サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音   作:杉浦 渓

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第27章 骨肉そして血

ドサッと草の上に投げ出され、蓮はすぐに杖を抜くとハリーの足にエピスキーをかけた。応急処置にしかならないが、多少はマシだろう。

 

「ハリー、すぐ起きて杖を構えなさい」

 

蓮は静かに言った。ハリーがズレた眼鏡をかけ直し、もぞもぞ動く気配を背後に感じながら、杖明かりで周りを見回す。

墓地だ。

 

「エドワード・ヒース、愛すべき故郷、リトル・ハングルトンに父祖とともに眠る」手近な墓石の墓碑の文章を呟いて、眉をひそめた。「リトル・ハングルトン?」

 

「レン、ここは、どこなの?」

「変態が受精卵として発生した村よ」

 

蓮はキリっと奥歯を鳴らした。

 

「・・・君、僕がマグルのカリキュラムなんか受けてないって知ってるだろ? もう少しわかりやすく。まず変態って誰だい?」

「そんな説明をしている暇はないの」

 

賢明な判断だ、と甲高い声だけが響いた。

小柄なフード付きのマントをすっぽりかぶって顔を隠した人物が、何かを抱えた状態でゆっくり近づいてくるのが月明かりに見えた。

 

ハリーが額を押さえて呻き、がくりと膝を折った。

 

「・・・テール、余計な奴は殺」

「殺してもいいけれど、菊池柊子があなたを100回死ぬまで斬り刻むわよ、トム」

「貴様は!」

 

蓮はハリーをかばうように前に立った。

 

「リトル・ハングルトン村ね。肉体を持たない霞のような状態だと、藁にも縋りたいの、トム? 見下げ果てたマグルの父親とか?」

「・・・貴様は何を知っているのだ!」

「別に何も。ああ、あなたの父親がろくでなしのマンドレイクみたいに下半身の節操がなかったことは聞いているわ」

 

こうなっては簡単に殺すわけにはいかぬ、と小柄な男が抱えた包みから呻くような声が聞こえた。「奴らを予定通りに縛りあげるのだ、ワームテールよ」

 

「ワームテール? 貴様はワームテールなのか!」

 

ハリーが叫んで杖を構えたが、包みから放たれた光線がハリーを拘束した。そしてさらに「ステューピファイ!」と杖らしきものが動き、ハリーはがくりと頭を垂れた。

 

「ハ・・・ワームテール? ああ、鼠ね」

 

吐き捨てるような蓮の声に、ワームテールの肩がビクッと動く。

 

「何をしている、ワームテール! 急げ!」

 

その時、優勝杯が淡く光を放った。

 

「なっ」

 

さすがに蓮が顔色を変えた。

ワームテールの腕の中で「くくく」とくぐもった笑いが零れる。

 

「移動キーの作動時間が切れたようだ。残念だったな、小娘。減らず口を叩く前に脱出するべきだった」

 

淡く光った優勝杯が消えた。

 

「貴様らを生きてここから帰すわけでもないのだ、優勝杯は正しき優勝者に返さねばな。ヴォルデモート卿は盗っ人ではない」

 

ワームテールが石の台座の上に恭しく包みを据えると、ハリーにじわじわと歩み寄る。蓮は急いで耳を澄ました。なにか脱出する方法を探さなければならない。

 

「どうした、いつもの無礼さはダンブルドアの助けがあるとわかっていたからか? ん?」

「黙れ、トム。わたくしは今忙しい」

「ほう、俺様を殺す方法でも考えているのか?」

「・・・わたくしの祖母もマクゴナガル先生も、あなたをゴキブリみたいな生き物だと言っているわ。叩いても叩いても減らない気色の悪い生き物だと。そういう生き物を殺すのは、正義漢気取りのダンブルドアやハリーみたいなハウスエルフの仕事であって、わたくしの仕事ではないの」

 

臆病者め! と嘲笑の声が上がる。その間にワームテールがハリーを墓石のひとつに縛りつけていくのが見えた。

 

「臆病者、大いに結構。それでトム、いよいよ困窮して、恥ずべきマグルの父親の遺産を相続する決意をしたってわけ? そうでしょうね。マグルのリドル家は、マグル界でも大した階級ではないけれど、成金だから財産だけはたっぷりあるわ。いえ、あったわ」

