その身に流れる縁。
この縁はその証。
私達は違える事は無いだろう。
前回の事である。
突如、アカシックレコードからの警告が鳴らされた。
私は傷みと共にそれを語った。
******
「アムロ大尉がダークブレインに捕まっただと!?」
「はい、間違いありません。」
ギリアム少佐の確認に私は肯定した。
続けて聞き慣れない世界の名前にリュウセイはハスミに質問したが、前世の記憶で面識のある凱がその一部を答えた。
「そのスダ・ドアカワールドって何だ?」
「確か、騎士ガンダム達が住む世界だった筈。」
「正確には並行世界のアムロ大尉達の魂に繋がりを持つ者達が生きる世界です。」
スダ・ドアカワールド。
ガンダム族と人族が住まうラクロア王国を支配せんとするジオン族の攻防から始まった世界。
後に様々な神話が産み出された。
問題なのはスダ・ドアカワールドには武者の国アークと英傑の国ミリシャが融合していると言う事実である。
これが何を意味するのか判らないが、何かの思惑でも絡んでいるのだろうか?
だが、何処かで接点があるとすれば在り得るのかもしれない。
「ハスミ、アムロ大尉がダークブレインに拉致された理由に心当たりはあるのか?」
「奴らとの接点があると言えば騎士ガンダムの方なのですけど…」
「騎士ガンダムが?」
「ええ、ロアの物語で騎士ガンダムはダークブレイン軍団のデブデダビデによって奴の生体パーツにされた記述がありましたから。」
「何だって!?」
「恐らくアムロ大尉はそれに感づいて自ら囚われた可能性もあります。」
キョウスケの質問に応対したものの予想外の答えに凱が声を上げた。
「ただ、アムロ大尉も系列の違う物語で敵に洗脳された事がある記述もありましたので…」
「そんな事が…」
「その物語ではアムロ大尉は敵に洗脳されて『ガンダムを狩る者』と意味合いを持つハンターに成ってしまいました。」
「だが、一体どうやって…」
「恐らくスダ・ドアカワールドへ進軍しているのはダークブレイン軍団の幹部クラス…デブデダビデ達の仕業で間違いないでしょう。」
「しかし、どうしてそんな事まで?」
「アカシックレコードの実況中継によるものです。」
「それじゃあクリスタル・ドラクーンとスカルナイトも?」
「その二名はミリシャへ進軍したものの現地の戦力に阻まれて撤退したみたいよ。」
「…良かった。」
「手駒にラマリスを使用していたのが敗因の様ですね。」
「どういう事だ?」
「向こう側はこちら側と違って魔物、妖怪、幽霊などの魑魅魍魎と言った存在への対処をしやすいですから。」
「その辺はラ・ギアスと似ているんだな。」
次の話に進めない為に私達はスダ・ドアカワールドの状況説明を一度切り上げた。
これにしても多大な情報量なので一度で話すには無理がある。
「現状で私達が注意すべき点は『修羅』、『デュミナス一味』、『ダークブレイン軍団』、『ギシン、ガルラ連合』、『火星の後継者』、『ガルファ』、『ロゴス』です。」
「待てよ、ガルファは空白事件で銀河達が螺旋城を破壊しただろ?」
「あれは先遣部隊、本来の目的であるガルファ本星となっている『アルクトス』の解放には至っていないわ。」
「あれが先遣部隊?」
「ええ、そして本星はデュミナス達の拠点の一つと推測している場所でもあるわ。」
「火星の後継者は?」
「演算システム自体を誰にも発見されない場所へ移動させたので前世の記憶であった奇襲作戦の展開はないと思います。」
「ギシン、ガルラ連合と言うのは?」
「ギシン星間帝国とガルラ大帝国と呼ばれ、双方とも空白事件中に同盟を結んでいたようです。」
「どちらも捨て置けない勢力と見ているが?」
「はい、一方は超能力者を戦力とし…もう一方はバッフ・クランとも並ぶ戦力を保有しています。」
「俺も前世で戦った事があるが、戦略、戦力に関しても侮れない連中だ。」
「ロゴスは既にザフト所有のコロニーの一つアーモリー・ワンでMS強奪事件を起こしています。」
「奪われた機体は?」
