幻影のエトランゼ   作:宵月颯

208 / 251

割れた欠片は一つへと戻る。

あるべき姿へと。

それは願いの先に求められた姿なのだろうか?


第百七話 『共鳴《キョウメイ》後編』

ZEXISとZEUTHのメンバーがインぺリウムによるサンクキングダム襲撃に備えて出撃した頃。

 

私達は予定通り、リアクター機での出撃を決行。

 

そうしなければならない事態が差し迫っていた。

 

リモネシア共和国にはイグジスタンスの部隊が防衛の為に待機。

 

鋼龍戦隊は別区域で出現したラマリスの討伐に向けて出撃。

 

多元地球における各所の座標表は既に構築済みなので、何かあれば空間転移で合流する予定である。

 

 

******

 

 

リモネシア共和国、政庁最下層・遺跡内部にて。

 

クロスゲートが安置された場所でイグジスタンスのリアクター機…

 

並びに協力体制を取っているリアクター機が勢揃いしていた。

 

開口一番にクロウがハスミに尋ねていた。

 

 

「しっかし、そのエンデって奴が動き出したのは本当なのか?」

「ええ、間違いありません。」

 

 

因みにエンデの姿と大きさは大雑把であるがスフィアを使ってこの場の全員に知らせてある。

 

大体こんな感じの奴って風に…

 

まあ、大体は驚かれたが耐性が付いているとそうでもないらしい。

 

 

「…(問題はこの件に無限力が手を出していた事。」

 

 

この件に関してはインサラウム皇国と同盟を結んだのが切っ掛けではない。

 

既にエンデによって多元地球はターゲットの一つにされていたらしい。

 

アイム…いや間接的に御使いがインサラウム戦で引き起こした大時空振動は多大な影響を及ぼしていた。

 

それがエンデにとって良き餌場を発見させてしまう結果となったのだ。

 

 

「ランドさん、セツコ、申し訳ないのですが…」

「ZEXISとZEUTHの危機って言うんなら仕方ねえよ。」

「サンクキングダム。あの国がまた戦火に晒されるなんて…」

 

 

緊急事態に付き招集に応じてくれたランドとセツコ達。

 

インぺリウムの他に脅威が現れると発覚した以上、協力は惜しまないと告げてくれた。

 

 

「ハスミ、急ぎ…サンクキングダムへの転移を。」

「了解。」

 

 

ハスミはアウストラリスに促されて転移の準備を進めた。

 

この地に安置されたクロスゲートだが、次元転移が限定的である事以外は空間転移に支障はなかった。

 

よって、黒の騎士団のゼロが危惧した『転移による奇襲戦法』が幕を開ける。

 

 

~数時間後~

 

 

サンクキングダムはAEU上層部の判断によって見捨てられたものの…

 

前もって国民達はトレーズとリリーナの指示によって避難命令を受けていた。

 

それにより民間人は既に退避完了の末、残っているのは国防の任を受けたOZの部隊だけである。

 

その部隊もZEXISとZEUTHの混成部隊の邪魔にならない様に撤退。

 

文字通り、決闘の場と化した場所にには混成部隊とインぺリウムの軍勢のみとなった。

 

希望と絶望が戦い合う中で介入する存在もまた現れた…

 

 

「けっ、誰だよ…俺達の闘いに水を差す馬鹿野郎は!」

 

 

ガイオウの憤慨振りからして奴の仕業ではない。

 

記憶を持つ者達もまた同じであり、現れた軍勢に見知った存在が混ざっていた為である。

 

 

「あれは!?」

「キラさん!アスランさん!」

「彼らは…!?」

「…(まさか、例の魔従教団の他にガーディムも介入しているのか!?」

 

 

ZEUTHの側のガンダムチームであるシン達の発言。

 

アールヤブは兎も角…

 

ルーンゴーレムに関しては他の仲間達からの情報であるが、実際に見るとでは違う。

 

 

「次元獣だけでも厄介だってのに、このままじゃジリ貧だぜ!」

「小父様にも会えていないのに…!」

 

 

桂とアテナの二名も乱戦と化しつつある戦場に不安の声を上げた。

 

続く戦いに新たな火種。

 

新たな介入者によって混成部隊の危機が加速すると思いきや、兆しは平等に齎された。

 

 

「この反応は…!?」

「おいおい、マジか!?」

 

 

