幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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強大な負の意思。

喰われた魂は何処へ?

器と化した肉体は枷。

願うは負の力よりの開放。

痛みと涙を拭え。




第七十四話 『闇淵《ヤミノフチ》後編』

地球崩壊の危機の中、戦力を削られつつもファブラ・フォーレスに向かうノードゥス。

 

そしてジョッシュ達…リ・テクにとって始まりの地である南極遺跡へとたどり着いたのである。

 

だが、既に戦うべき相手は掃討されていた。

 

 

*****

 

 

「予定よりも少し遅かった様ですね。」

 

 

真新しいルイーナ機の残骸が点在する南極遺跡の入口。

 

そこにエクスガーバイン・クリンゲと蒼雷が待機していた。

 

声の主はエクスガーバインのパイロットであるハスミ。

 

普段の搭乗機である念神エクリプスではない。

 

何か理由でもあるのだろうか?

 

 

「事の詳細はショメル達を通して視ていますのでお構いなく。」

 

 

あくまでホルトゥスの代表と言う位置から鋼龍戦隊に言葉を伝えた。

 

 

「ハスミ少尉、この状況は君が?」

「はい、予想以上に負念の集まりが強くなっているの感じたので介入させて頂きました。」

 

 

テツヤ達は続けて話をしようとするが、ケイロンによって遮られた。

 

 

「話は後だ、ここで立ち止まっている暇はないのだろう?」

 

 

彼が告げた通り、人類に残された時間の猶予はない。

 

一刻も早くファブラ・フォーレス最深部へ向かわなければならなかった。

 

だからこそ、彼女らは先陣を切ったのだろう。

 

戦うべき戦士達に道を切り開く為に。

 

 

「グラキエース、コンターギオとアクイラの気配が…」

「ああ、恐らくは奴らに倒されたのだろう。」

「どう思う?」

「倒すべき相手だが、悲しいと感じる。」

「そう…だね。」

「だが、私達はジョッシュ達と共に行くと決めた。」

「うん、分かっているよ。」

 

 

残骸の名残からコンターギオとアクイラが倒された事に気が付いたウェントスとグラキエース。

 

悲しいと言う感情を感じるものの戦うべき相手と割り切った。

 

 

「では…予定通り、我々が案内を行う。」

 

 

ノードゥスはフューリー側からの協力者であるアル=ヴァン・ランクスらの案内でファブラ・フォーレス最深部へと向かった。

 

フューリー側の協力者は皇女シャナ=ミア・エテルナ・フューラの選出により使者として騎士アル=ヴァン・ランクス。

 

L5戦役以前よりフューリーと協力関係にあった企業のアシュアリー・クロイツェル社よりカルヴィナ・クーランジュ、カティア・グリニャール、メルア・メイナ・メイア、フェステニア・ミューズ。

 

王族直属・近衛兵団の聖禁士長エ=セルダ・シューンの子、トーヤ・シューンの五名である。

 

カルヴィナの除いた四名は純フューリー人と地球とフューリー人のハーフであるが、並行世界と言うものは事細かに変異を齎した。

 

この世界のカルヴィナ・クーランジュは先史文明期に地球へ降り立ったフューリー人と地球人のハーフの子孫である事だった。

 

彼女はアシュアリー社でサイトロン・システムに触れた事で自らが持つサイトロン感覚器が覚醒、以降はトーヤ達と共に地球がフューリーと共存出来る種族であると知らしめる存在になったとの事。

 

人の事は言えないが隔世遺伝とは末恐ろしい。

 

その様な情報を得つつ私ことハスミはケイロンと共にノードゥスの艦隊と追従した。

 

まあ、その間にカチーナ中尉達から野次を飛ばされたが三倍毒舌正論で返しておいた。

 

 

