禁書if ~あの日携帯を無くさなければ~   作:イシトモ

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2.突然の非日常

「よぉ食蜂。元気か?」

「あら上条さん。そうねぇ…上々かしらぁ?」

二人は、第七学区の公園で再会していた。

真夜中の人造湖での再会から、すでに一ヶ月ほどが過ぎた。その間に発生した諸々のイベントを通して、プラマイゼロ、むしろマイナスだった食蜂の上条に対する好感度は、

 

(こんな所で出会えるなんて、やっぱり運命力が働いているのねぇ)

 

などとつい考えてしまう程度には高くなっていた。

「今日も暑いわねぇ。いつまで続くのかしらぁ」

「天気予報によればもうしばらく暑さは続くらしいぞ」

「そぅ… 嫌になっちゃうわねぇ…」

「まったくだ。あ、そうそう」

 

そんな食蜂にとって、

 

「ちょうどよかった。悪い。女の子へのプレゼント選ぶの手伝ってくんねぇか?」

 

その申し出には体が灰のようになるほどの威力があった。

 

 

 

 

 

「上条さんの言い方は紛らわしすぎるわぁ!!」

「だぁから悪かったって… つかそんな怒ることかな…?」

 

食蜂が灰から人間にもどるまで5分。女の子とは今日退院する以前人造湖で救った少女であり別に彼女がいる訳ではないことを説明して歩き出すまでさらに5分。

その間の彼女の様子を見た人がいれば、十中八九その気持ちに気付いたことだろう。

しかし鈍感少年上条は一切気づかず、頬を膨らませて歩く食蜂の後ろを付いていく。

 

「まったく…それでぇ?具体的には何を買うのぉ?」

「え、俺が決めるの?」

「当たり前でしょぉ。私はその子のこと知らないの。それにあなたが選ぶから意味があるんじゃない」

「そんなもんかぁ…」

 

丸々一分考え抜き、1つの答えを出す。

 

「指輪、とか…?」

「重すぎるわっっっっ!!」

上条の顔面にリモコンがクリーンヒットした。

 

 

 

 

「いぃ?こういう時は花束とかにしとくのが無難!!あんまり高価なもの贈ったらドン引かれるわよぉ!?」

「な、なるほど…」

花束を抱えた上条と並んで歩く食蜂。

 

花屋に入ってからも花言葉云々で色々と怒られ、だいぶ萎れた上条とは対照的に、彼と二人でショッピングという事実に彼女の顔色は明るい。

 

(それにしてもぉ…)

上条の横顔を眺めつつ、ぼんやりと考える。

(この人とは色々あったわねぇ…)

 

水浸しになった地下街で泳げないのを誤魔化すため、腕にしがみついて往来を闊歩したことがあった。

 

上条の素人催眠術の実験台になり、最終的に彼の頭を鞄でぶん殴ったこともあった。

 

自分のドジを見かねて、危なくなったら吹けと彼がくれたホイッスルを介して間接キスしたことさえある。

 

いかにも不健康そうなジュースを彼が買うのを止めさせるのは日常茶飯事だ。

 

その能力のせいで昔から親しい人のいなかった食蜂にとって、どの思い出もかけがえのないものである。

と、そこまで考えた所で、

 

ドン、と何かにぶつかった。

「きゃっ」

いつの間にか前を歩いていた上条が、立ち止まっていた。

「どうしたのぉ?」

そこで食蜂も異変に気付いた。

囲まれている。

いつしか辺りを歩いていた一般人の姿は無くなり、赤いライダースーツを着た集団が二人の周りに立っていた。

 

 

そして。

 

 

「「「…超能力者に死を」」」

 

 

平穏な日常は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は走っていた。

 

夜の学園都市の裏路地を、振り返る事無く駆け抜ける。少年に手を引かれ、今にも転びそうな少女の瞳は、その不安を示すかのように揺れていた。

 

「食蜂大丈夫か!?まだ走れるか!?」

「ま、まだなんとか… ていうか、わざわざ人気の無い路地の方に入る訳ぇ!?」

「あいつらの速度を考えれば、広い道の方が危ない!あれだけ素早ければ、逆に小回りは利かないはずだっ!!」

 

 

学園都市のレベル5の一角、食蜂操祈。

「その対象を殺す事」にのみ特化した装備を纏う少年グループ、デッドロック。時速200キロ以上の速度で地面に飽きたらず壁をも走行する集団が、その圧倒的な速度でもって食蜂の能力を避けながら、炸薬作動式のパイルバンカーを担いで迫り来る。

 

絶望的な状況とはこのことだ。

 

 

「このぉっ!!」

『気絶昏倒/該当人物を二四時間ほど昏倒させる』

苦し紛れに放った能力が、追っ手の一人に命中した。

しかし。

(無効化した!? スーツの制御をプログラムに切り替えでもしたのかしらぁ!?)

 

とにかく相性が悪かった。食蜂は能力の身に余る強力さを制御するため、リモコンを介してしか能力を発動できないよう"設定"している。

もとより高速で迫る大規模な集団には弱い上、能力自体を相手は無効化できるようだ。

対して目の前を走る少年は、異能の力をかき消す右手を持っているようだが、純粋な火器には効果を発揮しない。

 

(何か…何かないのぉ?)

 

上条がリモコンを食蜂の手からとって、後ろに投げる。

「ちょっとぉ!?」

頭部に不意討ちを受けバランスを崩した追っ手が、その速度を保ちながら地面に突っ込み、捨てられていた自転車やゴミ箱を巻き込んでいく。

突然閃光と爆発音が生じた。

 

「ジェットエンジンがイカれたのか!?なんつうピーキーな装備だ!!」

直後スーツ後部から不燃性ガスが吹き出す。

お陰で命はあるだろうが、大怪我は免れないだろう。

しかし味方の事故を見ても進軍は止まらない。

 

「「「超能力者に死を」」」

 

集団が迫る。

 

「くそっ!」

逃走劇は終わらない。

 

 

 

 

 

同じ頃。

「遅いわねえ。待ち合わせはここのはずなのにい」

待ち人を探すチョコレート色の髪の少女は、

「あら?」

 

道端に落ちた花束を見つけた。

 

「事件の匂いがするわねえ…」

彼女の名は蜜蟻愛愉。強度こそ弱いが食蜂と同じ系統の能力者である。

スマホを取り出しカメラのレンズを自分に向け右手で花束を掴み、

『物的読心/右手で触れた物質から二十分以内の記憶情報を抽出』

 

路地に駆け込む人影

殺到する謎の集団

銃声

 

「おやおやあ?なかなか物騒ねえ…」

しかし彼女は悩むこと無く路地へ踏み込む。

待ち人の行方も気掛かりだが、今は置いておく。

以前彼女は他人から命を救われた。

今度は、自分が誰かの命を救ってもいいではないか。

 

 

 

 

 

 

 

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