幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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語るべき真実は告げられた。

それは一つの結末に至るとしても。

私はこの歩みを止める事は無い。

それでも心の何処かが惑う。

私は愛する人と仲間をどちらを選べはいい?




第五十四話 『惑心《マドウココロ》』

セントーの町での戦いを終えた直後、ラー・カイラムと合流。

 

直後に次元震に巻き込まれ、元の世界への帰還から数日後。

 

私達は負傷した体を癒しつつ次の任務までセフィーロの城で待機命令が出ていた。

 

肉体の負傷はセフィーロの城で治療は可能だが、機体に関してはそうはいかない。

 

その為、ラングレー基地とテスラ研究所に修理用品並びに物資供給が到着するまでが待機期間となっている。

 

 

******

 

 

セフィーロ城、城内の応接の間にて。

 

 

「それではアムロとクワトロ大尉は…」

「肉体は兎も角、二人はその精神に深刻なダメージを受けている。」

「復帰には時間が掛かると?」

「恐らくは…私もここまで強力な負の力を感じるのは初めてだ。」

 

 

ブライトの問いに答える導師クレフ。

 

デブデダビデによって精神操作を受けたアムロとアムロを拉致された際に応戦したクワトロ。

 

両名はデブデダビデの魔術によって、その精神…心に深刻なダメージを負っていた。

 

今もセフィーロの魔術師達が彼らの精神を蝕んでいる負念を浄化する為に奮闘しているが遅々として進んでいない。

 

この為、彼らの戦線復帰は厳しいだろう。

 

 

「偶然とは言えハスミらの救出が早かった事が救いだろう。」

 

 

クレフは救出が遅れていれば…彼らはその精神を崩壊させ、廃人になっていたと告げた。

 

 

「彼らを含め、他の者達の治療もこちらで進めよう。」

「何から何までご協力に感謝します。」

「いや、光達と同様にハスミとロサには我々も返しきれない恩義がある。」

 

 

ブライトも報告書で知る程度だが、L5戦役の月面における月の絶対防衛戦線の奪還作戦後にハスミ、ロサの両名は謎の転移…後の次元震に酷似した現象によってセフィーロに転移。

 

そこで滅びに瀕したセフィーロを同じく召喚された光らと共に事態収束させた。

 

彼らにとっては故郷を救ってくれた伝説の英雄である事は間違いないだろう。

 

 

「ハスミは初対面とは言え、真摯に此方の事情を聞き察してくれた。」

「ええ、昔から周囲の空気を読むのに長けていると養父であるテンペスト少佐から伺っています。」

「成程、迷う光達を論し…道中の旅路を支えてくれたのも頷ける。」

「自分も遠目から見た程度ですが、他のメンバー同様に姉の様に年下の仲間達をまとめていました。」

 

 

時には勉学の課題に追われる子供達の勉強も見ていましたよ。

 

もしも幕張の事件が無ければ、文学の道に進もうとしていた様なので。

 

『教えるにしても半分は飴と鞭でしたがね。』と苦笑してブライトは答えた。

 

 

「彼女の思慮深さがあの時の私の深意とエメロード姫の本当の願いを見極めたのか…」

「洞察力に関しては私やアムロも人目置いています、彼女が念者だからと言う理由すら意味をなさない位に。」

「洞察力か…それで片付けるには少々気になる事が多すぎるのだが。」

「気になる事ですか?」

「ああ、彼女は…まるで前以って知っているかの様な素振りを見せていた。」

「それは彼女の念の力が原因では?」

「…そうか。」

 

 

クレフはハスミの不可解な行動をブライトに告げたが、何かあっての行動として話すのを止めた。

 

ブライトはクレフが納得し話を切り上げたとして対応した。

 

その後、滞在中の警備や政府からの補償などの話し合いが続けられた。

 

一方でラー・カイラムのクルーは交代で休憩を取りながらセフィーロ城で一時の安らぎを満喫していた。

 

転移騒動で様々な経験をして来た彼らであるが、そんな彼らにも休息と言うのは必要だ。

 

彼らの精神的支柱となっている人物達が今も負傷し病床に就いている今も不安は拭い去れない。

 

しかし、いつもの様に復活すると信じて今は待つしかない。

 

カミーユ達エゥーゴ組やジュドー達シャングリラ組も二人の帰還を信じていた。

 

道中で一同に加わった惑星ガイアの面々やラクロア騎士団も同様に負傷などで病床に就いているが、彼らも二人の再起を信じていた。

 

 

『信じる心が力になる。』

 

 

セフィーロ城で思いと願いが二人に届く様に祈りを送った。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

その夜。

 

私ことハスミは前回のデブデダビデ戦に於いて奴の攻撃を受けた。

 

