幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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何かを得る時は同等の対価が必要だ。

私は対価を支払っていたに過ぎない。

だが、支払い切れない対価は別の形で返ってくる。

対価とはそう言うものだ。



償の付箋

前回、私の語った言葉に反応した六人。

 

マサキとリュウセイの表情は相変わらずで残りの四人は沈黙していた。

 

 

「孫光龍がお前の…!」

「実の親父さんだって!?」

「言葉通りよ、それを知ったのは最近の事だけど…」

 

 

それは驚くよね、前世の世界で戦って来た相手とその娘が目処前に居るのだもの。

 

私だって最初は驚いたけど、もう受け入れた。

 

それが必然であるから。

 

 

「ハスミ、判っているのか…そいつは!」

「この人がバラルの元締めである事?但しそれは前世の記憶で判明した事であって…」

 

 

ハスミは『今回はバラルから去ったと明確にハッキリとしているでしょ?』と静かに答えた。

 

 

「けどよ、そいつをそのままにして置けねえ……そいつは!」

「いずれ例の計画を起こすから?」

「知っているなら!」

「マサキ、何か勘違いしている様だけど…彼は既にバラルを去っているのよ?」

「だからってそいつを野放しに出来る筈がないだろ。」

「はぁ…一から説明し直さないと判らないのかしら?」

「は?」

「それは前世の記憶であった出来事で今世の今の現状に関係していないし発生してないでしょ?」

「…つまり記憶よる誤認と言う事か?」

 

 

マサキのやり取りとハスミの言葉の意味にギリアムが答えた。

 

そしてギリアムの答えに反応したキョウスケが話に加わった。

 

 

「記憶の誤認ですか?」

「ああ、最も前世の記憶を持つ君達には判りにくいのかもしれないが…」

「判りやすく言うなら記憶に縛られているが正しいと思います。」

 

 

続けてハスミは『記憶の誤認』についての説明に入った。

 

記憶保持者達はかつての記憶を所持している。

 

但し、その記憶通りに同じ事が起こるとは限らない。

 

戦いも人物もその通りに事を起こす事もまた限らない。

 

変異した事象には必ず変動が引き起こされるから。

 

今回のケースもその結果の表れである。

 

一例として光龍の今の状況も今までの行動が原因と言える。

 

彼はいずれバラルを率いて『総人尸解計画』を実行する人物。

 

そう彼らの記憶に刻まれている。

 

刻まれた記憶通りに事がなるとは限らない。

 

見間違えると取り返しのつかない結果を引き起こす。

 

 

「だから受け入れた…と?」

「私は最初監視を視野に入れて共に行動していましたが、それでもお父さんには敵対の意思は見られなかった。」

「…」

「変わりつつある事象とそれに対する変異…それが予想もつかない結果を生み出したのかもしれません。」

 

 

私は光龍の手を握っていた。

 

私の決意と決断への不安だったのかもしれない。

 

触れる事で安心感を得たかったのかもしれない。

 

記憶に縛られた者の一人として決着は付けなければならない。

 

 

「私は真実を追い求めた結果、この結果を選んだだけにすぎません。」

「ハスミ…」

「私はこの選択を間違いと思いたくないんです。」

 

 

実の父親と敵対する運命だったのかもしれない。

 

それでも結果は違った、だからこそ新しい未来を模索出来る。

 

私はこの結果で良かったと思っている。

 

 

「孫光龍、貴方は本当にハスミ少尉の…」

「この子の父親だよ、何ならDNA鑑定でも何でもすればいい。」

 

 

ギリアムの問いに光龍は嘘偽りなく答えた。

 

 

「ハスミ、確かお前の実の親父さんって…」

「公式では行方不明って事になっているけど、実際は御爺様が仕組んだ茶番だったの。」

「茶番?」

「私の家系は旧西暦時代のオーダー関係と国際警察機構やBF団とも関係を持っていたから常に狙われていたわ。」

「じゃあ、おふくろさんが亡くなったのも!」

「そうよ、リュウセイ。私の母さんは暗殺されたの…私はそれを御爺様が臨終される間際に知らされた。」

 

 

そして私はやっと母を暗殺した組織の名を知った。

 

 

「母さんの命を奪った組織の名は『クロノ』…いずれ私達が戦うべき勢力の一つよ。」

「クロノって確か…!」

「万丈さんからも話していたでしょ?」

「例の『Z事変』の組織の事か?」

「そう、聖戦と呼ばれる戦いで関わる組織の一つ…『御使い』共の下僕達よ。」

 

 

私は光龍の手を一度放し、自分の手を握り絞めた。

 

 

「奴らは僕らも危惧していた『百邪』と呼ばれるモノ達の一つだよ。」

「お父さん…」

「僕から話させてくれないか?」

 

 

光龍は語った。

 

 

「話を遡る事…機人大戦と呼ばれる戦いが起こる前の時代の事だよ。」

 

 

君達で言う先史文明が栄えていた頃の事。

 

『テンシ』と呼ばれる存在が僕らの生きていた世界に降り立った。

 

そして突如争いが起こった。

 

テンシは僕らを互いに争い合う種族と罵り滅ぼそうとした。

 

だが、ある一族の中で強大な念の力を持つバビル、アシュラヤー、ゲベル、ナシムの兄弟姉妹が立ち上がった。

 

テンシの出現で人々の心は奴らによって支配されていた事が判ったからだよ。

 

何とか難を逃れた人々は彼ら彼女らに希望を託し四体の人造神を創り上げた。

 

それがガンエデンだ。

 

