ずっと現れている、あの謎の行動をする美少女。
果たして軽音部はどう対処するのだろう。
その前に、新歓ライブってのも忘れちゃいけないな。
では、どうぞ!!
「大丈夫よ。練習してきたんだもの」
「軽音部の瀬戸際だな~」
いよいよ、新入生歓迎ライブの日がやってきた。2年前のコレでオレは感動して入部したんだったよな~今年そういう人が現れるかな…あの時の先輩達みたいになれるのかな。
「ヒロ君、先輩達は先輩達、自分達は自分達だからね」
オレの悩みが分かったような顔をして助言をくれる優花。
「緊張しないようにステージ衣装持ってきたわよ!」
「「着ませんから!!」」
「せっかく持ってきたのに~」
さわちゃん先生は、ほとんどの確率で妙な衣装を作成してくる。ただ、去年の学園祭のときはもう感動もの。
「続いては、軽音部の演奏です」
と、司会の会長:優子さんの声が聞こえてきた。もう出番か。
「行こうか」
「…うん。やりきろう」
オレと梓ちゃんは舞台袖からステージへと歩いていく。そのステージにはピアノが置いてあり、中央にはアンプが1台。そして、梓ちゃんの手にはアコースティックギター通称アコギが。
ピアノ・アコギの2ピースで演奏することに決まったのだ。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
部長の梓ちゃんがスピーチを行う。今までに何回もステージに立っているから緊張はしていないようだ。
「わたし達軽音部は部員が少なくてこのままでは廃部になってしまいます」
オレたちが引退したらの話。嘘は言っていない。
「もし、バンドや楽器に興味のある人がいたら是非見に来てください。初心者ももちろん歓迎です」
「オレも初心者で入部しました。みなさんお待ちしています」
オレが最後を締めた形になったが、梓ちゃんは普通に何食わぬ顔でエレアコ(アコギの中でもアンプを繋いで音を大きく出来るもの)を準備していた。オレもピアノの前へ座り少し深呼吸。キーボードを今まで弾いてきたから全然違った感覚だ。
「では、聞いてください。『ふわふわ時間~アコースティックver.~』!」
春休みの間、2人で編曲をしてアコースティックver.として完成させたこの曲。本来ならばもはや放課後ティータイムではないのだから、この曲は使うべきではないのだろうが、作詞作曲をするには時間が足らなさ過ぎた。もちろん新入生は原曲を知らないのでver.とか言われても何のことやら分からないだろうが、このライブには新入生だけでなく2・3年生も来れる。新感覚を体感していただけるだろうか。
本来、唯先輩のメインボーカルのこの曲。その部分を梓ちゃんが歌い、澪ちゃんのハモリの部分をオレが歌うという感じに。楽器を演奏しながら歌うのってここまで難しかったんだ……
★
「ギター弾きながら歌うってあそこまで難しいんだ……唯先輩のことひどくは言えないよ」
ライブが終わり、部室に帰って来て梓ちゃんが一言。凄かったんだな唯先輩も澪ちゃんも。よくぞあそこまで上手く歌えたものだ。
「ギター弾いてたからじゃなくて根本的に歌が ー 」
「純ちゃん!!」
「流石にその言葉は抑えておいた方が」
どうやらオレと梓ちゃんは歌がそこまで上手い方じゃないらしい。自覚はしていたけどね。
「あのー体験入部させてもらいたいんですけど」
「来た!」
「ほら、梓ちゃんたちの歌が良かったからだよ!」
「いえ、わたしはいろんな部に体験入部して回ってるだけです。歌は独特でしたね」
「「ですよね~」」
ちょっと泣けてくるよね。意外とずけずけ言う後輩もいたものだ。
「ありがとうございました~」
むったんこと、梓ちゃんのギター:ムスタングの6弦を切るというすさまじいことをやってのけたこの後輩は、満足したかのように礼を言って帰っていった。あの子とてつもなく不器用?
