禁書if ~あの日携帯を無くさなければ~   作:イシトモ

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6.修道女との出会い

上条は夏休みを目前にして自宅のちゃぶ台の前に座り、宿題を消化していた。

「うぅ…もうだめだ…頭割れる…」

「ほら、泣き言言わないのぉ。全部終わったら、夢の自堕落生活よぉ!それにあなたが私に頼んだんじゃない。宿題終わらせるの手伝ってほしいって」

彼の真向かいに座り採点をしていた食蜂は、新しく取り出したノートに黙々と何かを書き綴っている。

 

 

 

 

7月1日。

夏休みに入る前に周囲より多めに配付された宿題の山を前に、俺の夏休みは潰えたと思っていた上条は、食蜂からの宿題を手伝おうかという提案に一も二もなく飛び付いた。

 

そして本日7月19日。

終業式を終え、食蜂の言い付け通り学生寮に直行した彼を待っていたのは、

「今日中に宿題終わらせるわよぉ!」

やる気全開の食蜂だった。

 

「いや待ち合わせ場所が俺の学生寮前な時点で嫌な予感はしたけども! ここ男子寮だから! 下手すると処罰されちゃうから!」

「大丈夫よぉ。いざとなったら記憶を改竄すればいいでしょぉ?」

「根本的な解決になってねぇ!」

 

粘る上条だったが、この会話を自室の玄関前で行っている時点でもはやアウトであることに気付き、しばし葛藤した後、食蜂を家に入れることにしたのだった。

 

なお、このやり取りを見ていた隣人である、上条の同級生の土御門がクラスの男子に密告し、異端審問会が開かれたのは別の話。

 

 

 

 

 

「いや確かに依頼したけど、まさか一日でやることになるとは思ってなかったから…」

「うふふ、はいこれ。特に難しい問題の解説よぉ。これがあれば、ほとんど地力で解けるはず。明日の朝、また確認にくるわねぇ」

「お…鬼…」

上条の家に押し掛けるという豪快な行動をとった食蜂だったが、門限破りは寮監が恐ろしく避けたいらしい。

荷物をまとめて立ち上がると、玄関の扉を開ける。

「今日はサンキュ。気をつけてな。送った方がいいか?」

「大丈夫。とにかく今は目の前の宿題に集中してぇ」

「了解。また明日」

「また明日ぁ」

そう言って、後ろ手に扉を占めた。

 

 

 

 

「さ、て、とぉ…」

 

手にした携帯が示す時間を見る食蜂の口元は引きつっている。

「ちょっとヤバい、かしらぁ…?」

門限が割と近くまで迫ってきていた。荷物をまとめる時間は決めていたものの、つい長居してしまったのである。

「どこかで足を確保しないとねぇ」

徐々に赤みを帯びる空を見上げ、走り出す。

 

 

 

「辛い…」

一人黙々と宿題を削っていた上条だったが、遂に限界が訪れようとしていた。

「つかこれ明日までとか絶対無理だろ…」

元より不真面目な学生である上条。そもそも夏休み初日から宿題をすること自体彼にとっては相当異質である。

 

気晴らしの意味も込めて難題解説ノート☆と丸文字で書かれた大学ノートをパラパラと捲っていると、ハラリとメモ用紙が落ちた。

「ん?」

何か書いてある。

 

『…もし明日までに全部終わってたら、何でも1つ言うこと聞いてあげるわぁ☆』

 

「…………マセガキめが」

作業効率が跳ね上がる。

 

 

 

 

「今頃気付いてるかしらぁ?」

早々にスタミナの切れた食蜂は、ゆっくり歩いていた。

最初は適当に車の運転手でも洗脳して足にしようと考えていたが、甘かった。そもそも総人口の大部分を学生が占める学園都市である。車がそもそも走っていなかった。

 

「どうしたものかしらねぇ…あら?」

路地裏から不意に出て来た少女と目が合った。

「御坂さんじゃない。どうしたのぉ?」

「あ、食蜂さん。いやぁ、ちょっとファミレスでナンパされちゃって。逃げたのにしつこく追いかけて来たから強めに嗜めてたとこ」

「相変わらずねぇ… でも、いいのぉ?」

「? 何が?」

食蜂は黙って御坂の腕時計を指差す。途端に顔を青くした御坂は、

「やばいわね…」

「やばいのよぉ…」

一瞬の沈黙。

 

