幻影のエトランゼ   作:宵月颯

115 / 237
知っているだろうか?

死を告げる告死鳥の啼く声を。

地獄の炎の中で踊り続ける死体の姿を。

正史では語られなかった人々。

彼らもまたその世界に生きる者である。



第五十五話 『死鳥《シチョウ》』

私達はセフィーロ城での静養の間、ラー・カイラム組と情報交換を行った。

 

惑星ガイアでの戦いとスダ・ドアカワールドでの戦乱。

 

ダークブレイン軍団。

 

様々な要因が重なったとは言え、彼らの流れはCOMPACT3の物語に近いらしい。

 

違うとすればジュドーの妹のリィナが生活班要員で乗艦していたもののフォルカと出会わなかった事だ。

 

やはりOGの流れが強いのか今回のフォルカの癒し系妹枠はショウコになっている。

 

ま、合流すればごちゃ混ぜになりそうだから気にはしない。

 

危険と言う訳でもないし…

 

ちなみにメカンダー組は外宇宙メンバー入り、バランバランの件は遭遇しておらず有耶無耶。

 

惑星ガイアに転移した神崎ひとみはこちら側の世界の住人である事はアカシックレコードで確認済み。

 

接点があるとすれば、山海高校のオカルト研究会のメンバーとである。

 

勧誘の理由をあげれば彼女の予知能力とダウジングだろう。

 

初対面とは言え、彼女から不思議な眼で視られた。

 

バァンとアレンさんからは私も伝説の魔法騎士の一人である事をセフィーロ側から説明を受けていた様なので色々と神聖視された事にツッコミを入れたい。

 

どちらかと言うとバァンの方がアトランティス人の末裔だし神聖視されても可笑しくないんだけどね。

 

アトランティス人繋がりで某万能戦艦を思い出したのは気のせいと思いたい。

 

騎士ガンダム達に関しては…手に触れた時に人の皮膚と同じ感じがしたのに驚いた。

 

あの見た目なのに本当に不思議だった。

 

カミーユ達からはハリスさんの事、ジュドー達からはケイロンの事を根掘り葉掘り聞かれる事となったが遠回しにはぐらかして置いた。

 

カミーユに記憶が戻った兆しはないし、ケイロンの事は『お慕いしている人』で通して置いた。

 

無駄な事は言いません。

 

正直に言えばプリベンター組が別行動中だったのが幸いだった。

 

ヒイロとゼクスさんが居たら殺気交じりの拳銃込みで泥沼討論会が始まる所だったので…

 

まあ…一応勝てるから大したことないけど余り事を荒立てたくないが本音である。

 

と、まあ色々ありましたが有意義な情報交換を行えたと思う。

 

そして静養を終えた私達は上層部の命令で作戦の要であるソーディアンズ・ダガーを求めて修羅の出現回数が多い地域へ出発する事となった。

 

内心、アムロ大尉とクワトロ大尉が眼を覚まさない現状でその場を去るのは心苦しい。

 

一応、あの人達には念話で軽く事情を説明しておいたが微妙な反応だった。

 

お二人ともスダ・ドアカワールドで愛機を全損し動かせる機体の到着に時間が掛かる。

 

ちなみにハリスさんとケイロンの事は二人には感づかれてないので大事にはなっていない。

 

だからと言ってこのまま何もせずに時を過ごす訳には行かない。

 

今やるべき事をするのが今の私が出来る事だ。

 

 

******

 

 

中欧エリア空域・ダウゼントフェスラー機内。

 

輸送機を自動運行システムに切り替えて、最終ミーティングを行っていた。

 

カーウァイの号令からハスミが説明を開始した。

 

 

「ハスミ、始めから説明を頼めるか?」

「了解です。」

 

 

今回の任務はソーディアンズ・ダガーの奪取。

 

目的地はドイツ地区のシュトゥットガルト基地、同基地を制圧した『修羅』の内部勢力の一つである『赤の兄弟』の殲滅。

 

同時に正規部隊FDXチームと非正規部隊DMXチームと遭遇する事となります。

 

このチーム双方共にダニエル社の私兵。

 

こちらの行動に何かしらの横槍を入れる可能性も視野に入れてください。

 

 

