抗えその運命に。
そして別れの言葉を。
平穏にさよならを。
暗き海辺で朱い炎が燃え上がる。
私は…
「ハスミ、ハスミ!」
「ハスミ!しっかりして!」
墜落したダウゼントフェスラーの残骸。
他の乗組員は襲撃を受けた際に生死不明。
生き残ったのはこの場に居る六名だけだった。
だが、重傷者も出ている。
「お…義父、さん…」
「ハスミ、私の声が判るか?」
「…生きてる、の?」
失神から目覚めたハスミはテンペストに支えられていた。
だが、自身が怪我を負っているのは理解した。
額から流れる血と脇腹に刺さった破片とその痛みが意識をより覚醒させた。
「他の…人達は?」
「残念だが、あの機体のライフル直撃を受けた時に…」
「…そう。」
爆発から護る為に咄嗟に念動の結界を張ったが時既に遅く。
テンペスト、カーウァイ、ティアリー、ロサと近くにいた後輩兵士三名だけ救えただけだった。
全員が何とか無傷だったが、所々埃と煙でボロボロになっていた。
墜落した場所が無人島だったばかりに助けを呼ぶ事は出来ない。
いや、助けを呼んだとしても謀殺されるだろう。
「ハスミ…」
「ステラ、アウル、スティング…貴方…達を巻き込…んでしまって…御免な…さい。」
自分自身よりも周囲の安否を気遣うハスミに対し、ボロボロと泣き崩れるステラを他所にアウルとスティングは虚勢を張り、口は悪いがハスミの安否を気遣った。
「オレ達の事よりも自分の事を心配しろよ!」
「俺達を庇ったせいでアンタは…」
「それだけ…元気な…ら、心配ない…か。」
ハスミの出血は続き、傍でティアリーとロサが応急処置を続けて止血は出来たが失血死の時間を引き延ばしただけだった。
「早いとこ…何処でもいいから医療施設に運び込まないとハスミちゃんの命が危ないわね。」
「私も出来得る限り治療を続けます。」
「ロサちゃん…」
「私は何度もハスミに助けられた、だから今度は私がハスミを助ける番です!」
「ロ…サ、ありがとう……でもね、私も…ここで終わ…る訳には…いかないよ。」
「ハスミ。」
「奴らの…ガイアセイバーズの…真意が判っ…た…以上は…私も…本当…の…意味で…本気…を出すよ。」
私は鎮痛剤を投与されつつもジワジワと来る傷みに耐えながらこの場の全員に答えた。
「私が…世界を…護る…為に…受け継いだ…蒼き…意思を…貫く…為に……一緒に…共犯…者になって欲し…い!」
世界を護る為に自分と共に共犯者になる事。
それは正義の女神の天秤にかける程の意味でもあった。
「…待たせたね、迎えに来たよ。」
龍達の長を従えた守護者たる存在と共に。
******
新西暦と呼ばれる時代。
修羅の乱から数か月後。
謎の転移騒動が勃発。
そして世界各地で引き起こされた二つのテロ。
事態の終息はしたものの指揮系統の混乱が続く連合政府。
これを期にグライエン・グラスマンが再び大統領へと返り咲いた。
そして大統領直轄の特殊部隊『ガイアセイバーズ』の設立を決定。
混乱する地球圏を守護する偽りの剣が産み出された。
この最中に同特殊部隊に転属予定の兵士を搭乗させた輸送機が相次いで襲撃を受けて失踪。
残骸が発見され、その多くは消息不明が戦死とされた。
仲間の死を受け入れる暇もなく新たな侵略者と戦う者達と転移世界で帰還の道を模索する者達とで別れた。
封印するモノ、封印されるモノ、閉じ込めるモノ、消失させるモノ。
混乱は続き、世界は再び戦火の危機に陥った。
地球の剣と成る者は誰なのか判らないまま…
人類は情報の混乱と共に絶望の時を向かえるのだった。
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「貴方は誰?」
白き女神の器。
「私も貴方と同じ存在。」
蒼き女神との会合。
「私は…」
「答えを出すのは早いわよ、まずは世界を見つめましょう。」
二人の女神が歩む先にあるものとは?
「ナシム、アシュラヤー、それが君達の答えかな?」
「バビル、私は…私達はもう迷わない!」
「そう、この先の未来の為に…私達は目覚めた!」
白と蒼と紅は集う。
破滅の王と新人祖との決着を付ける為に。
次回、幻影のエトランゼ・第四章『封印ノ詩篇』。
「私はアシュラヤー・ガンエデン、今ここにその名を晒しましょう。」
そしてさよなら。
私は世界を護る為に貴方達と別の道を歩みます。
だから見守って欲しい。
何時の日か。
その道が交わる時を。
クロスゲートはその為の意味を。