幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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死人に口なし。

誰がそんな事を伝えた?

この世に科学的と非科学的が存在する様に。

それはコインの裏表と同じく切れない関係。

だからこそ目処前に現れた。

怨嗟を纏った幽霊らが歩み寄るのだ。


第六十二話 『幽霊《ゴースト》』

封印戦争。

 

それは一区切りでは出来ない程の戦乱が集約された戦い。

 

前世上の記憶を持つ者達が持つ知る記憶と差異が生じる為に大雑把に仕分けられた。

 

前者は四人の視点を主軸に起こった封印戦争の出来事。

 

異星人連合であるバーム星人、暗黒ホラー軍団、ボアザン星人が地球へ侵攻。

 

今回はベガ星連合と壊滅させた筈のガイゾックを中心としたスカルムーン連合に最近加入した暗黒ホラー軍団が戦乱を仕掛けている。

 

バーム星人らは既に地球との共存声明を発表、火星を拠点に植民地化の活動に協力している。

 

ボアザン星は現在上層部内で内部抗争が発生している為に今回の戦争には参加していない。

 

地下勢力のミケーネ帝国、恐竜帝国、邪魔大王国が地球制圧行動を取る。

 

今回の邪魔大王国は既に空白事件で壊滅、地下勢力はミケーネと復活した恐竜帝国に絞られる。

 

オルファン浮上を期にリクレイマーらが反乱を起こす。

 

これに関しては前世組の記憶からも対応策があったので改善案をホルトゥス経由で国連事務総長宛に送り、今も会談が続いている。

 

メガノイドが全人類のメガノイド化を目論む。

 

既に万丈がL5戦役時にフルボッコ済みの為に沈黙。

 

異星の機械種族であるゾンダーが地球人類の機界化を目論む。

 

空白事件で機界新種共に消滅しているが今回はソール11遊星主による戦乱が前倒しで起こっている。

 

ドクーガが独自の目的でビムラー奪取を目論む。

 

ドクーガに関しては国際警察機構がその動向を探っている。

 

シャア一派とハマーン一派のネオ・ジオンと木星帝国の連合でアクシズを地球へと落下させる。

 

今回はL5戦役後に連合政府となった時点でジオンやコロニーの自治権は認められているので特に問題はない。

 

だが、姿を現した木星帝国とザフト側との混乱が続いている以上は戦いは避けられない状況である。

 

後者の記憶はもう一つの記憶に記された封印戦争の記録。

 

ガイアセイバーズ、ノイエDC残党、バラル、ゲスト、ルイーナの五つの勢力によって起こった戦乱。

 

今回はガイアセイバーズ、Anti・DC、バラル、ゲスト、ルイーナの勢力となる。

 

この件に関してホルトゥスがBF団と共にバラルとルイーナに対応している。

 

ノードゥスは引き起こされた戦いのうねりに飲まれつつ、鋼龍戦隊は反逆者の烙印を押されようとも戦い続けなければならない。

 

最後に前者と後者の記憶に残るガンエデンの出現と地球封印の件。

 

ガンエデンに関しては未だその姿を見せていない事もあり動向は不明。

 

四体のガンエデンの内、修羅の乱で行方知れずとなったナシムとダウゼント・フェスラー襲撃事件で消息を絶ったアシュラヤーの巫女達は現在も行方知れずのまま。

 

最後に記憶保持者達の間で正体が判明しているバビル・ガンエデンことBF団首領・ビッグファイアの動向が不明の今…

 

人類と世界は予想を超えた混乱へと突き進んでいた。

 

 

******

 

 

幾度の次元転移騒動と度重なる戦いが続く中。

 

ガイアセイバーズが地球を守護する剣となり鋼龍戦隊がグライエン大統領殺害の汚名を着せられ逃亡する事態となった後の事。

 

現状で行動が可能なノードゥスメンバーは鋼龍戦隊から真実を伝えられたが、連合政府による圧力を切っ掛けに一時的に部隊名を『αナンバーズ』と呼称。

 

上層部に言われるがまま事態収拾に携わった。

 

鋼龍戦隊はそのままガイアセイバーズの動向を探る為に別行動を取る事となったが…

 

テスラ・ライヒ研究所への襲撃事件を切っ掛けにブリッドが虎王機ごと破壊され行方不明。

 

龍王機の破壊とブリッドの行方不明を目処前にした事でクスハも姿を消してしまったのであった。

 

前者の出来事は想定されていたが、後者に関しては何かの思惑が絡んでいると思われた。

 

プロジェクト・TDのメンバーはテスラ研襲撃時のフィリオの死によって関係が決裂し解散の危機。

 

教導隊のメンバーの内、アラドとゼオラはガイアセイバーズへの出向を期に行方知れず。

 

トロンべ隊・隊長のゼンガーはテスラ研襲撃の際に連れ去らわれたソフィア奪還の為にただ一人出奔。

 

αナンバーズに参加していない元ノードゥスのメンバーの多くも連合政府からの圧力で動けない状況が続いていた。

 

修羅の乱まで共に戦った平行世界のメンバーは既に元の世界へと帰還。

 

真相を知るも動けない現状はそれぞれに苛立ちを与えていた。

 

希望を捨てずに戦う事しか今の彼らには出来なかった。

 

