その障害となるのは負の呪詛。
それは真実を覆い隠す為のモノ。
彼女は想いを包み込む。
前回、セントーの町を捜索中にデブデダビデと遭遇。
デブデダビデをを始め、配下であるプランドラー、ラマリスとの戦闘が始まった。
デブデダビデとラマリスに関しては耳にタコが出来る位に情報を知っているが…
ガンダムキラーことプランドラーと呼ばれた機体に関しては警戒しつつ行動しなくてはならない。
理由は搭乗者であるアムロ大尉の洗脳された度合いによるものだ。
念で感じた大尉に纏わりつく様なドス黒い濁りは尋常ではない。
そこで『山羊の眼』であの人がどれだけの仕打ちをされたのかは確認した。
…正直な気持ち、眼を背けたくなる位の光景だった。
彼の虚を突く様に助長させるダークブレイン特有の負の思念。
この負の思念からの濁りを取り除くのだけでも至難の業。
その件で導師クレフからもきつく説明を受けている。
『以前にも話した通り、対極にある二つの属性を使いこなすのは容易な事ではない。』
『何故、君がこの様な力に目覚めたのかは私にも理解出来ない。』
『恐らくは君の生い立ちが理由と推測しているが、私はそこまで干渉するつもりはない。』
『対極の力を宿し、今後もその力を使うのであれば覚悟して行使して欲しい。』
まあ…簡単に言えば『生きる力』と『死する力』の均衡を保ちながら術を使うのだから無茶振りにも程があるだろう。
今回はその両方を使わざる負えない。
生と死の狭間に存在する虚無と調和の力。
あの負の思念を浄化するにはその力を少し利用した方が良い。
結論を纏めた私は再び意識を戦場に戻した。
「ケイロン、デブデダビデは魔術による戦法を行使します…奴との戦闘は十分注意してください。」
「…判った。」
「カーウァイ中佐、ラマリスはこちらの武器でも対処は可能ですが…問題は一定時間を過ぎると互いに融合する可能性があります。」
「融合だと?」
「はい、融合によるラマリスの強化体には複数のラマリスの融合体であるカーナと複数のカーナの融合体であるイーダが存在します。」
同時にラマリスが融合した回数に応じてより手強くなる事も伝えた。
「つまり時間を掛ける毎に奴らも強くなると言う事か。」
「その通りです、対ラマリスとの戦闘はハリスさんを中心に動いてください。」
「僕がメインかい?」
「ラマリスは強大な念動力…つまり正念による攻撃で奴らの負念を相殺する事が可能だからです。」
「成程ね…」
「了解した、俺とテンペストはハリスを中心にラマリスを、ハスミはプランドラーを、ケイロンはデブデダビデの相手を頼む。」
「「了解。」」
「了解したよ。」
「承知した。」
ハスミからデブデダビデらの対処法と戦闘プランを提案されたカーウァイはそれを元に戦術支持を行った。
元々、話が通じる相手同士が今回の戦闘メンバーだった事が功を成した。
ちなみに五人中…敵に回すと厄介な存在が三名程存在した事をデブデダビデが知るのは戦闘後の事である。
******
同時刻、ラクロア国内某所。
広大な草原地帯を航行中のラーカイラム。
そのブリッジでの事。
ブリッジクルーのトーレスらからの報告に応対するブライト。
「艦長、この先のエリアで戦闘が行われている様です。」
「位置は?」
「前回の戦闘で撤退したセントーの町からです。」
「一体誰が戦闘など…」
「ここからでは反応が小さく捉え切れません。」
「判った。サエグサ、艦を旋回…これよりセントーの町に向かう。」
「了解。」
「トーレス、カミーユ達に出撃準備を急がせろ。」
「しかし艦長、前回の戦いでクワトロ大尉が…」
「判っている、地の利に詳しい騎士ガンダム達の助力が厳しい状況に大尉への無理強いは出来ない。」
「艦長…」
「今はこちらに残された戦力で状況を確認する!」
ブライトは各方面に指示を出し戦艦の進路をセントーの町へと向けさせた。
彼らに起こった戦いで今までに何が起きたのか。
往くべき戦いの場で何が起ころうとしているのか理解出来ぬまま。
疲弊するしかない今の状況を打開する為に彼らには進むしかなかった。
>>>>>>
デブデダビデとの交戦を開始してから約一時間が経過した頃。
デブデダビデの配下であるラマリス達が初戦で在りながらも徐々に数を減らされていた。
「この武装、龍鱗機達とはちょっと違うけど…扱いやすい事に越した事はないね!」
ハリスがハスミより借り受けたエクスガーバイン・クリンゲ。
その武装であるストライク・アキュリス。
その力は己の愛機である応龍皇と酷似した武装の一つを模していた。
「さあ、どんどんいくよ…!」
「テンペスト、俺達もハリスに続くぞ!」
「了解!」
ハリスがストライク・アキュリスでラマリスを翻弄し彼の正念でラマリスの負念を除去。
