数話にまたがった体育祭も今話で終了。
ちょびっとした伏線を回収いたしますよ。
では、どうぞ!
「ゲームセット!」
「ありがとうございました」
終わった……この試合も。今年の体育祭も。サヨナラ負けにて幕を閉じた。
「ナイスボールだったわよ」
「ありがとう。優子さん。だが、結果は負けだ」
雄二の打球は打った瞬間ホームランと分かる打球だった。派手に打たれて散った。準決勝敗退。
「気持ちいいぜ!」
「お前には負けた。あんな特大ホームランで終わらせるなんてこっちもすっきりする」
「最高のボールをあんな綺麗に打ち返すものね。脱帽だわ」
「褒めてもらえて何よりだ。まあそのまえにちゃんと任務を果たしたこいつらのおかげだな」
確かに。秀吉の粘り強さに、康太の俊足、アキの意外性で、最後は雄二がボーンと。
「ヒロ、しっかり先生達に勝ってくるから!」
「オレたちを倒したんだ自信持っていいぞ」
「そうじゃな。では、ワシらは最後の決戦の場へ乗り込もうではないか」
「………了解」
会話もほどほどにFクラス連中は去っていった。
「……………」
「……………」
「……………」
霧島と姫路と島田。お互いに顔を見合わせて、無言で立ち去っていった。心の中で会話でもしたのだろうか。
「ドンマイ! おしかったね~」
「よくこの戦力で勝ちあがってきたわよ」
「………ほとんど七島と優子の活躍」
「そりゃ申し訳ない……打たせても良かったが、エラーされたりするとむかつくからそれが嫌で」
「構わないよ。僕だってエラーしてしまった」
「勝ちたかったな」
誰かが言った一言。みんなちょっと気落ちした。結構マジで勝利取りにいったからな。客観的に見たらよくぞこの戦力でと思うが……まあ。終わったことだ。Fクラスを応援するか。
「………まだ、体育祭の本戦終わってない」
「ってことは?」
「………今からそちらに合流する」
「Fクラス戦は?」
「当然見ることが出来ないわね」
そんな……重労働にもほどがあるよ。
★
「おしかったみたいだね。ヒロ君」
「後1人ってとこで、雄二に負けた」
「流石ってことかな」
「悔しい。思い出すだけで悔しい。競技に出て鬱憤はらす!」
何の競技があるかはよく知らんが、とにかく出てやる!
「………七島大丈夫?」
「大丈夫だと思うよ。人一倍負けず嫌いなだけだから」
「アタシも悔しいわ……雄二には負けたくなかったのに」
「………優子……終わったことを糧にして次のことを」
「代表~そうね。アタシも何に出ようかしら」
Aクラスの男女の運動神経がいい人間が野球大会から帰ってきたから本戦にも活気付いたらしい。
★
「 ー 流石に、体育祭じゃトップとれないか~」
「疲れたわね」
「お疲れ様。はい、これどうぞ」
「アク○リじゃん。どうしたの?」
「ご褒美に」
「ありがと!」
500mlを一気飲みする。プファー……いい汗かいたな~
「ところで、Fクラスはどうなったんだろう」
「そろそろ終わるんじゃないかな?」
「あれはFクラスのみんなじゃないかな」
「ホントだ♪ アッキーを先頭に帰って来ているよ」
「あの様子だと、教師にまで勝った様ね」
みんな明るい表情をして、ワイワイ喋りながら帰ってきた。
「みんな~僕たち先生倒してきたよ~!!」
「すげえ!」
「おめでとう!」
「まさか先生にまで勝つとは」
「言ったろ。優勝するってさ」
雄二のすげえところは、この有言実行だよ。
「これでお宝が返ってくるぜ!」
「ヒャッホー!」
「お宝お宝」
Fの野郎らがうるさすぎる。
「ヒロ、何か持ち検で取られた?」
「ああ。音楽機器を」
「分かった。僕のということで返してもらうよ」
「何?」
「優勝クラスは持ち検で没収されたものの返却じゃん」
「そうだったな。オレのも一緒に引き取ってくれるのか?」
「うん」
「ありがとな。オレ以外のやつ何にも取られてないからさ」
「そうなのか?」
「ああ」
「よく、それでモチベーションを保てたな。俺たちと互角だったのが信じられねえ」
オレも信じられねえよ。それだけ、Aクラスというのにプライドを持っているというわけだ。
「じゃ、また放課後に会おう」
「おう」
体育祭は終了した。疲れた。本当に疲れた。長い一日だったぜ……
★
「ヒロ~」
「アキか。終わったのか?」
「うん。それで、没収されてたもの家に郵送するんだって」
「そうか。迷惑掛けるな」
「ううん全然」
ありがたいな。Fが勝ってよかったのかもしれない。
「他の野郎共は悲惨なことになっていたぞ」
「やつらは何を没収されてたんだ」
「まあ、Zのシールをつけていいようなものだ」
「随分とオブラートに包んだな。意味は分かったが」
要するに、エロ本とかを家に郵送されるんだろ。かわいそうに……
「あれ、他の連中は?」
「もう少しして来るだろ」
他の連中というのは、秀吉や康太・竜也だ。
「雄二、ちょっと話いいか?」
「ん? 別に構わんが……ココじゃダメなんだな」
「ん? まあ、そうだな。ちょっと離れたところがいい」
