破界する者に躊躇いはない。
あるのは前に進むだけ。
その先にある障害が何であろうとも。
歩みを止める事はないだろう。
前回、ユーサー皇子より協力関係を結べたイグジスタンス。
その条件の一つとしてインぺリウムに囚われている二名のハイナイトの奪還を行う。
シュバル・レプテールとマルグリット・ピステールの救助を行う為に私達は…
総力戦になると踏み、リアクター機での出撃を決行。
流れではインぺリウムがZEXISとZEUTHの混成部隊と激突する。
その真っ只中に私達が介入し入り込む事となっても…
******
現在インぺリウムの軍勢はニューヨークにある国連本部に移動。
そこでエルガン代表は現在のインぺリウムの無法行為の停止を求めたが…
逆に執政官のシオニーは国連安全保障理事会のエルガン代表らに要求を行っていた。
インぺリウムを国として認めよと…
「ミス・レジス…国連は現在、インぺリウムを国家として承認していません。」
「外務調停次官、国際紛争の調停役である貴方にしては無礼ではありませんか?」
「え…?」
「私はシオニー・レジス筆頭執政政務官です。こう言った場所では互いに役職で呼び合うのがマナーですよね?」
「国家として認めていない組織の役職など、国際社会では何の意味も持たん。」
外務調停次官の動揺を余所にエルガンは姿勢を崩さす反論する。
「他者の自由を踏みにじり、自己の欲望だけを押し通そうとする者に権利を主張する資格はない。」
「なら、三大国家にそれを言う資格はございまして?」
「?」
エルガンの言葉にシオニーは答える。
「三大国家も裏で同じ様に他者の自由を脅かしていたのは事実でしょう?」
「…」
「特に神聖ブリタニア帝国や人革連もそれに該当するではありませんか?」
ブリタニア・ユニオンとして国が纏まる前のブリタニアは国を侵略し植民地を増やし続けてきた。
人革連は秘密裏に超兵と呼ばれる強化人間を開発していた。
「AEUも各地の紛争地帯も己の自由を守る為に小国同士が団結し虐げられた者達によるテロは収まらない。」
AEUも自由を奪われない様に小国同士が纏まる必要があった。
各地で紛争を行う者達も己の自由を勝ち取る為に武器を捨てる事が出来ない。
それも他者の自由を奪う行為ではないのかと告げた。
「この世界は壊すべきなのですよ。あなた方の泥濘に嵌った様な平和と秩序を振り払う為にも…」
薄氷の上に築かれた秩序は長くは続かない。
何処かで破壊し新たな秩序が必要なのだとシオニーは答える。
それは守れなかった美しい故郷の為の罪滅ぼしなのだろう。
「…この国連本部を次元獣に襲撃させるのか?」
シオニーの話で察したエルガンは答えた。
だが、シオニーの答えは更に上を行っていた。
「私の怒りが国連本部程度で収まるとでも?」
「…」
「ブリタニア・ユニオンも慌ただしい様ですしね。いい機会ですので…」
この大陸の10%程は灰になって貰うと答えた。
「三大国家と正面から戦うつもりなのですか!?」
外務調停次官の言葉も最もだが、それが出来てしまうのが今のインぺリウムだ。
インぺリウムの次元獣の脅威は既に全世界に周知済み。
この行為にZEXIS若しくはイグジスタンスが動かなければ止まる事はないだろう。
正に滅びの一歩手間である。
「言った筈です。我々の自由を侵害する者は武力を以って排除すると?」
シオニーは例の如くアレをエルガンに強制させた。
そう土下座である。
エルガンは少し考えた後に土下座を行った。
それはこの状況を収める為の対応であり、グダグダと子供じみた行動をするシオニーには理解出来なかっただろう。
今まで安寧の立場に居た相手を屈服させたと思い込んでいる内は…
この時、執政室の扉を乱暴に蹴り破る存在が訪れた。
「よう、随分とつまらねえ事しているな…女?」
「ガイオウ様…!!」
シオニーが次なる要求を答える前に現れたのはガイオウ。
ガイオウの登場に対し外務調停次官は驚きの声を上げた。
「この会談は厳重な警護の下で行われている筈…一体何が!?」
「警護ぉ…あんなので守っていたつもりだったのか?」
次官の言葉にガイオウは呆れた声で答える。
「けっ、準備運動にもならねえよ。」
「…」
ガイオウの発言に対し、外務調停次官は言葉を発する事が出来なかった。
