幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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結集する同盟。

密かに繋がれた縁。

それは手放す事は出来ない。


第七十三話 『同盟《アライアンス》』

前回同様、記憶所持者達による伊豆基地の会議室にて会合が続いていた。

 

万丈によって語られた真実により周囲に混乱を齎したのは言うまでもない。

 

 

******

 

 

次元将ヴィルダーク。

 

Z事変に置いてサイデリアルを指揮し幾多の惑星と銀河を制した上に辺境銀河に属する惑星・地球の八割を制圧するまでに地球政府を追い込んだ手腕を持つ。

 

彼や彼の元に集ったスフィアリアクター達とZ-BLUEや所属スフィアリアクター達との激戦。

 

長きに渡る戦いの中で彼は己の志を折る事が出来ず敗北しZ-BLUEに後を託した。

 

…その志は道は違えと御使い打倒であった事は確かだった。

 

現在、彼は名を偽り…この世界へ転移し真意が不明を貫くハスミと行動を共にしている。

 

 

「アイツ、トンでもねえのとつるんでいやがったと思ったらそういう事かよ。」

「確かに修羅の乱で奴と共に行動している時も得体のしれない何かを感じ取れた。」

「敵の総大将と恋仲って…俺も言えた義理じゃねえけど。」

 

 

ケイロン・ケシェット改めヴィルダークと一時期行動を共にしていた鋼龍戦隊のメンバー。

 

マサキの愚痴から始まり様子を見ていたキョウスケとリュウセイ。

 

リュウセイの場合はレビだったマイとの件もあり何とも言えない表情だった。

 

そしてコウタとアクセルもまた各々の視点を述べていた。

 

 

「あのおっさんがそんな野郎だったなんて…」

「これで合点がいった、ハスミを通じて理由を知っていたからこそ早期にミチル・ハナテンやトウマ・カノウと接触し揺さぶりをかけていたのか…」

 

 

現在、鋼龍戦隊に外部協力者としてトウマ・カノウとミチル・ハナテンの二名が在籍していた。

 

元々は民間人であったが、前者はミナキ・トウミネを通してジンライのオリジナルである雷凰を動かしてしまった事。

 

後者はキサブロー・アズマ博士が搭乗する筈だったGバンカランのパイロットに博士自らが彼に任命した事。

 

これにより、鋼龍戦隊に組み込まれ現在に至った。

 

そしてこの二名には奇縁の出来事が引きこされていた。

 

接点として同二名は封印戦争が始まる前にケイロンと接触していた事である。

 

トウマの場合はアルバイト先の一つである天臨社で遭遇、ミチルの場合は大阪で少々荒れた時に出会ったとの事だった。

 

双方バトルスタイルが格闘メイン、ハスミはケイロンを通して彼らに揺さぶりを掛けたと推測している。

 

今回の彼らには鋼龍戦隊に協力する事となった接点である出会いや戦闘がなかった事を考慮しての行動。

 

そんなやり取りの中でラウルとジョッシュも己の考えを告げた。

 

 

「理由を知る…いや、元から知っていた彼女なら行動を起こしても不思議じゃない。」

「俺はハスミ・クジョウと言う人の事をよく知らない、ただ…その人が理由があって行動を起こしたのは今までの活動で理解しました。」

 

 

ジョッシュとヒューゴが参加していた戦いに置いてある人物が救出に訪れていた件をギリアムが答えた。

 

 

「君やリム達、グラキエースとウェントスの救出の際にテンペスト少佐を向かわせたのも後の行動があってだろう。」

「ギリアム少佐、やはり南極の決戦には…」

「彼女の介入がある事は間違いないだろう、そしてイルイが目覚めを迎えていない…南極を覆う例の結界を解くにも彼女の力が必要だ。」

 

 

ルイーナの首魁・ペルフェクティオが潜む南極の遺跡最深部。

 

その前を阻む結界の解除に現れる事は予想出来ていた。

 

続けて同盟の件に関して質問するジョッシュ。

 

 

「少佐、例の同盟の件はどうなりましたか?」

「その事だが…」

 

 

ギリアムは外で控えている人物に入室を許可すると話し合いの場にある人物が入ってきた。

 

