夜の闇に囚われた彼ら。
だからこそ取り戻す。
鋼の魂と共に。
前回と同様の事を説明する。
オロス・プロクスとの戦いが終盤を迎える頃。
彼らに協力していたジョーカーや殺女達が急遽離反。
各々が行動していた際に別の意味の悪意を感じ取っていた。
恐らくはそれぞれの目的の為に必要な材料が揃ったのだろう。
殺女の目的は未だに不鮮明だが、それに関しては因縁の相手である帝国華撃団の大神さん達に任せる事にした。
彼らも彼女の開放を望んでいる事なので。
私ことハスミはジョーカー達の件で介入予定だ。
理由はシンプルに奴が再び引き起こした『眠り病』に知り合いが巻き込まれたからだ。
彼らは今回の事件以前に知り合った人達とは遠く離れている上に無関係に近い存在だが出来得る事なら救出したい。
夜の闇の中で血と恐怖に抗いながら彼らは戦い続けた。
その子孫を巻き込んだ奴らを許す事は出来ない。
「あのゴムまり道化師め、原型が無くなるまでミンチにしてやるわ。」
と、私が無意識に吐露してしまう位だ。
「ジョーカーの奴、確実に命ねえだろうな。」
「う、うん…」
先程の発言に対し、ジョーカーと因縁のあるクロノアとガンツ達でさえドン引きし物陰に隠れている位である。
そうこうしている内にジョーカー達の潜伏先が判明したので、準備を整えた後に突撃を開始するのだった。
******
私達が転移したのは夢が原動力となる世界ファントマイルの空に浮かぶ太陽の神殿コロニア。
朧げに記憶を思い出したクロノアの話では月の王国クレスへ向かうにはここである操作をする必要があるらしい。
「えっと、大神官さん達の話ではここは祭壇?でクレスの道を開く場所って言ってたんだ。」
零児達からの質問に答えるクロノア。
「クロノア、必要な条件とは一体?」
「太陽があるのに暗くなった時に祭壇に月のペンダントを置くだったかな?」
「つまり日食が起こった際にその祭壇へ月のペンダントを奉納するって事かしら?」
「月のペンダントはハスミが風船ピエロをボコった時に拾ったんじゃっけ?」
「これの事ね。」
数回程、ジョーカーと交戦しその度にミンチになる勢いでボコボコにした時に拾ったペンダント。
シンプルな造りで月の形をした飾りにワンポイントで菱形の宝石が付いている。
「急いで祭壇の間に向かいましょう、こうしている間にも敵は動いているわ。」
「うん!」
ハスミの提案に誰もが否定せずにクロノアの案内の元…祭壇への道へと向かった。
祭壇の間へ到着後。
月のペンダントを祭壇へと奉納。
同時に祭壇のエレベーターが起動し外へと出る事となった。
外は晴れ間が広がっていた筈だったが、既に陰りを見せており日食を迎えようとしていた。
「皆さん、ここまで来てしまったんですね?」
「ジョーカー!」
浮上した祭壇の間の付近に現れたジョーカー。
「いっつもワタシの邪魔ばかり!!」
普段のジョーカーとは違い、地団駄を踏んだ後に意味深い言葉が出た。
「そろそろワタシも本気を出さなければならない時が来てしまいましたよ。」
ハスミはその言葉に反応しクロノアに告げた。
「クロノア、奴は本気よ。」
「えっ?」
「奴に纏わりつく気配が強くなった。」
突如、ジョーカーは巨大化し祭壇の周囲に展開していた黄金のサークルが分離し上昇していった。
そのサークルに乗っていたメンバーを持ち上げ、他の祭壇の床に残っていたメンバーと分断させられた。
下に残されたメンバーも上のメンバーと急ぎ合流しようとしたが、ジョーカーの配下が現れた事で乱戦へと突入してしまったのである。
上のメンバーは零児&小牟、小吾郎&美依、ハーケン&輝夜、ハスミ&アウストラリス、クロノア&ガンツ、クリス&ジル、デミトリー&ダンテ、サポートの沙夜、レディ、ゼンガー、ねねこ。
残りは下の祭壇の間で交戦中となった。
「では、始めますよ?」
巨大化ジョーカーは一礼をしてから攻撃を開始。