「俺様がマグルの金に手をつけるとでも思うのか! 俺様の復活の暁には、魔法界の名家がこぞって俺様を歓迎するとわかっているのに、その必要がどこにある!」

 

蓮は呆れて肩を竦めた。

 

「・・・盗っ人ではないかもしれないけれど、それって普通は強請りたかりの領域よ。道端のホームレスのほうが脅迫をしないだけ、まだまとも。ところで臆病者といえば」と蓮は話題を変えた。「なぜまだわたくしを殺さないの?」

 

「なに?」

「このお喋りの暇にわたくしを殺せばいいのに」

「お互い様だろう」

 

言ったでしょうトム、と蓮はうんざりした声を出した。「今あなたを殺すのは無駄だということぐらい知っているわ」

 

「誰に聞いた!」

 

聞いちゃいないわよ、と心外な声を出した。「聞かなくても、わたくしの灰色の脳細胞が働いたってわけ。あ、灰色の脳細胞は名探偵エルキュール・ポワロとお揃いよ。クリスティぐらいは読んでいるでしょうね?」

 

「マグルのくだらん本など俺様が読むと思うのか! 御託は良いから、さっさと話せ!」

「・・・会話して楽しい知性の持ち合わせのない爺さんって、本当に手に負えないわ。いいでしょう。2年前にルシウス・マルフォイがちょっとした悪戯をしてね」

 

そう言うと、蓮はクスと笑って見せた。ワームテールがハリーを縛りつけようとしている墓石の前には大鍋が置かれている。墓に葬られているのは「トム・リドル」だと読み取ることが出来た。なるほど、と納得する。

 

「無実のルビウス・ハグリッドに罪を着せてホグワーツ特別功労賞を掠め取った盗っ人の、トム・マールヴォロ・リドルくんの日記帳をダイアゴン横丁で投げ捨ててねえ」

 

蓮は溜息交じりに、さらりとルシウス・マルフォイの不敬罪を暴露した。ちょっとだけ大袈裟に。ウェンディ仕込みの話術だ。

 

時間を稼ぐために、蓮は嘲弄するように話し続ける。「トム・リドル」の骨と、誰だか知らないが「エドワード・ヒース」の骨を入れ替えることに意識を集中する。地中で2人の骨がだいたい入れ替わればそれでいい。ちょっとぐらい混じっても問題ない。

 

「・・・な、なんだと!」

「たまたまホグワーツの新入生が拾って使うことにしたものだから、たいへんなことになったわ。このわたくしが、それこそハウスエルフのようにせっせと働いて、日記帳にバジリスクの毒を浸透させたの。おかげでマートルには愛されるし、知りたくもないトムくんの生態を見せつけられるし。もううんざり」

 

でもわたくしは賢い子だから? と、蓮は歌うように続ける。「臆病者のトムくんは、そういうものをあといくつか作ったのじゃないかと考えているわけ。今度はルシウス・マルフォイに預けたりしないことをお勧めするわよ。彼、あなたが目の前にいると信じていれば忠実かもしれないけれど、基本的にマルフォイ家は保身意識の強さと立ち回りの器用さが取り柄の一族なの。忠誠心を認められて地位を確立した一族ではないわ。保身の能力が高かったから、常に一定の地位を占めることが出来るぐらいにお上手なだけ。わたくしなら、マルフォイ家に命を預けたりはしないわ。いつ売られるかわからないのだもの。ボージンアンドバークスに、しょっちゅう闇の品物を下取りに出しているという噂よ」

 

ぐぬぬ、と小さな包みが唸った。「良かろう。俺様の復活の暁には、ルシウスには相応の機会を与えてやろうではないか」

 

「あ、復活するのね。父親の骨、しもべの肉、敵の血、だったかしら?」

「き、貴様! なぜそれを知っている!」

 

ウィンストン家の古い言い伝えよ、と蓮は肩を竦めた。「リトル・ハングルトン村のゴーント家を死滅するまで見張れ、っていう迷惑な言い伝え」

 

勝ち誇るようにトムらしきローブに包まれた塊が哄笑した。

 

「さすがはウィンストン家だな! わが祖ゴーントの一族を警戒していながら手出し出来なかったというわけか!」

「まあ、放っておいても死滅するだろうから、放っておいたのでしょうね。ホントに迷惑な祖先よ。面倒を先送りする悪い癖があるわ」

 

蓮は杖をホルスターに戻した。

 

