クリスマスの朝が来た。
ハーマイオニーもパーバティも早くから目を覚まし、クリスマスプレゼントの包みを(蓮を起こさないように)開けていた。
「ね、ハーマイオニー。レンはジョージと行かなくていいの? それにダンスは男性パートしか練習してないけど」
小麦色の肌を更に引き立てる鮮やかな色のサリーに合わせる重ね布が家族から送られてきたパーバティが、サリータイプのドレスローブにそれを合わせながら、ハーマイオニーに尋ねる。ハーマイオニーは苦笑して「レンのパートナーは、ボーバトンのフラーなの。親戚だから、下手に男の子と出席するより安心だったんでしょうね。それもジョージの前で申し込まれたの。ジョージは驚きのあまり、その場で何も言えなかったみたいだから、仕方ないわ」と答えた。
「レンって鈍いわよね」
「そうね。それに、日本で育ったから、パーティのパートナーの意味もあんまりよくわかってないの。男装することだって、ハロウィンの仮装と一緒なんて言ってるし。ご家族も過保護というか、変な虫がつくぐらいならまだ男の子みたいな孫でいて欲しいみたいね。でもジョージもジョージよ。ホグズミードに一緒に出かけるとか、パーティのパートナーになるとか、形にはこだわるけど、自分の気持ちをきちんと打ち明けてないの。それじゃレンには伝わらないわ」
パーバティは「つくづく進展しない組み合わせね」と溜息をついた。
「そう思うでしょう? それに、あなたもこの前感じなかった? レンって女性への褒め言葉がすらすら出てくるじゃない?」
「ああ、あれね。オリエンタルな美女とか華やかな魅力とか」
ハーマイオニーは頷いた。「たぶん、ご家族がそういう言葉を惜しまない方なんだと思うわ。フランス人と結婚したおじいさまは特に。しかもマートルでしょう? レンって、たぶん自分が人間にモテてることを知らないわよ」
「ああ・・・なんとなくわかる。2年生のときのバレンタインなんて、ほとんど嫌がらせみたいな扱いだったものね。ところで、ハーマイオニー、あなたは平気なの? クラムのパートナーなんて。絶対スリザリンあたりから嫌がらせされると思うんだけど、どうしてオーケーしちゃったの?」
「ちょっとぐらっとくる申し込みだったから」
「どんな?」
パーバティの目が好奇心に輝いた。
「誰にも言わない?」
「言わないわ!」
「図書館で跪いて申し込まれたの」
あちゃあ、とパーバティが顔を押さえた。「それじゃロンはかなわないわね」
「どうしてロンが出てくるのよ?」
「ハリーとロンがしつこいの。あなたとレンが誰とパーティに行くのかって」
「4年目にしてやっとわたしたちを女の子だと気付いたくせに」
「身近過ぎて意識出来なかったのよ。少しはロンと踊ってあげたら?」
「ちゃんとダンスを申し込んできたらね」
むう、と呻きながら、やっと蓮が目を覚ました。
「モーニン、王子さま。プレゼントが届いてるわよ」
「・・・ああ、クリスマスか」
これだもの、とハーマイオニーはパーバティに向かって肩を竦めた。「朴念仁にも程があるわ」
ハーマイオニーのまっすぐにならない髪を「スリーク・イージーの直毛薬」でまっすぐ艶やかにして、パーバティがそれを結い上げる間に、蓮は夏に仕立てた男性用のドレスローブに着替えた。ブラックタイの代わりに、首にはシルバーグレーのシルクのスカーフ・タイを巻き、鏡を睨みながら、整髪料を使って普段のサラサラのショートヘアに少し癖をつけて整えた。
「ハリーよりカッコ良くなっちゃったわよ、レン」
「でも、フラーはヒールのある靴だろうから、きっとフラーのほうが背が高く見える」
パーバティの言葉に、蓮は不満そうに答えた。
ハーマイオニーがうっすらとメイクをすると蓮は大袈裟に褒めた。
「最高。クラムがあなたをブルガリアに拉致しないように見張らなきゃいけないわ」
「褒め過ぎよ。スリーク・イージーの直毛薬をあんなに使っちゃったわ」
「ハリーの金庫に財産が増えたわね」
蓮の言葉にハーマイオニーは首を傾げた。「なぜハリーの金庫に?」
「スリーク・イージーの直毛薬の販売を始めたのは、フレモント・ポッター。ハリーのおじいさまよ。会社は引退するときに別の方に譲渡なさったけれど、株式は財産としてポッター家に残してあるはずだわ」