飛行能力を持たないメンバーは浮上したサークルが足場代わりである。
奴の攻撃に注意しつつ落下しない様にしなければならない。
そして銃器や飛び道具が無ければ苦戦を強いられるだろう。
「そーれそれーれーっと!」
お決まりのロケットパンチモドキの攻撃を仕掛けるジョーカー。
但し、サイズアップしているので一度でも喰らえばサークルから落下させられるだろう。
「体がデカくなった分、余計にタチが悪い。」
「風船の癖に生意気じゃぞ!!」
零児達の愚痴ももっともである。
「ハスミ、今の状況をどう見る?」
「今の所…こちらの攻撃が効いている以上、このまま攻撃の続行し経過観察を薦めます。」
「承知した。」
アウストラリスは戦闘状況をハスミに尋ねると攻撃続行の答えを出された。
「これならどうですか?」
ジョーカーの言葉と共に日食の様な陰りが周囲を包む。
同時に姿を変えるジョーカー。
「あの風船め、変身しおったぞ!」
「っ!?各自奴の攻撃に注意してください!」
闇の空間へと変貌した戦場。
同時に変身したジョーカーに攻撃が通用しなくなったのだ。
「攻撃が効いていないです!」
「一体どうなっているんだ?」
ハーケンらも攻撃が無効化された事に気づき焦りの表情を見せた。
「無駄ですよ、この闇の空間では貴方達のハエの様な攻撃なんて無意味なのです。」
ジョーカーも周囲の状況に対して煽りを入れた。
「闇の空間?確か…闇のモノは日食で強くなるって言っていた様な。」
「クロノア、他に何か思い出せないかしら?」
「えっと…このサークルは太陽を司るって言ってたと思う。」
「太陽?」
「もしかして…(日食の影響で色の変わったブロックを戻せば。」
ハスミはクロノアのヒントを元に足場の変色ブロックを数回踵で叩いた。
すると変色していたブロックは元の黄金の輝きに戻っていった。
「全員!敵の攻撃を避けつつ変色ブロックに振動を与えて元の黄金色に戻してください!!」
ハスミの発言を察した一同は変色ブロックに振動を与えて元の色に戻していった。
同時に闇の空間は取り払われ元の夕焼けの空へと戻ったのである。
「えーっ!!!そんなのーありーですか!?」
「このサークルは太陽を司る…恐らくは闇を退ける効力を持っていたのね。」
サークルが再び輝きを取り戻した事でジョーカーは元の姿に戻り、弱体化。
その状況に対してハスミは更に告げた。
「対処法が判った以上、奴を袋叩きにすれば終わりですね?」
「あーん、やっぱりうちに入らない?」
「申し訳ありませんが、別口に所属しているので無理な話です。」
その声色は容赦ない腹黒な様子だった。
沙夜はその様子に毎度の事でスカウトを掛けてくるが、ハスミはさらりと返した。
「クロノア、風玉を当てまくれ!」
「うん、今までのお返しだ!!」
「ねねこもばんばんうつのだー!」
クロノア達の反撃を皮切りに他のメンバーもジョーカーに攻撃を開始。
攻撃の最中に何度か闇の空間にされたが、先程の方法で解除。
ジョーカーはジワジワと追い詰められていった。
「そんな…こんな事があって…」
「ここまでだ、ジョーカー!」
「テメェとの因縁もこれで最後だぜ!」
「人の夢を散々利用した報いよ。」
「ワタシを倒しても次が…」
「ガディウスだろうと何だろうと俺達は戦う。」
「うん、皆の夢は僕達が取り戻す。」
強化されたジョーカーは失意のまま爆散した。
主の名を叫んで…
同時に下層で戦っていたメンバーと合流し今後の事で話し合いとなった。
「ジョーカーを倒したもののクレスに行くにはどうすれば…」
「クロノア、祭壇にペンダントを置いた後はどうなったの?」
「確か…ドーン!って何か飛ばしてたよ。」
「飛ばしていたって…」
「「「…」」」
さくらとジェミニの質問の後にクロノアは能天気な発言をする。
その答えに経験者達は察した。
「えー全員、身構えの準備をお願いします。」
ハスミはご都合主義な展開を予期し全員に警告を行った。