ヒイロとデュオの発言に反応する刹那とロックオン。

 

 

「何が遭った!」

「また何か起こるってのか!?」

 

 

その答えを告げるトロワとカトル。

 

 

「これはクロスゲートの反応だ…!」

「はい、間違いありません!」

「!?」

 

 

この事にゼロも反応。

 

イグジスタンスとの会談でクロスゲートの件を聞いていた為である。

 

それが反応すると言う事はクロスゲートの先から転移者が現れる事を指していた。

 

そして…

 

巨大な円形のゲートが戦乱渦巻く上空に出現し降り立つのは星座の加護を持つ戦士達だった。

 

 

「あれは!?」

「まさか!」

 

 

記憶を持つ者達は口々に答えた。

 

その中に見知った機体や初めて遭遇する機体や戦艦の姿があった為に。

 

流れは変わりつつある。

 

 

「来やがったか、重ぇ腰を上げてよ…!」

 

 

ガイオウもまたこの光景に歓喜していた。

 

狙っていた獲物が雁首揃えて現れたのだから…

 

 

「こりゃ…またえらい騒ぎになってやがるぜ。」

「うん、次元獣の他に見た事がないのも混ざってる。」

 

 

巨大な工具を抱える獅子、ガンレオン。

 

 

「前は間に合わなかったけど、今度こそ…」

 

 

稲穂の束を抱える乙女、バルゴラ・グローリー。

 

 

「相変わらず、上の目線かよ…インぺリウム。」

 

 

常に公平で平等たる天秤、ブラスタ。

 

 

「本当にバアルも懲りないね。」

 

 

黒き旅人が持つ夢の双魚、シュロウガ。

 

 

「大盤振る舞いに敵数が多いねぇ、倒しがいがある。」

 

 

黄金の戦艦はまるで牡牛、プレイアデス・タウラ。

 

 

「…」

 

 

冥府の大河より現れた巨蟹、尸逝天。

 

 

「騒々しい事も含めてさっさと終わらせてあげるよ。」

 

 

猛毒の針を携えた深紅の天蠍、アン・アーレス。

 

 

「ヒビキ、ぬかるなよ?」

「判っている。」

 

 

何処か似て異なる紫と蒼の双子、ジェミニアとジェニオン。

 

 

「シュバル、マルグリット…」

 

 

王冠を掲げる白き宝瓶、聖王機ジ・インサー。

 

 

「転移は無事完了、状況は変わらず混戦状態です。」

 

 

英知をその身に綴る山羊、念神エクリプス。

 

 

「…最悪の状況を防げた事に変わりはない。」

 

 

全てを射貫く闘志を秘めた射手、蒼雷迅。

 

 

「だが、脅威が去った訳ではない。」

 

 

それぞれが語った後に締めくくったのはイグジスタンスの代表アウストラリス。

 

イグジスタンスの総戦力がここへ投入された。

 

それはある意味で脅威であると伝えるには十分な光景だった。

 

 

「ハスミ、この状況はやはり…」

「ええ、例の悪食の仕業で間違いないでしょう。」

 

 

アウストラリスはハスミに確認を取った後。

 

悪食と呼んだ相手が嗾けた存在に眼をやった。

 

乱戦と化した戦場に現れたルーンゴーレムとアールヤブ。

 

狙いはこの戦場で戦う者全てである事は間違いない様子だった。

 

 

「セツコさん!」

「…久しぶりね、シン君。」

「どうしてイグジスタンスに!」

「貴方達に危機が迫っているって聞いたのよ…事情説明は受けているわ。」

「…」

「俺らもセツコとおんなじだ。」

「うん、助けに来たのはホントだよ。」

 

 

セツコのバルゴラ・グローリーとランド達のガンレオンを出現したイグジスタンス側の陣営で目視したシンからの発言。

 

 

クロウのブラスタの姿を目視した刹那達ソレスタルビーイングもまた彼に声を掛けた。

 

 

「クロウ、何が遭った?」

「ちぃとばかし、ややこしい事があってな…結果がこの状況って訳だ。」

「それがイグジスタンスの戦力か?」

「もっと解りやすく言えば、総戦力…が正しいぜ?」

「あれが総戦力!?」

「たった一部隊だぞ!」

「そいつは実際に見てっから言った方がいい。」

 

 

クロウは何時もの様子と打って変わって冷静に答えた。

 

 