「さっさと見せていただきたいわね。醜悪なホムンクルス生成の儀式を。いまさら抵抗はしないわ」

 

両手を挙げて、ニヤ、と笑った。

 

 

 

 

ハーマイオニー! と、ロンの呼ぶ声を背後に聞き流し、ハーマイオニーは観客席からの階段を駆け下りていった。

 

薄青く淡い光を放つ優勝杯だけが戻ってきたあと、ムーディが芝のピッチを後にして、それを確かめるようにしばらく間を空けた後でマクゴナガル先生が足早にピッチから出て行くのを見たら、もうじっとしてなんていられなかった。

 

今ホグワーツの中でハリーと蓮の行き先を知っているのはきっとムーディだけなのだから。

 

あれはやはりムーディではない、とハーマイオニーは今や確信している。バーテミウス・クラウチ・ジュニアだ。

たったいま、来賓席からピッチの代表選手の傍らに来ることを許された家族の中で、元闇祓いだったグランパは、もちろんフラーのことは実際の血縁があるグラニーに肩を抱く役を譲ったにせよ、必要以上に長くカルカロフと握手してからというもの、カルカロフにぴったり貼り付いて離れなかった。衆人環視の中で許されるギリギリを僅かに越えた線でカルカロフの動きを監視している。

あれが元死喰い人に対する元闇祓いの態度ならば、今このときに現場を離れるムーディの態度は明らかに異常だ。

 

校舎に入るとハーマイオニーはスカートの下から杖を取り出した。

急ぐ必要はない。彼に許された場所は自分の部屋だけだ。マクゴナガル先生も先に向かっている。

ハーマイオニーは慎重に闇の魔術に対する防衛術教授の私室に向かって歩き出した。頭の中でいくつかの対人戦闘の呪文を思い出しながら。

 

 

 

 

 

うわあ、と真新しい墓石に縛りつけられた蓮は心底からハリーを気の毒に思った。

 

大鍋から立ち上がったトム・マールヴォロ・リドルの全裸を正面から見せつけられたなんて。

 

ゆっくりと頭を振り、ハリーのトラウマにならないことを祈ったとき、ワームテールの叫び声に身を強張らせた。

 

「やめろ、ヴォルデモート!」

 

ハリーが、縛りつけられたトム・リドル・シニアの墓石の前で、縄を軋ませて暴れている。トムはワームテールの腕の内側の黒く焼けた闇の印に指を押し当てて、高く哄笑する。

 

「トムったら。お客さまをお招きする前にはパンツぐらいはきなさい? ママから教わらなかったの?」

 

やかましい! と喚いて、トムは杖先を軽く動かし、大鍋に入る前の自分を包んでいた黒い布を、体に纏った。パンツは省略したようだ。

 

「ハリーも喚くのはやめて。体力の無駄よ」

「レン! だってあいつが!」

 

死喰い人を呼び出すのにワームテールの闇の印を利用したのだとしたら、死喰い人がこの墓地に姿現しするのは確実だ。死喰い人の前でハリーを辱めるというのもありそうに思える。

 

トムに命じられたワームテールが杖を持ってハリーに近づく。

 

「ハリー!」

 

蓮はトムを睨みつけながら、いまさら白々しくも「わたくしのほうがハリーより命の価値は高いわよ。わたくしの代わりにハリーを解放して!」と叫んでみせた。

 

「ダメだ、レン! 僕の代わりに犠牲になるなんて!」

「泣かせることよ。だが、減らず口をさんざん叩いて俺様を侮辱しておきながら生きて戻れると思ったわけではあるまい? ワームテール、この忌々しい娘にも、ハリー・ポッターにも、俺様の復活を祝う集いの貴賓として御列席いただこうではないか」

「悪趣味にも程があるわ! こんの、ノーパンじじい!」

「やかましい! 貴様は後で俺様直々に切り刻んでやる!」

 

地上での姿現しを確実に出来る自信があれば、今すぐハリーの縄を切って彼を引っ掴んでホグズミードに姿現しするのが一番いいのだろうけれど、学校の敷地に入るのに手間取っている隙に死喰い人に後を追わせるだろう。ホグワーツの敷地内に確実に姿現しするならば、方法は一つしかない。

 

出来ればこちらの手の内は知られたくないのだけれど、と蓮は深い溜息をついた。

杖の秘密を知られる可能性も、特殊能力を推測される可能性も、どちらも避けたい。

 

