幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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目指す未来の為に。

やるべき事は唯一つ。

彼らへの説得(物理)である。


対の付箋

話は少し遡り、インサラウムでの防衛戦に戻る。

 

私達は破界の王による激戦に晒された最中の聖インサラウム王国へと転移。

 

既にキング・インサラウム72世は破界の王によって戦死。

 

王国の首都も次元獣によって蹂躙されつつあった。

 

 

******

 

 

「…もう少し転移が早ければ!」

「ハスミ、悔いても仕方がないよ…今は出来る事をすべきじゃないのかい?」

「はい、判っています。」

 

 

破界の王ガイオウによる蹂躙の最中に転移した私達。

 

だが、大元の原因は根源的災厄こと御使いの仕業である事は理解している。

 

襲撃を行った理由はこの国に眠るスフィアの一つ『尽きぬ水瓶』の覚醒だろう。

 

そして『偽りの黒羊』のスフィアリアクターであるアイム・ライアードを差し向けた。

 

彼もまた御使いによって操られた被害者。

 

どこまで説得出来るかは判らないが…やるしかない。

 

 

「…(後方には王国の首都、前方には破界の王とアリエティス。」

 

 

国の旗頭とも言える機体が破壊された。

 

それだけでも国の防衛軍の指揮は一気に下がるだろう。

 

それでも鼓舞する事が出来る人材が存命なだけでも助かった。

 

 

「…(先ずは、この戦場の未来線を識る。」

 

 

『知りたがる山羊』の力。

 

膨大な情報を分別し因り確かな情報へ。

 

そして見えて来た答え。

 

ならば、やるべき事は唯一つ。

 

 

「カーウァイ中佐、テンペスト少佐、ハリスさんは首都に侵入した次元獣の相手をお願いします。」

「判ったが…その前にハリスの機体はどうするんだ?」

「私の機体を貸します、システムの調整は終わってますのでご心配なく。」

「…成程な、ハリスはどうする?」

「別に構わないけど、慣れない機体だから壊す可能性もあるよ?」

 

 

冗談にも程があるので私はハリスに遠い目をしつつ答えた。

 

 

「…面白がって貴方がハガネのシミュレーター弄ってたの知ってますけど?」

「あー」

「と、言う事なのでお願いしますね?」

「はいはい。」

 

 

拒否権はありません、しっかり働いてください。

 

 

「ハスミとケイロンはどうする?」

「真正面の親玉達を抑えます。」

「だが…!」

「無謀だと思いますが…」

「これは俺達にしか出来ぬ事。」

「ハスミ。」

「必ず戻ります。」

 

 

私はエクスガーバインの操縦をハリスと交代。

 

そのままコックピットから降りて蒼雷の手に乗り、親玉の元へと移動した。

 

 

「さてと、ハスミ達が戻るまで僕の念が何処まで持つかな…」

「ハリス、応龍皇と…勝手が違うかもしれないが無理はしないでくれ。」

「お気遣いありがとう、ま…僕もそろそろ暴れたいと思ったし邪魔にならない様にするよ。」

 

 

三人は機体を移動させ、首都へ侵入した次元獣の掃討へと向かった。

 

同じ様にこちらの転移に気が付いたインサラウムの兵士達だったが…

 

周囲の混乱でどうにもならない状況だった為に捨て置かれた。

 

同じ様に次元獣と戦う事で奴らと敵対している事は理解して貰えた様子だ。

 

 

******

 

 

「破界の王よ、こちらに接近する機影があります。」

「今度は何処の野郎だ?」

「判りません、ただ…インサラウムの機体ではない事は確かです。」

 

 

首都への進撃を止めていた破界の王ガイオウとアリエティスに搭乗するアイム。

 

自分達に接近する機影がある事をアイムが伝えたもののガイオウは静観していた。

 

 

「さてと何処の命知らずだ?」

 

 

ガイオウ達と相対する様にケイロンは機体を止めた。

 

 

「…幻の境界、それは現世にあって幽世にあらず、唱え、いざ往かん、仙郷の地へ。」

 

 

蒼雷の手で言の葉を紡ぐパイロットスーツ姿のハスミ。

 

言の葉を唱えた後、ガイオウ、アリエティス、蒼雷の周囲が光に包まれるとそれらの姿を掻き消した。

 

