サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第15章 ハウスエルフ解放戦線

「なんでそんなことに!」図書館から帰ってきたハーマイオニーは、とっぷりと落ち込んだジョージから事の次第を聞かされて、思わず叫んだ。

 

「服従の呪文にかかったみたいに、レンはフラーの言いなりだった」

「レンに服従の呪文は効かないわ。きっとヴィーラの魔法を使われたんだと思う。レンがマルフォイに使った魔法よ。ヴィーラの血が流れていないレンでもあれだけの効果があったんだから、ヴィーラの血が流れてるフラーならもっと強力で当然だわ」

「なんとかならないか?」

 

途方に暮れたジョージに「レンからも事情を聞いてみるわ」と言うのが精一杯だった。

 

部屋に戻ると、蓮がベッドの上に男性用のドレスローブを広げている。

 

「・・・あなた、本気?」

「もちろん」

「ヴィーラの魔法なんでしょ?」

 

蓮はクスっと笑って「ほんの少しだけね。パーティにフラーと行くって答えたら解いてくれたわ」と答えた。

 

「今は正気?」

「もちろん」

「だったらフラーを断ったら?」

 

蓮は首を振った。

 

「フラーはヒントをくれたわ。卵の謎はクリスマス・パーティまでに解くのが望ましい、わたくしがクリスマス・パーティでフラーとずっと一緒にいることが大事なんですって。ヒントをくれたのに、協力を拒むわけにはいかないでしょう?」

「なぜあなたなの?」

 

蓮が少し考えて「水が関係あるのかもしれないわね」と答えた。

 

「水?」

「フラーとわたくしが共有している先祖は、曽祖父母まで。わたくしたちにはマーメイドの血が流れてる。知ってるでしょう? 曽祖母がマーメイドだもの。何かパートナーが必要な水絡みの課題じゃないかと思うの。それならジョージを誘わず、わたくしを誘う理由になるわ」

「ジョージ? なぜフラーがジョージを誘うの?」

 

毎日ついてくるんだもの、と蓮がいささか乱暴にドレスローブをクローゼットに放り込んだ。

 

ハーマイオニーは額を押さえた。「ジョージはフラーについて行ってるわけじゃないでしょう? もともとあなたとジョージが一緒に走ってたじゃない」

 

「『あんな美女と走るならボディガードが必要』もしくは『美女とお近づきになるチャンスは見逃せない』のだそうよ。わたくしがジョージに、諸般の事情があるから、フラーと走ることになったって謝ったら、そう言ったわ」

「・・・あなた、誤解してるわよ」

「誤解? わたくしにボディガードが必要だったことはないわ」

 

溜息をついてハーマイオニーは「ジョージの件は改めて考えましょう。卵の謎をクリスマス・パーティまでに解くのが望ましいってどういう意味かしら?」と呟いた。

 

「ハリーは何やってるの?」

「親友のロンと蜜月状態よ」

「卵の謎は?」

「2月までにはまだ時間があると言うばかり」

 

急がせたほうがいいわね、と蓮が拳を口元に当てた。

 

「クリスマス・パーティまでに?」

「そんなことじゃなく・・・ハリーって、泳げるのかしら?」

「・・・え?」

「イギリスのマグルの学校って水泳の授業あるの?」

 

ハーマイオニーは首を振った。「でも、わたしはスイミングクラブのキッズコースにほんの少しだけ通って泳げるようになったわ」

 

「ハリーの、あのダーズリー家がハリーをスイミングクラブに通わせたかしら?」

「・・・えーと」

 

それに、と蓮が眉を寄せた。「たぶんクラムももう卵の謎を解いたんだと思うわ。毎日湖で泳いでるのはそういうことかもしれない」

 

 

 

 

 

その日の夕食を済ませて寮に戻ろうとするハリーとロンを捕まえて、空き教室に引っ張り込んだ。

 

「ハリー、卵の謎は解けたの?」

 

途端にハリーの目がうろうろと泳ぎ始めた。

 

「フラーもクラムももう卵の謎を解いて、第2の課題に向けて準備を始めたわ。たぶん泳ぐ必要がある課題よ」

「あなた泳げるの?」

 

ハリーが小さく肩を縮めて「ダドリーは泳げるよ、スイミングクラブに通ったから」と小声で答えた。

 