「おい、ハスミ…今までアタシ達の事を無視していたがどう言う風の吹き回しだ?」

「無視ですか?」

「そうだ、毎度肝心な事は話さねえで!」

「ああ、その件でしたら盗聴されている可能性も視野にお話ししただけですよ?」

「はぁ!?」

「鋼龍戦隊の艦にどこぞのスパイが紛れ込んでいましたので牽制の為ですよ。」

「イングとアリエイルの事か?」

「ハズレです、正解の艦に入り込んだ曲者は何処にでもいる一般兵に偽装された方ですよ。」

「…!」

「あれだけの騒動でしたから上手く欺かれていたのでしょうね?」

「分かりにくいんだよ!?」

「安心してください、その曲者様も先の伊豆基地騒動で再起不能となりましたので。」

「相変わらず…そう言う所は抜け目がないな。」

 

 

顔を真っ赤にしたカチーナ中尉を余所に私は会話を続けた。

 

 

「それにあの場で行動を移さなかったら各研究施設の代表者達やノードゥスが信頼している家族…人々が殺害されていましたから。」

「まさか、例のルイーナの行動か?」

 

 

私の発言に反応したギリアム少佐の後に私は続けて伝えた。

 

 

「はい、奴らが早期に『負の感情』を集めるにはどうすればいいか?と問うなら…策はあります。」

 

 

かつてL5戦役でナイトメアと呼ばれる兵器を使役したグランダークがそうであった様に。

 

より強い光…『希望』を持つ者達が最も慕う大切な者達に手を掛ければその『絶望』はより強いものになります。

 

ルイーナもその線で今日まで破壊活動を行っていました。

 

 

「憎悪も絶望も負の感情の一部です、もしも大切な何かを奪われ…負の感情を垂れ流し状態で戦闘を続ければ奴らの思うツボだったでしょう。」

 

 

と、私は出来得る範囲で事情を伝えて置いた。

 

腑に落ちない表情のカチーナ中尉にフォローを入れるのはいい。

 

だが、とばっちりを受けてラッセル少尉とタスクにミチルの明日はない的な表情だったのには同情しておく。

 

同じ様にケイロンに通信を送っているアムロ大尉達。

 

余計な混乱を起こす事は話さない様に『話す事は何もない。』でケイロンには通してもらっている。

 

アムロ大尉達は腑に落ちないだろうが、余計に知りすぎる事は無限力の災いを齎す。

 

そう言う緊張感のない複雑なやり取りが続く中で潜入は続いた。

 

道中、ルイーナ機の姿はめっきりと見えなくなり招き入れられている様にも思える不気味さ。

 

奴らも総力戦であると認識しているのだろうか?

 

今だ姿を見せないエルデとドゥバン、ユーゼス一派。

 

恐らく漁夫の利を得ようと高みの見物を決め込んだと思われる。

 

 

「…」

 

 

ユーゼスはアルテウルとして活動している時にフェリオ・ラドクリフ博士に南極遺跡の調査を依頼した。

 

その過程で博士は何も知らずにカルケリア・パルスティルゲム…T-LINKシステムを組み込んだ改良型シュンパティアによる実験を行ってしまった。

 

そして破滅の王に触れる結果となった。

 

それでも『人の想いを繋げ、束ね、破滅に打ち勝つための力と成すシステム』の側面を持つ以上、奴の思惑通りにさせるつもりはない。

 

ただ…私だけでシステムを?

 

いや、イルイの意思を聞いてからにしよう。

 

あの子もまた迷いの中で自分の答えに辿り着こうとしているのだから。

 

 

「ここが最深部。」

 

 

記憶にある風景と同じ場所。

 

無機質な機械仕掛けの遺跡の内部、所々に鼓動を打つ様に張り巡らされた配線。

 

その最奥にクロスゲートは安置されていた。

 

そしてここへたどり着いた事で一つ言える事がある。

 

負念の澱みが凄まじいと言う事だ。

 

メンタルの弱い人間なら失神する程の負の意思がクロスゲートから溢れようとしていた。

 