彼で言う厳重な警戒態勢をガイオウは意図も容易く突破した。
一言で言えば今回ばかりは相手が悪すぎた。
ガイオウは銃弾程度で止められる様な相手ではない。
世界に喧嘩を売った相手が尋常ではない存在であると理解出来ていなかった為に…
「ひ、控えなさい!この方は新帝国インぺリウムの統治者、破界の王であるぞ!!」
「今はガイオウと名乗っているがな。」
「破界の王…ガイオウ…そうか。」
「ん?」
エルガンの発言に気づくガイオウ。
「リモネシア共和国から事の詳細は届いていたが…」
「お前…何だ?嫌な臭いがしやがるな…」
「…」
無言のままになったエルガンに対し外務調停次官が対応に動いた。
「ミスターガイオウ、貴方はインぺリウムの指揮官として…この会談に出席したのですか?」
「そんな所だ、そっちの女が…あんまりにもノロクサしてやがるんでな?」
要はしびれを切らして暇つぶしにも訪れた様な口振りだった。
「ガイオウ様…!私は筆頭執政官として…」
「黙ってろ。」
「ひ…」
シオニーは正当性を伝えるもガイオウの一言で縮こまったペット状態へと陥った。
「アイムの奴がお前を使うって決めた以上、俺に文句はねぇ。」
ガイオウは面倒事を力で抑える形で答えた。
「だが、俺の邪魔になるんだったら…殺すぞ?」
「は、はい…!」
ガイオウの視線は躊躇いはないと告げている。
反論すれば命はないと判断したシオニーは口を閉ざした。
様子を見つつエルガンはガイオウに質問を行った。
「では、ガイオウ…そちらの望みは何だ?」
「政治やら外交やら何て言う面倒な事は止めようって話だ。」
様は見え透いた懐柔案は止めろと遠回しの回答。
「俺は闘う為に、この世界に来た。」
ガイオウの答えはシンプルに戦う事だけ。
「俺は気の向くままに闘う。」
自身を止めたければ、暗殺でも奇襲でもなんでもすればいいとガイオウは伝えた。
「そっちの女みたいなやり方はしねぇし…向かって来た奴らは、その場で殺って終わりだ。」
ついでにお礼参りは省くと答える。
「事実上の宣戦布告と言う訳か…彼らやあの国はどう出るかな?」
「彼ら?あの国?」
「ZEXISと再生したリモネシア共和国だ…彼らはお前の侵略に対し立ち向かうと話しているが?」
エルガンの発言にガイオウはニヤリと口を歪ませた。
「成程な…俺と言う面倒事は奴らに押し付けるって腹か?」
「…」
「いいぜ?」
「!?」
「特にイグジスタンスの奴らは骨がある連中ばっかりだ…いい闘いになりそうだ!」
エルガンは並行世界の同一人物であるAGとの共振でイグジスタンスの異常性を伝えられていた。
同時に現時点で確実にガイオウを止められるのはイグジスタンスであると…
しかし、今回の一件ではZEXISがガイオウを打ち倒せなければならない。
力を示せと答えたイグジスタンスの真意はそこにある。
他力本願では力を貸す所か、これから惹き起こされる災厄に立ち向かう事は出来ない。
恐らくは様子見の末に彼らも知らない異常があれば、イグジスタンスはココへ訪れるだろう。
AGからの言葉もあったが、エルガンはガイオウの発言がハッタリではない事を確認する為…
懐から抜いた。
「ならば…!」
エルガンはZEXISが戦うべき戦場に誘う為に…ガイオウを拳銃で撃った。
「エ、エルガン代表…会談の場で何と言う事を!」
「これでインぺリウムを倒せるのなら、全ての責は私が負う!!」
「いい覚悟だ。おまけに思い切りもいい。」
当然の如く、拳銃の弾程度で倒れるガイオウではない。
ガイオウは避けもせずに放たれた弾丸を指先で掴み取り、ゴミの様に潰して床にポイっと落とした。
その様子に外務調停次官も顔を青褪めさせていた。
「そんな…銃弾を素手で…!?」
「言ったろ?こんなもんじゃ俺は取れんってな。」
「暗殺、奇襲…そんなものではお前を倒せんようだな?」
あくまで確認のつもりだったのだろう。
エルガンはガイオウの言葉の真意を改めて知り答えた。
「宣言通りに私をこの場で潰すか?」
「そんな気はねえな。」
ガイオウはエルガンの覚悟に答える。
「お前は銃を撃つより、兵を動かす方が本職らしい。」
「ここに出し尽くせる最高戦力を集結させ、お前と戦えと?」
「そう言うこった、お前の得意なやり方で来い。」