「バスは?」

「ぎりぎり門限に間に合わない便ばかりよぉ」

「ヒッチハイク…」

「さっきから車通らないわねぇ…」

「黒子に電話を…」

「確か今ってジャッジメントの定期会合やってるはずよねぇ?」

「……」

「……」

「寮監、許してくれるといいわね…」

「期待しない方がいいと思うわぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

二人の女子中学生が全てを諦めた丁度その頃、彼女たちのすぐ近く、建物の屋根の上を駆け抜ける二つの人影があった。

「神裂!その位置情報は確かなんだろうな!?」

「えぇ!あの子の歩く教会からの反応は、確実にこの先にあります!」

「何としても捕まえるんだ!手遅れになる!」

 

 

 

 

 

夏休みを前に心を弾ませる少年少女をよそに、運命の歯車は回り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上条さぁん、生きてるぅ?」

 

7月20日。結局あの後寮監に発見され気絶に追い込まれた食蜂だったが、外が明るくなる頃には自室のベッドで目を覚まし、シャワーを浴びて寮を出てきた。

 

上条宅の冷蔵庫の残り物で何かご飯が作れるだろうかと考えながら、渡されていたスペアキーでこっそり入室する。

 

燃え尽きて真っ白になりちゃぶ台に突っ伏す上条に落ちていた毛布をかけると、宿題の点検に入る。

「あらすごぉい。全部終わってるのねぇ。…あのメモが効いたのかしらぁ?」

自分で言って赤面したが、件のメモが上条の目の前の壁にピン止めされているのを見てさらに赤くなった。

 

「う…うーん…」

「あら、目が覚めたぁ?」

「…すげぇ嫌な夢見た…」

「どんなぁ?」

「空から大量に数字と漢字とアルファベットが降ってきて圧死する夢…」

どうも相当精神をやられたようだ。

 

「ほらほら大丈夫!空から数字が降ってくるどころか今日は晴天!透き通るような青空よぉ!」

勢いよくカーテンを開く食蜂。しかし直後に停止し、目を見開く。そこには。

 

 

 

 

「…おなかへった」

銀髪のシスターがぶら下がっていた。

 

 

 

 

 

あまりにも突飛な現状に、食蜂の思考がフリーズする。

固まった食蜂に、ベランダにぶら下がった少女は、

「おなかへった、って言ってるんだよ?」

と、少しムッとしたように言う。

「…取り合えず、これでも食うか?」

いつの間にか食蜂の後ろに来ていた上条が、冷蔵庫から取り出したのであろうヤキソバパンを差し出す。

ひとまず事態を進めようと考えたのだろう。

そしてその行動に対する礼は、

「ありがとう。そしていただきます」

上条の腕ごとパンにかぶり付いた少女によって、感謝の言葉と激痛により果たされた。

 

 

 

 

 

 

「まったく…」

「右手大丈夫?ズキズキしない?」

「おぅ、大丈夫だよ」

腹が減ったと少女が騒ぐので、即席の野菜炒めを作ってやる上条。食蜂に手当てしてもらった右手が痛々しい。

左手で器用にフライパンを操る上条を横目に、食蜂が少女に質問する。

 

「えぇと…私の名前は食蜂操祈よぉ。あなたのお名前はぁ?」

「インデックスって言うんだよ!」

「偽名、かしらぁ…?」

「イギリス清教に属する教会の関係者なんだ。あ、あと魔法名はDedicatus545だね」

「え、うん、あら?」

困惑する食蜂。相当な電波系のようだ。

「あー、えっと、じゃあ、どうしてベランダに引っかかってたのぉ?」

「落ちたんだよ。ホントは屋上から屋上へ飛び移るつもりだったんだけど」

「…なんでまた、そんな危険な事を?」

「追われてたからね」

 

ピシリと、その場の空気が張り詰めた。

「飛び移る時に背中を撃たれちゃって。ゴメンね、落っこちて引っかかっちゃったみたい」

 

 

 

 

夏休み初日に出会った少女、インデックス。

彼女からは尋常でないトラブルの匂いがした。

 

 

 

 

 

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