その心は壊れかけていた。
幼き日の彼女は答えた。
何時か必ず力になると。
約束の日は近い。
次元震によって並行世界に飛ばされた私ことハスミ。
私が目覚めたのは転移から翌日の事だった。
******
私は機体から降ろされており、緊急用のサバイバルキットから出された防寒用シートの上に寝かされていた。
ヘルメットは外されているが、パイロットスーツのままである。
「っ…」
「ハスミ。」
「…テンペストお義父さん?」
傍に付き添ってくれていたのかパイロットスーツのテンペスト少佐がこちらの様子を伺っていた。
上半身を起こして状況を確認しようとするが眩暈で再びシートに戻る事となった。
「疲れが溜まっていたんだろう、もうしばらく横になっていなさい。」
「済みません……他には誰が居ますか?」
「私にカーウァイ中佐、ハリス、ケイロン…後は転移とやらに巻き込まれなかった様だ。」
「そうでしたか…」
「事情はハリスから聞いている、例の無限力とやらのせいと言うのもな。」
「…隠すつもりはなかったのですが。」
「制約とやらが絡んでいるとなれば仕方がないだろう。」
今回の無限力からの御題は私達五人で事を成せと言うのか?
兎に角、お義父さん達に危害が加えられない様にしないと…
ギリアム少佐にデータを託したし後は向こう側で何とかしてくれると思いたい。
「あの…私が眠っている間に何かありましたか?」
「それは他の三人が帰ってからにしよう……色・々・と話したい事があるからな?」
「は、はい。」
私は少佐の表情で理解した。
ああ、彼が説明不足な会話をしたのだと…
別の意味で頭が痛いです。
それから三人が戻って来たのは夕刻の事である。
三人が偵察して来た所、民家は見当たらず平原が続いていたとの事。
私が目覚めたら、翌日に偵察範囲を広げると決めて戻って来た。
「…」
焚火を囲んで対面上で下座に私とケイロン。
上座で左からカーウァイお義父さん、テンペストお義父さん、ハリスこと光龍お父さんの並びである。
三人とも業務スマイルですが、滲む禍々しいオーラは依然と漂っています。
はい、俗に言う修羅場会合の開始です。
「じゃあ、二人の馴れ初めから説明して貰おうかな?」
「…少し長くなりますが、始まりは私が母の死を弔ってからの事です。」
あの日は私の誕生日の三日前の事。
母の葬儀を終えて、私は祖父母から次代当主を受け継ぐ儀を受けていました。
そしていつの間にか私はある空間にいました。
「ここは…?」
蒼い、何処までも蒼い空間が広がっていました。
空の様で夜空の様で水の様で河の様で湖の様で海の様で深海の様で銀河の様で。
そう表現するしかない場所。
何処までも蒼い世界が広がっていました。
周囲を煌く光はとても幻想的で時間を忘れる様でした。
そして彼女は玉座と思える場所で座していました。
「貴方は誰?」
「…」
その女性はとても綺麗な蒼い髪の女性でした。
目元は髪で隠れていたので風貌は判らなかった。
触れられて判るのは包み込むような思念。
まるで母親の様な…
「こんなに…」
「?」
「こんなに幼い子を残して彼女は逝ってしまったのね。」
「お母さんを知っているの?」
「ええ、ずっと傍に…それでも触れられず見えず不可視の姿では彼女を救えなかった。」
「お母さんの為に泣いてくれるの?」
「貴方は悲しくないの?」
「ううん、悲しい…でも御爺様は当主として涙を拭いなさいって。」
「そう、でもね…大切な人との別れの時は泣いてもいいのよ?」
「いいの?」
「泣いてあげなさい。」
「お母さん…おかぁあさんっ!!」
私は彼女と一緒に泣いた。
母の死を弔う為に。
私にとっては二度目の人生の母であったが、母に変わりないのだ。
幼い身体に慣れてしまった私は幼いまま泣き明かした。
暫く泣き明かした後、彼女に名前を尋ねられた。
「貴方の名前は?」
「ハスミ、クジョウ・ハスミ。」
「ハスミ、よく聞きなさい。」
「?」
