託された記録。
彼女はそれを希望とした。
そして少年は彼女の裏の顔を知る。
巨大建造物ことソーディアンと名付けられた施設から離脱して数時間後。
次元震によって行方不明になった五名の捜索困難の状況は続いていた。
次元震で転移経験のあるハスミ・クジョウ少尉が転移に巻き込まれた他四名の傍に居ただけ幸いと捉えていた。
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艦長らが先の戦闘でアクタイオン社からの出向者と天臨社のテストパイロットが転移に巻き込まれた件を各本社へ報告していた頃。
報告の関係でハガネとミネルバを連結させ双艦で行き来出来る様になっていた。
次の指示があるまで動けないのもある。
シンはかつての記憶で『Z事変』と『次元震』に関して識る為、記憶保持者達の会議に初参加する事となった。
「くそっ、俺が次元震の予兆に気が付いていれば…!」
「シン、終わった事を悔いても何も出ないぞ?」
前回と同様に鋼のグリーフィングルームにて。
次元震の予兆を知っていたにも関わらず、何も出来なかった事にシンは苛立ちを覚えていた。
キョウスケやギリアムがフォローしつつ話を進めていた。
「判っています…だけど。」
「シン、ハスミ少尉はそれを承知の上で我々に情報を預けた。」
「情報を?」
「ああ、現状を打開する為の手順と今回の戦乱を終結させる為の作戦の発動日時だ。」
「それをハスミさんが?」
「今は俺達が出来る事をしていくしかない。」
「…解りました。」
ハスミさんが慕っているって言っていたケイロンって人。
多分、俺の知るあの人かもしれない。
今…その話をしていいもんかな?
きっと何か理由があったんだろうな…
俺がステラを助けたかったのと同じように。
ハスミさんはあの人を助けたいのかもしれない。
もう少し様子を見よう。
「シン、どうしたんだよ?」
「マサキ…何でもない。」
「ハスミの事なら心配要らないと思うぜ、アイツ…結構しぶといからな。」
「マサキ、それハスミの耳に入ったら生身念動フィールドでぶっ飛ばされるぞ?」
「…大丈夫だって!」
考え込むシンに話しかけるマサキとリュウセイ。
マサキに至ってはハスミの悪口を言った為にリュウセイから釘を刺されていた。
そのやり取りに混乱するシンにリュウセイが助言した。
「えっと…」
「ハスミから念動者って事は教えて貰っているよな?」
「あ、はい。」
「いいか、絶対にハスミを怒らせるなよ?」
「…何かあったんですか?」
「俺からは言えねえ…アレは絶対に。」
青ざめて冷や汗をダラダラ流しているリュウセイの様子に多々事ではないと確信したシン。
「知りたければ空白事件のファイルを閲覧するといい、これがな?」
「…アクセル。」
「俺達は一切話していない、資料を見ただけなら構わんだろう?」
「…どうなっても俺は干渉しないぞ。」
口で言うよりも見せた方が早いと答えるアクセル。
その様子にキョウスケが嗜めるが一理あるので余り深くは言わなかった。
「閲覧するのなら映像データがあるが…どうする?」
「え…遠慮して置きます。(それ、絶対見たらいけない奴だ。」
この時シンは確信した。
その映像データを見てはいけないと。
「念の為、説明しておくが…ハスミが切れるまでの合間は複雑だ。」
「ふ、複雑?」
「ああ、ある程度は自制している様だが……ストレスを溜め込み過ぎて限界値を超すと俺達でも止めようがない。」
「敵味方問わず口論となればその三倍の毒舌、素手であれば問答無用で念動力込みだ。」
ギリアム、キョウスケ、アクセルの説明。
「おまけに笑ってないブリザードスマイルだからな?」
「そのせいでL5戦役の時なんかケーンの奴ら悲惨な目にあってたぜ…」
「アイツら…それがトラウマになっちまって目を合わせると飼い犬状態に陥ってた。」
L5戦役時、その光景を眼にしているリュウセイとマサキは青ざめた表情で語った。
「…(俺がオーブに居た頃に一体何が起こっていたんだ?」
自由になったステラ達と出会わせてくれた恩人はとんでもない人だとシンは自覚した。
茶々を入れつつ、記憶保持者達は託された情報を頼りに次の行動への下準備を進めるのだった。
******
一方、その頃。
=???=
何処かの草原地帯に転移した四機。
各パイロットと機体共に異常はなく外にも出られる状況だった為、情報整理の為に機体から降りていた。
「皆、無事か?」
「ええ、何とか…」
「これがハスミの話していた『次元震』か…テレポートと違って慣れないモノだね。」
「ハリス、ハスミは?」
「本人が眼を覚ますまで今は寝かせてあげておいた方が良い、ここずっと働き詰めだった様だし。」
「そうか…」
カーウァイの会話から始まり、テンペストとハリスが会話に入った。
ハスミに関しては疲労の為、目覚めないのでそのままにして欲しいとハリスより告げられた。
「…」
「そちらは天臨社のテストパイロット、ケイロン・ケシェット中尉だったな?」
「ああ。」
「君がハスミの…ね。」
「ケイロン中尉、貴方とハスミに何の関係が?」
「彼女は俺と共に在る事を誓い合った仲だ。」
「「「…」」」
この時、父親同盟三人の脳裏に何かが破壊される様なSEが響いた。
「む?」
同時にケイロンは彼らへの説明が不足している事を理解していなかった。
そんな勘違いな発言をすれば彼らは黙っていないだろう。
「ケイロン・ケシェット中尉。」
「ハスミの事で折り入って話がある。」
「勿論、逃げないよね?」
漏れ出る呪詛の様なオーラを醸し出した三人の笑っていない業務スマイルに対し。
その気配を感じつつもケイロンは無言で答えた。
この場に常識人らが居たのなら口々に語っただろう。
修羅場が始まったと…
=続=