なるほど、とハーマイオニーは苦笑した。「だったら、わたしはこれからスリーク・イージーの直毛薬を使うときに自分を偽る罪悪感を帳消しに出来るわ。『わたしは自分を偽るのではなくハリーの金庫に貢献している』ってね」
ふざけてハーマイオニーとパーバティが蓮の両腕にそれぞれ捕まって談話室に下りて行くと、ドレスローブを着たネビルがぽかんと口を開けた。
「き、君たち、すごくきれいだ。レンはカッコいい」
「ありがとう、ネビル。ハリーはまだ?」
「さっきまで雪合戦してたんだ。今急いで着替えてるよ」
パーバティが溜息をつき、ハーマイオニーと蓮は「本当にごめんなさい、パーバティ」と謝った。パーティでエスコート役が女の子を待たせるなんて。ネビルの爪の垢を3倍ぐらいに濃縮して飲むべきだ。
「いいの。予想はしてたから。あなたたちは先に行って」
「ごめんね、パーバティ」
パーバティに謝りながら談話室を出ると、ハーマイオニーは蓮の左腕に掴まって歩いた。
「本当にハリーったら」
「相手をパーバティに頼んで本当に良かったわ。他の女の子なら許してくれなかったかも」
「あなたも急がなきゃ。ボーバトンの馬車まで行くんでしょう?」
「あなたをクラムに引き渡してからね」
階段を下りていくと、玄関ホールに真紅のスタンドカラーの正装をしたクラムが立っていた。ハーマイオニーの姿に表情を輝かせたが、すぐに隣の蓮に気づき濃い眉を寄せる。たぶん男子がハーマイオニーをここまでエスコートしてきたと勘違いしたのだろう。
「ミスタ・クラム、ハーマイオニーをよろしくお願いします」
蓮は左腕からハーマイオニーの右手を離し、クラムに差し出した。クラムはハーマイオニーの手を受け取りながら、驚きに目を見開いた。
「あなたは、ミス・ディミ」
「ウィンストン。諸般の事情がありまして。じゃ、ハーマイオニー、また後で」
「急いで迎えに行くのよ」
「わかってる」
背中越しに手を振り、蓮は小走りに玄関ホールを出て行った。
「彼女は」
「マドモワゼル・デラクールをエスコートすることになっています。さ、代表選手の控え室に行きましょう。ここはみんなが待ち合わせする場所ですから」
蓮がフラーをエスコートして玄関ホールに戻ってきたときが、待ち合わせのピークだった。
シルバーグレーのサテンのパーティローブを着たフラーは輝くばかりだが、その彼女をエスコートしている蓮にも注目が集まった。
『堂々となさい、レン。あなたは男子の中で1番美しいわ』
『男子の中で美しくてもまったく自慢にはならないのよ、フラー』
パドマを放ってコソコソと階段の手すりに隠れるロンに気付いたが、知らない素振りで蓮はフラーに左腕を差し出した。
『マドモワゼル・デラクール、代表選手の控え室へ参りましょう』
そのとき、スリザリンの一群が地下から階段を上がって現れた。先頭のマルフォイが、左腕にパンジー・パーキンソンをぶら下げて、ぽかんと蓮の姿を目で追っている。
パーバティが、同じく口を開けっぱなしのハリーの耳に「口を閉じなさい」と囁いた。「レンたちについていかなきゃ」
「あ、ああ、ロンは」
「パドマに任せて。代表選手の控え室にまでロンが一緒に行けるわけじゃないのよ」
「あ、うん、そうか、そうだね」
ぎこちなく歩くハリーが、前を歩く蓮に「ハーマイオニーはどこ?」と尋ねたが、蓮はフラーに微笑みかける合間に「あとで」と小さく囁くだけだった。
「代表選手たちは全員揃いましたね」と小部屋でマクゴナガル先生が言った。ハリーは、クラムの隣のブルーのローブを着た、髪がボサボサでないハーマイオニーを見て、あんぐりと口を開けている。
パーバティが、パクンと両手でその口を閉じた。
「今、他の生徒たちが入場しています。全員の入場が終わったら、代表選手とパートナーの入場です。あなたがたの席は大広間の一番奥の丸テーブルになります」
蓮はハーマイオニーに目配せをした。どうやらクラムが代表選手の先頭らしいので、緊張しないようにという意味だったのだが、フラーがその目を塞いだ。
「・・・フラー?」
『アーマイオニーばかり見るのはダメよ、レン。あなたは今夜はわたしのパートナー。それにあなたはまだわたしを褒めていないわ。後ろの坊やにお手本を見せるためにも英語で褒めなさい』
