サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第12章 ボーバトンからの招待

マクゴナガル先生が翌日の朝食の席で蓮の耳に「食事を済ませたら校長室へ」と囁いていったとき、蓮は静かに頷いた。

 

思ったより早かったが、それは別に構わない。

 

「ハーマイオニー、わたくし、食事のあとは校長室に呼ばれたから行ってくるわね。あなたは」と言いながら、1人でテーブルについているロンに視線を飛ばした。「お願い」

 

紙ナフキンに何枚かのトーストを包んでいるのはハリーに食べさせるつもりなのだろう。ハーマイオニーは黙って頷いた。

 

 

 

 

 

「非常に難しい事態になった」

 

ダンブルドアの机の前に立った蓮は頷いた。

 

「本来なら、生徒に頼むべきことではないのじゃが、君はホグワーツの教職員生徒全員を含めた中で、最も中立に近い立場にある。バグマンやクラウチも慰撫工作をするはずじゃが、彼らは完全に英国魔法省の人間じゃ。ボーバトンもダームストラングも信用はすまい。外交役が出来るのは君しかおらぬ」

「もちろんお手伝いいたします。具体的には、どういうアピールが必要なのでしょう?」

「ホグワーツの意図したことでも、ハリーの意図したことでもない、と。それだけを誠心誠意訴えることが肝要じゃ」

 

蓮は頷いた。

 

「君自身はどう考えておるのかね? ハリーのことじゃが」

「ハリーは・・・ハーマイオニーの表現を借りれば英雄症候群、つまり、ヴォルデモートや死喰い人が関わるとなると、焦って余計なことまで首を突っ込む癖はあります。ですが、それ以外の危険を望む性格ではありません。3年生のときは、自分の身を守りながらチームに勝利をもたらすためにルーピン先生に守護霊の呪文の個人教授をお願いしました。準備が可能なことならば準備して事に当たります。この種のゲームで名声を得たいと考えるならば、もっと真面目に勉強するでしょう。どちらかといえば、遊ぶほうが好きな普通の生徒です。そもそも17歳未満に参加が禁じられたゲームに闇雲に参加したがるほど名誉欲が強いわけでもありません。誰もが持っている程度の多少の名誉欲をはるかに超える名声に戸惑っている印象です。もちろんそれに応えなければという気持ちが英雄症候群の根底にあるとは思います。今回の件には、むしろ怯えていると思います。戦う相手がわかりませんから。ハリーの中に、自らエントリーするほど強いモチベーションがあったとは思えません」

 

ダンブルドアが青い瞳を閉じた。

 

「君たち友人の支えは期待出来るのがなによりじゃ」

 

蓮は微かに俯いた。

 

「違うのかね?」

「わたくしとハーマイオニーは、出来る限りのことをしたいと思っています」

「ロナルド・ウィーズリーは?」

「複雑な感情を持て余しているようです。ロンは、エントリーしたがっていましたから。たぶん昨夜からハリーと親しく話してはいないと思います」

 

愚かなことを、と蓮の斜め後ろでマクゴナガル先生が呟いた。「今こそポッターの助けにならなくてどうします」

 

「ミネルヴァ、それは仕方のないことじゃよ。ただ、あまり長引くようでは困るがのう。ウィーズリーがどのように折り合いをつけるかが大切じゃ」

 

 

 

 

 

ロン、と蓮が声をかけたのは、なぜか図書館へ続く廊下だった。

 

「ああ、君か」

「何か調べもの?」

「大したことじゃない。ただ、そうだな、ちょっと宿題に付き合ってくれるかい?」

「占い学以外なら」

「魔法史さ」

 

ロンと連れ立って図書館に入ると、いつもと雰囲気が違っていた。マダム・ピンスはイライラしているが、注意する気はないようだ。珍しい。

 

「・・・クラムだ」

 

ロンの呟きに蓮は顔をしかめた。「サイン貰ってきたら?」

 

「やめてくれよ。あの女子の群れに混じってサインをねだるなんてさ。君が代わりに貰ってくれるなら欲しいけど」

「絶対にイヤ。フラーのサインなら貰ってあげてもいいわよ」

「あのヴィーラかい? そういや、ハーマイオニーは?」

「ハリーとフクロウ小屋」

「どいつもこいつも、ハリー、ハリー、ハリー、ハリーか」

 

