青春と音楽と召喚獣   作:いくや

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 「夢みたあとで」

 これには不覚にも涙が……
 いろいろな思いが詰まった涙だと。
 本当に13年間もお疲れ様と言いたいです。

 
 はい。
 話のほうは、数十話前の伏線を回収しに入ります。
 こんな話あったかなと思われるかもしれませんが(苦笑)
 本当に最初の方にありますよ。
 入れるタイミングをすっかり失ってしまっていて、ここがいいやと思い入れました。

 では、どうぞ!!



#58 ホール!

 

 

 「ようっ。弘志」

 オレは商店街で突然後ろから声を掛けられた。何で1人で商店街にいたのかというのは割愛。

 その声に聞き覚えが無かったために、誰だろうと思いつつ振り向く。そこには、ギターを背負った小柄な男がいた。

 

 「………ああ!! 思い出した!! お前は丸山晶!!」

 そう。1年生の頃に軽音部と間違えて話しかけた相手だ。ここ1年、全然見かけなかったが外バンが忙しかったのだろうか。

 

 「覚えててくれたか。お前も軽音部に入って1年。あっという間に成長したようだな」

 「って、オレたちのこと見てたのかよ?」

 「もちろん。学内ライブするときは毎回聞きに行ってたさ」

 嬉しい限りだ。中学生時代から地元じゃ名を上げていたこの男が毎回聞いていたなんて。

 

 「あのときの話覚えているか?」

 「話?」

 「その様子じゃあまり覚えてないみたいだな。まあ、1年もすりゃ忘れるか。1回会ったきりじゃあな。その間にいろいろと活躍してくれたみたいでさ。合宿のときは俺も仰天したな」

 ああ。そっか。覗きのほうに参加してたんだっけ?

 

 「流れについて行ったら停学だもんな」

 「ははは………そういえば、話って?」

 危うく話が逸れるところだった。

 

 「ああ。そうそう。ライブあるときは見に来いって誘っただろ? それなのに、一回も誘えなかったからさ。たまたまお前を見つけて、今回がチャンスだと思ってな」

 「ライブ!?」

 「ああ。単独ライブ。ホール貸切1時間半」

 「凄すぎ!!」

 本当にお前タメか?

 

 「ってことで、来るか?」

 「行く行く!! いつあんの?」

 「明日」

 「話が急だな」

 「すまない……チケットは俺が手配する」

 「マジか!? 頼みがあるんだけど」

 「何?」

 「それ何枚まで出来る?」

 「軽音部のメンバーも連れてくるのか?」

 「ダメかな?」

 「構わん。毎回俺もメンバー連れて放課後ティータイムの演奏を聞いてるんだ。俺らのバンドとは対極にあるかもしれんが、刺激を受けるな」

 それは光栄です。よーぐるっぺ☆。

 

 「あ、梓ちゃん」

 「ヒロ君」

 視線の前の方に梓ちゃんが見えた。オレが晶と話していたからか、そこで立ち止まっててくれていたけど。ちょうどこういった話のときだ。一緒に参加してもらおう。

 因みに、今日商店街にやってきたというのも、梓ちゃんの買い物に付き合うということであった。いわゆるでえとの一種 ー 失礼。デートなのだろうか。

 

 「あ、ギターの子」

 「初めまして」

 「梓ちゃん、“よーぐるっぺ☆”ってバンド知ってる?」

 「知ってるよ! 中学のときから人気だもん。一回もライブ見に行けてないんだよね~」

 凄い人気っぷりだな~学内だけのオレたちとは全然違うな。

 

 「見に行く?」

 「えっ!? 急に突然何が!?」

 「目の前にいるこいつ、よーぐるっぺ☆のギタリストだ」

 「ええっ!?」

 「どうも。ちょうど今、弘志にライブ見に来ないかと誘っていたところだ」

 「行きたいです!!」

 「2人の分と、他の軽音部のメンバーの分取って置く」

 「ありがとう!」

 「ありがとうございます!!」

 近隣に名を轟かせているよーぐるっぺ☆の演奏を聞けるとは楽しみだ。

 

 「会場はあそこのホール。時間は16時から。その30分くらい前に来てくれるといい」

 「分かった」

 「受付の人には話通しておくから、丸山晶からの誘いですって言えば通してくれると思うから」

 「すご……」

 受付って(苦笑) まず、この市内のホールを借りれるってのが凄い。

 

 「じゃ、俺たちも楽しみに待ってるわ」

 「ありがと~」

 丸山晶は、ちっこいながらもオーラを出して商店街を後にした。

 