「貴方もまた私達の血を受け継ぐ者、貴方には酷な選択を強いるでしょう。」
「選択?」
「選びなさい、ガンエデンの名を受け入れるか否かを。」
私は彼女を…アシュラヤーを受け入れた。
アシュラヤーは話してくれた。
レンゲと同じ真っ直ぐな眼で迷いのない意思を感じると。
そして受け入れた私は別の空間に飛ばされた。
そして彼に出会った。
「お前は?」
「私?」
「他に誰がいる?」
傷ついた彼に問われた私は名前を告げて彼に問い返した。
「怪我をしているの?」
「ああ…」
「苦しいの?」
「判らん。」
傷だらけの身体で彼は答えた。
私は未熟だったから傷の治療も満足には出来ない。
ただ生きる力を分け与える事は出来た。
それは傷を癒す為の活力となってくれた。
私は彼の手に触れながら話を続けた。
「どうしてここにいるの?」
「判らん、いつの間にかここにいた。」
「私と同じだね。」
「所で何故、俺の手に触れている?」
「貴方が痛そうだったから。」
「…」
彼は私が手を触れ始めた時から体の傷みが徐々に引いていくのが判ったのかそのままにしていた。
「…ここへ来る前に俺は二度も仲間と故郷を失った。」
「どうして二度なの?」
「俺の中には前の人生とやらの記憶があったからだ。」
「え…」
「俺はやり直したいと思った、その為に力を付けて来た……だが、何も出来なかった。」
「…」
「この生でも同じ過ちを繰り返してしまった。」
私はこの言葉で彼が記憶を持つ者であると理解した。
だから救いたかったのかもしれない。
何も出来ずに同じ過ちを犯してしまった彼は苦しんでいた。
私は答えた。
「過去は変えられないかもしれない、でも未来は変えられる。」
「何故、そうだと言える?」
「私は決められた未来を変えたいって願いがあるから。」
「…」
「その願いの為に私は動くって決めたの。」
「それが困難な道であってもか?」
「困難かもしれないし緩やかかも知れない…それでもこの願いは誰にも捻じ曲げられないと思う。」
「…(幼き身なれどその真っ直ぐな眼を信じたくなる。」
「絶望があっても希望もあるって信じているから。」
「そうか…」
「?」
「ならば、俺にも手伝わせて欲しい…お前の願いに。」
「いいの?」
「代わりにお前が俺の願いを叶えて欲しい。」
「貴方の願い?」
「そう、俺の願いは…」
耳元で囁かれた彼の願い。
私は彼の願いを叶える事を約束して誓い合った。
「私はいつか必ず貴方の力になる!」
その言葉を最後に私は儀を受けた場所に戻っていました。
♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱
「それがハスミと彼の馴れ初めか…」
「はい。」
「だが、その願いはお前にとって辛い選択でもある。」
「それを受け入れるのか?」
「もう、決めました。」
光龍の一言からカーウァイとテンペストが感想を告げた。
私は迷いはないと話した。
「信頼しているんだね、彼の事。」
「言葉足らずと言うのも問題だが、ハスミの事を任せても…」
「いえ、まだ様子見をした方が。」
「テンペスト、気持ちは解るが。」
「僕もそれに賛成。」
「光龍。」
「確かにハスミは君を信頼しているが僕らはまだ君の事を信頼している訳じゃない。」
「信頼には足りぬと言う事か?」
「そうだね、どうするかは今後の君の行動で示して貰うよ。」
「だが、忘れるな…ハスミの身に何かあった場合。」
「僕らが君を地の果てまでも追い続けるからね。」
「ケイロン中尉、それがハスミと交際する為の条件だ。」
「…承知した。」
過保護気質な発言をした父親同盟。
それに対して了承したケイロン。
最後にハスミは赤面で叫んで修羅場会合は終わりを告げた。
「お…お父さん達っ///!!」
******
翌日、私は新天地へ出発する前に彼と話した。
「ケイロン…いえヴィル、あの時の約束を覚えていますか?」
「覚えている。」
「辛くはありませんか?」
「ない、当に心は決めている。」
