幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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彼らが往くべきはゼウスの守護惑星。

天罰を下す神の雷は偽り。

彼女はただ扉を開くだけ。





第八十話 『彼方《カナタ》』

前回の騒動から一週間後。

 

様々な転移者騒動が起きる中、戦いは紛争程度の規模で続いていた。

 

オロス・プロクスの足取りを掴んだハスミ一行は物質界メンバーを転移先へ転送。

 

だが、諸事情でハスミ達はこちら側の世界に残る事になった。

 

理由は『神の雷』と呼ばれる戦いが迫っている事である。

 

それを阻止するにも現在のノードゥスは各所の紛争を止める為に散り散りになっており集結に時間が掛かっていた。

 

インスペクター…ウォルガより提供された転移装置の限定増産と搭載に時間が掛かってしまった事も理由の一つである。

 

イルイも相変わらずクロスゲートへのアクセスに必要な念動力が回復していない事もあり、八方塞がりになっていた。

 

外宇宙へ旅立ったメンバーとの連絡は付いたもののメンバーの全員が太陽系外へ居る為に戻ってくるのに時間が掛かってしまう。

 

頼みの綱のサナリィで開発されていた『レコードブレイカー』と呼ばれる機体は木星帝国の新指導者の一人『闇のカリスト』によって破壊。

 

残された『スピードキング』による少数精鋭部隊の電撃作戦に切り替えられた。

 

もしも『シンヴァツ』を発射させられれば太陽系は壊滅、別勢力に奪取されても同じ結末を辿るだろう。

 

希望は彼らに託されたのである。

 

そして詳細を知ったハスミらも独自で動く算段を立てていた。

 

 

******

 

 

天鳥船島・神殿内部。

 

物質界メンバーが旅立った後、残ったハスミ達はコーヒーを片手に神の雷事件に付いて話をしていた。

 

開口一番、アウストラリスの発言からハスミが説明を始めた。

 

 

「ハスミ、神の雷事件とは一体…」

「本来の正史ではシャアの反乱から43年後、マフティー動乱だと25年後に引き起こされた海賊クロスボーン・バンガード対木星帝国との戦いです。」

 

 

木星帝国、秘密裏に地球圏で戦乱を起こそうとする者に武器の供与や経済援助を行っていた組織。

 

木星圏のコロニーを拠点としL5戦役頃では『木連』や『C・V』とも繋がりを持っていました。

 

また、外部侵略者の監視の為に設営されたイカロス基地すら度々彼らに奪われる事もしばしば…

 

前回の封印戦争で総統クラックス・ドゥガチが死亡した事で暫くの間は成りを顰めていました。

 

が、新たな新総統して光のカリストと影のカリストが選出。

 

彼らの指揮の元、コロニーレーザー『シンヴァツ』が開発され、太陽系は危機に陥っている状況と言う事です。

 

 

「正直な話、ガンエデンの守護塔からの長距離砲撃で破壊すれば済む話なのですがね…」

「訳は?」

「ガンエデン達は今回の件を人類が自らの手で立ち向かわなければならない危機と判断し、本格的な協力はしない方針を決めました。」

「ガンエデンの手を借りる程度では奴らに太刀打ち出来んからな。」

「そう言う事ですね、軽い手助け程度はする様子ですけど。」

 

 

ハスミは微妙な表情でコーヒーを啜った。

 

 

「軽い手助け?」

 

 

妙な言い方にガドライトが反応する。

 

 

「簡単に言えば転移の件ですよ。」

「成程な、ノードゥスの連中をコロニーレーザーのあるエリアに転移させるってか。」

「そう言う事です、手を出すかは…アウストラリスの判断に委ねます。」

「…そうだな。」

 

 

表向き、ハスミはサイデリアルに敗北しアウストラリスの配下となっているので彼女自らの行動は制限されている。

 

御使いの眼を誤魔化す為にクロスゲートの使用はアウストラリスの指示の元で行うしかない様に見せなければならない。

 

ややこしいがそう言う手筈なので変える事はほぼ不可能である。

 

 

「ハスミ、史実ではどうなった?」

「たった七人でシンヴァツを破壊し光のカリストらを倒したものの生存者は七人中二人…連邦軍はこの事から各コロニーの配置転換を行い地球圏に対してコロニーレーザーを使用出来ない様に動きます。」

「…余りにも遅すぎる対応だな。」

「シャアの反乱後、ラプラス事件、マフティー動乱……大規模な戦争は無くなったものの徐々に連邦軍は腐敗の一途を辿りましたので。」

「だが、今は違うのだろう?」

「その通りです。」

 

 

アウストラリスは少し考えてから答えを出した。

 

 

「……声明を出そう。」

「宜しいので?」

「このまま連中の好きにさせる訳にもいかんのだろう?」

 

 

彼は『機体が無ければ碌な戦闘力もない総統など雑魚に等しい…』とボソリと呟いた。

 

 

「彼ら一応、厄介なサイキッカーなのですが?」

「それが如何したと言うのだ?」

「…心配する必要ありませんね。」

 

 

圧倒的な力と戦略でZ-BLUEや地球圏を壊滅にまで追い込んだ貴方なのですから、彼らすら小物に見えるのですね。

 

物凄く酷い扱いですが、清々もします。

 

彼らの性格は虫唾が走るので。

 

 

「では、声明の準備を進めますね。」

「頼む。」

 

 

軽いコーヒータイムは終わり、戦うべき相手と対峙する為に動く事にした。

 

 

>>>>>>

 

 