「ハスミ、赤の兄弟とは?」

「赤の兄弟とは修羅の中で力を持つ一派の一つです、赤く塗装した修羅神ゼパルを所持し『グレダス・ミモザ』を長兄として仰ぎ、力による恐怖で弟達と呼ばれる部下を率いています。」

「力による恐怖?」

「はい、グレダスは強き者には媚び諂い…逆らう者は容赦なく切り捨てると言う非情な男です。」

「…」

 

 

ハスミの説明に対してテンペストが質問を入れた。

 

質問に対して応対した所、ケイロンもその応対に答えた。

 

 

「成程、そのグレダスには統率力に関して隙があるのか?」

「勿論です、正直に言えばこのグレダスを倒してしまえば連中の統率は混乱しますし…」

「押さえつけられた力以上の力を持つ者の前には屈服せざるを得ないのだろう。」

「…そう言う事です。」

 

 

この話の流れでケイロンはこちらの意図を察してくれただろう。

 

奴に慈悲は必要ないし徹底的に潰しても構わないと。

 

正直に言えば、この手合いのやり方に異議を求めているのは彼自身だ。

 

次元の将として放ってはおけないと…

 

 

「ハスミ…今回の件、ちょっと気になるんだけど?」

「ハリスさん?」

「確か、君が前に話していたこの時期に…鋼龍戦隊がソーディアンズ・ダガーを手にしている筈だよね?」

「そうですが、今回は少し流れが変わってしまっています。」

「どういう事だい?」

「正史では鋼龍戦隊がソーディアンズ・ダガーを奪取しますが、今回はある存在によって防がれてしまいます。」

「防がれる?」

「はい、デュミナス一派のティスの介入によってソーディアンズ・ダガーを破壊され奪取が出来なくなってしまうのです。」

「成程ね、今回…僕らがソーディアンズ・ダガーを手に入れなきゃならない理由がそれって訳?」

「ええ、またも無限力のお遊びによるものです。」

「…連中も懲りないね。」

「余程、この戦乱の行く末に戯れを入れたいのでしょう。」

「君はそれを黙って見ているつもりはない…だろう?」

「勿論です。」

 

 

こうしている間にも地球にガルファ本星の侵攻、外宇宙組へのギシン・ガルラ連合の追撃が起こっている。

 

他の皆が足止めをしている間に何としてでもソーディアンへの突破口を作らなければならない。

 

火星の後継者とアマルガムは国際警察機構とホルトゥスのメンバーが抑えてくれている。

 

そして超人同盟をBF団が、カンケルが出現したモーディワープの決戦の地にはビッグファイアが動いてくれた。

 

私の視た未来を信じて動いてくれた人達の為にも道を示す。

 

 

「ここまで手の込んだお膳立てをされたのですから…綺麗に平らげるのが筋では?」

「…(これ、完全に怒ってるね。」

「ふっ、流石は…」

 

 

「「「我々の娘だ。」」」

 

 

「…」

「…お父さん達、最後の最後で彼に口論しないでください。」

 

 

ケイロンが言い掛けそうな合間に父親同盟が揃ってハモり、それを遮った。

 

そのケイロンも無言のまま沈黙し、空気の悪くなった状況に対してハスミが呆れ口調で告げた。

 

最後に隊長であるカーウァイがミーティング終了を告げた。

 

 

「では、今回が我々対神秘現象対策部隊・STXチームの初任務となる…くれぐれも死ぬな。」

 

「「了解。」」

 

「了解したよ。」

「承知した。」

 

 

兼ねてよりレイカー司令から設立を許可された対神秘現象対策部隊・STXチーム。

 

カーウァイ・ラウ中佐を隊長に副隊長にテンペスト・ホーカー少佐、念動者パイロットにハスミ・クジョウ少尉、補充要員としてアラン・ハリス中尉とケイロン・ケシェット中尉、この場に居ないがサポートロボのロサ・ニュムパがメンバーとなっている。

 

知る者であれば近親者で固められた部隊とも言えるが、ハリスとケイロンの正体は公にされていないので赤の他人と思われるだろう。

 

尚、ハリスが表向きに所属するアクタイオン社とケイロンが所属する天臨社には既に打診が行われており、引き抜きの手続きは終了している。

 

ハリスはテストパイロットとしてPT並びにAM操縦も可能と書類上の記録に記載されている形にしたので横槍はないだろうしケイロンは自社商品である特機の売り込みと言う形で体裁を取っていた。