それが負の力に由来する攻撃だった為に身体への安全を考慮して休養を余儀なくされた。

 

斬り裂かれた痕や出血の類はもう消えているが、後遺症なのか時折傷みが甦ってくる。

 

セフィーロ城の一室を用意された私はそのまま部屋の窓側で寛いでいた。

 

しかし、疲弊した私は室内に入る存在の気配を感じ取る事が出来なかった。

 

 

「傷自体が目立たないとは言え…己の身体を疎かにするな。」

「ヴィル、いつの間に?」

 

 

窓際に座っていた私は部屋の出入り口に顔を向けた。

 

声の主であるケイロンが気難しい表情でこちらを見ていた。

 

 

「こちらの気配すら感じ取れんとはな、お前の疲弊はこちらの予想を超えている。」

「恐らく…蒼雷に施した『念装合身』の影響だと思います。」

「…」

「ご心配をお掛けして申し訳ございません。」

「お前が謝罪する事は無い、今回の件は俺が奴の一撃を躱せなかった結果だ。」

「いずれ、貴方の片腕となる事を誓った身です。」

 

 

ハスミは『この程度こなせなければ意味はありません。』とケイロンに告げた。

 

 

「あの時の力、まさかと思うが…俺が失ったヴィシュラカーラの再現か?」

「はい、その通りです。」

「…」

「貴方は不本意と思いますが、あの現状でデブデダビデに立ち向かう方法はアレ以外思いつきませんでしたので…」

「いや、構わん。」

「ヴィル?」

 

 

ケイロンはその眼を伏せて答えた。

 

 

「…たった一人の女を護れん者が言えた立場ではないがな。」

「傷の事なら私が勝手に受けた事、貴方のせいでは…!」

「そうではない。」

「え?」

 

 

続けてケイロンはハスミに伝えた。

 

 

「俺は…お前が傷を負った時、その場から動く事が出来なかった。」

「…」

 

 

ハスミは話を続けるケイロンの元へ移動した。

 

 

「未だ、己の恐怖を克服すら出来ていない者が…この俺だ。」

「…何故です?」

「恐らくは俺の持つスフィアに課せられた新たな試練…なのかもしれん。」

「待ってください、スフィアはサードステージまでが覚醒範囲の筈……まさか!?」

「お前の言う様に変異したのだろう。」

「それは新たなステージへと上がる為の?」

「かもしれん。」

 

 

双子座のスフィアが二つに別れたのも私が山羊座のスフィアに選ばれたのも変異が原因?

 

アカシックレコードでも認識出来ない変異……一体何が起ころうとしているの?

 

 

「ハスミ、このままでは俺達の契約に支障が生じる。」

「判っています…新たなプランを立てて置く必要がありますね。」

「契約の為にもスフィアの新たなステージ…フォースステージへ各スフィアリアクター達を覚醒させなければならん。」

「…苦難の道ですね。」

 

 

サードステージ以上の力を引き出すフォースステージ。

 

それが一体何を齎すのか?

 

やっぱり…アカシックレコード通りにあの結末に進んでいるのだろうか。

 

その結末に近づくにつれて私は…

 

 

「ハスミ。」

「ヴィル?」

 

 

私はまた彼に抱きしめられた。

 

触れる感触、温かな彼の中に安堵している。

 

抜け出せなくなる位に優しい温もりを感じる。

 

そして彼の震える様な感覚もまた感じる。

 

彼は今も自分の中の恐怖と戦っている。

 

それでも彼はその膝を折る事はないだろう。

 

私は腕を通して彼を抱きしめ返すしか出来ない。

 

どうか、この願いだけは叶えたい。

 

彼との契約はその為の誓い。

 

 

「ヴィル、私は貴方を絶対に裏切りません。」

「判っている。」

「どうか、立ち向かってください。」

 

 

私はどんな時でも彼を支えよう。

 

例え、仲間を裏切る結果になったとしても。

 

 

>>>>>>

 

 

ハスミらが居る室内の外では。

 

 

(…困った事になった。)

(ああ。)

 

 

ヒソヒソと小声で話し合う三つの人影。

 

 

(ハスミとケイロンには救われたが…)

(今は様子を見るしかなさそうだな。)

 

 

娘の事が心配で覗きに来た父親同盟の姿があった。

 

流石の雰囲気に室内に入り込むと言う無粋な真似はしていない。

 

 

(ハスミ、これも君の成そうとしている事の一端なのかい?)

 

 

二人のやり取りを傍観しつつハリスは静かに呟いた。

 

 

=続=




決戦への道を作る為に必要なモノ。

手に入れる為に私達は対峙する。


次回、幻影のエトランゼ・第五十五話 『死鳥《シチョウ》』


死を告げる鳥は甲高く吠える。

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