ガタンと乱暴に椅子を引いて座ったロンが投げやりに言う。

 

「・・・わかってるでしょう? ハリーが自分でゴブレットに名前を入れたわけじゃないことぐらい」

 

わからないさ、とロンは呟いた。「何かうまいやり方を見つけたなら見つけたで別にいいよ、責めやしない。でもあいつ、自分はやってないとしか言わないんだ」

 

「やってないからよ。本当にうまいやり方を見つけていたら、あなたにもネビルにも教えたでしょうね」

「ああそうかい。そういやそうだな。僕やネビルが名前を入れても選ばれるのは『ハリー・ポッター、生き残った男の子』に決まってるよな」

 

ねえロン、と蓮はニヤっと笑った。「確実に選手になれる、うまいやり方を教えてあげてもいいわよ」

 

「いまさらだな」

「まあ、聞きなさいよ。将来、あなたの子供がトーナメントに出たがるかもしれないわ」

「へえ」

「ホグワーツでもダームストラングでもボーバトンでもない学校名でエントリーすればいいの。年齢線の問題は、あなたが代わりに越えてあげれば解決」

 

ロンが押し殺した声になった。「ハリーから聞いたのかい?」

 

「いいえ。ハリーはわたくしたちにも、自分はやってないとしか言わないわよ。わたくしならどうするかを考えただけ。あのゴブレットは強力な古代魔法のゴブレットなの。17歳以上という制限はゴブレットにはかかっていない。年齢制限は今回に限ってのことだもの。ゴブレットは参加各校から1人を選出し、選出した生徒に死なない限り競技を続けるという魔法契約を課す。3校しか参加できない魔法がかかっていたら、そこは書き換える必要があるけれど。つまりハリーはホグワーツの代表選手じゃなく、幻の4校目の代表選手なんだと思うわ、たぶん」

「そこまで方法がわかってるんだったら君はどうしてエントリーしなかった?」

「するわけないじゃない。たとえ成人していても絶対お断り。わたくしにはこれ以上の名声なんて必要ないわ。無駄に有名な家族がいて、去年はうっかり動物もどきになって、わたくしの変身した姿の写真まで出版物に載ったのよ? 賞金も大して魅力的とは言えないわね。成人したら自由に使える信託財産がマグルの銀行にもグリンゴッツにも十分あるし、マグルの銀行のほうは安定した投資に充ててあるから何もしなくても増えるわ。わたくしが一番欲しいものは安定・平穏・静寂よ」

 

ロンはむすっと黙りこくっている。蓮は構わずロンの魔法史の教科書のゴブリンの反乱のページを開いた。「ほら、レポートでしょう?」

 

 

 

 

 

ああすっごく心配、とハーマイオニーは頭を振り振り、蓮について夜道を歩いている。「この数日、あの人たち、本当にまったく全然会話しないんだもの。それぞれ黙りこくって夕食を済ませるんだわ」

 

「気になるなら、大広間で食べてもいいのよ。わたくし、一応フランス語出来るんだし」

「そんなわけにいくものですか。1人で集中砲火を浴びるだなんて」

 

杖明かりを掲げた蓮が「大袈裟な」と笑うが、まったく大袈裟ではないとハーマイオニーは思っている。同じホグワーツ生でさえハリーの出場を快く受け入れている生徒が少ないのに、他校ならばなおさらだ。

 

「フラーは味方だと思いたいけど、選手として当事者だもの。絶対いい気はしてないだろうし」

「まあ、まだ鳥の顔になってないから、激怒はしてないわよ、たぶん」

「クォーターでも怒ると鳥顔になるの?」

「知らない」

 

とんとん、と足取り軽く踏み台を上がると、ノッカーを3度鳴らした。

 

 

 

 

 

『ダンブリードールの年齢線が年少の生徒を締め出すと、わたくしどもは安心していたのですがね』

 

