だが、現実は残酷で悲劇である。
彼らは英雄の影に隠れる悲しみを知らない。
それでも彼らは夢を諦めない。
前回のインファント島におけるゴジラ騒動から数日後。
再会したゼンガー少佐との諍いも平行線のまま…
オロス・プロクスの新規情報も入らない状況が続いていた。
そんな時、天鳥船島付近に謎の転移反応を確認。
私ことハスミは機体を操縦出来る人員で転移反応先へ向かう事となった。
******
天鳥船島のクロスゲートから転移反応先であるカリブ海・近海へと到着した私達。
連合軍の基地再開発計画が継続中の事もあり、カリブ海付近にはまだ連合軍の監視は行き届いていなかった。
計画終了後は滅多に近づけなくなるが致し方ない。
「…」
「なあ、ハスミ?」
「どうしました、ガドライトさん?」
「元上司に機体を渡しちまって良かったのか?」
「今は人手が必要です、向こうに待機させるよりも余計な事をしない様に監視をした方がマシです。」
「あー、元部下なら元上司を理解してるってか?」
現在出撃しているのは私ことハスミ、ガドライトさん、アウストラリス、アサキム、ゼンガー少佐の五人である。
ガドライトさんの部下であるアンナロッタさん達は天鳥船島にて待機中である。
余計な戦力を晒す事は出来ない為である。
機体はエクスガーバイン・クリンゲ、ジェミニア、蒼雷、シュロウガ、グルンガスト参式。
この参式は元々開発データを光龍が前回の戦いでテスラライヒ研究所から勝手に持ち出してしまった経緯がある。
そのデータから天鳥船島にて復元したのでオリジナルと全く大差ない。
しいて言うなら斬艦刀は再現出来ないので天臨社で開発した特機用の実体剣を装備している。
何もなければ戦闘に支障はないだろう。
「転移反応があったのはこの付近です。」
「…特に何も見えねえな?」
「近くの島に潜伏は?」
「いえ…気配はここで強く出ています。」
「では、転移中かもしれんな。」
転移後に接触する事は良くあったが、転移中と言うのは久しぶりに思える。
ここから出てくる招かねざる客は何者なのか…
アカシックレコードは答えてくれず、知りたがる山羊もボンヤリとシルエットを見せるだけだった。
「…(何となく厄介な案件なのは解るけど口に出したくない。」
口は禍の元と言うが、現実はそう甘くはない。
招かねざる客が目処前に転移した事で状況はややこしくなったと悟った。
「ここは一体?」
「他の皆と一緒にミッションの開始エリアに移動していたのは覚えているけど…」
「何だかさっきと雰囲気が違うような?」
「ねえ、あの機体達は?」
「ガンダムじゃないね…一機は多分解るけど。」
転移直後から駄々洩れの会話を拾ったが、状況を理解出来ていない様子だ。
大体はそうなるわね。
私は混乱を収める為に声を掛けた。
「貴方達、何処から来たの?」
「何処って…ここGBNじゃないんですか?」
「GBN?ここはカリブ海のど真ん中よ。」
私の説明に驚愕する転移者一行。
「カリブ海ってあのカリブ海!?」
「じょ、冗談よね!?」
「冗談ではないわ、連合軍が再開発中のエリアに貴方達の様な子供が機体に乗っている方がおかしいけど?」
「連合軍?」
「…旧連邦軍の今の総称よ、連邦軍やジオンと言った太陽系の組織同士が再構築された新政府の組織だけど?」
「ちょっと、これってミッションの開始合図?」
「そうではないっぽいけど…」
「リク、あの人が言っている事は本当…嘘じゃない。」
「サラ、本当なのか?」
「うん、ここはGBNじゃない…違う場所。」
「なら、あの光に巻き込まれて私達は…」
「やっぱり、貴方達…外からの転移者の様ね。」
話が長すぎるので区切りを入れる為に切りやすい場所で言葉を掛けた。
「転移者?」
「こちら側で起こった空白事件を皮切りに並行世界から転移者が時々現れる様になったの。」
「並行世界?」
「ただでさえ封印戦争後で連合軍がピリピリしている状況よ。」
「封印戦争って…もしかして!」
転移者メンバーの中で眼鏡を掛けたエルフの風貌の青年が何かに気が付いたようだが、詳しい事は後回しになった。
もう一つの招かねざる襲撃者…ラマリスの集団である。
「あれは…!?」
「ラマリス、もうこちら側でも…!」
「ハスミ、奴らは?」
「ゼンガー少佐、あれが負念の化身・ラマリスです。」
「修羅の乱で接触した奴らか?」
「はい。」
スダ・ドアカワールドで接触したラマリスがもうこちら側に出現し始めるなんて…
もうカウントダウンが早まったのか?
