サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第6章 組分けの儀式

ーーミネルヴァの組分けは長かったわよ。5分半かかったの。結局グリフィンドールに決まったんだけど、何が気に入らなかったのか、組分け帽子をスツールに叩きつけちゃった

 

祖母の記憶をそのまま再現したような光景が目の前で展開され、ハーマイオニーは腹立たしいのか嬉しいのか複雑そうな笑顔を浮かべてグリフィンドール席に向かう。

 

ハーマイオニーと何度か会って感じたイメージではレイブンクローだと思っていたが。

 

ーーミネルヴァに後から聞いてみたら、レイブンクローとグリフィンドールでさんざん迷ったあげくに「君はどっちがいいかね?」って丸投げされたから、カチンときたらグリフィンドールに決められたんですって

 

まったく同じことが起きたのだろうな、と蓮は思う。

ちらとマクゴナガル先生を見遣ると、溜息をついて頭を振り、気を取り直して次の生徒の名前を読み上げた。

 

 

 

 

ハリー・ポッターのハウスがグリフィンドールに決まり、ロナルド・ウィーズリーもグリフィンドールに決まると、残りの新入生は少なくなる。

 

しかし、「ウィンストンの娘はグリフィンドールだ。イギリス初の女性の闇祓いの孫だぜ」や「なに言ってるの。その人もその娘も、あの魔女の一族はレイブンクローよ」といった声が聞こえてくる。

 

そんな中を蓮はきびきびとスツールに向かった。

 

 

 

 

 

「ふうむ。4人目の菊池一族の魔女じゃな。君もレイブンクローを希望するかね?」

 

ーーこの帽子って、なんか悪質。開心術の応用だと思うけど、長閑さを演出するところがあざとい

 

「先ほども似たようなことを考えた娘がおった。まったく。マグル生まれじゃが、咄嗟に閉心するとはな。君はどうじゃ?」

 

ーーハーマイオニーで間違いないわね

 

「レイブンクローを希望するかと聞いておる!」

 

ーーあなたが決めなさいよ!

 

「威勢の良いことじゃが、君に確かめねばならん。ダンブルドアの杖を抑止するほどの杖を持ち、いったい何を望むかを」

 

ーーダンブルドアの杖? 杖は普通に買っただけよ。ダンブルドアの杖なん・・・

 

「気づいたかね? ダンブルドアの杖の双子杖を君は持っておる。さあ、どうじゃ? 偉大な魔女になりたくはないか?」

 

ーーならない。そんなものになる必要はない

 

「どんな魔女になりたいかね?」

 

ーー・・・普通の?

 

「ほっほう! 大それたことを言う! 君の立場で、普通の魔女を望むとは。つまり世界の変革じゃ」

 

ーーっはあ? なに言ってるのよ、オンボロ帽子!

 

「君が普通の魔女として平穏に暮らすことの出来る世界を望むのならば、邪魔な存在がある。邪魔なものは退けねばな」

 

帽子は、大広間に響き渡る大声で「グリフィンドール!」と叫んだ。

 

組分け帽子をスツールに戻しながら、蓮は壇上のダンブルドアを見上げる。

 

ーーニワトコの杖の現在の持ち主

 

それがどうした、と蓮は考えた。

 

 

 

 

自分を見上げてくる瞳は、50年前の教え子によく似ている、とダンブルドアは思う。

 

あの一族は生れながらにして闇祓いだ。

 

闇の気配に極めて敏感なのは、そもそも「祓う」ことを生業とする魔女の一族ならば当然のことだった。

 

組分け帽子が彼女をグリフィンドールに組分けした幸運に感謝したいとも思った。

ハリー・ポッターの周囲に、未熟とはいえ、生来の闇祓いをつけることが出来たのだから。

 

ーーじゃが、あの柊子の孫じゃからな

 

はふん、と小さく溜息が出る。

 

ーー柊子とミネルヴァが同時にグリフィンドール生じゃったら、儂、禿げとったかもしれん

 