知られても構わない手の内はどれだろう、と思ううちに次々と死喰い人の黒いローブが墓地に姿現しを始めた。

 

時間がない。

蓮は大きく息を吸うと「エクスペクト・パトローナム!」と叫んだ。

 

「なっ!」

「今すぐにホグワーツのミネルヴァ・マクゴナガルに伝言を! リトル・ハングルトンの墓地! 近くに小川がある!」

 

銀色のパトローナスが消えると、漆黒のローブを纏ったトムが、生白い蛇のようなぬめっとした顔を歪ませた。

 

「面白い。貴様は、そうだったのか。生まれつき杖無しで魔法を使えるというわけか。さすがは腐っても純血。実に優秀だ。世界の魔法使いや魔女を集めたとて、それほどの技が使える人間はほんの一握り、いや、ひとつまみだ」

 

だがまだ甘いな、とトムはせせら笑った。「まだ4年生だったか? 血筋正しいがゆえに、杖無しで魔法を使うという優れた才能に恵まれていても、まだ子供よ。無言の術を使うことは出来ぬ」

 

我が君、とひとりの死喰い人が進み出て膝をついた。

 

「クルーシオ!」

 

その仮面をかぶった長いプラチナブロンドの死喰い人に杖だけを向け、磔の呪文を唱えると「ルシウス、俺様はまだ貴様に発言を許しておらぬ」と呟いた。ルシウス・マルフォイは転げ回って苦悶の叫びを上げ続けている。

 

「クラッブ、ゴイル。噛みつかれぬよう、細心の注意を払って娘の口に布きれを詰め込み、呪文を唱えることが出来ぬようにせよ」

 

レン、と情けない声で呟くハリーを無視して、あえてジタバタと暴れて抵抗してみせた。

 

 

 

 

 

杖を構えて、ドカ! とドアを蹴り開けたとき、マクゴナガル先生はもうクラウチを椅子に縛り上げていた。

 

「グレンジャー! なんというドアの開け方です!」

「・・・ごめんなさい」

「わたくしを心配して来たつもりかもしれませんが、まだこの程度の若輩者に遅れは取りません」

 

ふんす、とマクゴナガル先生が鼻息を荒くし、杖を一振りすると、ムーディの姿をしたクラウチにきつく猿轡を噛ませた。猿轡を噛ませる魔法はいったいどうやって学ぶのか調べるべきだ、とハーマイオニーは感心した。

 

「さて、本物のアラスター・ムーディを探しなさい」

 

流れるようにこき使われている気がする。

 

その時、銀色のパトローナスが現れて、マクゴナガル先生の前に、きちんとお座りをした。よく躾けられたパトローナスだ、とハーマイオニーは溜息をついた。マクゴナガル先生に対しては躾が行き届いている時点で誰のパトローナスか一目瞭然というものだ。

 

「・・・ウィンストン?」

「『リトル・ハングルトンの墓地! 近くに小川がある!』」

「マクゴナガル先生!」

 

慌てるハーマイオニーを手で制し、マクゴナガル先生は「良いから、急いで本物のアラスターを探しなさい!」と厳しい声を出した。

 

「ですが、先生! レンたちの居場所が!」

「心配ありません。自分で帰れるそうです」

「は、はい?」

「今、そう言ったではありませんか。自分で帰れると」

 

マクゴナガル先生にジロッと睨まれて、ハーマイオニーは「あっ!」と叫びそうな口を両手で塞いだ。

 

「そもそもわたくし、リトル・ハングルトンなど知りませんから、助けに行きたくても行けないのですよ。残念だこと」

 

絶対嘘だ、と思いながらハーマイオニーは、部屋の隅の大きなトランクを杖でコツンと叩いた。

カチ、と鍵の外れる音が聞こえたのに、トランクの蓋が開かない。

 

「マクゴナガル先生、このトランク」

 

マクゴナガル先生は眉をひそめ、杖でコツコツと叩いてみた。

 

「・・・本物のマッド・アイ・ムーディなら、どんな妙な呪文を必要とするトランクを愛用していても驚きませんが・・・この愚か者が使っていたことを考えると奇妙ですね」

 

マクゴナガル先生が杖を振ると、椅子に縛り上げられたムーディのローブから鍵束が飛び出した。

 