最後に『それを潰す方が、ずっと意味がある』と意味深くガイオウは伝えた。
それは絶望の始まりであり希望の終焉を意味していた。
だが、エルガンは何かを察して静かに答えた。
「…承知した。」
「言いたい事はそれだけだ…じゃあな。」
ガイオウは伝える事を伝え終わると動揺するシオニーを連れてその場を去って行った。
「破界の王ガイオウ…我々が超えなければならない災厄的存在か。」
この会談の後、インぺリウムが戦いの場に指定したのはサンクキングダム。
かつて世界平和主義を謳い、世界のあるべき姿を模索した国。
本来はハスミらが住まう世界にあった国家だったが、次元震によって国家ごと切り取られ行方知れずとなっていたが…
この多元世界に転移しAEU領域の一つになっていた。
現在はトレーズが代表を務めるコロニー連合と同盟を結び地上におけるOZの拠点と化していた。
勿論、国の在り方である平和主義を貫いているので独自兵力は定められた規定配備しかなく…
その多くがコロニー連合から選出されている。
元の世界に戻れた場合の措置も含めてトレーズとサンクキングダム代表のリリーナが決めた取り決めでもある。
マリーメイアの一件もあったのでリリーナ本人も平和の在り方をまだまだ模索している最中でもあるが…
「いいだろう、インぺリウム。」
エルガンはインぺリウムの挑戦を受ける構えを取った。
そして指定日時にZEXISとZEUTHの混成部隊はサンクキングダムへ集結。
決闘の火蓋は切られようとしていた。
>>>>>>
一方その頃。
フランス・パリに支部を置くOZの執務室にて。
地上へ下りていたトレーズがブリタニア・ユニオンのシュナイゼル・エル・ブリタニアと通信を行っていた。
『…インぺリウムによるサンクキングダム攻撃に対しAEUはどう動く?』
「あの国はAEUにとって外様扱いだ。AEU総裁は遺憾ながら、サンクキングダム首都の放棄を決定したよ。」
『貴方の部下のライトニングバロンはそれを良しとするかな?』
「それについては彼に一任している。それにピースクラフトの名は妹に譲り…彼は影で支える事を決めた以上は口出し不要だよ。」
『では、彼に道案内をお願いしたいのだが頼めるかな?』
「了解した。いい兵を送ってくれる事を期待している。」
『済まないな…代表。詳細は…後程連絡する。』
シュナイゼルはそれだけ伝えると通信を切った。
「事の次第は流れのままに…彼女の情報通り、か。」
トレーズは目を伏せて言葉を紡いだ。
「今回も彼は貴方の同志なのか?」
「表向きは…ユーサー殿下との対談に向けて動く為にも必要だと思うが?」
「必要な手段である以上は此方からは何も言えない…特にサイデリアルいやイグジスタンスの動きが判らない以上は。」
執務室に供えられた客間スペースから話す二人の人物。
「アムロ・レイ、シャア・アズナブルいや…その姿の場合はクワトロ・バジーナと呼んだ方がいいかな?」
トレーズはシャアの偽名であるクワトロに呼び直した。
その対応に答えるクワトロ。
「出来れば、そうして貰えると助かる。」
「トレーズ代表、貴方は今後どうするつもりだ?」
「彼女の示した時が訪れるまでは道化を演じさせて貰う、それが彼女との約束でもある。」
「彼女?」
「君達が良く知る人物だよ。女神様と呼んだ方が良いかな?」
「…」
「その彼女からの連絡は?」
「予定通り、インぺリウムのサンクキングダム襲撃に乱入するそうだ。」
トレーズは説明する。
サンクキングダムで彼女達は対峙する。
この世界も喰らい尽くそうとする魔獣の兆しが現れた。
星座は集う。
そして…
彼の意思もまた現れると答えた。
「君達はどうする?」
「俺達も様子見をしたいと思っている。」
「我々はまだ答えを出し切れていない…彼女の真意を掴むまでは。」
アムロとクワトロは前回と同様にZEXISと合流せずに様子見の構えを取った。
だが、彼らはこの判断を誤った。
往くべきだった戦場に赴かなかった事を…
後悔しても遅い事を認識するのだった。
=続=
逸脱した現象。
定められた事象。
それらが根本的に覆される。
次回、幻影のエトランゼ・第百七話『共鳴《キョウメイ》後編』
個は融け合い。
たった一つの意思へと変換される。