り3つのうち、1つは崩れて塞がった。もう1つは暴れ柳の真下を使うから通るのは無理だ。最後の1つは、ホグズミードのハニーデュークスの地下室に直行だ。ホグズミードは毎晩ディメンターの巡回を受け入れている。ブラックがハニーデュークスに潜んでるなんてことは絶対にない」

 

だから行こうぜ、とジョージは明るく誘った。「じゃなかったら、地図をハリーにやっちまうぞー」

 

「わたくしは・・・行かない。行けないの。でもジョージ、ハリーを誘うのもやめて。お願いだから。シリウス・ブラックがハリーを狙ってる、少なくともそう想定されてるし、実際にグリフィンドールの入り口までは来たのよ? ハリーがホグワーツから出る機会は、ブラックが捕まるまでは作るべきじゃないわ」

 

途端にジョージの顔から笑みが消えた。

 

「君はいつもそうだ」

「え?」

「いつも何やら大いなる目的に向かって邁進してる。俺はただのジョギング仲間か? ただのジョギング仲間に『お願い』はちょっと図々しいな」

 

 

 

 

 

ハーマイオニーは「三本の箒」で固まっていた。

 

たったいま聞いた会話がとても信じられない。

 

もちろんハリーにこんな時期に「忍びの地図」なる怪しげな代物を譲った双子も信じられないし、それに従って学校を抜け出してきたハリーも信じられない。だが、それより信じられないことが過去に起きていたなんて。

 

シリウス・ブラックとジェームズ・ポッターは親友同士。

ブラックはジェームズとリリーの結婚式の新郎付き添い役。

ブラックはハリーのゴッドファーザー。

ポッター一家はシリウス・ブラックを秘密の守り人にして隠れ潜んでいた。

そしてブラックはヴォードゥモールをポッター家に導いた。

翌日、やはりジェームズの親友だったピーター・ペティグリューがブラックを追い詰めた。ブラックはペティグリューもろとも周囲のマグル12人、合わせて13人を巻き込む爆発を起こし、そのまま連行された。ピーターの遺体は指1本しか残らなかった。

シリウス・ブラックはアズカバンで正気を失うでもなくクロスワードパズルをしたがった。

 

そんな話をしていた大人たちが、店を出ると、ハリーはもちろんのこと、ロンまでもむっつりと店を後にした。

 

 

 

 

 

部屋でルーン文字学の宿題だけでも終わらせてからクリスマスの帰省をしようと取り組んでいた蓮が、やっと終わらせて談話室に下りたとき、ハリーとロンとハーマイオニーは3人でむっつりと黙り込んで座っていた。

 

「ハイ、ガイズ。おかえりなさい」

 

ハーマイオニーとロンは顔を上げて曖昧に微笑んだが、ハリーだけは俯いたまま「レンかい? 君も聞いてくれ」と切り出した。

 

ハーマイオニーが脇にずれて蓮のために空けてくれたソファのスペースに座ると、ハリーがホグズミードでの出来事を話し出した。

 

暗い陰惨な裏切りの物語だ。黙って聞き終えてから、蓮は「ハリーはそのことに対して何かしたい、何か出来ると思うの?」と静かに聞いた。

 

「したい」

「何を? 大人の、訓練を受けた魔法警察部隊や闇祓いがブラックをアズカバンに連れ戻そうとしているときに、あなたはのこのこブラックの前に出て行って、ロックハート直伝の決闘でも?」

「そうだぜ、ハリー。みんな任せっちまえよ。君はホグワーツの中で、ホグワーツの生活を楽しむことが今一番大事なことだ。キングズリー・シャックルボルトも言ってたろ?」

「ねえ、ハリー。ロンの言うとおりよ、忍びの地図のことなんて忘れて」

 

ハーマイオニーの言葉を蓮が遮った。「地図?」

 

「ああ、フレッドとジョージがハリーにくれたんだ。ホグズミードまでの抜け道が網羅された地図さ」

 

ロンの言葉に、男子寮の階段に座って事の成り行きを見守っていたジョージに向かって、射抜くような鋭い視線を投げた。

 

「・・・最低ね」

 