「フラー・・・あなたはいつでもすごくきれいだけれど、今日の輝きはひとしおだわ。どんなクリスタルもあなたの輝きの前では色褪せてしまう」
『よろしい』
その後ろでハリーがハッと気付いたように「あ、あの、パーバティ。君、君はすごく・・・えーと、素敵だ」と口にした。パーバティは溜息をつき「そうね、ハリー。レンの真似をしていれば間違いはないわ」と答えた。
大広間への扉が開いた。
割れんばかりの拍手の中、堂々とした体躯のクラムがハーマイオニーの腕を取り、ゆったりと進み出る。
クラムの連れている女の子が「あのハーマイオニー・グレンジャー」だと気付いた男子たちが呆然とし、ハーマイオニーと親しい女子が「あらハーマイオニーはその気になればすごく可愛いのよ。滅多にお洒落しないだけ」となぜか自慢げに言うのが聞こえた。
その後ろ、しばらく間を空けて、男子にしては華奢な体格だがフラーと並んで遜色のない蓮が、やはりそっとフラーの手を取り、優雅に歩き出す。がっしりしたクラムと対照的に、手足の長い、ほっそりしたフラーと蓮の組み合わせは実に優美に見えた。血縁があるせいか、やはりどことなく似通った冷たい美貌の姉弟のようで、浮ついたカップルというより貴族のデビュタントを想起させる。
足がもつれかけたハリーは、パーバティに引っ張られるように、カチコチになって大広間の注目の中を進んだ。「ちゃんとレンをお手本にして!」とパーバティが小声で叱った。
その後ろからは、互いに見つめ合うようにセドリックとチョウが入場する。
蓮は、途中でロンがぽかんと口を開けたままハーマイオニーの姿を目で追っているのを見つけたが、背後のハリーが「キョロキョロしない!」とパーバティに小声で叱られているのを聞き、顔を引き締めた。
『出来るだけ、わたしと踊るという約束を覚えてる?』
会食も終わりに近づき、デザートが出てくるとフラーがそんなことを言った。
『もちろん。そもそもね、フラー。わたくし、こんな格好だもの。あなた以外の誰と踊るの?』
フラーは蓮の頭から、椅子に座った腰までをじっと眺め『その格好に怯まずに申し込んでくるボーイフレンドがいたら1曲ぐらいは譲ってあげるわ』と言った。
デザートが終わり、ダンブルドアが立ち上がると、生徒たちも全員立ち上がった。ダンブルドアの杖の一振りで、テーブルは壁際に退き、中央に広いスペースが出来た。いよいよ「妖女シスターズ」の登場だ。
テーブルのランタンがいっせいに消えると、蓮はフラーに手を差し出して立ち上がった。
その傍らから「ハリー!」とパーバティが小声で叱るのが聞こえる。もうパーバティにどんなお礼をするべきか、蓮は本気で悩んでいる。パーティのパートナーというより、まるで子守だ。
「妖女シスターズ」がクラシックのワルツを軽やかにアレンジした曲を奏で始めると、蓮は煌々と照らされたダンスフロアにフラーの手を取り、進み出た。フラーのシルバーグレーのサテンのドレスローブは照明に映え、フラーの美しさを強調している。
『照明を計算してその衣装なのね?』
フラーの腰に手を当てて囁くと、フラーは『当然よ』と微笑んだ。
ハーマイオニーと蓮、そしてパーバティは練習の成果を発揮して優雅にワルツを踊りこなした。フロアの隅から隅まで満遍なく使って、おそらくマクゴナガル先生の言う「グリフィンドールの品格を貶めぬダンス」が出来たと思う。グリフィンドールに品格があるかどうかは甚だ疑問だが。
ハリーはパーバティに引き回されるショードッグのような有様だったが、たぶん努力の微かな痕跡はアピール出来たはずだ。パートナーがパーバティで本当に良かった。
テンポの速い曲になると、フレッドとアンジェリーナがフロアに突進してきて、激しいターンを含めた、とにかく元気過ぎるダンスを始めた。
突然蓮の腕が引かれ「これなら、僕と君が踊っても問題ないな」とジョージから持ち上げられた。
「ジョージ! わたくしはこんな格好なのよ」
「だからいいんじゃないか。派手に踊ろうぜ」
「1曲だーけよ」フラーの声にジョージはニヤっと笑い、蓮をぐるぐる振り回した。
「ジョージ、髪が乱れる」
「あとでフラーに撫でてもらえ」
フレッドとアンジェリーナ、ジョージと蓮の、運動神経をフル活用する激しいダンスについていけないハーマイオニーはクラムと一緒にテーブル席でひと休みすることにした。
