聖と邪。
それはコインの裏表。
女神の天秤の器に盛られる時は均等。
器から漏れるのであれば消し去るのみ。
前回、私ことハスミは自身の正体を明かした。
それは決別の意味を込めて答えた。
強大な力を持つと言う事は人から恐れられ畏怖の対象となる。
私はホルトゥスのリーダーとして表舞台から脅威を退ける事を決めた。
もう逃げないと誓った。
******
妖機人の部隊を従えた雀武王に対峙する念神エクリプスと龍人機。
ハスミより告げられた言葉に動揺を隠せない鋼龍戦隊。
それは一つの亀裂を生みだした瞬間でもあった。
「ハスミ、お前…」
「言葉通りです、私がホルトゥスのリーダー…L5戦役より貴方達に助力してきました。」
「うそ…でしょ?」
「証明として背後に控えて貰っている三体がアシュラヤーの配下達です。」
ATXチームのキョウスケとエクセレンより言葉を掛けられたハスミ。
しかしハスミは冷徹な表情の敬語のみで淡々と告げた。
「私が今この時に正体を晒したのは理由があります…現在、銀河規模で存亡を賭けた一大事が起こっています。」
「えと…ハスミちゃん、冗談でしょ?」
「…冗談に見えますか?」
「そうね…それで一大事って?」
「忠告を無視して南極の扉をこじ開けたのが原因で例の存在が復活してしまったとだけ伝えておきます。」
「…(ルイーナとペルフェクティオの件か。」
「あれは百邪の一端を封印する為に使用された扉…ロストテクノロジーの類と勘違いしたようですが、そんな生易しいものではありません。」
南極の門の真実を伝えると同じ様に動揺の声を上げる二人組。
「それが本当なら父さん達は…」
「…(あれがキョウスケ中尉が話していた結末を識る人か。」
「ジョシュア・ラドクリフとクリアーナ・リムスカヤ…リ・テクの関係者の方達ですね。」
「えっ?」
「こちらの情報網で関係者の名前と南極での一件は既に周知してますので。」
「あの!父さん達は無事なの!?」
「残念ですが…南極から脱出出来たのは鋼龍戦隊に回収された避難艇一隻のみです。」
「そんな…」
「貴方はそれを黙って見ていたと言うのか!」
「再三の忠告を無視して扉が開けられた上に奴らが出てきた以上は下手に手が出せませんでしたからね。」
そう、ルイーナとの戦いは細心の注意を払わなければならない。
下手に攻撃すれば破滅の王へ『絶望』を送る事ととなってしまう。
だからこそ然るべき対処を怠ってはならない。
そして情報をむやみに渡すつもりもない。
「そちらの事情は後にして貰おうか?」
「…そうでしたね。」
夏喃により話を遮られた為、私は本題に戻る事にした。
「では、単刀直入に聞きます…貴方達は総人尸解化計画の実行を中止する事は無いですね?」
「ああ、それこそが僕らの願いであり使命でもあるからね。」
「これだから神仙は…ややこしい。」
「!」
私は呆れた表情でため息を付いて夏喃に言葉を返した。
「そんな計画もあの事象に遭遇すれば何も意味を成さないと言うのに…」
「フホッホッホ…アシュラヤー様、貴方は『万物の知識』より何を知られたのですかな?」
「悪く言えばSAN値が直葬される勢いのモノから色々と。」
「フム…はぐらかす所は光龍と瓜二つと見える。」
「まあ、血縁関係者ですからね。」
泰北は笑いつつもハスミの真意を探るべく話を続けた。
だが、ハスミは持ち前のポーカーフェイスで打ち破った。
「夏喃、ここは一度退くべきと思うが?」
「何故だ、泰北。」
「このままアシュラヤー様のお怒りに触れるのは分が悪いと思うが?」
「…そうだな、今回は下がるとしよう。」
「アシュラヤー様、此度は一度下がると致します。」
「だが、対価として白虎は預からせて貰うよ。」
「…」
「ブリット君!」
泰北は転移符の様なモノで雀武王と妖機人の部隊と共に撤退していった。
クスハの声も空しくブリットと黒い虎王機も…
「ハスミ、ブリット君が…!」
「今、奴らを刺激したら疲弊した鋼龍戦隊に被害が被る……また機会を待つしかない。」
「…そうよね。」
「焦る気持ちは解るけど、今は…」
「うん。」
撤退したバラルを追撃しようとしたクスハを静止させるハスミ。
深追いすればクスハがブリットの二度前になってしまう事を考慮しての言葉。
この時、ハスミはブリットと虎王機に掛けられた暗示系の呪符が簡単に解呪出来ないと判断していた為である。
「ハスミ少尉、クスハ少尉、こちらへの着艦し状況の説明をして貰いたい。」
「テツヤ艦長、それは出来ません。」
「どういう事だ?」
ハスミは自身がホルトゥスの当主でありこれ以上の接触は出来ないと告げた。
理由を尋ねられたが、必要以上の情報を与える事が出来ない事と今の鋼龍戦隊と合流しても成果が出せない事も付け加えた。