「あのデブはどうでもいいの。あなたが泳げるかどうかよ」

 

きっぱりと言う蓮にハリーはうなだれたまま首を振った。

 

「・・・やっぱり」

「ハリー、とにかく急いで卵の謎を解いて。課題に合わせて水泳の訓練をしなきゃ」

「だって、プールなんてないし・・・」

「湖があります!」

 

やだよ! とハリーが小さく叫んだ。「真冬だよ?」

 

「クラムは毎日湖で泳いでるわ」

 

マジかよ、とロンが呟いた。

 

「ハリー、とにかく卵の謎を早く解いて準備しなきゃいけないわ。泳げないならなおさら急ぐ必要がある」

「でも、だって・・・誰が教えてくれるの?」

「レンはマーメイドの血を引いていて、さらに河童から泳ぎ方の訓練を受けているし、日本のマグルの学校では水泳のクラスがあるの。わたしもスイミングクラブで少しは泳げるようになったわ。レンとわたしが教えるから!」

 

絶対チョー厳しいぜ、とロンがハリーの耳元で囁いた。

 

 

 

 

 

魔法生物飼育学の授業で蓮は激しく不機嫌だった。

 

なにしろ、リータ・スキーターがハリーにつきまとっているのだ。

 

「ハリー、君はこの尻尾バンバンスクートの世話を面白いと思う?」

「尻尾爆発スクリュート。あー、はい、面白い生き物だと思う」

 

ハリーが答える間に蓮は急いで尻尾爆発スクリュートにつけた縄を引きずり、ハグリッドの側に行った。

 

「どうした、蓮」

「あの女、たぶんこっちに来るわ。言ったでしょう、ハグリッド。尻尾爆発スクリュートは微妙な線だって。言い方を間違えたら問題になる」

 

でえじょぶだ、とハグリッドはのんきに構えているが、本当にスキーターが近づいてくると、ガチガチに緊張してしまった。

蓮は尻尾爆発スクリュートの縄を持ったまま立ち上がった。

 

「マダム・スキーター、あなたは杖調べの儀式を妨害した件で、大会期間中の校内への立ち入りをダンブルドア校長から禁じられたと伺っていますが?」

「ま! あなたはどなたさまざんす? あたくしは記者ですのよ。これは大人の仕事ざんす! それに、大会の記事のためじゃないざんす。この尻尾バンバンスクート」

「尻尾爆発スクリュート」

「それを日刊予言者新聞の毎週水曜の動物学コラムでちょいと取り上げようと思ってましてね。素敵ざんしょ?」

 

ちっとも、と蓮は言ったが、肝心のハグリッドは「あー、まあな、面白え生き物だ」と答えてしまった。

 

「マダム、尻尾爆発スクリュートはまだその生態を観察・研究している段階です。お話し出来ることはないと思います」

「ああたは、生徒さんざんしょ? あたくしはハグリッド教授に尻尾バンバンスクートについてインタビューするざんす」

「尻尾爆発スクリュート! 名称さえ記憶する気がない人がコラムにするのは職業倫理の上でいかがなものでしょう?」

 

蓮の言い方が気に入らなかったのか、スキーターは態度を硬化させ「お嬢ちゃん、ああたのお名前は?」と言い出した。

 

「蓮・ウィンストン」

 

僅かにスキーターが怯んだように見えた。

 

「あ、ああ、副部長のお嬢ちゃんざんすね。お母さんにはいろいろお世話になっているざんす」

「社交辞令は結構です。授業の妨害はおやめください。校内に立ち入り、授業中の教授ならびに生徒にインタビューを試みた件は、副校長、校長に報告します」

 

舌打ちをしてスキーターはその場を離れた。

 

「おい蓮、おまえ、スキーターにあんな態度取ってええんかい? あいつぁ、あることないこと書き立てる奴だぞ」

「スキーターだからああいう態度になるの。それより、ハグリッド、スキーターには気をつけて。校内への立ち入りは禁止出来てもホグズミードの立ち入りは禁止出来ないわ。夜にパブに行ってお酒飲んでスクリュートのことをあれこれ話しちゃダメよ」

 

散歩に行きたいのか、同胞を殺しに行きたいのか、縄を引きずって歩き出すスクリュートを足を踏ん張って引き寄せながら、蓮は小声でハグリッドに言い聞かせた。「ファイア・クラブの飼育ライセンスを持ってることを忘れないでよ! それからウィゼンガモット主席魔法戦士であるダンブルドアの要請でマンティコアと掛け合わせたことも!」

