この時が来るのを拒んでいた。
それでも時は訪れる。
私はただ護りたい者の為に戦うと決めた。
テスラ研襲撃事件から数週間後。
混乱が続く中、地球に異変が起こった。
地球と宇宙との交信が突如途絶。
地球は太陽を失い、宇宙は地球の姿を失った。
地球側では太陽を失った事で地表の温度は急激に下がり光と暖を求めた人々によりライフラインの混乱が引き起こされた。
これにより連合政府は各都市部を中心にライフラインの確保に対応せざる負えなくなった。
暗い空は人々を悪夢に引き込む長い夜の始まりを告げた。
******
天鳥船島、立ち入り禁止区域・最深部。
玉座の間にて玉座に腰掛けるハスミの姿があった。
普段着と化していた軍服ではなく巫女装束に似た衣装を纏っていた。
その横に控えていたケイロンと会話を続けている。
「後手の後手に自分のターンが回ってくるとは思いませんでしたが、正直痛いです。」
「破滅の王…負の根源にして世界の消滅を司る存在だったか?」
「はい、現状ではクロスゲートの奥に押し返すしか手段はないですね。」
「十二のスフィアの共鳴ならば或いはと思ったがな…」
「無いもの強請りしても解決しませんし今は出来得る限りの最善策を取るしかありません。」
「…そうか。」
ハスミはため息を付いた後に次の話題に入った。
「お父さん達が頑張ってくれたのはいいのですが…張り切りすぎて色々と被害でちゃっているんですよね。」
「あの件か?」
「はい、悪く言えば記憶保持者の人達に要らぬ疑いを掛ける羽目になりました。」
如何言う訳か記憶保持者側で私が光龍お父さんに洗脳されて行動しているって思われているんですよね。
否定はしたいです。
何処を如何すればそうなるのか全く理解不能ですしハッキリ言って勘違いレベルを越しています。
また無限力の陰謀としか思えない。
クスハやブリットの失踪の件で鋼龍戦隊の皆も動揺しているだろうし。
ブリットめ…またクスハを泣かせるならエターナルヒヨコ改め『まるで駄目な男』と認定してやる。
L5戦役から口酸っぱくして念動の修行を怠るなって言って置いたのに。
修行のやり方を失敗して前世同様に念の質が微妙に上がってない。
元々ブリットの念の本質って真っ直ぐすぎるから洗脳されやすいんだよね。
クスハの念も未だ不安定だし無理強いは出来ないか…
「ガイアセイバーズ内部にも助けたい人達が居るので仕留める目標はアルテウルと側近に絞りたいですね。」
「お前の事だ、そう簡単に奴を引き摺り下ろすつもりはないのだろう?」
「勿論です。」
しかし、奴は何処からアゾエーブの情報を手に入れた?
クロスゲートパラダイムシステムの研究を継続していたのなら在り得なくはないけど…
流石にアゾエーブの残骸を回収されるのも困るし。
早々に破壊して置くか…
他の勢力にアゾエーブが全並行世界に干渉し破壊すら出来得る兵器って事を知られる前に。
「今回のゲストに関しても地球を狙う目的はバルマーへの抑止力が欲しいからですし。」
「規模に関してもサイデリアル程ではないらしいが?」
「サイデリアルが複数のスフィアを所持している時点で戦局は目に見えています。」
もしもゲストとサイデリアルが衝突する事があれば戦力差は目に見えている。
ゼル・ビレニウム二機程度で恒星間航行の可能な文明を破壊する事が可能な戦力を保有している。
スパロボ事情なオチで同じ星間軍事連合の中での戦力差は圧倒的に差がありすぎるのだ。
設定が作られた時期を照らし合わせても数年差だが時代の流れとは末恐ろしい。
そんな組織との戦いを控えるノードゥスには悪いが今回の戦乱も生き抜く事が出来なければ同じ土俵に立つ事すら不可能と言いたい。
私も単に甘い汁だけを啜らせるほど弛んではいない。
絞め所は決めている。
「今の所、フューリー側が秘密裏に共闘を結んでくれた事には感謝しないといけません。」
本来なら地球連合政府に難民指定で受け入れをして貰おうとしたが、現政権では非常に無理があるので保留のままにしている。
一応、移住先の惑星に心当たりがあるのでそれと引き換えと言う形で共闘して貰っている。
別に同化計画続行でもいいんですけどね。
「ヴィル、あの日の宣言通り…私はアシュラヤーとして動きます。」
「覚悟を決めたのだな?」
「はい、例え後ろ指を刺されようとも私は立ち向かい進みます。」
「ならば見せて貰おう、この俺の片腕と足るかをな?」
「ええ、失望はさせませんよ。」
そう、私はあの日誓った。
彼との誓いを果たすに私は戦うと。
「そろそろかしら?」
「?」
玉座の間に入る数名の人影。
光龍を先頭にカーウァイ、テンペスト、ロサ、ピート、クスハの順である。
ハスミの姿を見たクスハは安堵の表情で声を上げた。
「ハスミ、無事だったのね!…それにここは一体?」
「ここは天鳥船島、ホルトゥスの本拠地と言ってもいい場所よ。」
「えっ?」
「クスハ、これから話す真実は貴方に酷な選択を強いる事になる…それでも聞いてくれるかしら?」
「どういう事なの?」
「貴方やブリット…超機人を襲った組織とガイアセイバーズの正体についてよ。」