「確かに今の我々は戦犯扱いの身…だからと言って君達を放置する訳にはいかない。」
「でしたら敵勢力と思ってくださっても結構です。」
「…」
「私は覚悟の上で身の上を告げました、だからこそ悲劇を未然に防ぐ為に動くのです。」
「テツヤ艦長、ここは彼女達を行かせましょう。」
「レフィーナ艦長、ですが…」
「ここで彼女達ホルトゥスと敵対しても私達には何の意味もありません。」
「…」
「彼女達に状況を打開する策があるのなら進めて貰いましょう。」
「そうですな、今の我々では満足に動く事もままなりませんからね。」
「…副長。」
テツヤを静止するレフィーナ。
彼女達に策があるのならこのまま行かせた方が得策であると告げた。
助言としてショーンも現状をテツヤに開示した。
落ち着いたのを確認するとハスミは艦長達にある情報を告げた。
「…このままイティイティ島へ向かってください。」
「?」
「そこでルスラン・マカロフ氏に会ってください…その人に今後の貴方達に必要な情報の一部を渡してあります。」
「ハスミ少尉…」
「アイビス、いつか織姫と彦星が再会出来る事を祈ってる。」
「え…」
「イング、貴方は自分の生まれがどうであれ貴方自身である事を見失わないで。」
「どうして僕を名前を?」
「アリエイル、自分の運命は自分自身で決めるのよ。」
「あの…」
「トウマ、雷迅昇星…貴方は自分の決めた運命を突き進んで。」
「一体何を…」
「大丈夫、成る様になるだけよ。」
ハスミは意味深な言葉を残すとクスハと念神官らと共に去って行った。
限仙境が解除されるとハガネとヒリュウ改は大海原に放り出された。
>>>>>>
鋼龍戦隊と別れた後、私とクスハは鋼龍戦隊に追撃を仕掛ける予定のルイーナの一軍と遭遇した。
部隊長クラスが混ざっていなかったのが幸いだった。
「ハスミ、アレが…」
「ええ、前に話して置いたルイーナの部隊……今回は隊長クラスが混じっていないわ。」
「…」
「鋼龍戦隊の撤退の援護と龍人機のウォーミングアップを兼ねているけど無茶は禁物よ?」
「解ってる、撤退した鋼龍戦隊には近づけさせない!」
「貴方達も頼むわね。」
私はクスハに注意を促した後、念神官達に声を掛けた。
三機とも了承し臨戦態勢を取っていた。
「クスハ、例のプランで行くわよ!」
「判ったわ!」
例のプランについては試行錯誤が必要な為に詳細を話す事は出来ない。
私はクスハ達と共に練っていたプランでの戦闘を開始。
部隊長クラスがいなかったのが幸いだったが、もしも遭遇していたらこのプランは使えない。
この戦闘で別の策も必要だったと痛感した。
******
その後、私達はバラルの奇襲を打ち止めルイーナとの初戦を終えて帰還した。
ルイーナに『絶望』の概念を与えない方法での対処は私がアカシックレコードを読み解き重ねた結果だった。
だが、普通の方法では無理があるだろう。
出来得る限りはこちらでルイーナに対処する予定だ。
私はクスハに継続するガイアセイバーズの暴走について説明を行った。
そして調査の結果と言う名のアカシックレコード経由の情報を告げた。
「…それがハスミの知った事だったのね。」
「もう隠し通せる状況じゃない…ガイアセイバーズの上層部がバルマーの残党の集まりである以上は止める必要がある。」
「うん、鋼龍戦隊の皆やノードゥスの仲間達を助ける為にも。」
「クスハ、これ以上の介入は貴方にも危険に晒す事になる……それを踏まえて私達と行動を継続する?」
「…ブリット君を助けるまでの間だけじゃ駄目かしら?」
クスハは危険を承知で行動を共にするとハスミに伝えた。
その表情に偽りがない事を理解したハスミは同行の継続を認めた。
「判ったわ、その時が来たらノードゥスか鋼龍戦隊に強制合流をして貰うわよ?」
「うん、ありがとう…ハスミ。」
本当に私も甘い。
でも、心強いと感じてしまう。
私はクスハと話をした後、部屋を後にし演説の場へと向かった。
そして私は声明を発表した。
「ホルトゥスに所属する全ての人員に告ぐ!」
私は天鳥船島に残留するメンバーと各地に散らばるホルトゥスの構成員達に向けて声明通信を送った。
「ホルトゥスの当主アシュラヤー・ガンエデンの名の元…我々は本来の目的の為に動く!」
凛とした声と振る舞いは決意の証。
「バアルの一端であるルイーナ、歪んだバラル、偽りの剣ガイアセイバーズを倒し止め…希望の光であるノードゥスを導く為にホルトゥスは今この場を持って表舞台に出る事を宣言する!」
ホルトゥスの稼働、それは一つの奇跡でもあり新たな動乱を生む事となる。
だが、先の未来を識る当主の力により変異するだろう。
可能性の未来に向けて…
=続=
それは鋭く鋭利な牙。
敵の息の根を止める一撃。
次回、幻影のエトランゼ・第六十五話 『狼牙《オオカミノキバ》』
赤き巨獣は天に吠える。