蓮はにこやかに『ええ。ダンブルドアのあの種の魔法を見せていただく機会はホグワーツにいても滅多にないことですから、わたくしもたいへん感銘を受けました』と微妙にズレた返答を返した。

 

『正しく機能しなかったようですが?』

『そうでしょうか? わたくしたちは、いくつかの手段で年齢線を越えようとした上級生が手痛い報復をされた場面しか見ておりませんが、それは見事な効果でした』

『アリー・ポッターは、ではそれをどのように出し抜いたのでしょうね?』

 

ハーマイオニーはもうブイヤベースを食べた気がしないぐらいに緊張している。頼みのフラーの機嫌も悪い。

 

『ハーマイオニー、あなた、フランスでハリーを褒め過ぎたのではなくて?』

『そんなことは、ない、と思うわよ?』

 

蓮の意図がわからないので、ハーマイオニーは慎重になるしかない。

 

『マダム・マクシーム、ハーマイオニーはたいへん謙虚な性格なので、自分がハリーに入れ知恵したこともハリーの功績にしてしまいますの。ハーマイオニーがボーバトンではなくホグワーツを選んだことは、わたくしとハリーにとって幸運なことでしたわ』

『つまり、アーマイオニ、あなたがダンブリードールの年齢線を出し抜く方法を考えたのですか?』

 

いいえ! とハーマイオニーは慌てて両手を振った。『わたしは年齢線という魔法を今回初めて知りました』

 

慌てるハーマイオニーと裏腹に蓮はおっとりと『なかなか楽しい効果がありましたのよ。年齢線を出し抜こうとした上級生の顔を思い出すと、お腹がよじれてしまいそうなほど』と微笑んだ。

 

『つまりオグワーツの生徒はダンブリードールの年齢線を出し抜きたがったということかしら?』

『ええ。ボーバトンやダームストラングの皆様と違って、わたくしたちは始業式まで大会の開催さえ知らされていませんでした。普段の少しだらけた学校生活をそのままにこの試合を迎えてしまいましたから、あまりお行儀が良かったとは言えませんわね』

『その中でアリー・ポッターだけが成功したのはなぜかしら?』

 

蓮は苦笑した。

 

『マダム、ハリーがハーマイオニー抜きでやり遂げることは不可能なのですわ』

『アリー・ポッターはこれまでに様々な罠を潜り抜けたと聞きます』

『ハーマイオニーが知恵を出した場合に限り、成功率が高くなりますけれど、ハリー1人で出来たことは・・・あったかしら?』

 

蓮がハーマイオニーを向いて首を傾げる。ハーマイオニーもつられて首を傾げた。

 

『ハリーって、1人で挑戦はしないわよね?』

『だいたい周りに相談するわね』

 

蓮は肩を竦めた。

 

『わたくしたちは、今回それが不思議でなりませんの。皆、普段はハリーなんて大したことないと見くびるのに、今回だけはハリーが単独で年齢線を騙したと思っている。ハリーにそんな器用なことが出来るなら、わたくしもハーマイオニーも彼のトラブルには巻き込まれずに済むはずですのに』

 

ハーマイオニーも思わず溜息をついた。

 

『つまり、アリー・ポッターには大した才能はない?』

『悲しい過去と、よくある欠点を持つ、普通の少年です。自分に足りないところを自覚して努力はします。そういう部分が先生方や上級生に可愛がられる要素ですから、美点ではありますね。ただ、わたくしたち友人としては、彼の評価だけが一人歩きしているように思えます。彼は才能や頭脳が突出しているのではなく、人並みの少年として、友人や先生方に教えを乞うことを厭わない美点を持っているだけです』

 

マダム・マクシームは蓮とハーマイオニーの表情をじっと見つめた。

 

『ではダンブリードールはどうです。アリー・ポッターを特別扱いしているのでは?』

『していますわ』

『やはり』

『皆さまが考えていらっしゃるのとは逆の意味で。ハリーはただでさえ特別扱いされがちな背景を持っていますので、それに驕ることのないように目を配っています。おかげでわたくしもハーマイオニーも、何度手痛い罰則に付き合わされたことか』

 

ハーマイオニーは思わず遠くを見る目になった。罰則というわけではないが、ヴォルデモート関連のあれこれは本当にろくでもない体験だった。

 