 

それに二人はソーディアン出現宙域で発生した転移現象に巻き込まれているので情報漏洩防止の目的も含まれている。

 

結論から言うと伝手と言う伝手を辿って裏権力使いまくりました。

 

こうでもしないと次の戦いで色々と布石が作れないので…

 

内心で反省した後にハスミは出撃準備に取り掛かった。

 

 

>>>>>>

 

 

一方、シュトゥットガルト基地では。

 

 

「弟達よ!死にたくなければ戦え!戦い尽くせ!血を滾らせろ!!」

 

 

既に戦いが始まっており、FDXチームとDMXチームの混合部隊が苦戦していた。

 

相手の修羅神の軍勢は戦術要素の欠片もない戦法で翻弄し動きが捕らえられないのだ。

 

独特の禿頭と髭が目立つ赤い轟級修羅神ゼパルを護る様に展開する烈級修羅神。

 

蝙蝠型のハルパス、カメレオン型のボフリィ、猛牛型のフラウス、アルマジロ型のグリモアの四種。

 

猫又型のシトリーが無いのは女性の修羅兵に慕われていないか逆に女は弱いと認識して傘下に加えていないと思われる。

 

しかし、戦力差は修羅側の方が有利なのは明白である。

 

 

「…予想以上に敵の数が多すぎる。」

「隊長さん、どーします?」

「撤退なんてアタシは嫌だよ?」

「私も同感です。」

「俺はどっちでも?」

 

 

FDXチームの隊長であるヴェスナーを筆頭に隊員のジマー、リェータ、ウタパル、オーセニが口々に感想を告げた。

 

 

「ミルトン、どうする?」

「俺達の様な部隊への援軍の期待はしない方がいい…」

 

 

DMXチームのライオネルとミルトンもまた現状に悲観しつつも出来得る事をする気でいた。

 

使い捨てとされた部隊に残されたのは死だけ…

 

それが死人とミイラと称された部隊に残された末路だったのかもしれない。

 

だが、死者に希望を齎す存在は居た。

 

 

「隊長さん、この空域に接近する機影…ダウゼントフェスラーですかね?」

「こんな所に?」

「まさか援軍?」

「そんなお膳立てをあのペテン師がするか!」

「では、あれは一体?」

 

 

シュトゥットガルト基地の上空から離艦する四機の機影。

 

一機目はPT、二、三機目はAM、四機目は特機、そして一つは人影である。

 

 

「あの…あーしの見間違いじゃなければ一人パラシュート無しでここにダイブして来てますけど?」

「は?」

「そんな事がある訳が…いや、本当らしい。」

 

 

機影の索敵をしたジマーが発言した言葉にリェータが素っ頓狂な声を発しオーセニが確認し真実であると答えた。

 

ダイブ中の人影に隣接する様に現れた特機の機影。

 

そして戦いの中間地点とも呼べる場所に粉塵を上げて着陸した。

 

 

「そちらのPT、聞こえるか?」

「貴方は?」

「こちら地球連合軍極東方面軍対神秘現象対策部隊STXチーム、私は隊長のカーウァイ中佐だ。」

「自分は地球連合軍南欧方面軍特殊作戦部隊FDXチーム、隊長のヴェスナー大尉です。」

 

 

二人の会話に一瞬の静寂が迎えた。

 

 

「…(カーウァイってあのカーウァイ?」

「…(例の旧戦技教導隊の総大将ですね。」

「…(妙にカスタマイズされたPTとAMに見た事もない特機が二機。」

「…」

 

 

リェータはカーウァイの名に反応、ジマーは納得、オーセニは現れた機体に注目、ウタパルは無言だった。

 

 

「極東方面の部隊が何故ここへ?」

「アビアノ基地に向かう道中でこの基地のSOS発信を感知し向かっただけだ。」

「では、援軍ではないと?」

「援軍ではないが、この状況を見過ごすわけにはいかない…助太刀させて貰おう。」

 

 

ヴェスナーらに味方であると告げるカーウァイ。

 

だが、この状況をひっくり返せる戦力ではない様子を見せるSTXチームにミルトンは無言のままでいた。

 

 