「アクタイオン・インダストリー社から出資されたテスト機でガイア・アビス・カオスの三機です。」
機体の名前にピンと来たリュウセイがハスミに訪ねた。
「そのMSってフリーダムみたいなガンダムなのか?」
「そうよ、リュウセイ…前者は一号機で本命の二号機はテストパイロット達と共に補給艦隊がオーブ経由でこちらの艦に向かっているわ。」
「え?」
「今頃、小父様の伝手でこちらの艦で預かって欲しいとテツヤ艦長達に通達が入っていると思う。」
「その小父様って?」
「国防産業理事って言えば判るかな?」
「まさか…ムルタ・アズラエルの事か!」
「正解です、小父様も私の協力者なのでご安心を。」
平然と爆弾発言をするハスミに対してマサキが愚痴っていた。
「どこまで隠し玉持っているんだよ…お前。」
「マサキ、備えあれば憂いなしって言うでしょ?」
発言した内容に唖然としている周囲を他所にハスミは話を続けた。
「お父さん、傷の方はどうでしょう?」
「君に分けて貰った念である程度は動けるよ、ただ…応龍皇だけは前回のダメージで起動出来ないからそこは理解して貰いたい。」
「判っています。」
ハスミの会話に疑問を持ったキョウスケが呟いた。
「前回のダメージ?」
「お父さんには空白事件の際に『黒のカリスマ』の動向を追って貰っていました。その時の戦闘で応龍皇に無理を…」
「泰北の呪符でもあればすぐに癒えるけど、無い物ねだりしても仕方がないからね。」
「何を言っているんです、人造スフィア機からのダメージを侮ると後に響きますよ?」
「そう言う訳でフルメンテナンス中って訳。」
「…(もしや、あの時の戦いでも満身創痍だったと?」
前世の記憶に於いて…
旧西暦時代の大戦でダメージを負っていたとは言え、あの戦力は健在していた。
もしも完全復帰した『応龍皇』が戦線復帰した場合を想像したキョウスケは背筋に寒気を過ぎらせた。
「あ、そうそう…君達に言って置く事があったよ。」
「話す事?」
「僕も君達に協力しよう、但し…」
光龍は一息置いてから答えた。
「…もしもハスミの身に何かあったら僕は全力で娘を護る選択を取らせて貰うよ。」
「肝に銘じて置きます。」
普段の表情とは違う冷徹な表情で光龍は告げた。
自身の娘に何かあった時は先に述べた選択を取ると…
それが脆い結束であると揶揄されている。
その約束にギリアムが応対した。
「…(まさかの親バカかよ。」
「…(こう言う所はハスミとそっくりなんだよな…やっぱり親子同士って奴か。」
内心でマサキとリュウセイが光龍の発言にコメントしていた。
後者に関しては光龍より「聞こえているからね。」と付け加えられていた。
「孫光龍、貴方の協力…感謝します。」
「そう言う事で、よろしく。」
巡り巡った縁は新たな縁を結び付けた。
その結び目は固く振りほどけない様に結ぼう。
私は選んだ新たな縁を切れない様に護るだけだ。
******
その後、ホンコンでの事後処理を後任の部隊とGGG機動部隊に引継ぎを行った。
そのままハガネは補給艦と合流後に宇宙へと上がる事となった。
理由は突如出現した謎の巨大建築物の調査である。
残りの鋼龍戦隊は地球各所にて出現した謎の集団の対処に当たる事となった。
ハガネはアクタイオン・インダストリー社から受領したテスト機と共に…
私達は更なる戦いに飲まれる事となった。
例のお父さんの件は艦長らの間で秘密にして頂く事となった。
私の家系の御家騒動によるものなので余り話せないと説明したら納得して頂けた。
オーダー繋がりでエルザム少佐達には真実を話しておいたが、余りいい顔はされなかった。
後はリシュウ博士に話すのみだが、どう決着を着けるかは不明だ。
迫りくる早期の予兆の暗躍を気にしつつ私は巡り遭った縁を無駄にしたくない。
=続=
舞台は宇宙へ。
そして現れる建造物。
選択を見誤らない様に刻む。
次回、幻影のエトランゼ・第四十九話 『ソーディアン《刀船》前編』。
荒ぶる闘争の終わりは遠い。