『マダム、わたくし、ダンブルドアのこともハリーと同じように不思議ですの』

『ダンブリードールも?』

『ダンブルドアには蛙チョコカードになるほどの実績と名声がすでにあります。これ以上、ハリーを利用してまでさらに名声を積み上げる必要があるとお思いでしょうか?』

 

確かに、とマダム・マクシームは重々しく頷いた。『ですが、人の名誉欲には際限がないのも事実の一面ではありますよ』

 

蓮は苦笑した。

 

『このトーナメントにハリーが優勝することがあったら、ダンブルドアの名声には傷となるでしょう。年齢規定に反した選手を開催校が出場させて優勝させたとあっては。少なくともマダムはダンブルドアを軽蔑なさるのでは?』

『そうなりますね。もちろん今も不満はあります。ゴブレットの魔法契約が発効してしまったので認めざるを得ないだけです』

『ダンブルドアもおそらくそうだと思いますわ。ましてや『生き残った男の子』の身に万が一の事故が起きたら、ダンブルドアも校長職にとどまることは出来ないでしょう』

 

そのとき、フラーが口を開いた。

 

『レン、アーマイオニー、あなたがたはアリー・ポッターを応援していないの?』

『心から応援しているわ、フラー。死なないで最終戦を終わらせて欲しい』

 

蓮はきっぱりと言った。

 

『死なないで?』

『過去におびただしい死亡者が出た試合。さらにハリーは何度も命の危機に瀕してきた。この組み合わせで、優勝を目指して欲しいとは思えない』

 

フラーが眉をひそめた。

 

『なぜアリー・ポッターはそんなに死にかけるの? 危険を愛するからでは?』

『フラー、ハリーが危険を愛さなくても、危険のほうからハリーに向かって飛んでくるの。ハーマイオニーは話さなかったかしら?』

 

フラーが『いくつかの冒険は聞いたわ』と苦笑した。

 

『だったら、ハリーが1人でその冒険に対処したわけではないとわかるでしょう? ハリーは自分の能力の不足を理解している。だから誰にも言わずに1人で危険に飛び込むことはあり得ない』

『あなたたちが今回も手伝うのではないかしら?』

 

手伝うわね、と蓮は肩を竦めた。

 

『ルール違反よ、それは』

『そこに目を瞑ってもらいたいの。優勝させるためではなく死なせないために。またクラムを阻むためにも』

『クラムを阻む? 理由は?』

『ダームストラングがルールを守るとは思えないから』

 

蓮はマダム・マクシームに向き直った。

 

『マダム、わたくしは数日後にはダームストラングの船にお招きを受けております』

『ノン! あなたはダームストラングに行くほどの義理はないはず。あなたのおじいさまはカルカロフとは親しくない、まったく親しくない!』

『それでも呼びつけたい理由があるのでしょう。ご理解いただきたいのは、ダンブルドアはホグワーツの優勝を願ってはいないということです』

 

マダム・マクシームが『優勝を望まない?』と繰り返した。

 

『ダンブルドアを聖人だとは申しません。わたくしの家族も恩師も、ダンブルドアを人間的な俗物だと評価しています。だからこそ、優勝を目指してはいません。彼が欲しい名誉は、1度の優勝などではない。三大魔法学校対抗試合復活時の校長として、ヨーロッパの魔法教育の歴史に名を残すことです』

 

ハーマイオニーは肘で蓮を小突いた。『そんなにはっきり言うものじゃないわ!』しかし、蓮はその肘をそっと押さえて続けた。

 

『マダム、優勝にはフラーが相応しい。もちろんわたくしはフラーの力量を目の当たりにしたことはありませんけれど、政治的にはフラーが優勝するのが最も望ましい決着です』

『なぜです。あなたがたは、アリー・ポッターは別にしても、ディゴリーがいるでしょう』

 

『開催校である以上の名誉をホグワーツにもたらせば、バランスが崩れます。ホグワーツは三大魔法学校対抗試合復活時の開催校、優勝はボーバトン、ダームストラングは』そこまで言うと肩を竦めた。『未熟な校長だったため、惜しくも優勝を逃した。これがベストな結末では? 少なくともブルガリア魔法省は、カルカロフ校長に必要以上の人気が集まることを歓迎していません。理由はお分かりかと』