「ハスミ、クロスゲートを使える様になったのか?」

「…今の所、限定的だけどね。」

 

 

クロスゲートを目視したゲッターチームから質問されたハスミ。

 

ある意味で限定的である事だけを伝えた。

 

 

「しっかし、どうやって…」

「こちら側にもクロスゲートが存在していたのは幸いだったわ。」

「つまりそれを見つけたって事か?」

「そう言う事。」

 

 

その発見方法。

 

使用方法は限定的。

 

間違ってはいない。

 

それも真実であるから。

 

 

「それに…インぺリウム以上の脅威がこの場に現れる事を知ったから介入の形を取ったのよ。」

「次元獣の他に現れた奴らの事か?」

 

 

ハスミは通信越しで正解の相槌を取った。

 

 

「あれもバアルの一種と見ていいわ。」

「厄介な野郎の次は厄介な相手の登場って訳か。」

 

 

長々と話をするつもりはない。

 

 

「よう、俺らの挑発を散々無視しやがった癖に…何の気まぐれだ?」

「気まぐれ…と思うか?」

「?」

「貴様も、いい加減本来の目的を思い出せぬか?」

「目的?そうかよ…やっぱりテメェは俺の過去を知ってやがるな!?」

「だとしたら?」

「俺達が言葉を交わすのなら闘いだ…俺の中のソレがそう叫んでいる!!」

「…よかろう。」

 

 

ガイオウとアウストラリスの会話。

 

この会話を聞いていたエルーナは『面白そうなのにね。』と参戦出来ない事を愚痴っていた。

 

大事な所を弁えるのは彼女らしい。

 

 

「ガイオウ達の相手は俺とユーサー、クロウで行う。」

「残りは新手の相手を?」

「頼む。」

「判りました、数も多いですし…油断は出来ませんからね。」

 

 

アウストラリスはハスミらに指示を与えた後、ある行動へ移した。

 

 

「ZEXISとZEUTHは引き続きインぺリウムの相手をせよ!現れた軍勢は此方が引き受ける!!」

 

 

イグジスタンスは出現したルーンゴーレム、プラーマグの混成大群へ各機攻撃を仕掛ける。

 

その中でインぺリウム側へ残ったのは蒼雷迅、聖王機ジ・インサー、ブラスタの三機。

 

 

「イグジスタンス、協力に感謝する。」

「聞いたわね、今の内に私達も続くわよ!」

 

 

ジェフリーの感謝の言葉とスメラギの戦術指揮が混成部隊へ指示された。

 

 

「さぁて、ひっさしぶりの大群だ!派手に撃たせて貰うよ!!」

 

 

プレイアデス・タウラの一斉掃射から始まり。

 

 

「お前達の逝くべき場所へ…」

 

 

尸逝天から出現する死骸によって喰い尽くされ。

 

 

「こうも大群だと骨が折れるけど…ウザ晴らしには丁度いいね。」

 

 

アン・アーレスのシックルに絡め捕られ召喚兵装によって破壊。

 

 

「バルビエル、援護はこちらで!」

 

 

撃ち漏らした相手をバルゴラ・グローリーが的確に撃墜し。

 

 

「こっちの固てぇのは俺達が!」

「仕留めるよ。」

 

 

ガンレオンとシュロウガのペアがルーンゴーレムを。

 

 

「俺らも負けてられねぇな?」

「勿論!」

 

 

負けじとジェミニアとジェニオンの連携攻撃。

 

 

「…(異形を断ち切る呼吸は鋼!」

 

 

鋼の呼吸を整えたエクリプスは刀を構えて大群に一閃。

 

それぞれの攻撃が出現した大群を一掃。

 

だが、増援は止まらず動きを止めるのに呈する状況は続いていた。

 

 

「…予想以上にかなりの物量だよ。」

「私達を殲滅する為にそれなりの軍勢を送っています。」

「よっぽど僕らの持つスフィアを恐れているんだね。」

 

 

エルーナの状況説明に答えを示すハスミ。

 

奴らの目的が自分達のスフィアである事を事前に聞かされていたバルビエルは嫌味を告げた。

 

スフィアの言葉を聞いたZEUTHのメンバーは口々に答える。

 

 

「スフィアだって!?」

「まさかランドさんやセツコさん以外に!」

 

 

ジロンやゲイナーの当然の反応だろう。

 

今回の破界と再世の戦乱でZEXISとZEUTHのメンバーが知れるスフィアは牡羊座、天秤座、水瓶座、山羊座、魚座の五つ。

 

その前の空白事件で出現した獅子座と乙女座の二つである。

 

変異によって他のスフィアがこの場にある事も無限力の御遊びが関わっていた。

 

この混乱状態でスフィアを集結させたらどうなるか?