早急に彼らを元の世界に戻さないと!
「貴方達、今から指定するエリアまで避難して!」
「でも…」
「これは遊びではないわ、生半可な覚悟なら出しゃばらないで頂戴!」
「リク…」
「サラ…ユッキー、モモ、アヤメさん、コーイチさん、俺達も戦いましょう!」
「リク君!無茶だよ!?」
「そうよ!」
「ここが何処なのかも判らないまま消えるなんて出来ない!」
「そうね、事情を知る為にも奴らを倒さないと。」
「でも、気を付けた方がいい…向こうの戦闘データは一切ないから注意して戦おう。」
私は彼らに逃げる様にと伝えたが、彼らは戦う事を選んだ。
自ら泥沼に足を踏み入れた愚か者だと思う。
逆に覚悟を決めた事には認めようと思う。
「答えは決まったのね。」
「はい、俺達も戦います…えと。」
「さっきは怒鳴ってしまって御免なさい、私はハスミ…ハスミ・クジョウよ。」
「俺はリクです、隣にいるのはサラとモル。」
リクを始め、他の転移者も軽い自己紹介だけを済ませた。
「リク君、貴方達はラマリスをかく乱して動きを止める事に専念して。」
「動きを?」
「ラマリスは特殊な能力を持った相手でないと完全に殲滅出来ないの。」
「…判りました。」
迷いなくこちらの指示に従ってくれる事に感謝したい。
あの子の隣にいた女の子には後でお礼をして置こう。
「んじゃま、負念退治と行くか?」
「僕らに手を出した報いは受けて貰うよ。」
「…」
「推して参る!」
ガドライトさん達も戦闘を始めた。
余程の事がなければやられはしない。
出現したのが初期ラマリスだけだったのは幸いだった。
「…(兎に角、あの子達の監視もしておかないとね。」
私はリクら転移者達の様子を伺いながら戦闘を開始し初期ラマリスを蹴散らしていった。
彼らのチームワークには驚かされるが、互いを理解し合っている証拠だと思った。
そして…
「とりあえず、私達の拠点に来て貰えるかしら?」
「どうして…?」
「今の連合軍に貴方達を引き合わせるのは危険と判断したからよ。」
そう、危険なのだ。
貴方達の機体は連合軍の余計な戦力のヒントを与えてしまう。
彼らの機体は鹵獲されてはいけないし姿を見せない方がいい。
私はそう判断し、彼らを引き連れてクロスゲートの転移で天鳥船島へと帰還した。
>>>>>>
数時間後、天鳥船島の個室にて。
「「「ええええええ!!?」」」
私はリク達にこの世界の状況を説明した。
最初は眼を輝かせていたが、徐々に眼の色が変わっていった。
それもそうだ。
ここは君達の世界で認識される『スパロボの世界』なのだから。
そして本当に生死を掛けた戦いが繰り広げられている事も理解して貰った。
エルフ姿のコーイチとくのいち姿のアヤメは自身らの持つ通信機に元の世界との通信が取れる事が判明した為、状況を整理していた。
向こう側では彼らの肉体が意識不明の状態に陥っていると声が漏れていた。
そのまま放置する事は出来ない。
早急に明日にでもクロスゲートでお帰り願おうと思った。
<その夜>
天鳥船島の地表部分の庭園にて。
一人近くのベンチに座り込むリクの姿があった。
「…」
「眠れないのかい?」
「貴方は?」
「僕はアサキム、君が転移した場所に居た黒い機体のパイロットとでも言えば解るかな?」
「あの時の…」