「覚えておきなさい、グレンジャー。魔法とマグルの技術とを組み合わせると、それぞれは単純なものに過ぎずとも、組み合わせのパターンが増えることで、より複雑なセキュリティとなり得ます」

「はい」

 

そこへ、ダンブルドアとスネイプが駆け込んできたのだった。

 

 

 

 

 

「さあ、縄目を解け、ワームテール。そして、こやつの杖を返してやれ」

 

蓮はギリっと口の中の布を噛み締めながらハリーがトムの前に引っ立てられていくのを見つめていた。

 

これは賭けだ。

 

死の呪文のひと声でハリーを殺すつもりではないことに賭ける。

血を奪われ弱った未成年魔法使いを、これだけの死喰い人の前であっさり殺すのはつまらない、と考えることに賭ける。

ヴォルデモート卿復活の恐怖を、ヴォルデモート卿に失望を味合わせて享楽に耽っていた死喰い人たちに思い知らせてから殺すことに賭ける。

 

死喰い人たちの意識がハリーとトムに集中している中、額から汗を滲ませながら、蓮はひそかに自分を戒めている縄を解いていた。

しかし、縛られたままの姿勢を維持する。監視役があのクラッブとゴイルの父親ならば、多少縄が緩んでいても気づきはしないだろう。

 

ルシウス・マルフォイの裏切りを先に喋っておいて本当に良かった。

 

おそらく、ルシウス・マルフォイはあの場で蓮が無言呪文に長けていることを進言するつもりだったのだろう。

幸運なことに、ワームテールはそれほど多くのことは知らない。動物もどきのことだけだ。動物もどきと姿現しが無言で行なう術であることは誰でも知っているが、ドラコ・マルフォイにもダフネ・グリーングラスにも別の無言呪文を使ったことがある。ドラコ・マルフォイが父親にそのことを喋っていても不思議ではない。

 

杖無し・呪文無しで魔法を使いこなすことができると知られていたら、おそらく蓮を先に殺してからハリーを辱めることにしたはずだ。

 

このアドバンテージを最大限に利用しなければ、ハリーを連れてホグワーツに帰ることは出来ないのだ、と蓮は瞳を光らせた。

 

 

 

 

 

「ミス・グレンジャー、お使いを頼んでも良いかの?」

 

七重になったトランクの底に横たわる、気を失った本物のアラスター・ムーディを発見したダンブルドアは、マクゴナガル先生の報告を受けて、ハーマイオニーに向き直った。

 

「今からまっすぐに、良いかの、まっすぐにじゃ、まっすぐに校長室に伝言を伝えに行って欲しい。サー・ウィンストンに『ハリー・ポッター救出のために、リトル・ハングルトン村の墓地に闇祓いを向かわせて欲しい』と伝えるのじゃ。彼はまだ闇祓い局に信頼できる部下を幾人か持っておる。ミス・ウィンストンは自力で、おそらくは水中の姿現しという能力で帰るつもりじゃろう。しかし、なるべく人目につかぬほうが良い。場を撹乱する人員が必要じゃ」

 

はい、とハーマイオニーは頷いた。

 

「そしてもうひとつの伝言は、レディ・ウィンストンにじゃ。祖母君のほうのレディじゃ、良いな? 若いほうは今回は役に立たぬゆえ、駄犬の世話を怠るなと言えば良い。祖母君のレディ・ウィンストンはフラー・デラクール嬢と一緒じゃ、彼女たちに『リトル・ハングルトンの墓地近くには小川が流れておる』と伝えるのじゃ。湖は広い。確かハリーの泳ぎの能力は高くなかったでな。ミス・ウィンストンがハリーを連れて泳いで帰ることになる。あの試合の後で、広い湖を人1人を連れて泳ぐのは並大抵のことではない。救助が必要じゃ。ゴキブリゴソゴソ豆板を忘れるでないぞ」

 

ハーマイオニーは、ダンブルドアに背を押されて駆け出した。

 

「ハーマイオニー!」

 

玄関ホールを駆け抜けようとしたところをロンとジョージに呼び止められた。

 

「ごめんなさい、急ぐの!」

「待てよ!」

「急ぐんだってば!」

 

ジョージがハーマイオニーを担ぎ上げた。「行き先はどこだ?」

 

「校長室よ!」

「君の足より俺のほうが速い」

 

ジョージは階段を3段飛ばしで駆け上がった。「どうせレンのことなんだろ?」

 


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