「あ、あれはスミーレ!!」
「みみみ見つかった……」
「お茶淹れてくれる?」
「はい、ただいま」
今日もまた、お茶を淹れに ー じゃなくて、ティーセットを奪いにやってきたんだな。
「どうぞ」
「ありがと~」
「美味しいよね」
「あ、そうだ。スミーレちゃん、お菓子持ってきたんだ。食べる?」
憂ちゃん手作りのお菓子。レアだぞ~美味しいぞ~
「ありがとうございます……美味しいです」
「本当、良かった~」
「どうして、ここまでわたしに構ってくれるんですか?」
「何でってもう何回も一緒にお茶してるじゃん」
「もしかしてわたし達とおしゃべりしに来てくれてるのかなーって。ただおしゃべりするだけでも楽しいよね」
「梓ちゃんお姉ちゃんみたいなこと言うようになってきたね」
「え! 何それ? 唯先輩に似てきたってこと!? ショックだ~!!」
「何でショックなの~いいじゃん!」
いい雰囲気だな。まるで ー やめておこう。また思い出してしまって寂しい気持ちになるだけだ。今はこのメンバーで。
「こんな部なら入部してもいいかも……」
「「「確保~!!!!」」」
「ヒロ君、先輩達凄いね」
「でしょ」
無理やりにでも1人ゲットしちゃったよ。
「あの~入部したいんですけど」
「あれ、さっきの子」
「入部してくれるの!?」
「はい。さっきで全部の部活を体験して、ここが一番出来ると思ったので」
あれで!? と5人の心がシンクロしたのは言うまでもない。でも、新入部員が入ってくるのはいいことだ。
「あれ、同じクラスの奥田さん」
「あ、はい…よろしくお願いします」
今日から新生軽音部の始まりだな。どうなることやら……
「それで早速なんだけど、楽器はどうする?」
「早く決めておかないと、今年は何故か学園祭が早まったからね」
学園長の一声で変わったらしい今年の学園祭の時期。確か1学期末だったかな。オレの空想だが、昨年清涼祭のほうで未完成のまま出してしまった腕輪が完成するから、一刻でも早く見せたいとかね。
「学園祭に何かあるんですか?」
「そうだよ! 軽音部はステージの前で演奏するの!!」
「そうなんですか……」
「練習すれば絶対に間に合うからさ、そのためにも早く楽器は決めておいたほうがいい」
梓ちゃんがギター、オレと優花がキーボード、純ちゃんがベースとして……
「どれがいいっていうのは分からないかもしれないから、ひとまず楽器屋行く?」
「それがいいよ。実際に全部触ってみてどうなるかって話だからね」
ひとまず、6人で楽器屋に向かうことになった。オレたちが1年の時から行き続けているムギ先輩の家の系列のお店。これは伝統になるかもしれないな。
「あれ、斉藤さんではないですか?」
楽器店に入るなり、オレたち一行というより、スミーレちゃんに話しかけてきた店員が。
「ひ、人違いでは?」
「何をおっしゃるのですか、最近お会いしたじゃないですか」
「せ、先輩、ギターこっちですね行きましょう!!」
スミーレちゃんがこれ以上ないくらい動揺していたが……深く詮索はするものではないのだろうか。
「って、お前らもここに」
「わざとじゃないだろうな」
竜也率いる4人が楽器店にいた。ここで待ち構えているんじゃないよな。
「ん? あれは琴吹家のスミレちゃん?」
「えっ?」
「ほら、あの子だよ」
少し離れた場所で梓ちゃんや他の人と楽器を見ているスミーレちゃんを指す。
「知り合いか?」
「お前は知らないのか。去年まで軽音部にいた琴吹紬の妹にあたる存在だぞ」
「妹!?」
「正確には血は繋がっていないが、姉妹のようなものだった」
「ちょっと待て。本当に同一人物か?」
「なかなかあの顔立ちは忘れないだろう。斉藤菫ちゃんだろ」
オレは今までのスミーレちゃんの行動を思い出しながら、今の会話を吟味する。そうすると、全てが繋がった。あの不可解が行動の意味が分かるってもの。ココで聞くのはあれだから部室に帰ってからでも聞くか。
「そういや、お前らよく楽器店に現れるが……」
「いいだろ別に」
「そろそろ教えていいだろ」
「だよね~ヒロに隠し事をずっと持ち続けるって疲れるからさ~」
「………俺たちはバンドを組んでいる」
「は? 何て?」
康太の声が小さくて聞こえなかったようなので、もう一回聞いてみた。
「だから4人でバンド組んでいるってことさ」
「聞き間違いじゃなかったか……何で軽音部入ってくれなかったんだよ」
「だってさ~放課後ティータイムの息が合いすぎて他のメンバーが入る隙間も無いって言うか」
「とにかく、お前らの邪魔はしたくなかった」
「あそこまでの演奏を出来るってのは、練習をたくさんした以外にも秘訣があっただろうからな」
確かに、演奏以外でも非常に仲がいいとか……? 最後のほうには優花が入ってきたけど、もうあの頃は演奏してなかったからそこまでの影響なかったしな~