 

その結果を見たいが為に…

 

 

「しかし…スフィアの気配は!」

 

 

この件に関してはアイムも想定外だっただろう。

 

彼の驚愕した声がそれを物語っている。

 

 

「…単に気配を出していないだけだ。」

「偽りが十八番だった君でも判らないだろうね?」

「…っ!」

 

 

尸空とアサキムが挑発めいた発言をアイムに向けた。

 

 

「アウストラリス、もうバラしちゃってもいいよね?」

「構わん、どの道…この場の誰もが知る事だ。」

「…(もう少し先延ばしにしたかったのですが、サプライズには丁度いいでしょう。」

 

 

エルーナらはアウストラリスの了承を得たのを期に自己紹介を兼ねて答えた。

 

ハスミ自身はスフィアの件を先延ばしにする予定だったが、これ以上は誤魔化し切れないと悟って流れに沿った。

 

 

「んじゃ改めて、アタシはエルーナルーナ・バーンストラウス…欲深な金牛のスフィアリアクターだよ。」

 

 

エルーナさんの自己紹介で通信越しにバッファローとかホルスタインとか言ってる桂さん。

 

うん、判っていたけど自重しよう。

 

どうせ、戦闘終了後にアテナにセクハラ撃沈の平手打ち喰らう予定だし。

 

 

「僕はバルビエル・ザ・ニードル、怨嗟の魔蠍のスフィアリアクターさ。」

「…」

「そこの無口なのは尸空。」

「俺が持つのは…沈黙の巨蟹。」

 

 

まあ、尸空さんなりの自己紹介なのかな?

 

気配を感じ取れるタケル辺りには警戒されているけど…

 

 

「んで、俺はガドライト・メオンサム…こっちは。」

「ヒビキ・カミシロです。」

「俺ら二人でいがみ合う双子のスフィアリアクターだ。」

 

 

アルトや刹那の驚き様には同意して置く。

 

流石に一つだったスフィアが二つに分かれている状態に驚くのも無理はない。

 

ちなみにアルトも記憶を持っているで確定っと。

 

 

「ランドさんの傷だらけの獅子にセツコさんの悲しみの乙女…これで六つ。」

「僕も忘れて貰っては困るよ?」

「アサキム…!?」

「僕自身もスフィアリアクターとして目覚めた…今は夢見る双魚のリアクターだよ。」

「マジかよ、スフィア狙いだったアサキムも!」

「うそでしょ!?」

 

 

合流したグランナイツのエイジや瑠菜も驚きの連続を強いられた。

 

 

「リアクター同士は惹かれ合う…情報通りだった。」

「クロウさん?」

「俺もそのスフィアの持ち主らしい……揺れる天秤って名のな?」

 

 

知る者は事前に知っていたが、記憶を持たぬ者は初耳の状況だった。

 

 

「じゃあ、流れならそっちの二人も?」

 

 

カレンらはアウストラリスらの方へ眼を向けた。

 

 

「余の名はユーサー・インサラウム…破界の王ガイオウによって国を滅ぼされたものだ。」

「…」

「アウストラリス殿の協力で今は一君主ではなく一人の戦士としてここにいる。」

 

 

救うべき臣下を救う為に訪れた事を告げるユーサー。

 

 

「余も尽きぬ水瓶のスフィアリアクターとして戦う。」

 

 

次々と現れるスフィアリアクター。

 

そして彼もまたその名を告げた。

 

 

「改めて告げる…俺の名はアウストラリス、立ち向かう射手のスフィアリアクターだ。」

「イグジスタンスの代表も!?」

「マジか!?」

 

 

イグジスタンス側のスフィアリアクターが総勢十一名の名乗り上げを行った。

 

こんな状況でもアイムは冷静さを取り戻してお決まりのポーカーフェイスで対応していた。

 

 

「アイム、これだけのスフィアリアクターだ…テメェの偽りの黒羊のスフィアでもどうしようもないだろう?」

「そうでしょうかね?」

「…」

「この場にいがみ合う双子のスフィアリアクターを寄越してくれた事には感謝します。」

「成程、二人を倒して奪うつもりか?」

「ええ、スフィアの相性は貴方も知らされていると思いますが?」

 