蓮はそのまま談話室を出た。大広間で食事をかきこみ、マクゴナガル先生の補習を受けた。

 

「よろしい。ここまでの変身理論をホリデイの間に十分に理解しておきなさい。休み明けから実習に入ります」

「はい。ありがとうございました」

 

 

 

 

 

翌朝早くに起きて勉強していたハーマイオニーは、蓮の起床時間になったのを察して蓮を揺り起こした。最近とみに寝起きが悪くなってきている。魔法睡眠薬を続けている弊害だろう。

 

起き出した蓮は朝食にも行かずに、シャワーを浴びると荷作りを始めた。宿題に必要な教科書や羊皮紙の束、羽根ペンにインク。簡単な着替え。

本人はジーンズにブーツを履き、キャメルのコートの上からカシミアのストールをふわりと肩から胸を覆うように巻くと「ハーマイオニー、良いクリスマスを」と言ってパーバティと部屋を出て行った。

 

ふう、と溜息をつき山のような宿題に取り掛かろうとしたとき、部屋が軽くノックされジニーが顔を覗かせた。

 

「ハイ、ジニー」

「あのね、ハーマイオニー。ジョージが呼んでるの、ちょっと来てくれない?」

「ジョージが? 珍しい」

 

言いながらも、話の内容には大方予想はついていた。

 

階段を下りるとジョージが「ちょっと外に出よう」と歩き出す。

 

湖の畔のベンチの雪を払い落として座った。

 

「話って?」

「レンがなぜあんなに怒ったのかわからない」

「わたし、レンの代弁者じゃないんだから、自分でレンに聞いたら?」

 

聞こうとして追いかけたら無視された、とジョージは肩を落とした。

 

「ね、ジョージ。レンは地図のこと、前から知ってたの? 昨日の感じでは地図のことで怒ったみたいだったけど」

「ああ。俺がホグズミードに誘ったときに、その地図で抜け道を知ってるって教えた。地図はハリーにやろうと思ってたけど、レンは俺とホグズミードには行かない、ハリーも誘わないで、地図は先生に提出してって、そればっかりだ」

 

当たり前じゃない、とハーマイオニーはミトンをはめた手で額を押さえた。

 

「なあ、俺とホグズミードに行きたくないだけならそう言えば」

「ジョージ、レンはあなたと行くならどこでもいいの。湖のジョギングでいいの。ハグリッドの小屋でもね」

「じゃ、なんでホグズミードには行かないっていうんだ?」

「ディメンターのこと、聞かなかった? 彼女の体質的な問題で」

「聞いたよ! でもジョギングは出来るじゃないか、ホグズミードに行かない言い訳だろ?」

 

「全然わかってないのね!」ハーマイオニーは声を荒げた。「ホグズミードホグズミードってうるさいわね! 毎日のようにジョギングしてるだけじゃなくて、ディメンターに守られた門を通ってまでホグズミードを連れ回さなきゃ満足出来ないの? 本人がディメンターに近づくのを避けたがってるのに!」

 

「だったらなんでハリーに地図をやったぐらいで最低呼ばわりだよ」

「ハリーを誘わないでって言ったんでしょう?」

「ああ。言ったよ。お願いだからとかなんとか」

「ホグズミードに行かない相手のお願いなんて聞く耳無しってわけね?」

 

怒りにまかせて、ハーマイオニーは立ち上がった。

 

「ハーマイオニー?」

「ジョージ、9月からのレンはあなたが一緒じゃないときは外には絶対に出なかったの。クィディッチでもジョギングでも一緒だったでしょう? それだけあなたを信頼していたの。あなたはその信頼を裏切ったのよ」

「だってホグズミードは」

「だから、ホグズミードに何の意味があるの?」

 

ジョージが少し耳を赤くした。「付き合ってる奴はみんな一緒に行くんだ。俺とレンだって毎日一緒に走ってるんだから、たまには違うデートに誘うぐらい構わないだろ?」

 

「レンにその感覚を期待するのはまだ早いと思うわ。彼女、自分のことで精一杯なの、特に今は。でも、あなたのことだけは信頼してた。過去形よ、してた。ホグズミードはだいぶ遠くなったと思うけど、まあがんばって」


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