 

「…(予想以上にキツイ、生半可な能力者なら失神している澱みだ。」

「…(バアル、以前にも増して力を付けたのか?」

 

 

スフィアを通して同じ様に気配を感じ取ったケイロン。

 

 

「ハスミ、状況は?」

「扉自体が開かれつつある状態…言葉で表すなら後一歩手前と言う感じですね。」

 

 

破滅の王の現出は止める事が出来ない。

 

これは運命ではなく必然。

 

そうなる様に無限力が仕向けた結末。

 

 

 

「グラキエース、判るかい?」

「ああ…」

「ウェン、どうしたの?」

「リアナ…実はイグニス達の気配がないんだ。」

「えっ!?」

「何だと?」

「イグニスと同時期に生まれた私でさえ何も感じ取れない。」

「一体どうして?」

 

 

最深部に辿り着いた一行であったが、待ち構えている筈のルイーナの軍勢の姿が見当たらなかった。

 

各艦のセンサー類でも反応は無く、静寂過ぎる静けさが余計に不気味さを演出していた。

 

 

「…」

「ハスミ、もしや…。」

「私も…ケイロンと同じ意見です。」

「一体何が起こっているんだ!」

「既に目覚めてしまったと言っておくわ。」

「!?」

「目覚めた?」

「まさか!」

「既に遅かったと言うのか!」

 

 

ハスミの発言に対して問い詰めるジョッシュ達。

 

だが、目覚めは当の昔に終わっていたのである。

 

 

「ヒューゴ、あれを見て!」

「あれはガルべルスの残骸!?」

「こっちにはアレス・ガイストの残骸があります!」

「おいおい、どう言う事だよ?」

「…」

 

 

戦うべき相手もまた『破滅の王』に喰われた事を認識したヒューゴ達とアリエイル。

 

本来の筋書きであればアレス・ガイストとクロスゲートの力を取り込んだガルベルスが変異し異形の機体AI1となる筈だった。

 

理由は幾つかあるが、自身らの手で掌握する前に喰われたのだろう。

 

負の感情…欲望を曝け出したまま。

 

 

「奴にとっての贄は十分だったと言う事か…それも奴にとっては過ぎた事。」

「その様です…そろそろ正体を現したらどうですか?」

 

 

不気味に稼働音を響かせるクロスゲートに対して答えたケイロンとハスミ。

 

同時に禍々しい負念と共に扉より現出した一体の生命体。

 

 

「あれは人なの?」

「まさか…(あのジョシュアに似ている人物は!?」

「親父なのか…?」

「まさか…。」

 

 

その生命体は静かに告げた。

 

 

「否、フェリオ・ラドクリフの意思は消えた…この器はその名残を残した空の器に過ぎない。」

「…(リアナ、どう言う事なの?」

「…(クリス、親父は…。」

「つまり、貴方と言う意思に博士の魂は飲まれて消えた…そう解釈しても?」

「貴様の言葉通りだ。」

「今の貴様の呼称は何と言う?」

「人の認識…名を告げるのであれば、我が名はペルフェクティオと呼称すべきだろう。」

 

 

破滅の王・ペルフェクティオ。

 

バアルの一端であり負念の一部。

 

その器として選ばれてしまったフェリオ・ラドクリフ博士。

 

あの時の状況であれば、博士の魂は今も破滅の王の化身…奴と言う混沌の中を漂っている。

 

混沌と言う海に彼と言う魂を…例えとすれば一つの角砂糖を融かした様に。

 

このスフィアがなければ博士の融けこんだ魂の行方は分からなかっただろう。

 

だが、結果として博士の魂は意識の殆どを喰い尽くされ個を失った状態。

 

例え、無事に拾い上げても記憶が戻る保証はない。

 

奴に魂が喰われるとはそう言う事であると指している。

 

器を手に入れ顕現した奴を扉の向こうへ押し返すか?