 

この期に及んでスフィアの相性で起死回生を狙おうとしていたアイム。

 

その心意気は認めよう。

 

だが、この場にいるスフィアリアクターの中で紹介を終えていない者が答えた。

 

 

「12の鍵がアリエティスへ集う…宣告通り、ね。」

「ハスミ・クジョウ……貴方も私が倒すべき相手です。」

「…」

「一度ならず再三の屈辱は忘れたとは言わせませんよ!」

 

 

脳味噌に血が上り過ぎてもね…

 

でもね、私が戦いたいのは貴方を隠れ蓑にして楽しんでいる輩だよ。

 

 

「指揮そっちのけで戦うと?」

「こちらとしても貴方を倒す事が出来るのなら儲けものです。」

 

 

乱戦と混戦の続く最中。

 

アイムは指揮すべき部隊を放置し単独でこちらと戦う意思を見せた。

 

 

「…(あの人だったら『判断が甘い!』って言っただろうな。」

 

 

御山の天狗様はさて置き。

 

この馬鹿は判断ミスをした。

 

正直に言えば、この場で機体にハンデのあるクロウさんを狙った方が勝算はあっただろう。

 

中身の存在が勝っても負けても面白ければそれでいい的な考えだからこそ至った決断か…

 

 

「手加減はしないわよ?」

「この期に及んで手加減ですか?それは…お優しっ!?」

 

 

余裕めいていたアイムの表情が歪んだ。

 

 

「言った筈よ、手加減はしないと?」

 

 

ハスミは気配と同様に氷の様に冷徹な声で答えた。

 

それは理不尽な行為を許さず、ただ戦いを楽しむ輩を嫌う性分から来る声だった。

 

 

「これは外さない、使えば最後……貴方が数秒で終わるから。」

 

 

ハスミは手甲の宝珠にはめ込んだリングを指先で軽く触れた。

 

純粋に自身の力だけで圧倒する為にスフィアの制限を掛ける。

 

 

「アイムの相手は私が、エルーナさん達は引き続き新手の迎撃をお願いします。」

「はいよ、そっちは任せた!」

 

 

場の空気を読み、質より量を取る選択をしたエルーナ。

 

他のリアクター達も何かを察したのか拒否する者は出なかった。

 

 

「協力者を求めなくていいのですか?」

「必要ない。」

「これは甘く見られたもので…」

「人の殺気で怯えていたのは何処の誰ですかね?」

「どこまでも…!」

 

 

これでも抑えている方なんですけどね…

 

もういいや。

 

 

「黙れ、フェイク野郎。」

「っ!」

「その三枚舌を引っこ抜いて細切れにするぞ?」

 

 

普段と違う言葉遣い。

 

怒りの頂点がMAXに至って上で更に氷点下に下降した。

 

この状態の上で口が悪くなるのもハスミの悪い癖の一つである。

 

 

「竜馬…これ拙いよな?」

「拙いの問題じゃねぇ…!」

「そりゃな、しかもボスの奴が泡吹いてるぜ?」

 

 

戦闘の最中。

 

元同級生で東城学園OB勢である甲児達も顔を青褪めさせた。

 

 

「久々に見たけどあの怒り様じゃ手が付けられないわね。」

「どういう事?」

 

 

さやかの言葉に反応するカレン。

 

 

「ハスミは軍に入る前は私達と同じ学園の生徒だったの。その頃にある生徒が彼女に難癖付けて…ある日に我慢限界を超えたの。」

「向こうが100%悪いの確実でな…ハスミの報復でその野郎は社会的抹殺の末に後日病院送りになった。」

「しゃ、社会的抹殺!?」

「オマケに病院送り!?」

「あー病院送りって言っても急性胃潰瘍(胃に穴レベル)に追い込んだ位だぜ?」

「十分怖いわよ!!」

 

 

隼人と武蔵のオチでカレンに続きダイガードのパイロットの赤木達が見事なツッコミを披露した。

 

 

「あの一件以降、学園じゃハスミにちょっかい出す奴はいなくなった。」

「ついでにその頃のボス達も更衣室の隠し撮りで極寒の山中に吊し上げの刑だもんな…」

 

 