同時に祭壇周辺が振動し文字通りクレスまで弾き飛ばされたのである。
「あー死ぬかと思った…」
「勘弁してくれよ、吹き飛ぶのはビル爆破の方がマシだ!」
青褪めたフランクと何故か服がボロボロのブルース。
「クロノア!こういう事はさっさと思い出しとけっ!!」
「ご、ゴメンー!!」
「やれやれ、慣れって言うのは恐ろしいモノじゃ。」
「…全くだ。」
「ハスミ、いつもこうなのか?」
「九十九事件からよくある展開と思ってください。」
ガンツを筆頭に新参メンバーは九十九事件関係者あるあるの展開に対してクロノアへ文句を飛ばしていた。
その様子を見ていた小牟と零児は呆れた表情で傍観、ゼンガーからの質問へはハスミが対応していた。
コロニアの祭壇から打ち出されたビームの様なモノはクレスを覆う結界を破壊。
結界破壊と同時に夜闇の空に浮かぶ神秘的な城が出現した。
余波で飛ばされた私達は何とかクレスの城のエントランス部分に落下し着地した。
その関係でエントランスの天井をアウストラリスの蹴りでぶち破る結果となったのは言うまでもない。
「全員居るか?」
零児の点呼から始まり、全員の安否が確認を取った。
無事、全員が着地に成功した…
ちなみにアーサーだけが上半身だけ埋まる着地方法だったのは何故だろう?
「全く、酷い目に遇うばかりだぜ。」
「私、スカートの中が視えちゃいそうで吃驚極まりなかったです。」
「大丈夫ですよ、あのフランクさんでさえ…そんな余裕なんてないと思いますから。」
「ミスターのお陰で無事に着地出来た事だしな。」
「はい、感謝感激です。」
「礼は不要だ、必要と思っただけの事。」
ハーケン、輝夜、ハスミ、アウストラリス達の雑談の後、一行はガディウスが居るとされる玉座の間へ向かう事となった。
その道中で禍々しい卵の様な物体が安置されているのを見かけたが、事情を知らない、思い出せないクロノアは素通りしてしまう。
一方でそう言った気配を感じ取れるメンバーは気掛かりであるものの玉座の間に向かう事を促された。
そして…
「…」
「ガディウス…!」
玉座の間に辿り着いた一行。
玉座の元で鎮座する金色の仮面と黒いローブを纏ったガディウスの姿があった。
「来たか、異の夢を視る黒き旅人よ。」
「旅人?」
「ふん、まあいい……もうすぐナハトゥムが復活する、貴様らなどムシケラにすぎん。」
ガディウスが答えるとその身はボコリと膨れ上がった。
這い出てきたのはあのラマリスである。
「あれはラマリス!?」
「ハスミ、まさか…」
「はい、これまでの戦況と今の状況…これで辻褄が合いました。」
直視したハスミは状況を察して声を上げ、同様にゼンガーも理解した。
小牟と零児の問い掛けにハスミとアウストラリスは答える。
「どういう事じゃ!?」
「今回の『眠り病事件』はバアルによる侵略…負念の侵攻です。」
「負念?」
「正しき念で正念、負なる念で負念……陰陽、聖邪の様な関係です。」
「…そう、不浄の念が強まりつつある事象とも言える。」
「こうして悪夢を集める事で負念の力を高めようとしたのでしょう。」
「なら、これまで倒した敵が復活したのは?」
「奴らはバアルの眷属になった事で復活を果たしたのだと思います。」
言葉通りの悪夢が目処前で起きている。
それは捨て置けない状況だった。
ガディウスはラマリスに吸収され分散すると何処かへと飛び去って行った。
「きゃっ!」
「パープルゴースト共は何処へ行った?」
「恐らく、下に安置されたナハトゥムの卵へ向かったのでしょう。」
「どう言う事ですか?」
「道中で見たあの禍々しい気配の卵…あれがナハトゥムだとしたら辻褄が合います。」
「ハスミ、ラマリスの気配は?」
「この下からです、徐々に強くなり始めています。」
まるで膨れ上がり破裂する様だとハスミはハーケン達に告げた。
「なら、さっさとその卵を壊してしまえば…」
「いえ、奴はもう殻を破ろうとしている。」
「まるで孵化だな…」