 

 

 

 

 

蓮がイライラと部屋を歩き回り「ハグリッドを黙らせるにはどうすればいいかしら? ねえ、パーバティ、ハグリッドのホグズミード行きをダンブルドアから禁止してもらうことって出来ると思う?」などと訴えていると、ハーマイオニーが部屋に入ってきた。

 

「レン、何やってるのよ」

 

パーバティが肩を竦め「ハグリッドの尻尾爆発スクリュートが新聞にすっぱ抜かれることを心配してるの。さっきから言ってるでしょう、レン。ハグリッドは立派な大人。自分で対処出来るわ」と答えた。

 

「立派過ぎるのよ・・・立派過ぎるあの体格とペットの好みを足し算されたら、スキャンダルを作れるわ」

 

ハーマイオニーはそれに割って入った。「ハグリッドのことも大事だけど、ハウスエルフ福祉向上委員会の件も忘れないでくれない?」

 

「ハウスエルフ?」

「あなた、ホグワーツのハウスエルフを紹介するって言ったでしょう? 今、ジョージがオーケーしてくれたから、一緒に行ってくれるわ」

 

蓮は溜息をついて両手を上げた。「まだ忘れてなかったのね」

 

 

 

 

 

明々と松明に照らされた広い石造りの地下通路を歩いている蓮とジョージは、心なしか普段より距離がある。それを後ろから観察しながら、ハーマイオニーは溜息をついた。肝心なことをまだ蓮本人に打ち明けていないのがジョージの敗因だ。サマーホリデイにデートして、ホグズミードでもデートをしたのだから、自分の気持ちを打ち明けるのに早すぎることはなかったはずだ。蓮は完全にジョージはフラーに魅了されていると思い込んでいる。

 

ハウスエルフ生態調査の名目で蓮とジョージが話し合う機会を作ってはみたが、果たして上手くいくだろうか。

 

蓮によれば、簡単にヴィーラに魅了されるのは本心から愛する人がいない男性だと言う。気軽なデートを楽しむ相手がいても、それとは別らしい。ヴィーラが本気で魔法をかけるなら、男女を問わず魅了出来るらしいが、本心から愛する人がいれば魔法はかからない。

 

「つまり、わたくしは気軽なデートの相手にはちょうど良いかもしれないけれど、あなたが言うほどジョージが思い詰めているわけじゃないってこと。まあ、それはわたくしも同じだけどね。それよりも、フラーとの取引に誠実に対応することが今は1番大事なことよ。たかがクリスマス・パーティじゃない。ハロウィンの仮装と同じよ」

 

日本育ちの蓮にはクリスマス・パーティに男性が女性を誘うことの重大な意味が理解出来ていなかった。

 

はあ、と溜息をついていると、ジョージが巨大な果物皿の絵の前で、大きな緑色の梨をくすぐった。梨はクスクス笑いながら身をよじり、大きな緑色のドアの取っ手に変わった。

 

「ここが厨房。ハーマイオニー、入り方は覚えたかい?」

「ええ、覚えたわ。緑色の梨をくすぐるのね」

「でも、洗脳はしない。絶対だぜ」

「調査するだけよ」

 

扉をくぐると、キーキーと甲高いハウスエルフ特有の声が「これは旦那さま!」とジョージに呼びかけてきた。

 

「やあ、ちょっと小腹がすいたんだ。何か食べるものはないかな? あと、こっちの2人にはティーセットを頼むよ」

 

かしこまりました、とハウスエルフはホグワーツの紋章のついたキッチンタオルの裾をつまんで、宮廷風のお辞儀をした。

 

「あそこに座ろう」

 

ジョージに示されたプラスチックテーブルに備えられたパイプ椅子に座り、ハーマイオニーは厨房を見回した。

 

「あのキッチンタオルが制服なのね」

「比較的清潔なハウスエルフたちだわ」

 

蓮の言葉にハーマイオニーは目を剥いた。「本気で言ってる?」

 

「だって使い古しのキッチンタオルじゃないもの。ハウスエルフ専用の制服代わりとして支給されているものだと思うわ」

「だけど、洋服を着てる奴がいるな、新顔だ」

 