光が収まるとガイオウ達が居たのは曇天の空に広大な戦場を思わせる荒地だった。

 

 

「!?」

「ここは一体?」

 

 

動揺するアイムに対して答えるハスミ。

 

 

「ここは限仙境…云わば疑似結界の様なものです。」

「貴方がこれを?」

「ええ、ここならどんなに暴れても被害はありませんので。」

「暴れても…と言う事は我々と戦う気でいると?」

「それ以外に何かありますか?」

「疑問に思っただけですよ、貴方達が我々と戦うメリットは何ですか?」

「そうですね…しいて言うなら。」

 

 

アイムの問いにハスミは静かに答えた。

 

 

「単に貴方達を叩きのめしたいからです。」

「はい?」

「何だよ、そりゃあよ!?」

 

 

ハスミの答えに唖然とするアイムとガイオウ。

 

 

「言葉通りです、判りやすく言うなら……貴方達がムカついたからとも言えますね。」

「無様な醜態を晒すのが惜しければ負けを認めても構わんぞ?」

 

 

ハスミの会話の後に挑発めいた言葉を述べるケイロン。

 

 

「何だと?」

「聞き捨てなりませんね。」

「なら、戦いますか?」

「こちらは一向に構わんぞ?」

「ですが、そちらは一機…相手に不足では?」

「ああ…大丈夫ですよ。」

 

 

ハスミは蒼雷の手から飛び降りるとパイロットスーツ越しに手甲を出現させる。

 

そして埋め込まれた宝珠が呼び声と共に輝き始めた。

 

 

「念神顕現、エクリプス。」

 

 

白き輝きの中で黒と紫の煌くベールがハスミの鎧を形成し念神を呼び起こす。

 

 

「これで対等です。」

「成程、興味深い機体ですね……じっくりと調べてみたいものです。」

「そんな三流科学者の様なセリフが良く言えましたね?」

「!?」

「おや、図星でしたか?」

「どうやら貴方の相手は私で間違いないようですね?」

「ご自由に?」

「王よ、あの白い機体の相手…私に譲って頂いても?」

「構わねえよ、俺はそっちの蒼い機体の奴に用があるんでな。」

「…」

「判りました。」

 

 

戦う相手が互いに決まった事で限仙境での戦いが火蓋を切った。

 

 

>>>>>>

 

 

「自己紹介が遅れましたね、私の名はアイム・ライアード。」

「意味は『私は嘘吐き』か…随分な名前ですね。」

「まあ私の個性を兼ねてますから。」

「どうでもいいですけどね、私はハスミ・クジョウ。」

「ハスミさんですね、言って置きますが私も破界の王の様に一筋縄ではいきませんよ?」

「それは戦ってみてからでも遅くはないのでは?」

「おやおや、随分な自信ですね。」

「貴方の様に偽って逃げ出すのが旨い人程ではありませんけどね?」

 

 

ハスミはクスリと嫌味めいた言葉をアイムに告げた。

 

 

「…!」

「あらあら、これも図星の様ですね。」

「先程から貴方は…私の何が判ると言うのですか!」

「さて、何処まででしょうか?」

「くっ、もういいです…先ずは貴方から血祭りに上げて差し上げましょう。」

「出来るものならどうぞ?」

 

 

アイムは自分のペースが乱される様な話し方をするハスミに嫌気が差して戦闘を開始した。

 

 

「ブラッティ・ヴァイン!」

「…遅い。」

 

 

アリエティスより憎悪の血のツタが出現しエクリプスを襲うがハスミは瞬時に詩篇刀で薙ぎ払う。

 

何度か同じ手で攻撃をするが、見切られているのかエクリプスへの攻撃が貫通する事がなかった。

 

 

「それは唯の飾りですか?」

「…(何故だ?何故当たらない!?」

「嘘吐きな羊はその程度ですかね?」

「貴方は…!」

「ヒントを言うなら魔法を駆使する悪魔と言って置きましょうか?」

「悪魔ですか、貴方の言動にはピッタリの様ですね?」

 

 

引き続き、アリエティスの攻撃は続くがエクリプスは軽くあしらって流しの受け身に呈した。

 

呆れた様子でハスミは溜息を吐いた。

 

 