ハリーとロンがぼんやり座っている席の隣に腰掛け「ハイ、どうしたの? もう休憩?」と声をかけた。
「あ、ああ。君も?」
ハリーがやっとのことで答えるとハーマイオニーは少し上気した顔を手で扇ぎながら「ええ。喉が渇いちゃって。今、ビクトールが飲み物を取りに行ってくれてるの」と応じた。
「・・・ビクトール?」
ロンが低い声を出した。
フロアでは曲に合わせて、ジョージが蓮をリフトし、蓮はドレス姿では絶対無理なほど大きく足を広げ、喝采を浴びている。
「君たちはいったい何を考えてるんだ。クラムもヴィーラもハリーの敵だ。君たちは敵と馴れ合ってるんだぞ」
「ダンスパーティのパートナーになることは試合とは関係ないわ。外国の魔法学校の生徒と親しむことも大会の大事な目的のひとつよ。わたしもレンも選手じゃないけど、だからこそ国際交流に努めてるの」
「へえ。その国際交流とやらは君が図書館にこもってる時にやったのかい? いつビッキーって呼ぶようになるんだろうな?」
なにそれ、とハーマイオニーが声を低めた。
『アーマイオニー?』
『フラー』
『ひと休みにはまだ早いわ。踊りましょう。レンとジョージのおかげで女の子同士や男の子同士で好きに踊れる雰囲気になったわ。ジョージと双子はパーティの雰囲気作りが上手いわね』
『本当に。いつもそうなの。でも、フラー、あなたはレンを取り返しに行くんでしょう?』
『もちろんよ。オグワーツで一番強くて美しいパートナーだもの』
フラーはハリーに「アリー・ポッター」と話しかけた。ハリーはフラーにぽかんと見惚れ、ロンは意地でもフラーの視界に入るまいとハリーの背中に隠れている。
「は、はい?」
「わたーしは、レンをイチバーン大切な人ーとして審査員にインショづけーる必要があーる。あなーたは、誰をイチバーン大切な人ーにするーの?」
「え? 審査員に?」
「ヒントーはここまーでよ。さ、じゃあアーマイオニー、レンを取り返ーしに行ーくわ」
「ええ、頑張って」
フラーの香水の残り香をふっと感じ、なぜだかハーマイオニーは少し惨めな気持ちになった。フラーは明らかに第2の課題を見据えた上で蓮をパートナーに選んだ。蓮はそう理解した上で受け入れて、さらにジョージとも派手に踊って、すっかりパーティの華だ。翻って自分はどうだろう。どうしてこんなに惨めな気持ちになるのだろう。
「ハーミーニー」
両手にバタービールを持ってきたクラムがハーマイオニーの隣に座り、ハリーに「やあ、ポッター」と話しかけた。
「あ、ああ。やあ、元気?」
「もちろん。美しいパートナーに一緒にいてもらえて、ゔぉくは幸せです」
「君ならどんな女の子でも選び放題なんだろうな」
「ゔぉくは、ハーミーニーしか目に入らない」
恥ずかしいのか照れ臭いのかわからないが、どうにも居心地の悪い気分でハーマイオニーは曖昧に微笑んだ。
そのとき、クラムの近くに数人のボーバトンの女の子がやってきた。ダンスの誘いらしい。「ビクトール、行って。わたしはここで休んでるから」
「でも、ハーミーニー」
「少し靴が合わないみたい。休んでいるわ」
クラムを送り出すと、ハリーの背中から出てきたロンが不機嫌そのものの声で言い出した。
「ハーマイオニー、図書館でハリーの弱点でも喋ったのか?」
ハーマイオニーの顔が怒りでさっと紅潮した。
「あの人、ハリーのことも課題のことも何も尋ねたりしないわ。そんな風に勘繰るのはやめて」
「ロン」
フロアから蓮がやってきた。ジニーが付き人よろしく、蓮に冷たいギリーウォーターを差し出す。「ありがとう、ジニー」
「レン、すっごくすっごく素敵」
「ありがとう。ジニーもネビルと楽しんで。それはそうと、ロン。あなたが認めようと認めまいと、ハーマイオニーにはハリーの友達という要素抜きでも十分に他の男の子の目を惹きつける魅力があるの。あなたが気付くのが馬鹿みたいに遅過ぎただけ。それ以上ハーマイオニーを責めるなら侮辱と見なすわよ」
「そもそも君たち2人とも!」
ロンが叫びかけたのをハリーが静かな声で止めた。「ロン。僕はハーマイオニーとレンが、クラムやフラーと踊ることはなんとも思わないよ。いつもよりきれいだしカッコいいとは思うけど」
立ち上がった蓮がハーマイオニーの手を優しく取って、やはり立ち上がらせた。