ジョージが驚いた声を出した。

 

「あ。ね、ハーマイオニー、あのハウスエルフってドビーじゃない?」

「ドビー? あの、ハリーを助けるために殺しかけたドビー?」

「おーい、ドビー?」

 

ジョージが大声を出すと、ちぐはぐな洋服をまとったハウスエルフがこちらを向いて飛び上がった。

 

「ハリー・ポッターのお友達! ドビーは覚えていらっしゃいます!」

 

駆け寄ってきたドビーが深々とお辞儀をした。

 

「それに姫さまはウェンディの姫さまです!」

「ドビー、ここで働いていたの?」

 

ドビーは嬉しげに大きく頷いた。「1週間ほど前に、ウェンディがドビーとウィンキーをダンブルドア校長先生に紹介してくれました!」

 

「ウェンディが?」

「はい、姫さま! ドビーは自由になってからというもの、旅から旅をなさいました。魔法使いのお屋敷で雇ってもらうために。ですが仕事が見つかりませんでした!」

 

どうして? とハーマイオニーが尋ねた。

 

「ドビーはお給料が欲しかったからでございます!」

「お給料が欲しいハウスエルフにはお仕事が見つからないの?」

「はい! 困り果てたドビーは、ウィンキーを見つけました。『ようふく』になったと落ち込んでいるウィンキーを連れて、ウェンディに会いに行きました!」

 

ああ、と蓮が納得の声を出した。「2人まとめて雇ってくれるのはホグワーツだってウェンディが言ったのね?」

 

「さようでございます! ウェンディがドビーとウィンキーを校長室に連れて行きました! そしてダンブルドア校長先生に紹介なさいました! 『ようふく』なんだからお給料を払ってくださいと言いました!」

 

蓮が顔を覆って「自由過ぎて申し訳ない」と呟いた。

 

「それでウィンキーは?」

 

ハーマイオニーが尋ねると、ドビーが少し迷って「ウィンキーはまだ『ようふく』になって自由になったことを受け入れられないのでございます」と呟いた。

 

「ここにはいないの?」

「いいえ! ただいま連れて参ります!」

 

駆け出したドビーの背中を見送りながら、蓮が「無慈悲のグレンジャー、普通の『ようふく』にされたハウスエルフの調査が出来るわよ」と囁いた。

 

「グレンジャーのリストの1番最初に掲載するのがウィンキーの名前よ!」

 

 

 

 

 

「そんなにフラーと行きたいなら、フラーにきちんと申し込んだらいいと思うわ」

「なんでそうなるんだ。俺は君と行くつもりで」

「わたくしはもうフラーにオーケーしたの。断るわけにはいきません」

「頼むよ、レン。俺を1人でパーティに行かせるのかい?」

「誰か誘えばいいでしょう? みんなどうしてパーティのパートナーのことばかり言うの?」

 

そんな会話を背後に聞きながら、ハーマイオニーはウィンキーの様子に目を瞠った。べろべろに酔い潰れている。

 

「ウィンキー、お酒を飲んでいるの?」

「バタービールでございます、お嬢さま」

「バタービール? バタービールで酔っ払うかしら?」

「ハウスエルフには十分に強いお酒でございます。毎日6本は飲みますから、夕方にはもうこの通りなのでございます」

 

ウィンキーの代わりにドビーが答えている。

 

「ウィンキーはどうしてこんなに気落ちしているの? お酒に頼らなきゃいけないほど?」

「ウィンキーはウェンディやドビーと違って、自由を求めていないのに『ようふく』になったからです。多くのハウスエルフに取って『ようふく』は恥辱ですから」

「あたしは立派なしもべさんでした!」

 

おいおいと泣き始めたウィンキーにかける言葉が見つからない。

 

「だから、フラーより先に誘えば良かっただけのことでしょう!」

 

蓮が背後で苛立った声を上げた。

 

「フラーと先に約束したの。だからフラーからキャンセルされない限りフラーと行くわ」

「フラーは女の子だろ?」

「パーティのパートナーが同性じゃいけないなんて聞いたことないわ。それにね、ジョージ、フラーは代表選手よ。代表選手のパートナーがもう決まったと報告しているはずだわ。わたくしから断ることは出来ないの」

「あんまり早く誘うのはガツガツしてるみたいでみっともないじゃないか。少し待つぐらいしてくれてもいいだろ?」

 