混乱するクスハに私は落ち付かせてから語った。
今まで姿を隠していた理由。
クスハとブリット…テスラ研を襲った組織であるバラルについて。
秘匿されたオーダーファイルの真実。
私の一族の真実。
ガイアセイバーズの正体と目的。
外宇宙からの新たな侵略者。
それらを事細かく語った。
「ハスミ、それじゃあ貴方は!」
「私がホルトゥスの真のリーダー……今までブルーロータスを介して助言を与えていた。」
「…」
「ずっと黙っていた事は謝るわ、それでも隠し通さなければならない秘密…軽蔑しても構わない。」
「そんな事は無いわ!」
「クスハ…」
「ハスミはずっと私達を見守ってくれた……ハスミのしてきた事は無駄じゃないわ!」
「…」
「私、前からずっとハスミが何かを抱え込んでいた事は知っていたの。」
「え…」
「打ち明けられない理由があるんだって思って…ずっと言えなかった。」
クスハは衝撃の事実に狼狽えながらも真摯に受け入れた。
ハスミが『軽蔑されても可笑しくない偽善者紛いの事をしてきた。』と告げてもクスハは反論した。
「でも、本当の事を話してくれてありがとう。」
「…クスハ。」
「ハスミ、私…ブリット君を取り戻したい。」
「…鋼龍戦隊に戻るのね?」
「ううん、ハスミ達と一緒に居させて欲しいの!」
「クスハ、それは…!」
「判ってる、軍から追われる覚悟は出来てる。」
「…」
「それでも私はブリット君を取り戻したい。」
クスハは鋼龍戦隊を抜ける覚悟でブリットを取り戻したいと言う意思を見せた。
ハスミはクスハの言葉は嘘ではない事を理解しホルトゥスに参加する事を許した。
「判った、でも…覚悟しておいてね。」
「ありがとう、ハスミ。」
私はクスハとの話を切り上げて、ケイロンらと交えて本題の作戦会議を始めた。
復活の狼煙を掲げる為に。
相まみえる戦地に誘う為に。
>>>>>>
更に数日後。
引き続き鋼龍戦隊はグライエン前大統領殺害の罪を着せられたまま逃亡生活を続けていた。
だが、バラルの罠により限仙境へと囚われる事となった。
漆黒に染まった虎王機と仮面を付けたブリットとの遭遇。
バラルの神仙達による鋼龍戦隊への降伏宣言。
悪い事は重なり修理と補給を兼ねてイティイティ島へ帰還する道中に起こった出来事であり…
度重なる戦いで疲弊した彼らには既に余力はなかった。
「目的の青龍の操者が不在なのが残念だよ。」
バラルの神仙が一人、夏喃の言葉を最後に鋼龍戦隊に終止符が打たれようとしていたが…
「茶番はそこまでだ…!」
天鼓の音と共に限仙境に落ちる落雷。
「あれは!?」
落雷が消え去った後に現れた二つの機影。
グルンガスト弐式を取り込んだ龍人機と念神エクリプスの姿だった。
二人の生還に驚きを隠せない鋼龍戦隊。
二人に言葉を掛けるリュウセイとキョウスケ。
「クスハとハスミなのか!?」
「リュウセイ、再会を祝すのは後よ。」
「クスハ、その機体は…!」
「グルンガスト弐式の力を受け継いで復活した龍王機…いえ、龍人機です。」
「クスハちゃん、ハスミちゃん、無事で良かったわ…お帰りなさい!」
「御免なさいエクセレン少尉、私達…鋼龍戦隊には戻れません。」
「えと…どういう事?」
エクセレンの言葉の後に夏喃が話の間に入って来た。
「ようやく会えたね、青龍の少女…そしてアシュラヤーの巫女よ。」
「貴方は…」
「ああ、随分と派手に暴れてくれたようですね…南仙の夏喃潤。」
「!?」
「ホッホッ…してやられたようだな、潤よ。」
「そちらは北仙の泰北三太遊ですね。」
「ふむ、光龍が巫女様にワシらの名を告げましたかな?」
「…そんな所ですかね。」
「やはり裏切り者の行き先はアシュラヤーの元だったか。」
「夏喃、貴方には借りが山ほどあるんでね……ここで清算させて貰う。」
「古き時代からの同胞である僕らと敵対する気かな?」
「妹の無謀を止めるのも姉の役目と言った所でしょうか?」
「まあいい、ハスミ・クジョウ…君もクスハ・ミズハ共々バラルへ引き込んであげよう。」
「…戯言はそこまでにして貰おうか?」
ハスミは静かに答えると普段から付けていた形見のペンダントを外した。
同時に限仙界に強大な念の圧が降りかかる。
リョウトを始めとした鋼龍戦隊の念動者達は余りの圧に耐え切れず錯乱したり吐き気を催した。
リュウセイは辛うじて正気を保っていたがそれでも冷や汗を流していた。
バラル側の夏喃達も強大な念の気配に驚きを隠せていなかった。
「まさか既に目覚めて居たと言うのか…!?」
「フオッホッホッ…これも流れのままにか。」
強大な念の圧を出しながらエクリプスの背後に現れたアシュラヤーのクストースこと三体の念神官。
その三体はエクリプスの背後に控え跪いた。
そしてハスミは静かに告げた。
「私の名はアシュラヤー・ガンエデン、アシュラヤーの巫女にしてホルトゥスの盟主だ。」
それは己の正体を晒した言葉だった。
=続=
それは深淵の奥底より現れた。
それは大いなる禍の断片。
識るからこそ立ち向かう。
次回、幻影のエトランゼ・第六十四話 『破滅《ルイーナ》』
黒き衣は青の星を覆い隠す。