「じゃあ、先輩がいなくなって実質放課後ティータイムとしての活動が出来なくなった今、軽音でやろうとは思わないのか?」
「面白そうだよな。でも、入ってきた後輩の練習の邪魔をするのはよろしくないだろ」
「それもそうだが、今年の学園祭が早いだろ。ココだけの話をする」
オレは他の軽音のメンバーが楽器選びに夢中になっているのを見て、こいつらに話しかける。
「正直、このメンバーで4曲はきつい。練習期間が短すぎる。昨年まで軽音の枠4曲だったからそれは保持したいじゃん。でも、3ヶ月じゃ素人は1曲が精一杯だろう。だから残り3曲をオレと梓ちゃんとかで終わらせるわけには行かないじゃん……」
梓ちゃんにも伝えていないこの悩み。梓ちゃんはとっくに分かっているのかもしれない。だけど、それは全然表に出していなかった。
「お前の気持ちは分かった。オレたちも全力で手伝いたい。だが、梓ちゃんやら他のやつらの意見も聞きたいからさ。それを聞いてからもう一回オレたちの所に来てくれ。オレたちとしてもお前らと演奏するのは楽しみにしているからさ」
竜也が代表して言うと、後ろの3人はうなずいていた。何とも心強い味方だ。この件は頼み込んでおくとするか。
「お前はそろそろあの子たちの元へ戻った方がいいだろう」
「くれぐれも他の女の子にうつつを抜かして、梓ちゃんを忘れないようにね」
「分かってるわ言われなくても、憂ちゃんと純ちゃんは軽音部で預かっておきますわ」
「よろしく頼む」
「………(コクコク)」
他のメンバーに気づかれないように雄二たちと別れ、みんなと合流する。
「「「全然手が出ない……」」」
合流した途端、こんな言葉が出てきた。オレはまったく話の流れを読めないから聞くことにする。
「どうしたの?」
「ドラムセットの値段がね~」
およそ10万円。オレたちじゃ手も足も出ないですな。去年まであったドラムセットはりっちゃんの個人のだった。
「さわちゃん先生に頼んでみますか」
「そうしよう。どの道ドラムがないとバンドとして成り立たないからさ」
梓ちゃんは携帯を取り出し、さわちゃん先生に連絡を取ってみる。少し喧嘩をしているようだ。
「どうしたの?」
電話を切った後、聞いてみる。
「実は去年一昨年の部費溜めてたのよね~とか言われたから」
ムカっと来たんだね。わかるよ。それなら早く言えってね。
「だからもうちょっと待ってたら先生来るから」
「そうなんだ。ドラムは誰に決まったの?」
「スミーレちゃん、結構上手かったんだよ~」
そうなんだ。意外だよな~何か普段からストレスがたまっているとか?
「憂ちゃんや奥田さんは?」
「わたしはギターを弾いてみたいかな。ギー太弾いてから弾いてみたいな~って思ってたんだ」
「じゃあ、奥田さんはどうする?」
「…………わたし、やめます」
「「「えっ?」」」
「わたし、勉強以外はからきしダメで高校生になってからは何か新しいものに挑戦しようと思ったんですけど。やっぱり慣れないことはするものではないですね」
ちょ、ちょっと待ってよ。もうちょっと続けようよ。という引止めをしようかと思ったとき、
「ちょっと待ちなさい、奥田ちゃん。話は聞かせてもらったわ」
いつから立ち聞きしていたのかさわちゃん先生がいた。
「あなたPC使えるかしら?」
「ええ、家にあるので」
「それじゃあ、ちょっと待ちなさい。この後部室に戻ってからちょっと話があるわ」
みんなの頭の上に疑問符がついたのは間違いなしだろう。
「梓ちゃん、ドラムセットってのは?」
「コレです。足りますか?」
「ちょうどいいわね。これにしましょう」
ということで、即決。ドラムセット購入。明日部室に運んできてもらうことに。その後、先ほどのさわちゃん先生の話どおりにするためにオレたちは部室に戻ることに。
「何だろうね」
「全然想像がつかないよ」
少し待っていると、さわちゃん先生がPCを抱えて部室にやってきた。
「奥田ちゃん、あなた音楽理論って興味ある?」
「音楽理論、ですか?」
「そう。勉強が出来る奥田ちゃんなら結構最適なんじゃないかなって思うの」
「そう、ですか?」
「それを学んだ後で、これよ」
とPCを立ち上げて、とあるソフトを開き奥田さんにそれを見せる。オレたちもそれを背後から見させてもらう。
「DTMって言ってね、実際に演奏しなくてもPC上で曲が作れるの」
「そうなんですか?」
「そうよ。ニ○ニ○動画とかでよくupされている曲とかはコレで作ったのばかりなんだから」
「すごいですね!!」
「やめないよね?」
「これからはわたしがみなさんをプロデュースします!!」
よかった。さわちゃん先生のおかげで、1人の部員がやめずにすんだ。普通にこういうことばかりしてくれれば本当にありがたいのに……