 

若しくはスフィアの力で奴の力を相殺し倒すか?

 

例え、倒したとしても奴はバアルの一端…

 

いずれ別の存在として再復活するだろう。

 

 

 

「それじゃあ、親父はもう…」

「…」

 

 

ペルフェクティオと名乗った生命体の言葉に落胆するリアナとクリス。

 

 

「案ずるな、貴様達の破滅の波に呑まれる運命…だが、幾星霜の月日が流れたと言うのにあの邪魔者らも存在しているとは。」

 

 

 

ペルフェクティオが視線を向けた存在達。

 

 

「聖戦に導かれた蒼の女神と次元の将が手を取り合うとは悉く運命とは面白いものだな?」

「…(バアルの意思の一つであれば、前回…一万二千年前に引き起こされた戦いを知っていても可笑しくないか。」

「それがどうしたと言うのだ?」

「世代交代の末に己の役目を見失った訳ではあるまい?」

「時間の環…『存在しようとする力』と『消滅しようとする力』の衝突による宇宙が破壊と再生を繰り返して生まれ変わる周期がいずれ始まろうとしている。」

「その周期が近づいた事で貴様も目覚めたのだろう?」

「…公定しよう。」

 

 

それは一万二千年を1回のループとして死と新生を繰り返し何度か繰り返したところで真化の階梯が進む。

 

これが次の時代である『獣の時代』、『水の時代』、『風の時代』、『火の時代』、『太陽の時代』の事を指す。

 

そしてこれから『太陽の時代』に突入しシンカの最終階梯に人類は至る。

 

失敗すれば生命体は死に絶え絶滅する。

 

理由はシンカ出来なかった生命体が時間の環の再構築についていけないからだ。

 

しかし、今回はこれに対してある時代が抜けている。

 

アカシックレコードによれば『魂の兆し』と呼ばれる『魂の時代』が抜けているとの事。

 

それは先の五つの時代の様に順に巡るのではなく何処かの時代で隣接する様に時折現れる現象との事を指す。

 

延々と続くシンカの流れで破滅の力が強まった時にのみ発生する記憶の継承者達の出現の兆しである。

 

 

「…やはりか。」

「シャア、彼女達は…」

「アムロ…我々が想定していた通り、彼らは動いていたのだろう…この時の為に。」

 

 

記憶保持者達はこの戦いに入る前に互いに話し合った会合で想定していた事案を幾つか上げていた。

 

それはバアルの出現に伴う彼らの行動である。

 

バアルを倒す為に動くのか?それとも静観するのか?

 

どちらにせよ、彼らは『聖戦』に関係する力を持った者達。

 

放っておく事はないと結論付けていた。

 

 

「何か、かなり小難しい話に変わっちゃってるわね。」

「だが、ハスミ達に聞く事が増えたのは変わりない。」

「そうね、クスハちゃんはこの辺りは聞いていた事?」

「いえ、初耳です。」

「その辺はクスハちゃんを巻き込みたくなかった…って言うのがハスミちゃんの本音っぽいわね。」

「…」

「クスハ。」

「ブリッド君大丈夫よ、私達の事を思っての行動だったのは判っているから。」

 

 

元所属先だったATXチームは会話の内容をいずれ聞くべき事として静観していた。

 

今の状況で言葉を返しても二重三重の正論で返されてしまう為だ。

 

 

「さて、戯言はここまでだ。」

 

 

ペルフェクティオはゲートを操作し己の分身たる存在を出現させた。

 

負の概念にして破滅を呼ぶ力…ファートゥムである。

 

 

「…!(どう言う事?あの機体に纏わりつく力があの時とは状況が違う?」

 

 

ハスミはかつての戦闘シーンでファートゥム現出の際になかった力の流れを読み取った。

 

それは負念のオーラにして結界、予想以上に変異が起こっている事を悟った。

 

 

 

「貴様達と外部の者達ごと滅びの時を与えよう。」

 