 

「皆さん、お久しぶりです。」

「トーヤ、お前も記憶を?」

「はい、前の記憶を思い出したのは空白事件後ですけど…」

「アキミの方は?」

「何度か接触しましたが、まだ思い出せてないようです。」

 

 

トーヤ・シウンの紹介とフューリーの活動に関して関りを持った者達で周囲に説明。

 

その後、フューリー側の件に関してトーヤから説明が続けられた。

 

同盟を期に今回の南極作戦へ協力を申し出たフューリー。

 

元々遺跡の建築に携わり、その構造に詳しい彼らの協力は必要不可欠だろう。

 

南極遺跡の破壊を条件に今回の戦列に加わる事になっている。

 

ホルトゥスからも警告を受けていた為、軍上層部…ギャスパル元帥もこれを容認したのである。

 

トーヤはその出生と関りからフューリー側の有志として関わる事になったと告げた。

 

同じ様にフューリーと繋がりがあったカルヴィナ達もフューリー側での参戦となった。

 

当初は本人らの間で問題があったが、今では受け入れているとの事だ。

 

 

「シャナ=ミアや父さん達がやろうとしていた同化計画が露見…地球側にも異星の人々を受け入れる体制が整ってきた事も幸いしフューリー上層部は地球側との同盟を認可しました。」

「彼女曰く兆しが早まったのだろう。」

「それとホルトゥスが何度かフューリーに接触を…」

「ホルトゥスが?」

「はい、孫光龍と呼ばれる人がホルトゥスの代理人として何度かガウ・ラ・フューリアへ赴いていました。」

 

 

光龍自身も先史文明期の生き残り…フューリーの古き世代の中にも顔見知りが居た為に謁見が円滑に進められた。

 

ヴォーダの闇を封じた扉を開く厄介な存在出現。

 

ガンエデン達はその扉を破壊する事を決定したと報告した。

 

だが、ヴォーダの闇の一端を封じるだけであり完全な解決方法ではない事も説明付けられた。

 

 

「確かにクロスゲートの破壊にはフューリーの玉座機…若しくはガンエデンの力が必要。」

「例の一件でバラル側の助力も得られる以上は総力戦となるか…」

「その事だが…」

 

 

トーヤらの説明を無言で聞いていたアムロ達。

 

その件で可能性のある条件を告げた。

 

 

「…ペルフェクティオを対抗する方法が他にもある。」

「どう言う事ですか!?」

「シャア、まさか…」

「ヴィルダークの持つスフィアの力…次元力を行使する力ならば奴に対抗出来る。」

「次元力?」

 

 

初回参加のトーヤの頭が?になった為、事情を知るアムロや鋼龍戦隊のメンバーでかくかくしかじかの説明。

 

 

「そんな事が可能なんですか!?」

「ああ、だが…肝心の奴の出方が不明の状況だ。」

「確か…その人ってホルトゥスに所属しているんじゃ?」

「正直な話、それがさっき判明した問題っつうか…厄介な案件。」

「…後々、敵対する可能性のある奴に力を借りられるか?」

「難しいですよね…。」

「結局、トーヤが来る前に…この件は様子見で決まった所。」

 

 

触らぬ神に祟りなしとはこの事である。

 

真意が不明である以上は藪から棒と言う事は避ける方針へと話し合いで決定。

 

真相を知るには今回の戦いを終わらせなければならないだろう。

 

進展しない話し合いの中でシンは同行出来なかった後のハスミとヴィルダークの様子をリュウセイに尋ねていた。

 

 

「リュウセイ少尉、ヴィルダークを行動していたハスミさんはどんな感じでした?」

「俺も同行出来たのは修羅の乱の最終決戦位の時でハッキリとは言えない…ただ。」

「ただ?」

「素のハスミを見れたのは久々だったと思う。」

「素の?」

「ああ、ガンエデンの巫女って立ち位置を背負っているハスミが本当のアイツになれるのがケイロンいやヴィルダークの前だった…って言うのは確かだぜ?」

「…それだけ信頼されているんですね。」

 

 

このままだとハスミさんは間違いなくサイデリアルに与する。

 