いつしか希望は絶望へと変わり。

 

歪んだ力は欲望へと切り替わる。

 

心は燻り始めていた。

 

 

>>>>>>

 

 

テスラ・ライヒ研究所襲撃事件後の伊豆基地にて。

 

アビアノ基地から移送中だったSTXチームの機体が全て奪取される騒動が発生。

 

輸送機とパイロット達に被害は無く機体のみが消失していたとの事。

 

逃走中の鋼龍戦隊はイティイティの基地にてその件を聞かされた。

 

同基地内の一室にて。

 

ギリアム、カイ、エルザムの三人が話し合いを行っていた。

 

 

「どう見ますか?」

「…」

「自分はカーウァイ中佐らが何らかの手で生きているが表に出る事が出来ないと推測しています。」

「だとしても機体を奪ったのが別の者だったら…」

「残念ですが、カーウァイ中佐らの機体は天臨社製の生体認証コードが必要になっています。」

「無理に乗れば機密保持で自動爆破か…」

「あるとすればギリアムの推測が当たっていると思っています。」

「では、STXチームは生きていると?」

「可能性はあります。(そうハスミ少尉ならば可能な事。」

 

 

三人の中で真実を知るギリアムは内心であの状況下でも離脱は可能と推測していた。

 

残りの二人は『生きている可能性があるSTXチームが何かを知った為に表舞台に出てこないのでは?』と結論付けた。

 

 

「この事は今は伏せて置いた方が…」

「…ブリッドやクスハの行方不明もあいつらには相当堪えているからな。」

「では、知るべき時には話す…と言う事で?」

 

 

三人は立て続けに起こった仲間の失踪、死亡、離脱によって心身を疲弊した鋼龍戦隊に余計な希望を持たせる事はせずにいた。

 

だが、この願いも空しく瓦解する日が訪れようとしている事をまだ知らない。

 

一方その頃。

 

テスラ研襲撃事件後、太平洋沖合の某所にて。

 

 

「何とか間に合ったけど…重症だね。」

 

 

霊亀皇の内部にてため息を付きながら答えた光龍。

 

同内部の広間には回収した龍王機の残骸、ドサクサに紛れて回収したグルンガスト弐式。

 

調整槽で眠る数名の姿があった。

 

 

「でもまあ、ハスミの言う通り…これが無限力の契約違反越えのお遊びならタチが悪い。」

 

 

テスラ研襲撃はハスミより前々から伝えられていた。

 

そして死亡する人物のリストも添えられてと言う用意周到。

 

光龍は予告通りテスラ研襲撃の中へ潜り込み、負傷した人々を回収したのである。

 

あのままにしておけば助かる命も救えない。

 

瓦礫に圧し潰され生存不明と言う虚偽情報を敵味方双方に与える為にあえて行動したのだ。

 

 

「カーウァイは社長達と会談、テンペストは機体の回収……合流までに時間があるしガイゾックの緑ブタ君の相手でもしてこようかな?」

 

 

光龍は帰路の道中にある赤道直下の諸島群に戦闘を仕掛けているガイゾックへの報復を模索していた。

 

後にガイゾックはたった一体の機動兵器によって部隊を失い敗走せざるを得ない状況となる。

 

 

******

 

 

テスラ・ライヒ研究所襲撃事件から数日後。

 

天鳥船島の最下層、立ち入り禁止区画の最深部にて。

 

数週間前に光龍達が居た場所にあった大型容器が動き始めていた。

 

容器を満たしていた液体は抜かれ容器内部に敷き詰められていたコードが徐々になくなっていった。

 

全てが取り払われた後に起き上がる二人の姿。

 

気管内に残った液体を排出する為に多少咳き込んでいた。

 

不鮮明な意識が覚醒したのちに二人は会話を始めた。

 

 

「ヴィル…」

「ハスミ、どうやら後手に回った様だな。」

 

 

隣で液体に濡れた髪を梳く様に撫でるケイロンとその手に触れるハスミ。

 

 

「その様です。」

「どうするつもりだ?」

「手は打ってあります。」

「抜かりはない様だな。」

「あの様な手で嵌められた訳ですし、少し位のイカサマはしても良いと思いますよ?」

「それは俺も同意する、お前から滲み出る気配…尋常ではないからな。」

 

 

ケイロンは隣で起き上がったハスミの様子に一早く気が付いた。

 

冷静な様ではあるが、既に切れていると…

 

穏やかだった蒼い瞳は鋭さを増した刃の様な瞳に代わっていた。

 

普通の人間が居たのなら卒倒若しくは即死するレベルの殺気を出している。

 

自制し抑えてはいるものの滲み出る気配がそう感じさせた。

 

だが、心のどこかでその諦めないと言う反逆の姿勢を俺はハスミに求めていた。

 

ハスミは一度目を伏せると静かに答えた。

 

 

「TIME TO COME…時は来ました。」

 

 

目覚めの時が訪れた。

 

女神は世界を廻る。

 

ただ一つの結末から世界を護る為に。

 

あらゆる限りの手を尽くそう。

 

 

=続=

 




それは目覚め。

それは出会い。

それは決別。

それは反逆。


次回、幻影のエトランゼ・第六十三話 『幻想《アシュラヤー》』


真の目覚めは奇跡の始まり。

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