 

 

遺跡が揺れ動き崩壊へと導かれる。

 

各自、急ぎファブラ・フォーレス内部からバトル7のフォールアウトにて一時撤退した。

 

 

*******

 

 

一方、外側では…

 

同じ様に空間が揺れ動く現象に待機していた各艦の艦長らは口々に答えた。

 

 

「これは?」

「地震?」

「いえ、周囲の振動は上空の艦にも届いています。」

「おそらく空間自体が揺れていると思われます。」

 

 

ドミニオンの艦長、ナタルを始めにアークエンジェル艦長のマリュー、ナデシコCのルリ、トゥアハー・デ・ダナンのテレサ達が状況を分析。

 

これが次元震に酷似した現象であると推測。

 

だが、次元震そのものではないとユーチャリスのユリカに説明するルリ。

 

 

「ルリちゃん、まさか次元震?」

「それとは違うパターン波形が出ています。」

「と、言う事は…」

 

 

遺跡付近にフォールドアウトしてきた突入艦隊。

 

状況を説明をマックス艦長が行い、これが破滅の王によるものだと説明。

 

同じ様にクロスゲートを転移浮上させ現れたファートゥム。

 

状況は変わりつつあった。

 

 

「あれは…!」

「あの存在こそ破滅の王にしてルイーナの当主…ペルフェクティオです。」

「ハスミ少尉!?」

「お久しぶりです、ノードゥスの皆さん。」

 

 

今回の戦乱中にノードゥスのメンバーと所々で再会はしたが、ほぼ全員が集合した状態での再会はこれが最初である。

 

周囲から感じる気配は動揺と不安に虚偽。

 

これは私が突き放す事で守ろうと招いた結果だ。

 

 

「マックス艦長、内部で一体何が?」

「内部に潜んでいたとされるルイーナの全部隊は既にペルフェクティオに取り込まれ消失していました。」

「そんな…。」

「密かにクロスゲートを抑えようとしていたエルデ・ミッテとドゥバン・オーグの機体も発見しましたが既に大破、恐らくは…」

「正確には奴に喰われたが正しいかと?」

「喰われた?」

「ペルフェクティオは根源的災厄…負の根源の一端、その負の感情に連なる意思を感じ取り二名も取り込まれたと思われます。」

 

 

エルデはAIへのねじ曲がった愛情と欲望、ドゥバンは強欲、どちらも負の根源に近い感情の意思。

 

それはペルフェクティオを復活させる贄として利用された。

 

これもユーゼスの計画の一部だろう、運が良ければクロスゲートを掌握し己のモノとした。

 

出来なければ私達が全力で止めに入る事を計算しての采配。

 

結局は奴と無限力の掌で踊らされる事になるとは…

 

 

「ハスミ少尉、何故そこまで詳しく知れた?」

「ナタル艦長、それは今回の状況に酷似した事例に遭遇しているからです。」

「事例?」

「修羅の乱の頃…転移による二度目のEFでの最終決戦に置いて、これと同様の状況がありました。」

「それで知っていたと?」

「はい。」

 

 

同じくEFでの事件を知るアクセルも助言に入った。

 

 

「あのスヴァイサーの時か?」

「はい、状況を照らし合わせると似ていませんか?」

「相手の魂を喰らうと言う点では似ているな。」

 

 

結局、喰われた魂が復元する事はない。

 

一度失った命を救う事が出来ない。

 

それでこそ奇跡でも起きない限りは…

 

 

「アニキ…」

「やるぞ…リアナ、クリス、ラキ、ウェントス。」

「…(うん」

「分かった。」

「終わらせよう、僕らの手で。」

「ああ、親父を奴から開放する為にも…!」

 

 

ペルフェクティオを倒す決断をしたジョッシュ達。

 

戦うべき相手にノードゥスのメンバーは体制を立て直し、ペルフェクティオのファトゥームに対峙した。

 