 「まさか、よーぐるっぺ☆のギタリストと知り合いとはね~」

 「中学のときには、ボーカルとベーシストとも知り合いだったよ」

 「なんと贅沢な!」

 「その頃は音楽とかさっぱりだったから……ちょっともったいなかったな~と今では思う」

 結構仲が良かったから、野外ライブとか誘ってくれてたんだけどね。

 

 「わたしたちも、いつかはああやってホール借りて演奏できるのかな?」

 「もちろん、やってみたいよね」

 「うん。唯先輩の夢は武道館! だからね。通過点にいいかもね」

 「夢は高い方がいいね。でも、現実は学内止まり」

 「そうだね。でも、放課後ティータイムとして音楽やっている時間ってとっても楽しいよね」

 「そうでなくちゃ、放課後ティータイムとしてやっている意味が無いもん」

 「誰にも負けないこの強さをいろいろな人に体感してもらいたいな」

 学内でも人気は高い(らしい)んだが、軽音部に入ろうとか言う人は未だ現れなかった。

 

 「そうだ。何か、買いたいものがあったんでしょ」

 「そうそう! 弦をそろそろ張り替えようかと思って」

 「ギターってそういうの大変そう……」

 「キーボードは手入れしないの?」

 「そういったのはよく分からないから、さわちゃん先生に全て任せている」

 一応、学校の備品。よく考えてみれば、全員自分の楽器を使っている。ムギ先輩のキーボードも家から持参してあった。部活がある間は置いているけど。

 

 「じゃ、行こっ!」

 「分かった」

 商店街の中にある、楽器店に向かうことになった。この楽器店はもはや軽音部お馴染みの店だ。唯先輩が初めてギターを買ったのもこの店らしい。

 

   ★

 

 「そろそろ教えてくれてもいいだろ?」

 次の日、昼に軽音部で集合してもらった。こんな暑い中 ー と言わんばかりのりっちゃん。

 

 「そういえば、先輩方、夏期講習はどうしてるんですか?」

 「今日は朝までだったよ」

 「そうでしたか」

 高校3年の夏休みって大変そうだな……オレも来年こんな感じなのかな。

 

 「それで?」

 「というと?」

 「もう帰るぞ」

 「あ、それは勘弁を。もったいなくなるから」

 「もったいない?」

 「16時からライブがあるんですけど、見に行きましょう。既に席はあるみたいです!」 

 「何ていうバンドのライブ?」

 「よーぐるっぺ☆」

 「「何ぃっ!?」」

 澪ちゃんとりっちゃんが過剰な反応を示したのに対し、唯先輩とムギ先輩は?マークを浮かべていた。

 

 「あの伝説的!」

 「ああ!!」

 いつの間にやら伝説にまでなっているらしい。

 

 「平均身長160cm高校生男子のバンドか?」

 「それが伝説かよ!!」

 むなしいなおい。確かに小柄だけどそこは突っ込まない方向で。

 

 「冗談冗談。しかし、その名前久しぶり聞いたな」

 「中学以来か」

 「何故にヒロがそのチケットを?」

 「チケットかどうかは知らないけど、そのバンドメンバーと知り合いでね。昨日偶然会ったらライブ誘われたんだ」

 「「何ぃっ!?」」

 「そんなに凄いバンドなのかしら?」

 「当時は中学生離れしていた演奏だったな」

 「今も高校生とは思えない演奏だろう」

 「りっちゃんと澪ちゃんがそれほど言うのなら見に行きたいな~」

 「だから行きましょう」

 やっと話がまとまった。逸れ出すととことんまで逸れていく。

 

 

    ★

 

 

 『 ー はい。晶さんのご紹介ですね。話は伺っております。どうぞこちらへ』

 会場に着いて、受付の人に話を通すとこれだ。他の人はチケット入場で指定席。もちろん案内は無い。だがどうだオレたちは。ただ話をするだけで、案内がついて……

 

 「しかも一番前!?」

 そう。目の前がステージだった。どれだけ晶が権力あるんだってツッコミを入れそうになった。

 

 「ようっ! 来てくれたな」

 「どれだけ権力あるんだよ!」

 あれ? 突っ込んでしまった。ご本人様登場だ……

 

 「今日は楽しんでいってくれ。放課後ティータイムの皆様。いつもそっちの演奏を聞いているから今度は俺たちが演奏する番だ」

 それだけ言うと、奥に引っ込んでいった。

 