これで担当は決まったかな。ギター梓ちゃん・憂ちゃん、ベース純ちゃん、キーボードオレ、ドラムスミーレちゃん、作詞作曲奥田さん。ということか。新生軽音部だな。
「そういえばスミーレちゃん」
「はいなんでしょう?」
「琴吹家で住んでいるって本当?」
「あら、そうよ。よく知ってたわね」
「や、山中先生!?」
「え……ダメだった?」
スミーレちゃんはちょっと目が潤んできて、泣きそうだった。コレ触れちゃダメな話だったのか。申し訳ない。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
その後、自分とムギ先輩の生い立ちからこの頃の不可解な言動まで全て話してくれた。すごいな~
「ティーセットはムギちゃんから許可もらってるわよ」
ティーセットを持ち帰れというムギ先輩の言葉は軽音部へと向かわせる口実だったらしい。引退しても部活に貢献してくれますなムギ先輩。本当にありがとうございます。
「じゃあ、スミーレちゃん今後ともよろしくね!」
「はいっ!!」
めでたしめでたし……でいいのかな。
「梓ちゃん、提案があるんだけど」
「何?どうしたの?」
「竜也たちを軽音部に誘おうと思っているんだけどどう思う?」
「入ってくれるの?」
「迷惑じゃなければ、オレたちと演奏したいと言っているらしい」
「本当!? 大歓迎だよ!! 部員がたくさん増えたね~!!」
「たちって言うと誰がいるの?」
「えっとね、竜也・アキ・雄二・康太の4人かな」
「そんなこと言ってなかったけどな~」
純ちゃんがそう言うけど、結構嬉しそうだった。憂ちゃんも同じく嬉しそうだし。優花やスミーレちゃん、奥田さんは何のことかさっぱり分かってなかったみたいだけどね。
「じゃあ、竜也たちにはそう伝えておくよ。コレで学園祭の負担もかなり減るでしょ」
「そうだね。残り3ヶ月まずは1曲演奏できるようになるまで頑張ろう!!」
「「「オー!!」」」
1歩1歩ずつ進んでいる道。ようやく加速しだしたかな。まだまだゴールは遠いけど。
★
「ってことで、オレたち4人がこの軽音部に入ることになりました。よろしく!」
次の活動日、竜也たちが来て自己紹介をした。11人になったんかな。今日からようやく本格的な練習を始めることが出来るな。
「じゃあ、早速練習しよっか」
「梓ちゃん、わたしギター買ったよ!」
「ホント!? それじゃあたくさん練習出来るね!」
「優花、キーボードは1台しかないから」
「うん」
昨年まではムギ先輩の自分のキーボードがあったため2台だが、今年は備品の1台しかない。
「ヒロ君、この大人数じゃ一気に練習できないからどうする?」
「この中で2つにバンドを分けたらどう?」
「う~ん……どう分けようか」
「竜也たちは結構息が合っているからそこはいじらない方がいいだろう。だからオレがこっちに入ればちょうど、男子:女子が5:5になるじゃない」
「そうだね。そうしよう! 奥田さんは男子女子両方の作詞作曲を頼むね」
「任せてください!」
若干驚きの表情が見られた男子勢。そりゃあそうだよな。軽音部に作詞作曲担当の人ってなかなかいないよな。
「今日はまず、どういった曲をするかってのをみんなが知らないといけないよね」
「それでも、メンバーが足らなさ過ぎる……」
「ぶっつけかもしれないけど、あわせてみる?」
「竜也たちと? ボーカルは梓ちゃんしかいないよ」
「うっ……………何か先輩達が残していったもの無かったかな……」
「そういえば、あのアルバム、この部室にも1つ残しておいたような」
卒業式前日に放課後ティータイムの足跡を残しておくという名目で全ての曲を録音していた。それを焼き増しして放課後ティータイムのメンバー全員とさわちゃん先生、あと部室に1つ置いていた。
「そうだね。あれを聞かせてみよう」
早速流す。なにやら懐かしいな。男子勢の諸君は聞くまでも無く分かるだろうが…新入生の2人は結構表情が変わっていた。
「先輩達こんなのをしていたんですね。すごいです」
「これほどの曲を作れるか自信ないです」
「まずはやってみようよ」
「追い抜こうとしなくていいからさ、オレたちの代での曲ってのを作り上げよう」
その後、今日は練習して終わった。そしてその次の日も……いい雰囲気で練習が出来ていっていた。
ちょいと長めでしたが、いかがでしたでしょうか。
伝統的な部活というのは、先輩から後輩に受け継がれていくものがありますよね。
大変ですよ。
以前からフラグを建てまくっていた、アキたちの軽音部入部の件。
とうとう入りました。
総勢11名ですか。
多いですね~昨年に比べましたら。
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