オレが雄二を連れ、教室の端の方に行く。アキの相手は愛子ちゃんがしてくれているみたいだ。優子さんはオレが何の話をしたいか分かったらしく、霧島さんと話をし続けてくれている。梓ちゃんと憂ちゃんも気を遣って少し遠い場所に陣取ってくれた。
「で?」
「ああ。今日の対戦で、霧島に何か言われただろ」
「っ!!」
「まあ、責めるつもりはさらさらない。何て言われたのか。どう思ったのかを聞きたかっただけだ」
「聞いてどうする?」
「別にどうもこうもない」
「嘘付け」
「とにかく教えてくれ。その後にオレが知っている情報を教える」
「俺に有益な情報なのか」
「それは保障する」
雄二は少し考えると、オレの話に乗ってくれた。
「まあ、簡単な話今までの行いを反省しているといった内容だった」
「やっぱりか」
「やっぱり?」
「ああ。2学期始まって早々、呼び出されたんだよ霧島に」
「……」
「お前が言われた内容とほぼ一緒だろう。雄二と話したいそうだ」
「っ……」
「お前が無意識のうちに避けてしまうってのはオレでもわかる。だが、霧島はどうしてもとオレたちに頼み込んだ」
雄二としても今までの行いを許すって訳にも行かないだろう。それだけのことを霧島はやってしまっている。だが、何か方法は無いか。元の関係に戻れずとも、普通に喋る関係くらいにまでは戻れないか。
「答えはな。今お前が言っただろ。俺は自然と翔子を避けてしまうんだ。話すことはおろか、目を合わせるのすら困難だ」
「よく、試合では我慢したな」
「体が震えていたさ。だがな、それ以上にクラスを勝たせるという使命を帯びていたからな」
責任感の強い男だ。自分がつぶれてもってことか?
「そうか。オレから一言いいか?」
「何だ」
「雄二。お前は霧島をまだ幼馴染として見れているのか。そうでなくば、もう赤の他人の存在か」
「幼馴染さ。ただ、もうその関係には戻れない」
「お前にまだその気持ちがあって助かった」
「というと?」
「赤の他人とはっきり言い切るなら、霧島に雄二のことは諦めるように言うつもりだった」
「でも、話しかけられても俺は対応に困る。翔子を今まで以上に傷つけることになる」
「ココまで来ても霧島の心配を出来るのか……見上げた男だ」
散々に体を痛めつけられた相手だぞ。いくら反省したからといえ許せるものなのか。
「元はといえば、俺がはっきりと翔子に拒絶しないのが悪いんだ。それから翔子が羽目を外しすぎてしまったんだ。あいつの本性は素直だ。人に暴力を振るうヤツなんかじゃねえ」
「そこまで信用してるんだな。分かった。霧島にも何かと伝えておく」
「お、おい」
「心配するな。徐々に。徐々に、話せる関係にまで戻ろう」
「何故そこまでしてくれる?」
「不器用なお前の行き方見てると放っておけないからだ」
「嘘付け」
「まあ、半分冗談。半分本気。ということで、霧島に話しかけられて嫌なときははっきりとそこで拒絶しろ」
「分かった。そちらのほうが、翔子を傷つけなくて済むんだな」
オレは雄二との話を終え、霧島のほうへ向かった。優子さんはオレと入れ替わるように雄二の元へ向かった。
「久しぶり雄二に話しかけてどうだった?」
「………雄二は何も変わってない。私が好きなまま」
「だよな。完全に霧島が悪かった」
「………うん。反省してる。好きな人を傷つけた私には罰が待っている」
「自分で言うか……まあ、その罰ってのが、好きな人と話すことが出来ないってことだな」
トラウマを植えつけてしまってるんだから、何回も言うけど、復活は難しい。
「さっき雄二と話してきた。まだお前のことを幼馴染と思っててくれたぞ」
「………ホント?」
「ああ。だが、体がどうしても拒絶するそうだ」
「………私のせい」
「その通りだな。で、オレは話を通してきた」
「???」
「話しかけられて嫌だったらはっきりと拒絶するから、その時は潔く霧島身を引け」
「………七島、ありがとう。優子にも助かってる」
「この言いつけ守ってくれよ」
「………分かってる。何より、雄二のため」
ここまでお互いのことを気遣いできるのに、どこでその歯車がかみ合わなくなったんだ。一度ずれると元には戻らないのか……優子さんはそのずれた歯車に何を助言しているのか気になるが。女子目線じゃないと分からないこともあるだろうから、ここは任せよう。適任だ。
★
「雄二」
「…今度は優子か」
「悪かったわね。アタシで」
「で、何のようだ?」
「さっき代表と話したのよ」
そう告げながらアタシは雄二の顔色を伺う。
「それで?」
思いつめたような顔になって、返答した。
「やっぱり話したいらしい」
「さっきも弘志に言ったが、もう体が拒絶するんだ」
「分かってるわ。でも、お互いが話せる関係に戻るのが一番いいじゃない」
「それは分かってる」
「もう、いいわ。あなたの傷を掘りかえそうなんて思ってないから」
「?」
「何かあったら、アタシか弘志に聞くこと。アタシたちが全力でサポートするから」
「優子も弘志もだが、何故そこまでしてくれるんだ?」
雄二のこの返答にアタシは詰まった。何でなんだろう。もともとのきっかけは代表との仲直りのはず。それがどうしてここまで発展したのかな。代表の苦しんでいる姿も、雄二の苦しんでいる姿もどちらも見たくないからなのかな?
