禁書if ~あの日携帯を無くさなければ~   作:イシトモ

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14.小さな変化がもたらすもの

上条に光の羽が降り注ぐ直前。

 

神裂火織は固まっていた。

その光の羽の威力を知っていたがために、目の前の状況の悲惨さに足がすくんだ。

 

御坂美琴は動けなかった。

インデックスが何か呟いた瞬間から始まった強烈な目眩に、上条を見ているのが精一杯だった。

 

食蜂祈操は震えていた。

インデックスとの戦闘の開始と同時に御坂に守られる形でへたりこんでいた彼女は、直感的に感じた。

上条当麻が、死ぬ。

「いや」

力なく首を横に振る。

上条当麻が、死ぬ。

何もできない自分のせいで。

デッドロックに囲まれた屋上での記憶がフラッシュバックする。

様々な感情が、ごちゃ混ぜになり、爆発した。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

失いたくない。

失いたくない!

彼を、失いたくない!!

 

 

 

精神感応系能力者は、厳密には人間の脳内の水分を制御することで人の心を操る。

本来起きる現象はせいぜい顕微鏡クラスのものであり、肉眼で見えるような物理現象は起こせない。

 

しかしその常識を、彼女の想いが塗り替えた。

現象としては、フリーズドライに近かったのかもしれない。

空気中の水分を圧搾させて圧力を高めると同時に、対象の内部から一気に水の分子を抜き取る事で、渇いたスポンジのように物体の組成をミクロレベルで穴だらけにする現象。

ただ漠然と生物を乾いた紙粘土のようにボロボロに崩す魔の領域が、食蜂を中心に放たれた。

 

「痛っ!?」

辛うじて電磁バリアが残っていた御坂と、御坂を挟んで食蜂と反対側にいた上条とインデックスは無事だったが、

「…っ、ああああああああ!?」

神裂の右手がボロボロと崩れ去った。

 

その影響は人体に留まらず、部屋の中の家具を次々に炭化させていく。

そして最終的に、光の柱によって崩れかけていた天井を本格的に崩した。

上条へと降り注ぐ瓦礫。

光の羽が瓦礫を蒸発させ、自身も霧散する。

蒸発せずに残った瓦礫が一つ上条の後頭部に命中する。

上条が倒れ伏した。

 

 

この夜。

上条当麻は『生き延びた』。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…ここは…」

次の日目を覚ました上条の眼前には、見知らぬ真っ白い天井が広がっていた。

辺りを見渡すと、ベッドの横の椅子に腰かけた食蜂と目が合う。

「おはよぉ。ねぼすけさん」

その顔には、心の底からの安堵を湛えた柔らかな笑みが広がっていた。

 

その後、食蜂は上条が意識を失った後のことを聞かせてくれた。

上条が倒れてすぐ、なぜか救急車が来たこと。(偉そうな声の女の子から通報を受けたらしい)

ほぼ部屋が全損した上条のために、マンションを一室借りておいたこと。

特に衝撃を受けたのは、インデックスが神裂と共にイギリスへと戻ったことだった。

聖人である神裂に深手を与えるような存在の近くに禁書目録を置いておけないと「上」が判断したらしい。

「なんとか追手の誤解も解いたし、これからは魔術で再生した右手のリハビリをしながらあの子との仲を回復するんだ、って神裂さん言ってたわよぉ」

「…そうか」

神裂もインデックスも、幸せになって欲しいと思う。

 

「あ、それから神裂さんとインちゃんからあなたに伝言」

「なんて?」

「『直接顔を見せられなくて本当に申し訳ありません。この度は本当に有難うございました。いつかこの恩を返させていただきます』『ありがとう!お兄ちゃん!』ですってぇ」

「そういやあいつ俺の名前知らなかったな…」

 

そこまで上条に伝えて、食蜂急に黙り込んだ。

うつむいたその顔が赤い。

何度か口を開閉した後、言葉を発した。

「あ、あのね、上条さん。ずっと言いたかった事があるんだけど」

「すまない食蜂、先にいいか?」

上条が割り込んだ。

 

「え、うん、ど、どうぞぉ?」

裏返った声で返事する食蜂に、上条が言う。

 

「俺と、付き合ってくれないか?」

 

「……はい?」

 

数秒ほど機能停止してから茹で蛸のようになる食蜂。

上条が追い討ちする。

「意識が途切れる寸前、頭によぎったのはインデックスのことじゃなくてお前の泣き顔だった。あんな命のかかった正念場で俺が最期に思ったことが、お前を守りたいってことだった。気付いたんだ。お前が好きなんだよ」

食蜂に右手を差し出して。

「俺はこの通りよく怪我するから、何度も面倒かけると思う。実際付き合い始めたら、年の差で問題もあるかもしれない。経済面では正直お前が上だよ。でも、お前が好きなんだよ、どうしようもなく。…俺と、付き合ってくれないか?」

 

食蜂がその手をとる。

「わ、私、泣き虫だし運動神経最悪だし…」

「そこもかわいいじゃねえか。守りたくなる」

「私のこと嫌ってる人だって、沢山いるし…」

「誰だそいつら、ぶっとばしてやる」

「派閥のトップなんて気取って偉そうだし…」

「そんなことないし、人をまとめるなんて凄い能力だ」

 

上条が空いた左手で食蜂の頭を撫でる。

「お前にいくら欠点があっても、全部ひっくるめてお前が好きなんだよ。……返事を、聞かせてくれるか」

 

食蜂は、泣きながら満面の笑みを浮かべた。

「……はい!よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

上条の病室の前でドアを薄く開けて固まる少女がいた。

御坂である。

(…やっぱそうなるよね)

静かにドアを閉め、立ち去る御坂。

病院から出て、真夏の日差しが照らす街道を歩く。

「あーあ、短い初恋だったなぁ!」

涙で滲む瞳で空を見上げながら歩くその口は、しかし確かに笑っていた。

「先輩よりいい男、見つけてやるっ!」

 

寮に帰って同室の後輩女子に泣きながら抱きつき、大いに困惑させたのはまた別の話。

 

 




これにて旧約1巻編終了となります!
ここで更新をしばらくストップして、しっかり構想を練ってから続きを更新していくつもりです!

沢山のコメントと指摘、本当に有難うございます!
コメントチェックが日々の活力でした!

ではまた!



現状での結論
あの日携帯を無くさなければ、
上条さんに彼女ができた。

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