幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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今宵だけは酔いしれる。

願うは明日の為に。

その前夜に酒を酌み交わそう。

成功を祈って。





酔の付箋

お酒を嗜むのは何時振りだろうか?

 

前世では普通だったが、今世では未成年の身だった事もあり出来なかった。

 

軍属ともなれば規律も厳格になる。

 

大人連中に関しては緩和されているが、そう言う事はキッチリしていた。

 

この世界では高校卒業を迎えた十八歳が成人と法律改正が十数年前に出されている。

 

なので、前世の世界での二十歳を成人基準としていない。

 

L5戦役から約三年の経過…やっと十九になるのだと実感していた。

 

私ことハスミは天鳥船島の庭園の一角で彼と酒を飲み交わしていた。

 

 

******

 

 

「酒は嫌いか?」

「いえ、余り嗜んでいなかったので。」

 

 

私はクスハ達と別れた後、彼と酒を酌み交わした。

 

この転生した身体で酒を嗜むのは初めてであるのは変わりない。

 

 

「前世では逆だったと?」

「寧ろ楽しむ程度に嗜んでいましたよ。」

「そうか…」

 

 

満月や月の季節に月見酒をする為にわざわざお気に入りのお酒を探した位だ。

 

一人暮らしだったからこそ邪魔されずに楽しめた趣味の一つでもある。

 

 

「それも地球の酒か?」

「はい、梅酒って言います。」

「梅?」

「梅と言う果実を漬け込んだものです、梅と言っても色々調理法がありますけどね。」

 

 

良く洗った梅を専用の瓶に氷砂糖、白砂糖、梅を層になるように入れ、最後にホワイトリカーに漬け込んだものが梅酒。

 

この白砂糖を黒砂糖やキビ砂糖に変えるとまた違った味わいになる。

 

逆にリカーを入れずに傷が付いた梅に爪楊枝でいくつか穴を開けて、専用の瓶に砂糖と氷砂糖と一緒に入れて一日毎に数回瓶を振り続けるとシロップになる。

 

要はアルコールが入っているかいないかの違いであるが…

 

 

「梅の実が金色の海に沈んだ月の様でよく飲んでました。」

「俺のとはまた違うのか?」

「同じお酒でも材料が違いますね、ヴィルのは焼酎ですし。」

「焼酎?」

「芋や麦を原料とした酒の一種で先の梅酒とは熟成方法が異なります。」

「以前、渡された冷酒とは違うのだな?」

「それは米が主な原料ですから。」

 

 

そうかと呟くと焼酎の入ったグラスを飲み干した。

 

どうやら度数の高い酒が気に入った様子らしい。

 

ちなみに出したのは予め前割りした焼酎である。

 

それに伴い用意したお酒に合うお供も少なからず無くなっていた。

 

チーズと塩辛、ナッツは万能だったりするが…

 

彼はホタテのわさび醤油漬けが気になっている。

 

あのガイオウはジャンクフードが好みだったけど、ヴィルの様子を見て…次元の将の好みは様々であると改めて知れた。

 

 

「所でハスミ、酒だけの席で俺を呼び寄せた訳ではないのだろう?」

「勿論です、用件は例の茶番についてです。」

「あの件か。」

 

 

私は梅酒を軽く一飲みした後、話を続けた。

 

 

「茶番…現在ノードゥスが次の作戦の為に伊豆基地へ帰港しています。」

「次の作戦?」

「はい、その多くは前回の戦いと同じくパワーアップが目的ですけどね。」

「お前が話していた最終決戦の刻が近いと?」

「ええ、これまでの活動でオルファンは無事に宇宙へ、木星帝国の地球滅亡計画の阻止、異星人連合の瓦解、ミケーネ及び復活した地下帝国連合の壊滅と必要な事案は防ぎました。」

「残るはガイアセイバーズ、ルイーナ、ゲストの三勢力か?」

「いえ、プラントのギルバート議長がデスティニープランの宣言とアズラエル小父様から奪ったブルーコスモス…その盟主であるロード・ジブリールと協力者である軍人達が月軌道上で例の兵器の設置を行っています。」

「この星に害成す戦いはまだ終わりを迎えていないと?」

「はい、その対処でノードゥスは再び地上と宇宙に編成され対応する形となるでしょう。」

 

 

形は変わってしまったが、オペレーション・レコンキスタとオペレーション・アイスブレイカーの始まりでもある。

 

 

「イルイもまたガンエデンの使命とその身を狙う者達よる危険に晒されると思います。」

「手放して良かったのか?」

「私はあの子の意思を尊重しますし危険が迫った時は助けに行くと約束しましたので。」

「抜かりはないのだな…」

「はい、貴方や家族同様に妹分に何かしようと言うのなら因果地平の彼方まで赴いて始末しますので。」

「それもお前が成せる力なのだな?」

「まあ、私利私欲と言うのは控えてますけどね。」

「だが、お前の好奇心とやらはそれでは収まらんだろう?」

「でしょうね、言うならビルド系のMSにお義父さん達のPTやAMの追加武装の開発を園芸家達に許可してしまった位ですから。」

「今後の戦いに必要な手段であるのならば…俺は何も言わん。」

 

 

確かに過剰な戦力は更なる戦いを引き起こす。

 

だからこそ差し出す時を見誤る事はしない。

 

 

「いずれにしても必要な戦力です、ノーマルだけでは今後の戦いに生き残れませんから…」

「…」

「それよりもあの件…本当に宜しいのですか?」

「無論だ。」

「後戻りは出来ませんよ?」

「それはお前も同じ事だろう?」

「はい、貴方の傍に居ると誓った以上…約束を無下にする事はありません。」

 

 

私は一方の味方でもなければ敵でもない曖昧な存在。

 

ただ、戦いを終わらせる為に最前の方法を取るだけの事。

 

その過程で味方にもなれば敵にもなる。

 

私の在り方は受け入れられないだろう。

 

それでも泥を啜る行為を受ける身代わりは必要なのだ。

 

 

「ノードゥスの格闘家達がどの様な力を持つのか…腕がなる。」

「余り羽目を外しすぎないでくださいね?」

「善処はする。」

 

 

ま、彼らが一番…真化の力に触れる良い機会だし。

 

この程度で挫折するなら其処までの事。

 

これからはそう言った次元の違う敵との戦いも学ばなければならない。

 

私も告げる事は告げて次の作戦の計画でも練りますよ。

 

 

「さてと…向こうの準備も整った様なのでデブデダビデの呪いとガイアセイバーズの曲者退治と洒落込みますか?」

「異論はない。」

 

 

私は彼と待機していた人員と共にテレポートで日本・伊豆基地へと転移した。

 

 

=続=

 

 


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