お2人さん? とハーマイオニーが振り返った。「わたしは今、ウィンキーと大事な話をしているの。痴話喧嘩ならよそでやって」

 

 

 

 

 

「ウィンキーを見てわかったでしょう?」

 

部屋に戻ると蓮が溜息と共にそう吐き出した。

 

「そうね。少し方法を変える必要があることは理解したわ」

「いきなり『ようふく』にするのは、ウィンキーみたいなハウスエルフを増やすことになる。そんなことを望んでいるわけじゃないでしょう?」

 

もちろんよ、とハーマイオニーは答えた。「でも、ドビーがホグワーツで働き始めたというのは彼らにとっては幸運だと思うの。自由になったハウスエルフを目の当たりにするのは、彼らの意識改革に良い影響を与えるはずよ」

 

疲れたように、蓮がベッドに転がった。

 

「レン?」

「ジョージが何を考えているのか、全然わからない」

 

今度はハーマイオニーが溜息をつく番だ。

 

「あなたとクリスマス・パーティに出たかったのよ。あなたは?」

「別に誰かをパートナーに決めなきゃいけないとは思わなかったわ。フラーは代表選手だから体裁を整える必要があるけれど、わたくしたちはその他大勢だもの。適当にドレスアップして、ご馳走食べて、踊ったりお喋りしたりして終わりでしょう?」

 

ハーマイオニーは再び溜息をつく。

 

「別にフラーとパートナーになってパーティに出ても、ジョージとお喋りしたり、ダンスしたり、出来ない訳じゃないわ」

「確かにそれはそうだけど」

「デートしてるんだから、パーティのパートナーになるのは当たり前だって言われても困るの。マダム・マクシームにもフラーにも協力的な態度を見せなきゃいけないんだから」

 

それはハーマイオニーも重々承知のことだ。

もしかしたらジョージと蓮は住む世界が違い過ぎるのかもしれない、とふとハーマイオニーは考えた。今までは表面化していなかった問題だ。蓮の背負っている背景をジョージが理解しない限り、こういう諍いは続きそうだ。

 

「みんなわたくしとジョージが付き合ってるって言わせたいみたいだけれど」

「・・・一応気づいてはいたのね」

「ジニーなんて、結婚の話まで持ち出してきたわ」

 

ハーマイオニーは苦笑した。

 

「さすがに気が早いわね」

「ジョージのことが好きじゃないとは言わない。でも、ジョージはジョージで先々にしたいことがあるでしょうし、わたくしだって、今はホグワーツの学生でいられるけれど、先のことはわからないの。ホグワーツの学生の間、たまにデートする関係がしばらく続けばいいとは思うわ。でもその先のことなんて考えられるわけないじゃない。ジョージに理解してもらうためには、家族の歴史まで話さなきゃいけなくなるわ。そんなことまで今の時点で明かさなきゃいけない? そうじゃなきゃお付き合い出来ない?」

 

ハーマイオニーは黙って首を振った。

 

「去年もそうだったわ。ホグズミードホグズミードって。わたくしは、ジョージと一緒にいる時間は大事にしてた。今だって、そうしてる。フラーとの約束があるから、ジョギングは2人だけというわけにはいかないけれど、厨房でお喋りしたり、今年こそホグズミードに行ったり。でもジョージは他の人と同じようなお付き合いでなきゃ満足出来ない。わたくしは、いつもそれに言い訳してばかり。長く続くわけがないわ。一時的なお付き合いしかしないボーイフレンドに家族の歴史まで話さなきゃいけないとは、わたくしは思わない」

 

それはウィーズリー家の兄弟の習性だ、とハーマイオニーは思った。家族が多いせいで生活費のやりくりに苦労していることまで隠さない、開放的なウィーズリー家で育った兄弟は、極めて標準的な魔法族だ。だから、物事をひどく単純に受け止める。将来を共にするぐらいに真剣なお付き合いにならなければ明かしたくない背景があるということを想像しない。

 

「レン、話してくれてありがとう。あなたの気持ちは、わたしはよくわかったわ。でも、出来ればジョージには、いつか機会があったら言ってあげて。ロンもそうだけど、あの人たち、なんでもオープンな家庭で育ったから、言われなきゃわからないことがたくさんあるのよ」


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