余計なオチを付ける竜馬と甲児。

 

ボス達に関しては自業自得と言う事で放置。

 

 

「あのアイムって野郎…命があっただけでも奇跡になりそうだって事か。」

「だよな…」

 

 

次元のるつぼが原因で年齢に差が出てしまっている二人であるが、学園時代の息ぴったりのノリはまだ残っていた。

 

戦闘中に起こった雑談は置いといて。

 

本題に戻ろう。

 

 

「言葉通り…と、言う訳ですか?」

「…」

 

 

遠距離戦に持ち込み、ブラッティヴァインからの攪乱攻撃を繰り返すアリエティスはエクリプスへの猛攻を止めない。

 

近接戦闘は刀による戦闘を得意とするハスミに対して分が悪い。

 

インサラウム戦で手痛い反撃を喰らった事で近距離からの攻撃を控えているのだろう。

 

 

「あの時は油断しましたが、今度はやられませんよ?」

「…」

 

 

ハスミはアイムの出方を観察し余計な言葉は紡がなかった。

 

それをアイムは余裕がないと判断したらしい。

 

 

「それでは、一つ手品をお見せしましょうか?」

 

 

アイムはアリエティスのスフィアを発動させ、自身の幻影を作り出す。

 

偽りの黒羊は己を偽り相手を偽り世界すら偽る力。

 

同質のアリエティスと同じ幻影を作り出す事も可能であった。

 

 

「…」

「驚きの余り、言葉も出ませんか?」

「鬱陶しいと思っただけ。」

「貴方を困らせただけでも僥倖ですよ。」

「…」

「では、どれが私か判らないまま朽ちて頂きましょう。」

 

 

出現したアリエティスの幻影と幻影に紛れた本体からの総攻撃。

 

それらがエクリプスへと向けられるもハスミは静かに防御魔法を展開した。

 

 

「反転の月鏡。」

 

 

一度目の総攻撃はそれらで防げたが、次は無いとアイムが告げた。

 

 

「一度は防げても二度目は…どうですかね?」

「…」

 

 

ハスミはアリエティスからの攻撃が一瞬緩んだのと拍子に呼吸を整えた。

 

それは並行世界で培った人の世を乱す異形を断ち切る技術。

 

一撃必殺の剣技。

 

 

「鋼の呼吸・陸の型……弾鋼っ!!」

 

 

エクリプスから放たれる剣技は周囲に点在したアリエティスの幻影のみを切り裂いた。

 

 

「は…?」

「蠅みたいにバカスカ幻影を増やせばいいってものじゃない…ウザいにも程がある。」

 

 

アイムはハスミの発言が耳から通り抜けていた。

 

それ以上にある事に驚いているからだ。

 

アリエティスの本体以外の幻影を瞬時に判別し一掃したと言う点だ。

 

 

「…サイコドライバーを舐めるな!」

「まさか、在り得ない!?」

 

 

スフィアの影響下で人が感じ取れる認識全てを偽っている状況に驚愕するアイム。

 

 

「スフィアで偽りの力を発動させている…なのに全て一撃だと!?」

「そのスフィアは様々な認識に影響し偽りの現象を与えているのでしょう?」

「!?」

 

 

エクリプスの斬撃が油断したアリエティスに直撃し地面へ落下。

 

機体の喉元に刃先を向けてコックピットブロックを足蹴にするエクリプス。

 

 

「…何故そこまで知れたのか?」

「貴方はまさか…!?」

「本当の自己紹介がまだだったわね。」

 

 

ハスミは静かに答えた。

 

 

「私の名はハスミ・クジョウ、貴方が最も恐れている知りたがる山羊のスフィアリアクターよ。」

 

 

そこにあるのは、冷徹な視線の悪魔の笑顔。

 

ハスミの自己紹介でこの場に十三のスフィアリアクターが集った事が宣言された。

 

ハスミの爆弾発言で言葉が出ないZEXISとZEUTHの混成部隊。

 

それを余所にアイムは叫んだ。

 

 

「貴方がリアクター?ですが気配が!?」

「ああ、自分でスフィアの力を抑えていただけ……使ったら貴方を速攻フルボッコにしか出来ないし?」

 

 

寧ろ、文字通りに速攻で終わるからウザ晴らし出来ないもの♪

 

てへぺろ♪と内心で答えるハスミ。

 

 

「別にスフィアに頼らなくても…生まれつきアカシックレコードを見れるから必要最低限しか使ってなかっただけ。」

「…」

 

 

うーわーやりすぎたかな?