「助太刀って特機クラスが二機あってもこの軍勢じゃあ…」

「泣き言を言う前に戦う相手を潰してから言うのだな?」

「おい、如何言う意味だよ!」

「言葉通りだ。」

 

 

修羅の軍勢の前に無理があると判断したライオネルだったが、ケイロンは彼の発言を否定した。

 

 

「ハスミ、やれるな?」

「勿論です。」

 

 

既に臨戦態勢を整えたケイロンの蒼雷とハスミのエクリプス。

 

 

「ケイロンとハスミは周囲の敵の数を減らしつつリーダー格を目指してくれ、私達は零れた敵を相手にする。」

「承知した。」

「了解。」

 

 

カーウァイの合図と共に進軍を開始した蒼雷とエクリプス。

 

流石に特機二機では修羅の軍勢を相手にするには分が悪すぎると誰もが思った。

 

だが、その思い込みはものの数分で砕かれる事となった。

 

 

「…嘘だろ?」

「現実だ、ライオネル。」

 

 

蒼雷は脚撃を駆使し敵を翻弄しエクリプスは独自の戦法で混乱した修羅神を打ち倒していた。

 

そして漏れ出た修羅神をカーウァイらが迎撃し一気にその数を激減させていた。

 

 

「アタシ達は夢でも見ているのかい?」

「夢じゃなさそうですよ?」

「俺にもはっきり見えている。」

「流石は鋼龍戦隊の一員ですかね?」

 

 

エクリプスに関しては神秘的現象である魔法を駆使している。

 

あの少数精鋭で事を成せるのも理由の一つだ。

 

もしも相方であるエザフォスも加われば戦力差は歴然だっただろう。

 

 

「どうした、弟共!?」

「貴様ご自慢の肉壁は全て潰した。」

「後は貴方だけです、勿論……大口を叩いて置いて無様な醜態は晒さないと思いますけど?」

 

 

ゼパルの搭乗者であるグレダスはこの状況に混乱していた。

 

自身を護る肉壁である弟達が全て倒された上に残ったのは自分だけ。

 

そして目処前には自身が主と仰ぐ修羅の王以上の覇気を持つ者が立ち塞がったのだ。

 

 

「貴様は一体…!?」

「…低能な貴様に名乗る名などない。」

 

 

蒼雷の脚撃がゼパルのコックピット部分を蹴り砕いた。

 

あの衝撃では搭乗者は潰れて絶命しているだろう。

 

 

「…(良かった、FDXチームとDMXチームを護る事が出来た。」

 

 

敵修羅神の軍勢の殲滅を確認した後、私達はシュトゥットガルト基地を奪還する事に成功した。

 

基地内で強制労働を強いられた人々の解放も進んでいる。

 

そして奴らの置き土産であるソーディアンズ・ダガーを数機奪取する事が出来た。

 

 

「…(護れたのはいいが、結果的にFDXチームの人達の栄誉を奪ってしまった。」

 

 

事後処理でカーウァイ中佐達がやり取りをしている中で私は残骸となったゼパルを見ていた。

 

 

「アンタ、あの白い機体のパイロットかい?」

「はい、貴方は?」

「アタシはリェータ・ウィーバー少尉。」

「私はハスミ・クジョウ少尉です。」

「もしかして志願兵かい?」

「はい、L5戦役が初陣です。」

「ふうん、鋼龍戦隊のメンバーって聞いたからどんなのかと思ったけど案外普通じゃん?」

「はあ…?」

「ま、助けられたのは事実だし…ありがとね。」

「いえ、出来得る事をしただけです。」

「そう言う事にして置くよ、じゃあね。」

 

 

私はリェータ少尉と握手を交わした時に彼女の思念を読んでしまった。

 

やっぱり、あの人は怒っていた。

 

自分よりも年下に助けられた事に不甲斐無いと。

 

助ける為とは言え貴方達の正史を捻じ曲げてしまって御免なさい。

 

 

「決着は付けます…(戦いの地…ソーディアンいえラディ・エス・ラディウス4へ。」

 

 

移動し奪取したソーディアンズ・ダガーを見上げながら私は呟いた。

 

 

=続=

 




進むべき戦いは集約され最後の決戦に。

戦うべき宿敵は戦うべき相手に。


次回、幻影のエトランゼ・第五十六話 『転魔《テンマ》』


転ずる強大な魔。

そして一つの結末に。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。