「そんなに不満なら、今度からハーマイオニーを一番にダンスに誘いなさい。最後の手段じゃなくて」
腰を支えるようにハーマイオニーを連れて、蓮はダンスフロアに戻った。
「レン」
「気にしないの。やきもちよ」
くるりとハーマイオニーをターンさせて、蓮が呟くと、クラムがハーマイオニーを受け止めた。蓮はフラーの方に向かい、ロジャー・デイビースの申し込みを断ったフラーの手を引いた。
ハリーは複雑な表情でダンスフロアとロンを見比べている。
「ハリー? わたしとパドマ、そろそろ踊りに行くけど構わない?」
「あ、ああ。構わないよ。面倒なことに付き合ってくれてありがとう」
「ロン、わたしはハーマイオニーとレンの言うとおりだと思うわ。クラムは、ハーマイオニーに会うために何度も図書館に通ったの。他に人がいないチャンスを見計らって、跪いて申し込んだのよ。そんなことされたら、断るわけにいかないわ」
「ハリーの敵だぞ。どんな風に騙されたって、断るべきだったんだ!」
「ロン!」
パーバティは呆れ顔で「クリスマス・パーティに敵味方を持ち込むのはたぶんあなた1人よ」と言い残してフロアに出て行った。
『レン、あなたのお友達のジョージを見て』
フラーが蓮の背後を視線で示した。少し体の向きを変えて、目だけで探す。
『審査員の1人じゃない? バグマン』
『ああ、本当だわ』
ジョージとフレッドがルード・バグマンに詰め寄っている。
『それにもう1人の審査員を見かけないわ。えーと、クラウチ』
『審査員の顔なんかよく覚えてるわね』
『ジョージともう1人、バグマンに何か強い要求をしているみたい』
『賭けの取り立てよ。馬鹿なんだから』
『バグマンとジョージが賭けをした?』
『そう。卒業後の計画のために貯めていたお金を全額ね』
フラーが『それは良くないわね。バグマンはゴブリンの間で評判が悪いの』と囁いた。
「え?」
『わたし、サマーホリデイに何度かイギリスのグリンゴッツに行ったわ。就職のためのエントリーシートを出したり、見学したり。そのときにゴブリンたちが、賭けの配当を払わないって悪口言ってるのがルドヴィッチ・バグマンだったから、よく覚えてるの』
蓮は溜息をついた。
『ゴブリンにさえ賭けの配当を払わないんじゃ、あの人、もうすっからかんなんじゃない。ジョージたちにおこぼれも来るわけないわ』
『悪い相手と賭けをしたわね。イギリス人は賭け事が好き過ぎる』
『おっしゃる通りよ』
『たぶんあの人、この大会ではアリーに賭けているわ』
少し体を離して、蓮はフラーを見つめた。
『ちゃんと踊って』
『あ、ごめんなさい。バグマンがハリーに?』
『第1の課題のとき、アリーだけを呼び出して手助けしたいと言ったの。アリーはびっくりして断っていたけど』
蓮はしばらく黙って踊っていた。
『・・・フラー、本当に申し訳ないわ。主催者がそんな態度だなんて』
『別に構わないわ。第1の課題を見たでしょう? 誰がどんな入れ知恵をしたって、実際に戦うとなったら役に立たない。頼れるのは自分だけ。こういう試合は楽しいわ』
フラーの言い草に蓮は思わず苦笑した。
『あなたも十分に危険が好き過ぎる』
『危険が好きなわけじゃないわ。自分の強さを実感するのが好きなの』
クラムと2人で、さっきの席から離れたテーブルに座っていると、マダム・マクシームをエスコートしながら、ハグリッドが庭に出ていくのが見えた。
「あの校長は、うぉぉきいです」
「ご立派な体格で優雅でいらっしゃいますから、何をなさっても目立ちますね」
「半巨人、だと思った、ことは?」
まさか、とハーマイオニーはクラムに微笑んだ。「仮にそうだとしたら、ボーバトン・アカデミーの校長として認められるまでには、たいへんな努力をなさったことでしょう。尊敬すべき方だと思います」
「ハーミーニー、あなたは、巨人のこと、を知らない。フランス人は、実力主義、とか言って、他種族、を受け入れることが、魔法族の、発展などと、言いますが、ゔぉくはそうは思いません」
「わたしはまだ、魔法界のことに通じていませんから、意見は控えますが、種族ごとに排斥し合うご意見は、パーティの場には相応しくないのでは?」
クラムはハーマイオニーを見つめ「失礼しました」と素直に非を認めた。