 

ものすっごく絶望した顔してるけど、別にいいよね?

 

あれだけの事件起こしてくれたし?

 

後、彼の中に潜んでいた『楽しみのピンク娘』は何だかピーピー泣きながら出て行ったよ。

 

ついでにあの娘…濡らしちゃってたからお風呂入った方が良いかもね。

 

 

「アイム、随分と面白れぇ事になってやがんな!」

「ガ、ガイオウ様…」

 

 

アウストラリス達と交戦していたガイオウ。

 

アイムの戦闘が一通り終わったのが判ったのか此方へ侵攻してきた。

 

 

「…そいつの相手はテメェには荷が重すぎるぜ?」

「何故ですか…!?」

「その女がガンエデンの巫女だからだ。」

「ガン…エデン?」

 

 

ガイオウの言葉に反応したアイム。

 

聞き慣れない言葉に動揺していた。

 

 

「…何者なのですか?」

「俺と同じ位の強さを持った連中って言えば解るか?」

「!?」

 

 

あんまり暴露されたくない情報なのですけどね。

 

ま、事情説明されてそうだから別にいいかな。

 

 

 

「イグジスタンスは全員喰い応えのある連中ばっかだぜ。」

「メインは最後に…と言う貴方の意思はどうしたのですか?」

「んなもん、俺の勝手だ。」

 

 

自由過ぎて清々しい位に。

 

逆に言えば気まぐれかしら。

 

 

「アイムの奴も碌に動けねぇだろうし…俺がテメェの相手をしてやる。」

「アウストラリス達との戦いはどうしたのですか?」

「それも後だ。」

 

 

どうしよう。

 

まあボコボコにしてもいいんですけど…

 

アウストラリスの反応はと…あ。

 

 

「ハスミ、遠慮は要らん………全力で仕留めよ。」

 

 

メッチャ不穏なオーラが醸し出しています。

 

これにはバルビエルも遠い眼でドン引きしているのですが?

 

 

「アウストラリスの奴………僕が言うのも野暮だけど、憎しみを通り越して嫉妬まみれだよ。アレ?」

「そうなの、バルビエル?」

「うん。」

 

 

セツコの言葉に答えるバルビエル。

 

 

「これは君への愛が重いのだろうね。」

「ユーサー皇子、それは言わないでください。」

 

 

余りの愛の重さを感じた苦笑い気味のユーサーがハスミに告げた。

 

 

「そりゃ、惚れた女に手を出されたんじゃ黙ってられない…よな?」

「…ええ、まぁ。」

 

 

そんなニヤ顔と憐みの眼で見ないでください、ガドライトさんにヒビキ。

 

 

「無駄話は終わりだ。精々楽しませろよ!!」

 

 

ガイオウはどこぞのガキ大将?何処のジャイアニズム?

 

二度目のもういいやをするわ。

 

 

「…うっさい。」

 

 

その場の全員が目玉をドコーや両目元をゴシゴシして二度見していた。

 

驚くのも無理はないだろう。

 

エクリプスは素早く動き、高笑いしていた次元将ガイオウの顎にアッパーを仕掛けたのだ。

 

文字通り玉座型次元獣のゲールティランから落下。

 

 

「人の事を物扱いしないで頂きたい。」

「…いい一撃だな。」

「これでも鍛えてますので。」

 

 

この様子に口元に笑みを浮かべたアウストラリス。

 

 

「流石は俺が認めた者、そうでなくてはな?」

「貴方はこの戦闘狂よりも律していますから…」

「俺との決闘で引き分けに追い込んだと言うのに、何を今更。」

 

 

アウストラリスの発言にリアクター勢が反応。

 

 

「ちょっとアウストラリス!それ初耳だけど!?」

「引き分けってハスミはお前に敗北しただろう!?」

「後で説明を求める……今は。」

 

 

エルーナとバルビエルの反応もそうだが、戦闘は継続中なので尸空が諫めた。

 

同時にアウストラリスの表情も険しくなった。

 

 

「あの新手共らの親玉のお出ましの様だ。」

「マジかよ!?」

 

 

戦場の空気の変わった。

 

世界が罅割れ歪む。

 

世界を食い破ろうとする魔獣の牙。

 

 