ガンエデンと共に各先史文明はテンシに対抗する為にムーからは『ライディーン』、国の名を忘れてしまったが『マジン』、ジパングと呼ばれる国から『ジーク』、古き中国大陸で『超機人』、独自に進化を遂げた種族『ソムニウム』、オーリンの戦士達など対抗する為の力が産み出された。

 

そしてテンシへの反逆の時が迫る中で各先史文明間で暴走が起こった。

 

君達がL5戦役から戦ってきた『ミケーネ』、『邪馬大国』、『妖魔帝国』らの軍勢だ。

 

そして超機人の中からも百邪に下る者達が居た。

 

混乱の中で僕も応龍王と共にナシムの配下として戦った。

 

これが機人大戦の一節でもある。

 

長き戦いの末に各先史文明が滅び去り、テンシとガンエデンが差し違える事で戦いは終わりを告げた。

 

そして生き残った人々の手で世界は再び平和を取り戻した。

 

 

「ここまでは良かったんだけどね…」

 

 

何とか生き残ったガンエデン達はそれぞれの銀河を守護する為に別れた。

 

何時か再び出会える様に『転移の門』を銀河の海に残してね。

 

それと同じ様にテンシ達も自分達の配下である『クロノ』を各地に散らばせていたのさ。

 

何時の日か自分達の復活と共に世界を彼ら自身が滅ぼす為にね。

 

全く、自分達は『救済者』とか自称するエゴな連中の考える事は判らないよ。

 

 

「まあ、旧西暦時代の僕らもその事を知って焦って空回りしちゃったって訳。」

 

 

『不謹慎な言い方で悪いけどね。』と付け加えて光龍の話は切り上げられた。

 

その話の後にリュウセイとマサキの感想が始まった。

 

 

「イルイのご先祖達はそんな連中と戦っていたのか…」

「じゃあ、ハスミの家系もイルイのご先祖に仕える一族の一つだったのか?」

「そいつは…」

「光龍が実の親父さんならそう言う事だろ?」

 

 

マサキの発言に呆れた表情で光龍が答えた。

 

 

「君、馬鹿だろ?」

「何だと!?」

「ここまで言って察しない何てとんでもない馬鹿としか言い様子がないよ。」

「どういう事だよ!」

 

 

喧嘩腰のマサキに対してギリアムが助言を入れた。

 

 

「つまり、我々の推測は当たっていたと言う事だ。」

「推測って…」

「ハスミ少尉、君の家系はアシュラヤーの巫女の直系の家系なのだろう?」

「…その通りです、ギリアム少佐。」

 

 

ギリアムの問いにハスミが答えた。

 

 

「…隠す気は無くなったのか?」

「無くなったと言うよりは素性が解明される日が近づいているので早期にと判断したまでです。」

「てことはつまり…」

「ハスミ少尉はアシュラヤー・ガンエデンの巫女でありホルトゥスの真のリーダーであると言う事だ。」

 

 

驚く事なく彼らは静観してギリアムの言葉に耳を傾けた。

 

そしてアクセルと凱もまた感想を告げた。

 

 

「とんだ爆弾が身近に存在したと言う事だ、これがな。」

「確かに隠す必要がある事実だ。」

 

 

ハスミは続けて説明に入った。

 

 

「バビルがBF団、ナシムがバラルと言う様にアシュラヤーはホルトゥスと言う組織を所持しています。」

 

 

自らの手の内を明かす。

 

それがどんなリスクを背負い込むのか理解した上で答えた。

 

 

「ハスミ…」

「これが私の隠していた秘密よ。最低だよね…今まで隠してきたんだもの。」

「そんな訳ねえだろ!」

「…リュウセイ。」

「そんな大事な事を誰にも話せねえよ!」

「でも…」

「ずっと抱え込んで来たんだよな、俺達の前で作り笑いする位によ。」

「うん。」

「他の義親父さん達はこの事を?」

「知っている、もうお父さんの事も含めて話もしてある。」

「そっか。」

 

 

リュウセイは『義親父さん達が知っているなら安心だよな。』と付け加えた。

 

 

「ハスミ少尉、この事は記憶保持者達の間で抱えさせて貰う。」

「ギリアム少佐…」

「この件を公にするには事が大きすぎる…その時が来るまで預からせて貰う。」

「いえ、ご配慮ありがとうございます。」

「何言ってんだよ。」

「マサキ。」

「お前の御蔭で今まで助かった奴は大勢居るんだぜ?」

「…」

「ずっと影で俺達の事を支えてくれていたんだろ?」

「私がそうしたいと思ったから…」

「いつかこの事が皆に判った時、きっと報われると思う。」

 

 

感謝の言葉をありがとうと…

 

 

「うん。」

 

 

私はつっかえた部分が抜けていく様に感じた。

 

私は安堵してしまったのだろう。

 

だが、突如私の脳裏にある情報が入って来た、

 

 

「!?」

 

 

今までにない酷い頭痛にハスミは座っていた椅子から転げ落ちた。

 

 

「お、おい…一体どうしたんだ!?」

「そ…」

「ハスミ?」

「そんな事って…」

 

 

痛みから解放されたのか頭を抑えつつハスミは立ち上がった。

 

彼女の目元から伝うナミダ。

 

 

「…スダ・ドアカワールドに転移中のアムロ大尉がダークブレイン軍団の手に堕ちました。」

 

 

彼女の危惧していた闇黒の魔の手は異世界にも及んでいた。

 

自らの正体を晒した代償とその対価は余りにも大きすぎたのだ。

 

 

=続=

 


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