ミネルヴァといえば、グレンジャーという新入生は、やはりミネルヴァとそっくりの経緯でグリフィンドールに組分けされた。

 

ダンブルドアは、これからの7年間を考えると軽い頭痛を感じさえする。

 

ミネルヴァと柊子、そこにリドルが入学し、ハグリッドが妙なペットを飼っていたトラブルの時代の再来。

 

不吉な予想は、蓮の母親からもたらされた杖に関する情報のせいだろうか。

ニワトコの杖と対になると思われる桜の杖が娘に忠誠を誓った、と。

芯はセストラルの尾。

 

暴虐の兄を鎮める妹、というイメージは美しいが、その妹杖は、おそらく決して優しくはあるまい。

 

桜は杖の材質によく使われるが、ニワトコの杖と同一個体のセストラルから取り出した尾を芯に内包出来るほどの桜となれば、もはや魔木のレベルだ。

 

そんな杖がこの世に主人を求めたという時点で頭が痛い。

 

「さて、グリフィンドール寮監の受難の時代の幕開けじゃ」

 

ダンブルドアは小さく呟き、組分け帽子とスツールを魔法で仕舞うマクゴナガルを見遣った。

 

 

 

 

 

だいたいにおいて、グリフィンドールには無鉄砲な生徒が集まりやすい。

 

ミネルヴァ・マクゴナガルは1日の勤めを終え、自室に戻ると、いつものように眼鏡を外した。

 

甚だ心外なことだが、近視用の若い頃から使っている眼鏡を普段使いにかけていると、目が疲れてくるのだ。

自室で読書するときには眼鏡を外したほうが楽だとは。まったく心外なことだ。

 

才能、勇気、正義感をふんだんに持ち合わせていても、校則の前で改まる資質はさらさら持ち合わせない。

 

ホグワーツの各ハウスの寮監には、そのハウスの卒業生が任命される理由の一つに「同じ資質を持つからじゃ」とダンブルドアが言い放ったときには、ミネルヴァは断固として抗議した。

 

「なんですかそれなんとおっしゃりたいのですまさかわたくしがあのポッターやブラックのような向こう見ずな生徒だったとでも?まさかそんなわけございませんわねなにしろわたくしはホグワーツ在学中に動物もどきとして魔法省の管理を受け入れるという規則遵守の代名詞だったのですからね」

 

ノンブレスで抗議したミネルヴァだったが、ダンブルドアが「そもそも儂、君が動物もどきを習得する動機を理解出来んじゃったのでな。友人たちと深夜に徘徊するほかに」というものだから、返す言葉はなかった。

 

「類似の資質を持つからこそ、彼らがしでかすことの多くが見抜けるのじゃ。例えばポモーナやフィリウスにグリフィンドール生の監督が出来ようか? 逆もしかり。君がレイブンクロー生のNEWT前の薬物中毒を今の程度に留めておくことはできまいし、ハッフルパフ生の尻を叩いてOWL落第を今の程度に留めておくこともできまい」

 

そんな問答はもはや例年のことだが、今年ばかりはミネルヴァとしても口には出さなかった。

 

なにしろ、自分の組分けの儀式を彷彿とさせるような女子生徒がグリフィンドールに、さらにはあの柊子の孫までがグリフィンドールに組分けされたのだ。

ここで苦情を言えば、藪をつついてバジリスクを出現させるようなものだ。

 

全ての組み合わせが非常に不吉だ。

ポッター、ウィーズリー兄弟の末弟、柊子の孫、おそらくはレイブンクローと迷われた組分け困難者に、オーガスタ・ロングボトムの孫。

ウィーズリー兄弟は、あのポッターとブラックが師と仰いだプルウェット兄弟の甥。兄たちの双子のウィーズリーに加えて、またウィーズリーが増殖した。

 

「柊子の孫までグリフィンドールに来るとは、もはや呪いでしかない」

 

力無く呟くのだった。

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