「分からないわ」
結局、自分の中で答えは出なかった。
「そうか。まあ、頼りになる。ありがとな」
「っ!? ま、まあ当然のことよ。ええ」
代表と雄二の仲直りをさせようとしているのに、アタシが雄二に惚れてしまったらその計画ごと破綻してしまうじゃないの! ダメよアタシ!
★
「………聞きたいことがある」
「何だ?」
今度は逆に霧島から質問が。
「………優子は雄二のことをどう思っていると思う?」
「さあな。お互いに信頼しあえる関係とでもいうのか」
「………お互いに信頼?」
「オレの個人的な見解だがな。雄二も優子さんのことを信頼している」
「………確かに優子は信頼できる」
「お互いに信頼できているって、ものすごく強い絆だと思わないか?」
「………???」
「だって、不安なとき危険なときはそいつが隣にいるだけで安心できるんだぜ」
「………うん」
「これはお互いが好きっていう感情以上にすごく強い結びつきだぞ」
「………優子になら、雄二を任せてもいいかも」
任せるって、親かと言いたくなるが。それだけ、昔から雄二のことを見てきたということだな。
「諦めるのか?」
「………諦めはしないけど、優子なら仕方ないと思える」
「何故だ?」
「………雄二が最も安心できる場所・幸せになれる場所に居て欲しい。それが私の側じゃなくても」
「その考えに辿り着いたか」
コレは霧島だけでなく、姫路や島田にも持ってもらいたい考えだ。こういう考えを持つことが出来れば、間違っても暴力なんて行動には出ない。
「………雄二が優子の側で一番安心できるならそこに居て欲しい。私は話せたらそれでいい」
「随分と欲がなくなったもんだな」
「………夏休みの間いろいろと考えた」
これで霧島も脱皮したな。人間的に大きく成長したと思うぞ。
「そうか。優子さんが聞いたらどんな反応するかな」
「………優子はまだ雄二にその気持ち話してないの?」
「お互いがお互い信頼しあっているというのはお互いが理解しているけど」
「………何か難しい」
そりゃそうだ。人間関係ってどんな攻略本でも攻略できないものだからな。
「友達でもいいか。……その考えならば雄二と話せるようになるのを全力で応援しないとな」
「………助かる」
「オレは因みに、結構前から秀吉やアキと共に優子さんと雄二が仲良くなるようにしていた」
「………怒らない。数ヶ月雄二を安心させていたのは優子なんだから当然」
本当に変わったな。ここまで大人になれるものか。霧島も長い片思いだったろうに。
★
「何かあの2人俺たちの話してると思うのは気のせいか」
「気のせいじゃないわよ。でも、悪い噂ではないと思うわよ」
そりゃそうだ。でも、何か企んでいる感じはした。
「みんなのもとへ戻るわよ」
「あ、ああ。散々迷惑掛けたな」
「め、迷惑だ何て思ってないわよ」
翔子からの攻撃で精神的に病んでいたのを救ってくれた優子。期末テストの折、成績upに貢献してくれた優子。いろいろと返しきれない恩は受けている。
俺は優子が側にいると、安心できるんだよな。今後もずっと側にいて欲しいものだ。
さあさあさあさあ!
今後、雄二はどうなっていくの!?
秀吉がまだまだ暗躍する時がくるのか。
はたまた、もうすぐゴールインするのか。
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