 

蓮は真剣な横顔をハーマイオニーに見せたまま続けた。

 

『三大魔法学校対抗試合復活の開催校、そして復活後初の優勝者。それをホグワーツとボーバトンが分け合う形にすることが、ヨーロッパ魔法教育のパワーバランスの要では? ブルガリアに甘い林檎を齧らせるのはまだ早い』

『・・・あなたがどんな教育を受けてきたのかにたいへん興味が湧きますね。やはりウィンストン家の姫君だけのことはある』

『そうですね。ダンブルドアからの教育ではないことは確かです。ダンブルドアは皆で力の限り応援するべきだという、通りいっぺんのことしか、生徒には教えません』

 

それで、とマダム・マクシームがゆったりと椅子に深く身を沈めた。ハグリッドには悪いけれど、とハーマイオニーは思った。ハグリッドには悪いけれど、いくら同族とは言え、マダム・マクシームとハグリッドでは住む世界が違い過ぎる。

 

『それであなたは、フラーに何をしてくださるのかしら』

『何も』

『何も?』

『課題が何かさえわからないのに、具体的な協力内容は思いつきません。ただ、そうですね。わたくしはほぼ毎日、放課後には湖の周りを走ります。ハーマイオニーはその時間は図書館にいます。その場を利用して情報交換をするというのはいかがでしょう? 開催校の生徒であるからこそ知り得る情報は、課題に直接関係なくても、フラーの環境を有利に整えることに繋がりませんか?』

 

マダムは、ふむ、と頷き、フラーに目を向けた。『フラー、どう思いますか?』フラーは優雅に微笑んだ。

 

『ハーマイオニーだけでなく、デラクール家の一族であるレンとも友好を深める機会は望ましいですね』

 

ハーマイオニーは小さく溜息をついた。この交渉内容は、ハリーとロンには絶対に言えない。ウェンディ並みの腹黒さだ。それを受け入れるマダム・マクシームもフラーも十分に腹黒い。

 

 

 

 

 

玄関ホールに入る前にハーマイオニーが「フラーが優勝できなかったらどうするの?」と呟いた。

 

「どうもしないわよ?」

「・・・あなたね」

「忘れちゃダメ。わたくしたちは、国際友好を頑張る優等生。オーケー?」

「それは、大事だけど・・・ダームストラングに林檎を齧らせないって・・・」

 

蓮は苦笑した。

 

「ハーマイオニー、ダームストラングの相手をするのはあなたじゃないから安心していいわよ」

「まさか、1人で行くの? それはダメよ!」

 

ちょうどいいのがいるじゃない、と蓮は笑った。

 

「カルカロフが絶対に深い話をしたくない相手、儀礼的な会食をしたら追い出したい相手、本人はクラムの知り合いになるという幸運に有頂天になる馬鹿、ダームストラングに入学する予定だったならブルガリア語は出来るでしょうし、あれでも一応男子だからわたくしのヒグマ除けの役に立つ」

 

ハーマイオニーがこめかみを押さえた。

 

「レン・・・あなた、マルフォイを誘うつもり?」

「そうよ」

「マルフォイがおとなしくついてくるわけ」

 

あるのよね、と蓮が人の悪い笑顔を見せた。

 

「ハーマイオニーの言う通り、わたくしの特殊能力を今年はフル活用できそうよ」

「あなたにはヴィーラの血は流れてないでしょう!」

「でも、グラニーからヴィーラの魔法は習ったわ。会食の間ぐらいマルフォイをその気にさせることは出来る」

「そんな魔法、グラニーはマルフォイのために教えてくれたわけじゃないでしょう!」

 

蓮は唇を尖らせた。

 

「ハーマイオニーをパーティに誘うために教えるって言われたわ。でもハーマイオニーは嫌だって言うから、何か有効活用しなきゃ」

 

ハーマイオニーは額を押さえた。

 

「有効活用の仕方が間違ってる・・・」


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