 

「いくら足掻こうとも同じ事、お前達の感情は揺れ動いている。」

 

 

ファートゥムより放たれる負の気配。

 

それは南極を覆い、再びブラック・カーテンことアートルム・エクステリオルの結界を生み出す。

 

希望の象徴たるノードゥスを全て逃がさず己が喰らう為に。

 

負の感情はメンタルの弱い人間から蝕み始め、徐々に気力を奪っていく。

 

 

「所詮は人間、己の感情に揺れ動き…一つの感情に呑まれる。」

 

 

忍び寄る負の感情…『絶望』と『恐怖』が戦う者達の意思を奪い取ろうとしていた。

 

次々に戦う為の気力を奪われるノードゥスのパイロット達。

 

 

「違う。」

「!?」

「どんなに人が感情に揺れ動いても人は何度でも這い上がれる!」

 

 

何度、負の感情に呑まれようとも互いに支え合い立ち上がってきた。

 

だからこそ、彼らは絶望の淵に恐怖のどん底に居ようとも戦える。

 

 

「イルイ、答えは決まった?」

「うん。」

 

 

ハガネ艦内で待機していたイルイも転移でハスミのエクスガーバインの近くに転移した。

 

この時の為に選んだ答えをイルイに告げて貰う為だ。

 

 

「選択次第では日常に戻れないかもしれない…それでも?」

「私、クスハやアラド、アイビスにゼンガーの…皆の力になりたい!」

「判ったわ、貴方の判断に任せる。」

「ありがとう、ハスミお姉ちゃん。」

 

 

イルイの選択はガンエデンとして共に立ち上がる事。

 

ナシムの巫女として覚醒する事はイルイが戦いの余波に巻き込まれる事と同じ。

 

力の扱いを、進むべき道を、間違えなければ本当の意味で守護神になれるだろう。

 

 

「何をする気だ!」

「キョウスケ中尉、私達の力でクロスゲートから奴への力の流出を抑えます。」

「だから、皆…諦めないで!」

 

 

正念の力で負念を浄化し抑え込む。

 

この行為がどれだけの念動を消費するかは分からない。

 

それでも出来る事をしなければ、この世界に未来はない。

 

 

「過激にファイヤー!!マイク、例のアレを!」

「OKだっぜ、バサラ!」

 

 

FIRE BOMBERのバサラ達とGGG機動部隊のマイクや兄妹たるサウンダーズ達が準備を整えて歌い始めた。

 

人の中に眠るアニマスピリチアの力と勇気の力。

 

ノードゥスを鼓舞する為に。

 

時を同じくして世界各所で活動するリン・ミンメイら音楽アーティスト達がライブ配信を行い、歌で人々に希望を送り続けていた。

 

心に響く歌。

 

胸の歌は誰にでも届く。

 

これもシンカの一つ『心歌』である。

 

 

「何が起こっている…!」

 

 

先程まで絶望に満ちていた筈の人類が歌の力で立ち上がった。

 

どんなに打ちひしがれても立ち上がれる心がある。

 

 

「貴様ですら想像出来ぬ力を人は秘めているだけの事。」

 

 

ケイロンもまた己の内に秘匿するスフィアの力を開放し抗いの力を分け与えていた。

 

重なり合った奇跡がペルフェクティオの力を奪い弱体化させていく。

 

その勝機を誰もが逃す筈はなかった。

 

互いの力を合わせてファートゥムに特大の攻撃が行われた。

 

ノードゥス全艦隊、全機体による総攻撃である。

 

 

「ライアット・バスターぁ!!」

「これで!!」

 

 

総攻撃後にジョッシュらのフォルテギガスとトーヤのグランティードの攻撃が止めを務めた。

 

顕現する為の肉体を失い、機体を維持出来ずに扉の奥への押し込まれていくファートゥム。

 

ジョッシュは最後に消失していく父親から笑顔を一瞬だけ感じ取った。

 