一人で移動していたリクの姿を追ってきたアサキム。
個人的な興味があったらしくリクの隣に座った。
「君の機体は刹那・F・セイエイとシン・アスカの機体を合わせたものだね?」
「二人の事を知っているんですか?」
「うん、これでも敵として戦った事があるからね。」
「敵…」
「正確には仲間でもないし僕にも目的があったからね、敵対するしかなかった。」
「…」
「絶望したかい?」
「いえ、戦争ならそう言う事もあるんだなって理解しました。」
「それでも僕は彼らに希望を託して一度滅んだんだ。」
「えっ?」
「そして、僕は再度その記憶を引き継いで同じ生を受けた。」
「…(それってコーイチさんが言っていたなろう系の小説の主人公の様な?」
「今は未来を変える為に動いている。」
「未来?」
「君にもあるだろう、大きな夢とか?」
「は、はい。」
「誰にだって叶えたい夢がある、僕は求めた夢を叶える為に動いているんだ。」
「アサキムさんの夢って?」
「自由になる事さ、僕を縛り付けている呪縛を解く為にね。」
シュロウガと共に不死に縛られた存在。
これがアサキムの正体であり、邪神を倒した事で神殺しを背負った並行世界のマサキの成れの果て。
そして、今世のアサキムに架せられた呪いである。
「呪いですか?」
「うん、詳しくは言えないけど…僕はシュロウガと共に死ねない呪いを掛けられている。」
「…」
「僕はこの呪いを解く為にずっと彷徨い続けてきた。」
「じゃあ、アサキムさんは呪いを解いたらどうするんですか?」
「そうだね…風の呼ぶままに自由に旅をしてみたい。」
いつの日か己を縛る鎖を断ち切り、自由になる事を。
「旅か…」
「リクの夢は何?」
「俺の夢?」
「そう、君の夢。」
「今はGBNを通して色んなガンプラバトルをして色んな場所を巡りたい。」
「それは既に叶えられているんじゃないのかい?」
「はい、なので将来はGBNやガンプラに携わる仕事に付こうと思っているんです。」
「それが君の目指す夢かい?」
「これからもいろんな事が学んでいかないといけないけれど…きっといつか叶えて見せるって思っています。」
理想の夢、夢を諦めない心、未来を描く想像力。
ああ、そうか…
だから僕のスフィアは惹かれたんだね。
『夢』と言うキーワードに。
「目指すといい、君の求める未来を夢を…絶対に諦めないでくれ。」
「はい、アサキムさんの夢も叶う事を俺も願ってます。」
「ありがとう。」
アサキムさんは礼を告げるとその場を去って行った。
俺も区切りが良かったので用意された個室に戻った。
翌朝、俺達はクロスゲートって言う扉で元の世界に帰った。
眼を覚ますと病院で両親が揃って泣いていた。
その後、GBNから長期ダイブの注意点が報道され程々にと言うキャッチフレーズが世間を賑わせた。
俺達の昏睡状態は秘密にされ、GBNが厳重に情報を管理する事となった。
GBN側は何処かの電脳仮想空間に俺達の意識が流れ込んだ事が昏倒の原因と思っている。
俺はそうは思わない。
あのリアルな感触は仮想で表現するには難しい。
もしもがあるならもう一度、あの世界にいけるのだろうか?
=続=
知られざる結末。
本来の在るべき形。
これは自称・神の雷。
次回、幻影のエトランゼ・第八十話 『彼方《カナタ》』
光と影は笑い合う。
絶望と狂気の果てに。