あの人は絶対にヴィルダークの事を裏切らない。

 

ヴィルダーク自身も相手を誑かす様な気質じゃない…むしろ正々堂々を求めていた。

 

アカシックレコードを駆使し世界の記憶と異界の知識を使役するハスミさんとリヴァイブ・セルでスフィアを吸収し力と成せるヴィルダーク。

 

もしも、二人の力によって統率されたサイデリアルが侵攻を開始すれば…Z事変の戦いなんて比べ物にもならない。

 

どう足掻いても勝ち目がない采配…地獄絵図だ。

 

 

「お、おい…シン、何か顔色が悪いぜ?」

「えと…すみません。」

 

 

修羅の乱で自身がやってしまった選択に青ざめていたシン。

 

その様子にリュウセイも察して再び声を掛けた。

 

 

「嫌な事でも思い出したか?」

「…」

「複数の可能性がある分、前の記憶に縛られるな。」

「えっ?」

「ハスミが俺達に正体を明かした時に言った言葉だよ。」

「記憶に縛られるな?」

「俺達はどうしても前の記憶に感情とか観点が引っ張られやすい、だからアイツは物事が変わる分…周囲も変わる事もあるって意味を俺達に教えたのさ。」

 

 

物事が変化すれば周囲も変わる。

 

ハスミさんがヴィルダークと行動を共にする理由。

 

単に好意だけからじゃない…もっと別の何かが。

 

 

「済まない、今回の情報交換はここで終了とさせてもらう。」

 

 

リュウセイの言葉に対し考え事を始めるシン。

 

だが、その答えを出す前にギリアムが室内に居た全員に声を掛けた。

 

その声に反応し質問するシャア。

 

 

「少佐、何かあったのか?」

「先程、バラルの北仙・泰北がこちらに来訪したと連絡が…」

 

 

その名を聞き反応するキョウスケ。

 

 

「あの仙人…ハスミとの約束は守る様子ですね。」

「キョウスケ中尉、約束とは?」

「北仙・泰北はクスハ達が帰還したあの戦闘で降伏し来るべき日に助力すると…残存するバラルを纏め上げ、ハスミの元へ下りました。」

「しかし、罠の可能性も?」

「彼は元バラルの統括だった孫光龍の同胞であり、その娘であるハスミの元へ下った…罠であればハスミも気づいているでしょう。」

「ええ、もしも彼女に危害を加えれば光龍やカーウァイ中佐達が黙っていませんので。」

 

 

疑いを掛けるシャアに対しキョウスケに続きギリアムが助言。

 

その発言に青ざめた表情をするコウタとマサキ、リュウセイ。

 

 

「確かにありゃ…」

「敵に回したくねえよ。」

「寧ろ敵に回す方がおかしい話だよな、それ。」

 

 

三人の様子に?マークを浮かべるジョッシュとヒューゴ、トーヤ。

 

 

「ジョッシュとトーヤは知らないから分かりにくいんだけど…光龍はハスミの実の父親、カーウァイ中佐とテンペスト少佐は養父で三人ともハスミの件で怒らせると不味い。(本人もドン引きする位に親バカレベルを超える騒動になりかけた事もあるんだ。」

 

 

冷や汗をかきながら耳打ちで三人に説明するラウル。

 

説明を聞いた三人は何とも言えない表情になったのは言うまでもない。

 

更にキリがないので話は切り上げられ、各自持ち場へと戻る事となった。

 

 

>>>>>

 

 

所変わって伊豆基地内の一角。

 

泰北はその来訪と共に厳重な警戒で施設内へ案内された。

 

彼は護衛も付けずのたった一人で来訪。

 

彼自身も強力な念者である以上は護衛は必要なかっただろう。

 

しかし、姿勢は彼自身の贖罪の形だったと思われる。

 

 

「会合に応じて下さり感謝致す、その前にこちらの非を詫びさせて頂きたい。」

 

 

泰北からの謝罪の言葉から始まり。

 

テスラ・ライヒ研究所襲撃の件での謝罪の言葉が述べられた。

 

襲撃の理由は超機人の奪還と選ばれた念者の力量を見極める為。

 