「取り込まれた夢を喰らい尽くして…今、爆ぜた。」
振動するクレスの城。
悪夢の集合体は城ごと彼らを呑み込んだ。
同時にそれぞれがナハトゥムの体内の各所に分散されてしまったのだ。
「ここに飛ばされたのは私だけか…」
ナハトゥムの体内の何処か。
ハスミはその空間の一つに落とされていた。
「敵はラマリスだけじゃないと思うけど、油断は出来ないわね。」
ハスミは刀を下げたまま茫然と立っていたが、迫る気配を感じ取り切り払いを行った。
「判っていたとは言え、全員を相手にするのは骨が折れる。」
元の世界でジョーカーを遭遇して以来、彼に操られていた彼ら。
聞こえてくる言葉『鬼は斬る』と言うフレーズ。
「…(そうか、今の彼らには私が鬼に見えるのか。」
解っていたとは言え、辛い。
それでも、彼らを開放する為にも。
「…ナハトゥムが倒れるまでのタイマンと行こうか?」
ハスミは覚悟を決めて刀を構えた。
>>>>>>
同時刻。
クロノアとガンツの二人はナハトゥムの急所である部分に飛ばされていた。
「クロノア、どうやらアイツが本体っぽいぜ?」
「うん、アイツを倒せば!」
ガンツは両手拳銃を構え、クロノアはリングで風玉を生み出す。
ナハトゥムはそれを嘲笑うかの様に笑いを木霊させた。
同じ様にナハトゥムの各所で攻撃を仕掛けている仲間達。
幾度と攻撃を仕掛けても再生する為に徐々に疲弊していく。
ボロボロになりながらもクロノアは最後の一撃をナハトゥムの急所に打ち込んだ。
「ナハトゥム、これで終わりだ!!」
同時に各所で戦っていた仲間達を襲撃していた敵は消え去って行った。
一部を除いては…
ある場所では堕天使が天使へと変わり。
ある場所では仮面が外れて元の姿に戻った。
悪夢は終わった。
だが、彼らの戦いはまだ続くのだった。
******
それから連戦は続き、オロス・プロクスとの戦いも終止符を迎えた。
彼らの主であるメーデン・トローレは仲間達と共に経界石の中に戻る事を約束した。
新たな世界を求めるのではなく故郷をよりよい世界にする事を誓ったのだ。
同時に九十九事件関係者達との別れの時でもあった。
去り際に逢魔の沙夜は『百一胎計画』の事も例の如く漏らしていたので別の機会に決着をつけるしかないだろう。
ナハトゥムによって吸収され様々な世界から集められた『夢見る精神』は悪夢から解放された。
解放した夢見る精神らは幻想界の大巫女様と神界のイシター様経由でそれぞれの世界に戻して貰える事となった。
但し、返すべき世界が不明な夢見る精神だけは私が責任を持って返す事を告げた。
夢見る精神の繋がりを見れば、戻すべき世界は直ぐに解るので。
「着いたわよ。」
私はある世界に転移した。
そこが彼らを返すべき世界である事を知っていたから。
『…』
「うん、気持ちは解るけど……このままこの状態でいたら戻れなくなってしまうから。」
『…』
「それにね、私にはまだやるべき事が在る。」
『…』
「ずっと傍には居られない。」
『…』
独特の輝きを持つ夢見る精神らは目覚めない自身の肉体が搬送されているだろう病院へと向かっていった。
一人、一人、名残惜しそうに。
そして最後の一つが語りかけた。
『…』
「ありがとう、ただ約束はさせて。」
『?』
「いつかは判らないけど、貴方達と同じ様に転生した私がこの世界の何処かにいる。」
『!?』
「来世の私が貴方達にきっと会いに行くから。」
『…』
「だから…今はさようならよ。」
『…』
私は約束を告げて最後の一人を見送った。
「さようなら、炭治郎君。」
無事に夢見る精神が在るべき宿主の元へと戻ったのを確認してから私は転移でその世界を後にした。
どうしても涙が流れたままで止まらなかったけど。
=続=
それは静かに忍び寄る。
形は違えど定められた戦。
運命は再び繰り返される。
次回、幻影のエトランゼ・第八十三話『昏天《アンテン》』
それが運命ならば抗い覆す。