 

「親父…ごめんな。」

「アニキ…」

「…(お兄ちゃん」

 

 

己の手で父親を撃つ事になったジョシュア達。

 

それでも最後は自分達の手でと決めていた事だった。

 

 

「イルイ、このまま扉を封印するわよ。」

「うん。」

 

 

負念の流出が収まった事を確認したハスミ達はそのまま並行してファブラ・フォーレスのクロスゲートを閉じ封印を施した。

 

この過程でもかなりの念動力を消費している。

 

目処前が暗く霞んでいくのが解った。

 

 

「イルイ、一先ずハガネに…!?」

 

 

一瞬だった。

 

ペルフェクティオの消失と共にアートルム・エクステリオルが解除された隙を突いてアーマラのガリルナガンが奇襲を仕掛けてきたのだ。

 

 

「油断したな、アシュラヤー、ナシム!」

「イルイ…っ!?」

 

 

しまった、さっきの開放で力を使い過ぎた…

 

このままじゃイルイが奴らの手に。

 

 

「イング、その者を連れてこい……“我が命に従うのだ”。」

「…了解。」

 

 

イングは迷いもなく強制通信から聞こえてきたアルテウルの指示に従い、行動不能となったハスミの機体を鹵獲。

 

そのままイルイを拉致したアーマラと合流し撤退した。

 

 

「イング、どうして…」

「…」

「まさか、バインド・スペル!?」

 

 

ハスミはイングの機体が自身の機体に触れた時にイングの身に起こった状況を知った。

 

それが『空白事件』の際にエーデル・ベルナルに仕込まれたコードだった。

 

 

「っ!?」

 

 

鹵獲の際に再度電撃を放たれ気絶するハスミ。

 

バインド・スペルの言葉だけは通信でノードゥスに届くように回線を開いて置いた。

 

 

「ハスミ!?」

 

 

ケイロンも鹵獲されたハスミの機体を追おうとしたが、先の戦闘で自身の機体も限界を超えてショートし動く事が出来なかった。

 

それはまるで何かの力が関わっているかの様に。

 

ノードゥスはフェリオ・ラドクリフ博士の犠牲によって『破滅の王』を退ける事に成功したが、ガンエデンの巫女であるイルイとハスミを鹵獲されると言う結末を迎えた。

 

起こるべき事象は何があろうとも妨げる事は出来ない。

 

変えた代償には同価値の代償が必要となるから…

 

 

>>>>>>

 

 

=???=

 

 

先の戦闘から数日後。

 

ノードゥスが存在する並行世界に隣接する異空間の一つでは…

 

 

「よくやったぞ、アーマラ、イング。」

「はっ。」

「…」

「念の為、イングに緊急コードを仕込んで正解だったな。」

 

 

アルテウル・シュタインベックの姿から本来の立ち位置であるユーゼスの姿に戻ったユーゼス。

 

その傍らで無言のまま控えるアーマラとイング。

 

そして背後には発光する液体に満たされた培養槽が設置されていた。

 

無数のコードに絡まれた状態で眠りに付いているハスミとイルイの姿。

 

意識はないもののハスミはイルイを抱きしめ離さずにいた。

 

これは彼女なりのイルイを守る為の抵抗の証でもあった。

 

 

「二対の依代…これで私は。」

 

 

ユーゼスは仮面の奥で絶対的勝利を成しえた笑みを浮かべた。

 

新人祖の目覚めの時は近い。

 

だが、ユーゼスは一つの誤算を起こしていた。

 

絶対に敵に回してはならない存在達の逆鱗に触れた事をまだ知る由もなかった。

 

 

=続=

 




人の新たな祖。

それは偽りである事を愚者は知らない。


次回、幻影のエトランゼ・第七十五話 『人祖《アダマトロン》』。


歌え、爆ぜる炎の魂と共に。

奇跡の歌を。
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