襲撃の際に死亡されたと思われた研究員や作業員達はホルトゥスが回収し誰一人の死傷者を出していないと告げられた。

 

それを代表としてエルザムら旧オーダー関係者達が応対した。

 

 

「では、テスラ研の行方不明者達は…」

「現在も治療を受けている者達も大勢いるが無事である。」

「治療?」

「うむ、救出された者の中にこちらの非で負傷した者もおれば…発見時に既に負傷を受けた者達がおったのじゃ。」

「どう言う事だ?」

「ここは光龍殿の推測であるが、ワシらとは異なる何者かが忍び込んでいたと考えられると…」

「何じゃと…?」

「アシュラヤー様が光龍殿を忍び込ませたのも…その何者かの正体を知る為だったと告げられた。」

 

 

泰北の発言によってテスラ研はバラルの襲撃に乗じて別勢力の侵入が起こっていた。

 

それを防ぐ為にホルトゥスが水面下で動いていたと説明した。

 

この説明でゼンガーやリシュウも声を荒げていた。

 

 

「その正体は結局の所掴めず…故にワシらもその正体を知らぬ状況である。」

 

 

泰北の説明が終わると彼は来訪の本題に話を戻した。

 

 

「我らはアシュラヤー様のご指示により南の地に蔓延る百邪を滅する者達に助力せよと命ぜられました。」

 

 

要は戦列に加わる事を許して欲しいと言う意味である。

 

朱雀の操者を失った事で四神クラスの超機人を動かせぬ以上は妖機人による足止めが手一杯である事も付け加えられた。

 

 

「最低限の助力のみとなるが、どうかご理解頂きたい。」

「分かりました、こちらでも進言させてもらいます。」

「誠に申し訳ない。」

 

 

その後、艦長と部隊の代表者間で最終の会議が行われフューリー側の協力者とバラル側の協力者との連携が決定。

 

戦いは一刻一刻と迫っていた。

 

******

 

更に数日後。

 

ミッション・アイスブレイカーが発動してから数時間後。

 

交戦する地球連合軍と敵本拠地へ進むノードゥス。

 

南極遺跡の進攻ルートに出現したルイーナの軍勢を他の勢力が足止めし、ノードゥスが本拠地を叩く。

 

いつものパターンでの戦法が展開されていた。

 

そして南極遺跡の入り口となっている結界前にハスミは乗機であるエクスガーバイン・クリンゲで出撃していた。

 

 

「アートルム・エクステリオルと同類の結界か…」

 

 

本来ならばナシム・ガンエデンの神僕たるクストースが結界の件で介入するが…

 

今回はイルイが完全な覚醒に至っていない以上、私の方で処理するしかないだろう。

 

私はショメル達を呼び出し、結界を破壊する指示を下した。

 

私が各三機を通してエネルギーを微調整し結界に干渉させ、そのまま歪みへと導いた。

 

 

「お膳立てはここまで…後は彼ら次第と言う訳か。」

「結界の破壊自体はお前が手を出さずとも良かったのではないのか?」

「余計な力を使わせる訳にはいかなかったので…」

「…何かあったのか?」

「はい、一度倒した筈の相手が復活してしまいましてね。」

「復活だと?」

「ええ、それに『絶望』を糧とするのはルイーナだけではないので。」

「…」

「本当に厄介ですよ。」

 

 

同じ様に蒼雷で出撃していたケイロンとの会話。

 

その様子をショメル達は静かに静観。

 

 

「貴方の言う通り、決起の時は近い様です。」

「そうか。(やはり、スフィアを開放しなければならない時が迫っていたか…」

「私も隠していた真実を晒し出す必要があるみたいです。」

「バアルの侵攻ともなれば致し方ない。」

「はい、私はガンエデンとして…そしてスフィアリアクターとして戦います。」

 

 

ただ、それは新たな波乱を生む呪いの言葉。

 

それでも宿命から逃れるつもりはない。

 

 

=続=

 




閉ざされた氷の世界。

その奥に潜む負の化身。


次回、幻影のエトランゼ・第七十四話 『闇淵《ヤミノフチ》』


潜れ、深き深淵に。

そして終わりを告げよう。


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