それに続くカーウァイのアルブレード・カスタムとテンペストのエクスガーバイン・アクスト。
二機のライフルが負念を取り除かれたラマリスを撃ち貫く。
その戦法に悪態付くデブデダビデ。
「くそぅ!ラマリスが…!!」
「俺を相手にし……余所見をしている暇は無いと思え!」
「ぐぬぅ!!」
デブデダビデもまたケイロンの蒼雷による脚撃からの追撃に応戦していた。
「プランドラーは何をしている!」
プランドラーもまたハスミのエクリプスによる対撃で動きが取れずにいた。
「くっ!」
「眼を覚ましてください!アムロ大尉!!」
プランドラー機からフィンファンネルを思わせる武装とエクリプスの旋転の日鏡による武器のぶつかり合いは続いていた。
どちらも遠隔操作系の武装の為、二機の周囲を武装の嵐が起こっていた。
「くそう!どいつもこいつも役立たず共…ぐべぇっ!?」
余所見をしていたデブデダビデの右側の顔面部分に蒼雷の脚撃が突き刺さる。
その一撃が強かったのか町の郊外にある防壁だった瓦礫の山に蹴り飛ばされたのだ。
「答えた筈だぞ、余所見をしている暇はないとな?」
「ぐふぅ…」
何とか起き上がるデブデダビデであったが、ギャグ要因らしく右側の顔面が膨れ上がり鼻の部分から血液?の様な物が流れ出していた。
「よくも…この俺様のカッコいい顔に傷をぉ!!」
倒されていくラマリス達はデブデダビデの発言に全員一致で『鏡見てから言ってください。』と思ったそうな。
「貴様、この俺様を本気にさせた事を後悔させてやる!!」
突如デブデダビデに蓄積された負の思念と撃破されたラマリスの負念が寄り集まり、デブデダビデに吸収され更なる力を与えた。
「…来るか!」
「ケイロン!下がって!!」
「っ!」
デブデダビデの様子に嫌な予感を察したハスミはプランドラーをカーウァイ達に任せてケイロンの蒼雷を護る為に前に出る。
同時にデブデダビデの腕輪から召喚されたサイコ・クラニウムによる攻撃がエクリプスを襲う。
「お前ら、往けぃ!」
「!?」
紫色の怨霊サイコ・クラニウム。
奴らがエクリプスに突撃し動きを封じると巨大化したクラニウムの巨爪がエクリプスを抉る。
ハスミは寸前の所でクラニウムの巨爪を機体をズラして避けるが引っ掻かれると言う軽微のダメージを受ける事になった。
「うっ…!?」
「ハスミ!?」
「大丈夫、少し引っかかれただけ…」
ハスミは無事と答えるが…
念神もセフィーロの魔神と同様に機体にダメージを受ければ、その傷はパイロットが直接受ける事となる。
今のハスミは衣服の様な鎧が裂けて両脇腹にうっすらと裂傷を作っていた。
ジワリと両脇腹から出血と痛みが出始める。
「…(迂闊だったわ。」
ハスミは治療魔法で出血を止めると戦線に復帰しケイロンと共に強化されたデブデダビデに対峙する。
「貴様も魔術を行使するのか、面白い!」
デブデダビデは蛇の様な舌を出しながらハスミに向かって答えた。
「貴様も俺の手駒にしてやろう!」
「…誰がなるものですか!」
「ふん、こいプランドラー!!」
「っ!(まさか!?」
デブデダビデはプランドラー機を呼び戻すとプランドラー機ごと自身に吸収してしまう。
その光景は前世の記憶でデブデダビデが騎士ガンダムを取り込んで強化したのと同じ状況だった。
「だぁはははっ!!」
デブデダビデにプランドラー機の外装が装着され、より禍々しい姿へと変貌。
名称するならデブデダビデ・プランドラーと呼ぶべきだろう。
「今のは…!?」
「…取り込まれた様にも見えたね。」
「ハスミ、アムロ大尉は?」
「アムロ大尉の気配を感じますが……最悪な事に奴の中です。」
私はデブデダビデ・プランドラーに取り込まれたアムロ大尉の様子を山羊の眼で視た所。
辛うじてコックピット部分が奴の体内に残っている状態だった。
「このままでは下手に攻撃が出来ん。」
「かと言って野放しにも出来ないよ?」
「万事休すか…」
カーウァイ中佐達が状況を纏めようとしたが、今回の出来事を対処するのには無理があった。
かつては戦士ロアがその命と引き換えて騎士ガンダムを救った。
同じ状況を行うにしてもその手段は無理がある。
他に手段があるとすれば『次元力』の行使だろう。
だが、それは彼と私がスフィアリアクターである事を露見する事になる。
どうしたらいい。
…どうすれば!
「ハスミ。」
「ケイロン…」
ケイロンは機体越しであるが私の肩に手を添えた。
彼の意思を感じ取った。
彼の強い思いが私を落ち着かせてくれた。
私は彼の手に手を添えた。
重ねた手が暖かく感じる。
「…(重ねる、そうだ!」
どんな結末にも抗う『反抗心』、どんな結末でも見届ける『好奇心』。
黄道十二宮のクオリティでも相性は悪くない筈。
二つのスフィアの力を重ねる。
やるしかない!