 「ねえヒロ、いつもわたしたちの演奏を聞いてくれているって?」

 「学内ライブがあっているときは毎回見に来てくれているらしい」

 「それって?」

 「あれ、言ってなかったっけ? あいつオレの同級生。普通に若葉学園生」

 あれ、そこまで驚くことだっけ。そっか。りっちゃんと澪ちゃんはよーぐるっぺ☆の凄さを知っているのか。

 

 「あれ? 何でお前たちがいるんだよ」

 「竜也!?」

 「来てたのか~」

 「何だこの集まりは」

 そういうのも無理はない。いつものメンバーが全員来ていた。

 

 「オレ、ここのバンド、最初のライブから見に来ているからさ。今度はこいつらも誘ってみたってこと」

 「お姉ちゃんもココに!」

 「憂~びっくりするね」

 しかも、竜也たちも席は一番前。一番前って言うのはコネが無いと座れないみたいだ。

 

 「お前たちもこういうのに興味あるんだな」

 アキや雄二に話を振る。

 

 「まあね。一応が ー 」

 「俺たちも音楽は好きだからな」

 「そ、そうなんだ」

 「そういうこと……」

 アキの態度がちょっと変だったけど、別に突っ込むほどのことでもない。

 

 「純も来たんだ」

 「誘われちゃったからね~ もちろん、このバンド気になっていたんだ~」 

 「そうだよね。人気だもの……って純怒ってる?」

 「別に~わたしも誘ってくれなかったこと怒ってなんかいないけど」

 「怒ってるじゃん。それはちょっと仕方が無くて ー 」

 「はいはい。もうすぐ演奏始まるみたいだよ」

 純ちゃんの言うとおり、ライトが消えた。そして、すぐに明転!

 

 と同時に、1曲目が流れ出す。

 ドラム・ベースのかっこいいイントロから入り、ギターがそれにのっかる。そして、ボーカルが歌いだす。高校生が演奏しているとは思えない上に、全て作詞作曲は自分達で手がけているとは思えないほどのクオリティの高さだった。こりゃ凄い……オレたちとは随分桁違いだ。

 

 とか思っていると、結構時間は経ったみたいだ。

 1時間半フルに演奏するわけでもなく、ちゃんとMCも入れて曲紹介とかもしていた。しっかりと手が込んでいる。規模は小さいかもしれないけど、普通にテレビカメラとか入っててもおかしくない。

 

 「ここで、改めてメンバー紹介をしたいと思います!」

 と、ボーカル兼MCのヤツが言う。一応、中学時代の知り合いだ。

 

 「Drums! ー 」

 パートと名前を言うと、4小節間のアドリブソロが入る。本当にアドリブなのか怪しいくらい上手いが。

 それが、ベース・ギター・ボーカルも同じように進んでいった。正直ちょっと残念なのが、このバンドにキーボードがないことだ。キーボード担当としては悲しい限りだ。

 

 「さて、ところで晶」 

 「何だ?」

 「俺たちもこういうホールでようやく出来るな」

 「今まで野外ライブとかがほとんどだったが、こうやってホール借り切っての単独ライブだもんな」

 「それもこれも、みなさんが応援してくださってるおかげです」

 と、学校では滅多に見せない礼儀正しい姿を見せてくれた。

 

 「後、15分くらいしかないからラストスパートやな」

 『ええっ!!』

 「ありがとな~晶、何かあるか?」

 「俺に振るか。あれ、やっちゃっていいのか?」

 「このタイミングでするか。別に構わんぞ」

 観客も何をするかわくわくしている。アレだのこのだの言って微妙にシークレットにしちゃって。

 

 「応援してくださってる方にちょっと紹介したい人たちがいます」

 と、言い出したのであった。晶はそれを言うとオレたちのほうに視線を向けてこう言った。

 

 「俺は若葉学園に所属しているんだが、そこの軽音部の子たちが見に来てくれてるんだ」

 「マジか?」

 「お前には話を通しただろ」

 「いや、話を進ませるにはこういった役割も必要だろ」

 「それはそうだ。 ー で、ちょっとステージまで上がってきてくれるかな」

 と、いきなりのステージ上がって来い命令。オレたち6人みんなパニくる。何がなんだか分からない。

 

 「御呼ばれだぞ。行って来い」

 と、横の方から竜也の声が聞こえてきた気がしたが……

 

 「早く早く。弘志。みんなを連れてきて」

 しかも名指し。オレは行かざるを得なくなった。目の前にステージがあるからそこを登りステージに立つ。

 その景色がまあ凄いんだ。小規模とはいえ、立派なホールだ。こんなところで演奏していたのか。緊張してきた~

 