「…いい加減、認めたらどうですか?」

「何を?」

「貴方が自分を偽っている臆病者だと言う事をね?」

「!?」

「そうでなければ攻撃の一つ位は私に当てても可笑しくないじゃないですか。」

「何処までも私を!」

「おちょくっていると?」

 

 

ハスミは答えた。

 

 

「ええ……何度でも挑発しますよ。」

 

 

クスクスとハスミは続けてアイムを煽る様に答える。

 

ハスミは完全にアイムを自分のペースに引き込んでいた。

 

 

「…(何ですか、この恐怖は…アレは一体何なのですか!!」

 

 

アイムがハスミが与えたヒントに注目していれば、現状を打破出来たかもしれない。

 

だが、頭に血が上った彼が気付く事は無い。

 

 

「…(さて、ヴィルの方も説得が曖昧になったみたいだし…お開きにしましょうかね。」

 

 

ハスミはエクリプスの刀を構え直すと仕切り直しを始めた。

 

 

******

 

 

「テメェは一体!?」

「己の名を無くし、記憶を失ったお前に問われる必要はない。」

「くっ!(その声…何度も俺の頭をチラつかせるんだよ!!」

 

 

ゲールティランに座する破界の王ガイオウ。

 

相対する蒼雷。

 

二体の激戦は限仙境を崩壊させる勢いであった。

 

 

「破界の王よ、それは貴様の真の名か?」

「他に理由はいるのかよ?」

「己の使命を忘れ…奴らの意のままに動く悪鬼と化した今のお前には相応しくない名だろう。」

「テメエ、俺の名を知っているのか!?」

「言った筈だ、今の貴様には相応しくない名だと?」

 

 

ケイロンは破界の王が記憶を失い、幾多の世界を破界し尽くした事をハスミより聞かされていた。

 

それ故にケイロンは破界の王に名を返す事を拒んでいた。

 

己の醜態にケジメを付けられぬ者にこの名は相応しくないと。

 

 

「今回の貴様との茶番はここまでだ、そろそろお開きとさせて貰う。」

 

 

蒼雷の脚部にエネルギーを集中させるとケイロンは破界の王の顔面部分に目掛けて一蹴り加える。

 

その姿はあのドロップキックを彷彿させる一撃であった。

 

その勢いで破界の王はゲールティランより吹っ飛び頭部から地面に叩きつけられる事となった。

 

 

「己の犯した所業を思い返せ。」

 

 

先の一撃で動かなくなった破界の王をその場に放置すると戦闘中のハスミの元へ向かった。

 

 

>>>>>>

 

 

「ひっ!?」

「まだやりますか?」

 

 

同時刻、アリエティスへ反撃を続けていたエクリプス。

 

まるで狼に追われた羊の状態の様にアリエティスはボロボロになっていた。

 

 

「性根は雑魚のまま虚勢を張って……まるで手の付けようがないお子様ですね?」

「ああ…」

「本来の貴方に足りないのは自信、忍耐、反抗心です。」

 

 

エクリプスは刀を振り上げるとアリエティスの左腕を斬り裂いた。

 

所々に罅割れと破損音が響く半壊のアリエティス。

 

 

「…まだ戦いますか?」

 

 

この時のハスミの眼差しは血を分けた父親と同じ眼だった。

 

圧倒的な他者への畏怖と冷徹な眼は狩る側の眼である。

 

 

「今日の所は…ここまでです!」

 

 

アイムは偽りの黒羊のスフィアを発動させ気絶している破界の王を回収しその場から消え去った。

 

ハスミはこんなもんかと自分で納得し限仙境を解除した。

 

 

「さてと、本体に揺さぶりは掛けたけど……いつになったら眼を覚ますかな?」

 

 

ハスミは意味深な言葉を発して一息ついた。

 

 

「ハスミ。」

「ヴィル、そちらの方は?」

「今の奴に名を戻す事は出来ん、時が訪れるまで彷徨い続ける事が奴の贖罪だ。」

「アカシックレコードの予言通りですね。」

「ハスミ、奴らは今一度仕掛けて来るぞ?」

「その時は丁重にお相手するだけですよ。」

 

 

その後、二度目のインサラウム防衛戦にてガイオウを退けたハスミ達は再び転移を繰り返し。

 

何度目かの次元震によって運命の地スダ・ドアカワールドへと転移するのであった。

 

 

=続=

 


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