それらが差し迫ろうとした時、集ったスフィアは反応し始めた。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

偶然にも重なりあった一つの意思によりスフィアは共鳴。

 

それは予想以上の力を生み出した。

 

惹き起こされたのは『事象』と始原神ソルの意思の『目覚め』である。

 

ソルの意思の元にリアクター達は文字通りスフィアによって異空間へ取り込まれた。

 

この現象が発生したのと同時に別地区でのラマリス掃討を終え空間転移で現れた鋼龍戦隊。

 

 

「何が起こったんだ?」

 

 

周囲が動揺する中でイルイが答えた。

 

 

「うん、お姉ちゃん。」

「イルイ、何か判るのか?」

 

 

状況を察したイルイはこくりと頷いた。

 

同時に何が起こったのかを理解出来る範囲でキョウスケらに説明した。

 

 

「お姉ちゃん達はソルに呼ばれたって。」

「ソルに?」

「…ソルとお話ししてくるから心配しないでって。」

 

 

イグジスタンスとインぺリウムの指揮官不在により、これ以上の戦闘継続は無意味だろう。

 

インぺリウムは介入したイグジスタンスの戦力によって軍勢は総崩れ。

 

この状況で同盟国を見捨てたAEUが介入したとしても無駄骨になるだろう。

 

事前にサンクキングダム一帯に張られた限仙境の結界。

 

それをハスミからイルイが引継いで維持している以上、外部の手出しは出来ない。

 

イグジスタンスの副官代表のティグリスはマイルズから提案を受けた。

 

 

「ティグリス殿、其方の当主達が戻るまでインぺリウム並びにZEXISに停戦を申し込みたいのだが…」

「マイルズ司令…こちらも双方の手出しが無い以上、その提案に同意したい。」

 

 

ティグリスとマイルズは事前に決められた取り決めの一つが必要な状況だと判断。

 

イグジスタンスと鋼龍戦隊はインぺリウムとZEXISに一時停戦の通信を送った。

 

ZEXISはZEUTHメンバーの事もあり同意。

 

インぺリウムは執政官であるシオニーの戦意喪失を受けて同乗していたカルロスが代理に同意の判断をした。

 

戦いは変異し史実もまた変異しようとしていた。

 

それは戦うべき相手が切り替わりつつある兆しなのだろう。

 

 

「シオニーちゃん、停戦と話し合いに同意してくれるよね?」

「…ええ。」

「じゃ、同意する件を伝えるよ。」

 

 

今の状況に呆然とするしかないシオニーは生気の抜けた声でカルロスに答えた。

 

 

「…(同意しなかったら意地でも止めていたけどね。」

 

 

カルロスの判断は間違いではない。

 

ここで彼らに敵対しても勝敗は確定している。

 

スフィアリアクターであるアイムが例の意思に取り込まれ…

 

引きずり込まれる形でガイオウも姿を消した。

 

同時に次元獣の動きも停止。

 

戦力に収めていたシュバルとマルグリットが離反し奪還された以上…

 

インぺリウムは戦力を失ったに等しかった。

 

 

「ハスミ・クジョウ…」

 

 

シオニーは、ぽつりと彼女の名を答えた。

 

 

「あれは覚悟を決めた眼。」

 

 

己の力を駆使し災厄に立ち向かおうとする姿勢。

 

例え、己が滅びを迎えると判ろうとも歩みを止めないだろう。

 

でなければ、単独でガイオウやアイムに戦いを挑まない。

 

ガイオウと同一の力を持つアウストラリスに認められた戦士。

 

ただ、ガイオウの力に縋る自分とは違っていた…

 

 

「きっと…いえ、私は既に負けていたのね。」

 

 

その後、サンクキングダムは限仙境の結界が展開した状態のまま。

 

事の次第が終わるのを待つ事となった。

 

同時に結界の外側では三大国家が漁夫の利を狙おうと軍備を集結させて待ち構える時間を与えるには十分だった。

 

逆にソレスタルビーイングのチームトリニティとPMCより離反したサーシェスがイグジスタンス不在を狙い…

 

殲滅行動へ移る為にリモネシア共和国に向かっていた。

 

 

=続=

 





逸脱した現象。

定められた事象。

それらが根本的に覆される。


次回、幻影のエトランゼ・第百八話『星喰《ホシグイ》』


これは余りにも変わり過ぎた運命。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。