 「じゃあ、みなさん紹介します。『放課後ティータイム』のみなさんです!!」

 拍手やら起こるけど、当の本人達はあたふたとするのみ。唯一、唯先輩だけがのほほんとしていた。

 

 「何でこの人たちを紹介したの?」

 「こいつらの演奏聞いてるとな。音楽って凄いと思うんだよ」 

 「辛口評価で有名な晶をもうならせているのか!?」

 「辛口って訳じゃないけど……まあ、オレたちとは対極なバンドだけど、いいバンドなんだ」

 「へ~」

 「みんなこの人たちの顔覚えていてな。次のライブでは放課後ティータイムと共同ライブだ!」

 はっ? オレたちだけじゃなく、よーぐるっぺ☆の他のメンバーも凍り付いていた。どうやらこれまでは話が行ってなかったらしい。

 

 「今決めたんだけどな。一回はこの人たちの演奏を聞いてもらいたいものだ。俺たちと同じく、音楽を愛する人たちにとってな」

 「あ、ああ……」

 「それでだ。時間的にラストになるんだが、放課後ティータイムのみんなにお願いが」

 「な、何かな?」

 唯一緊張の度合いがマックスに辿り着いていない唯先輩が受け答えをする。

 

 「最後の曲、放課後ティータイムの曲を俺たちアレンジしたんだが、演奏したいんだが」

 「「「ええっ!?」」」

 まさか、自分達で作った曲をカバーリングされるとは思ってなかった。澪先輩に関しては立ったまま失神しているようだ。ムギ先輩とりっちゃんが隣で支えてあげている。

 

 「ダメか? せっかくの機会だし」

 「いいよ♪ みんなで一緒に歌おう!」

 「了解が出たぜみんな!」

 「おうっ! じゃあラストソング行くぞ~!! 『ふわふわ時間』!!」

 さらに、ロック風にアレンジされた『ふわふわ時間』が、他の曲に聞こえて新鮮だった。唯先輩は(こんな非常事態でも)楽しく歌っていたし……

 

    ★

 

 「どうもありがと~!!」

 ふわふわ時間の演奏が終わり、ライブも終わった。オレたちはあまりの緊張のしすぎで、ステージから一時動けなくなっていた。

 

 「は、はは……」

 「緊張したみたいだな」

 観客にいたはずなのに、演奏者と同じほうにはけるオレたち。

 裏に行ってからというもの。

 

 「さっきの俺のあの言葉は結構マジだから」

 「共同ライブ?」

 「ああ。対極な音楽だが、音楽を愛するという面に関しては一緒のはずだ。さらに多くの人に音楽を知ってもらうためにはいいと思うんだが」

 「本当に音楽好きだな」

 そういうと、当たり前だといわんばかりにきびすを返して、立ち去っていった。

 

 「今後ともお互い頑張ろうぜ!」

 去り際にこう遺していった。なんとかっこいい男なのだ。

 オレたちはスタッフさんに連れられ、出口の方へ向かった。出口にはやつらが全員きちんと待っていた。別に頼んだ覚えは無いけど。

 

 「まさか、あんなことになろうとはな」

 「こっちだってびっくりしたわ。多分、晶は昨日誘ったときからこう決めていたな」

 「緊張で足がえらく震えていたぞみんな」

 逆に震えない強心臓はほとんどいないだろう。唯先輩はごくごく例外だ。

 

 「お~い忘れていた」

 と、晶が後ろから声掛けてきた。

 

 「どうしたんだ?」

 「お前ら夏フェスって知ってる?」

 「夏フェス?」

 「パンフレットやるから、どうするかは相談してくれ。じゃあまたな」

 それだけ言うと、パンフレットをオレに押し付けて再びホール内へと戻っていった。

 

 「夏フェスな。もうそんな時期だよな」

 「竜也は知ってるのか」

 「当たり前だろ。ココ何年か行ってる。せっかくだから行った方がいいぞ」

 どうやら、夏フェスとは夏フェスティバルの略で、音楽の祭典とも言われているらしい。いろいろなプロアマバンドが集結して、2日くらい大騒ぎするんだってさ。

 

 「もちろん、オレも行く。こいつらも暇だったら一緒に行く」

 「へ~相談するか」

 帰りにファーストフード店に寄って、いろいろと相談するのであった。

 

 





 この「よーぐるっぺ☆」に関して、半分以上が実話です。
 作者の地域の中高生の間では結構有名。
 もう解散しましたけど(苦笑)

 中学の時音楽に興味が無かったっていう弘志の考えと作者がリンクしています。
 軽音部に所属している今、ちょっともったいないことしてましたね。

 地味に初デート回。
 流石は音楽(笑)


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