数時間後、日本・極東方面。

 

鋼龍戦隊が帰港している伊豆基地にて。

 

それは突如として伊豆基地の司令部へ届けられた。

 

 

『サイデリアルのアウストラリスだ、既にお前達の元にもある戦乱の情報が齎されている事を視野に伝える。』

 

 

『現在、木星帝国がコロニーレーザーによる照射で太陽系壊滅を目論んでいる。』

 

 

『既にお前達の仲間が先行し危機に立ち向かおうとしている。』

 

 

『ここで黙って見ている気がないのであれば、指定した日時の場所へ集え。』

 

 

『……以上だ。』

 

 

そこで通信は途切れた。

 

淡々と語られた情報と反撃の兆し。

 

この好機を逃す必要はないと判断しノードゥスに招集命令が下された。

 

 

 

~数時間後~

 

 

 

アウストラリスからの通信の後、現時点で動く事が可能な部隊がオービットベースへ集結。

 

そして指定された時間まで残り二時間を切っていた。

 

この状況なら急ぎ指定エリアまで移動しなければならないが…

 

アウストラリスが指定したエリアはオービットベースの目処前。

 

この為、作戦会議を含めて瞬時に出撃し指定エリアへ移動出来る状況になっていた。

 

封印戦争後の復興支援で動ける部隊は数える程度の規模。

 

それでも何時もの四隻の戦艦による電撃作戦は可能だった事は救いだろう。

 

現時点では動ける戦艦は鋼龍戦隊のハガネとヒリュウ改、ラーカイラムとナデシコC。

 

残りは各地の防衛と復興支援に動いているので動かせない状態だ。

 

グリーフィングルームでの作戦会議後、オービットベース近海へ出撃。

 

指定された時間まで待機となった。

 

そして…

 

 

「やっと準備が整ったのか…待ちくたびれたぜ?」

「お前は?」

 

 

空間転移でオービットベース近海に現れた二機の機体の内、紫色の機体のパイロットが答えた。

 

そのパイロットに対してキョウスケが訪ねた。

 

 

「自己紹介がまだだったな、俺の名はガドライト・メオンサム…サイデリアルのメンバーとでも言っておこうか?」

「サイデリアル…アウストラリスの仲間か?」

「ま、そう言う事だ……それとそこの子の監視も兼ねているぜ?」

 

 

もう一体の機体はエクスガーバイン・クリンゲ。

 

転移能力を持つが故に水先案内人としてアウストラリスの命により出撃させられたのだろう。

 

 

「…」

「ハスミ、無事…と言う訳でもなさそうだな?」

「私がここに訪れたのは転移先へノードゥスを送る事だけを許されただけ……それ以上の事は語るなと命令されていますので。」

「余計な事は話せない、俺達に話す事も出来ない処置をされたか?」

「…」

 

 

通信越しであるが、いくつかの問いに対し頷いて肯定と伝えるハスミ。

 

 

「それは俺達と敵対する道を選んだとしてもか?」

「…そう捉えられても仕方ないかと。」

「そうか。」

 

 

あくまでポーカーフェイスを貫くキョウスケ中尉。

 

こちらの事情の一部は既にZ事変を経験したメンバーから齎されているだろう。

 

解っていても苦しくて泣きたい位に胸が痛む。

 

 

「さてと、話は終わりだ……クジョウ、景気よくやってくれよ?」

「了解。」

 

 

同じ様に通信越しで私の心境を察したガドライトさんは話を切り上げ、本題の行動に移させた。

 

申し訳なくなったので後で謝罪して置こう。

 

私はクロスゲートを起動させ、ノードゥスの艦隊を木星にあるシンヴァツを確実に狙える位置へと転移させた。

 

既に先行した部隊が交戦しているが、十分に間に合うだろう。

 

 

「とりあえず、俺らの仕事は終わりだ。」

「…」

「安心しな、あのオービットベースだったか?アレを狙えとは命令されてないから安心しろよ。」

「いえ、先程は申し訳ありませんでした。」

「おいおい、さっきの事…気にしていたのか?」

「次はしくじりませんので。」

「…(全く、無理ばっかする子とは聞いていたがアウストラリス並みの堅物かもな。」

「戻りましょう、私達にはやるべき事が残っています。」

「そうするかね、木星の戦線を引っ掻き回しているアサキムが羨ましく思えるぜ。」

「単機による奇襲から緊急離脱が行える機体はアサキムの十八番ですので。」

 

 

私達もまた、クロスゲートで転移し行方を眩ませた。

 

GGGに在籍する優秀な研究者達でも次元力の解析が遅延しているので追う事は不可能だろう。

 

天鳥船島へ帰還した私達は知りたがる山羊のスフィアの力で木星の状況をリアルタイムで監視。

 

多少の危機はあったものの無事に勝利を収めた様だ。

 

ノードゥス艦隊に参加していたシーブックはトビアにお説教を噛ましていたが放っておく。

 

気持ちは解らなくもないが、相談なしなら怒るのも当然と思える。

 

そして、今回の戦いでテテニスことベルナデットの義母であるエウロペは生存。

 

光と闇のカリストが戦死した事で木星帝国の自治権はエウロペとベルナデットが握る事となった。

 

後の事は二人が相談して木星帝国内部の諍いを鎮めていく事になるだろう。

 

 

=続=




揺れ動く電脳世界。

彼らは電子の生命体。


次回、幻影のエトランゼ・第八十一話 『魔扉《マジカルゲート》』


幾多可能性を求めて彼は戦う。
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