「ケイロン、お願いがあります。」
「ハスミ?」
「私を……纏ってください!」
「「「「!?」」」」
私の発言に反応するケイロンとカーウァイ中佐達。
「どう言う事だ?」
「言葉通りです、私のエクリプスを鎧とし蒼雷に装着させます。」
「そんな事が…!」
「私がデブデダビデの負念を浄化しつつアムロ大尉の反応まで導きます、大尉を救い…デブデダビデにダメージを与えるにはこの方法しかないんです!」
「…」
「お願いします、時間の猶予はありません!」
「判った。」
現状、エクリプスの鎧の力に耐え切れるのは特機であるケイロンの蒼雷しかない。
本来は…
いや、もう迷わない。
「行きます!」
魔神と同様に念神も纏うモノ。
だったら異なるものに纏わせる事も出来る筈!
どうか、旨く行きますように。
この術に名を付けるなら…
「…念装合身。」
この時、ハスミの所持する『知りたがる山羊』がこの事象に対し反応した。
本来存在した概念に新たな概念を加えて全く異なる概念を生み出す。
それは『知りたがる山羊』の『好奇心』を揺り動かした。
新たな概念への好奇心。
それはサードステージへ昇る意志の力。
エクリプスはその意志の力に応じて己を鎧と化し蒼雷へと纏う。
格闘戦特化の蒼雷へ装着される鎧は真の意味で武神と化した。
「成功したのか?」
「そうみたいだよ、ハスミの念にも乱れはない。」
「ハスミ、ケイロン…頼んだぞ。」
その光景を見届けた父親三人はデブデダビデとの決着をハスミとケイロンに託した。
「ハスミ、これはもしや…!」
「その話はいずれ…今はデブデダビデを!」
「承知した…まずは奴の動きを止める!」
新たな力を手にした蒼雷はデブデダビデ・プランドラーへと向かった。
「ぐぬぬ、俺様の真似を!」
「厳密に言えば真似ではないです。」
「な?」
「貴方は無理矢理融合したにすぎない、私達は互いを信頼し力を重ね合わせた!」
いずれ来たる日の為に。
私は彼と重ねる事を望んだ。
彼と共に戦う事を誓った。
これはその為の歩み!
「…(俺への枷とはいえ蒼雷の動きが軽い、ハスミ…お前の御蔭なのか?」
「この状態なら貴方への障害はありません、存分に力を奮ってください。」
「判った…アムロ・レイは必ず救ってみせよう。」
エクリプスの鎧は隠蔽しているスフィアの力の気配を隠していた。
その為、ケイロンの中に存在するスフィアの力もその気配を隠したまま行使する事が可能である。
ケイロンは『立ち向かう射手』の力を解放しスフィア・アクトを発動。
能力の『重圧による力の制限』によってデブデダビデの動きが鈍くなった。
「!?(な、何だ…この俺様が奴に怯えているだと!」
圧倒的な畏怖と恐怖がデブデダビデを襲う。
全く動けず冷や汗を流し続けていた。
正に蛇に睨まれた蛙の状態である。
「ケイロン、大尉の位置が判りました…奴の胸部を狙ってください!」
「狙うはその一点のみ!」
ハスミはその能力を駆使しナビゲートをケイロンに送った。
「く、くそっ!?」
デブデダビデも恐怖に怯えつつもプランドラー機由来の武装で応戦するが…
一迅の矢と化した蒼雷の追撃を止める事は出来ない。
デブデダビデの攻撃はエクリプスの鎧から出現した鏡の武装でほとんど弾かれてしまっている。
一言で言うなら魔法の鏡を携えた者。
『魔鏡の射手』である。
「これで…!」
「終わりだ!」
蒼雷の一撃がデブデダビデを貫いた。
それと同時にデブデダビデの胸部に取り込まれていたコックピットブロックを回収する。
よろよろと動きが鈍るデブデダビデ。
「ぐふぅ………」
「まだ生きていたか!」
「しぶとさはダークブレイン軍団特有と言った所です。」
「くそう。俺様をここまで……この借りは必ず!!」
致命傷に近いダメージを受けたデブデダビデはそのまま撤退し行方を眩ませた。
「ハスミ、無事か!」
「はい、何とかなったみたいです。」
「全く、ヒヤヒヤしたよ。」
「ケイロンも済まなかった。」
「約束は守ると話した。」
デブデダビデよりアムロ・レイの奪還は成功。
そしてセントーの町へ急行したラーカイラムと合流。
私は腹を括ろうとしたが、再び発生した『次元震』によって転移する事となった。
私達の縁を巡る旅路はまだ続くようだ。
=続=
答えるべき真実は必然によって覆い隠される。
今は偽りの言の葉で先陣を切る。
次回、幻影のエトランゼ・第五十四話 『惑心《マドウココロ》』
縁を繋ぐ私達の旅路はまだ続く。