「…判りました。」
私達は互いの片手を重ね合わせた。
「今一度、誓いましょう。」
あの空間で誓った言葉。
あの空間で誓い合った願い。
あの空間で受け入れた呪詛。
あの空間で互いに想いを刻んだ。
この歩みは早すぎるのかもしれない。
それでも大切な縁を救う為に共に旅立ちましょう。
「誓います、私の刀に誓って…貴方の願いを叶えます。」
「誓おう、俺の拳に誓って…お前を護り通す。」
この誓いは呪われた誓い。
それでも縁を繋ぐ為に受け入れる。
私達は呪詛を抱える覚悟は出来ている。
望まれた願いでなくとも護る為に呪詛を抱える事を決意した。
互いの蒼はその為の証。
=続=
縁を繋ぐ為に巡りましょう。
何時か何処かで巡り合う為に。
そして忘れないで。
絶望がある程に希望もまた存在する事を。
次回、幻影のエトランゼ・第五十一話 『旅界《リョカイ》』。
そしてあの日の為に繋がれる。
******
=その日の真夜中=
私はセフィーロでの旅で使用していた同型のキャンピングトレーラーから出ると夜空を見上げた。
寝付けないのもあるが、少し気晴らしを兼ねて外へと出た。
ちなみにコレについては手甲の宝珠から取り出したので気にしない事。
「…」
「眠れないのか?」
「ヴィル…?」
父親達はコテージの中で眠っていたので聞かれないだろう。
私は本当の彼の名を呼んだ。
「起きていたの?」
「ああ、お前と同じだろうな。」
「そう……傍に寄ってもいいかしら?」
「構わん。」
私は焚火の余韻が残る場所で座していた彼の傍に寄り添った。
「先はお父さん達が失礼な事を話して済みません。」
「いや、父親ならば当然の反応だろう。」
「普段は真面目なのですが…時々過保護気質が出てしまって。」
「それだけお前が大切にされていると言う事だ。」
「…そう思います。」
正直に言えば、お義父さん達には随分と助けられた。
私が知る真実を話してもホラ吹き噺と思われそうと思ったが…信じてくれた。
だから、この縁も護りたい縁だ。
「ハスミ。」
「ヴィル?」
彼は私を傍へ引き寄せた。
彼の温もりがとても心地よい。
「会いたかった。」
「私もです。(この感じEF以来かな。」
肌寒い夜風が揺らぎ雲は薄れて星空を煌かせた。
どうやら月の様な天体が見えない時期の様だ。
防寒対策の為に互いにパイロットスーツのままだが、頬に触れる彼の手が暖かい。
「ハスミ、聞きたい事がある。」
「何でしょうか?」
「この地はお前が知る場所か?」
「はい、ここは惑星ジェミナイ…その辺境地域です。」
「もしや、尸空達が侵攻しているエリアの…?」
「はい。」
現在、私達が存在する時期はZ事変における物語「ラスト・デイ」が始まる数週間前である。
出来る事ならこの惑星の人々を救いたい。
あの悲劇を回避する為に。
「ガドライト・メオンサム…そしてあの者達への償いの時なのかもしれんな。」
「ですが、貴方の正体を知られれば…」
「…解っている。」
彼の本来の立場が償いの時への障害となり下がっていた。
打つ手のないと言っている彼の様子にハスミはある一案を提案した。
「あの…この様な策はどうでしょうか?」
「聞こう。」
私が提案した事。
それは私の中の蒼き女神の威光を使う事。
御使いに対する抑止力。
私は絶望の中でも輝く小さな希望となってみせる。
「その手は危険を被るぞ?」
「構いません、貴方の願いを叶える為に私が望む未来の為には彼らの力が必要ですから。」
「…判った。」
「必要であれば、私の所持する山羊の力の事も話して置いてもいいと思います。」
「それは任せる。」
私は一通りの策を彼に説明した後にキャンピングトレーラーへと戻ろうとしたが、彼に呼び止められた。
「ハスミ。」
「っ。」
振り向き様に唇に触れたのは暖かさと温もり。
それは一瞬の内に終わった。
「ヴィル…」
「必ず、事を成し遂げるぞ。」
「…はい///」
私は指先で彼の名残を感じながらトレーラーに戻った。